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第1部  科学技術政策の新展開-国家的・社会的な要請に応えて-
第3章  これからの我が国の科学技術政策の在り方
第2節  世界水準の成果を目指す


前章で示された目標を達成するためには,研究を実際に行う研究者の水準を世界的レベルにするとともに,世界に通用するシステムで支える必要がある。そのためには,世界における競争を意識し,世界水準を目指した人材育成,環境づくりが必要となる。

第2章で指摘された点は今後,積極的に取り組んでいかなければならない課題であるが,ここでは,世界水準レベルで競争できることを目標として,

○内外の若手研究者を引き付けるようなシステムを構築し,人材の流動性を高めるとともに,研究成果を積極的に社会に還元するために,研究者を主役として据えた取組を積極的に進めていく
〇二番煎じではない独創的な最先端の研究を進めるため,競争的資金,評価などでレベルアップを図る

の観点から今後我が国に求められる方策を示した。


1. 研究者主役の研究開発システムの構築

(1)内外の若手研究者を引き付けるシステム

(研究者が能力を発揮できる環境)

研究者が特に高い成果を創出できる時期は,大学院博士課程を修了する20代の後半から,30代の後半にかけての働き盛りの時期である。我が国はこれまで自然科学分野で5人のノーベル賞受賞者を輩出しているが,ノーベル賞受賞のきつかけとなった研究成果はいずれも20代後半から30代後半に集中している( 第1-3-4表 )。研究者が高い成果を出せるかどうかについては,この働き盛りの時期にどのような研究環境にいたかに左右されるものと考えられる。

第1-3-4表 日本人のノーベル賞受賞者(自然科学分野)と受賞理由となった研究が発表されたときの年齢

例えば,朝永振一郎博士は,戦前の理化学研究所で自由な研究環境の下で研究を実施するという経験を持っており,そのときの経験を「研究者の自由な楽園」と称しているが,その研究現場には,仁科芳雄博士をリーダーとして優秀な研究者が数多く集まり,議論を戦わせる環境にあった。また,研究所の運営を行い,研究者でもあった大河内正敏所長が自由な研究を奨励していた。福井謙一博士は,数学の才能を当時の工業化学の重鎮であった喜多源逸教授に認められ,量子化学という当時の工学部の中では特異な分野に打ち込み,後のノーベル賞の業績に結びつく研究を行っている。

この事例からも分かるように,若手研究者が才能を開花させるためには,良きリーダーに出会い,能力を発揮できる場所を選ぶことができ,裁量を与えられる研究システム・環境が重要となる。実際,研究機関を移ってみたいと考えている研究者にその理由を聞いたところ「未知の研究者との交流」を挙げる者が約7割を占めており,研究者自身も自分を触発できるような環境を求めていることが分かる。

(研究者の流動化の促進)

知的触発により研究者自身の創意を高めるためには,自由な研究運営が行われるような環境とともに,給与体系,社会保障体系をも含めて,人材の流動化を促進することが必要になる。例えば,我が国における年功序列の制度では年齢を重ねるほど給与が高くなり,退職金も上乗せされるなど長期間同じ組織にいるほど有利になる。このような場では流動的な研究環境に身を置くことは得にはならず,ますます冒険心のある人材を創出しにくくなる可能性がある。研究開発の現場に年俸制などを導入することは,研究者の積極的な流動を促す可能性がある。また,現行のポスドク研究者のような流動的研究者では,社会保障や年金の面で著しく不利な状況となる。流動的研究者としての経歴が研究能力を高めるものであるためには,研究者が研究に十分専念できるように,これらの面で不利とならないよう,十分な対応を図っていくことが重要である。

(研究支援機能の充実)

研究者が研究に専念できるような環境づくりには,研究支援機能は非常に重要である。研究支援者を量的に確保するためには,正規の職員のみならず,研究支援を行う人材派遣業などの利用が必要になってくる。この場合,派遣された人材がどのような業務を行うかを明確化するなどきめ細かな対応を行うことが求められる。また,研究支援者には,論文調査,競争的資金の申請,特許出願等の高度・複雑な業務も求められるようになってきている。このためには,人材情報の集中・提供,退職研究者の活用等も考慮する必要がある。研究支援業務が高度化することを考えれば,今後,研究支援者の能力向上のための方策,例えば,職業能力開発のための機関や教育機関により行われる研修及び教育への研究支援者の派遣や,資格の取得の積極的支援を,研究支援者が所属する研究所や人材派遣会社が積極的に進めていくことが重要である。さらに,産学官においてこれらの取組が進展するよう施策の立案,資金的支援など様々な方策を考えていくことも重要である。

また,今後,これらの研修および教育を受けたり,資格を取得した研究支援者については,適切な地位を付与することで,研究支援者の処遇を高めることなどが必要となる。

(2)頭脳資源の有効活用

(ポスドク研究者の有効活用)

若手研究者の多くは,ポスドク研究者や,流動的研究の経験が研究者の研究能力の向上につながっていると考えている。しかしながら,それが処遇の向上などには必ずしもつながっていないと考えている者も多い( 第1-3-5 , 1-3-6図 )。さらに,企業等でポスドク研究者の採用意欲が低いことは前章の第1-2-31図で示されている。ポスドク研究者等は前述のとおり年齢的に最も脂ののった年代であり,これらの研究者を有効活用することが我が国の研究能力全体を高めることにつながる。そのためにも,ポスドク等流動研究者が社会に十分認知される必要がある。大学,国研等について,研究情報の発信源が不明であると民間企業は感じていることは前章でも触れているが,ポスドク等の研究者の活動が十分理解されるためには,研究者の自己努力のみならず,彼らの研究成果等をデータベース化し,一元的に情報発信するシステムを作るなどにより,社会の理解を高めていくことが重要である。また,インターンシップの導入が大学と企業間で始まっているが,ポスドク等の流動的研究者等を一種のインターンシップとして,企業の中で研究活動を行う機会を増やすことで,ポスドク研究者と企業との間のコミュニケーションの機会を拡充する事が可能となる。このような取組を通じて,企業がポスドク等研究者を積極的に採用するようになっていくことが期待される。

(外国人研究者の有効活用)

また,研究開発がグローバル化する中では,研究開発に係る人材は日本人のみならず外国人研究者も選択肢になりうる。外国人研究者を,我が国の研究開発の戦力として活用することは重要であるが,一方で,外国人研究者の採用については年金などの社会保障の面において十分とは言えない状況にある。年金の形態等について検討を行い,外国人研究者が日本で研究しやすい環境を作るとともに,日本及び外国人の若手の研究者が魅力を感じるような優秀な外国人研究者を研究リーダークラスとして採用するならば,我が国の研究開発力を高めることにつながるのみならず,日本人研究者との知的触発を起こす環境を作り出すこととなると考えられる。

第1-3-5図 ポスドク等の流動的経験はどのような影響を与えたか

第1-3-6 図流動的研究に従事した経験はキャリア形成やその後の 処遇面でメリットになったか

(3)人による研究成果移転

第1章で述べたように,研究開発の期間が短縮化し,様々な技術が次々と陳腐化していく中で,基礎研究の成果と商品化の距離はますます近くなっていく。基礎研究などから生み出された知識を使いこなしていくためには,整備された大学等技術移転促進法の枠組み,研究成果移転のための施策を十分活用していく必要がある。前章で述べたように,大学,国研等の研究者は,成果の特許化への関心は必ずしも高いとは言えないが,特許等を評価基準の一つとすべきであるか聞いたところ,「すべきである」との回答が「すべきでない」を上回っており,全体の平均と比べてもかけ離れた傾向を示していないことから,特許等の研究評価への反映は必ずしも消極的ではないと考えられる( 第1-3-7図 )。研究評価の中に取り入れることで,成果の特許化への研究者の意欲をかき立てるような方策が必要であろう。この場合,特許になりにくい研究成果もあることから,研究の内容に応じて柔軟な評価が必要である。

第1-3-7図 特許を評価の物差しとすべきか

また,知識の移転の最も効果的な形態は,発見・発明した研究者がそれを社会経済の役に立たせる過程に自ら参画することである。例えば,戦前の理化学研究所では,研究者自らが基礎研究を行いつつ,その成果を商品化に生かし,利益を得ていた。ビタミンAの抽出や,アルマイトなどは,その一例であり,これらの商品は当時の理化学研究所を財政的に支えていた。このような研究者による起業,民間企業活動への参画を一層促進し,支援することは,研究者の知的財産に対する考え方を高めるとともに,研究者自身が社会に何を求められているかを把握できる機会を得ることとなる。国の研究者への特許権の個人帰属や,民間との協力促進のための兼業許可等のための規定の整備や,基準の明確化はくここ数年の間に進められてきているが,研究者から一層の自発的な参加を促すよう研究者へのインセンティブ付与など様々な取組を進めるとともに,特許の申請などの複雑な事務を援助できるような研究支援機能の充実が重要となる。

なお,大学,国研の研究者と企業との間の綱紀に反するような接触により,本来の目的である研究協力がゆがめられるようなことはあってはならないことは言うまでもないが,むしろ,研究協力等のルール作りを積極的に行って,研究者が萎縮することなく,上述の取組を進められるようにしていくことが重要となる。


2. 競争的資金と研究評価による最先端の研究の推進

(1)二番煎じでない最先端の独創的な研究テーマ

基礎研究については二番煎じでない最先端の独創的な研究が必要である。二番煎じの研究では世界の注目も浴びず,知的存在感を示すことは不可能である。研究者に,日米の基礎研究において,日本が米に劣ると考える理由を聞いたところ,「研究予算不足」,「研究運営の柔軟性の欠如」の回答が高く,それに,「研究テーマに新規性が乏しい」,「異分子を認めない土壌」の回答が続く。

我が国の研究開発は,過去において必ずしも独創性に乏しかったわけではない。その中には,八木アンテナのようにその価値が日本では認められず,米国において認められたような例も散見される。

すなわち,二番煎じではない研究を進めるには,独創的で,これまでの論理を覆すような最も新しい研究に価値を認める土壌が必要である。そのためには,研究者は常に最新の研究開発動向の情報を敏感にとらえ自分の研究を進めていくことが重要であろう。理化学研究所では昭和初期の交通機関が未発達の状況においても,核物理学の分野で,外国と比べてもほぼ一週間遅れ程度で最先端の研究論文を収集し,時間的遅れがない状況を作り出すことによって,世界と比べても遜色のない独創的な研究成果を生み出すことに成功していた。

(2)競争的資金と研究評価を両輪に,研究のレベルアップ

競争的資金への応募は独創的な研究成果創出への一歩であり,競争的資金への応募・選考プロセスの中で,最先端の独創的な研究が採択されるようにすることが重要である。そのためには,申請の審査が常に最先端の独創的レベルで行われることが重要である。この場合,研究の申請者と同様に,申請の審査などを行う者も,常に最先端の研究に触れ,新しいものを積極的に採用する柔軟性が重要である。

そのためには,評価者を一定の者に固めず,常に新しい考えを入れるように,定期的に更新していく必要がある。また,外国人研究者も含めた世界的レベルの研究者を評価者により多く加え,率直な意見を求めることが必要である。また,このようにして確保した優秀な評価者のデータベース化を図るなどの取組が重要である。さらに,新しく審査能力を有する者を補充できるような取組が必要である。例えば,研究者が審査の事務に携わる側になることも一つの方法である。科学研究費補助金については,テーマの審査等に,大学の助教授クラスの研究者を文部省の学術調査官に併任し,一定期間携わらせている例があるが,このような取組は,研究者が申請側だけでなく専門的な審査事務にもかかわることにより,研究者個人の資質の向上につながるものと考えられる。

このような取組は,研究の質を高めるために行われるものであるが,申請の審査に係る労力がさらに軽減されるよう,書類の書式,申請方法,期間の拡大などについて一層の改善を進めていく必要がある。

申請の審査,評価は,研究者の資質の向上のためのものである。これらは,対象になった研究者のその後の研究活動の展開にヒントを与える等,研究者の糧になるようなものでなければならない。審査の結果を研究者に伝え,研究者が自らの考え方を整理して,新たな研究活動へ取り組むことが必要である。また,研究評価を意識するあまり,容易に成果が生み出されるようなテーマに取り組むようになれば,かえって研究のレベルを落としかねない。競争的資金に係る審査と研究評価は,研究者が独創的な取組に挑戦できるよう,密接に関連しあって進められる必要がある。


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