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第1部  科学技術政策の新展開-国家的・社会的な要請に応えて-
第2章  今,日本の科学技術は
第2節  諸調査等から示される動向


第1節で科学技術基本計画の進捗状況を概観したが,ここでは,諸調査等を用いて,現在の我が国の科学技術の状況に関して,基礎研究の水準,民間企業の技術力・研究開発,国民が科学技術をどう受け止め,何を期待しているかについて,重要な動向を探ってみる。


1. 基礎研究水準

基礎研究の成果は,主に論文にまとめられている。論文に関して比較的得やすい指標である論文数や引用される回数から,基礎研究水準を国際的に比較する試みがなされている。基礎研究の水準は,論文や引用される回数だけでは一概に整理することはできないが,ここでは,その論文数等の観点から,我が国の基礎研究の水準について分析した。

要点を最初に述べると,次の2点に集約される。

〇論文が引用される回数に関するデータ等から,我が国の基礎研究については,量的には着実な伸びを示しているものの,質的な面での努力が必要である。
○論文が他国の研究者に引用される傾向,他国の研究者との共著に係る傾向等から,我が国の研究者が国際コミュニティーに浸透する努力が必要である。

(1)基礎研究の質に関する考察

(論文数)

米国科学情報研究所(ISI)のNSI(NationaIScienceIndicators)データベースによれば,我が国の論文数は,1981年(昭和56年)には約29,000件で米国,イギリス及びドイツについで世界第4位であったものが,1988年(昭和63年)にはドイツを抜き第3位,1989年(平成元年)にはイギリスを抜いて,世界第2位になり,1997年(平成9年)は,約67,000件で,依然第2位の地位を守っている。この間の論文数の伸び率は約2.3倍であり,先進国(日本,米国,イギリス,ドイツ,フランス)の中では最高の伸びを見せている( 第1-2-8図 )。この間我が国の論文数の全論文数に占める割合は,1981年(昭和56年)には6.8%であったが,1997年(平成9年)には10.O%と約1.5倍に上昇しており,この上昇率は米国,イギリス,ドイツ,フランスよりも大きい。

第1-2-8図主要国の論文数の推移

(引用される回数)

優れた論文は,他の論文に引用される回数が多くなることから,論文が引用される回数は,その論文の質を表す指標の一つと考えることができる。

論文が引用される回数については,1981年(昭和56年)の論文では,全世界の論文が引用される回数のうち,我が国の研究者が執筆した論文が引用される回数の割合が5.5%であったものが,1997年(平成9年)の論文については,7.8%となっており,引用される回数での割合も着実に増加している。

1論文当たり引用される平均回数が,国際的な平均から見てどのような位置にあるかを示す数値(相対被引用度)は,国際的な平均を1とすると,我が国の論文全体では,0.8である。他の国は,米:l.47,英:l.20,独:l.05,仏:1.00となっている( 第1-2-9図 )。分野ごとに見れば,計算機科学の論文では0.38,ライフサイエンス系の論文では0.7〜0.8,物理,化学,農学の論文では,おおよそ1である( 第1-2-10表 )。また,我が国の論文では,一度も引用されない論文の割合が約44%であり,米国の約35%,イギリスの約37%よりも高い( 第1-2-11表 )。

第1-2-9図主要国の論文の相対被引用度

第1-2-10表 我が国の分野別論文相対被引用度

第1-2-11表 一度も引用されなかった論文の割合(1993〜1997年)

(我が国の基礎研究の水準)

これらを踏まえると,基礎研究について,質的な面の向上のための努力が必要であると考えられる。

ただし,これはあくまでも我が国の研究論文全体の傾向から言えることであって,個々の研究で見れば,米国サイエンス誌の1998年の科学界における10大ニュースの一つにもなった東京大学宇宙線研究所が岐阜県神岡町に設置している宇宙線の検出装置である大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置(スーパーカミオカンデ)によるニュートリノの質量測定に関する研究のように,国際的に高い注目を浴びているものも多い。

重要なことは,二番煎じでない,最先端の独創的なテーマに取り組むことである。このためには,研究者は自分の研究分野の最前線がどこにあるか分かるよう常に情報の把握に努めることが必要である。また,競争的研究資金の事前の評価に当たって,先端性,独創性があるかどうかを見極めていくことが重要であることにも留意する必要がある。

注目を浴びる日本の基礎研究

我が国の基礎研究の成果には,世界の科学界の注目を浴びるようなものも少なくない。1999年4月にISIが,1998年に世界で発表された論文のうち引用回数の高い論文ベスト100を発表したが,大阪大学の長田重一教授らが発表したアポトーシス(有害な細胞や不要になった細胞が自ら分解する仕組み)に関する論文が112回と世界で最も高い引用回数となり,その他にも上位40位以内に日本人が執筆した論文が6編含まれるなど,日本から質の高い成果が出てきている。ここでは,ネイチャーやサイエンスなどに掲載されるなどして,近年注目を浴びた成果をいくつか列挙している。(なお,成果の質については科学的な判断を下しているものではないことをご了解いただきたい。)

〇スーパーカミオカンデによるニュートリノの有限質量の確証

東京大学宇宙線研究所(戸塚洋二所長)らの日米共同実験グループは,スーパーカミオカンデを用いた実験で,素粒子の一つであり,質量がないと考えられていたニュートリノに質量があるということを突き止めた(1998年6月,第18回ニュートリノ物理学及び天体物理学国際会議で発表)。もし,ニュートリノに質量があることになれば,これまでの素粒子理論に見直しが迫られるものである。

今年4月からは,茨城県つくば市の文部省高エネルギー加速器研究機構からニュートリノを250km離れた岐阜県のスーパーカミオカンデに直接発射し,上述の事実を検証することとしている。

〇SPring-8によるマントルの構造の解明

愛媛大の入舩教授及び日本原子力研究所,高輝度光科学研究センターらのチームは,SPring-8を使った観察実験で,地球の表面から約660kmの深さにある不連続面(地震の伝わる速度が急激に変わる)の成因が,従来考えられていた鉱物の結晶構造変化では説明できないことを明らかにした(1998年2月,サイエンス掲載)。

地下深くの鉱物の結晶構造の変化を直接観察することは現在の技術では不可能であるが,実験室で高温(2000°C程度),高圧(24万気圧程度)の状態を作り出し,SPring-8の極めて明るい光(太陽光の1億倍)を使えば,地下深くの状態とほぼ近い状態のまま直接観察することができる。

この実験では,660km付近でのマントルを構成していると考えられるカンラン石の結晶構造変化が,これまで考えられていた圧力(約23.5万気圧)よりも2万気圧も低い条件で起こるというデータが得られた。この結果は660km付近の地球の物質が,これまで考えられてきたカンラン石を主体としたものではないことも示唆しており,従来の地球科学の常識を覆す可能性がある。さらにSPring-8におけるこのような手法を用いて,深発地震の発生メカニズムの解明,マグマの発生の過程の観察など,新たな研究の発展が期待される。

〇動物の老化現象を抑制する遺伝子の発見

戦略的基礎研究推進事業による「生命活動のプログラム」の研究代表者である,国立精神・神経センター神経研究所遺伝子工学部の鍋島陽一部長(現京都大学大学院医学研究科教授),黒尾誠研究員(現テキサス大学助教授)と永井良三(群馬大 医学部教授),野田政樹(東京医科歯科大 難治研教授)らのチームは動物の老化,及び老化疾患の発症にかかわる遺伝子の同定に成功し,引き続き,老化の分子機構解明に向けて研究を展開している(1997年11月,ネイチャー掲載)。

鍋島部長らは,マウスの受精卵に遺伝子を打ち込み,染色体のいずれかの部分が破壊され,遺伝子機能が失われたマウスを樹立し,その中から,顕著な早期老化を示す系統を生み出した。このマウスは生後3週間で発育が止まり,動脈硬化,骨粗しょう症,肺気腫,皮膚の萎縮などの老化症状を発症し,平均60日程度で死亡(通常のマウスは2〜3年の寿命)してしまう。次いで,このマウス系統で欠損している遺伝子を同定し,クロトー遺伝子と名付けた。

クロトー変異マウスは単一遺伝子の欠損によって顕著な早期老化症状を起こす世界で初めてのマウスであり,老化メカニズムの解明と加齢に伴って発症する多くの疾患の成り立ちの解明,老化疾患の診断,治療法の開発に貢献するものと期待される。

〇体内時計を司るヒト遺伝子の発見

東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター助手の程肇氏と榊佳之教授,神戸大学の岡村均教授らのグループはネズミと人間の細胞から体内時計(24時間前後の周期で睡眠や体の動きを制御する)の機能を司る遺伝子を発見した(1997年2月,ネイチャー掲載)。

体内時計を司る遺伝子はこれまでハエやアカパンカビにおいて見つかっていたが,程氏らのグループはその遺伝子とほぼ同じ構造を持つ遺伝子をネズミと人間の細胞から見つけ,この遺伝子の活動が明暗のある条件下においても常に暗い条件下においても2 4時間周期で変化することを確かめた。

この体内時計遺伝子の発見については,1997年のサイエンスの10大ニュースの中で,1997年は体内時計を司る遺伝子に関する発見が次々に発表された年であったと位置付け,程助手らのグループの事例を紹介している。

体内遺伝子を司る遺伝子はこの遺伝子以外にもまだ多くの遺伝子があるだろうと予想されており,これらの遺伝子のリズムの狂いを解明することで,睡眠障害,時差ボケなどの原因を解決できるのではないかという期待も高まっている。

(引用度改善の努力)

なお,我が国の論文の相対被引用度が我が国について低いことについては,質の問題も指摘されているが,以下の要因も考えられる。

○ISIの作成するデータベースは,基本的に英語で書かれた論文についての統計であるので,言語上の不利がある。つまり,同じ内容であれば,英語を母国語とする研究者のものが読みやすく引用されやすい。実際に,我が国の研究者の論文執筆については,最初から英語で書き上げる者は約39%で,約58%の者は,まず日本語で書き上げるとしている。また,英語で研究成果を発表するのは常識であると考える者は約41%であり,英語で論文を書くことを可能な限り避けている者が約13%存在する( 第1-2-12図 )。
○日本で出版される英語の論文誌は,国際的にはインパクトが高くなく,国際的に流通している権威ある論文誌で引用されにくい( コラム参照 )。
第1-2-12図日本人研究者と英語での論文執筆

日本の論文誌に載った論文は国際的に権威のある論文誌には引用されにくい

ISIデータベースに収録されている日本の論文誌128誌(1994年(平成6年))のうち,本文も英語で書かれている日本の論文誌は,97誌である。それらのうち,インパクト・ファクター(IF)が1以上の15誌について,山崎義明愛知淑徳大学助教授などが行った調査研究(Citation Indicators of Japa-nese Journals)で,その15誌において引用されている論文誌のIFと,15誌を引用する論文誌のIFとを比較すると,前者が後者より大きくなっている。つまり,それらの15誌に載っている論文は,権威ある論文誌に載った論文を多く引用しているが,権威ある論文誌に載っている論文にはあまり引用されていないことが示されている( 第1-2-13図 )。

インパクト・ファクター(IF):それぞれの論文誌の論文がある期間内にどれくらいの頻度で引用されているかを示す指標である。通常,

IF=(ある論文誌に掲載された全ての論文が引用された回数)/(その論文誌に掲載された論文数)

で表され,IF値の実際の計算では,直前の2年間のデータをもとに算出している。例えば,1996年(平成8年)のIF値は,1995年(平成7年)と1994年(平成6年)に掲載された論文が1996年に引用された回数を,同じ2年間の掲載論文数で割った値になる。

第1-2-13図我が国の英語の論文誌15誌が引用し,引用された論文誌のインパクトファクター

このため,我が国の研究者が研究成果を世界に向けて発信し,その結果としてより被引用度を上げるためには,質の改善を始めとして論文執筆・投稿に際して,英語で論文を書く習慣を付けさせ,論文の量より質を重視し,国際的に広く読まれている権威のある論文誌に投稿するよう奨励することが必要である。その際,研究評価の物差しとして論文数を取り扱うときには,その扱い方に十分注意する必要がある。

また,我が国の英語の論文誌が,国際的に一層流通するように,編集委員会や査読メンバーに外国人研究者を加えるなどにより,外国人研究者に魅力あるものにすることや,マーケティング等の改善を行うことが必要と考えられる。

(2)我が国研究者の国際的浸透性に関する考察

国際間での論文の引用,共著については,我が国の研究者は自国の研究者の論文の引用頻度が高いこと,また,我が国の研究者の論文は欧米の研究者に引用される頻度が低く,国際共著の割合が低いことが特徴的である。

(国際間での論文の引用)

内外の論文の引用傾向については,自国の研究者の論文から引用する頻度は,米国が論文量の多さもあり約67%と例外的に高いが,欧州諸国は30%以下である。我が国は約37%と高いのが特徴的である( 第1-2-14図 )。一方,日本の研究者の論文を引用する頻度が高いのは,韓国,中国,台湾の研究者であり,その頻度は10%前後である。欧米の研究者が我が国の論文を引用する頻度は5%前後である( 第1-2-14図 )。

(国際間での論文の共著)

他国の研究者と共著された論文の割合について見ると,通常,主要国では30%前後であるが,我が国の研究者の論文は,国際共著であるものの割合が15%弱と低い( 第1-2-15表 )。

日本の論文の国際共著の相手(1991-1995年(平成3年-7年))は,米国約40%,ドイツ約7%,イギリス約7%,カナダ約5%,フランス約4%,中国約4%,となっている。欧州諸国の国際共著論文では米国との共著の割合が20%程度であることに比べると,我が国の研究者は,共著の相手として,欧州の研究者以上に,米国番重視していることが分かる( 第1-2-16図 )。

第1-2-14図各国の研究者はどこの国の研究者の論文を引用するか

第1-2-15表各国で書かれた論文のうち国際共著されている論文はどれだけあるか

各国の国際共著論文の中で我が国との共著の占める割合を見てみる。これは,その国の研究者にとって日本の研究者がどの程度研究パートナーとして重視されているかを表すものと考えられる。韓国,中国,台湾にとっては,日本は米国に次ぐ共著相手国である。一方,米国から見た共著相手国の中では,日本は欧州諸国の次にラ位置する( 第1-2-16図 )。

第1-2-16図各国の研究者はどの国の研究者と論文を共著しているか

(外国人研究者とのコミュニケーション)

また,研究上の事柄に関する外国人研究者とのコミュニケーションについては,週1回以上の頻度で外国の研究者と連絡をしている者は全体の約5%,年に一回から数回の者が全体の約39%と一番多く,ほとんど行っていない者が約36%あった( 第1-2-17図 )。

第1-2-17図 外国人研究者とのコミュニケーション頻度

(我が国研究者の国際的浸透性)

これらのことから,我が国の研究者は,人的ネットワークのレベルで,研究者の国際コミュニティーに十分浸透していないと見ることができる。我が国の研究者には,研究集会の機会は言うまでもなく,インターネット等の発達した通信手段を活用して,日頃から研究者の国際コミュニティーに溶け込み,知的刺激を与え合う努力を積み重ね,国際的認知度を高め,研究の協力相手,競争相手として扱われるようになることが求められる。


2. 技術力

ここでは,特許に関するデータ等から,我が国企業の技術力を考察し,さらに,その基礎となる民間企業の研究開発動向について考察する。

(1)民間企業の技術力

特許出願件数(ある国が全世界で特許出願した総件数)では,1996年(平成8年)時点で米国が約124万件と圧倒的に多く,日本は,世界第2位の地位を維持しているものの,米国と倍以上の差がある。しかしながら,特許登録件数(ある国が全世界で出願した特許のうち,登録されたものの総数)で見ると,1992年(平成4年)以降,我が国は米国と世界第1位の地位を分け合っている。このことをもって,我が国の技術力が全般的に優れていると見ることができるかについては,特許の質も考慮する必要があり,注意が必要である。我が国の発明者が取得した現存する約90万件の特許のうち,実施されている特許は約3分の1の約30万件であり,残りの約60万件は未利用特許,うち約40万件が開放特許 注) であると言われている( 第1-2-18図 )。

第1-2-18図我が国の特許の実施状況

登録された特許の分野ごとの件数を見ると,我が国は情報記憶装置,電子部品等で優位にあるが,医薬品,バイオテクノロジー等で,米国に遅れをとっていることが分かる。また,我が国の民間企業は,自らの業種の技術力を欧米と比較してどう見るかの調査において,特に米国との比較で,医薬品,情報通信の分野で遅れていると考えている。

以下,いま少し詳細に見てみる。

(特許件数による考察)

1990年代に入ってからの特許出願件数は,米国が約3.3倍に伸びており,中でも,外国への出願を伸ばしている。我が国の特許出願は,国内出願の割合が高く,1994年(平成6年)以降,上昇傾向を見せ始めてはいるものの,件数はほぼ横ばいである( 第1-2-19図 )。米国の出願件数の伸びの背景には,米国企業が知的財産権を重要な戦略手段と位置付け,グローバルに展開していることが如実に現れている。

特許登録件数は,日本が件数を伸ばし,1992年(平成4年)以降日本と米国が抜きつ,抜かれつの状況にある。1996年(平成8年)には,我が国の特許登録件数は約27万件で世界第1位,米国は約17万件で2位であった。我が国の特許登録件数は,1995〜96年にかけて大きく伸びている。外国登録件数は,横ばいであるが,国内登録件数が,1年で約2倍となっている。これは,1996年(平成8年)に我が国において付与後異議申立制度注)が導入されたことに伴い,登録時期が早まったためである。一方,1985年(昭和60年)には登録件数は日本とほぼ同じ8万件であったドイツは伸び悩み,1995年(平成7年)には10万件以下となった。出願件数では2倍強伸びたイギリスも,登録件数ではほぼ横ばいの状態である( 第1-2-20図 )。


注)開放特許:未利用特許のうち,他社へ実施許諾してもよいと考えている特許。

第1-2-19図日本及び米国が出願する特許件数の推移

また,1969年(昭和44年)から1997年(平成9年)末までの28年間の米国特許の登録件数がもつとも多い10機関には,日本企業は3社入っている( 第1-2-21表 )。一方,1997年(平成9年)1年間の登録件数の多い10機関を見ると,日本企業が7社入っており,最近における我が国の企業の発明の優秀さを示している( 第1-2-22表 )。


注)付与後異議申立制度:1996年(平成8年)1月より開始された制度。これにより特許登録に対する異議申立が,登録の前から後に移行した。従前の制度においては,審査の結果,特許を付与する予定の旨を出願公告にて公開し,その日から3ヶ月以内に異議申立を行うこととなっていたが,付与後異議申立制度では,審査の結果付与された特許を特許公報にて公開し,公報発行から6ヶ月以内に異議申立を行うこととなった。これにより,特許登録件数は,従前の制度のときよりも増えることになると考えられる。

第1-2-20図主要国の特許登録件数の推移

第1-2-21表1969年から1997年までの米国内での特許登録件数上位10機関(1969年1月〜1997年12月)

第1-2-22表1997年の米国における特許登録件数上位10機関(1997年1月〜1997年12月)

日本,米国それぞれが外国で登録した特許の件数を技術分野ごとに見ると,情報記憶装置,エンジン,電子部品分野では日本が優位である。一方,医薬品,バイオ,石油化学分野では米国に遅れをとっている( 第1-2-23図 )。また,米国国立科学財団(NSF)が,米国特許の登録件数から各国が特許取得において活発な分野を分析した結果では,米国企業は,医療・健康,化学分野等,日本企業は,情報記憶装置,複写,ビデオ,電子部品,光学分野等が活発な分野となっており( 第1-2-24表 ),第1-2-23図 の結果と同様な結果となっている。

第1-2-23図 国外で登録された日本及び米国の特許の分野別件数比較

第1-2-24表 各国が米国での特許取得に活発な分野

米国出願特許から見ると日米技術格差は拡大

米国商務省は,特許出願・登録数に加えて,特許がその後の特許で引用される回数・期間も加味して,技術力を比較しようとする分析を行った。同分析では,特許が引用される回数を標準化したインパクト指数と特許登録件数の積を技術力を表すひとつの指標であるとして比較している。自動車,健康,電子計算機(ソフトウェア等を含む)分野について日本,米国,欧州諸国の技術力を比較すると以下のとおりである( 第1-2-25図 )。

自動車分野:1990年代に入り,それまでの日本の優位が米国に逆転されている。これは特許登録件数の減少とインパクト指数の減少が重なったためであるが,インパクト指数は依然1を越えており,ここにきて米国の技術レベルが日本に追いついたと見るのが適切であると考えられる。
電子計算機(ソフトウェア等を含む)分野:1990年代に入り米国との格差が拡大している。日本は登録件数は伸びているが,インパクト指数が落ちてきているのに対し,米国は高いインパクト指数を維持したまま,登録件数を着実に伸ばしている。
健康分野:一貫して,米国,欧州諸国よりも劣っており,米国に対しては格差が拡大し続けている。日本は登録件数の伸びは平均の水準であるが,インパクト指数が落ちている。米国は日本,欧州諸国に比べてインパクト指数の低下が少なく,登録件数の伸びも大きい。欧州諸国は,インバクト指数は日本と大差ないが,登録件数において日本より勝る分,優位な位置を占めている。

また,各分野で技術の世代が代わる期間を表す技術サイクル期間を見ると,日本は各分野で最も短く,技術の世代刷新に力があることを示している。米国については,分野によって差はあるものの,日本と比較して約10〜50%長くなっている。

資料:米国商務省技術政策局「The New Innovators:Global Patenting Trendsin Five Sectors」(平成10年)

第1-2-25図 特許データによる技術力比較(米国商務省による分析)

(高シェアの我が国製品)

また,我が国企業が生産し,高いシェアを誇っている製品がある。その中には,いくつかの例を挙げれば,情報通信を支える半導体の素材(化合物半導体ウェハー(75%以上),シリコンウェハー(70%以上)),環境保全に重要な脱硝触媒(100%),水素エネルギーの利用に不可欠な水素吸蔵合金(100%),光通信で情報の通り道となるプラスチック光ファイバー(100%)のように,これからの技術にとって重要な製品も少なくない。

(民間企業の意識)

我が国の民間企業が自らの業種の技術力を欧米と比較してどう見ているかについての調査によれば,ほとんどの業種で我が国が優れている,あるいは,現在競争相手となっていると見ているが,情報サービス業は米国の方が優れている,また,医薬品業は米国,欧州のいずれもが我が国よりも優れていると見ている企業が圧倒的に多い( 第1-2-26図 )。

また,社団法人経済団体連合会(経団連)による自社の主力技術・商品の競争力に関する自己評価についての調査では,現在競争力があり今後も維持・向上できるとしている事業分野は,家電機器,非鉄金属,半導体デバイス,食料品等である。一方,現在競争力が対等または低く,今後低下の危機感・不安感がある事業分野は,ソフトウェア,紙・パルプ,エンジニアリング,医薬品等である( 第1-2-27図 )。経団連では,このような調査結果等から,我が国の産業技術の競争力には陰りが見えるとして,平成10年11月「戦略的な産業技術政策の確立に向けて」と題する提言をまとめ,産業技術政策の戦略目標の明確化等を提起している。

(2)民間企業の研究開発

(概況)

民間企業は,国際的な競争の激化等に打ち勝っていくため,経営上,研究開発に重きを置いている。我が国民間企業の研究開発投資は,平成4年度から平成6年度まで下降したことを除けば着実に増加してきている( 第1-2-28図 )。今後の研究開発投資については,製品技術・開発研究に集中させる傾向にあり,研究開発投資全体の伸びは減退することも予想される( 第1-2-29図 )。また,製品の代替わりを早めて競争力を確保するために,製品開発期間を短縮してきている( 第1-2-30図 )。人材に関しては,即戦力となる中途採用の研究者(他企業等での勤務経験がある研究者)を求める傾向が強まってきている( 第1-2-31図 )。

第1-2-26図 我が国の民間企業は自らの業種の技術力を欧米と比較してどのように見ているか

サービス業(運輸・通信・公益業,卸売・小売業,ホテル・飲食店,金融・保険業,不動産業・賃貸業,ソフトウェア業,研究開発・分析試験業)については,競争力の弱さが懸念されているが,研究開発への取組は,業種によって様々である。ソフトウェア業では,来年度以降3年間で研究開発費総額が増加すると答えた企業が約40%であり,同様に回答した企業の全業種平均の約25%を大きく上回っている。特に基盤技術研究費(約20%),先進技術研究費(約27%)が増加すると回答した企業の割合が,同様に回答した企業の全業種平均(それぞれ,約9%,約16%)を上回っており,独創的な技術を中心とする競争力強化への姿勢が見て取れる。

第1-2-27図 現在及び今後の自社技術・商品の競争力に関して企業はどのように自己を評価しているか(事業分野別)

第1-2-28図 民間企業の研究費は着実に上昇

第1-2-29図 民間企業は来年度以降3年間にどのような研究費を伸ばそうと考えているが

第1-2-30図 民間企業の開発リードタイムは短縮

先進各国は技術をてこにした産業競争力強化の取組を展開しており,我が国企業は今後一層激しい技術競争にさらされることとなるが,それに打ち勝っていくには,研究開発をベースに,独創的な製品・サービス,新産業を創出していくことが求められる。

第1-2-31図 民間企業の来年度の研究者採用の見込み

(民間企業の研究開発促進)

このような状況において,民間企業の研究開発を一層促進するために,研究開発投資へのインセンティブを与える税制,中小企業,ベンチャー企業を対象にした研究開発への資金的支援など様々な支援策を講じている。

民間企業の研究開発促進のための最も代表的な税制である「増加試験研究費の税額控除制度」に,平成11年度,改正が加えられた。同制度は,研究開発投資の増加分に対して一定割合が税額から控除されるものである。従来,この増加分とは,研究開発投資の過去最高額(比較試験研究費)を超えた分であった。しかしながら,ここ数年の経済状況下では民間企業にとって研究開発費を単調に増加させることが困難になったことや,リストラや分社化によって民間企業が経営形態を柔軟に変化させる必要が生じたことなどにより,過去最高の研究開発投資額を基準としていては研究開発投資へのインセンティブとして機能しにくくなってきた。今回の改正では,この点にかんがみ,比較試験研究費を「過去最高額」から「過去5年間のうち多い方から3年間の平均額」に変更するとともに,税額控除額の見直しを行うなど,試験研究関連税制全般の見直しを行った。こうした見直しを通じて,民間企業の研究開発の促進が期待される。

研究開発への資金的支援は,積極的に研究開発に取り組む中小企業を対象にした施策を展開している。平成11年2月16日,新事業創出促進法が施行され,同法に基づく中小企業技術革新制度(日本版SBIR)がスタートした。同制度は,技術開発力を有する中小企業を活性化し,その独自性ある事業活動を支援するため,関係省庁が連携し,新産業の創出につながる新技術の開発のための補助金・委託費等の支出の機会を増やすとともに,その事業化を一貫して支援するため債務保証枠の拡大や,担保・第三者保証人が不要な融資の特別枠の新設などを行うものである。

(大学,国研等における研究への期待)

民間企業における製品技術開発研究への重点の移行の動きは,大学,国研等における研究に対する期待を高めている。すなわち,そのような動きに伴い,民間企業の基礎研究が担っていた新しい製品・サービス,新産業のシーズ等となる知識の源泉としての役割も高まっている。

民間企業の約66%は,すでに国内の大学との研究協力を行っており,大学での研究に関してば,自由な発想を重視した研究,最先端の技術動向の発信に係る研究,シーズ創出のための研究等を期待している。一方,国研等との研究協力は,民間企業の約35%が実施しており,国研等での研究に関しては,高リスク・高コストの研究,経済効果をもたらす研究等を期待している( 第1-2-32図 )。

民間企業が大学,国研等の研究成果を入手する方法については,学会を通じて入手(約79%),委託研究を通じて入手(約57%),大学や国研等の知人等を通じて入手(約25%)等が主体であった( 第1-2-33図 )が,科学技術振興事業団等による各種施策が講じられるとともに,大学等技術移転促進法が平成10年8月に施行され,平成11年4月16日現在,6つの技術移転機関が承認を受けているところである。また,民間企業は,従来,大学,国研等の研究成果を入手する際の問題点として,利用しやすい形で情報が公開されていない,研究情報の発信源が不明等を感じている( 第1-2-34図 )。

第1-2-32図 民間企業と大学,国研等との研究協力の状況と民間企業が考える大学,国研等で行われるべき研究

第1-2-33図 民間企業が大学,国研等の研究成果を入手する方法

第1-2-34図 民間企業が大学,国研等の研究成果を入手する際の問題点

このように,民間企業は,大学,国研等に基礎研究について補完的な役割を期待していると考えられるが,大学,国研等としては,民間企業の直接的なニーズを過剰に意識することが求められているわけでは必ずしもない。むしろ,新しい知識の探索,得られている知識を結合させることにより,産業も含めた社会経済ニーズ等に対応する新しい知識体系を創出する等,知的資産を厚くする活動を活発に行うことが重要であり,その成果が産業界によく見えるようにするとともに,積極的に特許化を進め,特許を媒介とした知識の移転を円滑にできるようにする必要がある( 第1-2-35図 )。

既に科学技術振興事業団において,国立試験研究機関や特殊法人の研究開発成果,展開可能な技術分野,研究者,研究設備,その他の研究開発に係る情報についてインターネットで提供するサービスが行われているが,このような取組が一層進展することが望まれる。そのような中で,民間企業の研究者は,約8割が特許化を意識しているのに対して,大学,国研等の研究者では約3割程度( 第1-2-36図 )であり,評価の基準に加えるなどして,特許化意識を高める必要がある。

第1-2-35図 研究者が考える大学,国研等のあるべき研究活動

第1-2-36図 研究者は研究成果の知的財産化を意識しているか


3. 国民の受け止め方・期待

我が国国民は,今や,ものの豊かさよりも,ゆとり,安心感といった心の豊かさを求めている( 第1-2-37図 )。具体的には,健康であること,環境の保全,よい治安,レジャー余暇などである。

(1)科学技術に対する国民の評価・期待

科学技術に対する国民の評価・期待としては,総理府「将来の科学技術に関する世論調査」から,科学技術は,生活水準・ものの豊かさ,個人個人の生活の楽しみなどを向上させてきたと評価しており,今後は,安全性・効率性の向上に役割を果たし,環境保全,リサイクル,廃棄物処理などに生かすべきという期待が読み取れる( 第1-2-38図 )が,ここには,上に述べたような国民の基本的な意識が背景にあるものと思われる。さらに,環境保全等に対する期待は,1992年(平成4年)の国連環境開発会議(UNCED)の開催,1997年(平成9年)の我が国における気候変動枠組条約第3回締約国会議,(C0P3)の開催等に加え,ダイオキシン,内分泌かく乱物質等環境と健康とのかかわりに関する問題が注目されていることに加え,かつて,技術がもたらした公害問題を排出低減等の新しい技術で解決してきた実績も想起されていると思われる。

第1-2-37図 国民が求める豊かさ

第1-2-38図 国民の科学技術に対する評価と期待

科学技術に対しては,また,プラスの評価とともにマイナスの評価も増え,細分化してわからない,悪用・誤用が心配,進歩が速過ぎてついていけない等否定的な印象を持つ人が増えている( 第1-2-39図 )。今後科学技術は社会の様々な要請に応え,様々な局面で大きな役割を果たすことが求められている。また,科学技術が多様な形でより身近まで浸透し,かつ,それを使うかどうかについて個人個人が多様な選択をできるようになってくる。そのような状況において,科学技術に対する否定的な印象が強いと,感覚的な忌避・敬遠によってある技術が使われないこととなり,個人的にも社会的にもその便益を享受する機会を損なうおそれがある。

第1-2-39図 国民の科学技術に対する意識

(2)国民の理解を深めるための取組

以上の結果を踏まえ,科学技術に対する国民の理解を深めるためには,まず第一に,環境保全にかかわる問題,特に現在注目を浴びているダイオキシン,内分泌かく乱物質等の問題,資源のリサイクル,廃棄物処理などにおいて,科学技術が問題解決に向けて積極的な貢献を行い,それが国民の目に見えることが求められる。また,環境保全などへの科学技術の貢献は資源循環型社会を支える技術体系等を創成することにもつながり,我が国の産業の競争力の強化にもなる。

第二には,科学技術が安心感を与えることである。安心のベースとなる健康・安全に,科学技術を目に見えるように役立てることは効果的であろう。あわせて,研究開発,成果を応用した製品・サービスの普及の過程で起こり得るマイナスの効果を周到に予測し,それを除去する対応を講ずることが必要である。その際,マイナスの効果は有害物質の放出のような自然科学の体系でとらえられるものだけでなく,経済社会システム,価値観・倫理への効果も含めて考察する必要があることは言うまでもなく,人文・社会科学を含めた総合的な視点から対応する必要がある。

第三には,総理府「将来の科学技術に関する世論調査」によると,進歩が速すぎてついていけないと感じる人は,男性や若い世代に比較して女性や高齢者に比較的多く見られるということに関してである。民間企業において製品開発期間を短縮してきていることからも進歩が速いことは確かである。重要なことは,進歩が早い技術の内容についての理解を求めることではなく,その便利さを感じ,使おうという気持ちが起こるようにすることであろう。新しい技術,特に情報通信技術は,これからますます社会の基幹となり,女性や高齢者の就労意欲を生かす際の鍵ともなるものであり,情報通信技術を用いた製品やサービスの社会への導入に当たっては,女性・高齢者にも使ってみようという気を起こさせるように工夫して導入することが重要であろう。


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