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第1部  科学技術政策の新展開-国家的・社会的な要請に応えて-
第2章  今,日本の科学技術は
第1節  科学技術基本計画の進捗状況



1. 科学技術基本計画フォローアップ調査の実施

平成10年度は,科学技術基本計画の対象期間(平成8〜12年度)の中間年次に該当し,同計画に基づき展開されてきた科学技術関係諸施策の進捗状況を確認し,その状況に対応した必要な施策の検討を開始することが必要と考えられた。

このため,科学技術会議政策委員会は,科学技術基本計画のフォローアップを行うため,平成10年10月末より,約100人の幅広い有識者から,我が国の科学技術振興の状況に関する意見聴取を実施し,あわせて,関係省庁の協力を得つつ現行計画中の諸施策の推進状況に関する調査を実施した。

政策委員会は,これら調査の結果を基に精力的に議論を重ね,平成11年4月,基本計画のフォローアップの中間取りまとめを行った。この中間取りまとめは,21世紀に向けて我が国が目指す「科学技術創造立国」のあるべき姿を念頭に置き,今後の科学技術政策の目指すべき方向とさらに検討を深める必要がある政策課題を整理したものである。


2. フォローアップ調査の結果と指摘された事項

科学技術基本計画の策定により,国の重要政策としその明確な位置付けが科学技術に付与され,厳しい財政状況にもかかわらず,優先的な予算配分がなされた結果,研究資金や研究基盤の充実により研究社会が大いに活性化され,我が国の科学技術の水準向上に大きく貢献したとする幅広い認識が確認された。

一方,科学技術を,国家的・社会的課題といったより大きな視点からとらえ,課題との関係で分かりやすい科学技術の目標を立てるというような戦略的な取組が不足しており,今後そのような取組を強化する必要があることや,基礎研究の振興に,国として引き続き積極的に取り組む必要性が指摘された。

また,現行基本計画下の科学技術政策の視点として,科学技術全般にわたる量的な拡大が重視されていたのに対して,今後は,科学技術の質を世界水準に高める取組を強化することが重要であるとの指摘がなされた。

具体的に,現行基本計画に掲げられた諸目標に対する達成度は,付属資料「1.科学技術基本計画のフォローアップについて(中間取りまとめ)」に掲げるとおりである。

以下,概要について示す。

(1)研究開発投資

研究開発費については,平成12年度を残し,平成11年度予算までの投資総額が13.3兆円となっている。単年度の科学技術関係経費としては,3兆1552億円(平成11年度予算)と基本計画策定時の2兆8105億円(平成8年度)に比して着実な充実がなされている。また,基本計画の対象期間のうち過去3年間に,1.3兆円に及ぶ補正予算が充当されており,このことは高く評価されている一方,補正予算の用途が主として施設・設備の整備などであることもあり,当初予算の一層の拡充を望む声が多く聞かれた。

(2)ポスドク1万人計画・任期付任用制

「ポスドク等1万人支援計画」に関しては,平成11年度予算において,10,187人が予算措置され,任期付任用制についても平成9年度から10年度にかけて,国立試験研究機関や大学等において導入され,件数の増加が認められるなど,現行計画に掲げられたいくつかの目標について大きな進捗が見られた。しかしながら,今後は,研究者養成・確保の観点から,質的側面にも配慮したきめ細かな充実策が必要との指摘が多かった。

(3)施設・設備の老朽化・狭隘化対策等

施設・設備の老朽化・狭隘化対策,情報通信基盤・知的基盤整備の推進,研究支援者の充実等いくつかの項目については,これまでの取組にもかかわらず,現在の水準はなお不十分であり,今後一層の努力が必要であるとの指摘が多かった。特に,施設・設備の整備に関しては計画期間中の当初予算及び補正予算により相当規模の予算措置がなされたにもかかわらずこうした指摘がなされており,更なる取組が必要である旨指摘された。

また,現行基本計画は,主として研究開発資源の投入側の視点から策定されたものであり,必ずしも成果側の観点からの目標を明らかにしておらず,今後は,研究開発資源の投入や研究開発環境の整備状況といった投入側の視点に加え,研究開発の成果側に着目したアプローチが重要で,そのためのベンチマーキング手法の導入を求める声も聞かれた。


3. 人材・研究開発システムの状況

基本計画の進捗状況について,フォローアップ調査などを軸に,いくつかの事項について概観する。

(1)研究者

研究開発の現場を支えていくために重要なものは人材である。現在研究開発活動が高度化する中で,研究開発の主要な担い手は,大学院修了者レベル以上の層に移りつつある。大学院の規模は基本計画にも示されたように拡充が図られている。実際,理工農医歯薬系の修士・博士課程に在学する学生は,平成7年の約15万人から,平成10年には約18万人に拡大しており,高度な研究開発に携わる人材の供給の拡大が図られつつあると言える。しかしながら,学士,修士,博士課程を修了する全卒業生のなかで大学院修了者が占める割合では約22%であり,米国の33%とは大きな差がある( 第1-2-1図 )。また,理学分野における博士号取得者では,日本は,米国の8分の1である(第2-2-21,22図参照)。研究開発活動が高度化している中,今後重要とされる分野に研究開発人材を集中投資できるようにするためには,質的にも量的にも研究分野に対応した,優秀な研究者の養成・確保を図ることが必要である。

第1-2-1図 修士・博士号取得者が全学位取得者に占める割合

また,研究者の経歴にとって,博士課程修了後の研究(いわゆるポスドク)の経験は重要であることは研究者には認められつつも,社会的認知が得られているとは言い難い状況にある。例えば,民間企業は,ポスドク研究者を採用する上でのデメリットとして,多くが「狭い視野」を挙げるが,採用予定がないと回答している企業が多いことを考えれば,ポスドク研究者の能力や,資質について正当に評価できる機会がそもそも少ないのではないかとの疑問も生まれてくる。このことは,博士課程研究者についても言える。これらの研究者の研究成果や人材情報が流通することで,新しい研究現場への採用が円滑に進むことが必要である。それによって,研究機関がポスドク研究者,博士課程研究者をより積極的に採用するようになり,これらの研究者の地位が高まり,さらに学生がより高度な経験を求めるようになることで,研究者の質の向上が図られるようにしていくことが重要である。

(2)研究支援者

研究者が能力を十二分に発揮できるためには,研究に専念できる環境が必要であり,そのために,研究支援者の役割は重要である。研究支援者に対する予算措置としては,既に重点研究支援協力員制度,リサーチ・アシスタント制度,研究支援推進事業において,平成8年度の約700人から平成11年度で約3,800人に拡充されており,その他の諸制度においても拡充が進められている。しかしながら,ポスドク等の流動的研究員が増加しているにもかかわらず,研究支援者の定員の削減,定年などによる自然減などにより,国立試験研究機関,国立大学とも研究者一人当たりの支援者数について,基本計画の目標を十分達成できていない。また,支援者に求められる業務は,研究者の実験の補助的サポートや,施設設備の運転のみならず,特許の申請に係る業務,競争的資金の申請,民間企業との共同研究に係る契約事務,論文調査など多岐にわたることが今後予想される( 第1-2-2図 )。このような多様なニーズに対応できるような,研究支援機能の強化・充実が求められる。なお,国立試験研究機関においては,独立行政法人化が進展することで,研究費の使用の自由度も増すことが期待できる。研究支援者の採用の自由度も増すため,採用を増加することで,研究者より研究に専念できるような環境づくりが可能となることが期待される。

第1-2-2図 国立試験研究機関,大学等の研究支援サービスへの需要

(3)外国人研究者の積極的採用

外国人研究者の受入れについては,日本学術振興会外国人特別研究員制度やSTAフェローシップなどの制度により,採用数は拡大しているが,1研究室当たり1人という基本計画の目標にはまだ至っていない。国際交流を積極的に進める見地から,外国人研究者の受入れを今後とも推進していく必要がある。

さらに,世界を見れば,優れた成果を創出する研究機関においては,外国人研究者を研究交流という見方のみならず,研究開発の戦力としてとらえている姿が見られる。例えば,米国などでは,世界中の優秀な研究者を集積し比類なき成功を収めてきている。米国では,毎年1〜2万人の外国出身研究者・技術者に対して永住ビザを発給しており,米国で博士号を取得した外国出身研究者・技術者の約半数が定着しているというデータもある( 第1-2-3(1),(2)図 )。

第1-2-3図 米国における研究開発戦力としての外国人研究者

このような状況にかんがみれば,我が国においても優秀な外国人研究者を研究開発の戦力として位置付け,積極的雇用を図り,世界水準の頭脳を国際的な規模で確保し,定着を図ることが重要である。それにより,我が国の研究開発水準の質的向上を図るとともに,日本人研究者に対し知的刺激を与えることが期待できる。

このような状況を生み出すためには,まずは,我が国の研究機関で独創的なハイレベルの研究を行うことにより,研究者にとって知的刺激が得られる環境を作ることが重要である。さらに,外国人研究者にとって,日本に残って研究することが研究者のメリットとなるように,研究者の処遇,福利厚生などについて,さらなる努力を続けていくことが必要である。

(4)競争的研究資金

競争的研究資金は,研究者に対して研究費の選択の幅と自由度を拡大することが期待できる。そのため,研究者の独創性が試されるものであり,研究者の意欲を促し研究推進に効果的であると考えられる。我が国では,科学研究費補助金や,科学技術振興調整費等の既存の資金に加えて,最近では特殊法人等における出資金を活用した基礎研究推進制度などの競争的研究資金が増加している。科学技術基本計画では,競争的研究資金等の多元的な研究資金の拡充を進めることとされており,基本計画が着実に進行していることを示すものと考えられる。

しかしながら,諸外国と比べれば,このような競争的資金の比率は必ずしも高いものとは言えない。たとえば,米国やイギリスでは,全研究開発予算のうち競争的研究資金が3割以上を占めているが,我が国では,主な競争的研究資金を全て合計すると約1割程度にとどまっている( 第1-2-4図 )。競争的研究資金は,申請の審査の段階で競争的な選抜が行われることが重要であり,競争的研究資金の比率の拡大と,審査する評価者について数の拡大及び質の向上によりその層を厚くすることが,一層競争的な環境を実現する上で欠かせない。米国科学財団(NSF)は様々な分野の基礎研究に対し資金を提供してきており,常時約18,000件のグラントを交付しているが,審査のための約22万人の外部専門家のデータベースを備えており,毎年そのうち約5万人がレビューに参画している。また,ライフサイエンス分野の米国の中核的な研究機関である国立衛生院(NIH)は,約26,000件の研究プロジェクトグラントを中心とする総数約35,000件のグラントに対して,総予算の約8割を支出しており,グラント申請者に対する第一段階のレビューのため,それぞれ20人程度の専門家からなる100を超える研究領域ごとのグループ(studysection)を有している。

第1-2-4図米国・イギリス・日本の科学技術関係予算のうち競争的資金はどれだけあるか

競争的研究資金の審査により,研究者が自分が行う研究にどのような意味があるのか,どのような成果が得られるのか,採択されない理由がどこにあるのか等を研究者自身が理解すること等につながれば,研究者にとって知的な訓練を受けることとなり,研究に対する意欲や能力の向上につながっていく。我が国の研究者に対して行ったアンケート結果では,審査が透明・公正に行われていないと考えている研究者は3割近くにのぼり,また,その理由として,申請結果のコメントが申請者に通知されない等の回答が4割程度になっている( 第1-2-5 , 6図 )。評価者の拡充やこれらにかかる資金の拡充を図り,不採択理由の通知等を行うこと等で,競争的資金の質を高めることが求められる。既に,文部省の科学研究補助金では,大型の研究を助成する特別推進研究や特定領域研究等について,不採択となった理由を申請者に開示している。また,特殊法人等における出資金を活用した基礎研究推進制度などでも,戦略的基礎研究推進事業等いくつかの制度で不採択となった理由を研究者宛に回答するなどの取組を検討中である。これらの取組が今後様々な競争的研究資金に波及し,競争的研究資金で行われる研究の水準が格段に向上することが望まれる。

第1-2-5図競争的資金の課題審査が透明・公正に行われているか

第1-2-6図競争的資金の課題審査が透明・公正に行われていると思わない理由

(5)研究評価

競争力のある研究開発環境を実現していくに当たって,厳格な研究開発評価の実施とその結果の資源配分や処遇等への適切な反映が極めて重要である。

現行基本計画に基づく研究評価の大綱的指針は平成9年に策定され,それに基づいた評価に取り組んでいる。評価のための要領・規定等の整備については,研究開発機関や主要な研究開発制度等の大半で整備が行われている。また,研究者評価に関して仕組みを整備した国立試験研究機関も約85%に上っている。しかしながら,評価結果の資源配分等への反映が不十分であったり,また,評価者の不足や評価に多大な労力が必要である等の問題があり,その改善が強く求められている。今後,評価者の層を厚くするなどにより,評価の質を向上させるべく,評価の手法の改善・工夫を進め,さらには,資源配分などに反映させるなどにより評価を充実させていくことが必要である。

(6)成果活用

科学技術基本計画では,国等の研究成果を円滑に国民や社会,経済に還元していくための施策を講ずべきことが述べられており,科学技術政策上の重要な課題である。その際,国等の研究成果の特許化を促進することは言うまでもないが,同成果が企業の生産活動に根付くように活用の促進を図ることが重要である。さらには,研究成果の移転の結果得られた資金を研究の進展に還元していくという視点も重要である。米国では1980年に制定されたバイ・ドール法により,大学に対して,政府資金により行われた研究成果に係る特許権を取得し,その排他的ライセンスを民間企業に与えることを認めたが,それによる実施料収入は90年代に入って,91年の1億3000万ドルから95年の2億9900万ドルまで伸びている。

科学技術振興事業団においては,大学,国等の研究成果の実用化を図るため,研究成果の民間への提供,特許化支援,企業化開発やあっせん,産学官の共同研究の推進等に取り組んできている。また,大学における研究成果を民間事業者へ移転する事業を実施する者のうち,実施計画の承認を受けた者に対して助成金の交付や債務保証などの支援措置を行う「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(以下,「大学等技術移転促進法」とする。)」が平成10年8月に施行され,平成11年4月16日現在,6つの技術移転機関が゛当該承認を受けている( 第1-2-7表 )。さらに,産学官の共同研究を効果的・効率的に推進し,成果の社会還元を加速するため,研究交流促進法の一部を改正する法律が平成10年8月に施行され,国立大学,国立試験研究機関の敷地内における民間等の共同研究施設の整備が促進されることとなった。この改正による施設の整備として,平成10年末から,北海道経済連合会,北海道大学,北海道,札幌市の連携の下,北海道大学の構内に,(財)北海道地域技術振興センターが共同研究施設「北海道産学官協働センター」の建設を進めている。

全米科学アカデミーが提唱する研究評価の尺度

米国では,1993年(平成5年),政府業績結果法(GovernmentPerformance andResultsAct)により,各省庁は,最低5年間の事業の達成目標と目的を定める戦略計画を策定し,またこれに基づく単年度計画,目標達成状況を毎年報告することが義務付けられている。

連邦資金による研究活動も同法の対象になるが,そのような研究について毎年度達成状況を評価するのは困難であるとの見方が示されていた。これについて全米科学アカデミー等の科学・工学・公共政策委員会が,1998年(平成10年)1月に検討作業を開始し,1999年(平成11年)2月に,研究活動について毎年度達成状況を評価することは可能であるとする結果を「連邦研究計画の評価」として発表した。その概要は以下のとおり。

○政府負担の基礎研究,応用研究ともに,意味がある形で定期的に評価することが可能である。基礎研究の有用性は,毎年よりも長い時間フレームで歴史的にレビューして評価すべきであるが,進捗中の基礎研究の目標達成度は意味のある形で評価できる。質,妥当性,先進性が意味のある尺度である。

○各省庁は,研究の性格(基礎研究,応用研究など)に応じた適切な評価手法を採用すべきである。研究の性格によって,評価の対象とすべき研究期間,評価できることとできないこと,また評価に際して必要とされる有識者の種類も異なる。

○政府負担研究の評価を最も有効に行い得る方法は,以下の3つの観点から行う有識者による評価であり,この方法は,基礎研究,応用研究双方の評価に適用すべきである。

(1)質の評価:その分野の専門家により,その分野の他の研究に比べて優れているか等を評価。
(2)妥当性の評価:その分野の専門家のみならず,研究開発成果のユーザや関連分野の有識者により,各省庁の役割に対して,研究課題・方向の設定が意味のあるものであるかどうかを評価。
(3)国際的ベンチマーキング:内外の有識者により,研究成果が科学技術知見の最先端にあるかどうかを総合的に評価。

○研究成果の評価作業だけでなく,評価・報告手法の確立のためにも,科学・工学界の有識者を参加させることが必須である。

その他,関連する重要な事項として,優れた科学・工学人材の育成・輩出に努めること,政府負担の研究計画に関する調整機能を強化することが必要であると指摘している。

資料:全米科学アカデミー 「EvaluatingFederaIResearchPrograms」(平成11年)

第1-2-7表 大学等技術移転促進法に基づく承認を受けて活動中の技術移転機関の概要(平成11年4月16日現在)

また,共同研究や国等からの委託研究の成果として得られた特許権等について共同研究や受託相手先機関に優先的な実施権が付与できるよう,各省庁で契約内容を整備することとされており,実際に付与された件数は平成7年の91件から,平成10年11月末現在で249件と大幅に増加している。さらに,成果の移転を円滑にするため,各省庁で国の研究者の兼業許可基準の明確化や,特許権の個人帰属のための規定整備が行われた結果,国立試験研究機関の兼業許可件数や特許の個人帰属の件数が増加している。

このような取組の一層の進展のためには,大学や,国立試験研究機関,特殊法人及び公設試験研究機関(以下,「国研等」とする。)が知識の源泉として企業にも魅力のある存在となる努力がさらに必要であることは当然であり,さらには,迅速な成果活用のために,大学,国研等の研究成果をベースとした研究開発型ベンチャー活動を推進すること,大学や国研等の側,企業側の双方に,産業で役立たせることができそうな研究成果を見つけ出すこと,すなわち目利きのできる人材が配置されていることや,大学で学ぶ学生への起業マインドの育成等が今後の重要な課題となると考えられる。


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