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第1部  科学技術政策の新展開-国家的・社会的な要請に応えて-
第1章  今,日本の科学技術に求められること


21世紀に向けて,世界は知識基盤社会への移行という大きな流れの中にある。そこでは,物質資源に対して知識の相対的重要性が高まる。新たな知識を生み出し,人類の知的資産の拡充に貢献し,また,生み出された知識を国の重要課題への対応等に賢明に使いこなしていく科学技術活動の重要性が著しく増大しつつある。

知識を生み出す活動の中心は,基礎研究である。世界の基礎研究をリードし,知的フロンティアを開拓していくことは,人類の知的資産の拡充に貢献し,我が国の知的存在感を増すこととなる。また,基礎研究は,国家の広範な活動の基盤をなすばかりでなく,時として全く新しい技術体系をもたらす「無限の資源」である。

例えば,今日,社会の情報化を飛躍的に推し進め,電子商取引のような新しいビジネスも生み出したインターネットは,1960年(昭和35年)代にマサチューセッツ工科大学,ランド研究所等で独立に行われていたパケット通信概念に関する研究が発端である。米国国防省先端研究庁は,1968年(昭和43年),その研究を行っていた研究屠の参加を得て,国防省の電子計算機用の通信網の研究を開始した。そこで開発された通信網をまず大学,公的研究機関などの間の研究情報ネットワークのために開放し,さらに一般の用途に開放したのが今日のインターネットである。

医薬品産業,農業等の分野で全く新しい次元を開いた遺伝子組換え技術は,1973年(昭和48年)に,カリフォルニア大学のボイアーとスタンフォード大学のコーエンが発明した。この技術は1980年(昭和55年)に特許化され,全世界で活用されているばかりでなく,ボイアーは1976年(昭和51年)に自らベンチャー資金を得て会社を設立し,インシュリン,成長ホルモン等の生産を通じ,健康増進という社会的要請に応えてきている。

一般論としても,各国企業の米国での特許出願に関する調査から,特許出願において,大学,公的研究機関における基礎研究の成果を,先行技術(先行的な知見を含む。)として引用する頻度が増えてきていることが示されている。基礎研究の成果が特許のヒントになり,新しい技術を生み出すことに役立っている。

このように,知識を生み出すとともに,生み出された知識を,経済の発展,安心して暮らせる潤いのある社会の構築,環境問題等の人類共通の課題の解決などの,科学技術に対する要請に応えて,賢明に使いこなしていくことも,等しく重要である。

基礎研究と産業とのリンクは強まっている

米国CHI研究所が,日米英独仏の企業が米国で行った特許出願で,どのような科学論文を引用しているか調査した。調査結果の要点は以下のとおり,基礎研究と産業との結びつきが強まってきていることを示している。

○米国で登録された特許では,科学論文を引用する頻度は, 第1-1-1図 に示すように増加してきている。日本の企業が出願する特許では,出願1件当たり約0.5件の科学論文を引用している。科学論文を引用する頻度は,申請国,技術分野によらず伸びてきている。米,英の企業が出願する特許で,引用頻度の伸びが速い。これは,元来,米英の特許は科学論文を引用する傾向が強いことや,基礎研究の成果が直ちに新製品などに結びつきやすい製薬・バイオテクノロジー・医療機器での特許申請が盛んなためである。
○最近の論文が引用される。(医薬品の特許では,登録の4〜6年前の科学論文が一番よく引用される。)
○特許の発明者は自国の科学論文を一番よく引用する。日本は米英独仏に比べて,この傾向が一番強い。バイオテクノロジー等のような,基礎研究と新製品などとの結びつきが強い分野の技術を強くするには,その国で強力な基礎研究が展開されていることが必要である。
○引用する論文を掲載している雑誌は,権威あるものである。
○米企業が登録した特許の約73%で引用された科学論文は,連邦資金などにより大学,国立試験研究機関で行われた研究に関するものである。米の産業界は新製品などの開発のヒントになる科学的知見を自前で生み出しているわけではない。

資料:米国CHI研究所「The increasing linkage between U. S. technology and public science」(平成9年)

第1-1-1図 特許に引用される科学論文の件数は年々増加


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