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第3部   科学技術の振興に関して講じた施策
第3章  研究活動の推進
第2節  重要研究開発分野の推進
1.  基礎的・先導的な科学技術



(1) 物質・材料系科学技術

 物質・材料系の科学技術は,原子・分子レベル,あるいは強磁場,超高真空,超高圧等の極限環境における現象・機能の解明を通して新たな科学的知見を蓄積してきただけでなく,新材料が過去において,経済社会に及ぼした影響は極めて大きなものがあり,新超伝導体の発見にみられるように,新しい材料の出現が,新しい技術を開拓し関連技術にも質的変化をもたらし,経済フロンティアの拡大等活力ある豊かな国民生活の実現,安心して暮らせる潤いある社会の構築等に大きな貢献をしてきた。

 特に,近年,情報・電子,ライフサイエンス等の先端科学技術分野においては,未踏分野を切りひらく革新的な研究開発の多くは新たな材料にシーズを求めており,独創的な研究開発を推進し,科学技術創造立国をめざす上での共通的・基盤的技術として物質・材料系科学技術の重要性がより高まっている。

 また,現在推進されている超高速コンピュータ,核融合,宇宙開発,海洋開発等大規模なプロジェクトの推進に必要な新たな材料の研究開発の重要性が高まっており,これらのプロジェクトに適合する材料が求められている。

 このような状況から,新材料の創製が課題となっている。

{1} 総合的な物質・材料系科学技術の推進

 物質・材料系科学技術については,以上のような認識の下に,科学技術会議,航空・電子等技術審議会等の答申に沿って各般の物質・材料系科学技術施策が進められている。

 科学技術会議は,諮問第14号「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画について」(昭和61年5月)を受けて,本分野における研究開発目標及び推進方策に関する検討を行い,昭和62年8月に答申した。これを受け,政府は同年10月,「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画」を決定した。

 また,同会議は,第18号答申「新世紀に向けてとるべき科学技術の総合的基本方策について」(平成4年1月)を行い,この中で既成の限界を打破した高性能・新機能の物質・材料の開発等の必要性を指摘している。

 さらに,科学技術会議政策委員会研究開発基本計画等フォローアップ委員会(物質・材料系科学技術)が,平成9年6月に出した報告書においても,物質・材料系科学技術の研究開発の推進について,一層積極的な対応が図られることが期待されている。

 航空・電子等技術審議会においては,諮問第9号「新材料開発に係る計測及び制御技術の高度化のための重点課題及びその推進方策について」に対する答申(昭和61年3月)及び諮問第13号「環境条件に知的に応答し,機能を発現する能力を有する新物質・材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(平成元年11月),諮問第16号「材料開発に係わる解析・評価技術の高度化に関する総合的研究開発の推進について」に対する答申(平成3年11月),諮問第21号「原子・分子レベルの現象,機能の解明のための計算科学技術に関する総合的な研究開発の推進方策について」に対する答申(平成7年2月),諮問第23号「放射光施設の利用による先端的な物質・材料系研究開発に関する総合的な推進方策について」に対する答申(平成8年7月)などを行い,物質・材料系科学技術の総合的推進方策を示した。

{2} 物質・材料系研究開発の推進

 広範多岐にわたるニーズを背景として,各省庁において様々な物質・材料系科学技術に関する研究開発が活発に進められている。

 科学技術庁においては,物質・材料系科学技術全体に係る共通的・基盤的分野を推進するため,金属材料技術研究所において「新世紀構造材料の研究」等,無機材質研究所において「機能性スーパーダイヤモンド研究」等の研究開発を推進するとともに,創造科学技術推進制度(科学技術振興事業団),フロンティア研究システム(理化学研究所),科学技術振興調整費等各種制度により物質・材料系科学技術に関する研究を実施している。

 文部省においては,東北大学に附置されている共同利用研究所である金属材料研究所等を中心として,独創的・先端的な物質・材料研究を展開するとともに,研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として,大学等における独創性豊かな学術研究を推進すべく,物質・材料系科学技術の基礎的研究が行われている。

 農林水産省においては,「新需要創出のための生物機能の開発・利用技術の開発に関する総合研究」の一環として,バイオプラスチック,シルクレザー等の生物素材に係る研究開発を実施している。通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,「独創的高機能材料創製技術」,「シナジーセラミックス」等の研究開発が実施されている。

 また,物質・材料系科学技術水準の国際的向上を図るため,国際共同研究助成事業(NEDOグラント)により,国際共同研究チームが行う基礎的先導的研究開発を推進している。

{3} 超伝導に関する研究開発の推進

 1986年(昭和61年),スイスIBMチューリッヒ研究所における発見を契機として,昭和63年1月の科学技術庁金属材料技術研究所におけるビスマス系超伝導体の発見など,高い温度でも超伝導現象を生じる酸化物系の新しい超伝導物質が相次いで発見された。この新超伝導物質は,それらが実用化されれば経済社会に大きなインパクトを与えるものとして,世界的に大きな期待が寄せられている。しかしながら,これら酸化物系超伝導体はまだ材料以前の段階であり,実用材料として利用されるようになるためには今後,理論の解明,新物質の探索,材料化等の基礎的・基盤的研究開発が重要である。このような点にかんがみ,科学技術会議政策委員会の下に設けられた超電導に関する懇談会が昭和62年11月に取りまとめた「超電(伝)導研究開発の基本的推進方策について」等を踏まえ,関係省庁において本分野の研究開発が推進されている。

 科学技術庁においては,金属材料技術研究所,無機材質研究所,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,宇宙開発事業団,理化学研究所等が有するポテンシャルを最大限に活用し,研究基盤を整備するとともに,当該ポテンシャルを核として,国内外に開かれた研究者主体の柔軟な共同研究,研究者交流及び情報交換並びに技術展開を推進する「超伝導材料研究マルチコアプロジェクト」により,超伝導材料の基礎的・基盤的研究を推進している。

 文部省においては,科学研究費補助金等により基礎的研究が行われている。

 通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度等の諸制度を用い,(財)国際超電導産業技術研究センターを中心に産学官の連携の下に「超電導材料・超電導素子」の研究開発などを行っている。

 郵政省においては,通信総合研究所を中心に産学官の連携により推進している電気通信フロンティア研究開発の一環として,「超電導体による高速・高性能通信技術の研究開発」において,将来の高速・高性能通信技術の実現を目的とした超電導技術を用いた電気通信技術の研究開発を実施している。

 運輸省においては,将来の高速輸送を目的とする超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けて研究開発を促進するため(財)鉄道総合技術研究所への助成等を行っている。

{4} 物質・材料系科学技術の国際協力の推進

 1990年(平成2年)5月に日米科学技術協力協定に基づく協力課題となった「強磁界マグネットの開発のための研究」(金属材料技術研究所-米国国立科学財団(フランシスビッター国立磁石研究所))等の二国間国際協力や,「新材料と標準に関するヴェルサイユプロジェクト(VAMAS)」等の多国間科学技術協力などにより,数多くの共同研究,研究者交流などを推進している。

 また,標準の分野でも国際電気標準会議(IEC)に超電導専門委員会(TC90)が新設され,1990年(平成2年)から我が国が幹事国となった。

 なお,平成9年度に実施された主な物質・材料系科学技術分野の研究課題は 第3-3-1表 に示すとおりである。

第3-3-1表 主な物質・材料系科学技術分野の研究課題(平成9年度)



(2) 情報・電子系科学技術

{1} 情報・電子系科学技術の基本的推進方策等

 情報・電子系科学技術は,半導体やコンピュータ等の高度化・高機能化を通じて,経済や社会活動に大きな変革をもたらしてきており,高度情報通信社会への移行が本格化する中で,その果たす役割は,ますます重要になりつつある。これまで情報・電子系科学技術については,平成元年6月に内閣総理大臣決定された「情報・電子系科学技術に関する研究開発基本計画」に基づき,高速論理演算や大容量記憶のための各種素子,知識処理やあいまい性の処理等の情報処理の高機能化,多様な入出力形態の情報の効率的で正確な伝達,情報処理・伝送のヒューマンインタフェース等の研究開発が推進されている。

 また,21世紀に向けて,コンピュータとネットワークを中心とした情報科学技術は,豊かな国民生活の実現と新たな時代を拓く原動力として期待されており,大容量の情報を高速に伝送・処理する必要性がより一層高まってくることが考えられる。そこで,高性能なコンピュータとネットワークを駆使した新たな知のフロンティアをめざして,関係省庁の連携の下に,情報科学技術の高度化のための研究開発を推進するとともに,円滑な科学技術情報の流通体制を構築するため,平成9年7月に諮問第25号「未来を拓く情報科学技術の戦略的な推進方策の在り方について」が科学技術会議に諮問され,現在情報科学技術部会において審議が行われている。

{2} 重要研究開発課題

(1) 素子等

 高速画像処理,高速大容量情報伝送はもとより,高度なヒューマンインタフェースを実現するための,あるいは知的な情報の処理・伝達・蓄積等の発展につながる高速論理素子の研究開発及び大容量記憶素子の研究開発が不可欠である。

 具体的な研究課題としては,科学技術庁の理化学研究所による「フォトダイナミクス研究」や,通商産業省の産業科学技術研究開発制度による「量子化機能素子」の研究開発や電子技術総合研究所による「表面エレクトロニクスに関する研究」,郵政省の通信総合研究所等における電気通信フロンティア研究開発の一環としての「高度情報通信のための分子素子技術の研究開発」等がある。

(2) 情報の処理

 高速化,処理容量の増大とともに,情報が持っている意味レベルの内容の理解や,機能自らが推論・学習・判断するといった高度かつ高機能な情報処理の実用化が期待されている。このため,ハードウェアの高度化・高機能化だけでなく,ソフトウェアの高度化・高機能化や新しい概念に立ったアルゴリズムやプログラム言語,アーキテクチャーの研究開発,オープンシステム化の推進が急がれている。

 具体的な研究開発課題としては,科学技術庁の宇宙開発事業団等による「地球シミュレータの開発」,通商産業省によるリアル・ワールド・コンピューティング(RWC)といわれる「新情報処理技術開発」,産業科学技術研究開発制度による「新ソフトウェア構造化モデル」の研究開発や電子技術総合研究所による「柔軟な知能情報処理に関する研究」等が行われている。

(3) ヒューマンインタフェース

 本来,情報システムは人間の活動を支援し,豊かにするための道具であるが,現状ではどちらかといえば,人間側が大きな労力を費やして情報システム側に合わせることにより操作を行っている。今後,情報システムの能力を十分に活用していくためには,だれもが,それぞれの個性に応じて手軽に操作できる,人間を中心に考える立場に立った高度なヒューマンインタフェースの構築が必要不可欠となっている。このためには,人間の情報処理機能の解明をめざす認知科学や心理学に根ざした基礎的研究,創造性支援のための応用研究等が望まれている。

 この分野の研究として,郵政省では電気通信フロンティア研究開発の一環としての「インテリジェントヒューマンインタフェースの研究開発」等が行われている。

(4) 情報の伝達

 情報化社会の到来とともに通信への依存度が急速に増加しており,通信の高速化,大容量化,高度化に対する研究が強く望まれている。

 有線系伝送路については,コヒーレント光通信方式などの超大容量・長距離伝送用,無線系伝送路については,ミリ波から光領域にわたるより高い周波数領域用の発振器等の素子・部品・周辺回路,アンテナ,変調方式等の技術の研究開発が進められている。

 通信の高度化としては,さらに,多様な接続形態を実現させる柔軟なネットワーク,高度なニーズにこたえ様々なサービス機能を付加するインテリジェントネットワークの構築等が期待されている。

 この分野の研究として,通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度による「フェムト秒テクノロジー」の研究開発が,郵政省においては,電気通信フロンティア研究開発の一環としての「超多元・可塑的ネットワーク基礎技術の研究開発」等,情報通信基盤の基礎的・汎用的技術開発の一環としての「超高速ネットワーク技術の開発」,先導的研究開発の一環としての「高度三次元画像情報の通信技術に関する研究開発」や創造的情報通信技術開発推進制度として「光ネットワークにおける多重化及び多元接続技術に関する研究」等が進められている。

(5) 社会活動への適用技術

 (1)〜(4)の技術を人間社会へ適用させて,豊かで快適な生活の実現という観点から医療,教育,生産,芸術活動等を支援する技術についての研究開発が進められている。この分野の研究として,具体的には,通商産業省が生命工学工業技術研究所,物質工学工業技術研究所,大阪工業技術研究所などを中心にして産業科学技術研究開発制度により「人間感覚計測応用技術」の研究等を実施しており,今後さらにこの分野の研究開発の促進が期待される。郵政省においては,分散した研究開発機関をネットワークで接続しあたかも一つの研究所で共同作業を行っているような環境を実現する「マルチメディア・バーチャル・ラボの構築」のための研究開発が進められている。

{3} その他の取組

 学術審議会では,情報に関する研究の今後の推進方策について審議を行い,平成10年1月に中核的な研究機関の創設,人材の養成,研究費の充実等を提言した「情報学研究の推進方策について」を建議として取りまとめた。

 平成9年度に実施された主な情報・電子系科学技術分野の研究課題は 第3-3-2表 に示すとおりである。

第3-3-2表 主な情報・電子系科学技術分野の研究課題(平成9年度)


(3) ライフサイエンス

 ライフサイエンスは,生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明する科学であるとともに,その成果を保健医療,環境,農林水産業,産業等の種々の分野に応用することを目指すものであり,健康で豊かな国民生活の実現に大きく寄与するものと期待されている分野である。

{1} ライフサイエンス研究の基本的推進方策

 我が国においては,昭和46年,科学技術会議が第5号答申において,ライフサイエンス振興の重要性を指摘して以来,国として積極的に推進することとしており,平成9年8月13日には,今後10年程度を見通した我が国のライフサイエンス研究開発の在り方を示す,「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定されたところである。今後,我が国におけるライフサイエンスに関する研究開発は,本基本計画に基づいて推進することとしている。

 本基本計画は,我が国がライフサイエンス分野での世界の先駆者をめざすにあたって,我が国独自の戦略が必要であるとし,本分野において国として特に取り組むべき領域として,脳,がん,発生,生態系・生物圏に関する研究開発といった統合システムとしての生物に関する研究開発,及びゲノム等基礎的生体分子に関する研究開発を選定している。また,クローン個体の作製等,生命倫理に関する問題等についても考え方を示している。

{2} 脳科学研究の推進

 脳は,多くの可能性を秘めている21世紀に残された大きなフロンティアであり,脳科学研究は,その成果を通じて,人間の心の理解による社会生活の質の向上につながることが期待されるとともに,医学の向上,新技術・新産業の創出につながることが期待される分野である。平成8年3月の学術審議会バイオサイエンス部会報告が「大学等における脳研究の推進について」を決定しており,平成9年5月には,科学技術会議ライフサイエンス部会脳科学委員会が,我が国の脳科学研究推進に関する長期計画として,「脳に関する研究開発についての長期的な考え方」を決定している。

 こうした背景の下,平成9年度より,我が国における脳科学研究の大幅な強化が図られ,国内外の研究者のポテンシャルを結集して脳科学研究を計画的に推進するために,科学技術会ライフサイエンス部会脳科学委員会及び脳科学研究推進関係省庁連絡会の調整の下,省庁の枠を超えた多くの大学,国立試験研究機関の能力を最大限に活用して研究開発を進めている。

 具体的には,科学技術庁においては,平成9年11月,理化学研究所に我が国における脳科学研究を牽引する機関として「脳科学総合研究センター」を設置し,科学技術振興調整費及び科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進制度による省庁の枠を超えた公募型研究推進事業等が行われている。

 また,文部省においては,科学研究費補助金や未来開拓学術研究推進事業による本分野の基礎研究の重点的な推進を図るとともに,平成9年度には,中核的研究拠点形成プログラムの研究拠点として,新たに新潟大学脳研究所を指定する等,大学等における脳研究の拠点の整備に努めている。

 さらに,厚生省の精神・神経系機能研究や痴呆に関する研究,農林水産省における家畜の脳神経系機能研究,郵政省における知覚機構モデルによる知的情報処理の研究開発,等の研究が各省庁において実施されている。

 また,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)において,平成2年より脳機能研究への国際的枠組みによる研究助成が行われている。

{3} ゲノム関連研究

 生命機能の根源であるゲノム,遺伝子及びタンパク質の構造及び機能に関する研究は,その成果を通じて広範な領域における新技術・新産業の創出が見込まれる分野である。また,この分野の研究は諸外国も力を入れ始めており,我が国としても今後のさらなる取組の強化が期待されている。

 ゲノム研究は,ゲノムを構成するDNA塩基配列を解明し,生物のDNA構造・機能を解析し,生命現象の解明を行う研究であり,がん等各種疾病の原因解明・診断・治療,生物の進化のメカニズムの解明など,幅広いライフサイエンスの基盤となっている。

 科学技術庁においては,科学技術振興事業団における大規模なゲノム領域の塩基配列事業,国際的なヒト遺伝子地図情報のデータベースであるゲノムデータベース(GDB)の開発・導入,理化学研究所における遺伝子探索のための全遺伝子辞書作成のための研究,放射線医学総合研究所における放射線影響関遺伝子の解析等を実施している。文部省では,科学研究費補助金や未来開拓学術研究推進事業によりヒトゲノム解析研究の重点的支援を行うとともに,東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターをはじめとしたヒトゲノム解析の研究拠点の整備を図った。また,国立遺伝学研究所においては,国際DNAデータバンクの一員として,国内外の塩基配列情報の収集・提供を行うため,DDBJ(日本DNAデータバンク)の運営を行っている。厚生省では,老化・疾病に関連する遺伝子の解析を行っており,農林水産省では,農業生物資源研究所等を中心に,イネ,動物等を対象として,イネ白葉枯病抵抗性遺伝子等農業生産上有効な遺伝子の単離,DNA利用技術の開発及びその成果を体系的に収集・蓄積・提供するDNAバンク事業を実施している。特に,イネ・ゲノム解析においては,物理地図の作製が進んでいるほか,cDNAの大量解析を行い,その成果を公表し,国際的に広く活用されている。さらに通商産業省では,生命工学工業技術研究所,製品評価技術センターを中心に有用微生物のDNAに関する基礎的研究基盤の整備及びDNA解析・情報処理に関する技術の研究開発等を実施している。

 これまでの解析の推進の結果,ゲノム解析に対する様々な研究領域の研究者の関心及び理解が深まり,生物学的に重要な領域を対象とするDNA材料の整備とそのシークエンシング,cDNAの探索研究等において大きな進展がみられており,これらの成果を踏まえた遺伝子機能の推定等の研究開発の重要性が高まっている。

 タンパク質は,特異な立体構造(高次構造)を形成し,分子間相互作用,高次構造変化などを通じて機能を発揮することから,多数のタンパク質の立体構造を解明することにより,生命現象を明らかにすることが可能である。将来的にはゲノムの1次構造から,タンパク質の機能を推定することが可能となり,ゲノム解析の情報を最大限に活用できると期待されている。

 その結果,我が国における生物学等の基礎科学の進展のみでなく,効率的,合理的な新薬の開発,環境に優しい生産技術の開発等の幅広い分野への応用が期待されている。

 科学技術庁においては,理化学研究所において,タンパク質の構造解明に関する研究が行われたほか,通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,「機能性蛋白質集合体応用技術」,「複合糖質生産利用技術」等の研究開発が行われている。

{4} 生命倫理問題に関する取組

 平成9年2月,成体の体細胞の核移植によるクローン羊の作製が初めて成功したことが発表されたことを契機に,ヒトのクローン作製の可能性を視野に入れて,ライフサイエンスの研究開発と生命倫理の問題との関わりについての議論が国際的な広がりを持ち,同年6月のデンバー・サミット・コミュニケや同年11月のユネスコ総会で採択された「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」等において言及された。

 我が国においては,平成9年3月に科学技術会議政策委員会が,当面の措置として,ヒトのクローン個体の作製のための研究については研究費の配分を差し控えることが適切である旨決定し,これを受けて関係省庁が資金配分を停止する措置をとっている。その後,同年8月に内閣総理大臣決定された「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」において,本問題に関する基本的な方向性が示され,畜産動物等の動物のクローン個体の作製や個体を産み出さないヒト細胞の培養等は情報の公開を行いつつ適宜推進するべきとする一方で,ヒトのクローン個体の作製については,社会的に容認されていないこと,科学面,安全面の知見の蓄積が不十分であること,人間の本質に関わる種々の問題を内包している等の理由から,これを実施しないこととすべきであるとし,このための研究資金の配分差し控えを当面継続するとともに,法的規制の必要性等具体的な方策について,国際動向等に留意しつつ議論を尽くしていくべきであるとした。これを受けて同年10月には科学技術会議に生命倫理委員会(森亘委員長)が設置され,同委員会に設置されたクローン小委員会において具体的な方策についての検討を開始したところである。

 また,学術審議会では,平成9年4月以降,バイオサイエンス部会において,大学等におけるクローン研究の指針の在り方等について検討を開始しており,平成10年1月には,その中間報告を取りまとめた。

{5} 組換えDNA研究の推進

 組換えDNA研究は,基礎生物科学的な研究はもとより,疾病の原因の解明,医薬品の量産,有用微生物の開発,農作物の育種等広範な分野において人類の福祉に貢献するものである。他方,組換えDNA実験は,生物に新しい性質を持たせるという側面があるため,その実施に当たっては慎重な対応が必要である。科学技術会議は昭和54年,第8号答申「遺伝子組換え研究の推進方策の基本について」において,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針を提示した。これを受けて同年,内閣総理大臣により「組換えDNA実験指針」が定められ,我が国でも様々な分野において組換えDNA実験が実施されるようになった。その後の科学的知見の増大に伴い,指針は逐次改訂されている。本指針の下で行われる研究は年々増加する傾向にあり,今後とも安全性を確保しつつ科学的知見の増大等に応じて指針の見直しを行っていくこととしている。

 一方,文部省においては,昭和53年に学術審議会がこの分野の研究者の自主的意見を踏まえて,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針案を作成し,これに基づき,昭和54年に指針を告示した。その後,安全性に関する知見の蓄積に伴い,逐次指針の見直しを行っており,平成10年3月にも,研究の進展に基づく最新の知見を反映すべく,9度目の指針の改定に関する報告が,学術審議会の専門委員会より公表された。

 また,組換えDNA技術の産業化段階における利用は,これまでOECDを中心に安全性評価についての国際的な概念づくりが進められ,こうした流れに沿って我が国においても厚生省,農林水産省及び通商産業省がそれぞれの分野について作成した指針に基づくこととされており,産業レベルでの組換えDNA技術の応用に対応している。これらの産業利用に係る指針も,科学的知見の集積に伴い,逐次改訂されてきている。さらに組換えDNA技術の利用に当たって,OECDや生物多様性条約の締約国間で国際的調和を図るための検討が進められている。

 遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与し疾患を治療する遺伝子治療臨床研究については,厚生省においては,平成5年4月に厚生科学会議でガイドラインを定め,平成6年2月には指針を告示した。他方,文部省においても,大学等における遺伝子治療の臨床研究についてその適切な実施を確保するため,平成6年6月には大学等における遺伝子治療臨床研究についてのガイドラインを告示している。

 現在,平成7年8月に開始された北海道大学のADA(アデノシン・デアミナーゼ)欠損症の遺伝子治療臨床研究が実施されているほか,さらに,国内2・3例目の遺伝子治療として,東京大学の腎細胞がん及び岡山大学の肺がんに対する遺伝子治療臨床計画が文部・厚生両大臣に対し,申請されている。

 米国での遺伝子治療の臨床研究の大部分は,企業が遺伝子治療用医薬品等の承認申請をめざして臨床試験として行われている。

 日本においても遺伝子治療用医薬品の臨床試験が行われる可能性が出てきたため,厚生省においては,平成7年11月15日に「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性確保に関する指針」を通知した。

 平成9年度に実施されたライフサイエンス研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-3-3表 のとおりである。

第3-3-3表 主なライフサイエンス分野の研究課題(平成9年度)



(4) ソフト系科学技術

{1} 研究開発基本計画の決定

 複雑化・高度化した社会において人間の知的活動の支援が求められ,また,モノ重視の大量生産・消費社会から脱皮し,ゆとりや豊かさを実感できる質の高い生活が求められている現在,科学技術の在り方は大きな転換期を迎えており,「人間や社会」の観点の重視が必須となっている。

 このような時代背景にこたえるものとして,平成4年12月に科学技術会議諮問第19号「ソフト系科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申が出され,平成5年1月にソフト系科学技術に関する基本計画として内閣総理大臣決定された。

 研究開発基本計画においては,ソフト系科学技術を「人間・社会,ハードウェアといった実体的対象の能力や機能を発揮させ,その最も有効な利用・運用を図るための科学技術」,言い替えれば,人間・社会に関する知見を基盤として,ハードウェアはいかに構成されるべきか,いかに動かすべきか,また,人間の知的能力や社会の活動能力をいかに支援し活性化していくかについて考えていく科学技術体系ととらえ,その推進にあたっての重要研究開発課題,研究開発の推進方策を示している。

 また,関連する報告として科学技術庁長官の諮問機関である資源調査会においても,平成4年7月に知的技術(人間の知的活動を支援又は代替する技術)について,その重要性,現状と将来展望及び今後の発展のための方策が取りまとめられている(報告第115号)。

{2} 研究開発の推進

 ソフト系科学技術の分野はまだ揺籃期にあるため,総合的推進施策等を検討するため,産学官の関係者及び人文・社会系も含めた有識者から構成されるソフト系科学技術推進会議を開催し,研究者側と成果の利用者側が一体となって,我が国のソフト系科学技術に関する研究開発の在り方,推進方策,実社会からのフィードバックの在り方等について検討し,コンセンサスの形成を図ることとしている。

{3} 研究開発の現状

 ソフト系科学技術は,今後の科学技術に新たなブレークスルーをもたらす基礎的・先導的科学技術として,また,人文・社会科学と自然科学を融合した新しい総合的科学技術として重要な役割を果たすと期待され,近年,ソフト系科学技術に関連した研究機関や大学の学科の整備が進み,研究開発活動等の取組が活発化してきている。

 平成9年度に実施された主なソフト系科学技術の研究課題は 第3-3-4表 に示すとおりである。

第3-3-4表 主なソフト系科学技術分野の研究課題(平成9年度)


(5) 先端的基盤科学技術

 各分野の科学技術の発展に伴い科学技術が複雑化する中で,異なる分野の間で共通的に利用できる基盤となり,また,それらの分野を一層発展させる鍵となる技術の重要性が認識されてきた。例えば,極微小な物質を高精度で計測・操作する技術,リアルタイム・多次元の観測・表示技術等の計測・分析技術の推進が重要となっている。

{1} 先端的基盤科学技術の基本的推進方策等

 これらの先端的な基盤科学技術は,異分野科学技術の相互乗り入れを促進し,新しい応用分野の開拓や従来の発想では困難であった課題に対してのブレークスルーを提供することが期待されている。

 このような状況を踏まえ,先端的基盤科学技術の研究開発を計画的に推進するため,内閣総理大臣から科学技術会議に対して,諮問第21号「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画について」が諮問され,科学技術会議は平成6年12月12日に答申を行い,これをもとに同年12月27日に「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定された。

{2} 重要研究開発課題

 上記のような推進方策の下,先端的基盤科学技術として,例えば,微小要素デバイス技術,微小制御技術,微小設計技術等を総合したマイクロエンジニアリング技術など,既存の分野の科学技術を結合した新しいタイプの基盤科学技術も発達してきている。

 さらに,地球環境への影響の少ない永続的な生産活動,複雑な機械でも無理なく操作できるシステム,高齢化に対応した機械システムの構築技術など,自然環境との調和,人間・社会との調和など人類の活動を取り巻く複雑な問題を解決するための,様々な技術領域を融合して問題を解決するための基盤技術が重要となっている。

 具体的には,科学技術振興調整費により,「極限量子センシング技術の開発及びその利用のための基盤技術開発」や「3次元電子顕微鏡の研究開発」が,通商産業省の産業科学技術研究開発制度による産業技術融合領域研究所を中心とした「原子・分子極限操作技術(アトムテクノロジー)」の研究開発や機械技術研究所を中心とした「マイクロマシン技術」の研究開発をはじめ,電子技術総合研究所による「量子効果を利用した計測・標準に関する研究」,物質工学工業技術研究所による「特異的作用場を利用した高感度計測技術に関する研究」が行われている。

 また,平成9年度に実施された主な先端的基盤科学技術分野の研究課題は 第3-3-5表 に示すとおりである。

第3-3-5表 主な先端的基盤科学技術分野の研究課題(平成9年度)


(6) 宇宙科学技術

{1} 宇宙開発

 宇宙開発は,地球環境問題等の解決(オゾン層観測,熱帯雨林の状況把握等),質の高い豊かな生活の実現(通信・放送,気象観測等),将来の新技術・新産業の創出(材料,エレクトロニクス等)等に貢献するものとして,極めて重要なものである。

 我が国は,昭和45年に人工衛星「おおすみ」の打上げに成功して以来,平成9年12月末までに64個の人工衛星を打ち上げており,米国,旧ソ連に次ぐ世界第三の人工衛星打上げ国となっている。今後の我が国の人工衛星の打上げ計画は 第3-3-6表 に示すとおりである。

第3-3-6表 我が国の人工衛星等の打上げ計画


 我が国の宇宙開発は,宇宙開発委員会が定めた宇宙開発政策大綱及び,それに沿って具体的内容を定めた宇宙開発計画に従い,宇宙開発事業団,文部省宇宙科学研究所を中心とする関係各機関の協力の下に,総合的かつ計画的に推進されている。

 宇宙開発政策大綱は,昭和53年に策定され,その後昭和59年及び平成元年に改訂されてきたが,国際水準の宇宙開発能力の達成,世界の宇宙開発における民生利用や国際協力の重視,科学技術基本法の制定といった情勢変化を受け,平成8年1月に3度目の改訂が行われた。新大綱では,これまでの技術基盤確立を主眼とした宇宙開発を一歩進め,本格的宇宙利用時代の実現への新たな展開をめざしたものとなっており,地球観測,宇宙科学,宇宙環境利用活動等の充実に取り組むこと,新たな分野として月探査等に取り組むこと,社会の動向を的確に反映し,また,国民の理解と協力を得るため,広報活動の強化等に取り組むことを挙げている。

(1) 地球観測・地球科学

 静止気象衛星「ひまわり4号」の後継機として,平成7年3月に「ひまわり5号」を打ち上げ,現在運用中である。また,その後継の気象ミッション機能に併せて航空管制業務のための機能を持つ運輸多目的衛星をH-IIロケット8号機により平成11年度に打ち上げる計画である。

 また,能動型観測技術の確立を図るとともに,資源探査,国土調査,農林漁業等のための観測を行うことを目的として,平成4年2月に打ち上げた地球資源衛星1号「ふよう1号」を運用中である。さらに,地球環境のグローバルな変化の監視,地球観測分野における国際協力の推進を図ること等を目的として,平成8年8月,種子島宇宙センターからH-IIロケット4号機により地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)「みどり」の打上げに成功したが,平成9年6月に太陽電池パドルの故障により機能を停止した。これについては,宇宙開発委員会技術評価部会を中心に原因究明が行われ,平成9年10月1日に部会報告書が宇宙開発委員会において報告・了承された。同報告書によると,機能停止の原因として,太陽電池パドルの膜面で使われている接着剤が低温下で予測以上の収縮をしたのに対し,膜面の張力を調整する機構の低温側の動作範囲が小さく設定されていたため,膜面が破断したものと推定している。この原因究明の結果を踏まえ,故障箇所について「みどり」と同様の構造をした太陽電池パドルを持つ通信放送技術衛星(COMETS)「かけはし」については,打ち上げ前に同部分について再チェックが行われるとともに,パドル等を撮影するためのカメラが搭載され,また,「みどり」の後継衛星である環境観測技術衛星(ADEOS-II)についても,低温下での接着剤の影響等を含め対策を講じることとしている。平成9年11月には,全地球的規模のエネルギー収支のメカニズム解明等に不可欠な熱帯降雨の観測等を行うことを目的とし,日米共同開発による熱帯降雨観測衛星(TRMM)が,H-IIロケット6号機により打ち上げられた(技術試験衛星VII型(ETS-VII)と同時打ち上げ。)。TRMMには,郵政省通信総合研究所及び宇宙開発事業団が開発した降雨レーダが搭載されており,現在観測を行っている。

 ほかに,「みどり」の広域地球観測技術の継承,発展等を図ることを目的とする環境観測技術衛星(ADEOS-II)の開発,並びに,地図作成,地域観測,災害状況把握,資源探査等への貢献を図ることを目的とする陸域観測技術衛星(ALOS)の開発研究等を進めている。

(2) 宇宙科学

 科学の分野においては,文部省宇宙科学研究所が中心となり,全国の大学等の研究者の参加の下に,科学衛星を打ち上げており,近年においては,超長基線干渉計(VLBI)衛星として大型精密展開構造機構等の研究及び電波天文観測の実施を目的とする第16号科学衛星(MUSES-B)「はるか」を打ち上げ,国内及び国外の天文台等とネットワークを結び,クェーサー等の天文観測を行っている。

 また,月内部の地殻構造及び熱的構造の解明を目的とする第17号科学衛星(LUNAR-A),火星大気の構造及び運動並びに太陽風との相互作用の研究を目的とする第18号科学衛星(PLANET-B),活動銀河核などからのX線の観測を目的とする第19号科学衛星(ASTRO-E),小惑星等から岩石等のサンプルを採取し,地球に持ち帰るミッションの工学的実験を行う第20号科学衛星(MUSES-C),宇宙初期の原始銀河等の解明のための長波長電磁波(遠赤外線)による観測を行う第21号科学衛星(ASTRO-F)の開発等を進めている。

(3) 通信・放送・測位等

 通信衛星については,「さくら」の開発が行われてきたが,平成9年10月に「さくら3号-b」の運用を停止し,一連の「さくら」の開発は終了した。

 放送衛星については,「ゆり」の開発が行われて,現在,平成2年8月に打ち上げられた放送衛星3号-a「ゆり3号-a」及び,平成3年8月に打ち上げられた放送衛星3号-b「ゆり3号-b」を運用中である。

 また,平成10年2月には,高度移動体衛星通信技術,衛星間通信技術及び高度衛星放送技術の通信放送分野の新技術,多周波数帯インテグレーション技術並びに大型静止衛星の高性能化技術の開発及びそれらの実験・実証を行うことを目的とする通信放送技術衛星(COMETS)「かけはし」のH-IIロケット5号機による打上げが行われたが,H-IIロケット第2段エンジンの早期燃焼停止により,「かけはし」の静止軌道投入に失敗した。その後,宇宙開発委員会技術評価部会及び宇宙開発事業団で事故原因の究明が行われるとともに,同事業団においては,衛星に搭載されている燃料を用いて軌道変更を数回行い,「かけはし」で可能な限りの通信・放送実験を実施し,将来の技術開発に有益なデータを最大限得ることとしている。

(4) 宇宙環境利用の促進

 宇宙環境は,微小重力,高真空等の地上では容易に得ることのできない特徴を有している。微小重力下で物質科学やライフサイエンス等の実験を行う効果として,{1}沈降や対流がないため,高品質・高精度の物質精製が可能,{2}流体の容器をなくせるため,不純物が混ざらない,{3}生体におよぼす重力の影響が確認できる,などが挙げられる。また,宇宙の高真空場により,{1}不純ガスの混入がない,{2}広大な真空場が実現される,などの効果が期待される。今後,宇宙環境を利用した極めて広範な分野にわたる研究や実験,観測等を進めていくことにより,例えば,地球上の環境に隠されていた現象の発見や解明など新たな科学技術の展開をもたらす研究が可能となるほか,地球上で進化してきた生命体と重力等の地球環境との関係を問い直し,生命現象を解明し,宇宙スケールで生命の可能性を探求する研究も可能となる。さらに,新材料や医薬品の創製,新たな生産技術や医療法の開発,地球環境保全につながる技術の獲得など,社会の発展や生活の向上に寄与する研究開発が一層推進されることが期待される。

 宇宙開発委員会では,平成7年9月に宇宙環境利用部会を設置し,宇宙ステーション利用を中心とする宇宙環境利用の本格化に向けて速やかに対処すべきものについて調査審議を実施し,平成8年7月に報告書「宇宙環境利用の新たな展開に向けて-宇宙環境利用の当面の推進方策-」を取りまとめた。また,平成9年12月には宇宙環境利用部会に応用化研究利用分科会を設置し,国際宇宙ステーションの建設開始を目前に控えて宇宙環境利用の可能性の幅を更に広げ,科学技術分野の基礎研究に限らず様々な分野からの利用希望者が有効利用できるような方策の検討を進めている。

 宇宙開発事業団では,平成8年9月,平成9年5月及び平成10年1月に米国のスペースシャトルに実時間放射線モニタ装置(RRMD)を搭載し,将来の国際宇宙ステーションにおける宇宙放射線対策に資する宇宙放射線環境計測実験を実施したほか,国際宇宙ステーションの日本の実験棟「JEM(ジェム)」での各種実験に必要な宇宙実験技術の高度化,JEM共通実験装置の要素技術の開発に資することを目的として,平成9年9月に小型ロケット(TR-IA6号機)を利用した宇宙環境利用実験を実施した。また,平成8年10月から,JEM曝露(ばくろ)部の初期利用を目的として,初期利用テーマ・実験装置候補の公募を行い,平成9年4月に4テーマを選定した。さらに,宇宙開発事業団において,広範な分野の研究者の参加を得て,将来におけるJEMでの宇宙実験の創出に資することを目的として,平成9年度より「宇宙環境利用に関する地上研究公募」を行い,研究テーマを選定,研究を開始した。

 通商産業省においては,宇宙環境の産業利用促進を図ることを目的として,次世代型無人宇宙実験システム適合型宇宙環境利用実験装置(USERS)の開発研究を進めている。

(5) 人工衛星の基盤技術

 人工衛星の共通技術の開発を行う衛星としては,技術試験衛星「きく」が開発されており,平成9年11月には,ランデブ・ドッキング技術や宇宙用ロボット開発の基礎となる遠隔操作技術等を,これまでの要素技術に関する研究成果を踏まえて軌道上実験等の実施により確立するとともに,宇宙用ロボットに関して先行的な実験を実施することを目的とする技術試験衛星VII型(ETS-VII)「おりひめ/ひこぼし」(きく7号)のH-IIロケット6号機による打上げが成功した。

 また,大型衛星バス技術,大型展開アンテナ技術,移動体衛星通信システム技術,移動体マルチメディア衛星放送システム技術及び高精度時刻基準装置を用いた測位等に係わる基盤技術の開発並びにそれらの実験・実証を行うことを目的とする技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)の開発研究を進めている。

(6) 宇宙インフラストラクチャー

(イ)M系ロケット

 科学衛星打上げのため,L(ラムダ)ロケットの開発を経てM(ミュー)ロケットが開発された。M系ロケットは,全段に固体推進薬を用いたロケットで,低軌道へ約1.8トンの打上げ能力を有するM-Vロケットの開発が進められ,平成9年2月に1号機の打上げが成功した。

(ロ)H-IIロケット

 静止衛星等の人工衛星の打上げのため,N系ロケット,H-Iロケットの開発を経て,1990年代における大型人工衛星の打上げ需要に対処するために開発された,2トン程度の静止衛星を打ち上げる能力を有する2段式のH-IIロケットは,第1段,第2段ともに液体酸素・液体水素エンジンを採用した大型のロケットであり,平成6年2月に試験機1号機,同8月に試験機2号機,平成7年3月に試験機3号機,平成8年8月に4号機,平成9年11月に6号機の打上げにそれぞれ成功した。平成10年2月の5号機の打上げについては,第2段エンジンの早期燃焼停止により失敗した。これについては,宇宙開発委員会技術評価部会及び宇宙開発事業団において徹底した事故原因の究明が行われ,その結果を今後のロケット開発,打上げなどに確実に反映し,対策を講じていくこととしている。

 また,効率的な宇宙開発のため,輸送需要に柔軟に対応でき,大幅な打上げコストの低減が可能なH-IIAロケットの開発を現在進めている。

 なお,平成8年11月には,我が国の民間企業が,2000年以降の同ロケットによる海外の20数機の商業衛星の打上げを受注している( 第3-3-7表 )。

第3-3-7表 我が国の主な人工衛星打上げ用ロケットの主要諸元

(ハ)宇宙往還技術試験機

宇宙ステーション等への物資の輸送,回収などを可能とする無人有翼往還機の主要な技術の早期確立を目的とする宇宙往還技術試験機(HOPE-X)について,平成12年度にH-IIロケットにより打ち上げることを目標として開発を進めている。

(ニ)OICETS(光衛星間通信実験衛星)

 衛星間通信システムに有効な光通信技術について,欧州宇宙機関(ESA)との国際協力により,同機関の静止衛星ARTEMISとの間で捕捉(ほそく)追尾を中心とした要素技術の軌道上実験を行うことを目的とする光衛星間通信実験衛星(OICETS)の開発を進めている。

(ホ)DRTS-W, E(データ中継技術衛星)

 地球観測衛星や国際宇宙ステーションの日本の実験棟(JEM)等を用いたデータ中継実験を行うことにより,通信放送技術衛星(COMETS)のデータ中継機能を発展させ,より高度な衛星間通信技術の蓄積を図ること等を目的とするデータ中継技術衛星(DRTS-W, E)2機の開発を進めている。

(7) 人工衛星,ロケット等の技術に関する基礎的・先行的研究

 科学技術庁航空宇宙技術研究所をはじめ各機関において,人工衛星やロケットの技術に関する基礎的な研究,また,無人有翼往還機や,スペースプレーン等の先行的研究を進めている。

(8) 宇宙開発分野の国際交流

 冷戦構造の崩壊に伴う米国,ロシアの協調の動きや,地球環境問題の深刻化に伴う地球観測衛星等による宇宙からの観測の重要性の増大を背景に,近年,宇宙分野における世界各国の協力の必要性が従来にも増して拡大している。

 このような中,1994年(平成6年)9月に行われた国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)宇宙利用大臣級会合において開始が決定された「持続可能な発展のための地域宇宙応用プログラム(RESAP)」の運営のために,1997年(平成9年)5月に,第3回政府間諮問委員会が開催され,我が国もこれに参加している。RESAPの下では,{1}リモートセンシング・GIS・GPS {2}気象衛星応用・自然災害の監視 {3}衛星通信応用 {4}宇宙科学・技術応用の4つの作業部会が設けられ,個々のプロジェクトごとに検討が行われている。

 さらに,我が国は,宇宙空間の探査及び利用に係る国際的秩序の確立,国際協力の促進等について審議を行っている国連宇宙空間平和利用委員会への参加や,今後のアジア太平洋地域における宇宙開発に関する国際協力の在り方について意見交換を行うアジア太平洋宇宙機関会議(APRSAF)の開催等の多国間協力を行っている。

 また二国間協力について,米国との間では,従来より情報交換・意見交換を行うために開催されていた日米常設幹部連絡会議(SSLG:Standing Senior Liaison Group)をより機動的なものとするための調整を行っているほか,1995年(平成7年)7月に締結された日米宇宙損害協定に基づき,日米間の特定の宇宙協力活動に際して生じた損害賠償請求権を相互に放棄することをあらかじめ約束することにより,日米間の宇宙協力活動を円滑に実施している。さらに欧州(欧州宇宙機関:ESA)との間においても,年次的に開催している日・ESA行政官会議が1997年(平成9年)7月に22回目を数えるなど,密接な協力関係を継続している。また,ロシアとの間でも,1993年(平成5年)10月のエリツィン・ロシア大統領訪日に際し締結された日ロ宇宙協力協定に基づき協力を推進することとしている。

{2} 航空技術

 航空技術は知識集約性,技術先端性が高いため,その開発は単に航空輸送の発展をもたらすのみならず,他の分野への波及効果も高く,我が国が今後とも科学技術創造立国をめざして発展していく上で大きな役割を果たすものである。

 我が国では,これまで民間輸送機YS-11等の自主開発,ボーイング767等の国際共同開発並びに民間航空機用ジェットエンジンV2500の国際共同開発を実施することにより技術を蓄積し,国際的な舞台で活躍する技術水準までに成長してきている。民間航空機においては,国際共同による開発方式が今後ますます世界の主流を占める傾向にあり,現在我が国では,新型双発民間航空機ボーイング777の国際共同開発に参加しているほか,小型民間航空機YSX及び次世代の民間超音速輸送機開発の調査を実施している。

 今後の航空機及び航空機エンジンの開発をさらに積極的に推進していくためには,技術水準の一層の向上を図る必要がある。このため,航空・電子等技術審議会の建議や答申に沿って,航空技術研究開発の推進を図るための施策が講じられている。最近では本審議会によって,「航空技術の長期的研究開発の推進方策について」(諮問第18号)に対する答申が平成6年6月に行われた。

 科学技術庁航空宇宙技術研究所においては,我が国の将来の航空機開発に必要となる技術の確立をめざした研究が進められており,特に,次世代超音速機技術として重要なCFD空力設計技術等の確立を目指して,小型超音速実験機の開発・飛行試験を中核とした研究開発を推進している。このほか,航空安全及び環境適合性技術に関する研究並びに電子計算機による数値シミュレーション等の基礎技術の研究を進めるとともに,各種風洞,エンジン試験設備等の大型試験研究設備を整備し,関係機関の共用に供し,我が国の航空技術の発展を図る上で主導的な役割を果たしている。

 運輸省電子航法研究所においては,航法・管制に関する技術について,航空交通の安全性を向上させるための研究等を実施しており,これらの研究は今後の航空輸送の発展を図る上で重要なものとして期待されている。

 通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,低速からマッハ5程度までの広範な速度域において高い信頼性等を有する「超音速輸送機用推進システム」の研究開発を行っている。この研究開発には欧米の航空機エンジンメーカーも参加している。


(7) 海洋科学技術

 海洋は生物資源や鉱物資源等,膨大な資源を包蔵するとともに広大な空間を有しており,その開発利用は国土が狭小であり四方を海に囲まれた我が国にとって重要な課題である。さらに,海洋は地球環境変動に大きなかかわりを有するとともに,海洋底プレートの動きは地震や火山活動の大きな要因と考えられていることから,その実態解明は急務となっている。このような背景の下,1990年代に入り,海洋の諸現象を全地球規模で総合的に観測・研究するためのシステム構築をめざした世界海洋観測システム(GOOS)計画が,国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)によって提唱され,1992年(平成4年)6月ブラジルで開催された国連環境開発会議(UNCED:地球サミット)で採択されたアジェンダ21においても,同計画の推進が盛り込まれている。今後,これら国際的な動向を踏まえ,地球環境問題に関連する海洋調査研究などの海洋科学技術に関する研究開発の推進が不可欠である。

{1} 海洋科学技術の基本的推進方策等

 海洋科学技術に関する研究開発を進めるにあたっての基本的考え方は,内閣総理大臣の諮問機関であり,海洋開発に関する基本的かつ総合的事項について調査審議を行う海洋開発審議会の答申に示されている。同審議会は,諮問「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」に対する平成2年5月の答申において,今後の海洋科学技術の推進に関する基本的考え方として,

・地球的規模の環境変動の究明と海洋の実態解明のための海洋調査・技術開発の推進
・海洋に存する厳しい条件を克服し,新たな海洋開発の可能性を探究するための科学技術の推進

等の重要性を指摘している。

 また,同審議会は諮問「海洋調査研究の展開とそれに関連する技術開発・基盤整備等我が国の海洋調査研究の推進方策について」に対する平成5年12月の答申において,地球環境問題に対応した海洋調査研究の推進方策に関して,

・大型海洋観測研究船の整備等海洋調査研究基盤の充実
・地球規模の海洋調査研究の計画的な推進

等の重要性を指摘している。

 我が国の海洋科学技術は,この海洋開発審議会の答申を尊重しつつ,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。各省庁における海洋科学技術に関する具体的施策は,海洋開発を総合的に推進するために関係省庁が緊密な連絡を図る場である海洋開発関係省庁連絡会議が毎年取りまとめる海洋開発推進計画に沿って実施されている。

 平成9年5月には,海洋開発審議会に基本問題懇談会が設置され,2000年以降の長期的な海洋開発推進方策を展望することを目的として,海洋開発の現状の問題点の整理等が行われている。

 また,地球規模の海洋の諸現象を解明するため,関係省庁・大学等の連携の下,世界海洋観測システム(GOOS)計画等の国際的な海洋調査研究プログラムに積極的に参加し,さらに,我が国の主導により中国,韓国,ロシアと協力して,GOOSの地域プロジェクトである北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)を推進している。

{2} 海洋科学技術に関する研究開発の推進

 科学技術庁では,海洋科学技術センターが中心となって海洋科学技術に関する先導的・基盤的な研究開発を進めるとともに,関係各省庁・大学等の協力の下,総合的なプロジェクトを推進している。

 このうち,海洋科学技術センターでは,地震発生機構の解明に関連する海底地形,深海微生物等の生態等の調査のために必要な深海調査技術の研究開発を行うとともに,深海の調査研究を実施している。平成9年度には,深海調査研究船「かいれい」,有人潜水調査船「しんかい2000」,「しんかい6500」,無人探査機「ドルフィン-3K」等による深海調査研究活動を推進するとともに,無人探査機「かいこう」の慣熟訓練を実施した。また,地球環境の変遷の解明をめざす深海掘削船システムの開発研究や海底変動現象を連続的に観測する「海底地震総合観測システム」の開発・整備等を行っている。

 海洋観測研究については,海洋の実態解明を進めるため,太平洋熱帯域や北極海域等において総合的な観測研究の実施,海洋レーザーや音響トモグラフィー等の観測技術の開発を行うとともに,地球変動の解明とその正確な予測の実現に向け,地球フロンティア研究システムを創設した。また,海洋地球研究船「みらい」の運航開始に伴い,「みらい」利用計画を定めるとともに,各種海洋観測研究業務の支援体制を整備した。さらに,沿岸域の適切な管理と開発に資するため,波力利用技術の研究開発や各地域における自治体との共同研究開発事業等を推進した。

 一方,関係省庁や大学の間における総合的な連携・協力の下に,我が国及び東アジア地域の水産,気象等に大きな影響を与えている黒潮の変動メカニズムの解明等を行うための海洋開発及地球科学技術調査促進費による黒潮の開発利用調査研究,科学技術振興調整費による北太平洋亜寒帯循環と気候変動に関する国際共同研究等を推進している。

 平成9年1月2日に日本海で沈没したロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」の流出油災害では,直後に海洋地球技術センターが深海観測装置「ディープ・トウ」及び深海探査機「ドルフィン-3K」を用いたナホトカ号の沈没部の潜水調査を実施し,その調査データは沈没船尾部の残存油対策や事故原因の究明の検討に貢献した。また,災害から約1年を経た平成10年3月にも同センターは,「ドルフィン-3K」を用いて沈没船尾部状況の再調査を実施し,船体の姿勢・形状について特段の変化がないこと,油の漏出量が減少していることを確認した。

 平成9年12月,戦時中に鹿児島県悪石島西方海域で沈没した学童疎開船「対馬丸」の沈没地点を確認するため,海洋科学技術センターは深海探査機「かいこう」及び「ドルフィン-3K」等を用いた調査を実施した。この調査で「対馬丸」の船体を確認した。

 文部省では,平成9年度には,東京大学海洋研究所等が中心となって,海洋環境の変動の解明・予測,保全のための総合的観測システム構築を目的とする世界海洋観測システム(GOOS)に関する基礎研究,深海底を掘削し,海洋底プレート運動・構造等の解明に資する国際深海掘削計画(ODP)及び西太平洋海域共同調査への参加,海洋の物質循環の解明に資するオーシャンフラックス研究等の海洋に関する学術研究を引き続き行っている。

 また,NEAR-GOOSについては,気象庁,海上保安庁等と協力し,日本海域を中心とした海洋データの交換を促進するためのシステムの運用を開始しており,海洋研究の一層の推進が図られている。

 農林水産省では,平成9年度には,水産関係試験研究機関が中心となって,新技術導入・水産資源の特性の把握等を通じた漁業生産の合理化と資源の持続的利用,養殖業・栽培漁業等つくり育てる漁業の推進,漁場環境の保全,水産物の多面的高度利用のための研究開発等を引き続き行っている。

 通商産業省では,金属鉱業事業団,石油公団,地質調査所,資源環境技術総合研究所等が中心となって,海底鉱物資源の開発と環境影響予測,海底地質の調査等を引き続き行っている。

 運輸省では,平成9年度には,民間機関が行う超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の研究開発の補助,全国港湾海洋波浪情報網の充実等を行うとともに,海上保安庁において水路業務運営のための海象観測,深層海洋における物質の拡散に関する研究等を,気象庁において気象業務推進のための海洋気象観測やエルニーニョ現象の解明等,海洋気象現象の把握及び気候変動の監視・予測に関する調査・研究等を引き続き行っている。

 郵政省では,通信総合研究所において,海洋油汚染・海流・波浪などの計測技術及び予測技術を確立するための高分解能3次元マイクロ波映像レーダの研究等を行っている。

 建設省では,土木研究所において非均衡状態の海浜過程に関する研究等を実施している。また,国土地理院において,沿岸海域基礎調査等を行っている。

 なお,海洋開発推進計画に基づき関係省庁が平成9年度に実施した主な海洋科学技術分野の研究開発の課題は, 第3-3-8表 のとおりである。

第3-3-8表 主な海洋科学技術分野の研究課題(平成9年度)



(8) 地球科学技術

 近年の人工衛星を用いたリモートセンシング技術等の観測技術の発達や,スーパーコンピュータによる数値シミュレーション技術の発達は,地球に関する科学技術の研究に進歩をもたらすこととなった。また,人類の長年にわたる地球に対する探求を通じ,近年,地球及び地球の諸現象に関する知見の蓄積が気圏,水圏,地圏及び生物圏の各分野において急速に進んでおり,地球を一つのシステムとして把握することが可能な段階になっている。このため,これらの成果を地球の諸現象の予測や人類の持続的発展に利用するとともに,多くの未知の領域への探求を一層活発に行うべきとの要請が高まってきている。また,平成9年12月には,気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議(COP3京都会議)が開催され,地球温暖化防止のために講ずるべき政策措置等が議論されるなど,人間活動の増大が原因と考えられる地球規模の環境問題が世界的に大きな問題となっており,地球は無限であり不変であるとの認識を改め,人間と地球の自然とが調和・共生する科学技術への指向が強くなってきており,COP3京都会合において採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」(仮称)において,地球温暖化防止のために科学技術の果たす役割への大きな期待が示された。

 地球科学技術に関する研究開発を進めるにあたっての基本的考え方は,平成2年8月に内閣総理大臣決定された「地球科学技術に関する研究開発基本計画」に示されている。我が国の地球科学技術は,本基本計画のもと,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。

 また,平成8年7月,航空・電子等技術審議会地球科学技術部会において,冷夏・暖冬等の正確な予測等の地球変動の解明及びその予測を実現し,社会経済の持続的発展に資するため,地球変動予測研究,地球観測及びこれらに基づくシミュレーションが三位一体となった研究開発の重要性が指摘された。

 測地学審議会においては,平成7年6月に,広範多岐にわたる地球科学の諸分野の研究動向等について審議し,将来に向けて我が国の推進すべき研究課題等を示すとともに,推進のための方策について取りまとめ,「地球科学における重点的課題とその推進について」として,内閣総理大臣をはじめ,関係各大臣に建議した。

 地球で生じている複雑な現象とそのメカニズムをより詳細に解明し,健全な環境を維持しつつ持続的発展を図るためには,関連する科学技術を統合した研究開発を推進することが必要である。また,常に地球全体に目を向けた巨視的な観点と,長期的な展望に基づいた研究開発を行うことが必要である。

 地球科学技術を推進するにあたり,地球に関する科学的知見を深めるだけでなく,科学的知見を得るために観測・解析・予測技術の開発の進展を図るなど,科学的知見の蓄積と技術の開発を密接な連携の下で進めること等が必要である。また,一国で対応できないものが非常に多く,高度な科学技術水準を要するものが多いため,各国の協力の下に実施するとともに,我が国に対する国際的期待を踏まえ,我が国にふさわしい国際的活動をより積極的に実施することが必要である。

{1} 地球的規模の諸現象の解明に係る研究開発等

 地球温暖化,オゾン層破壊,異常気象,地震,火山噴火等の地球に関する諸現象は,我々人類の社会生活と極めて密接な関連を有し,重大な影響を及ぼすおそれがあることから,その現象を科学的に解明し,適切な対応を図ることが強く要望されている。

 また,地球科学技術が対象とする事象は,地球温暖化,地殻変動等,時間的にも空間的にも広がりを有し,一国のみの問題にとどまらないものである。このため,研究開発を進めるにあたっては,グローバルパートナーシップを確保することが極めて重要であり,世界気候研究計画(WCRP),地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)等の国際的な研究計画に積極的に参加するとともに,外国の研究機関等と共同研究を進めることが重要である。特に,我が国はアジア太平洋地域に位置し,経済的にも域内の各国と密接な関係を有することにかんがみ,本地域に重点を置いた研究開発を推進することが必要である。

 我が国においては,各省庁が自らの予算によって地球的規模の諸現象の解明等に係る研究開発を実施するとともに,科学技術振興調整費,海洋開発及地球科学技術調査研究促進費,地球環境研究総合推進費により,関係省庁の国立試験研究機関や大学,さらには海外の研究機関等の広範な分野の研究能力を結集し,エルニーニョ南方振動現象等の地球的規模の諸現象の解明,人間活動が地球環境に及ぼす影響の評価等総合的,国際的な研究開発を積極的に実施している。

 科学技術庁では,宇宙開発事業団及び海洋科学技術センターの共同プロジェクトとして,地球温暖化,異常気象等の地球変動現象の予測に向けて基礎的,学際的な研究を実施する「地球フロンティア研究システム」を平成9年10月に発足させた。「地球フロンティア研究システム」は,地球を一つのシステムととらえその変動と予測に関する研究を行うもので,気候変動予測,水循環予測,地球温暖化予測,モデル統合化の4領域について研究を開始した。海外の研究拠点については,平成9年3月に行われた橋本総理・ゴア副大統領会談により,地球変動研究・予測の分野がコモンアジェンダ(日米包括経済協議・地球的規模に立った協力)の新規分野として位置づけられたことを踏まえ,平成9年10月からハワイの国際太平洋研究センター(IPRC)及びアラスカの国際北極圏研究センター(IARC)において,本分野の研究を進めている。

 また,地球規模の諸現象の解明のためには,地球観測情報の国際的な流通を促進することが重要である。我が国はコモンアジェンダの1課題として地球観測情報ネットワーク(GOIN;Global Observation Information Network)を積極的に推進している。1998年(平成10年)2月に開催された日米共同作業部会において,これまでの成果を踏まえ,GOIN活動における協力をアジア・太平洋地域へ展開することを含む新実施計画を策定した。同年3月には日米合同のワークショップを行うなど,その実現に向けて積極的に取り組んでいる。

 そのほか,G7の情報関係閣僚会議において採択された11のパイロットプロジェクトの一つである「環境・天然資源管理(ENRM; Environment&Natural Resources Management)」について,我が国としても,地球観測情報のより広範な流通促進に向けて積極的に取り組んでいるところである。1997年(平成9年)3月及び9月にはG7諸国の専門家会合が開催され,気候変動と生物多様性の情報流通を重点的に推進している。

 また,地球規模の環境変動に関する研究を促進するため,地球を南北アメリカ,欧州・アフリカ,アジア太平洋の3極に分け,各地域における地球変動研究のための地域的ネットワーク化を図る構想のひとつである,「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN:Asia-Pacific Network for Global Change Research)」については,関係省庁の協力の下に1998年(平成10年)1月には,キャンベラにおいて第3回科学企画グループ会合が,同年3月には北京において第3回政府間会合が開催され,今後の具体的な活動方針等について検討がなされた。

 また,昭和32年の国際地球観測年を契機に開始された我が国の南極地域観測事業は,文部省に「南極地域観測統合推進本部」(本部長 文部大臣)を置き,関係各省庁の協力を得て,国立極地研究所が中心となって実施している。南極での観測活動は南極条約に基づいて行われており,国際協力の要素を強く持っている。

 我が国は昭和31年に第1次観測隊が出発して以来,オーロラ発生機構の解明,南極隕石の発見等多くの成果を上げている。平成9年度は第38次観測隊が昭和基地を中心に,海洋,気象,電離層等の定常的な観測のほか,地球規模の気候変動の解明を目的とした地球環境のモニタリング研究観測等を行った。第39次観測隊は平成9年11月に南極観測船「しらせ」で出発し,平成10年2月に第38次観測隊と交代し,第38次観測隊は平成10年3月に帰国した。

{2} 地球観測技術等の研究開発

 地球的規模の諸現象の解明を図る上で必要な情報を集積するためには,地球観測により地球に関する情報を得ることが必要であり,地球観測技術の研究開発が重要である。そのため,平成5年1月に,航空・電子等技術審議会より第17号答申「地球環境問題の解決のための地球観測に係る総合的な研究開発の推進方策について」が取りまとめられている。

 現在,我が国では,この答申等に基づき人工衛星による地球観測に関する技術の研究開発,海洋観測研究船,深海潜水調査船等による海洋観測技術の研究開発等地球観測のために必要な技術の研究開発を実施している。

(1) 人工衛星による地球観測に関する技術

 人工衛星による地球観測は,広範囲にわたる様々な情報を繰り返し,連続的に収集することを可能とするなど,極めて有効な観測手段であり,現在,特に地球環境問題の解決に向けて,国内外の関係機関と協力しつつ,総合的な推進を行っている。

 科学技術庁/宇宙開発事業団においては,地球資源衛星1号(JERS-1)「ふよう1号」を運用している。また,平成9年11月には熱帯降雨観測衛星(TRMM)を打ち上げ,現在運用中である(平成8年8月に打ち上げた地球観測プラットホーム技術衛星(ADEOS)「みどり」は,平成9年6月30日に機能停止)。また,環境観測技術衛星(ADEOS-II)の開発,陸域観測技術衛星(ALOS)の開発研究を関係機関との協力の下に進めており,通商産業省においては,米国航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星である極軌道プラットフォーム1号(EOS-AM1)に搭載する資源探査用将来型センサ(ASTER)の開発を進め,気象庁は,現在運用している静止気象衛星5号の後継機である,運輸多目的衛星の開発を進めている。また,衛星を用いた地球環境の観測と処理手法を確立するため,科学技術庁において関係機関との協力の下に地球環境遠隔探査技術等の研究等,農林水産省においてリモートセンシング技術を活用した土地利用・作付け状況・生育状況・森林や海洋の資源量の把握等に関する研究開発,郵政省において降雨観測のためのセンサ研究等及び建設省において人工衛星リモートセンシング技術を活用した全国土地利用図の作成等を推進している。

 また,こうして得られた人工衛星からのデータの利用促進を図ることが重要であることから,宇宙開発事業団の地球観測データ解析研究センター等において,地球観測データを利用した研究や地球観測情報ネットワークの整備を関係機関と密接に連携をとりながら推進している。

 このような地球観測衛星の開発,観測データの流通及び利用の推進は国際協力の下に行うことが重要であり,このため世界中の地球観測衛星開発機関や国際地球科学技術機関等が集う地球観測衛星調整会議(CEOS),日米欧加の宇宙関係機関が集う極軌道プラットフォーム調整会合(EO-ICWG)等の国際調整の場に積極的に参加し,貢献している。

(2) 海洋観測技術

 海洋は,地球的規模の諸現象に大きくかかわっており,その果たす役割の解明が重要な課題となっている。このため,海洋科学技術センターにおいて,海洋音響トモグラフィー等海洋観測技術の研究開発を推進するとともに海洋地球研究船「みらい」の整備及び慣熟訓練を実施した。

 また,通商産業省においては太平洋における二酸化炭素の循環メカニズムの調査研究を推進している。

 現在,関係省庁において進められている地球科学技術に関する研究開発のうち主なものは 第3-3-9表 のとおりである。

第3-3-9表 主な地球科学技術分野の研究課題(平成9年度)




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