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第1部   変革の時代において
第3章  どのような取組が重要か-変革の実現に向けた研究社会の取組強化-
第2節  「生み出す」-変革につながる成果の創出-
2.  創造的,世界的成果を生み出す努力



(1) 求められる創造的,世界的成果

 経済発展に対する技術革新の果たす役割が大きいことは既に見たが,変革の時代においては,活力ある経済の源泉となる新たな技術革新,新世紀の新たな経済の潮流を創り出していくような技術革新が求められている。

 「民間企業研究活動調査」によれば,ここ数年で経営戦略の上で研究開発の重要性が増加したとする企業は約73%に上った( 第1-3-24図 )。また,ここ数年の間に研究開発戦略・計画の見直しを行った,あるいは今後行う必要性を感じているとした企業に今後の戦略として重視している点を聞いたところ,約73%の企業が「消費者ニーズに対応した製品開発の強化」を,約49%の企業が「独創的な製品開発の強化」を上げている。また「独創的な研究開発の強化」については,研究開発費が100億円以上の企業が他の研究開発費区分の企業よりも高くなっている( 第1-3-25図 )。

第1-3-24図 経営戦略上での研究開発の相対的重要性の変化

第1-3-25図 研究開発戦略(計画)を見直す際に重視している点(研究開発費別)

 これらから,民間企業は,独創性の高い製品開発を強化することを通じた新たな技術革新創出を模索しており,これから民間企業は,より消費者ニーズへの対応の強化を進めつつ,同時に独創性の高い製品開発を強化することで新たな技術革新創出を模索している姿が見てとれる。また,このことは,近年,技術革新の停滞,特にトランジスタ,ナイロン,レーザーなどのような独創的・革新的な製品・技術の創出の停滞も指摘される中,民間企業は,新世紀における活力ある経済の潮流を創り出していくため新たな技術革新創出に期待し,努力していることも示している。

 こうした民間企業の動向にも見られるように,今日,大競争時代に対応するため新産業の創出などを通じた我が国経済社会システムの抜本的な構造改革が求められる中,創造的,世界的な研究成果の創出が求められている。

 また,高水準の医療の実現,地震等の災害に対する適切な安全対策の実現など生活者の関心・ニーズに対しても,創造的,世界的成果の適用により一層の医療水準や安全対策の向上などが可能となり,そうした生活者対応の研究成果が新産業の創出にもつながっていく可能性がある。さらに,地球環境問題,エネルギー問題,食料問題など人類生存基盤に関わる問題への対応にあたっても,創造的,世界的な成果が新たな解決策を切り開いていくものと期待される。

 このように,今日,大きな変革が求められている時代において,真の変革の実現につながるような創造的,世界的な研究成果の創出が強く求められている。


(2) 創造的,世界的成果を生み出す研究運営

 創造的,世界的成果を生み出すためには,そうした成果を生み出すことのできる研究運営が行われる必要がある。

 創造的,世界的成果を生み出す研究運営の下で,最適な目標設定,幅広い科学技術の知識の集結・有機的連携など総合的・俯瞰的視点に立った成果創出努力が行われることが重要となっている。

(日本の研究水準)

 創造的,世界的な成果が求められる中,日本の研究水準は国際的にどのような水準となっているのであろうか。

-アンケート調査からみた研究水準-

 「先端科学技術研究者調査」により,研究者が我が国の研究水準をどのように考えているかを見てみると,基礎研究については,米国との比較では調査した全ての分野(ライフサイエンス,物質・材料,情報・電子,海洋・地球科学)で日本劣位と考えており,欧州との比較ではライフサイエンス分野や海洋・地球科学分野で日本が劣位となっている。

 また,応用開発研究については,米国との比較では生産・機械分野を除く全分野(応用開発研究については,エネルギー分野と生産・機械分野についても調査している。)で,欧州との比較ではライフサイエンス分野,海洋・地球科学分野で日本劣位となっている( 第1-3-26図 )。

第1-3-26図 研究水準の国際比較

 また,「民間企業研究活動調査」では,民間企業が海外の同業種の技術力(製造・生産能力,研究開発力を含めた総合的な能力)をどう見ているか調べている。これによると,米国との比較では「相手の方が優れている」と回答した企業は約37%であり,業種別にみると医薬品工業,情報サービス業,通信・電子・電気計測器工業といったハイテク分野では「相手の方が優れている」とした回答割合が高い。また,欧州との比較では,「相手の方が優れている」と回答した企業は約28%であり,業種別では医薬品工業,情報サービス業などで「相手の方が優れている」とした回答割合が高い( 第1-3-27図 )。

第1-3-27図 我が国の技術力の欧米の同業種との比較

 このように科学技術の最前線にいる研究者や民間企業は,我が国の研究水準や技術力は,基礎研究分野や先端科学技術関連分野を中心に欧米に対し遅れぎみであると考えている。

-論文の被引用度から見た研究水準-

 優れた論文は他の論文に引用される回数が多くなることから,論文の被引用回数はその論文の質を表す指標と考えることができる。ここでは論文の被引用回数からみた研究水準を見てみる。

 米国科学情報研究所(Institute for Scientific Information)のデータによれば,1996年(平成8年)に世界の主要科学論文誌に発表された論文数のうち日本の論文の占める割合は約10%と世界第2位となっているが,米国の約36%に比べ大きく引き離されている。一方,論文の被引用回数についてみると,日本の論文の被引用回数は全世界の被引用回数の約8%と,米国,イギリス,ドイツに次いでいるが,論文数と同様米国の約52%との間には大きな開きがある。

 世界に占める論文数の割合と論文の被引用回数の割合の関係を見てみると,米国,英国などの欧米主要国は被引用回数の割合が論文数の割合を上回っているのに対し,日本は,論文数,被引用回数とも,世界全体に占める割合は増加してきているものの,論文数の割合より被引用回数の割合の方が小さい( 第1-3-28図 )。

第1-3-28図 世界に占める論文数と論文の被引用回数の割合

 これらは,我が国の研究は着実に成果を上げてきているものの,欧米主要国と比べた時,量的のみならず,質的な面において一層の努力が必要であることを示している。

 また,日本の科学技術力については,競争力についての世界的調査機関から,総合力としては米国に次ぎ世界第2位であるものの,科学的環境の面については第13位,技術経営の面については第11位であるなどとする報告も出されている( 第1-3-29図 )。

第1-3-29図 我が国の科学技術力 -競争力に関する世界的調査研究機関の報告より-

 以上のように,我が国の研究水準は着実に向上しているものの,基礎的,先端的研究などの面において一層の努力が必要な状況となっている。今後,そうした研究の一層の強化,研究環境の整備などを通じ世界的な科学技術力を確保していくことが重要となっている。

 基礎研究については,様々な応用分野への波及効果をもたらすものであり,変革の時代における経済的,社会的ニーズへの対応をめざした科学技術の推進にとり不可欠である。今後,総合的・俯瞰的視点を持った基礎研究の強化が重要となる。また,内外の諸課題は多様かつ複雑である状況を考えた時,人類共有の知的資産の創出,人類の文化発展にも貢献するような裾野の広い基礎研究の基盤を持っていることが重要となる。このように,基礎研究は変革の時代だからこそ一層重要であり,基礎研究水準が欧米主要国に比べて遅れぎみであることを考えた時,その積極的推進が求められる。

 なお,その際,研究開発の激しい進展の中では,基礎研究が直線的,段階的に応用研究,開発研究へと進むとは限らず,それぞれが相互に密接に関連し合い刺激しつつ進み,また,基礎研究成果が直ちにベンチャービジネスに結びつくこともあるため,迅速性も考慮した柔軟な取組が求められる。

(研究拠点としての日本)

 「民間企業研究活動調査」によれば,既に海外に研究開発拠点を有していると回答した企業は約24%であり,このうちの約55%は今後も現状維持の予定としている。また,研究開発拠点の海外進出をしていないが,今後進出する予定であるとしている企業は1割弱であった( 第1-3-30図 )。このことから,研究開発拠点の海外進出はそれほど進んでいないといえる。

第1-3-30図 民間企業の研究開発拠点の海外進出の動向

 しかし,欧米諸国に研究開発拠点を置く理由を見ると,「海外のニーズに対応した研究開発,製品の改良のため」,「生産拠点の技術力強化」など海外市場の開拓を動機とすると思われるものに加えて,「技術の芽(シーズ)の探索(基礎研究情報の確保)」,「海外における優秀な頭脳の確保・活用」など海外の研究水準,技術水準の高さとの連携を動機とする項目が高い回答割合となっている( 第1-3-31図 )。

第1-3-31図 欧米に研究開発拠点を設置する理由

 また,研究所・施設の立地条件として欧米諸国の方が優れているとした企業の回答割合は,我が国の方が優れているとした割合を大きく引き離しており,その理由として優れた研究機関・研究施設や研究人材の存在を上げた企業が多い( 第1-3-32図 )。

第1-3-32図 我が国の研究所・施設の立地条件の欧米との比較

 現在は,経済のグローバル化の進展に伴い企業が立地する国を選ぶという大競争時代を迎えているが,科学技術についても,今後,意欲ある研究者や企業は活動しやすい国を選択して動くようになってくるものと考えられる。

 そうした中で,我が国において世界に通用する研究運営が行われ,その下で広く国内外の研究者が集い,我が国を舞台に最先端の科学技術活動が展開されるようにしていくことが求められる。これにより,我が国の科学技術力を欧米諸国と同等以上のものとしていくと同時に,世界の科学技術力の増大にも寄与していくことが重要となっている。

(世界に通用する研究運営)

 国立試験研究機関(以下「国研」という。)の中核研究者を対象に科学技術庁が(財)政策科学研究所に委託して行った調査によれば,研究者が最大の成果を上げたと考える研究における動機づけ要因として,「知的好奇心」,「仕事の達成感や成長実感など」,「挑戦的精神」など研究者の自発的な心理・価値観に基づいたものが高い回答割合となった( 第1-3-33図 )。このことは,研究活動は究極的には人の知的活動であり,研究者の意欲と能力を引き出し,創造性を存分に発揮できる環境づくりを行うことが研究運営の要であることを示している。特に柔軟な発想とチャレンジ精神を持った若手研究者の能力が発揮できる環境の整備が求められる。

第1-3-33図 最大の研究成果をあげたときの動機付け要因

 それでは,研究者自身はどのような研究環境が必要と考えているのであろうか。「先端科学技術研究者調査」では,研究者自身の研究推進にとってどのような研究環境が必要か聞いている。所属機関により各項目の回答割合は異なるが,国研等,大学では,研究費や研究計画の柔軟性,研究支援者の増員を上げる研究者が多い(5割〜7割)。研究計画の柔軟性については民間企業も高い割合となっている( 第1-3-34図 )。

第1-3-34図 研究者が望む研究環境

 また,科学技術基本計画(平成8年7月閣議決定)に盛り込まれた施策のうち自身の研究にとりどの施策が今後有効か聞いたところ,国研,大学では,研究支援者の確保,組織運営の柔軟化等,理科教育の充実等が高い回答割合となった( 第1-3-35図 )。

第1-3-35図 科学技術基本計画に対する評価

 これらの結果から,特に国研,大学では,研究費,研究計画,組織運営などの面における一層柔軟な研究運営や研究支援者の確保による研究活動に専念できる環境の整備などに対する期待が大きいことが分かる。

 ここで,世界的な研究機関がどのような研究運営を行っているか見てみる。ドイツのマックスプランク学術振興協会はノーベル賞受賞者をこれまで18人も輩出している世界的な研究機関であり,70を超える研究所群で構成されている。同協会の研究運営の特徴は 第1-3-36表 に示すとおりであり,同協会では研究所の閉鎖,新設などの面において柔軟な組織運営を行うとともに,研究所長には人事,組織管理,研究費の獲得,配分などについて大きな裁量権を与えている。

第1-3-36表 マックス・プランク学術振興協会の研究運営の特徴

 また,同協会と米国の世界的研究機関である国立衛生院(NIH)では,常設ポストの研究者(NIHの場合は終身雇用を保障された研究者,通常「テニュア」という。)は研究者全体の半数を大きく割っており,期限付きの研究者,ポストドクターなどの流動的な研究者が研究活動において大きな役割を果たしている( 第1-3-37図 )。

第1-3-37図 マックス・プランク学術振興協会及びNIHの人員構成

 これらのことから,外国の優れた研究機関では,組織運営などの面において柔軟性をもった研究運営を行っていること,優秀な研究リーダーに大きな裁量権を与えていること,ポストドクターなど流動的な研究者を受け入れ競争的かつ開放的な研究環境による活性化促進や若手研究者の養成を行っていることなどが分かる。

 一方,我が国の状況を見ると,例えば,関係省庁では各種の特別研究員制度等により国研等にポストドクターを始めとする若手研究者を受け入れ,その養成や競争的な研究環境の整備促進に努めているが,政府研究機関の研究者数と比較すればなお相当の努力が必要な状況にあるといえるなど,世界に通用する研究運営に向けた積極的取組が求められている( 第1-3-38図 )。

第1-3-38図 政府研究機関における主な特別研究員制度等による採用者数

 柔軟で競争的な研究運営を目指した取組の例として,理化学研究所について見てみると,同研究所では職員研究員よりポストドクターなどの流動的な研究員の数が多く,競争的な環境の整備が進んでいる。同研究所のフロンティア研究システム及び脳科学総合研究センターでは,研究の進展に応じて弾力的に最適な人材を結集するため,1年以内の契約制に基づく流動的な研究体制を取っており,また,研究者は研究リーダーの裁量の下に集められている。国際的に評価の高い科学論文誌に掲載された研究論文数も多く,競争的な環境の下,成果を上げつつある( 第1-3-39図 )。

第1-3-39図 理化学研究所における人員構成比及び成果

 我が国が世界に通用する研究運営を行っていくためには,我が国の独自性も入れつつ,諸外国の優れた研究運営と遜色のない人中心の柔軟で競争的な研究運営を構築していくことが求められる。


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