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第1部   変革の時代において
第3章  どのような取組が重要か-変革の実現に向けた研究社会の取組強化-
第2節  「生み出す」-変革につながる成果の創出-
1.  総合的・俯瞰的視点に立った成果創出努力


(最適な目標設定と連携)

 我が国経済社会システムの行き詰まりや閉塞感の打破,生活者の関心・ニーズへの的確な対応,地球的・人類的課題の解決が求められる中,そうした内外の諸課題に的確に対応できる研究成果を確実に生み出していく努力が必要となっている。そのような中,前節で見た総合的・俯瞰的視点を踏まえれば,どのような取組が重要となるのであろうか。

 「先端科学技術研究者調査」で,経済的,社会的ニーズを踏まえて研究テーマを遂行するためにはどのような取組が重要と思うか聞いたところ,「研究目標の的確な設定」を上げる研究者が最も多く,次いで「研究環境の柔軟性」,「ニーズの的確な把握」が高い割合となった( 第1-3-19図 )。

第1-3-19図 経済的,社会的ニーズに対応していくための取組

 これは,研究者は,経済的,社会的ニーズに的確に対応する研究成果を上げていくためには,既に前節で見たニーズの的確な把握のための努力とともに,ニーズに合致した的確な研究目標を設定することが重要であると認識していることを示している。

 一方,自身の研究が経済的,社会的諸問題の解決に貢献すると意識し,かつ,研究目標・計画の設定・変更にあたり,他の科学技術分野における研究の進展や科学技術面以外の対応を考慮しているとした研究者は回答者全体の約4割で,半数に届かない( 第1-3-20図 )。

第1-3-20図 他分野の研究あるいは科学技術面以外の取組に対する研究目標等への反映状況

 このことは,総合的・俯瞰的視点に立った研究目標の設定が必ずしも十分に行われていないことを表している。

 地球環境問題など内外の諸課題への対応にあたり総合的・俯瞰的な視点を持つことが求められている中,狭い個別の科学技術分野からではなく,幅広い科学技術の視野を持ち,科学技術面以外の対応や状況なども踏まえて,望ましい未来を見据えた最適な目標設定を行っていく努力を強化していく必要がある。

 また,こうした目標の下,幅広い科学技術の知識の結集・有機的連携を図り,柔軟性をも持った計画性のある取組を行っていくことが,今,求められている。

 このような総合的・俯瞰的視点に立った取組について,国による脳に関する研究開発を例にとり見てみる。

 脳に関する研究開発は,多くの画期的な発見が行われ科学そのものの枠組みを変える可能性を秘めているなど科学的に大きな価値を持つとともに,社会的,経済的に大きな成果が期待される課題である。例えば,脳の発達障害・老化の制御,神経・精神障害の修復・予防など医療・福祉の向上への貢献,脳の情報処理機能を応用した新たな原理による情報処理システムや情報通信システムの開発等を通じた新産業創出への貢献,また,社会生活上のストレスへの適切な対処法の確立や育児・教育への適切な助言など社会生活の質の向上への貢献が期待されている。

 このように脳に関する研究開発は,幅広い意義・価値を持つものであり,また,医学,生理学,物理化学,工学,さらには,心理学などの人文科学も含め多くの分野を横断する総合科学となっているが,我が国の取組体制は,従来は,個別の分野において小規模に分散して研究開発が行われるなど幅広い分野の力を結集した総合的な研究推進がなされてこなかった。

 こうした観点の下,平成9年5月,科学技術会議の脳科学委員会は,国として総合的に脳に関する研究開発を推進するため,「脳に関する研究開発についての長期的考え方」を決定した。この「長期的考え方」では,研究者の自由な発想に基づき全く新しい知見や技術を生み出していく自由発想型基礎研究と,研究の目標を定めそれに向かって研究努力を集中していく目標達成型研究開発とを,相補いつつ同時に推進していくことを研究開発推進の基本的考え方として示している。

 目標達成型研究開発では,多くの分野を横断する領域として「脳を知る」,「脳を守る」,「脳を創る」の3領域を設定し,それぞれの領域において今後20年間の達成目標(戦略目標)を明らかにしている( 第1-3-21図 )。現在,この目標達成に向け,関係省庁,関係機関の結集・有機的連携の下,総合的,計画的に研究開発が進められているところである。

第1-3-21図 脳に関する研究開発 -戦略目標タイムテーブル-

 以上の脳に関する研究開発の例は国の取組であるが,総合的・俯瞰的視点に立った最適な研究目標の設定やその目標達成のための多分野の科学技術の知識の結集・有機的連携は研究社会全体に求められるものであり,個々の研究者や科学技術行政に携わる者全体がそうした取組の重要性を意識し,一層の強化を図っていくことが求められる。

 「先端科学技術研究者調査」によると,現在直面している経済的,社会的問題の解決のための効果的取組としては,自身の研究分野と他の研究分野との積極的連携を上げた研究者が最も多く,次いで,自身の研究分野,他の研究分野及び科学技術面以外の取組を総合的に俯瞰する国の戦略的取組を上げた者が多い。これらの項目に対する回答割合は,自身の研究分野の進展に対する回答割合より高くなっている( 第1-3-22図 )。

第1-3-22図 問題解決のための効果的取組

 このことは,内外の諸課題に対応する研究成果を生み出していくためには,幅広い科学技術の知識の結集・有機的連携が重要であることを研究者が認識していることに加え,総合的・俯瞰的視点に立った取組については,国の役割が大きいことを示している。

 国における総合的・俯瞰的視点に立った取組は,変革の実現に向けた科学技術政策の戦略性を高めるものであり,一層の努力が必要である。

(関係省庁の有機的連携)

 国による脳に関する研究開発の推進の例に見られるように,変革の時代において関係省庁が有機的連携を図り,目標に取り組んでいくことが従来にも増して重要となっている。ここでは,この点について見てみる。

 省庁の壁を超えて関係省庁が有機的に連携していくことは,幅広い科学技術分野を結集した総合的取組の推進や制度面等科学技術面以外の取組との相互連携の強化を通じ,変革の実現につながっていくものである。同時に,政府全体としての整合性のとれた無駄のない活性化された研究開発の推進にとっても不可欠である。

 関係省庁の有機的連携の強化のための体制としては,近年,課題ごとに関係省庁連絡会が設置されており,政府一体となった施策の推進体制の強化が図られてきている。 第1-3-23表 に科学技術に関する主な関係省庁連絡会を示すが,このような関係省庁連絡会は増加傾向にある。

第1-3-23表 科学技術に関する主な関係省庁連絡会

 また,科学技術会議では,重要な研究開発分野・領域について,省庁横断的な研究計画の策定や施策の総合的評価を行うための組織を設けている。脳に関する研究については脳科学委員会が設けられ,既に先述のとおり「脳に関する研究開発についての長期的考え方」を策定しているほか,ゲノム関連研究についてもゲノム科学委員会が設置されている。また,各省庁の特殊法人等における基礎研究推進制度が整合性のとれた運用を確保するため,特殊法人等における新たな基礎研究推進制度に関する懇談会が設けられている。

 さらに,国の研究開発活動を広く公開し,国民・社会の理解の獲得,研究開発成果の活用の促進,関係省庁による研究課題の選定,連携促進への活用等を図るため,国費による研究開発活動を総覧するデータベースを構築しインターネットで公開する取組が関係省庁の連携の下で進められている。

 このように連携体制の強化は進みつつあるが,関係省庁の有機的連携は国が総合的・俯瞰的視点に立った取組や政府全体として無駄のない活性化された研究開発を進める上で大きな役割を担うものであり,一層の進展を図っていくことが求められる。


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