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第1部   変革の時代において
第3章  どのような取組が重要か-変革の実現に向けた研究社会の取組強化-
第1節  「見つめる」-変革の時代に求められる視点-
2.  国民・国際社会との相互理解の増進



(1) 国民と研究社会の相互理解の増進

 現下の内外の諸課題は多様かつ複雑である。これは国民や社会の要請が多様かつ複雑になっていることを示している。

 このような中で,変革の時代に求められる総合的・俯瞰的視点を持つため,また強化していくためには,研究社会として国民や社会の複雑な要請の把握・明確化に努めていくことが前提となる。また,総合的・俯瞰的視点に立ち科学技術ではどこをねらって,何をしようとしているのかを国民に明らかにし,その理解と信頼,支持の獲得に努めていくことが重要となる。ここでは,この点について見てみる。

(国民と研究者の間に意識の差はあるか)

 科学技術に対する研究者の意識と国民の意識の間には差があるのであろうか。

 総理府の「科学技術と社会に関する世論調査」及び「先端科学技術研究者調査」により,国民と研究者の科学技術の発達に対する意識を見てみると,科学技術の発達にはプラス面が多いかマイナス面が多いかとの質問に対しては,研究者の方が国民よりプラス面をより高く評価している。科学技術の発達による社会への影響についても,ほぼ同様の結果が出ており,「個人生活の楽しみ」,「物の豊かさ」,「労働条件」については,研究者の方が「向上した」とする回答割合が高い( 第1-3-11図 )。

第1-3-11図 科学技術の発達に対する国民の意識と研究者の意識

 また,「科学者には人間や社会に無関心な人が多い」という考えに対し国民の約38%はその通りだと思うとしているのに対し,研究者の約65%は「自分の研究が現在大きな問題となっている経済的,社会的問題の解決に貢献する」としている。科学者は人間や社会に無関心だとする国民が多いことと,経済社会に貢献しているとする研究者が多いこととの間には,意識の差が見られる( 第1-3-12図 )。

第1-3-12図 国民の意識(科学者に対するイメージ)と研究者の意識(経済的,社会的問題の解決に対する貢献)

 これらから,研究者の方が科学技術の役割,社会への貢献について国民より高い評価をしていることが分かる。

 これは,研究者が自らの研究やその成果について他の者に比べより肯定的に見ていることを表しており,自然の姿であるともいえるが,同時に,国民や社会と研究社会との間に大きな意識や考えのずれを生じさせないよう,国民との相互理解に努めていくことが重要であることを示唆している。

(研究社会全体としての経済的,社会的ニーズの把握・反映)

 研究者はどの程度国民の要請を把握し研究に反映させているのであろうか。

 「先端科学技術研究者調査」によれば,研究の推進にあたり経済的,社会的ニーズを踏まえているとした割合は,自身の研究については約8割であるが,自分の属する研究分野全体について見るとどうかとの質問に対しては約7割,さらに研究社会全体については約5割と,徐々に低下する( 第1-3-13図 )。

第1-3-13図 経済的・社会的ニーズの把握に対する研究者の意識

 これは,自身の研究推進にあたっては経済的,社会的ニーズを踏まえているが,他の研究や研究分野ではニーズの把握や研究への反映が必ずしも十分ではないと,多くの研究者が相互に評価している状況を示している。約半数の研究者しか研究社会全体として経済的,社会的ニーズを踏まえていると認識していないことを合わせ考えれば,多様かつ複雑な国民・社会の要請を的確に把握する努力を強化していくことの必要性を示唆しているといえる。

 研究者の経済的,社会的ニーズの把握の仕方について「先端科学技術研究者調査」で聞いたところ,「学会等の学術動向から」,「仕事を通じて」,「専門誌・紙から」が高い回答となっており,多くの研究者は研究社会の中やその周辺から国民の要請を把握している( 第1-3-14図 )。

第1-3-14図 研究者の経済・社会的ニーズの把握の仕方

 一方,同調査で,研究者にどのような場を活用して自身の研究を国民に説明したいと思うか聞いたところ,「一般を対象とした講演や市民大学等の授業」,「一般向け雑誌への執筆活動」が約6割と多く,次いで「学会での広報等の活動」,「所属する研究機関の公開・見学者受入れ」,「インターネットのホームページ等」となった( 第1-3-15図 )。国民への説明の場は,国民の理解を得る場であるのみならず,国民の要請を把握する場ともなる。今後,こうした国民との対話・交流の場などを積極的に活用し,国民の要請の把握に努めていくことが求められる。

第1-3-15図 研究者が活用したいと考える国民への説明の場

(国民の関心と国民への説明)

 国民は科学技術に対して期待とともに,急速な進歩によりついていけなくなるとの不安や細分化しすぎて専門家でなければ分からなっていくなどの種々の不安を抱いている。

 こうした中,国民の要請の把握,研究への反映とともに,科学技術の最前線にいる立場から,科学技術ではどこを狙って何をしようとしているのか国民に分かりやすく説明し,また,提案や問題提起も積極的に行い,理解と信頼,支持を得ていくことが重要である。

 総理府の「科学技術と社会に関する世論調査」及び「先端科学技術研究者調査」によると,国民の約6割は科学技術に関心があり,研究者も約6割は自身の研究は国民に関心を持たれていると考えている。また,約6割の国民は科学技術に関する知識は分かりやすく説明されれば理解できると考え,研究者の約8割は自身の研究は分かりやすく説明すれば国民は理解できると考えている。これらの点について国民と研究者の考え方は,程度の差はあるものの基本的には一致している( 第1-3-16図 )。

第1-3-16図 科学技術に対する関心と理解

 また,「先端科学技術研究者調査」の前回平成8年度調査において,約半数の研究者が「社会の理解を得るために取り組んでいることは特にない」とした結果が出ていることを踏まえ,今回平成9年度調査で,自身の研究を国民が理解できるよう説明したいと思うかと聞いたところ,説明したいとの回答は約66%と高い割合となった。( 第1-3-17図 )。

第1-3-17図 研究者の意識 国民の理解を得るための努力

 これらから,多くの研究者は,これまで国民の理解を得るため特段のことはしてきていないが,理解を得るための説明をすることは重要であり,また今後説明をしていきたいとの意識は高いことが分かる。

 先述のとおり,研究者は,講演や市民大学等の授業などの場を活用し国民に自身の研究について説明し理解を得ていきたいとしている(前述 第1-3-15図 )。今後,国民との直接的な対話・交流の場への積極的参加等を通じ,その理解と信頼,支持を得ていく努力が求められる。

 また,国としては,科学技術について国民が的確な判断をしていくための正確な情報の提供,講義,実験等を通じて研究者,技術者が国民や青少年に直接語りかける機会の確保のほか,研究施設の公開や合宿の推進,科学館の充実強化,放送メディアを活用した科学技術番組の提供など,国民の科学技術に対する理解と信頼,支持を得ていく努力を行うことが必要である。

(宇宙開発に対する国民の理解と支持の獲得)

 宇宙開発は多額の資金を必要とする研究開発分野であり,その推進にあたっては,国民へ積極的に情報を提供することにより,国民の理解と支持を獲得することが不可欠である。

 平成8年1月に改訂された宇宙開発委員会の「宇宙開発政策大綱」においても「宇宙開発について,国民の理解と協力を得るよう努めることは,宇宙開発を推進する者の責務である。」と位置づけた上で,「青少年をはじめ国民各層に対して宇宙開発の意義,内外の開発状況,成果等をわかりやすく伝えるとともに,様々な媒体,イベント等を活用して国民が宇宙開発活動に触れる機会を増やす等,広報活動の格段の強化を図る必要がある。」とされている。

 このため,宇宙開発委員会においては「理解増進に関する懇談会」を設置し,我が国における理解増進活動の基本的考え方について検討を進める等,現在,政府としても宇宙開発に係る理解の増進に取り組みつつあるところである。

 他方,平成10年2月には,宇宙開発事業団種子島宇宙センターから通信放送技術衛星「かけはし」を搭載して打ち上げられたH-IIロケット5号機において,第2段エンジンのトラブルにより,当初予定していた静止軌道への衛星の投入に失敗するという事態が発生し,現在,宇宙開発委員会技術評価部会及び宇宙開発事業団において原因究明が鋭意進められているところである。宇宙開発においては,以前にも平成6年8月の技術試験衛星VI型「きく6号」の静止軌道投入の失敗,平成8年9月に打ち上げられた地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」の太陽電池パネルの破損による機能停止という事態が生じているが,研究開発を進めていく上では,その過程において生じた失敗を乗り越え,その後の研究開発に活かし,その成果を広く社会に還元していくことが強く求められる。

 H-IIロケットは我が国の自主技術により開発した我が国が誇る世界水準の技術であり,これまで前身のH-Iロケット,H-IIロケットの打上げ全てに成功してきた。今回の失敗についても原因究明を幅広く徹底的に行い,国民に積極的に情報の提供を行うとともに,万全の対策を講じることにより,今後のロケット開発及び我が国の宇宙開発の推進に確実に反映させることが必要不可欠である。

 平成9年11月にスペースシャトルに搭乗して日本人として初の船外活動を行った土井飛行士の姿は青少年をはじめとする国民に夢と希望を与えてくれたことは記憶に新しいが,今後,宇宙開発を進めていく上では,宇宙開発の持つ意義を十分に説明し,真に国民の理解と支持の獲得に努めていくことが必要である。

(科学技術と倫理問題)

 クローン技術を用いたヒト個体作製など生命倫理に係る問題については,多様な生命観や価値観に基づく様々な意見が存在することから,科学,倫理,宗教,法律なども含め広く社会全般に係る様々な角度から議論が深められていくことが重要となっている。

 「先端科学技術研究者調査」により研究者の倫理問題に対する意識を見てみると,自身の研究において倫理問題が生じる可能性があると回答した研究者は約24%であるが,ライフサイエンス分野の研究者について見ると約55%と半数を超えている。また,倫理問題が生じる可能性があると答えた研究者のうち,約86%(ライフサイエンス分野では約92%)の研究者は研究推進にあたり倫理問題に配慮しているとしている( 第1-3-18図 )。

第1-3-18図 研究者の倫理問題に対する意識

 これらから,ライフサイエンス分野では,生命倫理の問題が重要な問題となっており,研究者の生命倫理問題への意識は高いことが分かる。

 この問題は,国民や世界的な幅広い議論を踏まえて対処していく必要があり,科学技術の最前線にいる研究者が国民に対し,分かりやすい言葉で関連する科学技術の状況などについて積極的な情報発信を行い,国民の議論に役立てていく必要がある。

 科学技術会議の政策委員会は,平成9年3月13日,当面ヒトクローンに関する研究に対する政府資金の配分を差し控えることが適切であるとの決定を行っており,また,同会議では,人に関連する生命倫理に係わる科学技術の在り方に関して幅広い観点から検討するため,生命倫理委員会を設置し検討を行っている。また,文部省の学術審議会においても大学等におけるクローン研究について審議を行っており,平成10年1月には,バイオサイエンス部会が中間報告を取りまとめた。さらに,この問題については,国民,研究者の考え,世界的な動向を踏まえ,議論を深めていくことが求められている。こうした議論の深まりが,生命倫理に関わる科学技術の適切な推進に寄与していくと考えられる。

(動燃の抜本的改革と国民の信頼回復)

 平成7年12月の動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」という。)の高速増殖原型炉「もんじゅ」の2次系ナトリウムの漏えい事故及び平成9年3月の動燃東海事業所のアスファルト固化処理施設での火災爆発事故は,事故そのものの重大さに加え,事故処理や事故後の地方公共団体,住民等への情報連絡のまずさ,国への虚偽報告など一連の不適切な対応が,国民の不信感を招いた。このような状況を受け,動燃の抜本的な改革を通じて国民の信頼を回復していくことが必要であるとの認識の下,第三者的なチェックを行うため,平成9年4月科学技術庁は「動燃改革検討委員会」を開催することを決定した。同委員会は,動燃の体質,組織・体制の改革について6回にわたり検討を行い,平成9年8月,「動燃改革の基本的方向」について報告を取りまとめ,科学技術庁長官に提出した。報告では,動燃は,基本意識,方法などを異にする「先例のない研究開発」,「原子力であるが故の高い安全性」及び「競争力ある技術の供給」の同時的実現という困難な課題を追求しなければならなかったが,これに対し,自らを取り巻く状況の変化及び達成過程の進行に伴って生ずる目標の変動に的確に対応できない「経営の不在」の状況にあったと指摘している。経営不在の詳細としては,研究開発への偏重などによる「安全確保と危機管理の不備」,外界との反応を得るための発信を怠った「閉鎖性」,業務や組織の適正な管理を困難とした「事業の肥大化」を挙げている。その上で,動燃改革の基本として,明確に設定された裁量権,明確な事業目標の設定とその的確な評価,新組織の経営体の自己変革と経営の外部評価などを条件とする強力な経営を求めている。

 改革の具体的方針としては,事業を抜本的に見直し,動燃を改組して新法人を組織すること,新法人では,核燃料サイクルの技術的確立に向けた研究開発を遂行することとし,海外ウラン探鉱,ウラン濃縮研究開発,新型転換炉研究開発からは撤退し主たる事業を高速増殖炉開発及び関連核燃料サイクル技術開発,高レベル放射性廃棄物処理処分研究開発とすることを求めている。また,経営の刷新として,明確な事業目標の適時的確な策定,第三者による外部評価機能の導入,新法人の裁量による業務遂行などを挙げるとともに,万全な危機管理体制の確立など安全確保の機能強化,国民への発信による自己革新を基本とした情報公開や広報の徹底,地域社会との共生など社会に開かれた体制を求めている。

 また,平成9年8月,科学技術庁は「科学技術庁の自己改革」を公表し,同庁が動燃の業務状況や現場を十分に把握しておらず適切な安全監視や業務指導ができなかったこと,事故に係る情報の迅速かつ的確な把握を十分に行い得なかったことから関係方面への情報提供等について適切な対応を取ることができなかったことなどの問題点を十分認識し,動燃改革検討委員会の報告に盛り込まれた内容に基づき動燃改革に全力を挙げて取り組むとともに,職員の意識改革,緊急時対応の強化などの自己改革を早急に実施し,国民の信頼回復のため最大限の努力を行うことを示した。

 動燃改革検討委員会の報告を受け,科学技術庁は平成9年8月,「新法人作業部会」を設置し,動燃の新法人への改組の具体化を図るための作業を行ってきた。その途中においては,動燃東海事業所のウラン廃棄物貯蔵施設における放射性廃棄物の不適切な管理状況が明らかになったが,科学技術庁はこれを重く受け止め,新法人作業部会を補佐するために設置した新法人タスクフォースの中に現地調査チームを設置し,動燃の各事業所の全施設・設備の管理,運営等の現状を把握し,問題点を洗い出す作業を実施した。

 このような動燃改革検討委員会の報告及び新法人作業部会の検討を踏まえて,動燃の経営・組織・事業等を抜本的に見直し,安全確保を大前提に情報公開等社会に開かれた体制の下,地元重視を基本とする「核燃料サイクル開発機構」に本年10月1日を目途に改組させるべく現在,所要の準備を行っているところである。

 動燃の問題は,研究社会全体として積極的に情報を外部に発信し,国民の理解と信頼,支持の獲得や国民の要請の把握に最大限の努力をすることが,今日いかに重要となっているかを示している。特に,科学技術行政については,国民により開かれた透明性の高いものとしていくことが必要である。

 科学技術の推進が研究社会の一方的な判断による取組とならないよう,国民や社会からの要請の把握,国民の理解と信頼の獲得に対する真剣な取組が求められる。

(国民と研究社会との相互理解の増進)

 これまで見てきたことを踏まえると,今後,研究社会全体として,

・社会的責任を自覚しつつ,
・研究社会に閉じず,国民との積極的な交流・対話,科学技術の最前線にいる立場からの積極的な情報発信や提案・問題提起を行うことにより,
・国民の多様かつ複雑,時として不明確な要請の的確な把握・明確化,科学技術に対する国民の理解と信頼,支持の獲得に努力していくことが求められる。
・科学技術行政については,国民により開かれた透明性の高い行政とすることが求められる。

 国民と研究社会の相互理解の増進は,総合的・俯瞰的視点に立った取組の強化に不可欠であり,また,国民の要請の把握・明確化や理解と信頼,支持を得るにあたっては,総合的・俯瞰的視点を踏まえることが重要となっている。

 科学技術と国民生活が切り離せなくなっている今日,国民からの科学技術に対する積極的な発言,問題提起が行われ,研究社会がそうした国民からの発信を的確に受けとめていくことも変革の実現に向けた総合的・俯瞰的視点の強化に重要である。このため,国民も科学技術に関する知識を積極的に吸収し,理解し,そのような知識を踏まえて,科学技術に関して積極的な発信を行っていくことが望まれる。


(2) 国際社会との相互理解の増進

 先に見たように,研究社会としては,総合的・俯瞰的視点の一環として,世界的視野を持ち,競争と連携の調和を図っていくことが必要となっている。

 競争に対応できる科学技術の創出と地球的規模での連携という両面の調和を図っていくためには,この点に関する我が国の国民・社会の考え方を見極めていくと同時に,各国が競争と連携についてどのように取り組んでいるか,連携について国際社会からどのような要請があるかについて,常に把握していくことが重要である。

 各国における経済発展や科学技術の進展の状況は多様であり,また,民族,文化,言語,宗教なども各国により様々である。こうした多様性や異質性は,時として,国際間の連携推進や相互理解にとり大きな問題となる可能性がある。このため,我が国における競争と連携に関する考え方・取組を国際社会に積極的に説明し,国際社会からの理解と信頼を獲得していくことが重要となる。

 こうした点を考えた時,研究社会が世界的視野を持ち,競争と連携の調和を図っていくためには,先に国民と研究社会の相互理解の増進で触れた取組と同様に次のことが重要と考えられる。即ち,

・国際社会の一員であるとの責任を自覚しつつ,
・我が国の研究社会に閉じず,国際社会との積極的な交流・対話,我が国からの積極的な情報発信や提案・問題提起を行うことにより,
・国際社会からの要請の的確な把握・明確化,また,競争力強化への取組も含む我が国の取組に対する国際社会の理解と信頼,支持の獲得に努力していくことが求められる。

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