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第1部   変革の時代において
第2章  科学技術で何ができるか-変革の時代と科学技術の役割-
第1節  重要性増す科学技術の役割
1.  科学技術の役割と重要性


(技術革新と経済発展)

 技術革新は,新規市場開拓,生産性向上をもたらすなど経済発展の大きな源泉となっている。

 技術革新の経済成長に及ぼす影響は,全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)により見ることができる。TFPは,経済成長のうち,資本及び労働の量的投入だけでは説明のつかない残余の部分であり,このTFPの上昇には,技術革新が大きな役割を果たしている。経済成長に占めるTFP上昇の寄与は,時期によって異なるが,おおむね資本の寄与に次ぎ大きいものとなっている。特に,製造業においては,TFP上昇の寄与は大きく,時期によっては資本の寄与より大きくなっており,製造業の発展にとり技術革新がいかに重要であるかが見てとれる( 第1-2-1図 )。

第1-2-1図 経済成長率の寄与度分解

 また,研究開発投資とTFP上昇との間には強い相関関係があること( 第1-2-2図 ),ある産業のTFP上昇は他産業のTFP上昇への波及効果があること( 第1-2-3図 )が確認されており,様々な部門の研究開発が社会全体の経済成長を促しているといえる。

第1-2-2図 R&Dストック増加とTFP上昇率:(1970〜1994年平均)

第1-2-3図 産業のTFP上昇率と他産業からの間接的波及効果

 このように技術革新は経済の発展に大きな役割を持つが,少子高齢化の進展,生産年齢人口の減少,貯蓄率の低下等により経済の活力低下が懸念されている中,新世紀には,高齢者,女性の潜在労働力の発掘・活用とともに,技術革新に対する重要性がますます増大すると考えられる。

 大競争時代の到来,競争激化の中での産業空洞化への懸念,高度情報通信社会への取組の遅れ等我が国は厳しい環境に置かれているが,研究開発の積極的推進による技術革新を通じ,新産業創出,高度情報通信社会の実現等を促し,これらにより経済活力を確保していくことが求められる。

(生活者に還元される研究成果)

 科学技術はこれまで生活の豊かさ,医療・福祉の充実,災害防止などの面において,国民生活に貢献してきた。

 生活者に身近な家庭電化製品について見ると,電気冷蔵庫,電気掃除機などは1960年代後半から1970年代にかなりの普及率を達成し,その後もエアコン,電子レンジ,ビデオ機器などが急速な普及を見せており,生活の豊かさに寄与してきている( 第1-2-4図 )。また,最近では,高齢化社会の進展に伴い,例えば,生活者の需要に応じ多種多様な小型高性能の補聴器が普及してきている( 第1-2-5図 )ほか,電動車椅子,家庭用の電子血圧計などの普及が高齢者等の快適で健康な日常生活に大きな役割を果たしている。

第1-2-4図 家庭電化製品の普及率の推移

第1-2-5図 補聴器の生産量と品目数

 一方,生活者にとり一見離れているように見える分野の成果が,身近で活用されているものも多い。米国航空宇宙局(NASA)の調査によれば,NASAで行った研究が他の分野に波及効果を生み出した例として,宇宙服に関する研究成果の,建物の断熱材,ブラインド,消防服への応用,宇宙食のインスタント食品への応用,宇宙船のドッキングシステムから医療用カメラへの応用など広範な研究成果が波及効果をもたらしており( 第1-2-6表 ),生活者に貢献していることが見てとれる。

第1-2-6表 米国航空宇宙局(NASA)で行った研究が他の分野に波及効果を生み出した例

 また,深海資源・生物の探査を行う海洋科学技術センターの無人探索機「かいこう」,「ドルフィン-3K」等は,戦時中に沈没した学童疎開船「対馬丸」の船体の確認や,日本海沖に沈没したロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」からの重油流出状況の確認に活用された。このように,生活者から身近でないと思われている科学技術も,様々な形で活用されている。

 科学技術庁科学技術政策研究所の「生活関連科学技術課題に関する意識調査」(平成8年度)によれば,生活関連分野における科学技術の貢献については,「過去の貢献に対する評価」よりも「将来の役割への期待」が高くなっている( 第1-2-7図 )。また,例えば,厚生省の推計によれば,寝たきり,痴呆,虚弱となり援護が必要な高齢者は1993年(平成5年)の約200万人から2025年には約520万人に増加すると予測されており( 第1-2-8図 ),高齢者援護のための科学技術の重要性が今後一層増大することが予想される。これらのことからも見てとれるように,新世紀に向けて生活者のための科学技術は一層重要性を増すものと考えられる。

第1-2-7図 生活関連分野における科学技術の貢献(過去と未来)

第1-2-8図 寝たきり・痴呆症・虚弱高齢者の将来設計

(科学技術と地球的・人類的課題)

 地球環境問題,エネルギー問題,食料問題,新興・再興感染症対策など人類の生存基盤を脅かす地球的・人類的課題の解決に果たす科学技術の役割は大きい。

 地球温暖化については,地球温暖化防止京都会議において,先進国における温室効果ガス排出削減目標が合意され,目標期間中(2008年〜2012年)に,日本は6%,米国は7%,EUは8%の削減を図ることとなった。

 この目標を達成するためには,制度面の整備など多面的,総合的,かつ長期的な対応が求められており,科学技術が果たす役割も大きい。地球温暖化防止京都会議で採択された議定書においても,科学技術の役割が記載されており,今後一層の取組強化が求められる( 第1-2-9表 )。

第1-2-9表 「京都議定書」における温室効果ガス削減の数量目的と科学技術の役割

 この問題は直ちに取組に着手することが求められる一方,その抜本的な解決には,今後100年単位の長期にわたる努力が必要であり,新・再生可能エネルギー技術,省エネルギー技術,二酸化炭素の発生抑制や吸収・固定化のための研究開発,地球規模での温室効果ガスの観測・監視,地球温暖化による気候変動や地球規模での大気循環などの解明と予測技術の開発等,長期的な視点で取り組んでいくことが必要である。

 食料問題について見てみると,世界の穀物の収穫面積は,この30年間ほぼ横ばいで推移しているのに対し,生産量は倍増し,単位面積あたりの生産量は確実に増大している( 第1-2-10図 )。これは,かんがい等の整備,農薬・化学肥料等の投入による増産対策の確立等とともに,品種改良等の研究開発の成果が大きく寄与している。

第1-2-10図 穀物の生産量,収穫面積,単位面積当たりの生産量の推移

 耕地面積の拡大には限界があり,中長期的に食料需給の不安定な局面が懸念される中,生物農薬などによる環境への負荷軽減に配慮した持続的な生産を図りつつ,光合成能を飛躍的に向上させた作物の開発などによる単位面積あたりの増産,耐塩性・耐冷性・耐干性品種の育成による栽培適地の拡大を可能にするため,科学技術の役割はますます重要となっている。

 新興感染症のうちエイズについて見てみると,全世界の感染者は3000万人を超えており,平成8年における新規感染者も全世界で約580万人と推計されている。エイズ治療については,これまでの研究の成果により,抗HIV剤による発病時期の遅延化などについて新たな知見の蓄積が図られつつあり,また遺伝子治療,ワクチンの開発についての研究も進められている。今後の根本的な治療法,予防法の確立に向けて,科学技術の果たす役割は大きい。

(科学技術と文化の創造)

 科学技術は人類の文化にどのような影響を及ぼしてきたのだろうか。

 グーテンベルクによる活版印刷技術の発明は,書物の普及を促し,人々の知識の獲得を容易にするとともに,新しいものの見方,価値観の醸成にも貢献してきた。また,高速の交通機関,電話,ラジオ,テレビ等の情報通信機器の発達は,国際間での人や情報の活発な往来を可能にした。その結果,様々な民族や文化の交流,融合が行われ,人類の生活観,世界観の拡大,修正がもたらされた。

 また,宇宙に目を向ければ,人工衛星の打上げにより,宇宙からみた青い地球の写真や映像がもたらされ,更には月や火星の探査活動,最近では日本人宇宙飛行士によるスペースシャトル船外活動などが,我々に夢を与え未知への探求心を呼び起こすこととなった。これらの映像や宇宙の活動を目の当たりにすることにより,人類は新たな人類観,宇宙観を持つこととなった。

 さらに,コペルニクスの地動説やダーウィンの進化論,アインシュタインの相対性理論などの先人の知的探求の成果が,その後の人類の世界観,生命観を変貌させるなど,基礎研究の成果は,人類が共有し得る知的資産として,それ自体価値を持っており,人類の文化の発展に貢献するものである。一方,英国におけるクローン羊の誕生は,科学技術と生命倫理に関する問題を投げかけている。

 科学技術は,人類の生活の利便性の拡大のみならず,新たな世界観,生命観等を,生み出し,拡大させ,あるいは修正しており,この点から文化の創造に少なからず寄与している。グローバル化の進展や地球環境問題への対応の重要性は近年ますます高まっており,豊かな世界観,生命観等に支えられ地球や人類についての理解を深めていくことが重要となると考えられる中,科学技術の文化創造に果たす役割は大きい。


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