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第1部   開かれた研究社会の創造をめざして
第3章  国際的に開かれた研究社会へ
第2節  国際的に見た我が国の研究社会
2.  日本の研究社会に魅力はあるのか


 高い水準の研究活動や研究環境が世界の優れた研究者を惹きつけるのか,世界の優れた研究者が集まっているために高い水準の研究活動が行われ,また,優れた研究環境も必要とされるのか,これらを因果関係としてとらえることは難しい。しかし,ここでは優れた研究者が日本での研究に魅力を感じるために少なくとも必要と考えられる二つの要素から,日本の研究社会の現状を考えてみる。一つは日本における研究の水準についてであり,今一つは,研究環境の水準についてである。


(1) 日本の研究水準

 まず,国際的に見た日本の研究水準について,研究者はどう考えているのだろうか。また,技術力について,企業はどう考えているのだろうか。

「先端科学技術研究調査」により研究者が我が国と欧米との研究水準のどちらが優位にあると考えているかを調査した結果によれば,研究者は我が国の研究水準は基礎研究を中心に欧米諸国に劣っていると考えていることが示されている。基礎研究については,ライフサイエンス,物質・材料,情報・電子,海洋・地球科学の4分野で比較がなされているが,米国との比較ではこれら4分野のすべてについて日本が劣位となっており,特にライフサイエンス分野や海洋・地球科学分野で劣位が顕著である。また,欧州との比較では特にライフサイエンス分野や海洋・地球科学分野で日本が劣位となっている( 第1-3-9図 )。

第1-3-9図 基礎研究水準の国際比較(分野全体)

 応用開発研究については,上記4分野に加え,エネルギー分野,生産・機械分野についても調査がなされているが,米国との比較では,生産・機械分野を除く5分野で,欧州との比較では,ライフサイエンス分野,海洋・地球科学分野で日本が劣位となっている( 第1-3-10図 )。

第1-3-10図 応用研究・開発研究水準の国際比較(分野全体)

 民間企業に対し,海外の同業種の技術力について調査した結果からも,欧米諸国の技術力が日本よりも優れていると考える企業の割合は,先端科学技術関連分野では回答企業全体より若干多くなることが示されている。

 具体的には,米国との比較では,「相手の方が優れている」と回答した企業は全回答企業の40%であるが,業種別に見ると,医薬品工業,通信・電子・電気計測器工業,精密機械工業,情報サービス業といったハイテク分野では「相手の方が優れている」との回答の割合はこれよりも高くなっている。欧州との比較でも,「相手の方が優れている」と回答した企業は全回答企業の24%であるが,業種別に見ると,医薬品工業,機械工業,情報サービス業といった分野での「相手の方が優れている」との回答の割合はこれよりも高くなっている( 第1-3-11図 , 第1-3-12図 )。

第1-3-11図 我が国の技術力の米国の同業種との比較

第1-3-12図 我が国の技術力の欧州の同業種との比較

 これらの結果は,我が国の研究水準や技術力は,特に基礎研究分野や先端科学技術関連分野を中心に欧米諸国に遅れぎみであると研究者が考えていることを示している。これらの研究分野での優位性は,科学技術創造立国としての我が国を支える足腰であるとともに国際的に開かれた研究社会の魅力の一つとなるものであることから,引き続き,基礎研究分野や先端科学技術分野における我が国の一層の取組が必要であると考えられる。


(2) 研究拠点としての日本

 一方,研究環境の面から日本は研究拠点としての魅力を十分に備えているのだろうか。例えば,経済,社会の国際化などに伴い海外に安い労働力等を求めて生産拠点を移す例が増加しており,我が国の産業の空洞化が懸念された。我が国の民間企業への調査によれば,生産拠点についで研究拠点についても空洞化についてやや憂慮すべきであるという結果が見られる( 第1-3-13図 )。既に分析した研究水準以外の点では,研究者や民間企業は日本の研究社会を具体的にどのように考えているのだろうか。

第1-3-13図 研究開発についての日本国内の空洞化の懸念(業種別)

(企業の国際展開と空洞化)

 上に示したように,研究開発の空洞化の懸念を抱く企業が過半数にのぼっている。しかし,企業の国際展開の内容は,一面では,企業が研究開発に求めているものを反映している。

 「民間企業研究活動調査」によればなんらかの国際的取組をしている民間企業は65%にのぼっている。その取組の内容としては,45%の企業が生産拠点の海外進出を挙げているほか,外国企業との技術提携(35%),外国企業との共同研究(19%)がこれに続いている。しかし,研究開発拠点の海外進出を挙げた企業は13%にとどまっており,一見,研究開発の空洞化は,さほどは進んでいないように見える( 第1-3-14図 )。

第1-3-14図 民間企業の国際展開

 国際展開の相手先国を取組別に見ると,生産拠点の進出と研究開発の取組では大きな違いが認められる。生産拠点の進出の場合,相手国として最も多く挙げられた国はASEAN諸国であり,中国,米国,アジアNIESがこれに続いている。しかし,研究開発拠点の設置や外国の企業,大学研究機関との共同研究では,相手先国として特に多く挙げられているのは米国であり,欧州がこれに続いている( 第1-3-15図 )。

第1-3-15図 企業の国際展開の相手先国

 企業の国際的な取組のうち,企業が海外と共同研究を行う目的を取組毎に見てみると, 第1-3-16図 のようになる。外国の企業,大学,研究機関との共同研究のいずれの取組の場合にも,「技術シーズの探索」,「海外における優秀な研究者の活用」,「先端技術の修得」が主な目的として挙げられている。また,外国企業との共同研究の場合には,これらの目的以上に海外ニーズに対応した製品開発が重要視されている。

第1-3-16図 海外との共同研究の目的

 企業が海外に研究開発拠点を置く理由については, 第1-3-17図 のようになる。米国や欧州では「海外のニーズに対応した研究開発」が最も多く,「生産拠点の技術力強化」,「技術の芽(シーズ)の探索」,「海外における優秀な頭脳の確保・活用」,「外国の大学,企業等との共同研究の推進」がこれに続いている。また,アジアでは「生産拠点の技術力強化」「海外のニーズに対応した研究開発,製品改良のため」が主な理由となっている。

第1-3-17図 研究開発拠点設置の理由

 これらを総合すると,企業が研究開発の国際展開に求めているものは,大きく2種類に分けることができる。一つは海外の市場開拓に際し必要となるもの,すなわち,海外ニーズに対応した研究開発,製品改良のための研究開発や生産拠点の技術力強化などである。今一つは,海外の「技術シーズ」,「海外における優秀な研究者」,「先端技術」などである。すなわち,既に論じた研究水準や技術水準の高さであり,高い研究水準とともにはぐくまれた人材である。研究施設や設備を「ハードなインフラストラクチャー(研究基盤)」と呼ぶとすれば,これら研究水準,技術水準の高さや研究人材といった「ソフトなインフラストラクチャー」とも呼ぶべきものが求められているのである。

(研究環境の比較)

 日本の研究環境について,民間企業や研究者に国際比較を求めたところ,概して,日本の研究環境よりも米国や欧州が優れているという傾向が見出された( 第1-3-18-図(1),(2) )。ここでは,具体的にどのような点について海外の研究環境が日本より優れているかについて分析を進めるが,民間企業がその国際的な展開に求めていた「ソフトなインフラストラクチャー」は,日本と海外の研究比較においては研究開発拠点の立地条件として海外が日本よりも優れている点として挙げられている項目の中にも見出すことができる。

第1-3-18図

 「民間企業研究活動調査」によれば,研究開発拠点の立地条件について海外が日本より優れている点として,欧米に共通するものとしては,優れた研究機関・研究施設の存在,優れた研究人材の確保が可能であること,高い技術を持った企業群が存在していることを挙げられている。特に,米国については,76%の回答が情報基盤の整備の面で日本より優れているとしている。これに対し,アジア諸国で日本より優れていると考えられている点は,人件費,電力費等のコストが安い点にとどまっている( 第1-3-19図 )。また,「先端科学技術研究調査」で,海外の研究環境の方が日本よりも優れていると回答した研究者に,具体的に海外が優れている点を質問したところ,米国,欧州,アジアに共通して回答が多かった項目は「研究補助者等の人材が豊富である」ことおよび「研究交流が盛んである」ことであった。このほか米国については,「研究施設・設備が優れている」,「研究費が潤沢である」といった回答が,欧州については,「研究施設・設備が優れている」,「研究者の社会的地位が高い」,アジアについても「研究者の社会的地位が高い」といった回答が多い( 第1-3-20図 )。

第1-3-19図 研究開発の立地条件として海外が日本より優れている点(民間企業)

第1-3-20図 日本より海外の研究環境が優れている点(研究者)

 これらの結果を総合してみると,海外の研究環境が日本より優れている点として,「ハードなインフラストラクチャー」を主体とした「優れた研究機関・研究施設の存在」とともに,「優れた研究者・研究補助者の存在」,「高い技術を持った企業群の存在」,「盛んな研究交流」,「研究者の社会的地位が高いこと」といった項目が挙がっており,これらは,科学技術を進める文化をも含んだ「ソフトなインフラストラクチャー」に他ならない。

 従って,我が国が創造的研究開発の国際的中核拠点の一つとなるためには,欧米と同等以上の国際水準にある研究環境を整備するとともに,我が国の研究社会を内部で,国際的に,また,次章で述べるように社会に開くことにより,優れた研究開発を進める文化を我が国に根付かせることが重要である。これにより,国際的に優れた研究者が日本に集って活発に研究開発を行い,また,これら研究者の影響下で,国際的に優れた人材が育てられるような研究社会を構築する必要がある。

 しかし,このような優れた科学技術が進められる文化が根付かなかった場合,我が国は科学技術において,欧米先進国の後塵を拝するのみならず,アジア等の途上国から学びに来る対象としての魅力も失うこととなる。まさに,民間企業への調査からも示されているように我が国の研究開発の空洞化が進む懸念が生じるものと考えられる。


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