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第1部   開かれた研究社会の創造をめざして
第2章  これまでの取組と研究者や民間の意識
第2節  研究者や民間企業はこう考える
3.  研究者の創造性をはぐくむ取組について


 開かれた研究社会に向け,研究者の創造性をはぐくむ取組は研究者の交流の促進とともに重要な課題である。なかでも研究者の流動性を増すことと優れた人材を育てる取組に関連して研究者や民間企業はどう考えているかを分析する。


(1) 研究者の流動化について

(研究者と流動化)

 研究者に多様なキャリア・パス(研究経歴)を積むことを可能とし,研究開発活動の活性化と研究者の創造性を高めるために,研究者の流動化が進められつつある。具体的には,研究者に任期付任用制を導入することや研究機関における外部の研究者の登用を進めることが取り組まれている。一般論として,研究人材の流動化に賛成する研究者の声は多いが,自身の流動化に関することとなると,意見は若干変化する。

 まず,我が国ではどのくらい研究者の流動化が進んでいるのだろうか。「先端科学技術研究者調査」によれば,流動化(他所属機関からの中途採用やスカウト,任期付雇用契約等)を経験したことのある研究者は平均して約32%に達している。機関別に見ると大学の研究者が最も多く45%に達しており,国研等,民間企業の順に低くなっている( 第1-2-16図 )。年齢別に見ると,流動化の経験の割合が最も多いのは60歳以上のグループであり,以下,40歳未満,50〜59歳,40〜49歳のグループと順次経験割合は低下している( 第1-2-17図 )。60歳以上のグループで流動化の経験の割合が最も高いことは,このグループの研究者の多くが既に各研究機関での定年などを迎えていることを反映しているためと考えられる。その他の年齢層の比較からは,若干ではあるが若手の研究者に流動化の経験が多くなっているといえる。

第1-2-16図 流動化経験の有無

第1-2-17図 流動化経験の有無(年齢別)

 現在,流動化を経験した研究者はこのように全体の3割程度であるが流動化を好ましいと思っている研究者は全体の約三分の二に達している。特に,流動化の経験のある研究者は8割近くが流動化を好ましいと考えている( 第1-2-18図 )。

第1-2-18図 研究者の流動化は好ましいと思うか(流動化経験別)

 多くの研究者が好意的に受け止めている研究者の流動化について,メリット,デメリットはどのように考えられているのであろうか。

 流動化のメリットに関する意見については,流動化の経験の有無による差はあまりなく,「組織を活性化する」,「(研究者の)交流の拡大により新しい知見が得られる」を選んだ研究者が多い( 第1-2-19図(1) )。しかし,流動化のデメリットについては経験の有無により若干意見が異なってくる。「研究期間が短くなり,満足な成果が得られない」という意見については流動化経験の有無に関わらず4割強の研究者が指摘していたが,「組織としてのまとまりがなくなる」,「研究情報,ノウハウが流出する」という意見は流動化経験のない研究者が高い割合で指摘している。また,給与や研究評価の処遇面で差が出るという意見は流動化を経験した研究者により多く見られる意見である( 第1-2-19図(2) )。

第1-2-19図

 研究者は一般論としては流動化に好意的であるが,自身の流動化については一転慎重になる傾向も明らかになっている。「流動的研究員制度に応募を希望するか」という問に対して,今回調査された研究者の中で希望すると答えた研究者は全体の17%にとどまっている。流動化の経験のある研究者とない研究者で比較すると,「希望する」と答えた研究者の割合は,経験者の場合,未経験者よりも7%高くなっているものの,21%にとどまっている。年齢別に見ると,40歳未満の若手研究者と60歳以上の研究者で「希望する」と答えた割合が40〜50歳の研究者の場合よりも高くなっている。研究者としての経歴をこれから積もうとしている年代と自らの研究能力に自信を持ちつつ第二のキャリアを求めているグループの流動化への希望が反映されたものと考えられる( 第1-2-20図 )。

第1-2-20図 流動的研究員制度へ応募するか

 このように,研究者が自らの流動化について比較的慎重になる背景としては,流動化に伴う身分の不安定さに対する不安があると考えられる。研究者の流動化を進め,活力ある研究社会を構築するためには,研究者にプラスになるように,つまり,優れた研究者が我が国の研究社会で評価され,より広いキャリア・パスを与えられるように制度を運用するとともに,流動化の導入が研究者に処遇面での不安を起こさないような配慮も必要である。

(民間企業にとっての研究者の流動化)

 研究者の流動性を高めるため国や大学では任期を限った研究者の任用などが進められつつあるが,我が国の研究者の約65%を擁する民間企業では研究者の流動性を高めることをどうとらえているのだろうか。

 「民間企業研究活動調査」によれば,研究者の中途採用を行っている企業は44%であり,企業における研究者の中途採用は増加傾向にある。任期を限った研究者の採用についてはまだ一般的ではなく13%の企業が行っているにすぎないが,やはり増加の傾向にある( 第1-2-21図 )。

第1-2-21図 ここ3年間の研究者の採用数の増減

 しかし,研究者を中途採用したり,任期を限って採用したりすることに関しての民間企業の意向としては,「特にない」という回答(約5割)を別にすれば,「自社の研究開発人材を補うために積極的に採用したい」(40%)という意見が最も多い( 第1-2-22図 )。民間企業は,中途であるいは任期を限って採用する研究者には即戦力としての役割を期待しているといえる。

第1-2-22図 今後,任期付き研究者や中途採用の研究者を採用する上での考え

 これまで見てきたように,民間企業における研究者の処遇についても流動性が徐々に高まりつつある。また,民間企業では,近年,管理職を中心に年俸制の導入が進みつつあるなど,年功序列を中心とした雇用から能力を重視する処遇への移行もはじまりつつある。したがって,今後,国や大学での取組をきっかけに,研究者の流動性が高まり,創造性に富んだ研究者の移動がより柔軟に行われるようになれば,民間における研究者の流動性も高まっていくのではないかと考えられる。科学技術基本計画でも述べられているが,民間企業においても固有の事情を配慮しつつ研究者の流動化の検討や導入が進められることが期待される。


(2) 優れた人材を育てる取組に関連して

(民間企業と博士研究者)

 若手の優れた研究者の養成・確保のためポストドクトラル研究者の支援を進め,キャリア・パス(研究経歴)としてのポストドクトラル制度を確立するとともに博士課程修了者を広く活用することが重要な課題となっている。

 「民間企業研究活動調査」によれば,博士課程修了研究者の採用は6割近くの企業では未だにないものの,近年増加の傾向にある( 第1-2-23図 )。また,博士課程修了研究者の処遇については,特に制度を設けて処遇していない企業が約8割に上るものの,給与面,研究の進め方,昇進などに関連して特別な制度を設けている企業もそれぞれについて1割程度ずつ存在する( 第1-2-24図 )。

第1-2-23図 ここ3年間の博士課程修了の研究者の採用数の増減

第1-2-24図 博士課程修了の研究者の待遇のために設けられている制度等

 博士課程修了研究者の能力が十分に発揮されるようにするため,また,優れた研究者となる可能性を秘めた若者が博士課程をめざすことを奨めるために,産業界においてもこれらの研究者の採用の一層の増加や処遇の改善が図られることが期待されている。

(女性研究者の参画について)

 男女雇用機会均等法が制定されて10年が経過した。 第1節 で述べたように,我が国の研究者の中で女性研究者が占める割合は年とともに増加しつつあるものの,依然低い割合にある。国については,科学技術基本計画において,女性の能力を研究社会においても活用するべく「女性の研究者及び研究支援者への採用機会等の確保及び勤務環境の充実を推進する」とされているが, 第1-2-3図(3) ( 第1節2. )に示されているように大学,研究機関に比べて女性研究者の割合が低い民間企業はどのように考えているのだろうか。

 まず,女性研究者の採用については,女性の理科系の卒業生が全体の17.6%と男子に比べて少ないことも原因の一つとは考えられるが,半数弱の企業が「採用なし」と回答している。しかし,3年前に比べ女性研究者の採用が減少したと回答した企業が約8%であるのに対し,増加したと回答した企業の割合はその倍近くに上っており,女性研究者の採用は増加傾向にある( 第1-2-25図 )。また,女性研究者の待遇のために特別に制度を設けているという企業は全体の1割程度であり,具体的には,勤務形態で特例を設けているという企業が最も多く約5%を占めている( 第1-2-26図 )。

第1-2-25図 ここ3年間の女性研究者(外国人を除く)の採用数の増減

第1-2-26図 女性研究者(外国人を除く)の待遇のために設けられている制度等

 これに対し,女性研究者の職場環境に関する研究者の見解は 第1-2-27図 のようになる。まず,全般的な傾向として,すべての項目について,男性研究者,女性研究者ともに,「男性が有利」との回答の割合は「女性が有利」と答えた回答の割合よりも多くなっており,研究者は,若干であっても,比較的男性に有利な職場環境であると答えている。しかし,研究開発に特有な項目である「学会への参加」,「成果の発表の機会」では性別による有利,不利を感じている研究者は少ない。性別による有利,不利を感じるとの声が顕著に表れる項目は,(出産後等の)職場復帰,出産・育児等と研究(仕事)の両立など,研究職以外の女性も同様に抱える問題である。能力による評価,昇給・昇格といった評価に関係する項目でも女性が不利という意見が多い。また,研究者同士のネットワーク,コミュニケーションや研究費の配分といった項目でも多くの女性研究者が不利であると感じている。

第1-2-27図 女性研究者にとっての職場環境についてどう考えるか

 これらの結果は,研究者が考える「女性研究者が少ない理由」にも反映されている。「先端科学技術研究者調査」によれば,男女ともに出産等で研究の継続が難しいことを理由に挙げた研究者が6割近くに上っている。また,受け入れ体制が整備されていないことを理由に挙げた研究者も女性では約6割,男性では約4割に上っている。これに対し男性と女性で意見が分かれる項目もある。男性研究者の約6割は自然科学系の女子学生が少ないことを女性研究者が少ない理由に選んでいるが,この項目を選択した女性研究者は2割弱にとどまっている。女性研究者の24%は女性研究者の処遇が低いことを問題にしているが,男性研究者では9%にとどまっている( 第1-2-28図 )。

第1-2-28図 女性研究者が少ない理由

 では,研究者は女性研究者が働きやすい研究環境を創り出すために何が必要と考えているのだろうか。男性研究者,女性研究者を問わず,4割近くが「家族や地域社会の理解と支援が必要」という項目を選択している。女性研究者の場合には,同じ割合の研究者が「男女に関わりない能力評価の徹底」を選択しており,「各種制度の運用の改善」(38.0%)がこれに続く。一方,男性研究者の選択が二番目に多かった項目は「育児・介護休暇制度の整備」(34.1%)であり,「各種制度の運用の改善」(29.1%)がこれに続いている。

 働く女性に共通の課題として,周囲の理解と協力が最も必要とされているとともに,女性研究者の視点からは,能力評価の点などでまだ機会が均等でないという現状が示唆される( 第1-2-29図 )。

第1-2-29図 女性研究者の働きやすい環境


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