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第1部   開かれた研究社会の創造をめざして
第1章  いま,開かれた研究社会が求められている

 科学技術基本計画では,(1)独創的・革新的な技術を産み出すことにより,経済フロンティアの拡大,高度な社会経済基盤の整備や新産業の創出などを図り,活力ある豊かな国民生活を実現すること,(2)科学技術により地球環境問題や食料,エネルギー・資源問題など地球規模の諸問題の解決に貢献すること及び(3)国民の健康の増進や疾病の予防・克服や地震などの災害への対策など生活者のニーズにこたえる研究開発を推進して安心して暮らせる潤いのある社会を構築すること,の3点のような社会的,経済的ニーズに対応した研究開発を積極的に推進するとともに,基礎研究の積極的な振興により人類が共有し得る知的財産を産み出し,人類の文化の発展に貢献することを研究開発の推進の基本的方向としていくこととしている。

(創造的研究開発を進めるために)

 このため,同計画では,今後の社会・経済動向,引き続き厳しいと見込まれる財政事情等を勘案するとともに,科学技術の振興に十分な配慮を行い,同計画に掲げる施策の推進に必要な経費の拡充を図ることとしている。これにより,科学技術におけるフロントランナーの一員にふさわしい研究環境を実現するとともに,創造的な研究開発活動を効果的に進めるため,新たな研究開発システムを構築することとしている。

 新たな研究開発システムでは研究者の創造性を高めるため,これまでの我が国の研究社会で不十分だった研究開発における柔軟性や競争性を高め,組織の壁を越えた連携・交流を図ることが求められている。研究者相互に開かれた研究社会が求められているのである。さらに,内部的に研究者間相互に開かれているだけでは我が国のめざす研究社会は実現し得ない。創造的な研究開発の成果が豊かで潤いのある国民生活の実現や人類の持続的発展に活かされるためには,研究開発に社会的・経済的要請が適切に反映され,その成果が国民に還元されることが必須である。このため,我が国がめざす研究社会は,国民に対しても開かれていなくてはならない。

(国際社会で科学技術創造立国にふさわしい役割を担うために)

 人類が直面する課題の解決のため,人類共通の知的資産としての科学技術の発展のため,また,我が国が科学技術創造立国にふさわしい役割を国際社会で担うため,研究社会を真に国際的に開かれたものとする必要がある。

 例えば,地球規模問題は人口の急増,食料需給,資源・エネルギー,環境といった単独でも複雑な問題が相互に関連し合うとともに,時間的・空間的に広がったものである。その解決にあたり,科学技術のフロントランナーたる国々には,科学技術力の中核的拠点として,国際的な協力に体系的かつ主体的に取り組むことが求められる。各国の優れた研究者が英知と創造性を結集して問題に取り組むことを可能とするため,国際的に開かれた環境の下での国際的な共同研究や研究計画が必要となっている。

 これまでも制度の改善などにより,対外的に我が国の研究社会を開く努力は続けられてきたところであるが,我が国の研究環境を世界の優秀な研究者にとって魅力のあるものとする一層の努力が必要である。

(科学技術の学際的・総合的展開からの要請)

 また,開かれた研究社会は,科学技術の学際的・総合的展開の観点からも重要となってきている。科学技術の進歩に伴い,近年,学際的取組を必要とする新たな研究領域が急増しつつある。例えば,我々の脳の働きを解明しようとする脳科学の分野では,数学者により提唱された脳の神経回路モデルが小脳のシナプス可塑性 (注1) を担う生理機構の発見につながったり,機能核磁気共鳴断層装置(fMRI) (注2) や陽電子放射断層撮影装置(PET) (注3) 等の開発は生体の脳の活動状況の測定を可能とし,脳の生理機能の研究に貢献するなど,学際的な取組が多くの成果を生み出している( 第1-1-1図 )。


(注)1.シナプス可塑性:

 シナプス(神経細胞の間の信号の伝達が行われる突起部分)では,神経伝達物質によって信号が伝達される。シナプス可塑性とは,神経伝達物質の放出とその受容状態の変化が一定時間継続する状態をいう。


(注)2.機能核磁気共鳴断層装置(functional Magnetic Resonance Imaging):

生体内の水素原子の状態をコンピュータにより画像化して,脳などの生体の精密な断層画像を描き出すとともに血中ヘモグロビンの酸素量によって,その活動状態を画像化する装置。


(注)3.陽電子放射断層撮影装置(positron Emission Tomography):

炭素・窒素・酸素などの生体を構成する物質の放射性同意元素を目印に用いて血流量や代謝物質の状態を計測することにより,脳の活動状態を画像化する装置。

第1-1-1図 脳科学研究の取組

 これまで,人文・社会科学が中心だった分野でも自然科学も含めた学際的取組がなされている。たとえば,従来から考古学,人類学などを中心に進められてきた古代の日本人の文化や起源を探る試みにおいては,C14(炭素14)を使った年代測定法などの分析技術が活用されてきた。しかし,遺伝子解析技術の進歩を応用して,古代人の人骨から取り出したDNAを鑑定し,そのパターンを比較することにより分子レベルで人類の系統的変遷を追跡することも近年進められており,発掘品や人骨の形状の比較による考察が中心だった研究に新しい展開をもたらしている。

 このように学際的取組は,従来の科学技術の枠組みにはない発想や総合的アプローチにより我々に新たな発展をもたらす可能性を秘めており,その推進のためには,学問分野や研究機関といった従来の壁を越えた人的交流や協力が可能となるよう研究社会を開く必要がある。

(国民にも開かれる必要がある)

 さらに,研究社会は国民に対しても開かれたものでなければならない。科学技術はより深く日常生活に浸透するとともに,社会における重要性を一層増しつつある。その結果,国民ひとりひとりが科学技術を理解し,適切な判断の下に科学技術を効果的に活用していくことが必要となる。しかしながら,高度化を続ける科学技術は,ともすれば,国民には見えにくく,離れたものとなりつつある面がある。

 また,科学技術は我々の倫理観にも問題を提起する。最近,英国では成長した羊の体細胞を用い,成獣と全く同じ遺伝子を持つクローン羊を作り出すことに成功した。この技術は食料の増産など産業技術への応用や染色体と発生の関係など生命科学の分野で有用な知見をもたらす反面,我々の生命観や親子観にも大きな影響を及ぼすものであることから,世界的にクローン技術と生命倫理についての議論が巻き起こされている。我々ひとりひとりにはこういった技術の持つ意味を理解し,倫理観への問題提起に関し,幅広い観点からの議論や検討が必要となってきている。

 このため,研究社会を国民に対しても開かれたものとし,国民が科学技術に関して理解した上で判断を下し,それを踏まえて,活用できるようにする努力が重要となる。とりわけ若者の科学技術離れの傾向が以前から指摘されてきたが,彼らが科学技術を身近なものとして受入れ,これに興味を持つようになることは,我が国が将来,科学技術を基盤として国の発展を図るためには不可欠である。

 また,我が国の研究者数は,現時点では増加傾向にあり,専従換算されていないため,正確な比較はできないものの,欧米主要国と比べても相対的に多い。しかし,少子化,高齢化時代の到来が予想される我が国では,次代を担う厚い研究人材層を確保することが我が国の活力維持のために重要な課題となる。このため,科学技術に興味を持ち,科学技術に関連する職業を選択する若者を確保するという観点からも研究社会を広く社会一般に開くことが必要である( 第1-1-2図 )。

第1-1-2図 年齢3区分別人口割合の推移:中位推計の結果

(開かれた研究社会がめざすもの)

 上記のような要請から研究社会を開くことの目標は,科学技術創造立国にふさわしい創造的な科学技術をはぐくむ文化を我が国に根付かせることにある。科学技術基本計画の下で,各種の制度改革をはじめとする取組により柔軟で創造的な研究環境作りを進めるとともに,公正な研究評価や研究者の意識改革により,真に独創的な研究活動がはぐくまれるようにすること,また,国全体としてこうした研究活動が尊重されるような文化を創り出すことである。

 こうした文化を根付かせることにより,最終的には我が国を国際的に魅力のある研究開発の舞台とし,世界各国から優れた研究人材が集い活発で多様な研究活動が進められるとともに,国際的に傑出した人材がはぐくまれるようにすることが可能となる。このようにして,我が国の未来へ向けての基盤を築くとともに,「知」の最先端を切り拓き人類全体に貢献することをめざすことが重要である。


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