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第3部  科学技術の振興に関して講じた施策
  第3章研究活動の推進
第2節  重要研究開発分野の推進



1. 基礎的・先導的な科学技術
(1) 物質・材料系科学技術

物質・材料系の科学技術は,原子・分子レベル,あるいは強磁場,超高真空,超高圧等の極限環境における現象・機能の解明を通して新たな科学的知見を蓄積してきただけでなく,新材料が過去において,経済社会に及ぼした影響は極めて大きなものがあり,新超伝導体の発見にみられるように,新しい材料の出現が,新しい技術を開拓し関連技術にも質的変化をもたらし,産業に対してはもちろんのこと社会に対しても大きなインパクトを与えてきた。

特に,近年,情報・電子,ライフサイエンス等の先端科学技術分野においては,未踏分野を切り拓く革新的な研究開発の多くは新たな材料にシーズを求めており,独創的な研究開発を推進し,科学技術創造立国を図っていく上での共通的・基盤的技術として物質・材料系科学技術の重要性がより高まっている。

また,現在推進されている超高速コンピュータ,核融合,宇宙開発,海洋開発等大規模なプロジェクトの推進に必要な新たな材料の研究開発の重要性が高まっており,これらのプロジェクトに適合する材料が求められている。

このような状況から,新材料の創製が課題となっている。

1) 総合的な物質・材料系科学技術の推進

物質・材料系科学技術については,以上のような認識の下に,科学技術会議,航空・電子等技術審議会等の答申に沿って各般の物質・材料系科学技術施策が進められている。

科学技術会議は,諮問第14号「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画について」(昭和61年5月)を受けて,本分野における研究開発目標及び推進方策に関する検討を行い,昭和62年8月に答申した。これを受け,政府は同年10月,「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画」を決定した。

また,同会議は,第18号答申「新世紀に向けてとるべき科学技術の総合的基本方策について」(平成4年1月)を行い,この中で既成の限界を打破した高性能・新機能の物質・材料の開発等の必要性を指摘している。

航空・電子等技術審議会においては,これまで,諮問第5号「極限科学技術とこれに関連する材料科学技術に関する総合的研究開発の推進策について」に対する答申(昭和55年8月),諮問第7号「材料設計理論に基づいた新材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(昭和59年9月),諮問第9号「新材料開発に係る計測及び制御技術の高度化のための重点課題及びその推進方策について」に対する答申(昭和61年3月)及び諮問第13号「環境条件に知的に応答し,機能を発現する能力を有する新物質・材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(平成元年11月,諮問第16号「材料開発に係わる解析・評価技術の高度化に関する総合的研究開発の推進について」に対する答申(平成3年11月),諮問第21号「原子・分子レベルの現象,機能の解明のための計算科学技術に関する総合的な研究開発の推進方策について」に対する答申(平成7年2月)を行い,物質・材料系科学技術の総合的推進方策を示した。

2) 物質・材料系研究開発の推進

広範多岐にわたるニーズを背景として,各省庁において様々な物質・材料系科学技術に関する研究開発が活発に進められている。

科学技術庁においては,物質・材料系科学技術全体に係る共通的・基盤的分野を推進するため,金属材料技術研究所,無機材質研究所等において研究開発を推進するとともに,創造科学技術推進制度(新技術事業団),フロンティア研究システム,(理化学研究所),科学技術振興調整費等各種制度により物質・材料系科学技術に関する研究を実施している。

文部省においては,東北大学に附置されている共同利用研究所である金属材料研究所等を中心として,独創的・先端的な物質・材料研究を展開するとともに,研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として,大学等における独創性豊かな学術研究を推進すべく,物質・材料系科学技術の基礎的研究が行われている。

農林水産省においては,「新需要創出のための生物機能の開発・利用技術の開発に関する総合研究」の一環として,バイオプラスチック・シルクレザー等の生物素材に係る研究開発を実施している。

通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,物質工学工業技術研究所等を中心に「超耐環境性先進材料」等の新材料の加工技術等に関する研究開発が実施されている。

また,物質・材料系科学技術水準の国際的向上を図るため,国際共同研究助成事業(NEDOグラント)により,国際共同研究チームが行う基礎的先導的研究開発を推進している。

3) 超伝導に関する研究開発の推進

1986年(昭和61年),スイスIBMチューリッヒ研究所における発見を契機として,昭和63年1月の科学技術庁金属材料技術研究所におけるビスマス系超伝導体の発見など,高い温度でも超伝導現象を生じる酸化物系の新しい超伝導物質が相次いで発見された。この新超伝導物質は,それらが実用化されれば経済社会に大きなインパクトを与えるものとして,世界的に大きな期待が寄せられている。しかしながら,これら酸化物系超伝導体はまだ材料以前の段階であり,実用材料として利用されるようになるためには今後,理論の解明,新物質の探索,材料化等の基礎的・基盤的研究開発が重要である。このような点にかんがみ,科学技術会議政策委員会の下に設けられた超電導に関する懇談会が昭和62年11月に取りまとめた「超電(伝)導研究開発の基本的推進方策について」等を踏まえ,関係省庁において本分野の研究開発が推進されている。

科学技術庁においては,金属材料技術研究所,無機材質研究所,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,宇宙開発事業団,理化学研究所等が有するポテンシャルを最大限に活用し,研究基盤を整備するとともに,当該ポテンシャルを核として,国内外に開かれた研究者主体の柔軟な共同研究,研究署交流及び情報交換並びに技術展開を推進する「超伝導材料研究マルチコアプロジェクト」により,超伝導材料の基礎的基盤的研究を推進している。

文部省においては,科学研究費補助金等により基礎的研究が行われている。

通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度等の諸制度を用い,電子技術総合研究所などを中心に産学官の連携のもとに超電導材料・超電導素子の研究開発などを行っている。また,超電導に関する研究開発等を行っている(財)国際超電導産業技術研究センターへの委託を行っている。

郵政省においては,通信総合研究所を中心に産学官の連携により推進している電気通信フロンティア研究開発の一環として,「高温超電導体による超高速・高性能通信技術の研究開発」において,将来の超高速,・高性能通信技術の実現を目的とした超伝導技術を用いた電気通信技術の研究開発を実施している。

運輸省においては,将来の高速輸送を目的とする超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けて研究開発を促進するため(財)鉄道総合技術研究所への助成等を行っている。

4) 物質・材料系科学技術の国際協力の推進

1990年(平成2年)5月に日米科学技術協力協定に基づく協力課題となちた「強磁界マグネットの開発のための研究」(金属材料技術研究所‐米国国立科学財団(フランシスビッター国立磁石研究所))等の二国間国際協力や,「新材料と標準゛に関するヴェルサイユプロジェクト (VAMAS)」等の多国間科学技術協力などにより,数多くの共同研究,研究者交流などを推進している。

また,標準の分野でも国際電気標準会議(IEC)に超電導専門委員会(TC90)が新設され,1990年(平成2年)から我が国が幹事国となった。

なお,平成7年度に実施された主な物質・材料系科学技術分野の研究課題は 第3-3-1表 に示すとおりである。

第3-3-1表 主な物質・材料系科学技術分野の研究課題(平成7年度)




(2) 情報・電子系科学技術

1) 情報・電子系科学技術振興の意義

高度情報化社会への移行が本格化する中で,情報・電子系科学技術が果たす役割は,ますます重要になりつつある。これまで,情報・電子系科学技術は,半導体やコンピュータ等の高度化・高機能化を通じて,経済や社会活動に大きな変革をもたらしてきている。今後は,さらに情報の量的・質的な増大が予測されており,これらの情報を適正に処理・伝送するため,知識処理や曖昧性の処理等の情報処理の高機能化,多様な入出力形態の情報の効率的で正確な伝達,情報処理・伝送のヒューマンインタフェース等の研究開発が強く望まれている。

このような認識の下に,科学技術会議では諮問第15号「情報・電子系科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申(平成元年3月)において,今後10年間程度を展望した重要研究開発目標及び研究開発のための推進方策を示した。

2) 重要研究開発課題

(1)素子等

高速画像処理,高速大容量情報伝送はもとより,高度なヒューマンインタフェースを実現するための,あるいは知的な情報の処理・伝達・蓄積等の発展につながる高速論理素子の研究開発及び大容量記憶素子の研究開発が不可欠である。

また,中・長期的な視点からすると,電子の量子的な振舞い,原子が人工的に制御された材料の特性,生体内のミクロな機能,構造等に関する物理的・化学的研究及びそれらの工学的利用のための研究開発が重要な位置を占めている。

具体的な研究課題としては,科学技術庁金属材料技術研究所の「液滴エピタキシー法による高性能光電素子用材料の創製」やに通商産業省の産業科学技術研究開発制度による電子技術総合研究所を中心とした「量子化機能素子」,「超電導材料・素子」,「バイオ素子」の研究開発,郵政省の通信総合研究所における「ミリ波・サブミリ波帯デバイス技術の研究開発」,電気通信フロンティア研究開発の一環としての「高精度情報通信のための分子素子技術の研究開発」等がある。

(2)情報の処理

高速化,処理容量の増大とともに,情報が持っている意味レベルの内容の理解や,機能自らが推論・学習・判断するといった高度かつ高機能な情報処理の実用化が期待されている。このため,ハードウェアの高度化・高機能化だけでなく,ソフトウェアの高度化・高機能化や新しい概念に立ったアルゴリズムやプログラム言語,アーキテクチャーの研究一開発,オープンシステム化の推進が急がれている。

具体的には,あいまいな言語表現や知識表現を理解し,帰納推論・類推・学習等を行うファジィシステムやニューロコンピュータに関する基礎的・基盤的技術の研究がある。この分野の研究として,科学技術振興調整費により,「センサフュージョンの基盤的技術の開発に関する研究」が実施されている。また,通商産業省ではリアル・ワールド・コンピューティング(RWC)といわれる「新情報処理技術開発」,産業科学技術研究開発制度による「新ソフトウェア構造化モデルの研究開発」が,電子技術総合研究所では「柔軟な知能情報処理に関する研究」等が行われている。

(3)  ヒューマンインタフェース

本来,情報システムは人間の活動を支援し,豊かにするための道具であるが,現状ではどちらかといえば,人間側が大きな労力を費やして情報システム側に合わせることにより操作を行っている。今後,情報システムの能力を十分に活用していくためには,誰もが,それぞれの個性に応じて,手軽に操作できる,人間を中心に考える立場に立った高度なヒューマンインタフェースの構築が必要不可欠となっている。

このためには,人間の情報処理機能の解明を目指す認知科学や心理学に根ざした基礎的研究,創造性支援のための応用研究等が望まれている。

この分野の研究として,科学技術振興調整費により「知的生産活動における創造性支援に関する基盤的研究」および「バーチャル・リアリティ利用による地域産業の高度化に関する研究」が,農林水産省では,フィージビリティスタディとして,「農林水産業における高度情報システムの開発に関する調査研究」が,郵政省では電気通信フロンティアの一環としての「ネットワーク・ヒューマンインタフェースの研究開発」及び情報通信基盤の基礎的・汎用的技術開発の一環としての「ユニバーサル端末技術の研究開発」等が,通商産業省では産業科学技術研究開発制度による「ヒューマンメディアの調査研究」が行われている。

(4)情報の伝達

情報化社会の到来とともに通信への依存度が急速に増加しており,通信の高速化,大容量化,高度化に対する研究が強く望まれている。

有線系伝送路については,コヒーレント光通信方式などの超大容量・長距離伝送用,無線系伝送路については,ミリ波がら紫外領域にわたるより高い周波数領域用の発振器等の素子・部品・周辺回路,アンテナ,変調方式等の技術の研究開発が進められている。

さらに,将来の通信と目されている量子光通信など新しい原理に基づいた通信技術の研究,あるいは小型通信衛星や成層圏無線中継システム等の新しい通信技術の研究も進められている。

通信の高度化としては,さらに,多様な接続形態を実現させる柔軟なネットワーク,高度なニーズにこたえ様々なサービス機能を付加するインテリジェントネットワークの構築等が期待されている。この分野の研究として,郵政省においては,電気通信フロンティア研究開発の一環としての「超多元・可塑的ネットワーク基礎技術の研究開発」等,情報通信基盤の基礎的・汎用的技術開発の一環としての「超高速通信技術の開発」,先導的研究開発の一環としての「高度三次元画像情報の通信技術に関する研究開発」等が進められている。

(V)社会活動への適用技術

(1)〜(4)の技術を人間社会へ適用させて,豊かで快適な生活の実現という観点から医療,教育,生産,芸術活動等を支援する技術についての研究開発が進められている。この分野の研究として,具体的には,通商産業省が生命工学工業技術研究所,物質工学工業技術研究所,大阪工業技術研究所などを中心にして産業科学技術研究開発制度により「人間感覚計測応用技術」の研究等を実施しており,今後さらにこの分野の研究開発の促進が期待される。

平成7年度に実施された主な情報・電子系科学技術分野の研究課題は 第3-3-2表 に示すとおりである。

第3-3-2表 主な情報・電子系科学技術分野の研究課題(平成7年度)



(3) ライフサイエンス

ライフサイエンスは,種々の生物が営む生命現象の複雑かつ精ちなメカニズムを解明し,その研究成果を保健医療,環境保全,農林水産業,化学工業等における,人間生活に係る諸問題の解決に役立てようとするものであり,健康で豊かな国民生活の実現に大きく寄与するものと期待されている分野である。

1) ライフサイエンス研究の基本的推進方策

我が国においては,昭和46年,科学技術会議が第5号答申において,ライフサイエンス振興の重要性を指摘して以来,国として積極的に推進することとしており,その後も同会議の答申及び,昭和59年8月に内閣総理大臣決定された「ライフサイエンスにおける先導的・基盤的技術の研究開発基本計画」等に基づき,ライフサイエンス研究の着実な推進が図られている。

2) ヒトゲノム(遺伝情報)解析等の推進

ヒトゲノム解析は,ヒトの全DNAの塩基配列を読み取ることを目指した研究であり,がん,アルツハイマー病等各種疾病の原因解明・診断・治療,生物の進化のメカニズムの解明など幅広いライフサイエンスの基盤となるものとして今日不可欠となっている。

我が国では,ヒトゲノム解析の効率的な推進を図るため,平成2年9月に科学技術会議の下にヒトゲノム解析懇談会が設置され,翌年8月にヒトゲノム解析の推進方策に関する報告書が取りまとめられた。

また,平成6年6月にはその後のヒトゲノム解析の進展を踏まえ,新たに取り組むべき課題を抽出するべく「ヒトゲノム解析の当面の課題について」が取りまとめられている。この報告書では,ヒトゲノム解析を進める上での当面の課題として,DNAの塩基配列の決定(シークエンシング)の促進,シークエンシングの対象となるDNA材料整備の促進,遺伝子機能・ゲノム構造解析の促進,技術開発の促進の4つを挙げている。

これらを踏まえ,科学技術庁では,理化学研究所,放射線医学総合研究所において関連の研究を進めるとともに,国際的なヒト遺伝子地図情報のデータベースであるGDB(ゲノムデータベース)の開発・導入,また,平成7年度より日本科学技術情報センターにおいて,大規模なゲノム領域の塩基配列解読事業を実施している。文部省では,科学研究費補助金によるヒト・ゲノム解析研究の推進,東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの整備を行っている。厚生省では,老化・疾病に関連する遺伝子の解析を行っており,また,農林水産省では,農業生物資源研究所等を中心に,イネ・動物等を対象として,農業生産上有用な遺伝子の単離,DNA利用技術の開発及びその成果を体系的に収集・蓄積・提供するDNAバンク事業を実施し,特に,イネ・ゲノム解析においては,連鎖地図がほぼ完成に近づきつつあり,世界の植物ゲノム研究の中核として国際的に高い評価を得ている。さらに通商産業省では,有用微生物のDNAに関する基礎的研究基盤の整備及び研究開発等を実施している。

これまでの解析の推進の結果,ゲノム解析に対する様々な研究領域の研究者の関心及び理解が深まり,生物学的に重要な領域を対象とするDNA材料の整備とそのシークエンシング,cDNAの探索研究等において大きな進展がみられており,これらの成果を踏まえた遺伝子機能の推定等の研究開発の重要性が高まっている。

3) 組換えDNA研究の推進

組換えDNA研究は,基礎生物学的な研究はもとより,疾病の原因の解明,医薬品の量産,有用微生物の開発,農作物の育種等広範な分野において人類の福祉に貢献するものである。他方,組換えDNA実験は,生物に新しい性質を持たせるという側面があるため,その実施に当たっては慎重な対応が必要である。科学技術会議は昭和54年,第8号答申「遺伝子組換え研究の推進方策の基本について」において,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針を提示した。これを受けて同年,内閣総理大臣により「組換えDNA実験指針」が定められ,我が国でも様々な分野において組換えDNA実験が実施されるようになった。その後の科学的知見の増大に伴い,指針は遂次改訂されており,平成8年3月には,近年の組換えDNA研究の進展等を踏まえ,10回目の改訂が行われた。本指針のもとで行われる研究は年々増加する傾向にあり,今後とも安全性を確保しつつ科学的知見の増大等に応じて指針の見直しを行っていくこととしている。

一方,文部省においては,昭和53年に学術審議会がこの分野の研究者の自主的意見を充分に取り入れ,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針案を作成し,これに基づき,昭和54年に指針を告示した。その後も学術審議会の審議に基づき8回改訂を行い,大学等における研究の着実な進展を図っている。

また,組換えDNA技術の産業化段階における利用は,これまでOECDを中心に安全性評価についての国際的-な概念づくりが進められ,こうした流れに沿って我が国においても厚生省,農林水産省及び通商産業省がそれぞれの分野について作成した指針に基づくこととされており,産業レベルでの組換えDNA技術の応用に対応している。これらの産業利用に係る指針も,科学的知見の集積に伴い,逐次改訂されてきている。さらに組換えDNA技術の利用に当たって,OECDや生物多様性条約の締約国間で国際的調和を図るための検討が進められている。

遺伝子または遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与し疾患を治療する遺伝子治療臨床研究については,厚生省においては,平成5年4月に厚生科学会議でガイドラインを定め,平成6年2月には指針を告示するとともに,同月,臨床研究の科学的妥当性,倫理性を確保するため,実施計画を個別に審査する「遺伝子治療臨床研究中央評価会議」を発足させている。他方,文部省においても,大学等における遺伝子治療の臨床研究についてその適切な実施を確保するため,平成6年4月に学術審議会の中に遺伝子治療臨床研究専門委員会を発足させ,この関係について審議を行う場を設けるとともに,平成6年6月には大学等における遺伝子治療臨床研究についてのガイドラインを告示している。

厚生省,文部省における審議を経て,平成7年8月から北海道大学において,ADA(アデノシン・デアミナーゼ)欠損症の遺伝子治療臨床研究が実施されている。

米国での遺伝子治療の臨床研究の大部分は,企業が遺伝子治療用医薬品等の承認申請を目指して臨床試験として行われている。

日本においても遺伝子治療用医薬品の臨床試験が行われる可能性が出てきたため,厚生省においては,平成7年4月に中央薬事審議会バイオテクノロジー特別部会の下に遺伝子治療用医薬品調査会を設置し,遺伝子治療用医薬品の品質,安全性等に関するガイドラインの作成及び臨床試験を行おうとする企業の求めに応じ,臨床試験予定の遺伝子治療用医薬品がガイドラインに適合しているか否かの確認を拝うこととし,平成7年11月15日に「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保に関する指針」を通知した。

4) 脳・神経研究の推進

脳は,数多くの神経細胞から構成される情報処理器官であり,認知,思考,感情,意志等の高次機能を司っている。脳・神経機能の解明は,その高次機能を分子・細胞レベルから個体レベルまで明らかにするものであり,豊かな社会生活を築く上で不可欠となってきている。また,脳・神経及び精神の疾患の病態解明・治療・予防や,新たな原理による情報処理システムを構築する上で多大な貢献をもたらすものと期待されている。

科学技術会議は昭和62年に「脳・神経系科学技術の総合的推進に関する意見」を取りまとめ,その中で,脳-神経機能の解明,脳・神経系疾患の原因解明及び予防,診断,治療法の開発等の今後推進すべき重点研究開発目標とその目標達成のための推進方策を提示した。航空・電子等技術審議会は,その後の研究開発の進展状況等を踏まえ,平成6年6月の「脳・神経機能解明促進のための基盤形成に関する総合的な研究開発の推進方策について」(第19号答申)において,分子・細胞レベルからシステムレベル,高次機能レベルに至る一連の研究開発の重要性ばかりでなく,多角的アプローチや新しい技術開発等の必要性を指摘している。

科学技術庁においては,理化学研究所の国際フロンティア研究システムにおいて,思考機能研究,情報処理研究,ニューロン機能研究を実施するとともに,これらの研究を推進するための脳・神経科学研究棟の建設,また,科学技術振興調整費における「高次脳機能の分子機構解明に向けた基盤技術の開発に関する研究」等を実施している。また,文部省における脳の高次情報処理に関する研究,厚生省における精神・神経疾患研究,痴呆に関する研究,農林水産省における家畜・昆虫の脳神経系機能研究,郵政省における知覚機構モデルによる超高能率符号化技術の研究開発,通商産業省におけるバイオ素子,脳機能情報処理(ブレインウェア)に関する研究等関連の研究を実施している。さらに,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)において,平成2年より脳機能研究への国際的な支援が展開されている。

平成7年度に実施されたライフサイエンス研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-3-3表 のとおりである。

第3-3-3表 主なライフサイエンス分野の研究課題(平成7年度)




(4) ソフト系科学技術

1) 研究開発基本計画の決定

複雑化・高度化した社会において人間の知的活動の支援が求められ,また,モノ重視の大量生産・消費社会から脱皮し,ゆとりや豊かさを実感できる質の高い生活が求められている現在,科学技術のあり方は大きな転換期を迎えており,「人間や社会」の観点の重視が必須となっている。

このような時代背景にこたえるものとして,平成4年12月に科学技術会議諮問第19号「ソフト系科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申が出され,平成5年1月にソフト系科学技術に関する基本計画として内閣総理大臣決定された。

研究開発基本計画においては,ソフト系科学技術を「人間・社会,ハードウェアといった実体的対象の能力や機能を発揮させ,その最も有効な利用・運用を図るための科学技術」,言い替えれば,人間・社会に関する知見を基盤として,ハードウェアはいかに構成されるべきか,いかに動かすべきか,また,人間の知的能力や社会の活動能力をいかに支援し活性化していくかについて考えていく科学技術体系と捉え,その推進にあたっての重要研究開発課題,研究開発の推進方策を示している。

また,関連する報告として科学技術庁長官の諮問機関である資源調査会においても,平成4年7月に知的技術(人間の知的活動を支援又は代替する技術)について,その重要性,現状と将来展望及び今後の発展のための方策が取りまとめられている(報告第115号)。

2)研究開発の推進

ソフト系科学技術の分野はまだ揺藍(ようらん)期にあるため,総合的推進施策等を検討するため,産学官の関係者及び人文・社会系も含めた有識者から構成されるソフト系科学技術推進会議を開催し,研究者側と成果の利用者側が一体となって,我が国のソフト系科学技術に関する研究開発のあり方,推進方策,実社会からのフィードバックのあり方等について検討し,コンセンサスの形成を図ることとしている。

3) 研究開発の現状

ソフト系科学技術は,今後の科学技術に新たなブレークスルーをもたらす基礎的・先導的科学技術として,また,人文・社会科学と自然科学を融合した新しい総合的科学技術として重要な役割を果たすと期待され,近年,ソフト系科学技術に関連した研究機関や大学の学科の整備が進み,研究開発活動等の取り組みが活発化してきている。

平成7年度に実施された主なソフト系科学技術の研究課題は 第3-3-4表 に示すとおりである。

第3-3-4表 主なソフト系科学技術分野の研究課題(平成7年度)



(5) 先端的基盤科学技術

各分野の科学技術の発展に伴い科学技術が複雑化する中で,異なる分野の間で共通的に利用できる基盤となり,また,それらの分野を一層発展させる鍵となる技術の重要性が認識されてきた。例えば,極微小な物質を高精度で計測・操作する技術,リアルタイム・多次元の観測・表示技術等の計測・分析技術の推進が重要となっている。

一方,例えば,微小要素デバイス技術,微小制御技術,微小設計技術等を総合したマイクロエンジニアリング技術など,既存の分野の科学技術を結合した新しいタイプの基盤科学技術も発達してきており,通商産業省においては産業科学技術研究開発制度により,機械技術研究所を中心として「マイクロマシン技術」の研究開発を行っている。

さらに,地球環境への影響の少ない永続的な生産活動,複雑な機械でも無理なく操作できるシステム,高齢化に対応した機械システムの構築技術など,一自然環境との調和,人間′・社会との調和など人類の活動を取り巻く複雑な問題を解決するための,様々な技術領域を融合して問題を解決するための基盤技術が重要となっている。

これらの先端的な基盤科学技術は,異分野科学技術の相互乗り入れを促進し,新しい応用分野の開拓や従来の発想では困難であった課題に対してのブレークスルーを提供することが期待されている。

また,平成5年度から,科学技術振興調整費により,「極限量子センシング技術の開発及びその利用のための基盤技術開発」が新たに開始されている。一方,通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,産業技術融合領域研究所を中心に原子分子1個1個を精緻に観察・操作する技術等の確立のため,「原子・分子極限操作技術(アトムテクノロジー)」の研究開発を行うとともに,電子技術総合研究所を中心に千兆分のー(10-15)秒レベルで起こる超高速の現象を工学的に利用する「フェムト秒テクノロジー」の研究開発を行っている。

このような状況をふまえ,先端的基盤科学技術の研究開発を計画的に推進するため,内閣総理大臣から科学技術会議に対して,諮問第21号「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画について」が諮問され,平成6年12月12日に答申を行い,これをもとに同12月27日に「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画」が策定された。

また,平成7年度に実施された主な先端的基盤科学技術分野の研究課題は 第3-3-5表 に示すとおりである。

第3-3-5表 主な先端的基盤科学技術分野の研究課題(平成7年度)



(6) 宇宙科学技術

1) 宇宙開発

宇宙開発は,地球環境問題等の解決(オゾン層観測,熱帯雨林の状況把握等),質の高い豊かな生活の実現(通信・放送,気象観測等),将来の新技術・新産業の創出(材料,エレクトロニクス等)等に貢献するものとして,きわめて重要なものである。

我が国は,昭和45年に人工衛星「おおすみ」の打上げに成功して以来,平成8年3月までに58個の人工衛星を打ち上げており,米国,旧ソ連に次ぐ世界第三の人工衛星打上げ国となっている。各分野ごとの主な人工衛星は以下のとおりである( 第3-3-6表 )。

第3-3-6表 我が国の人工衛星の打上げ計画(宇宙開発計画よリ)


我が国の宇宙開発は,宇宙開発委員会が定めた宇宙開発政策大綱及び,それに沿って具体的内容を定めた宇宙開発計画に従い,宇宙開発事業団,文部省宇宙科学研究所を中心とする関係各機関の協力の下に,総合的かつ計画的に推進されている。

宇宙開発政策大綱は,昭和53年に策定され,その後昭和59年及び平成元年に改訂されてきたが,国際水準の宇宙開発能力の達成,世界の宇宙開発における民生利用や国際協力の重視,科学技術基本法の制定といった情勢変化を受け,平成8年1月に3度目の改訂が行われた。

新大綱では,これまでの技術基盤確立を主眼とした宇宙開発を一歩進め,本格的宇宙利用時代の実現への新たな展開を目指したものとなっており,地球観測,宇宙環境利用活動等の充実に取り組むこと,新たな分野として月探査等に取り組むこと,社会の動向を的確に反映するため,広報活動の強化等に取り組むことを挙げている。

(1)地球観測・地球科学

靜止気象衛星については,「ひまわり4号」の後継機として平成7年3月に「ひまわり5号」を打ち上げ,現在運用中である。また,その後継の気象ミッション機能に併せて航空管制業務のための機能を持つ運輸多目的衛星をH-IIロケットにより平成11年度に打ち上げる計画である。

海洋観測衛星「もも」は,海洋面の色及び温度を中心とした海洋現象の観測を行うこと等を目的とした衛星で,現在,平成2年2月に打ち上げられた「もも1号-b」を運用中である。

また,能動型観測技術の確立を図るとともに,資源探査,国土調査,農林漁業等のための観測を行うことを目的として,平成4年2月に打ち上げた地球資源衛星1号「ふよう1号」を運用中である。さらに,地球環境のグローバルな変化の監視,地球観測分野における国際協力の推進を図ること等を目的とする地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)の開発を行っており,平成8年度に打ち上げる予定である。他に,日米協力による全地球的規模のエネルギー収支のメカニズム解明等に不可欠な熱帯降雨の観測等を行うことを目的とする熱帯降雨観測衛星(TRMM)の開発並びに地球観測プラットフォーム技術衛星の広域地球観測技術の継承,発展等を図ることを目的とする環境観測技術衛星(ADEOS-II)の開発等を進めている。

(2)宇宙科学

科学の分野においては,文部省宇宙科学研究所が中心となり,全国の大学等の研究者の参加の下に,科学衛星を打ち上げており,近年においては,地球の夜側に存在する長大な磁気圏尾部の構造とダイナミックスに関する観測研究を日米協力等により行うことを目的とした磁気圏観測衛星(GEOTAIL),宇宙の最深部を対象とし,多様な天体のX線像とX線スペクトルの精密観測を行うことを目的とした第15号科学衛星「あすか」等を打ち上げ,所期の成果を挙げている。

また,超長基線干渉計(VLBI)衛星として大型精密展開構造機構等の研究及び電波天文観測の実施を目的とする第16号科学衛星(MUSES-B),月内部の地殻構造及び熱的構造を解明することを目的とする第17号科学衛星(LUNAR-A),火星大気の構造及び運動並びに太陽風との相互作用を研究することを目的とした第18号科学衛星(PLANET-B),活動銀河核などからのX線を観測するための第19号科学衛星(ASTRO-E)の開発等を進めている。

(3)通信・放送・測位等

通信衛星については,「さくら」の開発が行われて,現在,昭和63年9月に打ち上げられた「さくら3号-b」を運用中である。

放送衛星については,「ゆり」の開発が行われて,現在,平成2年8月に打ち上げられた放送衛星3号-a 「ゆり3号-a」及び,平成3年8月に打ち上げられた放送衛星3号-b 「ゆり3号-b」を運用中である。

また,高度移動体衛星通信技術,衛星間通信技術及び高度衛星放送技術の通信放送分野の新技術,多周波数帯インテグレーション技術並びに大型静止衛星の高性能化技術の開発及びそれらの実験・実証を行うことを目的とする通信放送技術衛星(COMETS)の開発を進めている。

(4)宇宙環境利用・有人宇宙活動

(イ)国際宇宙ステーション計画

日,米,欧,加4極の国際協力により進められている国際宇宙ステーション計画は,低軌道(高度400km程度)の地球周回軌道に有人の宇宙ステーションを建設し,本格的な宇宙環境利用,有人宇宙活動の展開のための基盤の整備を目指すものである。我が国は独自の実験棟(JEM)をもって本計画に参加することとしており,日本人宇宙飛行士も搭乗し,長期間にわたり滞在することになっている。なお,本計画の枠組みを定める「宇宙基地協力協定」について,1989年(平成元年)9月に我が国が受諾,1992年(平成4年)1月に米国が受諾し日米間において本協定が発効した。

その後,国際状況の変化を踏まえ,1993年(平成5年)12月に日,米,欧,加合同でロシアの本計画への招請が行われ,ロシアの参加表明があった。1994年(平成6年)3月にロシアが参加した新しい国際宇宙ステーション計画の全体構成等に関する技術面での大枠が合意され,現在,ロシアの参加にかかる上記協定の改正交渉を5極で行っている。

(ロ)SFU(宇宙実験・観測フリーフライヤ)計画

平成7年3月に打ち上げられた宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)は,理工学実験,天文観測等各種科学研究の実施,各種先端産業技術開発等のための宇宙実験機会の確保並びに宇宙ステーション取付型実験モジュール(JEM)の曝露部及び搭載共通実験装置の信頼性の向上を目的として,軌道上で実験,観測等を行った。その後,1996年(平成8年)1月に打ち上げられた米国のスペースシャトル「エンデバー」号に我が国のスペースシャトル搭乗運用技術者(MS:ミッションスペシャリスト)若田光一氏が搭乗し,SFUの回収を行った。なお,若田氏はこのほか,将来の国際宇宙ステーションの組立・運用に向けた経験や知識の蓄積を図るため,米国の実験観測衛星OASTフライヤの放出・回収,他の宇宙飛行士の船外活動(EVA)の支援などの任務を実施した。

(ハ)その他

JEMによる宇宙実験技術の開発等に資するため,平成7年8月に4回目の小型ロケット (TR-IA)を利用した宇宙環境利用実験が行われた他,有人宇宙医学に関する研究等を実施した。

(V)人工衛星の基盤技術人工衛星の共通技術の開発を行う衛星としては,技術試験衛星「きく」が開発されており,移動体通信実験等を目的として,昭和62年8月に打ち上げられた技術試験衛星V型「きく5号」を平成7年度末まで運用した。

また,H-IIロケット試験機の性能を確認するとともに,1990年代における実用衛星の開発に必要な大型静止三軸衛星バス技術の確立を図り,あわせて衛星による固定通信,移動体通信及び衛星間通信に関する高度の衛星通信のための技術開発及びその実験を行うことを目的とした技術試験衛星VI型「きく6号」は,平成6年8月に打上げられたが,アポジエンジンが故障したため,静止軌道に投入することができず,楕円軌道を周回することとなった。「きく6号」は,衛星の軌道の違いや運用期間の短縮等から,所期の目標の全ては達成できないものの,通信実験等の各種実験を実施し,順次成果をあげ,引き続き運用中である。

その他,ランデブ・ドッキング技術や宇宙用ロボット開発の基礎となる遠隔操作技術等をこれまでの要素技術に関する研究成果を踏まえて,軌道上実験等の実施により確立するとともに,宇宙用ロボットに関して先行的な実験を実施することを目的とする技術試験衛星VII型(ETS-VII)の開発等を進めている。

(6)宇宙インフラストラクチャー

(イ)M系ロケット

科学衛星打上げのため,L(ラムダ)ロケットの開発を経てM(ミュー)ロケットが開発された。M系ロケットは,全段に固体推進薬を用いたロケットで,現在,低軌道へ約1.8トンの打ち上げ能力を有するM-Vロケットの開発を進めている。M-Vロケットは,平成8年度打ち上げ予定の第16号科学衛星(MUSES-B)以降の科学衛星打ち上げに順次使用される予定である。

(ロ)H-IIロケット,J-Iロケット

静止衛星等の人工衛星の打上げのため,N系ロケット,H-Iロケットの開発を経て,1990年代における大型人工衛星の打上げ需要に対処するため,2トン程度の静止衛星を打ち上げる能力を有する2段式のH-IIロケットの開発を終了した。H-IIロケットは,第1段,第2段ともに液体酸素・液体水素エンジンを採用した大型のロケットであり,平成6年2月に試験機1号機,同8月に試験機2号機,平成7年3月に試験機3号機の打上げにそれぞれ成功した。H-IIロケットについては,信頼性を確保しつつ,更なるコストダウンを目的として,H-IIロケットの高度化開発を進めている。また,小型,安価な打上げ需要に対応するため,低軌道へ1トン程度の輸送能力を有するJ―Iロケットを開発し,平成8年2月に極超音速飛行実験機(ハイフレックス)を搭載した試験機1号機を打ち上げた( 第3-3-7表 )。

第3-3-7表 我が国の主な人工衛星打上げ用ロケットの主要諸元

(ハ)宇宙往還技術試験機

宇宙ステーション等への物資の輸送,回収などを可能とする無人有翼往還機の主要な技術の早期確立を目的とする宇宙往還技術試験機について,今世紀中にH-IIロケットにより打ち上げることを目標として研究を行った。

(ニ)OICETS(光衛星間通信実験衛星)

衛星間通信システムに有効な光通信技術について,欧州宇宙機関(ESA)との国際協力により,同機関の静止衛星ARTEMISとの間で捕捉追尾を中心とした要素技術の軌道上実験を行うことを目的とする光衛星間通信実験衛星(OICETS)の開発等を進めている。

(7)人工衛星,ロケット等の技術に関する基礎的・先行的研究

科学技術庁航空宇宙技術研究所をはじめ各機関において,人工衛星やロケットの技術に関する基礎的な研究,また,無人有翼往還機や,スペースプレーン等の先行的研究を進めている。

(7)宇宙開発分野の国際交流

冷戦構造の崩壊に伴う米国,ロシアの協調の動きや,地球環境問題の深刻化に伴う地球観測衛星等による宇宙からの観測の重要性の増大を背景に,近年,宇宙分野における世界各国の協力の必要性が従来にも増して拡大している。

このような中,1994年(平成6年)9月に行われたESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)宇宙利用大臣級会合における,「開発のための宇宙利用プログラム(RESAP)」の開始の決定を受け,1995年(平成7年)6月には,第1回政府間協議委員会が開催され,我が国もこれに参加している。また,日ロ間でも,宇宙協力を推進するため,1993年(平成5年)10月のエリツィン・ロシア大統領訪日こ際し締結された宇宙協力協定に基づき協力を推進することとしている。

上記の他,我が国は,宇宙空間の探査及び利用に係る国際的秩序の確立,国際協力の促進等について審議を行っている国連宇宙空間平和利用委員会への参加や,今後のアジア太平洋地域における宇宙開発に関する国際協力のあり方について意見交換を行うアジア太平洋宇宙機関会議(APRSAF)の開催等の多国間協力を行っている。また二国間協力について,米国との間では,日米常設幹部連絡会議(SSLG:Standing Senior Liaison Group)等により,情報交換・意見交換を行っている他,1995年(平成7年)7月には日米宇宙損害協定を締結し,日米間の宇宙協力活動に際して生じた損害賠償請求権を相互に放棄することを予め約束することとした。これにより日米間の宇宙協力活動のより円滑な実施が期待されている。さらに欧州(欧州宇宙機関:ESA)との間においても,年次的に開催している日・ESA行政官会議が1995年(平成7年)6月に20回目を数えるなど,密接な協力関係を継続している。

2) 航空技術

航空技術は知識集約性,技術先端性が高いため,その開発は単に航空輸送の発展をもたらすのみならず,他の分野への波及効果も高く,我が国が今後とも科学技術創造立国を目指して発展していく上で大きな役割を果たすものである。

我が国では,これまで民間輸送機YS-11等の自主開発,ボーイング767等の国際共同開発並びに民間航空機用ジェットエンジンV2500の国際共同開発を実施することにより技術を蓄積し,国際的な舞台で活躍する技術水準までに成長してきている。民間航空機においては,国際共同による開発方式が今後ますます世界の主流を占める傾向にあり,現在我が国では,新型双発民間航空機ボーイング777の国際共同開発に参加しているほか,小型民間航空機YSX及び次世代の民間超音速輸送機開発の調査を実施している。

今後の航空機及び航空機エンジンの開発をさらに積極的に推進していくためには,技術水準の一層の向上を図る必要がある。このため,航空・電子等技術審議会の建議や答申に沿って,航空技術研究開発の推進を図るための施策が講じられている。最近では本審議会によって,「航空技術の長期的研究開発の推進方策について」(諮問第18号)に対する答申が平成6年6月に行われた。

科学技術庁航空宇宙技術研究所においては,我が国の将来の航空機開発に必要となる技術の確立を目指した研究が進められており,将来の高速航空機等に必要となる空力,構造,推進,制御等の要素技術の研究を推進している。このほか,航空安全及び環境適合性技術に関する研究並びに電子計算機による数値シミュレーション等の基礎技術の研究を進めるとともに,各種風洞,エンジン試験設備等の大型試験研究設備を整備し,関係機関の共用に供し,我が国の航空技術の発展を図る上で主導的な役割を果たしている。

運輸省電子航法研究所においては,航法・管制に関する技術について,航空交通の安全性を向上させるための研究等を実施しており,これらの研究は今後の航空輸送の発展を図るうえで重要なものとして期待されている。

通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により,低速からマッハ5程度までの広範な速度域において高い信頼性等を有する「超音速輸送機用推進システム」の研究開発を大阪工業技術研究所などで行っている。この研究開発には欧米のエンジンメーカーも参加している。


(7) 海洋科学技術

海洋は生物資源や鉱物資源等,膨大な資源を包蔵するとともに広大な空間を有しており,その開発利用は国土が狭小であり四方を海に囲まれた我が国にとって重要な課題である。さらに,海洋は地球環境変動に大きなかかわりを有するとともに,海洋底プレートの動きは地震や火山活動の大きな要因と考えられていることから,その実態解明は急務となっている。このような背景の下,1990年代に入り,海洋の諸現象を全地球規模で総合的に観測・研究するためのシステム構築をめざした世界海洋観測システム(GOOS)計画が,国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)によって提唱され,1992年(平成4年)6月ブラジルで開催された国連環境開発会議(UNCED:地球サミット)で採択されたアジェンダ21においても,同計画の推進が盛り込まれている。今後,これら国際的な動向を踏まえ,地球環境問題に関連する海洋調査研究などの海洋科学技術に関する研究開発の推進が不可欠である。

1) 海洋科学技術の基本的推進方策等

海洋科学技術に関する研究開発を進めるにあたっての基本的考え方は,内閣総理大臣の諮問機関であり,海洋開発に関する基本的かつ総合的事項について調査審議を行う海洋開発審議会の答申に示されている。同審議会は,諮問「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」に対する平成2年5月の答申において,今後の海洋科学技術の推進に関する基本的考え方として,

・地球的規模の環境変動の究明と海洋の実態解明のための海洋調査・技術開発の推進
・海洋に存する厳しい条件を克服し,新たな海洋開発の可能性を探究するための科学技術の推進

等の重要性を指摘している。

また,同審議会は諮問「海洋調査研究の展開とそれに関連する技術開発・基盤整備等我が国の海洋調査研究の推進方策について」に対する平成5年12月の答申において,地球環境問題に対応した海洋調査研究の推進方策に関して

・大型海洋観測研究船の整備等海洋調査研究基盤の充実
・地球規模の海洋調査研究の計画的な推進

等の重要性を指摘している。

我が国の海洋科学技術は,この海洋開発審議会の答申を尊重しつつ,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。各省庁における海洋科学技術に関する具体的施策は,海洋開発を総合的に推進するために関係省庁が緊密な連絡を図る場である海洋開発関係省庁連絡会議が毎年取りまとめる海洋開発推進計画に沿って実施されている。また,地球規模の海洋の諸現象を解明するため,関係省庁・大学等の連携のもと,世界海洋観測システム(GOOS)計画等の国際的な海洋調査研究プログラムに積極的に参加している。

2) 海洋科学技術に関する研究開発の推進

科学技術庁では,海洋科学技術センターが中心となって海洋科学技術に関する先導的・基盤的な研究開発を進めるとともに,関係各省庁・大学等の協力の下,総合的なプロジェクトを推進している。

このうち,海洋科学技術センターでは,地震発生機構の解明に関連する海底地形,深海微生物等の生態等の調査のために必要な深海調査技術の研究開発を行うとともに,深海の調査研究を実施している。平成7年度には,有人潜水調査船「しんかい2000」,「しんかい6500」,無人探査機「ドルフィン3K」等による深海調査研究活動を推進するとともに,無人探査機「かいこう」でのマリアナ海溝(水深10,911m)等における慣熟訓練を実施した。また,プレートテクトニクスや地球環境の変遷の解明を目指す深海掘削船システムの開発研究等を行っている。

また,海洋観測研究については,海洋の実態解明を進めるため,太平洋熱帯域や北極海域等において総合的な観測研究の実施,海洋レーザーや音響トモグラフィー等の観測技術の開発を行うとともに,地球規模の海洋調査研究を可能とする大型海洋観測研究船の整備に着手した。さらに,沿岸域の適切な管理と開発に資するため,波力利用技術の研究開発や各地域における自治体との共同研究開発事業等を推進した。一方,関係省庁や大学の間における総合的な連携協力の下に,我が国及び東アジア地域の水産,気象等に大きな影響を与えている黒潮の大蛇行メカニズムの解明等を行うための海洋開発及地球科学技術調査促進費による黒潮の開発利用調査研究,科学技術振興調整費による海洋の熱及び物質の移動現象の解明に関する研究等を推進している。

文部省では,平成7年度には,東京大学海洋研究所等が中心となって,海洋環境の変動の解明・予測,保全のための総合的観測システム構築を目的とする世界海洋観測システム(GOOS)に関する基礎研究,深海底を掘削し,海洋底プレート運動・構造等の解明に資する国際深海掘削計画(ODP)及び西太平洋海域共同調査への参加,海洋の物質循環の解明に資するオーシャンフラックス研究等の海洋に関する学術研究を引き続き行っている。

農林水産省では,平成7年度には,水産関係試験研究機関が中心となって,新技術導入・水産資源の特性の把握等を通じた漁業生産の合理化と資源の持続的利用,養殖業・栽培漁業等つくり育てる漁業の推進のための研究開発等を行っているほか,漁場環境の保全,水産物の多面的高度利用のための研究開発等を引き続き行っている。

通商産業省では,平成7年度には,資源エネルギー庁,工業技術院地質調査所,資源環境技術総合研究所等が中心となって,海底鉱物資源の開発と環境影響予測,海底地質の調査等を引き続き行っている。

運輸省では,平成7年度には,民間機関が行う超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の研究開発に対する補助を行うとともに,海上保安庁において水路業務運営のための海洋観測,深層海洋における物質の拡散に関する研究等を,気象庁において気象業務推進のための海洋気象観測やエルニーニョ現象の解明等,海洋気象現象の把握及び気候変動に関する調査・研究等を引き続き行っている。

郵政省では,通信総合研究所において,海洋油汚染・海流・波浪などの計測技術及び予測技術を確立するための高分解能3次元マイクロ波映像レーダの研究等を行っている。

建設省では,土木研究所において海浜の安定化と混合砂の分級に関する研究,熱帯地域における海岸の保全手法に関する研究等を実施している。また,国土地理院において,沿岸海域基礎調査等を行っている。

なお,海洋開発推進計画に基づき関係省庁が平成7年度に実施した主な海洋科学技術分野の研究開発の課題は, 第3-3-8表 のとおりである。

第3-3-8表 主な海洋科学技術分野の研究課題(平成7年度)



(8) 地球科学技術

近年の人工衛星を用いたリモートセンシング技術等の観測技術の発達や,スーパーコンピュータによる数値シミュレーション技術の発達は,地球に関する科学技術の研究に進歩をもたらすこととなった。また,人類の長年にわたる地球に対する探求を通じ,近年,地球及び地球の諸現象に関する知見の蓄積が気圏,水圏,地圏及び生物圏の各分野において急速に進んでおり,地球を一つのシステムとして把握することが可能な段階になっている。このため,これらの成果を地球の諸現象の予測や人類の持続的発展に利用するとともに,多くの未知の領域への探求を一層活発に行うべきとの要請が高まってきている。また,人間活動の増大が原因と考えられる地球規模の環境問題が世界的に大きな問題となっており,地球は無限であり不変であるとの認識を改め,人間と地球の自然とが調和・共生する科学技術への指向が強くなってきている。

このような状況を踏まえ,我が国においては,科学技術会議の答申を受けて,平成2年8月に,10年程度を展望した「地球科学技術に関する研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定され,地球を深く理解し,その成果を活用して人類の繁栄に資する科学技術である地球科学技術に関し,研究開発を推進するにあたっての基本的考え方,重要研究開発課題並びに地球科学技術を推進するにあたって政府が担うべき役割及び実施すべき施策が示されている。

また,測地学審議会においては,平成7年6月に,広範多岐にわたる地球科学の諸分野の研究動向等について審議し,将来に向けて我が国の推進すべき研究課題等を示すとともに,推進のための方策について取りまとめ,「地球科学における重点的課題とその推進について」として,内閣総理大臣をはじめ,関係各大臣に建議した。

地球で生じている複雑な現象とそのメカニズムをより詳細に解明し,健全な環境を維持しつつ持続的発展を図るためには,関連する科学技術を統合しだ研究開発を推進することが必要である。また,常に地球全体に目を向けた巨視的な観点と,長期的な展望に基づいた研究開発を行うことが必要である。

地球科学技術を推進するにあたり,地球に関する科学的知見を深めるだけでなく,科学的知見を得るために観測・解析・予測技術の開発の進展を図るなど,科学的知見の蓄積と技術の開発を密接な連携の下で進めること等が必要である。また,一国で対応できないものが非常に多く,高度な科学技術水準を要するものが多いため,各国の協力の下に実施するとともに,我が国に対する国際的期待を踏まえ,我が国にふさわしい国際的活動をより積極的に実施することが必要である。

1) 地球的規模の諸現象の解明に係る研究開発等

地球温暖化,オゾン層破壊,異常気象,地震,火山噴火等の地球に関する諸現象は,我々人類の社会生活と極めて密接な関連を有し,重大な影響を及ぼすおそれがあることから,その現象を科学的に解明し,適切な対応を図ることが強く要望されている。

また,地球科学技術が対象とする事象は,地球温暖化,地殻変動等,時間的にも空間的にも広がりを有し,一国のみの問題にとどまらないものである。このため,研究開発を進めるにあたっては,グローバルパートナーシップを確保することが極めて重要であり,世界気候研究計画(WCRP),地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)等の国際的な研究計画に積極的に参加するとともに,外国の研究機関等と共同研究を進めることが重要である。特に,我が国はアジア太平洋地域に位置し,経済的にも域内の各国と密接な関係を有することにかんがみ,本地域に重点を置いた研究開発を推進することが必要である。

我が国においては,各省庁が自らの予算によって地球的規模の諸現象の解明等に係る研究開発を実施するとともに,科学技術振興調整費,海洋開発及地球科学技術調査研究促進費,地球環境研究総合推進費により,関係省庁の国立試験研究機関や大学,さらには海外の研究機関等の広範な分野の研究能力を結集し,エルニーニョ南方振動現象等の地球的規模の諸現象の解明,人間活動が地球環境に及ぼす影響の評価等総合的,国際的な研究開発を積極的に実施している。

また,地球規模の諸現象の解明のためには,地球観測情報の国際的な流通を促進することが重要である。このような認識の下,我が国は,1993年(平成5年)4月に日米間で合意された日米包括経済協議・地球的展望に立った協力の一課題として,地球観測情報ネットワーク(GOIN ; Global Observation Information Network)を積極的に推進している。GOINは,地球変動研究や災害・環境監視といった分野における衛星観測データ,地上観測データ等の流通及び利用の促進を目的としたもので,具体的には日米相互の情報システムの接続及び相互運用性の確立を目指し,科学技術庁を日本側共同議長とする日米共同計画作業部会を設置して,日米の関係省庁,関係機関が連携しつつ,1993年(平成5年)9月から検討を続けてきたところである。

1995年(平成7年)6月には,実施計画を策定し,日米合同デモンストレーションを開催したところであり,今後2年間の移行期間を経て,段階的に実現する予定である。

そのほか,1994年(平成6年)7,月のナポリサミットを受けて1995年(平成7年)2月にブラッセルにおいて情報社会のための関係閣僚会議が開催されたところであるが,この会議においてグローバルな情報社会を現出するためのパイロットプロジェクトとして11テーマが採択された。その中の課題の一つとして,「環境・天然資源管理」が採択されており,我が国としても,地球観測情報のより広範な流通促進に向けて,積極的に取り組んでいるところである。1995年(平成7年)3月および9月にはG7諸国の専門家による会合を開催し,当面のターゲット課題として気候変動と生物多様性の情報流通を重点的に促進していくことを決定した。

また,地球規模の環境変動に関する研究を促進するため,地球を南北アメリカ,欧州・アフリカ,アジア太平洋の3極に分け,各地域における地球変動研究のための地域的ネットワーク化を図る構想のひとつである,「アジア・太平洋地球変動研究ネットワーク(APN:Asia-Pacific Network for Global Change Research)」構想に関して関係省庁とともに積極的に推進しており,1995年(平成7年)3月には,東京において第3回ワークショップが開催され,APNの対象となる科学的なテーマおよび組織・手続面に関し作業部会の報告を基に討議が行われた結果,APNが準備段階から実施段階に入ったことを宣言する共同声明が採択された。

現在,関係省庁において進められている地球科学技術に関する研究開発のうち主なものは 第3-3-9表 のとおりである。

第3-3-9表 主な地球科学技術分野の研究課題(平成7年度)



2) 地球観測技術等の研究開発

地球的規模の諸現象の解明を図る上で必要な情報を集積するためには,地球観測により地球に関する情報を得ることが必要であり,地球観測技術の研究開発が重要である。そのため,平成5年1月に,航空・電子等技術審議会より第17号答申「地球環境問題の解決のための地球観測に係る総合的な研究開発の推進方策について」が取りまとめられている。

現在,我が国では,この答申等に基づき人工衛星による地球観測に関する技術の研究開発,深海潜水調査船をはじめとする海洋観測技術の研究開発等地球観測のために必要な技術の研究開発を実施している。

(1)人工衛星による地球観測に関する技術

人工衛星による地球観測は,広範囲にわたる様々な情報を繰り返し,連続的に収集することを可能とするなど,極めて有効な観測手段であり,現在,特に地球環境問題の解決に向けて,国内外の関係機関と協力しつつ,総合的な推進を行っている。

宇宙開発事業団においては,海洋観測衛星1号-b 「もも1号一b」及び地球資源衛星1号「ふよう1号」を運用しているほか,地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS),熱帯降雨観測衛星(TRMM)及び環境観測技術衛星(ADEOS-II)の開発を関係機関との協力の下に進めており,通商産業省においては,米国航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星である極軌道プラットフォーム1号(EOS-AMl)に搭載する資源探査用将来型センサ(ASTER)の開発を進め,気象庁は,現在運用している静止気象衛星5号の後継機である,運輸多目的衛星の開発を進めている。また,衛星を用いた地球環境の観測と処理手法を確立するため,科学技術庁において関係機関との協力の下に地球環境遠隔探査技術等の研究等,農林水産省においてリモートセンシング技術を活用した土地利用・作付状況・生育状況・森林や海洋の資源量の把握等に関する研究開発,郵政省において降雨観測のためのセンサ研究等及び建設省において人工衛星リモートセンシング技術を活用した全国土地利用図の作成等を推進している。

また,こうして得られた人工衛星からのデータの利用促進を図ることが重要であることから,宇宙開発事業団の地球観測データ解析研究センター等において,地球観測データを利用した研究や地球観測情報ネットワークの整備を関係機関と密接に連携をとりながら推進している。

このような地球観測衛星の開発,観測データの流通及び利用の推進は国際協力の下に行うことが重要であり,このため世界中の地球観測衛星開発機関や国際地球科学技術機関等が集う地球観測衛星調整会議(CEOS),日米欧加の宇宙関係機関が集う極軌道プラットフォーム調整会合(EO-ICWG)等の国際調整の場に積極的に参加し,貢献している。

(2)海洋観測技術

海洋は,地球的規模の諸現象に大きく関わっており,その果たす役割の解明が重要な課題となっている。このため,海洋科学技術センターにおいて,海洋音響トモグラフィー等海洋観測技術の研究開発を推進するとともに大型海洋観測研究船の整備を推進している。

また,通商産業省においては太平洋における二酸化炭素の循環メカニズムの調査研究を推進している。


2. 人類の共存のための科学技術

人間活動の拡大に伴い,地球環境問題その他の地球の有限性に起因する問題が顕在化している。これらの問題を解決し,地球と調和しつつ,人類が共存し得る新たな手段を提供するため,平成4年4月に閣議決定された科学技術政策大綱において,「地球・自然環境の保全」,「エネルギーの開発及び利用」,「資源の開発及びリサイクル」,「食料等の持続的生産」の各分野を,人類の共存のための科学技術と位置付け,その積極的な振興を図っている。


(1) 地球・自然環境の保全

近年,地球温暖化などの地球的規模での環境問題が顕在化しつつあり,国際的に協力してこれらの問題の解決を図っていくことが強く求められている。また,潤いのある生活環境を整備するため,地域において公害を防止するとともに自然環境を保全していくことが重要である。このため,地球的規模の環境問題への対応,公害の防止,自然環境の保全のための研究開発を推進していくことが必要である。

我が国としては,地球規模で深刻な影響を与える環境問題に対応するための施策に関し,関係行政機関の緊密な連絡を確保し,その効果的かつ総合的な推進を図るため,「地球環境保全に関する関係閣僚会議」を設置し,地球環境問題に積極的に取り組んでいる。

平成元年10月に開催された「地球環境保全に関する関係閣僚会議」(平成元年5月設置,平成5年8月廃止,平成5年12月閣議了解により再設置)において,「地球環境保全に関する調査研究,観測・監視及び技術開発の総合的推進について」の申合せが行われ,この申合せに基づき,以降毎年度,同会議において「地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定している。また,平成2年10月に開催された同会議において二酸化炭素排出量等の温室効果ガスの排出抑制目標等を定めた「地球温暖化防止行動計画」が決定された。

平成5年11月,地球化時代に対応し,今日の環境問題に対し適切な対策を講じていくために「環境基本法」が公布,施行された。同法においては,環境の保全に関する科学技術の振興を図ること及びそのための試験研究の体制の整備,研究開発の推進及びその成果の普及,研究者の養成等の措置を講じること及び地球環境保全等に関する監視,観測等に係る国際的連携の確保等が定められている。また,平成6年12月,同法に基づき環境保全に関する総合的・長期的な施策の大綱等を定める政府全体の計画である環境基本計画が閣議決定された。本計画では,環境への負荷の少ない循環を基調とする経済社会システムの実現,人間と自然・生物との共生,あらゆる人々の環境保全の行動への参加,国際的取組を長期的な目標として掲げ,その実現のための施策の大綱等を定めている。調査研究,監視・観測等の充実,適正な技術の振興等について1節を設け定めている。特に地球環境問題の解決に向け,十分な科学的知見の蓄積による解明の推進が必要であるとしている。

また,首相が主導する21世紀地球環境懇話会(座長:近藤次郎中央環境審議会会長)において21世紀へ向けての地球環境問題に対する取り組み方について,平成6年3月以来12回にわたって会議が重ねられ,平成7年1月,地球環境戦略機関の設置,地球環境理論に基づいた環境教育・学習と実践,地球環境国民会議の設立を内容とした「新しい文明の創造に向けて-21世紀地球環境懇話会提言-」が報告された。

近年における国際的な地球環境問題についての取組としては,1992年(平成4年)6月に,ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED:地球サミット)が挙げられる。同会議においては,21世紀に向けての国家と個人の行動原則である「環境と開発に関するリオ宣言」,同宣言の諸原則を実行するための行動計画である「アジェンダ21」等の採択,気候変動に関する国際連合枠組条約等への多数国による署名等多くの成果が得られた。

我が国は,アジェンダ21を踏まえ,1993年(平成5年)12月,地球環境保全に関する関係閣僚会議において「『アジェンダ21』行動計画」を決定し,国連に提出した。この行動計画では6つの重点項目のーつとして,地球環境保全に関する観測・監視と調査研究の国際的連携の確保及びその実施が挙げられており,複雑な地球システムについて,科学的な調査研究,観測・監視を推進することによって,その基礎的な理解を深めるとともに,人間活動とそれに伴う地球環境の変化の相互影響に関する理解の増進を進めていくこととしている。

また,1994年1(平成6年)3月に発効した気候変動枠組条約に基づき,温室効果ガスの排出及び吸収の目録,科学的調査研究,観測・監視の推進等地球温暖化防止のための政策及び措置等を内容とする日本国報告書を平成6年9月に地球環境保全に関する関係閣僚会議で決定し,条約暫定事務局に送付した。この報告書によれば2000年(平成12年)度における一人当たりの二酸化炭素排出量については地球温暖化防止行動計画の第1項の目標を達成できる見通しであるのに対し,2000年(平成12年)度における二酸化炭素排出総量については地球温暖化防止行動計画の第2項の目標の達成に向け,今後とも一層の努力が必要である。1995年(平成7年)3月〜4月には本条約の第1回締約国会議が開催され,条約上の明確な規定のなかった2000年(平成12年)以降の期間の取組を検討するプロセスの開始が決定された。この決定は,2000年(平成12年)以降の取組につき,政策及び措置を吟味すること並びに2005年(平成17年),2010年(平成22年),2020年(平成32年)といった特定の期間内の数量化された抑制及び削減目的を設定すること等をめざし,第3回締約国会議-(1997年(平成9年))で結論を採択すべく,早期に検討プロセスを開始するもので,この取組には議定書等の採択を通じて約束を強化することも含まれる。また,複数の締約国が共同で地球温暖化防止の取組を行う共同実施活動の開始,常設事務局の設置等も決定され,さらにOECD/IEA加盟国より気候変動技術イニシアチブ(C11mate Technology Initiative:CTI)が共同提案されるなど条約の本格的実施に向けての第一歩が踏み出された。

一方,国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)による気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は,地球の温暖化に関する最新の科学的知見をまとめ,1995年(平成7年)12月の総会で第2次報告書を採択した。この報告書の中で,気候に対する人為的影響が示唆される旨指摘するとともに,温室効果気体の排出量を将来的には1990年(平成2年)の水準以下にする必要性を指摘し,技術の開発,普及・移転を加速する政策手段を活用することより,正味排出量の低減が可能であるとし,また,不確実性を残すものの現在の知見の下でも積極的な対策を開始する根拠があるとしている。

また,人類は,地球生態系の一員として他の生物と共存している。

その一方で,人間活動による生物の生息環境の悪化等を背景として,野生生物の種の絶滅が過去にない速度で進行している。このような状況の下,地球上の多様な生物をその生息環境と共に保全し,生物資源の持続可能な利用を行うことを目的とした国際的な枠組みとして,「生物の多様性に関する条約」が採択され,我が国は1993年(平成5年)5月に本条約を受諾した(1993年(平成5年)12月発効,1996年(平成8年)1月現在,締約国140ケ国)。これを受けて,関係省庁を中心として,生物の多様性の保全と持続可能な利用を図るための施策を講ずる等,積極的な取組がなされている。1995年(平成7年)10月には,同条約に基づき,我が国における生物の多様性の保全とその持続可能な利用という観点から各種施策を体系的に取りまとめた「生物多様性国家戦略」が地球環境保全に関する関係閣僚会議において決定され,生物多様性に関する情報の的確な把握と研究の充実が必要とされた。

さらに,環境中で人を含む高等動物から微生物までの多様な生物が変動しつつ共存する秩序の本質を解明する包括的な研究も必要となっている。農林水産省では生物資源・環境の質的量的把握手法の開発,地球環境の変動が農作物の収量等に及ぼす影響の解明,植物の環境ストレス耐性機構の解明,農耕地,森林等における物質循環の解明,森林・海洋・農耕地等の気候緩和機能や水質浄化機能等の解明などに関する研究が進められている。

また,公害の防止については,「公害の防止等に関する試験研究の重点強化及び総合的推進について」(毎年度 環境庁)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。特に,近年,微生物等の生物機能を用いて有害物質等を再資源化・分解・濃縮する新たな環境修復技術(バイオリメディエーション)に関心が集まってきている。これまでの物理・化学的手法による浄化技術に加えトリクロロエチレン,PCB等の難分解性物質による汚染の浄化技術として期待されており,現在,関係省庁を中心に積極的な研究開発が行われている。

平成7年度に実施された主な地球・自然環境の保全に関する保全技術の研究課題をまとめると 第3-3-10表 のとおりである。

第3-3-10表 主な地球・自然環境の保全に関する保全技術の研究課題(平成7年度)



(2) エネルギーの開発及び利用

エネルギー研究開発は,広範な分野を対象とし,長期にわたり膨大な研究開発のための資金及び人材を必要とするため,研究開発全般を計画的・重点的・効率的に推進することが重要である。このため,政府が中心となって推進するエネルギー研究開発について,昭和53年8月に「エネルギー研究開発基本計画」が定められ,その後,エネルギーを巡る情勢の変化を踏まえて数度の改定を行い,その着実な推進が図られてきている。また,世界的なエネルギー需要の増大の見通しや,地球環境問題に関する議論の高まり等近年のエネルギーを巡る情勢変化を踏まえ,平成7年7月,政府は新たな「エネルギー研究開発基本計画」を決定し,今後10年間に推進すべき,重要研究開発課題等を提示した。

1) 原子力の研究,開発及び利用の推進

エネルギー分野において原子力発電は,供給安定性,経済性の面のみならず,発電過程において二酸化炭素,窒素酸化物等を排出しないことから,地球環境負荷の面でも優れており,我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する主要なエネルギー源の一つとして安全性の確保を前提として着実に開発利用を進めることが必要である。

また,放射線利用についても,医療,農業,工業,環境保全など広範な分野で普及している。このように我が国の原子力開発利用は我々の生活に密着しており,エネルギーの安定確保と国民生活の質の向上に大いに貢献している。

我が国の原子力の研究,開発及び利用を,総合的かつ計画的に推進するため,原子力委員会は,「原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画」を策定している。一般からの意見も踏まえて平成6年6月に改定された長期計画は,グローバルな視点,長期的な視点を踏まえて,21世紀を展望した原子力開発利用の役割を明らかにしている。

なお,昨年12月に発生した高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故により,国民に不安感,不信感を与える結果となった。

今後とも徹底的な原因究明を行い,万全の安全対策を講ずるとともに,積極的かつ速やかな情報の公開に努め,地元をはじめ国民の理解と信頼が得られるよう,最大限の努力を払っていく。また,事故の経験も十分いかしながら,各界各層の幅広いご意見を今後の原子力政策の進め方に的確に反映させ,国民的合意の形成に資する場として「原子力政策円卓会議」等を開催することとしている。

(1) 原子力発電の現状及び将来見通し

我が国の商業用の原子力発電は,平成8年3月末現在,49基が運転中で,発電設備容量は4,119.1万kWであり,平成6年度推定実績で総発電電力量(電気事業用)の31.3%を賄っている。

今後の原子力開発規模は,「原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画」では,2000年(平成12年)において約4,560万kW,2010年(平成22年)において約7,050万kWの設備容量を達成することを目標としている。また,電力供給における原子力発電の割合は今後とも着実に拡大し,商業用原子力発電の総発電電力量に占める割合は2000年(平成12年)で約33%,2010年(平成22年)で約42%を占めるものと見込まれる。

我が国の商業用原子力発電所の立地地点は,17サイト (49基)であり,今後,既存サイトの増設に加えて新規サイトの確保が重要であり,また,核燃料サイクル施設及びその関連施設の立地対策も重要な課題である。

これら原子力施設の立地促進については,国,事業者,地方公共団体による立地促進活動を引き続き実施していくとともに,立地円滑化の観点から地元と原子力施設が共生できるような地域振興や,マスメディアを通じた積極的な広報などによる理解促進を進めている。

現在の我が国の主流の原子炉である軽水炉については,政府,電気事業者,原子力機器メーカー等が協力して,自主技術による軽水炉の信頼性,稼働率の向上及び従業員の被ばく低減を目指し,技術開発を実施してきたところであるが,現在の軽水炉の技術水準に満足することなく,信頼性,安全性を確保しつつ経済性の向上を目指した軽水炉技術の高度化が進められている。

我が国の原子力開発利用の自主性,安定性を確保するという観点から,天然ウラン資源の安定確保に努めていくこととし,海外における調査探鉱等を引き続き実施する。

原子力発電の燃料である濃縮ウランの安定確保は重要な課題であり,遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を積極的に推進している。動力炉・核燃料開発事業団の研究成果に基づき,青森県六ケ所村において民間濃縮工場が平成4年3月より操業を開始している。さらに,今後のウラン濃縮の経済性の向上を図るため,レーザー法ウラン濃縮技術等の開発を進めている。

(2) 核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

我が国は,原子力基本法にのっとり,厳に平和の目的に限り原子力開発利用を推進しているところであるが,核燃料リサイクル計画に対する国際的な懸念を解消していくため,我が国の原子力平和利用に対して国際的な信頼を得ていくよう努力する必要がある。我が国としては,1995年(平成7年)5月に無期限延長された核兵器不拡散条約(NPT)に基づく国際原子力機関(IAEA)の保障措置を厳格に受け,二国間原子力協力協定等に基づいて核不拡散措置を厳格に履行していくことが基本であり,再処理施設等のプルトニウム取扱施設に対する保障措置を始め,保障措置の各種の技術開発を行っている。また,NPT体制から要求される義務に加えて,余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ,合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めることが重要であり,我が国のプルトニウムの管理状況について公表している他,核燃料リサイクル計画の透明性をより高めるための国際的な枠組みの具体化に向けて努力している。さらに,核不拡散関連の技術開発を積極的に進め,先進的リサイクル技術の研究開発など,核不拡散にも配慮した研究開発に取り組んでいる。

(3) 安全の確保

原子力開発利用は,開発当初から,安全性の確保を大前提にして行われてきており,他の産業分野には見られない国による厳しい安全規制をはじめ,環境放射能調査や,万一をも考慮した防災対策を含めた各般の安全確保対策が講じられている。

原子力の安全確保に当たっては,安全規制等において常に最新の科学技術的知見を反映することが重要である。

このため,原子力安全委員会は,安全研究年次計画を5年ごとに策定し,安全研究の総合的・計画的な推進を図っている。

平成7年度には,原子力施設等安全研究年次計画,環境放射能安全研究年次計画,高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画及び低レベル放射性廃棄物安全研究年次計画に沿って以下の安全研究が実施された。

原子力施設等安全研究については,日本原子力研究所において,軽水炉の冷却材喪失事故の研究(ROSA計画),原子炉安全性研究炉(NSRR:Nuclear Safety Research Reactor)による反応度事故時の燃料健全性の研究等のほか,核燃料施設の臨界安全性研究等が実施された。また,動力炉・核燃料開発事業団においては,高速増殖炉(FBR),核燃料施設等の安全性の研究が,体系的,先駆的に実施された。さらに,国立試験研究機関においては各種の基礎的研究がそれぞれ実施された。

環境放射能安全研究については,放射線医学総合研究所を中心に,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,国立試験研究機関等において,低レベル放射線の人体に及ぼす影響の研究,環境中に放出される放射性物質の挙動に関する研究等が実施された。特に,放射線医学総合研究所においては,内部被ばく実験棟においてプルトニウムの内部被ばくによる障害の研究が実施された。

放射性廃棄物処分の安全研究は,種々の原子力施設等から発生する廃棄物を区分し,それぞれの研究計画を策定しており,日本原子力研究所を中心に,各研究機関において実施された。

また,高レベル放射性廃棄物,TRU核種を含む廃棄物等の地層処分については,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等において,安全性に関する各種の試験,研究が進められた。

なお,原子力安全委員会は,平成8年度から5ヶ年計画として新安全研究年次計画(「原子力施設等安全研究年次計画」「環境放射能安全研究年次計画」及び「放射性廃棄物安全研究年次計画」(高レベル及び低レベルの放射性廃棄物安全研究年次計画を放射性廃棄物安全研究年次計画として一本化。))を策定した。

(4) 国内外の理解の増進と情報の公開

原子力開発利用を円滑に進めていくためには,まず国,原子力事業者に対する国民の信頼感,安心感を得ることが重要である。

このため,安全確保や核不拡散の実績を着実に積み重ねることが第一であるが,国民参加型の意見交換の場等を通じた国民が納得できる行政運営に努めるとともに,国民が判断する際の基礎となる情報を適時的確に提供するよう努めることとしている。

情報の公開については,核物質防護,核不拡散,財産権の保護に関する情報など非公開とすべきものを除き,原則公開とし,いたずらに,国民に対し提供される情報が制限されることがないよう一層配慮していくとともに,情報ネットワークなど新しい媒体を活用した情報提供など提供手段の充実を図る。その一環として,平成7年12月には,科学技術に関する情報をわかりやすく提供し,科学技術,なかでも原子力開発利用への特に若い世代の理解の増進に資するため,「未来科学技術情報館」を開設した。

また,核不拡散や原子力の安全確保に関する関心は国際的にも高く,我が国の原子力開発利用の円滑な推進にとって国際的な理解と信頼を得ることは重要である。そのため,我が国の原子力の平和利用や安全確保に関する情報などを積極的に広く海外に発信することが必要である。

(5) 核燃料リサイクルの技術開発

エネルギー資源に恵まれない我が国は,将来を展望しながらエネルギーセキュリティーの確保を図っていくという観点から,使用済燃料を再処理して,回収したプルトニウム,ウランなどを再び燃料として使用する核燃料リサイクルの実用化を目指して着実に研究を進めてきた。また,核燃料リサイクルは資源や環境を大切にし,放射性廃棄物の処理処分を適切なものにする観点からも有意義である。

核燃料リサイクルを進めるに当たっては,核拡散にかかわる国際的な疑念を生じないよう,核物質管理に厳重を期すことはもとより,我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム,すなわち余剰のプルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ,合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めていくこととしている。具体的には,2010年(平成22年)までの我が国のプルトニウム需給見通し及び我が国のプルトニウム管理状況を公表するとともに,現在関係国間で進められているプルトニウム利用に関する透明性向上のための国際枠組みの構築に積極的に貢献している。

原子力発電所から生じる使用済燃料の再処理については,現在,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場並びに英国核燃料会社(BNFL)及びフランス核燃料会社(COGEMA)への再処理委託契約により実施している。我が国初の再処理工場である東海再処理工場は,平成6年度に約96トンの使用済み燃料を処理し,これまでの累計処理量は,試験運転期間を含め昭和52年9月から平成7年3月で,約810トンとなっている。また,青森県六ヶ所村に民間再処理工場(年間再処理能力800トン)を2003年(平成15年)1月の竣工を目指し建設しており,その順調な建設,運転により商業規模での再処理技術の着実な定着を図っている。

再処理によって回収されるプルトニウムを軽水炉においてウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料として利用することは,海外において多くの実績があり,我が国において実施した少数体規模での実証試験においても良好な成果が得られていることから,特段の技術的問題はなく,「原子力開発利用長期計画」においては,1990年代後半から加圧水型軽水炉(PWR)と沸騰水型軽水炉(BWR)それぞれ少数基において利用を開始し,2010年(平成22年)までには十数基程度の規模まで計画的かつ弾力的に拡大していくこととしている。

高速増殖炉は,発電しながら消費した以上の核燃料を生成することができる原子炉であり,軽水炉などに比べてウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができることから,その開発を官民協力して着実に行ってきた。実験炉「常陽」は,昭和52年4月の初臨界以来運転を続けており,今後,照射性能を向上させ,引き続き高速増殖炉の実用化のための燃料・材料開発用照射炉として活用していく。平成6年4月に初臨界を達成した高速増殖原型炉「もんじゅ」は,平成7年8月に初送電に成功し試運転を続けていたところ,平成7年12月に2次系配管からのナトリウム漏えい事故が発生した。この事故により,周辺公衆及び従事者への放射性物質による影響はなかったが,現在,この事故に関しては徹底した原因究明等が行われており,今後はこの結果を踏まえ万全な安全対策を講じるとともに,積極的に情報公開を行い,地元はもとより,国民の信頼感,安心感を得ていくことが必要である。

また,高速増殖炉の使用済み燃料の再処理については,動力炉・核燃料開発事業団において,このための技術実証等を行うリサイクル機器試験施設の建設を進めている。

さらに,環境への負荷の低減,核不拡散性等に配慮した先進的な核燃料リサイクル技術について,長期的な研究開発に取り組むこととしており,現在,原子力委員会核燃料リサイクル計画専門部会でその推進方策等について検討が進められている。

新型転換炉については,プルトニウム,回収ウラン等を柔軟かつ効率的に利用できるという特長を持つ原子炉として自主開発が進められてきたが,平成7年8月,原子力委員会において,青森県大間町における実証炉建設計画は中止が妥当との結論が得られ,実証炉に代わる計画として,全炉心にMOX燃料の利用を目指す改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)が適切であると判断された。原型炉「ふげん」については,今後,その特長をいかしてプルトニウム利用技術開発施設や国際的共同研究施設等として有効に活用していくことが検討されている。

我が国のMOX燃料加工の研究開発は,動力炉・核燃料開発事業団を中心として実施されており,その加工実績も平成7年3月末までの累積で約138トンMOXに達している。また,軽水炉用MOX燃料については,海外再処理で得られたプルトニウムを基本的に欧州でMOX燃料に加工して返還して利用するとともに,国内においても六ヶ所再処理工場の操業等にあわせ年間100トン弱程度の国内MOX燃料加工の事業化を図ることが必要であり,電気事業者が中心となって加工事業体制を早急に確定することとしている。

(6) バックエンド対策

放射性廃棄物の処理処分対策及び原子力施設廃止措置(バックエンド対策)を適切に実施するための方策の確立は,整合性のある原子力発電体系という観点から残された最も重要な課題である。

原子力発電所等から発生する低レベル放射性廃棄物に関しては,発生量の低減化を図るとともに,減容化,固化等の処理が行われている。

さらに,青森県六ヶ所村において,廃棄物埋設事業者により,平成4年12月から,低レベル放射性固体廃棄物を浅地中処分する廃棄物埋設事業が行われている。

再処理工場から発生する高レベル放射性廃棄物については,安定な形態にガラス固化し30年から50年間程度冷却のため貯蔵した後,地下の深い地層中に処分することを基本方針としている。平成7年4月,海外再処理に伴い発生したガラス固化体の我が国への第一回目の返還が行われ,廃棄物管理事業者により管理されているところであり,今後年1〜2回,10数年間で合計3千数百本が返還される予定である。

また,処分事業の実施主体を2000年(平成12年)を目安に設立を図っていくこととし,これに向けて高レベル事業推進準備会において,実施主体の在り方等の検討や,その設立に向けた準備が引き続き進められている。さらに,原子力委員会においても,平成7年9月に高レベル放射性廃棄物の地層処分に向けた取組を強化していく旨の決定を行い,

(イ) 処分に向けた国民の理解と納得が得られるよう,社会的・経済的側面を含め,幅広い検討を進める「高レベル放射性廃棄物処分懇談会」
(ロ) 処分に関する研究開発計画の策定等の技術事項等について調査審議を行う「原子力バックエンド対策専門部会」

を設置し,今後国民の理解を得つつ,処分対策を着実に具体化していくこととしている。

一方,地層処分の研究開発は,動力炉・核燃料開発事業団を中核推進機関として進められている。この一環として地層処分研究開発の基盤となる地層科学研究を行うための深地層研究施設を岐阜県瑞浪市に設置するとともに,深地層における地層の科学研究をはじめとして研究開発と廃棄物の貯蔵を行う貯蔵工学センターを北海道幌延町に設置する計画の推進を図っている。また,高レベル放射性廃棄物に含まれる核種を分離し,さらに長寿命核種を短寿命核種又は非放射性核糧に変換する核種分離(群分離)・消滅処理技術の研究開発も,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等を中心に長期的な観点から基礎的な研究開発を実施している。

原子炉施設の廃止措置に関しては,昭和61年度から進められでいた日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)の解体実地試験が,平成7年度で終了する予定である。また,作業者の安全性の一層の向上を図る等の観点から,原子炉解体技術の高度化開発等が,日本原子力研究所等で行われている。さらに,JPDRの解体に伴い発生する極低レベルのコンクリート廃棄物を地中に埋設し,その安全性を実証する埋設実地試験が平成7年11月から開始された。

(7)原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化

核融合は,人類恒久のエネルギー源として期待されていることから,国内外において積極的な取組が行われている。我が国の核融合の研究開発は,平成4年に原子力委員会が策定した第三段階核融合研究開発基本計画により進められている。同基本計画の主要な目標は,核融合の自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎を形成することである。現在,日本,米国,EU及びロシアの四極により推進されている国際熱核融合実験炉(ITER)は,そうした目標を達成するための研究開発の中核を担い得る装置であり,我が国としてITERの工学設計活動に主体的に参加している。

工学設計活動においては,茨城県那珂町,米国(サンディエゴ),EU(ドイツ・ガルヒンク)の3ヶ所に,設計を行う共同中央チームの拠点が設置され,この共同中央チームと四極それぞれの国内チームとが連携,協力しながら,ITERの設計及びそれに必要な工学及び物理の研究開発が進められており,1995年(平成7年)12月には,中間設計が確定するなど,本格的な設計活動が進展している。

ITERにかかわる研究開発に加え,日本原子力研究所,大学,国立試験研究機関等が連携・協力して核融合の研究開発を行っており,国際協力も積極的に進められている。日本原子力研究所では,臨界プラズマ試験装置(JT-60)により,世界最高のプラズマ性能を達成するなど著しい成果を挙げているほか,炉工学技術の研究開発などが行われている。大学共同利用機関である核融合科学研究所では,大型ヘリカル装置の建設を進めており,平成9年度には運転開始の予定である。このほか,大学・国立試験研究機関等においては,各種磁場閉じ込め方式及び慣性閉じ込め方式による基礎的研究,炉工学技術等の研究が進められている。

放射線利用については,医療分野において,X線CT等による診断やX線,ガンマ線等を利用した悪性腫瘍の治療が実用化されており,現在,陽子線,重粒子線等による治療の研究が行われている。特に,放射線医学総合研究所においては,がんに対する高い治療効果が期待される重粒子線によるがん治療の研究に取り組んでおり,平成6年6月より,患者に照射治療を行う臨床試行が開始され,従来の方法では直る見込みのなかった例で腫瘍の縮小が観察されるなど,おおむね良好な成果が得られている。また,大学においても,筑波大学陽子線医学利用研究センター等において陽子線等によるがん診断・治療の研究を行っている。農林水産業の分野では,品種改良,害虫防除,食品照射等に放射線が利用されている。工業分野では,非破壊検査,各種高分子材料の改質などに放射線が用いられている。研究利用では,日本原子力研究所のイオン照射研究施設において,バイオ技術や新機能材料等に関する研究が進められている。また,平成9年度の供用開始を目指し,日本原子力研究所と理化学研究所が兵庫県播磨科学公園都市において,大型放射光施設(SPring-8)の整備を進めている。さらに,文部省高エネルギー物理学研究所においては,トリスタン入射蓄積リングを用いた大強度放射光実験設備による研究を行っている。

また,高温工学試験研究については,高温の熱供給を図り,将来のエネルギー供給の多様化の可能性を高める高温ガス炉技術の確立及び高度化,高温工学に関する先端的基礎研究を進めることを目的として,日本原子力研究所において高温工学試験研究炉(HTTR)の建設を進めるとともに水素製造等の,熱利用の研究開発を進めている。

さらに,日本原子力研究所,大学,国立試験研究機関等において,炉物理・核物理に関する研究,放射線に関する生理学研究,燃料・材料の照射試験等の基礎研究を幅広く行っており,特に日本原子力研究所においては平成5年4月に設置された先端基礎研究センターを中心に,原子力の新たな展開を図るための基礎研究の充実を図っている。

また,基盤技術開発としては,原子力用材料技術,原子力用人工知能技術,原子力用レーザー技術,放射線リスク評価・低減化技術,放射線ビーム利用先端計測・分析技術,原子力用計算科学技術,原子力分野における人間の知的活動支援技術の計7技術領域について,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,理化学研究所及び国立試験研究機関において研究開発を進めている。

(8) 国際社会への主体的貢献

原子力の国際協力に当たっては,国際社会と協調して開発利用を推進していくことが必要であり,核不拡散と原子力平和利用の両立等の政策的課題に関する基本的スタンスを明確化するため,従来以上に二国間及び多国間の政策対話を実施していくことが重要である。我が国としては,各国との間で定期的に開催されている協議等を通じて政策対話を実施するとともに,国際会議等の場に積極的に参加し,我が国の考えを示してきている。また,我が国は今や技術開発に傾注する努力において主要な地位を占めている事実にかんがみ,主体性を持った積極的協力を行っていく。旧ソ連,中・東欧諸国の原子力安全問題については,我が国としても運転中異常検知システムの設置による安全性向上,運転訓練シミュレータの設置といった技術的支援,研修事業による運転員の資質向上等に向けた二国間支援及びEBRD(欧州復興開発銀行)の原子力安全支援基金,IAEA(国際原子力機関),NEA(OECD原子力機関)への特別拠出金事業などを通じた多国間支援を実施している。また,近隣アジア諸国に対しても,各種研修事業や専門家の受入・派遣等を通じた協力を実施している。

2) 自然エネルギーの研究開発

エネルギーの安定供給の確保及び地球環境問題への対応の観点から,太陽エネルギー,地熱エネルギー,風力エネルギー,海洋エネルギー,バイオマスエネルギー等の自然エネルギーの利用の拡大を目指した研究開発を推進することが必要である。このため,通商産業省におけるエネルギー・環境領域総合技術開発推進計画(ニューサンシャイン計画),農林水産省におけるバイオマスエネルギーへの取組をはじめ,海洋科学技術センター等で以下のような積極的な研究開発が進められている。

太陽エネルギーは,枯渇することのないエネルギー源であり,地球環境問題への対応においても重要な役割を果たし得るものである。一方,エネルギー密度が低く,自然条件によって出力が変動するという性質も有しており,このような太陽エネルギーの特性を考慮しつつ,研究開発を進めることが必要である。太陽エネルギーの具体的な利用用途としては,太陽熱利用及び太陽光発電等が考えられ,既に民生用給湯システムについては,技術開発を終了し,一般家庭に普及している。このため,産業用ソーラーシステム等の技術開発を積極的に推進するとともに,太陽光発電については,太陽電池・システムの一層の低コスト化,高効率化等を目指した研究開発を進めている。

地熱エネルギーは,資源量が豊富な純国産エネルギーであるとともに,非枯渇性であるという特徴をもっており,その利用の拡大に向けて研究開発を進めることが重要である。このため,地熱探査技術,掘削・採取技術,バイナリーサイクル発電の開発,高温岩体発電の要素技術の開発等を進めている。

風力エネルギーは,環境負担が少なく,資源が広範に賦存するエネルギーである一方でエネルギー密度が低く,変動が大きいことなどから,その実用化のためには,コストの低減,長期安定運転の確保,システム化等を図ることが重要である。欧米においては,既に電力供給源の一部を担うものとして導入・普及が進んでいる。我が国においては,集合型風力発電システム及び風力エネルギーの利用拡大の観点から重要となっている大型風力発電システムの研究開発等を進めている。

海洋エネルギーは,エネルギー密度が低い・ことなどにより,現状では航路標識等による利用に止まっていることから,経済性と信頼性の向上に向けての研究開発を進めることが重要である。このため,高効率波力エネルギー利用システム,海洋深層水高度利用システム,海洋温度差発電等についての研究開発が進められている。

バイオマスエネルギーは主として太陽エネルギーを固定化する生物の機能を利用して得られる再生可能エネルギーであり,エネルギーの固定化,変換,利用,再生という一連のエネルギー利用システムが確立されれば,大気中の二酸化炭素を増加させることはない。このようなシステム確立のため,農林水産物等のバイオマス資源の有効活用システムの確立のための研究,二酸化炭素を高効率で固定する植物から炭化水素を製造する研究,微生物を利用して水素を製造する研究等が進められている。

3) 化石エネルギーの研究開発

一般に,化石燃料といわれているものは,石炭,石油,天然ガス,オイルシェール及びタールサンドで,炭化水素系の地下資源である。

産業革命以降,この化石燃料を利用することによって,人類は現在の高度な文明を築き上げてきたが,一方で,資源の有限性,地球環境問題などの課題に対応することが必要となってきている。このため,地球環境への影響に配慮しつつ,世界的なエネルギ―需要の増大の見通しに対応し,エネルギーの安定供給を確保する観点から,通商産業省において,化石エネルギーの高効率な利用技術等の研究開発を推進している。

我が国のエネルギーの中核である石油については,新規開発油田の中小規模化等探鉱・開発条件の悪化傾向等に対応し,石油開発技術の研究開発が推進されている。また,日本周辺における賦存状況の把握とその活用に係る研究開発も進められている。

石炭は,石油などに比べ供給安定性に優れており,原子力と並ぶ石油代替エネルギーであるが,液体燃料と比較した場合,取扱いが不便な面があることなどから,石炭液化・ガス化技術等の研究開発が推進されている。これらの技術は,石炭の利用分野の多様化や利用の効率化を図り,石油に代替し得る燃料を製造する上での重要な技術であり,かつ,硫黄酸化物等の公害物質,粉塵等の排出の低減のためにも有効な技術である。

また,石炭は化石エネルギーの中でも燃焼時の単位エネルギー当たりの二酸化炭素の排出量が多いことから,地球環境問題に対応しながら石炭利用の円滑な拡大を図るためには,二酸化炭素等の環境への負荷低減を図るための革新的な技術開発が必要である。このため,高効率石炭燃料技術を中心とするクリーン・コール・テクノロジーの実用化開発及びより革新的な次世代クリーン・コール・テクノロジーの調査研究が推進されている。

天然ガスは,他の化石エネルギーと比べて,燃焼時の二酸化炭素の排出量が少ないなど,環境負荷が小さいといった特徴を持っており,今後とも重要なエネルギー源として,その開発利用に係る研究開発を進めることが重要である。このため,天然ガスの賦存状況の把握・採取に関する研究とともに,液体燃料等への形態変換により利用範囲の拡大を図ることを目指した天然ガスの液体燃料化等に関する研究が行われている。また,平成7年度からは非在来型天然ガスとして,我が国周辺に賦存が見込まれているメタンハイドレートについて,その探鉱・開発・生産技術の研究開発を実施している。

4) エネルギーの供給及び利用効率の向上のための研究開発

地球環境問題への対応,有限なエネルギー資源有効活用などの観点から,個々の機器,要素技術の効率向上とともに,分散型システムの導入・活用・未利用エネルギーの活用など社会システム全体においてエネルギー供給及び利用の効率の向上等を図るための研究開発を推進することが重要となっている。また,各種製品の生産,利用,再利用,廃棄,各種サービス等で直接・間接に消費されるすべてのエネルギー(ライフサイクルエネルギー)の低減を視点とした研究開発を推進することが必要である。このため,通商産業省等において以下の研究開発を進めている。

発電効率の高い燃料電池やコージェネレーションの普及拡大に資するセラミックガスタービンなどのエネルギー変換効率の向上を目指した研究開発,送電系統の安定化や効率の向上が期待される超電導線材・超電導発電機等の超電導電力応用に関する技術,産業部門・民生部門・輸送部門・農林水産部門等でのエネルギー利用における効率の向上を目指した研究開発といった各要素技術の研究開発が推進されている。

また,工場や都市ビルから捨てられている廃熱,河川水等の未利用エネルギーの有効利用技術の研究開発,廃熱などの熱エネルギーを電気に変換する素子や材料の研究開発,中小規模での電力の効率的貯蔵の可能な蓄電池である分散型電池による負荷平準化等のエネルギー貯蔵技術の研究開発が推進されている。

さらに,高いエネルギー効率で,熱と電力を同時に供給できるコージェネレーションシステム,工場等の産業分野から排出される未利用の低温排熱を高効率で回収し,都市部に低損失で長距離輸送し,民生分野等の需要地で需要形態に応じて種々の温度を供給する広域エネルギー利用ネットワークシステム,水力・太陽光・地熱・風力等の再生可能エネルギーを利用して,水素を製造し,輸送に適した形に転換した後,輸送・貯蔵し,発電・輸送用燃料・都市ガス等の広範な分野で利用する水素利用国際クリーンエネルギーシステムなどの研究開発が進められている。

5)基礎・基盤科学技術の推進

エネルギー研究開発の飛躍的な進展を図るためには,独創的な基礎研究の成果によるブレークスルーに期するところが大きい。

このため,通商産業省,科学技術庁,文部省等において,新材料の開発,生産・加工プロセスの研究開発,及び,プラント等の制御技術の高度化にかかわる研究開発を進めている。

平成7年度に実施された主なエネルギーの開発及び利用に関する研究課題をまとめると 第3-3-11表 のとおりである。

第3-3-11表 主なエネルギーの開発及び利用に関する研究課題(平成7年度)


(3) 資源の開発及びリサイクル

鉱物資源等の天然資源の有効利用のため,資源の探査,採取・処理,資源量の評価に基づく管理システム等の研究開発を推進するとともに,資源のリサイクルを目指し,廃棄物の資源化,水資源の循環利用,リサイクルしやすい製品の生産等に関する研究開発を推進することが必要である。

このため,通商産業省においては,資源の開発のための研究開発としてニッケル,銅,コバルト,マンガン等の重要非鉄金属資源を含有するマンガン団塊を深海底から安全かつ効率よく採鉱するためのシステム技術の研究開発を実施している。また,リサイクル技術の抜本的な促進を図るための研究開発として,1)廃プラスチックの液化等の容器包装リサイクル関連技術,金属スクラップの高度リサイクル技術等のリサイクル能力の拡大のための技術開発,2)高効率廃棄物発電,RDF(固形燃料化した廃棄物)の利用拡大等サーマル・リサイクル(廃棄物の焼却熱のエネルギー利用)関連技術開発,3)都市ごみ焼却灰等のセメント原料としての利用技術開発,4)廃家電製品,廃自動車等の適正処理・リサイクル技術開発を始めとして,幅広い分野における廃棄物処理・リサイクル技術の開発を積極的に展開している。その他,有機資源の環境調和型リサイクルシステムを確立するための基礎技術として,再生可能分別不要型プラスチック原料の製造技術の研究開発が進められている。

厚生省においては,廃棄物の減量化を図り,リサイクルを推進する観点から,ごみの固形燃料化施設の標準化に関する調査やプラスチック油化処理実証事業を通じたリサイクルシステムの研究が進められている。また,水道水の安定供給を図るための膜処理等の高度浄水技術や発生汚泥のセメント原料等への利用技術の評価が行われている。

また,農林水産省においては,環境保全対策及び有機物資源の有効利用を進めるため,家畜排泄物中の未利用資源の高度回収・利用技術の確立,有機性廃棄物のリサイクル等に生態系の持つ機能を高度に利用した生態系調和型農業システムの開発,食品製造業において大量に発生する廃棄物の有効利用を図るための食品製造における廃棄物再生利用技術開発事業,食品産業の製造工程全般について,環境への負荷を低減するための食品産業における生物活性利用等再資源化技術の開発,並びに木質資源の有効利用を図るため,木質廃棄物の再生利用技術の開発が進められている。さらに,建設省においては,植物の維持管理により発生する剪定枝等のリサイクル技術の開発,建設副産物の発生抑制・再生利用技術の開発が,また後者と関連して,運輸省においては,各種廃棄物を母材とした土質新材料の開発と港湾施設への適用に関する研究などが進められている。

平成7年度に実施された主な資源の開発及びリサイクルに関する研究課題をまとめると 第3-3-12表 のとおりである。

第3-3-12表 主な資源の開発及びリサイクルに関する研究課題(平成7年度)



(4) 食料等の持続的生産

食料等の安定的確保は世界各国の共通した重要課題である。また,今後世界人口の増加等を背景として国際的な食料需給が逼迫基調で推移するものと見られている。このような観点から,育種・増殖技術の開発,農用地・林地等の生産力の増強と施設の開発,栽培・飼養管理技術の高度化,貯蔵・流通システムの合理化,遺伝子資源の収集と保存,未・低利用資源の用途開発等に係る研究開発を推進し,食料をはじめとする農林水産物の安定的・持続的な生産システムを構築していくことが必要である。

このため,農林水産省においては,生産性向上の観点から,省力的な直播栽培技術の改良や高品質多収品種の育成等次世代の稲作技術の開発,主要畑作物の高品質化及び新規導入作物も組み込んだ高度土地利用技術の開発,繁殖技術の飛躍的高度化を図る畜産技術の開発等が進められており,高品質農林水産物の生産・流通加工の観点からは,環境ストレスの低減化による高品質乳生産技術の開発,新しい機能を有する食品素材の開発等が進められている。さらに,これらに関連する基礎的研究開発として,イネ・ゲノムの遺伝子分子地図の作成・利用技術の開発,組換えDNA等の先端技術を活用した育種技術の開発,共生微生物の機能や遺伝子情報の解析等が進められている。また,国際共同研究等により,地球規模での食料問題に対応した基礎的先導的研究も進められている。

平成7年度に実施された主な食料等の持続的生産に関する研究課題をまとめると 第3-3-13表 のとおりである。

第3-3-13表 主な食料等の持続的生産に関する研究課題(平成7年度)



3. 生活・社会の充実のための科学技術

社会の成熟化や高齢化が進み,また,国民の意識が,ゆとり,潤い,快適さといった精神的あるいは,心理的な豊かさを求めるものに変質してきている状況を踏まえ,人間が個人として,また,社会の一員として,快適で充実した生活を送るためには,健康を維持・増進するとともに,安全性を確保しつつ,生活環境や社会経済基盤を向上させる展開が従来以上に求められている。このような認識のもとに,科学技術会議第18号答申(平成4年1月)において,生活・社会の充実のための科学技術の推進の重要性が指摘され,この答申を受けて,科学技術政策大綱(平成4年4月閣議決定)が策定され,健康の維持・増進,生活環境の向上,社会経済基盤の整備,防災・安全対策の充実のための研究開発が関係省庁において推進されている。さらに科学技術会議政策委員会による「平成7年度科学技術振興に関する重点指針」においても,新たに「生活者の視点にも配慮」する必要性が指摘されたことを踏まえ,科学技術庁においては,平成7年度に「生活・社会基盤研究」を創設し,生活者の立場を一層重視した科学技術の振興を図ることとしている。


(1) 健康の維持・増進

ゆとりと豊かさを実感できる生活を実現していく上で,国民の健康の維持・増進を図ることは基本となるものである。このため,日常生活において,肉体及び精神の健康を維持・増進するための多様な技術の研究開発の推進,さらには,人体に有毒な各種物質の発生防止・処理技術,人体への影響を低減する技術等の研究開発を進めることが必要である。また,完治困難な疾病,社会問題化している疾病等の原因究明,診断・治療法の開発,そのための医薬品の開発等,医療技術の高度化・総合化を図ることが必要である。その際,人間の尊厳や生命倫理に関する多方面からの議論を十分に踏まえることが重要である。

本分野については,「がん研究推進の基本方策に関する意見」(昭和58年7月 科学技術会議),「脳・神経系科学技術推進の基本方策に関する意見」(昭和62年8月 科学技術会議),「免疫系科学技術推進の基本方策について」(昭和62年8月 科学技術会議),「エイズ問題総合対策大綱」(昭和62年2月 エイズ対策関係閣僚会議決定,平成4年3月改正),「創薬基礎科学研究の推進について」(平成2年10月日本学術会議)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。

がん研究については,平成5年度をもって終了した「対がん10カ年総合戦略」(昭和58年6月 がん対策関係閣僚会議決定)によって,がん遺伝子の発見やウイルスによる発がんのメカニズムの解明,抗がん剤の開発などの成果が得られている。今後ともこれまでの研究成果を踏まえて,がんの本態解明とその成果の臨床・予防への応用を促進していく必要があるとの認識のもと,平成6年度から新たに「がん克服新10か年戦略」をスタートさせている。この戦略においては,関係省庁の緊密な連携のもと,1)がんの治療成績の向上,2)がん患者や家族の立場に立った医療の展開,3)有効な予防法の実行による,がん発生頻度の減少,4)がんに関する情報ネットワークの整備を目指し,具体的には,がんの転移メカニズムの解明,遺伝子を用いた正確な診断法の確立,重粒子線がん治療装置を用いた治療をはじめとする新しい治療方法の確立,コンピュータ・テクノロジー等の進歩を取り入れた先端的な診断機器の開発,がん患者のQOL(生命・生活の質)の向上等を進めることとしている。また,近年世界的に患者数が増加しているエイズに関しては,昭和62年にエイズ対策関係閣僚会議により「エイズ問題総合対策大綱」が策定され,また,平成4年3月に改正されており,同大綱に基づき,科学技術庁,文部省及び厚生省において研究が進められている。

また,我が国は世界にも例を見ない速度で長寿社会を迎えようとしているが,こうした状況を踏まえ昭和61年に閣議決定された「長寿社会対策大綱」,「長寿社会対応科学技術推進の基本方策に関する意見」(昭和61年 科学技術会議)に基づき,厚生省の長寿科学研究推進十か年事業等関係省庁における老化等の問題に関する研究開発が進められている。

この他,本分野の研究開発として,科学技術庁,厚生省,文部省,農林水産省,通商産業省等により,循環器系疾患その他難治性疾患の原因解明,予防・治療法の確立,医薬品開発に資する研究開発,心身障害,精神・神経疾患の発生機序の解明,診断・治療法の開発,先端技術を用いた診断治療機器の研究開発,市場性が乏しく民間企業による研究開発の遅れている医薬品の開発,新たな機能性を有する食品・食品素材の開発,食物アレルギー発症機構の解明とその予防治療に関する研究開発等が推進されている。

平成7年度に実施された健康の維持・増進分野の研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-3-14表 のとおりである。

第3-3-14表 主な健康の維持・増進に関する研究課題(平成7年度)



(2) 生活環境の向上

生活そのものの質的向上,人口構成の高齢化,出生率の低下等への対応については,個人,家庭,地域社会等の主体的な活動に委ねられる部分もあるが,科学技術面での対応を適切に図ることによりこれらの諸問題の解決に向けて大きく寄与することが期待されている。

このため,個性を発揮し,文化的な生活を送ることを可能とする豊かな生活環境を整備するために,衣食住等の生活技術,精神的充足やコミュニティー形成を支援する技術等の研究開発を推進することが必要である。また,高齢者,障害者等が大きな不便を感じることなく生活し,また,積極的に社会参加することが可能になるように多様な要請にきめ細かく応える福祉技術の研究開発を推進することが必要である。

本分野については,「長寿社会対応科学技術推進の基本方策に関する意見」(昭和61年5月 科学技術会議),「障害者プラン―ノーマライゼーション7か年計画」(平成7年12月 障害者対策推進本部)等が策定され,研究開発が積極的に推進されている。

本分野の研究開発は,科学技術庁,厚生省,農林水産省,通商産業省,運輸省,労働省,建設省等により推進されている。具体的には,高機能製品や機能的生活空間の開発に資する人間感覚計測応用技術の研究開発,農村アメニティの維持・増進に関する研究,木材揮発成分が持つ生活快適性等の評価研究,超高速船等の近年の交通環境の変化に対応した安全対策の確立に関する調査研究,高齢者向け機器等各種福祉技術の研究開発,障害者のニーズに適合した生活支援システムの研究開発,高齢化を支える保健・医療に関する生活情報システムの構築と効果的な活用に関する研究,効果的な交通安全対策に関する研究等の研究開発が推進されている。また,良好な沿道環境の保全技術の開発も行われている。

平成7年度に実施された生活環境の向上分野の研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-3-15表 のとおりである。

第3-3-15表 主な生活環境の向上に関する研究課題(平成7年度)



(3) 社会経済基盤の整備

都市化の進展,交通・運輸や通信システムの発達等社会全体が高度化,複雑化していく一方で,農山漁村地域においては,人口流出や高齢化が進展し,産業・生活両面にわたる活力の低下に加え,公共交通・輸送機能の低下,国土保全,水源かん養,自然環境保全等の多面的で重要な機能の低下等の問題が生じており,社会経済基盤の整備が内外から求められている。このため,総合的な国土の利用を図るための技術,公共的施設等の土木・建築に関する技術及び交通・輸送に係る研究開発,高度な情報通信システムの確立を目指した技術及びデータベースの構築に関する研究開発並びに廃棄物処理技術の研究開発を推進することが必要である。また,環境に対する負荷の低減に留意しつつ,消費者要請の多様化,労働力の不足等に対応するための生産活動に関する技術の研究開発を推進することが重要である。

本分野については,「建設省技術五箇年計画」(平成7年9月 建設省),「運輸省研究基本計画」(毎年度 運輸省),「21世紀を展望した運輸技術施策について」(平成3年6月 運輸技術審議会 運輸省〉,「情報通信技術に関する研究開発指針」(平成4年5月 平成6年8月一部改正 郵政省),「公害の防止等に関する試験研究の重点強化及び総合的推進について」(毎年度 環境庁)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。

具体的な研究開発については,大深度地下空間開発技術,社会資本の維持更新・技能向上技術,省資源・省エネルギー型国土建設技術などの総合的な国土利用や建設技術等に関する研究開発が,通商産業省,建設省等により推進されている。また,超電導磁気浮上方式鉄道技術開発,超音速輸送機用推進システム,高度道路交通システム(ITS)などの高度な交通・輸送システムの開発のための研究開発が通商産業省,運輸省,建設省等により推進されている。さらに,インテリジェント電波有効利用技術の研究開発などの高度な情報・通信システムの開発のための研究開発が郵政省等により推進されている。

平成7年度に実施された主な社会経済基盤の整備に関する研究課題をまとめると 第3‐3‐16表 のとおりである。

第3-3-16表 主な社会経済基盤の整備に関する研究課題(平成7年度)


(4) 防災・安全対策の充実

1) 防災科学技術

我が国はとれまで数多くの自然災害を経験し,これに対し各種の防災対策を講じてきているところであるが,平成7年1月17日こ発生した「阪神・淡路大震災」は,6,300人を超える死者を出すなどその被害は甚大なものとなった。今後とも,災害から人命・財産を守り,被害を軽減していくためには,国土全体のより高度な防災化を指向した努力を継続していくとともに,災害に強い生活習慣を工夫していくことが必要である。このような防災対策をより効果的に講ずるためには,災害の未然防止,災害が発生した場合における被害の拡大防止,災害復旧という一連の過程において,科学技術上の知見を十分活用することが重要である。

防災に関する研究開発は,災害から人命・財産を守るための効果的な対策を実現していくための科学技術体系を確立し対策に反映させることを目的としており,今後とも,防災上の要請を踏まえつつ,防災に関する研究開発を体系的かつ計画的に推進していく必要がある。このようなことから,社会環境の変化及び科学技術の発展を考慮しながら,長期的視野に立って,今後10年間程度を展望して我が国全体として取り組むべき研究開発の目標を明らかにした「防災に関する研究開発基本計画」(昭和56年7月内閣総理大臣決定,平成5年12月同改定)が策定されている。特に,地震防災については,科学技術会議政策委員会の「阪神・淡路大震災を踏まえた地震防災に関する研究開発の推進について」(平成7年5月25日決定)において,「防災に関する研究開発基本計画」の点検を行い,本計画の地震防災に関する内容について今回の震災を踏まえてもなお適切であるものの,本計画の効果的な実施を図ることが重要な課題であると考え,そのための必要な方策を取りまとめた。

また,阪神・淡路大震災等を踏まえ,平成7年4月に,測地学審議会において「第7次地震予知計画の見直しについて」が取りまとめられ,関係大臣に建議された。さらに中央防災会議では,平成7年7月に「防災基本計画」を改定した。

さらに,阪神・淡路大震災を契機として,地震防災緊急事業5箇年計画の作成及びこれに基づく事業に係る国の財政上の特別措置,地震に関する調査研究の推進のための体制の整備等を定めた「地震防災対策特別措置法」(平成7年6月16日公布,平成7年7月18日施行)が成立した。

各省庁における防災科学技術研究は, 第3-3-17表 (地震調査研究は, 第3-3-19表 に示す。)に示すとおりであり,その研究内容は地震調査研究,地震防災,火山災害対策,雪氷災害対策,気象・水象災害対策,地球科学技術など多岐にわたり,かつ,宇宙開発技術,海洋開発技術等先端科学技術を駆使しているものもかなりある。

特に,地震防災研究については,科学技術振興調整費「市民の安全を確保し安心した市街地を創出するための総合的な地震防災に関する研究」,科学技術庁防災科学技術研究所における全国1000カ所の強震計の整備,大型三次元振動実験装置の加振機構の要素技術の開発等を実施している。

国際協力については,アメリカ,ロシア等の科学技術協力協定,日米包括経済協議,天然資源の開発利用に関する日米協力(UJNR)に基づき,防災科学技術に関する二国間の研究協力が進められている。

特に,地震防災に関しては,平成7年6月の日米首脳会談(村山首相,クリントン大統領)において,地震に関するシンポジウムの開催が決定した。また,平成7年7月及び平成8年2月,モスクワにおいて地震に関する日ロ間のワークショップを開催し,地震の研究協力に関して意見交換を行った。

第3-3-17表 主な防災科学技術分野(自然災害を中心とした)の研究課題(平成1年度)


また,多国間の国際協力については,平成7年10月,北京(中国)において開催されたAPEC科学技術大臣会合において,我が国より,地震災害に重点を置いた災害防止の共同研究を促進することを提案した。

この他,国際協力事業団(JICA)を通じ,研修員の受入れや専門家の派遣等の技術協力,国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)/世界気象機関(WMO)台風委員会,世界気象機関(WMO)等の枠組みにおける協力を実施している。

さらに,1989年(平成元年),我が国等が共同提案した「国際防災の10年(IDNDR)」の決議が第44回国連総会で採択され,特に途上国における自然災害による人的損失・物的損失及び社会的混乱を国際協調行動により軽減することを目的として「国際防災の10年」が開始されたが,これに先立ち我が国の推進母体として,1989年(平成元年)5月に「国際防災の10年推進本部」(本部長 内閣総理大臣)が組織され,1989年(平成元年)11月,事業推進の基本方針が決定された。

この趣旨に沿って1994年(平成6年)3月,地震予知と地震災害の軽減に関するワークショップが開催された。また,1994年(平成6年)5月には,国連主催による「国際防災の10年」世界会議(国連防災世界会議)が横浜で開催されたが,我が国はホスト国として将来に向けての行動計画である「横浜戦略」の策定,資金的支援等,積極的な協力を行った。

その中では,国レベル,国際機関レベルでの対策に加え,災害の形態や防災対策に共通点を有する地域レベルにおける国際協力の重要性が指摘されている。

阪神・淡路大震災の経験を踏まえ,かつ,横浜戦略における地域レベルの協力の第一歩として,1995年(平成7年)3月,社会開発サミットにおいて,村山富市内閣総理大臣は,閣僚レベルの「アジア防災政策会議」を開催し,アジアにおける防災対策強化のための施策につき,関係各国とともに,検討したい旨の発言を行った。

このような経緯を踏まえ,1995年(平成7年)12月には,兵庫県神戸市においてアジア防災政策会議を開催し,自然災害の防止,予防及び軽減のための相互協力の強化,アジア地域における防災センター機能を有するシステムの創設の検討及び国際レベルでの協力等を盛り込んだ「神戸防災宣言-アジア地域における防災協力の推進に向けて-」を策定した。

2) 地震調査研究

我が国は世界有数の地震多発地帯に位置しており,有史以来,数多くの地震被害を経験している。このため,地震災害の軽減を図るため,地震に関する調査研究の推進が重要な課題である。

特に,平成7年1月の阪神・淡路大震災は被害が甚大であり,我が国の地震に対する体制にも大きな教訓を与えた。我が国における地震調査研究は,昭和51年に閣議決定により内閣に設置された地震予知推進本部(本部長:科学技術庁長官)の取りまとめにより,科学技術庁,国立大学,気象庁,国土地理院,地質調査所等の関係機関の密接な連携の下に進められてきた。しかしながら,阪神・淡路大震災を契機に,地震に関する調査研究の一元的な推進のための体制の整備等を目的として成立した地震防災対策特別措置法に基づき,平成7年7月18日付けで,地震調査研究推進本部(本部長 科学技術庁長官)が新たに総理府に設置された。また,同時に地震予知推進本部が廃止されることとなった。

地震調査研究推進本部は,地震に関する調査研究に関し,

1)総合的かつ基本的な施策の立案
2)関係行政機関の予算等の事務の調整
3)総合的な調査観測計画の策定
5)上記評価を踏まえた広報

を行うこととしている。同本部の発足により,我が国においては,地震調査研究推進本部を中心に,科学技術庁,国立大学,気象庁,国土地理院,地質調査所等の関係機関が,密接な連携協力を行いつつ,地震調査研究を進める体制となった( 第3-3-18図 )。

地震調査研究推進本部は,平成7年7月の発足以来,政策委員会において,関係省庁の予算要求の調整等を行うとともに,地震調査観測計画,広報のあり方の検討に着手し,本年1月には,政策委員会の調査観測計画部会において,今後取り組むべき重点課題のうち,当面推進すべき課題として,1)微小地震観測,2)地殻変動観測,3)活断層調査の3項目について,今後,全国的な調査観測を実施すべきとした報告書を取りまとめた。また,観測結果の分析・評価については,地震観測データの気象庁への集中化を進めるとともに,地震調査委員会において全国的な地震活動の調査結果の評価を行っている。各省庁が地震調査研究関係として実施した主な事項は, 第3-3-19表 に示すとおりである。全国規模で密度の高い基盤的地震観測網を構築するために,科学技術庁において,微小地震観測施設,汎地球測位システム(GPS)地殻変動観測施設及び海底地震観測施設の整備を進めた。また,全国的な活断層調査を実施するため,科学技術庁において地方公共団体が実施する活断層調査に対して地震調査研究交付金を交付する他,工業技術院地質調査所において,活断層等による地震発生ポテンシャル評価の研究を行った。この他,科学技術庁においては,大学,海外等の研究者を結集した流動的な研究システムで,地震に関する先端的・基礎的な研究を行う地震総合フロンティア研究を推進するとともに,科学技術庁防災科学技術研究所において,首都圏の観測体制を強化するため,3000m級地震観測施設の建設など広域深部観測施設の整備を進めている。

第3-3-18図 地震調査研究の推進体制

第3-3-19表 地震調査研究関係として実施した主な事項(平成7年度)

3) 労働衛生,安全の確保等

自然現象に起因する災害やこれに伴う一般的な二次災害に関する研究開発以外にも,火災・危険物災害等に対応するための技術及び巨大構造物・システムの運用・保守管理技術の研究開発を推進することが重要である。

また,ハイテク化や情報化が進展した結果として,日常生活や職場環境において増大しつつある新たな危険に対処する技術の研究開発を推進することが必要である。

このような,火災・危険物災害対策技術,労働衛生・安全の確保等の研究開発が,農林水産省,通産省,労働省,建設省,自治省等により推進されており,関係省庁が平成7年度に実施した主な研究開発課題は, 第3-3-20表 のとおりである。

第3-3-20表 主な労働衛生,安全の確保等に関する分野の研究課題(平成7年度)



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