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  はじめに
第1部  研究活動のフロントランナーをめざして
第3章  研究活動のさらなる展開に向けて


前2章までに述べてきたように,近年,科学技術に対する期待と要請の高まり,研究開発の現場における研究環境の変化など,科学技術を取り巻く環境は大きく変化してきている。こうした状況の中で,我が国がフロントランナーの一員として研究開発活動をさらに展開していくためには,研究者が研究に没頭し能力を最大限に発揮できる環境を整備するとともに,優れた研究開発人材を豊富に育成することが重要である。また,科学技術が著しく高度化した社会において研究活動を効率的に進めていくためには,研究者が社会的にもインパクトの大きい研究開発成果を上げ,それをわかりやすく社会に発信することにより社会からの強い支持を得るなど,科学技術と社会とのかかわりを強めていくことが重要である。


第1節 研究に没頭できる環境

独創的で優れた研究を進めるには,研究者が一意専心研究活動を進められることが必要である。構想を大きく持ち,研究者の能力を最大限に発揮して難しい課題に果敢に挑戦していけなければ,世界の研究の最前線をリードすることは困難である。しかし,現状は,以下に述べるように,必ずしも研究者が研究に没頭できる環境にあるとは言えない場合も多い。

(研究支援者が不足している)

研究者が様々なことに時間をとられ,必ずしも創造的な研究活動に没頭できる環境にないということが研究成果を出す上での阻害要因の一つとなっている。これは,実験補助・施設等管理・秘書・事務管理・渉外・接遇機能などの役割を果たす研究支援者の不足によるところが大きい。

先端科学技術研究者調査の結果によると,約7割の研究者が,研究を補佐する研究補助者や技能者の不足を訴えている。研究事務その他関係者についても,約6割の研究者が不足していると回答している( 第1-3-1図 )。そして,これら研究支援者の不足を訴えている研究者のうち,1日に2時間以上創造的活動以外のことに時間をとられている研究者が54%に達しており,1日に4時間以上そうしたことに費やしている研究者が6%もいる( 第1-3-2図 )。さらに,研究支援者の不足が研究成果を出す上での大きな阻害要因となっているとする研究者が3/4に達しており ( 第1-3-3図 ),具体的には,研究開発に遅れが生じたり,想定していた成果が出せなかったなどの結果につながっている( 第1-3-4図 )。

第1-3-1図 研究補助者等の不足を訴える研究者の割合

第1-3-2図 研究者が研究補助的業務に費やしている時間(一日当たり)

第1-3-3図 研究補助者等不足は研究成果創出の阻害要因となっているか

研究支援者が何人いれば研究が円滑に進められるかは,研究テーマ,研究開発の段階により異なる。環境が恵まれていると見られる先端科学技術研究者の場合でも,研究支援者を現状の研究者一人当たり1.7人から理想的には3.4人に増加することが必要と考えているという調査結果が出ている( 第1-3-5図 )。

国全体の研究開発活動を調査した総務庁の科学技術研究調査報告によると,研究者一人当たりの研究補助者及び技能者の数は,長期的に低下傾向にあり,平成7年には0.32人であった( 第1-3-6図 )。特に,大学等について見ると,0.12人と会社等や研究機関に比べ極端に低くなっている。

第1-3-4図 研究補助者等の不足の結果

第1-3-5図 研究者一人当たりの研究支援者数

以上のことからほとんど研究支援が得られていない研究者もかなり

第1-3-6図 我が国における研究者一人当たりの研究支援者数の推移

このような事態に至った背景には,急速に展開する研究開発競争の中で,まず研究者の確保が優先され,研究支援者の確保,処遇が必ずしも十分でなかったということがあるものと考えられる。

(研究支援体制整備のための施策)

研究支援者が不足しているという現状に対応し,科学技術庁では平成7年度より科学技術振興調整費を活用して重点研究支援協力員制度を創設し,国立試験研究機関を対象として,研究内容や研究者のニーズに合わせて,高度な知識・技術を有する研究支援チームを手当てする等研究支援体制の整備に努めている。

研究者が世界に通用する独創的な研究成果を上げるためには,このような研究支援体制の整備を通じて,研究者が創造的な研究活動に没頭できるような環境づくりをしていくことが重要であり,今後もさらに充実に努めるべきである。

研究補助者,技能者など研究支援者の処遇についても,より一層の配慮がなされるべきである。優秀な研究支援者を確保し,やりがいを持って仕事ができるようにするためには,単なる研究補助にとどまらずに,高度な技術を有する専門家としての位置づけも重要と考えられる。具体的には,近年急速に高度化している実験機器の設計・製作,高精度で再現性の高い独創的な実験手法の開発・改良等を行い得る,高度な知識・技術を有した専門家として育成することが重要である。

(老朽化・陳腐化する施設・設備)

国公立試験研究機関や大学では,施設・設備が老朽化・陳腐化し十分な研究が行えなくなっている。例えば,施設の老朽化については,一般に改修等が必要とされる建築後20年以上を経過した建物面積が総延べ床面積に占める割合が,国立試験研究機関で約1/3(平成8年2月現在,科学技術庁の試算による),国立大学では50%(平成7年5月現在,文部省調べ)に達している。筑波研究学園都市の国立試験研究機関等を例にとると,施設の大半は昭和49年から昭和54年までの間に建設されたものであり,施設の損耗状況調査の結果,配管や機器等の著しい劣化が判明している(建設省「平成8年度各省各庁営繕計画書に関する意見書」)。一方,設備の陳腐化については,法定耐用年数を超える設備が国立試験研究機関で約70%となっている(平成8年2月現在,科学技術庁の試算による)。

また,施設の狭あい化の問題も指摘されており,研究者の居住のためのスペースや研究機器・設備を置くためのスペースが足りないとしている研究機関が極めて多くなっているとの調査結果もある( 第1-3‐7図 )。そのため,外部からの研究者招へい等に支障を来している。

こうした状況を反映し,研究開発を行うに当たって外部機関の研究施設・設備を利用したいと考える研究者も多くなっており,先端科学技術研究者調査の結果では,研究者全体の6割以上,大学の研究者では7割に達している( 第1-3-8図 )。

第1-3-7図 研究用建物の整備状況

第1-3-8図 外部の研究施設等で利用したいものがあるか

このような状況を踏まえ,政府では,補正予算も含め施設・設備の整備に努めているところである。その効果は先端科学技術研究者調査の結果にも表れており,研究者の8割が,5年前との相対的な比較では研究施設・設備については良くなったとしている( 第1-3-9図 )。しかしながら,前述のように,研究施設・設備が十分に整備されていないことが研究成果を出す上で大きな阻害要因となっていると考えている研究者が依然として5割を超えているのが現状である。また,最新の施設・設備を導入しても,3〜5年使うと陳腐化し,データ取得精度等に問題が出てくるという研究者が多くなっており,施設・設備の進歩が著しいことを反映している( 第1-3-10図 )。このようなことから,導入された施設・設備の適切な維持や適時の更新も含め,一層の充実を図ることにより,研究者が能力を最大限に発揮できるような研究環境を整備していくことが重要である。

第1-3-9図 施設・設備の5年前との比較

第1-3-10図 研究設備が陳腐化し,データ取得精度等に問題が生じるまでの年数

(拡充が求められる研究費)

我が国の研究費は,対GDP比では欧米諸国と比べてそん色のない水準となっているが,OECD購買力平価で換算して比較すると,ドイツ,フランス及びイギリスを大きく上回る規模となっているものの,米国の約4割である。政府負担割合及び政府負担研究費の対GDP比は,国防研究費の割合,租税負担率,民間活力などの差異により,単純に比較できないものの,我が国は,各国を下回っている。また,基礎研究費を見ると,ドイツ,フランスとはそん色ないが,米国は我が国の約2.8倍に達しており,これが基礎的な部門での研究成果に差が生まれる原因の一つとなっていると見られる( 第1-3-11表 )。

研究者が研究費の不足感を抱いていることは,科学技術庁の戦略的基礎研究推進制度や文部省科学研究費補助金など各種公募に対し多数の応募者があることや,先端科学技術研究者調査においても,約半数が研究費の不足が研究成果創出の阻害要因となっていると指摘していることからも伺える( 第1-3-12図 )。日本学術会議等からも,政府負担研究費の拡充が求められている。

一方,民間における研究費の支出は,平成4年度から3年連続で減少している( 第1-3-13図 )。研究費支出の約90%と大部分を占める製造業での対売上高比も,3.52%,3.47%,3.39%と減少しており,米国の水準より低い値で推移している( 第1-3-14図 )。研究者数の増加による潜在能力の向上があるにしても,今後の技術水準の維持・向上の観点からは懸念材料とみられ,研究費確保のための支援策が求められている。

第1-3-11表 主要国の研究費の比較

第1-3-12図 研究費の不足は研究成果創出の阻害要因となっているか

第1-3-13図 民間企業における研究費の推移

第1-3-14図 製造業における研究費の対売上高比及び研究者数の推移


第2節 秀でた人材,新たな機会

優れた研究成果を得るためには,秀でた人材を数多く育成することが必要である。近年,少子化や高齢化が進展し,若者の科学技術離れの懸念が指摘される中で,科学技術系人材の育成,確保は一層重要度を増してきている。このような人材の雇用機会の拡大を図るとともに,新たな研究開発機会を創出していくことが重要である。

(人材の層の厚さ)

研究開発活動を支える人材の層の厚さは,優れた研究開発成果が生み出されるか否かを左右する大きな要因の一つである。研究開発活動を支える人材の源である自然科学系の修士,博士等の学位取得者数の国際比較をすると,絶対数では米国が圧倒的に多くなっており,我が国は,ドイツ,フランス,イギリスなど欧州諸国は上回るものの,米国の約1/4となっている。また,人口比で見ると,我が国は米国の約1/2となっており,欧州諸国とも同水準となる( 第1-3-15図 )。(ただし,ドイツについては博士号のみであり,博士号のみの数で比較すると,我が国は人口比のみならず,絶対数でもドイツを下回っている。)

第1-3-15図 主要国の学位取得者数(自然科学系)

第1-3-16表 学会会員数(個人)の日米比較

また,主要な学会の会員数を日米で比較すると,米国が2倍〜4倍となっているものが多い( 第1-3-16表 )。

さらに,質的な面での比較をするため,研究者一人当たりの論文生産数の比較を行うと,我が国は欧米諸国の水準を大きく下回っている( 第1-3-17図 )。

このように,欧米諸国,中でも米国の研究開発活動を支える人材の層の厚さが際立っており,こうした人材の層の厚さが,高い研究開発水準を支える重要な役割を果たしていると言えよう。我が国が研究開発活動のフロントランナーの一員として,独創的な研究開発により未来を切り拓いていくためには,優秀な人材を豊富に育成することが不可欠である。そのためには,大学等高等教育機関における自然科学系教育の一層の充実とともに,以下に述べるように,若手研究者の雇用機会の拡大,競争的研究環境の確立等のための施策を講じることが必要である。

(雇用機会の拡大,競争的研究環境の確立)

大学院修了生に対する人材需要は自然科学系の修士課程を中心に高いが,博士課程修了者に対する人材需要は近年増えているものの,なお大学院教育を受けたことが社会的に十分評価されているとは言えない。

第1-3-17図 研究者一人当たりの論文生産数の国際比較

また, 第1-3-18図 に,博士課程の規定年限を過ぎても就職していない者の推移を示す。これは,前年に博士課程最終年次に在籍していた者のうち,卒業して就職した者を除いた者の数の推移を示したものであり,学位取得のため大学院に引き続き在籍をして研究を継続する者も含まれている可能性はあるが,年々増加の一途をたどっていることがわかる。このような状況が拡大していくと,就職の見込みが十分あれば博士課程に進学したはずの学生が進学をあきらめるようになるなど,博士課程に進む優秀な学生の数自体が少なくなることが懸念される。実際,国公私立を通じた博士課程の入学定員充足率を見ると,特に工学系や保健系で1を下回っている。

優れた科学技術系人材を確保するためには,研究者の適切な処遇の確保とともに,研究者の雇用機会の拡大を図り,競争的な研究環境の確立を図ることが重要である。このため,若手研究者に一定期間研究の機会を提供する各種の特別研究員制度が講じられており,研究者の研究能力の向上や独創的な発想の育成に効果を上げている( 第1-3-19表 )。

第1-3-18図 博士課程在籍者数とポストドクター発生可能数の推移(自然科学系の専攻分野)

第1-3-19表 各種特別研究員制度の概要

若手研究者支援を強化し,優れた人材を育成,確保するため,関係省庁では,ポストドクター(博士課程修了者)等の優秀な若手研究者の研究活動を支援することとして,ポストドクター等に研究機会と資金を提供する特別研究員等の採用枠を大幅に増やしでいる。平成7年度当初予算では,関係省庁合計で約3,800人の採用枠であったものを,平成8年度に約2,200人多い約6,000人とし,平成10〜12年度頃には約10,000人とすることが目標とされている。また,平成8年度から,科学技術庁,文部省,厚生省,農林水産省,通商産業省及び郵政省の6省庁が実施することとしている特殊法人等における公募方式等による基礎研究推進のための事業において,ポストドクター等への支援にも資するため,ポストドクター等を積極的に活用することとしている。

これらの計画は,研究者の道をめざす優秀な人材を増やし,その中での競争を激化させることにより研究活動の活性化に資すると考えられるが,今後,一層の活性化に向けてさらなる努力をしていくことが重要である。

そのためには,研究者の任用に任期を付す等により,研究者の人事システムをより柔軟性を持ったものとしていくことも有効であると考えられる。第2章第3節で述べたように,先端科学技術研究者調査の結果でも,研究者の半分近くが流動的研究員制度による交流を希望しており,希望者の割合は若い研究者ほど高くなる傾向が見られる( 第1-3-20図 )。

国立試験研究機関については,研究者の任用は原則として任期を付さないこととなっているが,優秀な研究者を受け入れ,相互に知識や発想を交流させつつ多様な研究に取り組むため,人事院規則により,一定の条件のもとで任期付任用が可能となっている。現在,大学,国立試験研究機関ともに,人材の流動化による研究の活性化や,若手研究者の育成を図る方策の一つとして,任期制について検討が行われている。このような任期付任用制度の展開により,研究者の人事システムが柔軟性を増し,特に若手研究者が内外を問わず様々な研究の場で「武者修行」する機会が増大し,多様な人材が相互に学問的刺激を与え合ったり批判し合ったりする競争的環境の中での切瑳琢磨(せっさたくま)を通じて,優れた人材に育成されることが期待される。

第1-3-20図 流動的研究員制度による交流を希望するか

研究者の任用面の施策に加え,研究資金面での施策による競争的研究環境の創出を通じて人材を育成していくことも必要である。研究者の能力が十分に発揮され,優れた研究が行われるようにするには,経常的な研究資金に加え,競争を通じて得られる研究資金を確保することが不可欠である。平成8年度から本格的に実施される公募方式等による基礎研究推進制度は,この面で効果を上げることが期待される。

研究開発活動全般において競争が一層促進されるよう努めていくことが重要である。

なお,前述のような若手研究者への支援事業を進める上で留意すべき点は,任期付研究員が優れた成果を上げるためには,システムとしての研究支援体制の充実が特に重要となるということである。ポストドクター研究員のように研究期間が限られ,かつ大きな業績をめざしている研究員が直ちに研究を立ち上げて短い期間によい成果を上げるには,支援部門の果たす役割が特に重要である。

先端科学技術研究者調査の結果では,所属研究機関に研究支援を行う部門があると回答した研究者は全体のおよそ半分にとどまっており( 第1-3-21図 ),また,研究支援部門に対する充足度については,第 1-3-22図 に示すように,概して低い。所属研究機関に研究支援部門がなくても,研究支援的業務を外注することにより同様の効果を上げることが可能である場合もあるが,外注したことがあると回答した研究者は国立試験研究機関で約6割であったのに対し,大学では3割以下にとどまっている( 第1-3-23図 )。任期付若手研究者が能力を最大限に発揮して研究活動に取り組むことができるようにするためには,研究支援部門を整備・充実するとともに,可能な場合には外注できる体制を整備していくことも必要であると考えられる。

第1-3-21図 研究支援部門の有無

第1-3-22図 研究支援部門に対する充足度

政府による若手研究者支援施策の充実等が図られる一方で,以前は修士課程卒業者に比較して博士課程卒業者の採用に対しては消極的であった民間企業においても,博士課程卒業者の採用数を拡大する傾向が見られる。自然科学系大学院博士課程修了者の就職動向を見ると,製造業を初めとする産業界への就職者数が増えてきている( 第1-3-24図 )。このような就職機会の拡大は,博士課程に進学しようとする者の増加につながるものであり,さらなる拡大が望まれる。

(新たな研究開発機会の創出)

既存の枠組みの中での雇用機会の拡大に加え,新たな研究開発機会を創出していくことも重要となってきている。経済における国際競争の激化,技術革新の著しい加速が進む中で,米国などの例に代表されるように,起業家精神に富み,迅速かつ柔軟な対応の利くベンチャー企業が先端的な技術革新の重要な担い手となってきている。我が国においても,従来の体制や制度のみならず,独創的な発想を持った優れた人材が,時限的な研究開発活動に自由に参加したり,外部がら資金,施設,人材等の支援を受けで自ら研究開発を推進するなどにより,時代に即応した研究開発に携わることのできるような環境を整備していくことが,研究開発活動の一層の振興を図る上で重要であると考えられる。

第1-3-23図 研究支援的業務を外注したことがあるか

第1-3-24図 民間企業への就職者数の推移

(若者の科学技術離れへの対応)

平成5年版科学技術白書などで指摘されているように,近年,若者の科学技術離れが懸念されている。総理府の世論調査によると,科学技術についてのニュースや話題に対する関心が,特に20歳代の若者で低下しており,このことは,若者の科学技術離れの傾向が続いていることを示唆するものであると解釈することができる。

こうした若者の科学技術離れの懸念への対応策を講じることも,科学技術活動を支える多様な人材を幅広く確保するという観点がら重要である。初等中等教育における理科教育については,観察・実験を通した豊かな科学的素養の育成を重視するなど一層の充実に努めているところであるが,ややもすると知識の伝達に偏りがちであると指摘される授業のあり方を見直し,主体的な探求活動を重視し,自ら学ぶ意欲や主体的な学習の仕方を身に付けさせるものへと変えていくことや豊かな自然の中での学習機会を増加させていくことが望まれている。

また,学校教育以外の場でも,生き物や身近な自然に触れる機会を設けたり,科学館の充実や,青少年が研究者や技術者に直接触れる機会を増やすことなどにより,科学技術が身近に感じられるような社会環境の構築に努め,科学技術に対する夢と情熱を持った青少年の育成を図ることが重要である。

(女性の活躍の場の拡大)

「科学技術系人材の確保に関する基本指針」(平成6年12月内閣総理大臣決定)にも指摘されているように,男女の雇用機会の均等を確保するという観点と同時に,人々のニーズにきめ細やかに対応した科学技術活動を展開するという観点からも,女性の活躍の場を拡大し,その能力を活かしていくことが必要である。我が国の女性研究者数の推移を見ると,近年着実に増加してきており,平成7年には約4万人,割合にして7%に達している( 第1-3-25図 )。しかしながら,この比率は,我が国の就業者全体に占める女性の割合(40.5%)や専門的・技術的職業従事者 9) に占める女性の割合(43.2%)と比較すると大幅に低く,製造業における専門的・技術的職業従事者に占める女性の割合(10.3%)と比べても低い値となっている(平成6年,総務庁「労働力調査」による)。また,諸外国との比較でも低水準にとどまっており ( 第1-3-26図 ),今後,女性の科学技術活動に対する社会通念の変革や女性が働きやすい環境の整備により,女性の活躍の場の一層の拡大を図ることが重要である。

第1-3-25図 女性研究者の比率


注)9.国勢調査の職業分類における大分類の一つで,高度の専門的水準において,科学的知識を応用し,技術的な仕事に従事するもの及び医療,法律,教育,宗教,芸術その他の専門的性質の仕事に従事するものが分類される。

第1-3-26図 各国の女性研究者の割合(大学の研究者を除く)


第3節 社会への発信と社会からの支持

(社会への発信)

研究開発活動は,わからなかったことをわかるようにしよう,できなかったことをできるようにしようという人間の基本的な欲求に基づく行為である。これをどう加速するか,成果をどのように享受するかは,究極的には利用者としての社会の選択である 10)

したがって,研究開発がより効果的,効率的に進められるようにするには,社会から強い支持を得ることが重要である。学問的関心を動機として行われる学術研究についても,社会に受け入れられるよう努力を払うことが必要である。また,多額の資金を要する大規模なプロジェクトや,社会のコンセンサスが必要とされる倫理面の問題がかかわる研究開発についても,社会からの支持なくしては進めることはできない。

しかしながら,科学技術が高度化するにつれて,社会から支持を得るどころか,内容を十分に理解してもらうことさえ,ますます難しくなってきているというのが実情である。総理府の世論調査によると,科学技術の発達について不安を持つ人々が半数以上との結果もある( 第1-3-27図 )。近年の科学技術の著しい発達に伴い,科学技術に携わる者であっても,自分の専門分野以外の科学技術の内容や研究開発の進行状況を正確に把握するのは難しくなってきている。まして科学技術に直接携わっていない者が複雑化,高度化した各分野の科学技術について十分に理解することは困難と言え,漠然とした不安感を抱いたとしても不思議はないと言える。


注)10.このことは,特に公的部門が資金を負担する研究開発活動に最もよく当てはまることではあるが,民間企業の行う研究開発活動にも当てはまることである。例えば,各種の公的規制や税制上の優遇措置等により抑制あるいは助長されるし,新製品の研究開発において消費者の嗜好,市場の動向が重要な決定要因として考慮されることは言うまでもないことである。しかしながら,以下では,より直接的に社会の選択に左右される公的部門の研究開発活動を念頭に置いて議論を進めている。

第1-3-27図科学技術の発達に伴う不安

このような状況の中で,研究開発活動について社会の強い支持を得るためには,研究開発の内容,期待される成果やその社会的意味について,わかりやすく情報発信していくことが不可欠である。期待される研究成果がどのような社会的意味を持ち得るがについての的確な洞察は,研究者あるいは研究管理者が真っ先に持ち得る場合が多いと見られる。このため,研究側による適時的確でわかりやすい情報発信が重要である。

(研究側からの定期的な評価・解説)

上に述べたように,研究開発の最前線は極めて高度で,その成果について一般が直ちに理解し得るものはほとんどなく,専門家による評価・解説が重要である。

例えば学会などの専門家集団が,カバーする分野での世界における研究開発の進捗状況と我が国研究者の成果について定期的に一般向けのレビューを行い,あわせて今後の動向についても解説を加え,研究開発全体についてわかりやすく伝えていくことが適切と考えられる。

これにより研究開発についての基礎資料が整備され,我が国科学技術ジャーナリズムの一層の発展も期待される。

(よりインパクトの大きな成果を上げること)

最先端の研究開発活動が社会から強い支持を得るためには,的確な情報発信とともに,その前提として,そもそもインパクトの大きい研究開発成果を上げることが肝要である。研究開発の目的,段階は多種多様であり一概には論じられないが,学問上はもちろん,結果的にではあっても,社会的にもより大きなインパクトを持つ研究成果を上げることが求められている。そうした成果を出さなければ,一般国民に対してわかりやすく発信することは難しいし,仮にわかりやすく発信できたとしても,社会の強い支持を期待することはできない。

研究開発に携わる者が,一般国民にも理解しやすいような画期的な研究開発成果を上げて,それを的確に情報発信していけば,それが社会に広い意味での便益をもたらすものである限り,おのずと支持が得られるであろうし,さらなる研究活動の展開も容易となってくるであろう。もちろん,社会的なインパクトには必ずしも直結しない地道で息の長い研究も多数あるが,その取組についても十分に発信し,支持を得ることが重要である。

(不安に思われることなどについての日々の説明が重要)

科学技術の著しい発達とともに,高度化した科学技術が一般国民の生活とかかわりの深いところで利用されるようになってきている。そのような科学技術は,身近なところで使われているにもかかわらず,その内容が高度に専門的であるため,一種のブラックボックスのような形で取り込まれている場合が多い。そのため,場合によってはその安全性などについて不安感を持たれることもある。

科学技術が高度に発達した社会においては,生活・社会と密接な関係を持ちながらわかりにくくなっている科学技術を,わかりやすく説明する地道な努力が重要である。専門的で難解な事項についても,国民に対してわかりやすく説明するというアカウンタビリティ (説明する責任)を重視することが必要となっている。特に,システム化されて取り入れられている科学技術については,その安全性も含め正確に伝えることが必要であり,そうした努力により,国民の科学技術に対する信頼を維持・向上していくことが重要となっている。

例えば,高度の科学技術の粋を結集した巨大システムの例として,航空機があるが,航空機の利用者の多くは安全な飛行を当然のことと安心している。これは,乗員,機材,管制をはじめとするシステム全体の信頼性向上によるところが大きいが,そのことについての情報を発信する努力の積み重ねの結果でもある。利用者は,航空機に取り込まれている個々の高度化した科学技術を十分に理解した上で安心しているわけではなく,安全性確保のための努力がなされていると信頼しているのである。

生活とのかかわりがより深い例として,建造物の安全性ということが挙げられる。昨年1月の阪神・淡路大震災において現代的な構造物が崩壊し,大きな被害が出たことは,国民の科学技術への信頼を大きく揺るがした。震災の後,施設等の耐震性の向上について,政府においては,建築基準法施行令の耐震基準を改正するなどの取組が行われている。一方,土木学会が,防災上の重要度が高い建造物は,まれにしか起こらない大地震を想定して設計すべきとの提言を公表するなど,関連学会においても,耐震基準の見直しに係る検討が行われているところである。このような大規模災害に備えた安全確保については,専門的な観点からの厳密な検討が重要であることはもちろんであるが,国民の安全に直接かかわる問題であるため,国民が抱いている不安や疑問に対してわかりやすく答えていくことも肝要である。

原子力施設の耐震性についても,原子力安全委員会において,安全確保に万全を期すとの観点から安全審査に用いられる指針類の妥当性の検討が行われた。その結果,現行の指針類の妥当性は損なわれるものではないとの結論が得られ,その内容について各地で説明会が開催されているところであり,今後とも,わかりやすく,正確な説明に努めることが重要である。

原子力施設の安全性の問題に関しては,昨年末に発生した高速増殖原型炉「もんじゅ」の2次系からのナトリウム漏えい事故において,放射性物質による従事者及び環境への影響はなかったものの,事故後の情報公開を巡る事業者の不適切な対応により,国民の間に不安感,不信感を与える結果となったことは,大変残念なことである。今後,国民に対してわかりやすく説明するというアカウンタビリティ (説明する責任)を重視し,同様な事態が起こらないように全力を傾けていく必要がある。このような認識の下に,事故原因の徹底的な究明,万全の安全対策を講じるとともに,積極的な情報公開等により,地元をはじめ国民の安心と信頼が得られるよう,努力を払っていくことが重要である。

(広範な分野の科学者等による科学技術のあり方についての発信)

近年の科学技術の進展に伴い,社会・経済とのかかわりも大きくなってきており,科学者,技術者,科学技術政策担当者が,社会全体との交流を深めることにより,科学技術のあるべき方向を考えていくことが重要である。このような問題意識に立ち,例えば,科学技術庁においては,自然科学と人文・社会科学系の研究者が集まって議論を行う「科学技術フォーラム」を開催するなどの取組を実施している。多様な専門領域,背景を有する人々との交流を通じて科学技術に携わる人々が科学技術のあり方について発信することにより,国民の理解を深めるよう努力していくことが重要である。

(地域における科学技術の展開)

科学技術の活動と社会とのかかわりを強めていくことと関連して,地域社会に密着した研究開発活動の展開など,地域における科学技術の振興が,従来にも増して重要になってきていると言える。

地域における科学技術の振興は,地域経済の活性化を通じて自主性や個性を持つ自立的で活力ある地域の創造に貢献するとともに,我が国全体の科学技術の発展に寄与するものである。また,地域の様々な要請にきめ細かく応え,地域住民の生活の質の向上に寄与するとともに,国民の科学技術に対する関心,理解の増大及び参加の促進,若者の科学技術志向の高揚といった観点からも,地域において特色ある科学技術活動を活性化していくことが重要である。

「地域における科学技術活動の活性化に関する基本指針」(平成7年12月内閣総理大臣決定)においては,地域における科学技術活動の三つの方向として,1)高度で独自性のある科学技術活動による高い水準の地域社会の実現,2)研究開発活動の集積と活用による地域経済社会の活力の確保,3)地域の科学技術振興に係る基礎的な活動による地域発展の礎の構築が挙げられている。

都道府県において科学技術関係の審議会を設置し,また,政策の基本指針を策定しているところは,それぞれ14道府県,15道府県となっている。総務庁の統計によると,公設の自然科学系研究機関において,平成6年度の研究費は2,843億円,研究者数は約13,600人となっており,国立の自然科学系研究機関(大学関係機関を除く)の研究者数(約10,500人)の1.3倍にあたる。機関数は,578機関で,うち農学系62.8%,工学系20.1%,保健系9.9%,理学系7.3%となっている。科学技術庁科学技術政策研究所の「地域における科学技術振興に関する調査研究」(平成7年3月)によると,都道府県,政令指定都市が設立した研究・技術開発の拠点となる第三セクター,財団法人は,平成4年度末現在で166機関となっている。このうち75機関が国の制度関連で設立されている。また,同研究所の「サイエンス&テクノロジーパークの開発動向に関する調査研究」(平成7年2月)によると,地域において研究・技術開発成果の産業化を目的とした拠点(サイエンス・アンド・テクノロジーパーク)の整備状況は,平成5年度末で70カ所となっている。サイエンス・アンド・テクノロジー・パークには,企業の創業を支援するインキュベーション施設を持ち,研究や研究交流のための施設を併設していることもあるがパークを持たないイノベーションセンター インキュベータが他の主要施設とともにパーク内に併設されているサイエンスパーク,インキュベーション施設は持たず,各種研究機関の集積を目的に建設されたR&Dパークがある( 第1-3-28表 )。

第1-3-28表 日本におけるサイエンス&テクノロジーパークの定義と設立数(平成5年度末)

これらの活動を一層強化するには,地方公共団体と国の連携が重要であり,幅広い協力関係を構築することとしており,こうした活動が,科学技術と社会とのかかわりを強めていく上で大きな役割を果たすことが期待される。


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