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  はじめに
第1部  研究活動のフロントランナーをめざして
第2章  今研究室では


研究開発の現場においては,コンピュータネットワークの普及,研究用施設・設備の高度化,海外との協力拡大などにより,研究環境が大きく変化している。そこで,第2章においては,今後,科学技術創造立国をめざした質の高い研究開発のための研究環境を提案していく上での手掛かりとするため,情報化,施設・設備の高度化,研究交流の活発化など,研究環境の変化を軸にして研究開発活動の実態を明らかにすることとする。


第1節 進む情報化

(社会全体の高度情報化)

「情報化社会」ということが言われるようになって久しいが,コンピュータ,半導体,通信の技術の進歩によりもたらされた近年の社会全体の情報化の動きにはめざましいものがある。特に,インターネットの急速な発展やLANの普及などコンピュータネットワークの展開は,大量の電子情報を瞬時に発信・受信することを可能にするものであり,情報の流通面で大きな変革をもたらしつつある。( 第1-2-1図 にインターネット,LANの普及状況を示す。)

企業による技術革新に加え,近年は米国をはじめ世界各国で政府レベルの施策により情報化をさらに推し進める動きが目立っている。こうした動きの端緒となった米国の全米情報基盤(NII)構想は,1993年(平成5年)に提唱され,2000年(平成12年)までに米国のすべての学校,図書館,病院を情報ネットワークで結ぶことを目標として掲げ,関連の施策が強力に推進されている。

第1-2-1図(1)我が国におけるインターネットサービス提供事業者数の推移

第1-2-1図(2)主な業種別のLANの導入状況

このNII構想に端を発した世界情報基盤(GII)構想は,あらゆる人々が情報ネットワークを介して情報のやりとりをすることができる高度情報通信社会を地球規模で構築しようとするもので,先進7カ国を中心とした国際的な協調により,現在,11のパイロット・プロジェクト ( 第1-2-2表 )の実施に向けた取組が進められている。

(研究情報ネットワークの整備)

このような社会全体の情報化の進展の中で,研究分野の情報化も急速に進んでいる。研究分野の情報化は,世界規模での知的資源の効率的利用,国際協力活動の効果的な展開等を可能にするとともに,新たな研究領域や研究手法の創造,研究活動の質的な変革をもたらす。また,研究情報ネットワークとして米国から飴まったインターネットが,その後さまざまな分野において情報通信面で大きな変革をもたらしたように,研究分野の情報化は,社会全体の情報化を先導する役割を果たすものであるとも言える。

我が国では,平成5年度以前には国立試験研究機関・国立大学でLANが整備されている機関は全体の1/3に過ぎなかったが,その後大幅に整備が進み,平成7年度までにほとんどの機関でLANが整備されている( 第1-2-3表 )。研究情報ネットワークについては,各省庁の機関等により個別のネットワークとして整備・運営されているが,平成6年度には,研究領域,省庁,国の枠を越えて研究機関を接続する省際研究情報ネットワークの整備を図るため,科学技術振興調整費に「研究情報整備・省際ネットワーク推進制度」が創設された( 第1-2-4図 )。この制度により,平成6年度からは省際ネットワークの整備・運用に係る基盤技術の調査研究,物質関連データ(化学物質の生体影響,食品成分,物質表面分析)や地球観測データのデータベース化に関する調査研究が行われでおり,平成7年度からは新たに省際ネットワークを利用した医療研究支援アプリケーションの調査研究が行われている。

第1-2-2表 G7国際共同パイロット・プロジェクトの概要

第1-2-3表 国立試験研究機関・国立大学等におけるLANの整備状況

第1-2-4図 省際研究情報ネットワークの利用イメージ図

(研究開発活動の現場における情報化)

研究開発活動の現場における情報化の進展により,研究効率の向上や従来できなかった研究ができるようになるなどの効果がもたらされている。

例えば,スーパーコンピュータの性能向上により,複雑な自然現象のシミュレーションや構造物にかかる応力の数値解析などの高速化・精度向上が図られている( 第1-2-5図 )。

また,コンピュータ自体の性能向上に加え,近年は特に,多数のコンピュータを相互に接続しデータのやり取りを可能にするコンピュータ・ネットワークの普及が,研究効率の向上に大きく寄与している。

電子メールによる研究情報の交換や打合せ等により,海外など離れた所にいる研究者との情報やデータの交換が円滑に進んでいる。

科学技術庁が我が国の国立試験研究機関,大学,民間企業等の先端科学技術研究者に対して平成7年度に行った調査(以下「先端科学技術研究者調査」という。)では,5年前と比較した研究開発環境の現状を研究者がどのように感じているかについて調査しているが,その結果によると,先端科学技術研究者の80%が,情報機器に関しては「良くなった」又は「非常に良くなった」と回答している( 第1-2-6図 )。

第1-2-5図 スーパーコンピュータと並列計算機の最高速度の発展

同調査によると,インターネットや電子メールなどの利用状況については,よく利用している者が49%,時々利用している者を合わせると76%に達しており,情報ネットワークの利用が研究生活の中にかなり浸透していることが伺える( 第1-2-7図 )。この傾向は若い研究者ほど顕著で,40歳未満の研究者では,よく利用している者が62%,時々利用している者を含めると84%にもなっている( 第1-2-8図 )。また,利用の目的としては,研究者同士のコミュニケーション,会議開催,研究発表等に関する情報の入手,データやソフトウェアの入手などが主なものとなっている( 第1-2-9図 )。

情報ネットワークの整備が研究開発に与える影響については,86%の研究者があると回答しており,具体的には,1)研究者どうしのコミュニケーションが容易になる,2)成果の普及が早くなる,3)研究開発に要する期間が短縮できる,4)新たなシーズ,ニーズの発掘が容易になるといったプラス面の影響を挙げた者が多くなっている。一方,マイナス面の影響としては,情報交換等の頻度・量が増え煩雑になることを挙げた者が2割強とやや多くなっているほかは,アイデア等の盗用,直接対話の減少などを挙げた者はほとんどいない。情報ネットワーク環境の整備に対しては,概して良いことの期待が大きいことがわかる( 第1-2-10図 )。

第1-2-6図 情報機器に係る研究開発環境の現状(5年前との比較)

第1-2-7図 電子メールなどの利用状況

第1-2-8図 電子メールなどの利用状況(年齢別)

第1-2-9図 インターネットなどの利用目的

このような電子メール等を中心としたネットワークの利用に加え,コンピュータ・ネットワークを活用して,遠隔地との共同研究や遠隔操作による実験が実施されるようになるなど,新たな取組も始められている。

例えば,国際熱核融合実験炉(ITER)計画では,茨城県那珂町,米国のサンディエゴ,ドイツのガルヒンクの3ヶ所に,日本,米国,EU及びロシアの4極の研究者が集まって設計を行う共同中央チームが設置され,共同中央チーム間はもとより,4極それぞれの国内チームともコンピュータ・ネットワークにより設計データのやりとりなどが行われている。これにより,各チームが連携,協力しながら,チーム間の距離,時差を克服して工学設計活動を進めている。

第1-2-10図 情報環境の整備が研究開発に与える影響

また,日米間で合意された日米包括経済協議・地球的展望に立った協力の課題の一つとして推進されている地球観測情報ネットワーク(GOIN)イニシアチブにおいては,地球観測情報等の流通・利用の促進を目的として,日米の情報システムの相互接続及び相互運用性の確立をめざして検討が進められている。

このほか,インターネット上に仮想研究室を開設し,研究者たちが直接顔を合わせずに共同研究を行う試みや,インターネットを活用して海外の加速器を遠隔操作する実験などさまざまな試みが進められている。このような分野における情報化のさらなる進展により,従来できないと思われていたことができるようになるなど,研究効率の一層の向上が期待される。

(今後の課題)

上述のように,研究開発活動の現場における情報化は大きな効果をもたらしているが,他方,我が国は,ネットワーク回線速度,データベースの充実度,ネットワーク利用を支援するアプリケーション・ソフトウェアの整備などの面において米国に比較すると立ち後れており,これらの点での一層の整備・充実が今後の課題である。

これらのうち,研究情報ネットワークの基幹回線速度については,平成6年半ばの時点では,米国の45Mbps 5) に対し日本は最高で6Mbpsと,大きな開きがあったが,その後我が国でも整備が進み,科学技術庁が運営する省際ネットワーク,文部省学術情報センターが運営するネットワークSINET等で50Mbpsの基幹回線が整備されている。


注) 5.bps(bit per second)は,1秒間に伝送できる信号(O又は1)の量を表す単位。lMbpsは,1秒間に日本語の文字約6万字文の情報(40字×40行のA4約40ページ文の情報)を伝送できる速度に相当する。

このように,ハード面の整備は着実に進んできており,ハードを有効に活用するためのソフト面の整備が,我が国の研究情報基盤を整備していく上での大きな課題となってきている。科学技術会議政策委員会の研究情報ネットワーク懇談会が平成7年5月に取りまとめた報告書「研究情報資源の今後のあり方について」においても,我が国におけるデータベースやソフトウェアの整備の遅れを指摘し,質・量の両面からみた研究情報資源(コンテンツ)の一層の充実などの必要性を指摘している。(科学技術分野のデータベース数の国際比較を 第1-2-11図 に示す。)

先端科学技術研究者調査の結果によると,ネットワーク等,研究活動を支える情報基盤の整備が十分なされているかどうかについて,十分でないとした者が37%と,十分であるとした者の30%を上回っており,情報化は進みつつあるもののまだ不十分であるとの認識を持つ者が多いことが示されている( 第1-2-12図 )。特に整備が急がれることとしては,必要な情報を容易に検索できるようなシステムの充実,提供されるデータベースの充実とともに,ネットワーク管理者の確保を挙げた者が多くなっており,端末機の整備・増設などハード面よりもむしろ運営管理を含めたソフト面の充実強化を求める要望が強いことがわかる( 第1-2-13図 )。

第1-2-11図 科学技術分野のデータベース数の国別分布

以上のような課題に加え,ネットワークを流通する情報についての著作権等による知的財産の保護についても検討が必要となっている。

これは研究情報のみならず,社会全体が高度情報通信社会へ移行していく中で,それに対応した制度を整備していくべき問題ではあるが,知的財産を保護することは新たな研究情報の創出を行う者のインセンティブを高める効果が期待される一方で,研究成果やデータの適切かつ円滑な流通を確保する必要性が高いことも踏まえ,知的財産の保護と活発な情報流通の促進による研究開発活動の推進との両方の観点に立った,バランスのとれた知的財産権に関するルールの改善について検討していくことが重要である。

第1-2-12図 研究活動を支援する情報基盤の整備状況

第1-2-13図 情報基盤整備で特に急がれるもの


第2節 精密,複雑,巨大化する実験・観測

最先端の実験や観測を行うための施設・設備は,解決すべき問題・対象の複雑化・高度化に伴い,著しく高度化が進んでいる。精度の向上や,よりミクロの現象の探索,解明が求められるようになり,施設・設備の精密化,複雑化が進むとともに,設備の規模についても,より大型の設備を使わなくては新たな知見の発見が難しい分野も出てきている。また,一つの研究テーマに携わる研究者の数という面から見ても,一人の研究者だけでは取り組めないような大規模な実験系が増えてきている。

(精密化,複雑化)

原子・分子レベルでの実験・計測が可能になったこと等に伴い,実験・観測システムが精密化,複雑化している。これは,個別の研究分野にもよるが,非生物を対象とする研究分野,生物を対象とする研究分野いずれにおいても見られることである。

非生物を研究対象とする分野の実験について言えば,実験に係る試料作製,計測・分析及び環境の各面において,研究推進の手段として用いられる科学技術の高度化が進んでいる。例えば,ミクロの物の観察・操作については,走査トンネル顕微鏡(STM)を利用することにより,固体表面上の1個1個の原子像を観察できるようになっているし,表面原子1個を原子数百個四方程度の範囲で操作できる技術が達成されている。 第1-2-14表 に代表的な走査型プローブ顕微鏡(SPM)の概要を示す。

また,実験環境に係る科学技術としては,極高真空技術などの極限環境創出技術が例と,して挙げられる。極高真空技術は,残留する気体分子の影響を極限まで低減させる真空技術で,加速器科学,表面科学など,理想環境を必要とする科学技術分野の研究を推進するために不可欠な技術である。 第1-2-15図 に真空技術の進歩を示す。

一方,生物を対象とする分野についても,観察・計測や実験手法・材料の面で設備・装置の高度化が著しい。X線結晶構造解析やNMR(核磁気共鳴)の飛躍的進歩,走査プローブ顕微鏡(SPM)の開発,コンピュータ画像処理技術の発達により,タンパク質の立体構造の解明や生体反応の分子レベルでの観察等ができるよ・うになっている。

第1-2-14表 代表的な走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning ProbeMicroscopy)

第1-2-15図 真空技術の進歩

このほか,観測システムの高度化の例としては,近年になって実現した宇宙技術を利用した高精度地殻変動計測技術(GPS(汎地球測・位システム)やVLBI(超長基線電波干渉計))が挙げられる。GPSは,人工衛星からの信号電波により,観測点の位置を1〜2cmの精度で決定できるもので,地震に伴う地殻変動の即時検出等が可能になっている。VLBIは,2地点にある電波望遠鏡の同時観測により,1万km離れた2地点間の距離を誤差数ミリで測定できるため,大陸移動の検出に用いることができるものである。

このような施設・設備の高度化に伴い,良い研究開発成果が出るか否かは,施設・設備の良しあしにかなり依存するという状況が出てきている。先端科学技術研究者調査においても,半数以上の研究者が,研究施設・設備が十分に整備されていないことが研究成果を出す上で大きな阻害要因となっていると考えているという結果が出ている。特に,基礎研究の分野では,そのように考えている研究者の割合が6割を超えており,最先端の研究を行う上での施設・設備の重要性が伺える( 第1-2-16図 )。

また,施設・設備が特に高度化している研究分野では,実際に実験を行いデータをとっている時間よりも,むしろ実験装置の製作,調整など実験の準備に研究時間の大部分が費やされるようになってきている。そのような研究活動を円滑に進めて行く上では,施設・設備の調整などに関して高度の専門的知識・技術と経験を有する研究支援者が果たすべき役割が大きくなってきていると言える。

第1-2-16図(1) 研究施設・設備が十分に整備されていないことは成果を出す上で阻害要因となっているか


(進む大型施設の整備)

最先端の研究を進めるに当たって,研究テーマによっては大型の研究施設・設備が不可欠になってきている。

例えば,物質・材料,ライフサイエンス,情報・電子等の幅広い分野での先端的な研究開発に利用される放射光施設が一例として挙げられる。これは,シンクロトロン放射光 6) を利用した研究を行うための施設で,我が国では,文部省高エネルギー物理学研究所の放射光実験施設が,現在稼働中の施設の中では最大規模のものであるが,さらに大型で世界最大規模の大型放射光施設(SPring-8) (蓄積リングの周長1,436m,電子のエネルギー80億電子ボルト)の整備が,平成9年度の供用開始に向けて,日本原子力研究所及び理化学研究所により進められている。 第1-2-17表 に世界3大放射光施設の概要を示す。

また,原子の大きさよりさらに小さいミクロの世界の研究のために,巨大な衝突型加速器(コライダー)の整備が進んでいる。CERN(欧州原子核研究機関)においては,周長が約27km,衝突エネルギー約1,000億電子ボルトで電子と陽電子を衝突させる加速器(LEP)が稼働中であり,今後,衝突エネルギー約14兆電子ボルトで陽子同士を衝突させるLHC計画が推進されている。我が国では,文部省高エネルギー物理学研究所のトリスタン(周長約3km,衝突エネルギー600億電子ボルト)により,素粒子に関する実験研究が平成7年度まで行われてきた。また,同研究所では,トリスタンII(Bファクトリー)計画が平成6年度から推進されている。

このほか,天体観測の分野でも大型の施設が使われており,天体から放射される微弱な電波を検出する電波望遠鏡は,巨大なアンテナと高性能の受信増幅器が必要とされている。世界最大の施設は,可動鏡では,ドイツのもので,口径100mのパラボラアンテナを有しており,そのほかイギリス(76m),オーストラリア(64m)の施設など,大規模な電波望遠鏡が世界各地に設置されている。我が国では,文部省国立天文台野辺山宇宙電波観測所に直径45mの大型宇宙電波望遠鏡が設置されており,巨大ブラックホール存在の証拠を発見するきっかけとなった成果等を上げている。さらに,国立天文台においては,宇宙の涯(はて)に挑み,銀河が誕生した頃の宇宙の姿を探るため,ハワイ島マウナケア山頂に平成11年度の完成を目指し,口径8mの大型光学赤外線望遠鏡(すばる)を建設中である。


注)6.光速近くまで加速された電子が磁場によって曲げられた時に出す強い光(電磁波)。非常に明るい,波長範囲が幅広い,指向性が極めて良い等の特性を持っている。

第1-2-17表 世界3大放射光施設の概要

また,宇宙から飛来する素粒子ニュートリノ 7) を観測する装置として,岐阜県の神岡鉱山の地下1,000mに建設された東京大学宇宙線研究所の大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置(スーパーカミオカンデ)は,5万トンの水槽と1万本以上の光電子増倍管からなる世界最大の装置で,超新星爆発やブラックホール,太陽活動の観測で大きな成果が期待されている。

これら代表的な事例として挙げられるもの以外にも,例えば,航空宇宙分野の大型風洞や大型放射計スペースチャンバ,耐震工学分野の大型耐震実験施設,原子力分野の試験研究用施設,各種大規模科学技術計算に用いられるスーパーコンピュータなど,各分野で大型の施設・設備を用いた研究開発が進められている。

(要員の面でも規模が拡大)このような施設・設備面の高度化が進む一方で,一つの研究開発プロジェクトに携わる研究者の数の面でも,近年は規模が大きくなっている傾向が見られる。ゲノム研究,新薬創出,高温超伝導材料の開発など,研究者一人ではとても取り組めない大規模な実験系が増えてきている。

ゲノムに関して例を挙げれば,1995年(平成7年)に米国の研究チームが,単独生物のゲノムの全塩基配列としては世界で初めて,インフルエンザ菌のゲノムの全塩基配列(183万塩基対。ちなみに,ヒト・ゲノムは30億塩基対)を決定したが,サイエンス誌に掲載された研究論文は,40名の研究者の連名で発表されている。また,1994年(平成6年)に我が国のイネゲノム研究チームが,植物では最も詳細な連鎖地図(染色体上で遺伝子が存在する場所を約1,400の目印を用いて示した地図)に関する研究論文をネイチャージェネティックス誌に発表したが,この論文は28名の研究者の連名となっている。もちろん論文の著者数がそのまま研究チームの人数を表すわけではないものの,最終的な研究成果に到達するまでに,大人数による共同作業が必要であったことを示すものと言えよう。この論文以外でも,1994年(平成6年)に20名以上の共著による論文が幾つか発表されるなど,この分野の研究グループの大きさが目立っている。このように大規模な研究グループによる成果であることが多いゲノム関連の研究論文数自体も, 第1-2-18図 に示すように近年大きく増大している。


注) 7.電気的に中性で,質量はゼロ,あるいは極めて小さいとされる素粒子。他の粒子との相互作用が非常に弱く,物質中でも妨げられることなく長距離を進むので,観測が難しい。

民間企業の研究開発では,医薬品の研究開発が,一つのプロジェクトに多くの研究者等が携わる例として挙げられる。科学技術庁が民間企業を対象として平成7年度に行った調査(以下「民間企業研究活動調査」という。)の結果では,一つの研究テーマ当たりの研究者数を業種別に見ると,医薬品工業が他の業種に比べ格段に多くなっていることがわかる( 第1-2-19図 )。これは,医薬品に係る研究開発の特徴として,研究開発のリスクが高いことと関係が深いものと考えられる。近年,医薬品工業の研究費,研究者数の伸び率は,全産業のそれを上回っており,医薬品工業の研究開発が全産業に占めるシェアが増加している。

第1-2-18図 ゲノム及び高温超伝導関係論文の件数の推移

高温超伝導材料については,1986年(昭和61年)のスイスIBMチューリッヒ研究所における発見を契機として,世界各地で研究が行われるようになり,研究論文数が10年間で大きく増加している。物質・材料分野は,一研究テーマ当たりの研究者数が他の研究分野に比して多い分野であるが( 第1-2-20図 ,先端科学技術研究者調査の結果による),中でも高温超伝導材料分野は,一つの研究論文当たりの著者数のデータを見ると,5.3人と,同じ物質・材料分野の他の分野,例えば非晶質(アモルファス)関連論文の3.6人と比較しても多くなっている 8)

第1-2-19図 ―研究テーマ当たりの研究者数(業種別)

第1-2-20図 ―研究テーマ当たりの研究者数(分野別)


第3節 世界をめざして

(研究水準の国際比較)

研究室では世界をめざして研究が行われているが,我が国の研究開発水準を主要先進諸国と比較すると,応用・開発分野では欧米と比肩しうる水準にまで到達している分野もあるが,自然科学部門のノーベル賞受賞者数が極端に少ない(米国175人,ドイツ61人に対じ我が国は5人)ことに象徴されるように,基礎研究分野においては立ち後れていると言える( 第1-2-21図 )。


注) 8.アプライド・フィジックス・レターズ誌に掲載された論文について,日本科学技術情報センター 「JICST科学技術文献ファイル」により科学技術庁で調べたデータ。1991年に掲載された「高温超伝導」,「高温超伝導体」に関する応用系論文と「非晶質(アモルファス)」に関する論文を検索し,平均著者数を算出したものである。

第1-2-21図 ノーベル賞受賞者数(自然科学部門のみ)

先端科学技術研究者調査においては,研究者に対し,我が国と欧米の研究水準を比較してどちらが優位と考えるかについても調査しているが,その結果を見ても,我が国の基礎研究水準の立ち後れが表れている。基礎研究については,調査したすべての分野(ライフサイエンス分野,物質・材料分野,情報・電子分野,海洋・地球科学分野)で欧米に比較し劣位となっており,以前の調査結果と比較しても多くの分野で劣位が拡大している。特に,米国との比較では大きく立ち後れていることが表れており,また,分野別では,ライフサイエンス分野,海洋・地球科学分野の立ち後れが目立つほか,以前の調査結果と比較した場合,情報・電子分野の後退が大きくなっている( 第1-2-22図 )。

一方,応用・開発研究については,基礎研究で調査した分野の他にエネルギー分野,生産・機械分野を加えて調査しているが,欧州に対しては6分野のうち3分野で優位となっている。しかし,米国に対しては,唯一優位性を保っていた生産・機械分野も劣位に転じており,その結果全ての分野で劣位となってしまっている。全体として見れば基礎研究分野ほど大きく立ち後れている状況にはなっていないが,引き続き努力が必要である( 第1-2-23図 )。

第1-2-22図 基礎研究水準の国際比較

民間企業研究活動調査においては,各民間企業が同業種の海外企業の技術力をどう見ているかについて調査しており,その結果では,欧米との比較において,依然「現在,相手の方が優れている」と回答した企業も多いものの,「現在,競争相手となっている」と回答した企業の方が多くなっている(対米国で5割,対欧州で6割)( 第1-2ー24図 )。業種別では,医薬品工業などで欧米の方が優れているとした企業が多くなっている。

第1-2-23図 応用・開発研究水準の国際比較

研究水準の国際比較をするための指標としては,研究開発成果の表れである論文数を用いることが多い。世界の主要な科学論文誌に発表された論文数の国別シェアを,約3,500誌をカバーする米国科学情報研究所のSCIデータベースのデータで見ると,米国が圧倒的に多く1/3以上を占めており,我が国は着実にシェアを伸ばし1992年にはイギリスを抜いて2位になったものの,1割弱にとどまっている( 第1-2-25図 )。

第1-2-24図 民間企業は海外の同業種企業の技術力をどうみているか

上述のSCIデータベースでは,収録する論文誌について一定の基準を設けてはいるが,広範囲の論文誌を網羅しているため,国際的に非常に評価の高いもの,必ずしもそうでないものなど,各論文誌の水準にはかなりの幅がある。そのため,すべての論文誌を同等に扱い論文数の単純和により国際比較を行っても,必ずしも実際の研究水準を反映した比較にはなっていないと言える。より実態を反映した比較を行うためには,各分野で国際的に評価の高い科学論文誌に限ったデータで比較するのが一つの方法である。

第1-2-25図 主要国の論文数シェアの推移

何をもって「国際的に評価が高い」とするかの明確な基準はないが,ここでは,科学技術庁において我が国の主要学会の会長に対しアンケート調査を行った結果をもとに,主要109誌を抽出し各国のシェアを算出した( 第1-2-26図 )。その結果によると,米国のシェアがさらに高くなっており,近年減少しているものの,50%近くを占めていることが示されており,米国の研究水準の高さを裏付けるデータとなっている。一方,我が国のシェアはやや低くなり,米国との実力差は,全論文誌を対象とした場合の差よりも大きくなっている。

もちろん各国のシェアは,分野によってかなりのばらつきが見られ,我が国のシェアは,工学系や薬学系の論文誌で15%以上と高くなっているものもある一方で,ネイチャーやサイエンスのような論文誌では,依然として2%程度にとどまっている( 第1-2-27図 )。それでもどの論文誌に関してもおおむね共通して言えることは,10年前との比較では我が国はシェアを着実に伸ばしているということであり,今後とも一層の努力により国際的に通用する成果を数多く出していくことが期待される。

第1-2-26図 主要国の論文数シェアの推移(主要109誌のみ)

第1-2-27図(1)アプライド・フイジックス・レターズ誌における主要国別論文数シェアの推移

第1-2-27図(2)ネイチャー誌における主要国別論文数シェアの推移

第1-2-27図(3)サイエンス誌における主要国別論文数シェアの推移

なお,論文数だけでは研究開発の成果を論じることができない分野もあり,そのような分野においては,成果の発表形態の特徴を踏まえた適切な評価を行うことが必要である。典型的な例は,農林水産分野における作物及び家畜に関する育種の研究開発であり,これらの開発には長期間を要し,組織的な研究として取り組まれている。この分野の研究成果は,開発された品種がいかに広く普及され活用されていくかに掛かっている。さらに,建築計画学・建築設計学の分野の研究者は,自著単行書を出版することによって業績を発表することが多い。

また,研究開発活動の一環として製作される建築作品の業績についても,個別に評価するべきものであることは言うまでもない。一方,土木工学分野のように,関係者を糾合して組織的に技術開発にあたる例もあり,このような分野でも論文数による適切な比較は難しいと考えられる。

(新たな基礎研究推進制度の実施)

上述のように,我が国の研究開発水準を主要先進諸国と比較すると,基礎研究分野においては立ち後れていると言える。基礎研究を抜本的に強化するため,科学技術庁など6省庁では,平成8年度から,特殊法人等における公募方式等による新たな基礎研究推進制度を本格的に実施することとして,6省庁合わせて約320億円を予算に計上している( 第1-2-28表 )。今後,こうした事業等の拡大により,基礎研究費のさらなる充実が図られることが期待される。

第1-2-28表 新たな基礎研究推進制度

(研究交流の促進)

産学官及び外国との研究交流を一層促進し,組織の枠や国境を越えて様々な経験,発想や知見を持った研究者間の交流の機会を拡充することにより,研究活動の活性化を図り,世界に通用する研究開発成果を多く上げることが重要である。

産学官の研究交流の促進については,研究交流促進法に基づき研究交流が行われているほか,各省庁で客員研究官制度,流動研究員制度や新技術事業団の研究交流促進事業等が実施されており,研究活動の活性化が図られている。研究交流促進法に基づき,これまで外国人の研究公務員56名が任用されるとともに,延べ29,812名の研究公務員が職務専念義務の免除により国内外の研究集会に参加しているところである。また,民間企業研究活動調査の結果によると,出向等で社外で従事している民間企業の研究者は,1社当たり7.8人と,昭和63年度調査時(3.9人)の倍に増えている。

先端科学技術研究者調査では,産学官の研究協力について研究者がどう考えているかについて調査しているが,その結果によると,産学官の研究協力が画期的な研究成果を上げる上で極めて有効と考える研究者が全体の2割,比較的有効と考える研究者を合わせると,全体の7割を超えている( 第1-2-29図 )。協力において重点を置くべきこととしては,人的交流及び共同研究を挙げた者が多くなっており,それとともに,大学の研究者では資金協力を,民間の研究者では情報交換を挙げた者が多くなっている( 第1-2-30図 )。

また,流動的研究員制度(任期制等を採用し,研究者の流動性を促進する研究制度)については,半数以上の研究者が研究開発の推進に効果的であるとしている( 第1-2-31図 )。さらに,流動的研究員制度による人材交流を希望するかどうかとの設問に対しては,研究者の半分近くが流動的研究員制度による交流を希望しており ( 第1-2-32図 ),具体化を促進していくための方策が求められている。

第1-2-29図 産学官の協力は成果創出に有効か

第1-2-30図 産学官の協力で重点を置くべきことは

第1-2-31図 流動的研究制度は研究開発の推進に効果的か

第1-2-32図 流動的研究員制度による交流を希望するが

国内における研究交流に加え,研究者の国際交流も,年々活発になってきている( 第1-2-33図 )。政府では,科学技術庁フェローシップ制度を初めとする各種制度による海外の研究者の招へい,科学技術関係在外研究員派遣制度等による国内の研究者の派遣など,様々な施策を実施し,国際的に開かれた研究体制の整備と研究者が海外において研さんを積む機会の拡大を図っている( 第1-2-34 , 35 , 36 図に国立試験研究機関における研究者交流,科学技術庁フェローシップ,文部省関係事業による研究者交流の実績を示す)。

研究者の比較的長期の海外派遣とともに,海外研究集会への研究者の参加は,我が国の優れた研究成果に対して高い評価を得,最新の研究成果の収集,世界の研究者との議論等を通じて先端水準の創造的な研究の推進を図る上で有効であり,海外研究集会出席の機会が確保されることが,世界をめざした研究活動を展開していく上では重要である。

第1-2-33図 研究技術者の出入国者数の推移

第1-2-34図 国立試験研究機関における研究者国際交流

第1-2-35図 科学技術庁フェローシップ制度による外国人研究者招へい

第1-2-36図 文部省関係事業による研究者国際交流

また,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)を初めとする各種プログラムの実施により,国際共同研究開発が推進されている。HFSPは,昭和62年のベネチア・サミットにおいて我が国が提唱して開始されたプログラムで,生体の持つ優れた機能の解明のための基礎研究を,国際的な枠組みの下に推進しようとするものであり,研究グラント事業,フェローシップ事業及びワークショップ事業が行われている( 第1-2-37図 にHFSPへの各国からの貢献とHFSPの助成実績を示す)。さらに,国際宇宙ステーション計画,国際熱核融合実験炉(ITER)計画など,国際協力による大規模プロジェクトが積極的に進められている。

第1-2-37図(1)  ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)への各国からの貢献

第1-2-37図(2)  ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)の助成実績(応募件数と採択件数)

(民間研究開発拠点の海外展開)

国際化が進む一方で,民間企業の研究開発拠点の海外移転が進むなど,我が国研究開発の空洞化の懸念も指摘されている。

民間企業研究活動調査においては生産拠点及び研究開発拠点の海外進出状況について調査を行っているが,その結果によると,生産拠点については全体の57%が既に海外進出しているのに対し,研究開発拠点については全体の18%にとどまっており,生産部門に比較すれば研究開発部門の海外進出はそれほど進んでいないことが示されている。また,現在研究開発部門を海外に設置していない企業のうち9割が,今後とも進出の予定がないとしている( 第1-2-38図 )。

しかしながら,これを資本金規模別に見ると,資本金規模が大きくなるほど,研究開発拠点の海外展開を行っている企業の割合が高くなり,資本金500億円以上の企業では4割を超えている。また,そのうちのほぼ半数が今後さらに拡大するとしており,民間の研究開発活動の主要な部分を担う大企業においては,研究開発拠点の海外展開がかなり進行していることが示されている( 第1-2-39図 )。なお,海外の研究開発拠点の数は,設置している企業214社の合計で510拠点,1社平均で2.38拠点となっている(平成3年度調査では,117社で276拠点,1社平均で2.36拠点)。

第1-2-38図 海外進出に対する方針

最近5年間に新規に研究開発拠点を設置した地域は,米国が最も多く,研究開発拠点を海外に設置している企業の57%となっており,次いで欧州が34%となっている( 第1-2-40図 )。また,今後進出していこうとしている地域については,生産拠点ではASEAN諸国及び中国が多くなっているのに対し,研究開発拠点ではやはり米国が多くなっている( 第1-2-41図 )。

第1-2-39図 研究開発拠点の海外進出に対する方針

第1-2-40図 ここ5年間に新規に研究開発拠点を設置した地域

研究開発拠点設置の理由としては,米国や欧州については,「海外のニーズに対応した研究開発」が最も多く,それ以外では,「生産と研究の連携強化」,「技術の芽(シーズ)の探索(基礎研究情報の確保)」が多くなっているほか,「海外における優秀な頭脳の確保・活用」,「外国の大学,企業等との共同研究の推進」,を挙げた企業が約30%となっている。一方,アジアについては,「生産と研究の連携強化」が最も多く,「海外のニーズに対応した研究開発」がこれに次いでいる( 第1-2-42図 )。こうした状況を反映し,海外拠点における研究内容としては,「現地の市場に合致した製品の開発」を挙げる企業が圧倒的に多く,78%に達しており,これに比較すると「中核となる技術の開発」や「基礎研究」はそれぞれ29%,18%と少なくなっている(資本金500億円以上の企業では,それぞれ39%,32%と多くなっている)( 第1-2-43図 )。

第1-2-41図 生産拠点又は研究開発拠点について「拡大」又は「今後進出」する地域

第1-2-42図 研究開発拠点設置の理由

また,海外研究開発拠点の研究マネージメント上の問題としては,欧米,アジアとも「日本の本社あるいは海外の生産現場との連携,意思疎通がうまく行かない」を挙げる企業が多く,そのほかに欧米では「研究開発成果の効率的産出」(ができないこと),アジアでは「現地政府の規制や制度」や「海外における研究開発人材の不足」等が多くなっている( 第1-2-44図 )。そして,海外研究開発拠点の評価については,国内の同種の拠点と比較すると,海外の基礎研究実施拠点においては「アイディアの供給,発見」が優れている。他方,新製品開発拠点,改良・部分的開発拠点では,調査項目すべてにおいて国内拠点が優れているとの結果が出ており,特に開発・改良段階では,海外研究開発拠点に対する評価は高くないことがわかる( 第1-2-45図 )。

最後に,研究開発の国際的展開の最終的なイメージについては,国際的展開を行う予定がないとした36%の企業を除くと,「日本に中核的研究開発機能を置き,海外に生産技術や現地ニーズに対応するような補助的機能のみを置く」という企業と,「日本に中核的研究開発機関,海外に補助的研究開発機関を置くが北米などには独自性の強い研究開発機能を置く複合的な展開を図る」という企業が多くなっており,「日・米・欧,それぞれの研究開発拠点が独自性を持って研究開発を行う」とした企業は少なくなっている( 第1-2-46図 )。

第1-2-43図 海外研究開発拠点における研究内容

第1-2-44図 海外研究開発拠点の研究マネージメント上の問題

以上を総合すると,特に大企業を中心として研究開発拠点の海外展開は進行しているが,生産拠点の海外展開ほどには進んでおらず,また,海外研究開発拠点に対する評価は開発・改良段階では必ずしも高くなく,将来的にも日本に中核的研究開発機能を置くこととしている企業が多いということができる。しかしながら,現地ニーズに対応した研究開発を目的に海外に進出している企業が多いほか,技術の芽(シーズ)の探索,優秀な頭脳の確保・活用,共同研究の推進のため,アイディアの供給,発見の面で評価の高い欧米へ進出している企業が,特に大企業では多い。これは,研究拠点の国際的な広がりという点で好ましいと考えられるが,民間企業の国内での研究費が伸びていない状況と考え合わせると,将来的な懸念材料とも見られる。

第1-2-45図 海外研究開発拠点の評価

第1-2-46図 研究開発の国際展開のイメージ


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