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第1部   戦後50年の科学技術
第3章  人間的豊かさのための科学技術へ
第4節  科学技術と社会との対話促進
2.  科学技術に携わる者と社会との対話の促進


科学技術に携わる者と社会との対話の不足,相互理解の不足が,科学技術に対する不満の一因となっていると考えられる。この観点から,国民に理解しやすい情報の提供,これに対する国民の側からの評価,批評の積み重ねによる建設的な対話が重要である。

また,科学技術が関係する複雑な社会的問題への対処にあたっては,社会の意識を科学技術に携わる者が理解するとともに,科学技術の方法論を社会に伝えることも重要である。その前提としての,科学技術者の側の自覚,努力と,社会の側の科学技術に関する理解力の向上が必須である。

(わかりやすい情報の提供)

科学技術に関し国民を対象とした調査によれば,科学技術に関する知識について,わかりやすく説明されれば理解できると考えている人が多い。また,そう考える者は増加傾向にある (第1-3-20図) 。他方,同じ調査によれば,「科学技術について知りたいことを知る機会や情報を提供してくれるところは十分にある。」との意見に対しては,そうは思わない,決してそうは思わないと答える者が多くなっている (第1-3-21図) 。これらから,国民が科学技術に関し,知りたいことを知る機会や,わかりやすい情報の不足に大きな不満を持っていることが伺える。

このように,科学技術と社会との接点において理解し易い情報の提供が不足しているという認識が,科学技術に関する国民の不満の要因と考えられ,このような不満を解消していくための地道な努力が求められる。

第1-3-20図 科学技術に関する知識の理解(その1)

第1-3-21図 科学技術に関する知識の提供機会

(科学技術に関する理解の向上)

科学技術が社会に受け入れられるためには,科学技術に関する正しい理解が重要である。このためにもまず,わかりやすく説明されれば科学技術に関する知識は理解できるとの考えを持つ人を増やしていくことが必要であるが,このような考えを持つ人は,理科が好きな人ほど多い傾向にある (第1-3-22図) 。従って,このような考えを持つ人を増やし,ひいては,国民一般での科学技術に対する理解を高めるためには,理科の好きな人間を増やすことが,まず,重要であると考えられる。

第1-3-22図 科学技術に関する知識の理解(その2)

このため,科学技術会議の第20号諮問「科学技術系人材確保に関する基本方針について」に対する答申に示された施策の実施に努めるとともに,科学技術を身近なものとするために努力する必要がある。また,理科の好きな人には,科学技術のプラス面を高く評価する人が多くなる傾向がみられる (第1-3-23図) 。これから,理科の好きな人間が増えることは,科学技術のプラス面を評価する人の増加につながるとも考えられ,ひいては,科学技術の信頼感の向上にもつながるものと考えられる。

(科学技術の発達に伴う心配への対応)

科学技術の発達に伴う心配への対応に関しては,科学技術政策研究所の調査結果によれば,「企業が十分考えながら製品の開発を行う」こと,「国が専門家の意見を聞きながら,指針を作ったり企業の指導や規制を行う」こと,「科学技術の研究者が常に自覚を持つ」こと,「マスコミが公正中立な報道を積極的に行う」こと等がその対応策として期待されている (第1-3-24図) 。また,先端科学技術研究者は,新しい科学的知見や新しい技術が,国民に理解され,受け入れられていくためには,「科学技術と人間・社会との調和の研究の推進」,「パブリック・コミュニケーションの推進(政府広報,科学ジャーナリズム等)」,「優れた研究機関の育成」,「科学技術に親しめる環境の整備(博物館の設立等)」等が重要であると指摘している (第1-3-25図)。

このような認識を踏まえると以下に述べる方向で努力することが重要である。

第1-3-23図 科学技術のプラス・マイナスの評価と理科の好き嫌い

第1-3-24図 科学技術への心配への対策

第1-3-25図 新しい科学的知見や新しい技術が国民に理解され受け入れられるための方策に関する研究者の意識

-企業の努力への期待-

科学技術への心配への対応策として,企業が安全性を十分考えながら製品の開発を行うことに対する期待が大きく,このような国民の期待を踏まえた企業の行動が期待される。このような企業の姿勢を促進するものとして,最近成立した製造物責任法があるといえよう。

製造者の過失を要件とする従来の損害賠償の考えでは,科学技術が高度に発展した時代において,製造業者等の過失を証明するために被害者に大きな負担を強いることとなり,十分な被害者保護が行えない可能性があった。製造物責任法では,製造物の欠陥により被害を被った「被害者の保護を図り,もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的」としており,製造物に「欠陥」があった場合に,製造業者等が被害者に対し賠償責任を負うことを規定したものである。なお,欠陥は「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。」(法律第2条)と定義されている。

製造物責任法の制定によって,企業が商品を開発,製造するにあたっては,これまで以上に事故防止に努め,一層の安全性への配慮がなされるこどが期待される。

-科学技術者の自覚と社会への発言-

科学技術の研究者の自覚を期待する声も高い。

科学技術と人間・社会との調和のためには研究者の倫理が重要である。研究の現場において,このような生命倫理(バイオエシックス),環境倫理などの倫理の問題に配慮しているかとの問に対して,先端科学技術研究者では,十分配慮している者,ある程度配慮してる者の合計が8割を越えており,その倫理への意識は一般的に高いといえる。

なかでも,健康・保健分野を専門とする先端科学技術研究者ではその割合が9割を越えており,倫理問題への意識の高さが伺える (第1-3-26図)。

もとより,これは限られた先端的科学技術分野に関係する研究者に対する調査であり,全ての科学技術者について推測することはできないが,いずれにせよ,科学技術に携わる者としては,倫理にとどまらず,常に科学技術と人間・社会との関係を意識し,科学技術と人間・社会との調和のための方策を常に模索していくことが必要とされる。

特に,近年,国民に,科学者には人間や社会に無関心な人が多いと考える者が増えつつある傾向が伺えており,このような国民の意識を十分に踏まえた科学技術者の行動が期待される (第1-3-27図)。

また,科学技術者が人間・社会との関係を常に意識するための前提条件として,科学技術に関与する者はその基礎的な素養として,単に専門の分野に対する深い知識のみならず,人間,社会の諸現象を含めた幅広い分野への関心を持っていることが望まれる。また,このような人間を育んでいくため,社会全般としても,理系であるから人間や社会に対する関心が薄くとも良いとか,逆に,文系であるから科学技術に関心がなくとも良いといった風潮を改めていくことが重要である。

第1-3-26図 先端科学技術研究者の倫理意識

第1-3-27図 科学者の人間・社会への関心に対する国民の理解

また,科学技術が社会に大きな影響を与える可能性のある問題に関しては,単に科学技術者の中だけで問題を議論するのではなく,科学技術者が社会に対して発言し,社会の側でもそれを的確に受けとめ,両者の間で建設的な対話が生まれていくよう,科学技術者の側から,自らの活動が社会により支えられているとの認識のもとに,社会に対して積極的に発言していくように努めることが重要である。また,社会の側においても,このような科学技術者の発言を的確に受けとめることが重要である。

-マスメディアへの期待-

科学技術活動の場から発信される情報を,多くの人に効果的に伝えることができるとの観点からメディアへの期待は大きい。マスメディアは,これまでも科学技術に関する話題の提供や,問題意識の提起に大きな役割を果たしてきており,今後とも人々と科学技術活動の場をつなぐための積極的な取り組みが期待される。

また,社会の問題意識を科学技術に携わる者に伝える役割も重要であり,科学技術と社会との対話を促進するにあたって,科学技術活動に携わる者と国民とをつなぐその役割は,今後ますます重要となってくるといえる。

-科学技術の専門化,細分化への対応-

科学技術活動の展開にあたっては,科学技術のみが先行するのではなく,人間・社会のための科学技術という原点に立って,人間そのものに対する理解を深めながら,科学技術と人間・社会との調和を図ることが重要である。

なかでも,一般の人の多くが,科学技術が専門化,細分化し,自分たちが理解できなくなることを懸念していることをも踏まえ,専門化,細分化した科学技術を総合するための異分野交流の促進,人文・社会科学と自然科学との連携・協力の促進が重要である。この異分野の研究者の交流を目指した,異分野交流事業,科学技術フォーラム等の努力がなされている。また,科学技術者自身も狭い自己の研究の殻に閉じこもらず,常に人間や社会を意識して,自らの専門以外の幅広い分野への関心を維持しつつ,研究に取り組むことが望まれる。

(知る喜びの社会との共有)

知的な豊かさ,科学の感動を社会と共有するための努力も,科学技術が身近に感じられるために重要である。

科学技術の研究はそれ自体が価値があり,貴重な人間活動だとされる。彗星群が衝突した木星の様子や,遠い宇宙を探査している探査機からの惑星の映像などは人々を魅了している。魚が生息しているとは考えられていなかった深海底の魚影は,人々の興味をかき立てたと考えられる。このように,知る喜びが感動を生み,人々の心を魅了するものである。このため,自然に対する理解を深める研究の実施とともに,その進捗状況,研究の感動・知識の進展の喜びを社会と共有していくための努力が重要である。

この観点から,科学技術に携わる者が,科学技術の夢やロマンを積極的に国民に語りかけるなどの努力を不断に行うことが重要であり,また,最新の研究活動やその成果を身近に感じることが出来るような機会の増加が重要である。自らが科学技術の最先端で活動している研究者が,直接,若者をはじめとする一般の人々に語りかけることへの期待は大きい。科学者や技術者の話を聞いてみたいと考える者が多くなっている傾向がみられ,社会の側が科学技術者の情報発信を受け入れる素地が形成されつつあるとみることもできる (第1-3-28図) 。筑波研究学園都市の研究者が自らの出身の学校に出向いて,自らの体験を語る試みが,1995年度の科学技術週間に実施された。また,研究を自ら実施するとともに,その進捗状況や最新の研究成果を一般の人にわかりやすく伝えようとしている研究館というユニークな試みもなされている。このような活動は今後とも継続されていくべきである。

第1-3-28図 科学技術者の話への興味

さらに,経済的に豊かになった今日,科学技術活動自身を活性化し,科学技術活動に人々を引き付ける原動力として,若者の夢と情熱を掻き立てる面白さ・感動が重要となっている。このため,知る喜びを社会と共有するのみならず,さらに,体験する喜び,創る喜びを若者が自ら実感できるよう,自然との触れ合いの機会の拡充,参加型,体験型の科学館の整備等を初めとして,社会の多方面で自然や科学技術に触れあい,体験するための環境の整備が求められる。

知的な豊かさ,科学の感動を社会と共有し,体験する喜び,創る喜びを若者が自ら実感することは,科学技術を社会がより身近に感じることにつながるものであり,このためにより一層努力していくことが求められる。また,このような努力は,科学技術と社会とのある種の緊張関係を和らげていくためにも有効であると考えられる。さらに,このような地道な努力は,人間的豊かさ実現のために科学技術が一層の貢献を果たすべきこれからの時代にとって,極めて重要であると考えられる。


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