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第1部   戦後50年の科学技術
第3章  人間的豊かさのための科学技術へ
第2節  科学技術創造立国を目指して


戦後の我が国の発展は,資源に乏しい我が国にとって最大の資源である国民の英知を生かし,懸命の努力を積み重ねることによってもたらされたものといえる。今後,我が国が21世紀の発展を期していくためには,我が国最大の資源ともいえる国民の英知をさらに蓄積し,これを活用していくことが重要である。このため,従来以上に国民の知的創造力を生かし,新たな価値を生み出し,国民に真に豊かな生活をもたらす科学技術創造立国を目指していくことが必要となる。

このような認識を踏まえ,我が国の経済が成熟化し,他方,NIEs,開発途上国が経済的に成長しつつある時代において,先進国としては,厳しい道であるが,新しいブレークスルー,新しい市場の創造を求めた努力を従来以上に拡充していくことが必要である。このためには,科学技術面においては,技術革新の促進や独創性ある人材の確保が重要であることは言をまたないが,これらは昨年の白書でもその重要性を指摘したところであり,ここでは,特に,次の世代に引き継いでいける知的資産の整備,独創性の発揮条件の整備等に積極的に取り組んでいくことの重要性について分析することとする。

また,これらの努力は,我が国や世界が直面する地球規模の諸問題や高齢化社会への対応にあたっても,その基盤として重要な役割を果たすものと期待される。

(次の世代に引き継いでいける知的資産の整備)

新しいブレークスルーを探求し,あるいは,既存の知見を新しい分野に適用するにあたっては,誰でもが利用可能な知的ストックの役割が極めて大きい。蓄積された科学技術の知識である知的ストックは,占有することができない公共財としての性格を有し,また,尽きることのない資源であり,その重要性に鑑み,その拡大が必要とされる。誰でもが利用可能な知的ストックを築くにあたっては基礎・応用・開発のバランスのとれた研究開発が重要であるが,なかでも,我が国においては基礎研究の推進が特に重要である。過去の我が国及び米国の基礎研究投資の動向をみると,近年我が国の投資が拡大しているものの,米国の投資は依然として大きく,また,過去の投資の累積は我が国の投資をはるかに上回っている (第1-3-6図)。

民間企業の研究開発は基本的には企業の活動を維持・発展させていくためのものであり,その成果も基礎的な部分が学会等で公表される場合はあるものの,公表の程度は限られている。このため,大学,国立試験研究機関等の公的部門の科学技術活動を強化していくことが必要となっており,政府研究開発投資の拡充が必要である。基礎研究の強化にあたっては,研究資金の拡充と研究者及び研究補助者の確保が望まれており,このための努力が求められていること,研究環境を改善することが重要である旨昨年の白書で指摘しているが,これらに加えて,独創性の発揮を促進する制度の拡充が望まれている。

また,基礎研究に加えて,製造技術としての使命を終えた知識,いわゆるポスト・コンペティティブな知識を整理し,体系化し,誰でもが使える知的資産として次世代に伝えていくための努力も重要である。

さらに,これらの活動を支える科学技術系人材の育成・確保,研究開発基盤の整備等を含めた知的資産整備のための政府の役割が重要となっている。また,これらは,地球規模の諸問題,高齢化社会への対応,生活・社会への科学技術の貢献,活力ある経済社会を維持するための基盤をなすものである。

第1-3-6図 日米の基礎研究への投資

(独創性の発揮を促進する制度の拡充)

外に目標のない時代には,独創的な発想,独創的な科学技術を自ら生み出していくことが極めて重要である。独創的な発想,独創的な科学技術が生まれ,社会に定着していくことを促進するため,これらを促す制度の拡充に努めていくとともに,独創性の発揮を妨げる制度等を改革していくことが必要である。また,改革にあたっては,これまでの我が国はともすれば海外からの圧力によりこれを行ってきた面が多いと考えられるが,これからは,これを行わなければ我が国の将来の安定的発展に大きな支障が生ずるとの認識で,自らの力でこれに取り組んでいくべきである。

新しい市場は,それまでになかった画期的な知見に基づいて生ずる場合に加え,これまでに存在した知見を全く新しい分野に適用する場合にも生ずるといえる。いずれの場合にも,技術革新に期待する面が非常に大きく,企業家(起業家)精神が重要である。このため,リスクに果敢に挑戦し成功した者が社会的に評価されるような社会的機運の醸成に努めるとともに,これらの者が経済的にも報われることが重要であり,この観点からの各種の制度の整備,充実が必要である。

また,新しい技術を発展させ,新しい産業としていくにあたり,企業の果たす役割は極めて重要であり,企業が,その創意と活力を十分発揮できるよう,企業の活動環境の整備に努めていくことが重要である。

独創的な発想,独創的な科学技術を育む観点から,これまでの画一性・横並びの重視を改め,多様性・卓越性を重視すること,必要な人材の流動性の向上を図ること,若手の抜擢,高齢者,女性の活用など,年齢,性別にとらわれず有能な人材を登用していくことが必要となる。

(流動的研究環境)

独創的な発想,独創的な科学技術を育む方策のひとつとして,研究者の流動化を促すことが重要である。時限性・任期制を採用し必要な研究者の流動性を促すような研究制度を中心として,それに類似するような制度やシステムを流動的研究制度と呼ぶことができる (第1-3-7表)。

第1-3-7表 流動的研究制度の概要

任期を定めて研究者を採用するこのような流動的な研究制度では,

1) 任期終了後に研究者は新たな研究の場を求めて移動(流動)すること
2) また,この際,よりよい環境を求めて競争が起こること
3) 一方このような流動(移動)を伴う研究の現場においては,異なる発想,異なる考え方の新たな出会いがあり,これにより研究者が相互に刺激・触発された結果として知的競争が生まれることが期待できる。

以下では,流動的研究制度に対する研究者の意識調査(科学技術振興調整費委託調査 (財)未来工学研究所「競争的研究環境創出のための調査」1993年3月及び1994年3月)をもとに,このような流動的な研究制度がどのような効果を持ち,また,いかなる課題を抱えているかをみていくこととする。

一研究に与える影響一

流動的研究制度に参加した研究者の研究能力の自己評価に関しては,能力向上に「非常に影響を与えた」と答えた研究者が41%,「やや影響を与えた」が42%と8割を越える研究者が研究能力の向上を自覚している。これらの約8割を越える研究者が向上を自覚している研究能力としては,「幅広い視点でものを考える能力」(51%),「自らの計画に基づいて研究を管理する能力」(42%)が上位にあげられている。

これを,研究者を受け入れ研究を管理する立場にある側からの回答者のうち,国立試験研究機関では63%,大学等では57%の者がその管理する研究部門に任期の定められた研究者がいると答えている。他方,民間ではその割合は21%にとどまっている。

また,研究管理者が流動研究が果たす役割として期待する事項をみると,研究者が「未知の研究者との交流により知見を広げることができる」(84%),「人的ネットワークを拡大することができる」(83%),「自分の専門を変更したり,幅を広げることができる」(61%)等が上位にあげられている。

流動的研究制度に参加した研究者の受け入れが組織の活性化に与える影響については,半数強の人が「非常によい影響を与える」としており,「ややよい影響を与える」という回答を含めると,90%にのぼる研究管理者が,流動研究者の受け入れが組織の活性化につながることを認識している。

一流動的研究制度の課題一

このように,その効果について評価や期待が高い流動的な研究制度であるが,制度をさらに拡充し,有効に運営していくにあたっては,改善すべき課題も多い。

流動的研究制度に参加した動機としては,全体では「武者修行の場として自分を鍛えたい。」という回答が参加研究者の49%と最も多いが,「就職先を得るまでのつなぎにしたい」が42%,「未知の研究者との交流により知見を広げたい」が41%,「自分の実力を試したい」が40%となっている。さらに,流動的研究制度に,学生から参加した者と学生以外から参加した者を比べると,学生から参加した者では「就職先を得るまでのつなぎにしたい」が60%となっていることが注目される。

参加にあたっての不安は「任期終了後の就職先」が65%と圧倒的に多く,続いて「自分の将来」(38%)となっている。

また,今後このような制度に参加したいかとの質問に関しては,「積極的に参加したい」とする研究者が14%,「場合によっては参加したい」とする者が65%であり,具体的な条件に左右されることが分かる。同調査では「積極的に参加したい」とする研究者及び「場合によっては参加したい」とする者に対して,必要とされる条件を質問しているが,「研究の自由度が確保されること」(64%),「研究活動以外の業務に煩わされないこと」(55%),「任期制研究組織と終身雇用制研究組織の間を任意に行き来できるパスが十分に整備されていること」(42%),「任期終了後の身分が保障されていること」(39%)などが上位にあげられている。

これらから,流動的研究制度における研究環境もさることながら,流動的研究制度を終了した後の自らの進路に関して高い関心が示されている。逆にいえば,これらの条件が現状では必ずしも十分に整備されていないことが,「場合によっては参加したい」と答えた者の多さになって表れているといえる。

これらから,流動的研究制度と長期雇用を前提とした制度との連携が必ずしも十分でなく,流動研究制度の参加者の中には研究者としての就職先を得るまでのつなぎとして流動研究制度をとらえている者もいることがわかる。

流動的研究制度自体は,研究者の能力向上,組織の活性化,研究者相互の刺激・触発等をもたらすことが期待され,これからの我が国にとってますます重要となる独創的な研究の推進に重要な役割を果たすと期待される。しかしながら,一方で任期終了後の将来についての不安も懸念されている。流動研究制度への期待を踏まえ,また,雇用の安定的確保に十分配慮しつつ,制度自体の位置付けの明確化を図り,所定期間の終了後の身分の不安定さをも克服し,能力と意欲のある優秀な研究者を惹きつける処遇,研究資金,研究環境の提供が可能となるような流動研究制度の充実に努めていく必要がある。

さらに,我が国研究者の国内における流動(移動)のみならず,我が国の研究者が世界において幅広く活躍し,また,世界の研究者が我が国を来訪し研究に従事できるような国際的な人材交流の向上も望まれる。

(センター・オブ・エクセレンス(COE)への努力)

画一性・横並び重視から多様性・卓越性を重視していくことが,独創的な発想,独創的な科学技術を生み出していくために,特に重要となる。この卓越性を重視する科学技術政策の努力の例として,センター・オブ・エクセレンス(COE)の育成がある。

卓越した研究指導者,最新の研究情報,優れた研究施設・設備,充実した研究支援体制等を有する中核的な研究機関は一般にCOEと呼ばれている。我が国においては,世界的な研究者や研究指導者,世界的水準の研究のための施設・設備,実験・観測機器等を有し,世界の研究者を惹きつけている研究機関が一部に存在している。しかしながら,我が国を訪れ長期にわたって滞在し,研究に従事する外国人研究者が未だ少ないという状況から考えて,世界的な水準の研究のための施設・設備,実験・観測機器等や,海外の研究者を惹きつける魅力ある研究指導者や研究者は未だ少ないのが現状といえよう。

我が国が戦後50年を費やして世界において経済的に大きな地位を占めるに至った現状を踏まえると,今後の50年をも視野に入れ,その地位にふさわしく,海外の優秀な研究者を我が国に惹きつけるCOEを育てていくことが重要である。このため,まず,世界に通用する卓越した研究指導者,国際的な活動のできる研究者を確保していくことが重要である。この観点から,COEを目指す研究機関がこのような人材を確保することが出来るよう,適切な処遇を確保し,任用制度を運用していくことが重要である。また,このような研究者が研究に集中できるよう,研究支援体制,研究環境を整備していくことも必要である。さらに,優れた研究者,研究指導者となる資質を有した我が国の若手研究者を海外の優秀な研究指導者の下へ派遣し,研鑚を深める機会を拡充することも重要である。また,世界的な水準の研究のための施設・設備,実験・観測機器等の整備を進め,世界に通用する成果を挙げていくことも重要である。

科学技術振興調整費を活用して1993年度がら,国立試験研究機関,特殊法人等における特定の研究領域の水準を世界最高レベルまで引き上げることを目的として,その領域における基礎研究を柔軟で競争的な環境の下で強力に実施するとともに,その成果を海外に積極的に発信することを通じて,COEの育成を支援するための努力がなされている。また,大学等についても,1995年度から,科学研究費補助金等により,COEを目指して自ら努力を行っている研究機関及び研究組織を積極的に支援する制度が創設された。

今後とも,COE育成のため,長期的視点から,継続的に努力していくことが重要である。

(研究の評価)

これらCOE育成の努力と並んで,研究の評価も,科学技術の発展にとって重要な課題である。評価は,研究が行われる前の研究テーマの設定にあたっての評価と,研究を進めた後の研究成果の評価がある。

研究は,まず,研究者が研究テーマを設定し,これに必要な研究費,研究機材等を確保するところから始まる。この際,小規模なテーマは別として,研究費等は,研究者の所属する研究機関の内部において,あるいは研究機関の外から確保する必要が生ずる。この際,全体の予算等に限りがあるので,テーマを選別することが必要となり,研究テーマ自身の評価が必要となる。

このテーマ設定及び研究費配分の際の評価にあたっては,研究者の能力,過去の業績が着目されることは当然ながら,これにあまりに拘泥することなく,大胆な着眼,新しい発想にも配慮されることが必要である。この際,注意を要するのは,研究者自身が評価を気にする余り,短期的に研究成果があがる見通しのあるものを重視し,結果として,リスクが大きい画期的な研究テーマが設定されにくくなることである。この点で,研究機関の内部における研究費の配分や,研究費の交付機関の審査等において,その運営に留意し,大胆な着眼,新しい発想にも,適切に対応していくことが必要とされる。

この関連で,研究の性格に応じた多様な研究資金が用意されることが重要である。このような多様な研究資金の存在は,研究者の選択の幅と自由度の拡大をもたらすとともに,競争的な研究環境の形成に貢献する。このため,競争的な環境の下で提供される多様な研究資金を整備・拡充し,研究者による資金源の選択の機会を拡大することが重要である。

また,研究の成果に関しては,厳しい評価がなされなければならないが,基礎研究における,個々の研究者の業績の評価に関しては,個々の研究機関等において,また,国際的な学会における発表,国際的な権威を持った論文誌,科学雑誌における論文発表等を通じて評価がなされているといえる。また,民間企業において,研究者を対象として,成果管理のみで勤務時間管理を行わない裁量労働制度や,年俸制度の導入が一部においてなされているが,このような制度の場合,成果の評価,業績の管理は極めて重要となると考えられる。

さらに,個々の研究の評価に加え,研究機関の運営全般についても,近年,我が国においても外国人を含む外部の有識者による評価委員会による外部評価を行う研究機関等が増えつつある。東京大学理学部物理学教室においては,1993年外部評価を行い,その結果を公表した。

また,理化学研究所においては1993年6月に「理研アドバイザリー・カウンシル(RAC)」第1回会議を開催し,研究所の活動全般に対して外部評価を行った。さらに,科学技術庁金属材料技術研究所においても1994年8月外部評価報告書を公表した。また,前述の科学技術振興調整費のCOE育成制度においても研究機関ごとに,国内外の優れた学識経験者により構成される評価委員会が設置されている。

今後とも,研究者の能力をいかにして最大限に引き出し,研究の成果を挙げるかという観点で,これらの評価活動がさらに充実され,また,評価を行う機関が増加していくことが望まれる。

(問題解決能力の維持)

地球環境問題,資源・エネルギーの制約や,我が国における高齢化の進展など,我が国が抱える課題は多い。

過去において我が国が世界に先駆け,あるいは世界とほぼ同時に問題に遭遇し,外に参考とすべき目標が存在しない状況において比較的適切に対処できた課題もある。公害問題に対する規制,技術的対応,石油ショックに対応した省エネ技術の開発・導入等はその代表的な例といえる。

これらの例にみられるように,明確な目標,課題が設定された場合において,これを解決するために科学技術力を活用し,総合的に対処する我が国の社会全体の能力は世界に誇るべきものがあるといえよう。

このような問題解決能力は今後も貴重であり,その維持・充実を図っていくべきである。特に,今後は,このような能力を,我が国が直面する地球環境問題への対応,高齢化社会への対応,生活・社会における豊かさの探求等の新たな課題の解決のために適切に活用していくことが望まれる。

この活用にあたっては,将来の社会を見据え,時代を先取りして,問題の本質を捉え,これへ対応するために必要となる技術的課題を明らかにし,いかに明確な技術的目標と具体的な研究開発課題を設定するかである。このため,外に目標のない時代において,状況を見抜く鋭い洞察力,これを支える幅広い見識,そして自らの頭で考える思考力とこれらに支えられた創造力が必要とされている。


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