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第1部   戦後50年の科学技術
第3章  人間的豊かさのための科学技術へ
第1節  戦後50年を迎える我が国の課題


我が国が戦後50年を迎えるこの時期は,世界的にも,第2次大戦後の世界を大きく形作ってきた東西の冷戦が終結し,また,経済をはじめとして各国相互の関係が従来以上に緊密になりつつある時代といえる。さらに,地球環境問題等の地球規模の諸問題に対して,各国が協力して取り組んでいくことが求められる時代ともなっている。

本節では,このような時代の大きな転換期において,人間的豊かさを実現するにあたっての科学技術をめぐる我が国の課題をみていくこととする。

(冷戦の終結と我が国経済社会の課題)

一大競争時代への対応一

経済の発展は豊かな生活の基盤である。しかしながら,我が国の経済や科学技術を取り巻く状況は極めて厳しいものがある。

世界経済が相互に密接に結び付いてきている。また,アジアが発展し,旧ソ連・東欧諸国が市場経済化してくることから,労働集約的産業や高度の技術を必ずしも必要としない産業を先進国で維持することが次第に困難になってきている。さらに,冷戦の終結に伴い,欧米先進国では,人的・財的資源を従来以上に経済に振り向けることも可能となってきていると考えられる。これらの結果,これからは経済面において,世界各国とも,従来以上に厳しい国際的な競争にさらされるとみられる。このように,開発途上国,旧社会主義国が市場において世界的に結び付き,世界的な競争社会となる時代において,我が国の経済社会の活力を引き続き維持していくことが豊かな生活の基盤であると考えられる。

我が国の経済は,産業の成熟化,途上国等の追い上げ,先進諸国間における競争の激化にさらされている。他方,情報関連産業等の成長が見込まれるものの,新しい産業は全般にその展開が立ち遅れているといわれている。さらに,我が国からアジア諸国等への企業進出・技術移転がさらに進み,他方,国内での高付加価値製品の開発生産への移行が必ずしもスムーズには進まず,我が国における産業の空洞化や,雇用の減少も懸念されている。

戦後の50年,我が国が高度の経済成長を遂げてきた間を通じ,基本的には,昨日より今日が豊かであり,今日より明日が豊がであることが当然と考えられるようになってきた。しかしながら,近年の景気低迷は長期にわたり,明日が今日より豊かとは必ずしも限らないことが国民の実感として持たれるようになったのではないがとも考えられる (第1-3-1図) 。また,これが先行きの不透明感,時代の閉塞感をもたらしている大きな要因となっていると考えられる。

経済成長に影響を与える要素として,資本,労働に加え,技術進歩がある。1994年版の「通商白書」では,国内総生産(GDP)の成長率の要因を資本の寄与,労働の寄与及び技術の寄与に分けて計算している (第1-3-2図)。 ここに示されているように,技術の寄与が経済成長に大きな割合を占めていることが分かる。また,この技術の寄与には研究開発投資が大きく影響していると考えられる。

第1-3-1図 国内総生産(GDP)の実質伸び率

第1-3-2図 国内総生産(GDP)成長率の要因分解

しかしながら,研究開発についてみると,これまで順調に拡大してきていた我が国の企業の研究開発投資が,1992年度,1993年度と2年連続して減少し,特に1993年度には国全体の投資も減少するという,従来経験しなかった事態を迎えている。また,国全体の研究開発投資の国民総生産に対する比率は,1990年度をピークに近年減少してきている。

このような状況の中で,我が国経済社会の更なる発展にとって,科学技術に期待される役割は極めて大きい。

―外に目標のない時代への対応―

これまでの我が国の経済発展を振り返ると,戦後の廃壊から立ち上がり,早期の復興を目指したが,その時点での目標は欧米先進国であった。このため,我が国は,外国の優れた技術を導入し,これに改良を加え自らのものとし,経済の発展に役立ててきたといえる。この過程においては,メカトロ等の技術の組み合わせや,情報・電子技術を多くの分野へ組み込んだインテリジェント化,小型化等においては卓越した能力を発揮した例があるものの,基本的には,製品等の基礎となる技術は海外に依存してきたと考えられる。また,ある程度市場を見通せるものを手がけ,基本技術は海外から導入し,既存の製品の製造プロセスの改良によるコスト低減,品質向上等を重視してきたといえる。研究開発,技術開発においても,製造プロセスの改善・効率化による漸進的な改良や,省力化を重視し,このための創意工夫を重ね,これが製品コストの低減,品質向上に結び付き,我が国企業の競争力を支えてきたといえる。なお,省力化のみでは雇用の増加は必ずしも期待できないが,省力化により余った労働力を生産の量的な拡大や他の成長分野が吸収してきたといえる。

このように,これまでの我が国は,全く新しい製品の基礎となる知識や技術を創造するような知的,創造的活動は主として海外に依存し,導入した技術に着実に改良を加え,品質管理を徹底するなど,どちらかといえば,画期的な新技術,新製品につながる知的,創造的活動に頭を働かせるよりも,生産現場の経験等に基づき技術に改良を加えていくという面に重点があったともいえよう。

経済面で諸外国に追いつき,また,生産技術を中心とした技術で先進諸国の域に達し,外に目標がない模索の時代に入った我が国は,自らの力で新しいものを生み出して行くことが必要となっている。今後は,自らが世界に先駆けて全く新しい製品の基礎となる知識や技術を創造し,市場を創成することが必要となる。また,一番手を目指さないと,先進国間の競争の激化,途上国の追い上げのある世界において,我が国が継続的に発展していくことが困難となりつつあると考えられる。

新しい市場の創造は,全く新しい画期的な発見に基づく新しい製品・サービスの提供と,既にある知見や技術を新しい分野に応用することによりもたらされる。このため,新たな画期的知見を求めた努力が必要である。また,既にある知見や技術を新しい分野に応用することも重要である。これらの努力を促進するためには,誰でも利用できる知的ストックを拡充するとともに,既にある知見や技術を新しい分野へ応用する柔軟かつ独創的な発想が必要とされる。このため,知的ストック拡充のために努力し,追い上げ時代の我が国の科学技術振興に有効であった諸制度を見直し,新たな発想,視点を重視することが必要となる。また,追い上げ時代には協調型人材が有用であり,ともすれば独創性の発揮は制約されてきたと考えられるが,これからは,独創性の発揮を促す制度等の拡充やその運営の改善が重要となっている。

一世界の中の日本との認識一

戦後50年,冷戦構造のもとで安定した成長を遂げ,経済面で世界において大きな地位を得るに至った我が国が,その経済的地位を踏まえ,科学技術面においても積極的な役割を果たすべきとの認識が従来以上に高まっているといえる。また,東西の緊張緩和,ソ連邦の崩壊に伴う冷戦の終結,旧社会主義諸国の市場経済化,東アジア諸国の急速な経済成長等,新たな国際的環境を踏まえた対応が求められる。このような世界の中での我が国の地位を踏まえてその活動を考える視点が,従来以上に重要となっている。

(地球規模の諸問題への対応)

世界の経済社会の発展と並行して生じてきた地球規模の諸問題を,我々は避けて通ることは出来なくなってきている。また,これらの問題に真剣に対処することなく,豊かな生活を追及することは困難になってきている。

なかでも,近年,地球温暖化,オゾン層の破壊,砂漠化,熱帯林の減少,酸性雨,生物多様性の減少などのいわゆる地球環境問題への関心が世界的な高まりをみせている。地球環境問題は,被害・影響が一国のみにとどまらず,国境を越え,さらには,地球的な規模で広がる性質のものであることから,全世界的に対応すべき重大な課題となっている。このような地球環境問題への関心の高まりを背景として,1992年にはブラジルにおいて「環境と開発に関する国連会議」(UNCED)が開催され,21世紀に向けての国家と個人の行動原則である「環境と開発に関するリオ宣言」,同宣言の諸原則を実行するための行動計画である「アジェンダ21」等の採択,気候変動に関する国際連合枠組条約等への多数国による署名等の成果を得た。また,我が国においては「アジェンダ21」を踏まえ1993年末「『アジェンダ21』行動計画」が決定されている。

地球環境問題は,その重大性にもかかわらず,現象の解明さえなされていないものも多く,問題に対処するための研究が始められたばかりのものも多い。地球環境変化に関するデータの蓄積とともに,原因究明,現象解明の努力がなされているが,地球環境問題への対処方法を科学的に判断する知見の提供が科学技術に求められており,今後とも,研究推進のための努力を続けて行く必要がある。

また,問題解決のためには,石油代替エネルギーの開発利用,エネルギーの効率的利用技術の開発等の技術開発の推進も有効な対策であるが,同時に,効率や,快適さを重視し,大量の資源・エネルギーの消費に基礎をおいた経済活動,生活様式の改善も重視されなければならないと考えられる。これまでの科学技術が支えて来た画一化された製品の大量生産が,大量消費,大量廃棄につながり,地球環境問題を生じさせてきた面もあると考えられる。これは,これまで自然を操作すべき対象とみてきた科学技術が,その力による人間の活動領域の拡大により,ある面で地球の有限性の壁につきあたっているともいえる。

従って地球環境問題は,量的な拡大の追及のみではない,地球の有限性を十分に考慮した発想が科学技術においても必要とされていることを示している例といえる。これらの面も含め,地球環境の観点から望ましい経済活動,生活様式のあり方について,総合的な判断を行うために必要なデータを示すことも,また,科学技術に課せられた重大な使命といえよう。

さらに,地球環境問題と密接に関係する問題として世界的な人口の増大がある。開発途上国を中心とした急激な世界的な人口増加が今後も予想されているが,これは,資源・エネルギー,食糧の需給の逼迫化,二酸化炭素の排出増加等の問題をもたらすと考えられている。この面で,食糧の持続的,安定的な生産のための技術の研究開発,新エネルギー技術,省エネルギー技術の研究開発等の科学技術による対応が重要な役割を果たすことが期待される。

(安心して暮らせる潤いのある社会の構築)

一高齢化社会への対応一

我が国の人口構成は,出生率の低下と平均寿命の大幅な伸びによって,世界にも例のない速度で高齢者の割合を高めてきた。平均寿命は,1993年で男子76.3歳,女子82.5歳となり,世界で最高の水準となっている。また1990年の我が国総人口に占める65歳以上の人口の割合は12.1%であるが,2000年には17.0%,2020年には25.5%に達するものと予測されている (第1-3-3図) 。このような長寿社会が現実のものとなると,保健・医療,雇用等の面で様々な問題が生じてくることが予想される。このような時代においても活力ある社会を維持していくためには,経済,社会,生活のあらゆる面で広範な施策が講じられることが必要となるが,この面でも科学技術の貢献が強く期待されている。

第1-3-3図 我が国の人口構成の高齢化

-安心して暮らせる社会の探求-

我が国は,その地理的・気候的条件により,地震,津波,火山噴火,暴風,豪雨,豪雪等による災害を受けやすく,古くから,人的,物的被害を被ってきた。また,近年における大都市への人口や諸機能の集中などの社会経済環境の変化に伴い,災害の様相も複雑化,多様化してきている。これに対しこれまで各種の防災対策を講じ,被害の軽減,拡大防止において一定の成果をあげてきているが,依然として災害による被害は大きい。特に,1995年に入っでから発生した阪神・淡路大震災では5千名を越えるかけがえのない人命が失われ,国民の財産に甚大な被害が生じている。

今後とも,災害から人命・財産を守り,被害を軽減していくためには,国土全体のより高度な防災化を指向した努力を継続していくとともに,災害に強い生活習慣を工夫していくことが重要である。このような防災対策をより効果的に講ずるためには,災害の未然防止,災害が発生した場合における被害の拡大防止,災害復旧という一連の過程において,科学技術上の知見を十分活用することが重要である。

また,高齢化を迎える社会に対応し,国民が安心して暮らせるよう,健康の維持・増進,生活環境の向上,社会資本の充実等に科学技術を活用していくことも重要である。

-科学技術の役割-

これまでは科学技術の進歩が経済的豊かさと直結し,経済的豊かさが生活の豊かさにつながると考えられており,経済的豊かさの追及が,科学技術活動を進めるにあたっての大きな原動力となってきた。経済的な豊かさを引き続き確保していくことは今後とも重要な課題である。

しかし,経済的には豊かになったが,豊かさが必ずしも生活において実感されていないとの声に応えて,今後は,豊かさが生活において実感されるために科学技術が従来以上の貢献を行うべき時代であると考えられる。

科学技術庁科学技術政策研究所の行った「科学技術が人間・社会に及ぼす影響に関する調査」(1994年3月)によれば,今後の科学技術に対する国民の期待は,経済発展,効率向上,利便性向上もさることながら,地球環境問題の解決,エネルギー・資源の節約,安全性の向上,福祉の充実等に対する期待が大きくなっている (第1-3-4図) 。また,これらへの期待が大きいことは,これらの問題への対応の現状に対する不満,将来の不透明感が大きいことを示しているものとも考えられ,これらの不満,不透明感を軽減することが豊かさを実感するための大きな前提となると考えることもできよう。

第1-3-4図 科学技術への期待

(科学技術への信頼)

阪神・淡路大震災において現代的な構造物が崩壊したことは,国民一般の科学技術への信頼を大きく揺るがしたと考えられる。さらに,科学技術の知識が経済発展や国民生活の向上等への寄与というその本来の目的以外に利用され,国民の安全を脅かす事態も生じている。

科学技術が信頼され,科学技術の社会への貢献が一般に理解されることにより,科学技術が社会へ受け入れられ,また,科学技術への社会的支援が得られる。しかし,これまでの物質的豊かさを科学技術が支えてきた面が極めて大きいものの,科学技術の進歩に対する信頼感,肯定的な評価は,我が国においては,欧米に比較して必ずしも高くないと考えられる (第1-3-5図)

このような状況を踏まえ,科学技術への信頼感や評価に影響をもたらしていると考えられる要因に対応し,国民の科学技術への信頼を維持・向上させていくことが大きな課題となっていると考えられる。

第1-3-5図 科学技術の社会的影響に関する態度

次節からは,これらの課題を念頭に,今後の科学技術振興にあたっての望ましい視点について分析を進めていくこととする。


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