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第3部   我が国の科学技術政策の展開
第4章  研究活動の推進
第1節  重要研究開発分野の推進
3.  生活・社会の充実のための科学技術


社会の成熟化や高齢化が進み,また,国民の意識が,ゆとり,潤い,快適さといった精神的あるいは,心理的な豊がさを求めるものに変質してきている状況を踏まえ,人間が個人として,また,社会の一員として,快適で充実した生活を送るためには,健康を維持・増進するとともに,安全性を確保しつつ,生活環境や社会経済基盤を向上させる展開が従来以上に求められている。このような認識のもとに,科学技術会議第18号答申(1992年1月)において,生活・社会の充実のための科学技術の推進の重要性が指摘され,この答申を受けて,科学技術政策大綱(1992年4月閣議決定)が策定され,健康の維持・増進,生活環境の向上,社会経済基盤の整備,防災・安全対策の充実のための研究開発が関係省庁において推進されている。さらに科学技術会議政策委員会による「平成7年度科学技術振興に関する重点指針」においても,新たに「生活者の視点にも配慮」する必要性が指摘され,今後生活者の視点に立った科学技術の推進が重要となっている。


(1) 健康の維持・増進

ゆとりと豊かさを実感できる生活を実現していく上で,国民の健康の維持・増進を図ることは基本となるものである。このため,日常生活において,肉体及び精神の健康を維持・増進するための多様な技術の研究開発の推進,さらには,人休に有毒な各種物質の発生防止・処理技術,人体への影響を低減する技術等の研究開発を進めることが必要である。また,完治困難な疾病,社会問題化している疾病等の診断・治療法の開発,そのための薬剤の開発等,医療技術の高度化・総合化を図ることが必要である。その際,人間の尊厳や生命倫理に関する多方面からの議論を十分に踏まえることが重要である。

本分野については,「がん研究推進の基本方策に関する意見」(1983年7月科学技術会議),「脳・神経系科学技術推進の基本方策に関する意見」(1987年8月科学技術会議),「免疫系科学技術推進の基本方策について」(1987年8月科学技術会議),「エイズ問題総合対策大綱」(1987年2月エイズ対策関係閣僚会議決定,1992年3月改正),「創薬基礎科学研究の推進について」(1990年10月日本学術会議),「脳・神経機能解明促進のための基盤形成に関する総合的な研究開発の推進方策について」(1994年6月航空・電子等技術審議会)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。

がん研究については,1993年度をもって終了した「対がん10カ年総合戦略」(1983年6月 がん対策関係閣僚会議決定)によって,がん遺伝子の発見やウイルスによる発がんのメカニズムの解明,抗がん剤の開発などの成果が得られている。今後ともこれまでの研究成果を踏まえて,がんの本態解明とその成果の臨床・予防への応用を促進していく必要があるとの認識のもと,関係省庁においては,新たに「がん克服新10か年戦略」を策定することとし,1)がんの治療成績の向上,2)がん患者や家族の立場に立った医療の展開,3)がんに関する情報の全国への提供を目指し,具体的には,がんの転移メカニズムの解明,遺伝子を用いた正確な診断法の確立,重粒子線がん治療装置を用いた治療をはじめとする新しい治療方法の確立,コンピュータ・テクノロジー等の進歩を取り入れた先端的な診断機器の開発等を進めることとしている。また,免疫系の重要疾患であるエイズに関しては,1987年にエイズ対策関係閣僚会議により「エイズ問題総合対策刀網」が策定され,また,1992年3月に改正されており,同大綱に基づき,科学技術庁,文部省及び厚生省において研究が進められている。

また,我が国は世界にも例を見ない速度で長寿社会を迎えようとしているが,こうした状況を踏まえ1986年に閣議決定された「長寿社会対策大綱」,「長寿社会対応科学技術推進の基本方策に関する意見」(1986年科学技術会議)に基づき,長寿科学研究推進十か年事業等関係省庁における老化等の問題に関する研究開発が進められている。

この他,本分野の研究開発として,科学技術庁,厚生省,文部省,農林水産省,通商産業省等により,循環器系疾患その他難治性疾患の原因解明,予防・治療法の確立,医薬品開発に資する研究開発,心身障害,精神神経疾患の発生機序の解明,診断・治療法の開発,先端技術を用いた診断治療機器の研究開発,市場性が乏しく民間企業による研究開発の遅れている医薬品の開発,食物アレルギー発症機構の解明とその予防治療に関する研究開発等が推進されている。

1994年度に実施される健康の維持・増進分野の研究の主要なものを各省庁別にまとめると第3-4-14表のとおりである。

第3-4-14表 主な健康の維持・増進に関する研究課題(1994年度)


(2) 生活環境の向上

生活そのものの質的向上,人口構成の高齢化,出生率の低下等への対応については,個人,家庭,地域社会等の主体的な活動に委ねられる部分もあるが,科学技術面での対応を適切に図ることによりこれらの諸問題の解決に大きく寄与することが期待されている。

このため,個性を発揮し,文化的な生活を送ることを可能とする豊かな生活環境を整備するために,衣食住等の生活技術,精神的充足やコミュニティー形成を支援する技術等の研究開発を推進することが必要である。また,高齢者,身心障害者等が大きな不便を感じることなく生活し,また,積極的に社会参加することが可能になるように多様な要請にきめ細かく応える福祉技術の研究開発を推進することが必要である。

本分野については,「長寿社会対応科学技術推進の基本方策に関する意見」(1986年5月 科学技術会議)等が策定され,研究開発が積極的に推進されている。

本分野の研究開発は,科学技術庁,厚生省,農林水産省,通商産業省,運輸省,労働省等により推進されている。具体的には,高機能製品や機能的生活空間の開発に資する人間感覚計測応用技術の開発,超高速船等の近年の交通環境の変化に対応した安全対策の確立に関する調査研究,高齢者向け機器等各種福祉技術の研究開発,心身障害者のニーズに適合した生活支援システムの研究開発,高齢化を支える保健・医療に関する生活情報システムの構築と効果的な活用に関する研究等の研究開発が推進されているー。

1994年度に実施される生活環境の向上分野の研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-4-15表 のとおりである。

第3-4-15表 主な生活環境の向上に関する研究課題(1994年度)


(3) 社会経済基盤の整備

都市化の進展,交通・運輸や通信システムの発達等社会全休が高度化,複雑化していく中で,社会経済基盤の整備が内外から求められている。このため,総合的な国土の利用を図るための技術,公共的施設等の土木・建築に関する技術及び交通・輸送に係る研究開発,高度な情報通信システムの確立を目指した技術及びデータベースの構築に関する研究開発並びに廃棄物処理技術の研究開発を推進することが必要である。また,環境に対する負荷の低減に留意しつつ,消費者要請の多様化,労働力の不足等に対応するための生産活動に関する技術の研究開発を推進することが重要である。

本分野については,「建設技術研究開発の長期展望」(1988年4月建設省),「運輸省研究基本計画」(毎年度 運輸省),「21世紀を展望した運輸技術施策について」(1991年6月 運輸技術審議会 運輸省)「情報通信技術に関する研究開発指針」(1992年5月 1994年8月一部改定 郵政省),「公害の防止等に関する試験研究の重点強化及び総合的推進について」(毎年度 環境庁)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。

具体的な研究開発については,大深度地下空間開発技術,社会資本の維持更新・技能向上技術,省資源・省エネルギー型国土建設技術などの総合的な国土利用や建設技術等に関する研究開発が,通商産業省,建設省等により推進されている。また,超電導磁気浮上方式鉄道技術開発,超音速輸送機用推進システムなどの高度な交通・輸送システムの開発のための研究開発が通商産業省,運輸省等により推進されている。さらに,インテリジェント電波有効利用技術の研究開発などの高度な情報・通信システムの開発のための研究開発が郵政省等により推進されている。

1994年度に実施される主な社会経済基盤の整備に関する研究課題をまとめると 第3-4-16表 のとおりである。

第3-4-16表 主な社会経済基盤の整備に関する研究課題(1994年度)



(4) 防災・安全対策の充実

1) 防災科学技術

我が国はこれまで数多くの自然災害を経験し,これに対し各種の防災対策を講じてきた結果,被害の軽減,拡大防止において一定の成果を上げてきてはいるが,依然として災害による被害は大きい。今後とも,災害から人命・財産を守り,被害を軽減していくためには,国土全体のより高度な防災化を指向した努力を継続していくとともに,災害に強い生活習慣を工夫していくことが必要である。このような防災対策をより効果的に講ずるためには,災害の未然防止,災害が発生した場合における被害の拡大防止,災害復旧という一連の過程において,科学技術上の知見を十分活用することが重要である。

防災に関する研究開発は,災害から人命・財産を守るための効果的な対策を実現していくための科学技術体系を確立し対策に反映させることを目的としており,今後とも,防災上の要請を踏まえつつ,防災に関する研究開発を体系的かつ計画的に推進していく必要がある。このようなことから,社会環境の変化及び科学技術の発展を考慮しながら,長期的視野に立って,今後10年間程度を展望して我が国全体として取り組むべき研究開発の目標を明らかにした「防災に関する研究開発基本計画」(1981年7月丙閣総理大臣決定,1993年12月同改定)が策定されている。この基本計画においては,次の5つの視点が示されており,我が国における防災に関する研究開発は,この基本計画に基づき推進されている。

・研究開発の成果の実際の活用状況を踏まえ,多分野にわたる研究者の力を結集し,研究開発を多角的観点がら総合的に推進する
・基礎研究を充実し,災害の原因となる自然現象の解明,災害の発生メカニズムの解明を進めるとともに,災害や被害の多様性に柔軟に対応できるように,幅広い研究開発を推進する
・直接的な一次被害だけではなく二次的・間接的被害をも含めた総合的な対応(総合防災)が重要となる
・異常時の防災機能だけではなく,周囲の環境との調和をも考慮した研究開発を推進する
・国際貢献・協力を推進する

なお,防災に関する研究開発の中でも特に,地震予知研究に関しては,測地学審議会が1993年7月に建議した「第7次地震予知計画」の趣旨に沿い,地震予知推進本部(本部長:科学技術庁長官)を通じて,政府関係機関及び国立大学の緊密な連携協力の下に,観測・研究を推進しており,また,火山噴火予知研究に関しては,測地学審議会が1993年7月に建議した「第5次火山噴火予知計画」の趣旨に沿い,研究開発が進められている。

各省庁における防災科学技術研究は, 第3-4-17表 に示すとおりであり,その研究内容は地震予知,地震防災,火山噴火予知,雪氷災害対策,気象・水象災害対策,地球科学技術など多岐にわたり,かつ,宇宙開発技術,海洋開発技術等先端科学技術を駆使しているものもかなりある。このほか,1993年7月12日に発生し,大きな被害をもたらした「北海道南西沖地震」に対しては,1993年度科学技術振興調整費による緊急研究として「北海道南西沖地震に関する緊急研究」を実施している。この他,科学研究費補助金による緊急の研究として,1993年度に「平成5年北海道南西沖地震・津波とその被害に関する調査研究」,「平成5年8月豪雨による鹿児島災害の調査研究」等を実施した。また,科学技術庁防災科学技術研究所において首都圏の観測体制を強化するため,3000m級地震観測施設の建設など広域深部観測施設の整備を進める等,関係省庁においては,観測研究及び施設の整備を進めている。

第3-4-17表 主な防災科学技術分野(自然災害を中心とした)の研究課題 (1994年度)


国際協力については,国際協力事業団(JICA)を通じ,研修員の受入や専門家の派遣等の技術協力を実施している。研修では,1993年度において,気象災害,土砂災害,地震防災等の防災技術を修得させるための「防災科学技術」の他,地震工学研修,火山学・火山砂防工学研修,気象学研修等が実施された。

この他,天然資源の開発利用に関する日米会議,国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)/世界気象機関(WMO)台風委員会等の枠組みにおける協力を実施している。

さらに,国際協調行動により自然災害を軽減することを目的として1990年から国際防災の10年(IDNDR)が開始されたが,これに先立ち我が国の推進母体として,1989年5月に「国際防災の10年推進本部」(本部長 内閣総理大臣)が組織され,1989年11月,事業推進の基本方針が決定された。この趣旨に沿って1994年3月,地震予知と地震災害の軽減に関するワークショップが開催された。また,1994年5月には,国連主催による「国際防災の10年」世界会議(国連防災世界会議)が横浜で開催されたが,我が国はホスト国として「横浜戦略」の策定,資金的支援等,積極的な協力を行った。

2) 労働衛生,安全の確保等

自然現象に起因する災害やこれに伴う一般的な二次災害に関する研究開発以外にも,火災・危険物災害等に対応するための技術及び巨大構造物・システムの運用・保守管理技術の研究開発を推進することが重要である。

また,ハイテク化や情報化が進展した結果として,日常生活や職場環境において増大しつつある新たな危険に対処する技術の研究開発を推進することが必要である。

このような,火災・危険物災害対策技術,労働衛生・安全の確保等の研究開発が,通産省,労働省,建設省,自治省等により推進されており,関係省庁が1994年度に実施している主な研究開発課題は, 第3‐4-18表 のとおりである。

第3-4-18表 主な労働衛生,安全の確保等に関する分野の研究課題(1994年度)


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