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第3部   我が国の科学技術政策の展開
第4章  研究活動の推進
第1節  重要研究開発分野の推進
2.  人類の共存のための科学技術


人間活動の拡大に伴い,地球環境問題その他の地球の有限性に起因する問題が顕在化している。これらの問題を解決し,地球と調和しつつ,人類が共存し得る新たな手段を提供するため,1992年4月に閣議決定された科学技術政策大綱において,「地球・自然環境の保全」,「エネルギーの開発及び利用」,「資源の開発及びリサイクル」,「食料等の持続的生産」の各分野を,人類の共存のための科学技術と位置付け,その積極的な振興を図っている。


(1) 地球・自然環境の保全

近年,地球温暖化などの地球的規模での環境問題が顕在化しつつあり,国際的に協力してこれらの問題の解決を図っていくことが強くもとめられている。また,潤いのある生活環境を整備するため,地域において公害を防止するとともに自然環境を保全していくことが重要である。このため,地球的規模の環境問題への対応,公害の防止,自然環境の保全のための研究開発を推進していくことが必要である。

我が国としては,地球規模で深刻な影響を与える環境問題に対応するための施策に関し,関係行政機関の緊密な連絡を確保し,その効果的かつ総合的な推進を図るため,「地球環境保全に関する関係閣僚会議」を設置し,地球環境問題に積極的に取り組んでいる。

1989年10月に開催された「地球環境保全に関する関係閣僚会議」(1989年5月設置,1993年8月廃止,1993年12月閣議了解により再設置)において,「地球環境保全に関する調査研究,観測・監視及び技術開発の総合的推進について」の申合せが行われ,この申合せに基づき,以降毎年度,同会議において「地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定している。また,1990年10月に開催された同会議において二酸化炭素等の温室効果ガスの排出抑制目標等を定めた「地球温暖化防止行動計画」が決定された。

1993年11月,地球化時代に対応し,今日の環境問題に対し適切な対策を講じていくために「環境基本法」が公布,施行された。同法においては,環境の保全に関する科学技術の振興を図ること及びそのための試験研究の推進,研究開発の推進及びその成果の普及,研究者の養成等の措置を講じること及び地球埠境保全等に関する監視,観測等に係る国際的連携の確保等が定められている。また,同法では環境保全に関する総合的・長期的な施策の大綱等を定める政府全体の計画として,環境基本計画を,中央環境審議会の意見を聴いて,閣議の決定により定めることが定められている。1994年7月,同審議会企画政策部会において,「環境基本計画検討の中間とりまとめについて」がまとめられ,全国9ブロックにおけるヒアリング等による国民各階各層からの意見聴取が行われた。中間とりまとめでは,地球環境問題め解決に向けた十分な科学的知見の蓄積による解明の推進等が盛り込まれた。

国際的な地球環境問題についての取り組みは,1992年6月に,ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国連会議(UNCED:地球サミット)において,21世紀に向けての国家と個人の行動原則である「環境と開発に関するリオ宣言」,同宣言の諸原則を実行するための行動計画である「アジエンダ21」等の採択,気候変動に関する国際連合枠組条約等への多数国による署名等多くの成果が得られた。「環境と開発に関するリオ宣言」においては,科学的,技術的な知見の交換による科学的理解の促進,技術開発,移転等による協力を図るべきことが宣言されている。また,「アジエンダ21」においても地球環境の適切な管理には科学が不可欠であり,人間との関係も含め,システムとしての地球を理解するための研究,宇宙からの地球観測,海洋観測研究等による科学的理解の増進及び持続的開発のための科学的基礎の強化,環境変化の科学的評価手法の向上,途上国における科学的能力育成等の重要性が指摘されている。

我が国は,アジェンダ21を踏まえ,1993年12月28日,「『アジェンダ21』行動計画」(1993年12月24日,地球環境保全に関する関係閣僚会議決定)を国連に提出した。この行動計画では6つの重点項目のひとつとして,地球環境保全に関する観測・監視と調査研究の国際的連携の確保及びその実施が挙げられており,複雑な地球システムについて,科学的な調査研究,観測・監視を推進することによって,その基礎的な理解を深めるとともに,人間活動とそれに伴う地球環境の変化の相互影響に関する理解の増進を進めていくととしている。

また,1994年3月21日に発効した気候変動枠組条約に基づき,温室効果ガスの排出・吸収量の目録,科学的調査研究,観測・監視等地球温暖化防止のための政策及び措置等を内容とする国別報告書を条約事務局に対して送付した。この報告書によれば2000年度における一人当たりの二酸化炭素排出量については概ね1990年度実績を達成できる見通しであるのに対し,2000年度における二酸化炭素排出総量は1990年度実績を上回る見通しである。

また,人類は,地球生態系の一員として他の生物と共存している。

その一方で,人間活動による生物の生息環境の悪化等を背景として,野生生物の種の絶滅が過去にない速度で進行している。このような状況の下,地球上の多様な生物をその生息環境と共に保全し,生物資源の持続可能な利用を行うことを目的とした国際的な枠組みとして,「生物の多様性に関する条約」が採択され,我が国は1993年5月に本条約を受諾した(1993年12月発効,1994年8月現在,締約国83ケ国)。

これを受けて,関係省庁を中心として,生物の多様性の保全と持続可能な利用を図るための施策を講ずる等,積極的な取組みがなされている。

また,公害の防止については,[公害の防止等に関する試験研究の重点的強化及び総合的推進について」(毎年度 環境庁)等が策定され,研究開発が重点的に推進されている。特に,近年,微生物等の生物機能を用いて有害物質等を分解・濃縮する新たな環境修復技術(バイオリメディエーション)に関心が集まってきている。これまでの物理・化学的手法による浄化技術に加えトリクロロエチレン,PCB等の難分解性物質による汚染の浄化技術として期待されており,現在,関係省庁を中心に積極的な研究開発が行われている。

1994年度に実施される主な地球・自然環境の保全に関する保全技術の研究課題をまとめると 第3‐4‐10表 のとおりである。

第3‐4‐10表 主な地球・自然環境の保全に関する保全技術の研究課題(1994年 度)


(2) エネルギーの開発及び利用

エネルギー研究開発は,広範な分野を対象とし,長期にわたり膨大な研究開発のための資金及び人材を必要とするため,研究開発全般を計画的・重点的・効率的に推進することが重要である。このため,政府が中心となって推進するエネルギー研究開発について,1978年8月に「エネルギー研究開発に関する基本計画」が定められ,その着実な推進が図られてきている。また,1991年6月,地球環境問題の顕在化等近年のエネルギーを巡る情勢変化を踏まえ,現行の基本計画を抜本的に改定することを求めた「エネルギー研究開発基本計画に関する意見」が科学技術会議から内閣総理大臣に具申された。これに基づき,1991年7月,政府は新たな「エネルギー研究開発基本計画」を決定している。

1) 原子力開発利用の推進

原子力は,供給安定性,経済性の面のみならず,発電過程において二酸化炭素,窒素酸化物等を排出しないことから,地球環境負荷の面でも優れており,我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する主要なエネルギー源の一つとして着実に開発利用を進めることが必要である。

我が国の原子力開発利用は,原子力委員会の策定する原子力開発利用計画に沿って,総合的かつ計画的に推進されるが,1994年6月に7回目の改訂が行われ,21世紀を展望した原子力開発利用の在り方として「原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画」が策定された。

特に今回の長期計画では,初めての試みとして意見募集や「ご意見をきく会」の開催を通して,国内外の原子力関係者のみならず,国民の各界,各層からの意見が反映されている。

(1)原子力発電の現状及び将来見通し

我が国の商業用の原子力発電は,1994年8月現在,47基が運転中で,発電設備容量は3,947.6万kWであり,1992年度実績で総発電電力量(電気事業用)の28.2%を賄っている。

今後の原子力開発規模は,「原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画」では,2000年において約4,560万kW,2010年において約7,050万kWの設備容量を達成することを目標としている。また,電力供給における原子力発電の割合は今後とも着実に拡大し,商業用原子力発電の総発電電力量に占める割合は2000年で約33%,2010年で約42%を占めるものと見込まれる。

我が国の商業用原子力発電所の立地地点は,17サイト (47基)であり,今後,既存サイトの増設に加えて新規サイトの確保が重要であり,また,核燃料サイクル施設及びその関連施設の立地対策も重要な課題である。

これら原子力施設の立地促進については,国,事業者,地方公共団体による立地促進活動を引き続き実施していくとともに,立地円滑化の観点から地元と原子力施設が共生できるような地域振興や,マスメディアを通じた積極的な広報などの理解促進を進めている。

現在の我が国の主流の原子炉である軽水炉については,政府,電気事業者,原子力機器メーカー等が協力して,自主技術による軽水炉の信頼性,稼働率の向上及び従業貝の被ばく低減を目指し,技術開発を実施してきたところであるが,現在の軽水炉の技術水準に満足することなく,さらなる経済性,信頼性,安全性の向上を目指した軽水炉技術の高度化が進められている。

我が国の原子力開発利用の自主性,安定性を確保するという観点から,海外における調査探鉱等を引き続き実施し,天然ウラン資源の安定確保に努めていく。

原子力発電の燃料である濃縮ウランの安定確保は重要な課題であり,遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を積極的に推進している。動力炉・核燃料開発事業団の研究成果に基づき,青森県六ケ所村において民間濃縮工場が1992年3月より操業を開始している。さらに,今後のウラン濃縮の経済性の向上を図るためレーザー法ウラン濃縮技術の開発を進めている。

(2)核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

我が国は,原子力基本法に則り,厳に平和の目的に限り原子力利用を推進しているところであるが,核不拡散や原子力国際協力に係る政策を確立していくことなどを通じて,国際的な信頼を得ていくよう努力する必要がある。我が国としては,核不拡散条約(NPT)に基づく国際原子力機関(IAEA)の保障措置を厳格に受け,二国間原子力協力協定等に基づいて核不拡散措置を厳格に履行していくことが基本であり,再処理施設等のプルトニウム取扱施設及びウラン濃縮施設に対する保障措置に重点を置き,保障措置の技術開発を行っている。また,NPT体制から要求される義務に加えて,余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ,合理的かつ整合性ある計画の下でその透明性の確保に努めるとともに,核燃料リサイクル計画の透明性をより高めるための国際的な枠組みの具体化に向けて努力している。また,我が国と既に核燃料リサイクルに係る協力関係にある国以外の国との協力に関しては,関係国とも調整しつつ慎重に進めることとしている。

さらに,核不拡散関連の技術開発を積極的に進め,アクチニドのリサイクル技術の研究開発など核不拡散にも配慮した研究開発に取り組んでいる。

(3)安全の確保

原子力開発利用は,開発当初から,安全性の確保を大前提にして行われてきており,他の産業分野には見られない国による厳しい安全規制を始め,環境放射能調査や,万一をも考慮した予防保全対策及び防災対策を含めた各般の安全確保対策が講じられている。

安全規制の一層の充実及び原子力施設の安全性の向上に資するために,原子力安全委員会は,安全研究年次計画の策定等を行い,安全研究の総合的・計画的な推進を図っている。

現在は,原子力施設等,環境放射能及び高レベル放射性廃棄物等の3つの安全研究年次計画(1990年に策定)並びに低レベル放射性廃棄物安全研究年次計画(1994年に策定)に沿って,以下の原子力安全研究が推進されている。

原子力施設等の安全研究については,軽水炉の高度化,核燃料サイクル事業の本格化等の原子力開発利用の拡大と多様化に対応して,水炉,高速増殖炉,核燃料施設,放射性物質輸送,原子力施設の耐震,原子力施設等の確率論的安全評価等の分野について研究を行っている。

また,放射性廃棄物処分に関する安全研究についても,放射性廃棄物の処分計画に対応して研究が行われている。上記安全研究については,主に日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団及び国立試験研究機関等において実施されている。

さらに,環境放射能に関する安全研究については,環境・線量研究,生物影響研究,特定核種の内部被ばく研究,安全評価研究の分野について放射線医学総合研究所を中心に研究を行っている。

(4)国内外の理解の増進と情報の提供

原子力開発利用を円滑に進めていくためには,まず国,原子力事業者に対する国民の信頼感,安心感を得ることが重要である。

このため,安全確保や核不拡散の実績を着実に積み重ねることが第一であるが,国民参加型の意見交換の場等を通じた国民が納得できる行政運営に努めるとともに,国民が判断する際の基礎となる情報を適時的確に提供するよう努めることとしている。

また,核不拡散や原子力の安全確保に関する関心は国際的にも高く,我が国の原子力開発利用の円滑な推進にとって国際的な理解と信頼を得ることは重要である。そのため,我が国の原子力の平和利用や安全確保に関する情報などを積極的に広く海外に発信することが必要である。

(5)核燃料リサイクルの技術開発

我が国は,エネルギーセキュリティの確保を図るという観点及び放射性廃棄物の適切な処理処分という観点から,核燃料リサイクルの確立を進めている。その際,余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ,合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性を確保し進めていくことが重要である。

将来の核燃料リサイクル体系の中核として位置付けられる高速増殖炉の実用化に向け,当面は,プルトニウム利用体系に係る広範な技術の確立等を図るため,軽水炉及び新型転換炉における利用を進めることとしている。軽水炉におけるプルトニウム利用は,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料少数体規模実証計画が進められていた。今後,1990年代後半に加圧水型軽水炉(PWR)及び沸騰水型軽水炉(BWR)少数基,2000年頃までに10基程度,2000年から2010年までに10数基程度の規模に計画的かつ弾力的に拡大することとしている。また,新型転換炉の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団等において進められてきており,現在原型炉「ふげん」が順調に運転されており,実証炉については電気事業者の主体的役割の下に2000年代初頭の運転開始を目標に建設計画を進めている。

さらに,原子力発電所からの使用済燃料については,ウラン資源の有効利用等の観点から再処理して,プルトニウム及び回収ウランを再利用することを基本方針としており,現在,国内では動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場において再処理を行っており,1994年3月末までに累積で約720トンの再処理を行った。民間大型再処理工場については,青森県六ケ所村において年間の最大再処理能力800トンの工場の建設が進められている。

また,2000年過ぎに国内MOX燃料加工の事業化を図るため,電気事業者が中心となって加工事業体制を早急に確定する。

高速増殖炉については,これまでその開発は動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきており,実験炉「常陽」は現在まで順調に運転されている。原型炉「もんじゅ」も1994年4月には,臨界を達成した。1995年末の本格運転を目指し,引き続き性能試験を行っている。

実証炉については電気事業者の主休的役割の下に2000年代初頭の着工を目標に計画が進められている。

さらに,環境への負荷の低減,核不拡散性等に配慮した先進的な核燃料リサイクル技術について,長期的な研究開発に取り組むこととしている。

なお,高速炉燃料の再処理については,動力炉・核燃料開発事業団において,研究開発が進められている。

英仏に委託している再処理から回収されるプルトニウムの返還輸送については,1992年11月から1993年1月にかけて新しい日米原子力協力協定(1988年改定)に基づく初めての海上輸送が,動力炉・核燃料開発事業団により実施された。この輸送経験及び国内のプルトニウム需給状況を踏まえて,次回以降の計画が検討される。

初臨界を達成した高速増殖実験炉「もんじゅ」の中央制 御室(1994年4月)

(6)バックエンド対策

放射性廃棄物の処理処分および原子力施設廃止措置(バックエンド対策)を適切に実施するための方策の確立は整合性のある原子力発電体系という観点から残された最も重要な課題である。

原子力発電所等から発生する低レベル放射性廃棄物に関しては,発生量の低減化を図るとともに,減容化,固化等の処理を行っている。

さらに,青森県六ケ所村において,廃棄事業者により,1992年12月から,低レベル放射性固体廃棄物を浅地中処分する廃棄物埋設事業が行われている。

再処理工場から発生する高レベル放射性廃棄物は,安定な形態にガラス固化し30年から50年間程度冷却のため貯蔵した後,地下数百メートルより深い地層中に処分することを基本方針としている。1995年以降,海外再処理に伴い発生するガラス固化体が我が国に返還される予定であり,これを受け入れるガラス固化体の一時貯蔵施設については,1992年4月に,内閣総理大臣による事業許可が行われ,青森県六ケ所村において同施設の建設が行われており,1995年2月に竣工の予定である。また,高レベル放射性廃棄物処分事業の準備を進めるべく,1993年5月には高レベル事業推進準備会が発足し,活動している。一方,地層処分の研究開発等については,動力炉・核燃料開発事業団が中心となり,研究開発を推進している。この一環として地層処分技術を確立するための深地層試験等の研究開発と高レベル放射性廃棄物等の貯蔵を行う貯蔵工学センター計画の着実な推進を図っている。また,高レベル放射性廃棄物から有用金属等を分離し,さらに長寿命核種を短寿命核種又は非放射性核種に変換する核種分離(群分離)・消滅処理技術の開発も日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団等を中心に実施している。

原子力施設のうち原子炉の廃止措置に関する技術開発については,1981年度から,日本原子力研究所において動力試験炉(JPDR)をモデルとしてその研究開発に取り組んでいる。さらに,解体に伴い発生する低レベルのコンクリート廃棄物等の処分計画が進められている。

1986年度からは,JPDRの解体実地試験を行っており,現在,原子炉格納容器の除染・解体等を実施中である。また,(財)原子力発電技術機構においても1982年度から廃炉技術の確証試験を進めている。

(7)原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化

核融合の研究開発については,恒久的なエネルギー源としてその実現が世界的に期待されており,我が国では,原子力委員会の定める基本計画の下,核融合の研究開発を計画的かつ総合的に推進している。

1992年6月,原子力委員会は,第三段階核融合研究開発基本計画を策定し,現在,本計画に基づき,日本原子力研究所,文部省核融合科学研究所を始め大学,国立試験研究機関がその研究開発に携わっている。

核融合研究開発の進展状況については,日本原子力研究所において,トカマク型の臨界プラズマ試験装置(JT-60)による重水素を使用したプラズマ性能向上のための実験を実施しており,1993年3月にはプラズマの総合性能を示す核融合積(中心イオン温度,中心プラズマ密度及び閉じ込め時間の積)で従来の世界最高値を上まわる成果を得た。また,日,米,EU,口の4極の協力により推進している国際熱核融合実験炉(ITER)計画については,概念設計活動の成果を踏まえ,1992年7月には,ITER工学設計活動に関する協定が締結され,工学設計活動を積極的に推進している。文部省核融合科学研究所においては,ヘリカル方式による定常運転及び高温プラズマに関する閉じ込め物理の究明を目指し,超伝導コイルを用いた世界最大の大型ヘリカル装置計画を推進している。

放射線利用については,1993年6月に原子力委員会放射線利用専門部会が「放射線利用の新たな展開について」をとりまとめ,加速器を用いた先端的な研究開発の推進と普及促進などの方針が示された。放射線利用の現状としては,医療分野では,X線CT等による診断やX線,ガンマ線等を利用した悪性腫瘍の治療が実用化されており,現在,速中性子線,陽子線,重粒子線による治療の研究が行われている。特に,放射線医学総合研究所においては,速中性子線,陽子線のほか,がん細胞に対する治療効果が特に高い重粒子線によるがん治療の研究が行われており,これまで建設の進められてきた重粒子線がん治療装置が1994年3月に完成し,今後は本装置を用いた臨床試行が本格化する。また,大学においても,筑波大学陽子線医学利用研究センター等において陽子線等によるがん診断・治療の研究を行っている。農林水産業の分野では,品種改良,害虫防除,食品照射等に放射線が利用されている。工業分野では,非破壊検査,各種高分子材料の改質などに放射線が用いられている。研究利用では,1986年度から8年計画で日本原子力研究所がイオン照射研究施設を建設し,1991年度より一部の,また1993年度より全面的に運転が開始されている。また,1997年度の一部供用開始を目指し,1990年度から,日本原子力研究所と理化学研究所が大型放射光施設(SPring-8)を兵庫県播磨科学公園都市に整備を進めている。さらに,文部省高エネルギー物理学研究所においては,トリスタン入射蓄積リングを用いた大強度放射光実験設備による研究を行っている。

また,高温工学試験研究については,高温の熱供給を図り,将来のエネルギー供給の多様化の可能性を高める高温ガス炉技術の確立及び高温工学に関する先端的基礎研究を進めることを目的として,日本原子力研究所において高温工学試験研究炉(HTTR)の建設等を進めている。

原子力船の研究開発については,日本原子力研究所が中心となって原子力船「むつ」による研究開発等を進めている。原子力船「むつ」は1991年2月から,海洋環境下における振動・動揺・負荷変動等が原子炉に与える影響等に関する知見を得るため,概ね1年間実験航海等を実施し,1992年2月全ての実験を成功裡に終了した。この間,4回の航海により,東はハワイ諸島沖,南はフィジー諸島沖,北はカムチャッカ半島沖にまで航行し,通常海域,高温海域,荒海域等において所要のデータ等を取得した。現在,原子炉を原子炉室ごと一括して船体から撤去する「撤去隔離」方式により解役を進めており,原子炉補機室等の機器類撤去,保管建屋の建設等を実施している。また,舶用炉の改良研究については,原子力船「むつ」の成果を活かし,経済性,信頼性等の向上を目指した設計評価研究を進めている。

さらに,日本原子力研究所,大学,国立試験研究機関等において,炉物理・核物理に関する研究,放射線に関する生理学研究,燃料・材料の照射試験等の基礎研究を幅広く行っており,特に日本原子力研究所においては1993年4月に新たに先端基礎センターを設置し,基礎研究の一層の充実を図っている。また,基盤技術開発としては,原子力用材料技術,原子力用人工知能技術,原子力用レーザー技術,放射線リスク評価・低減化技術の4技術領域に加えて1994年4月がら新たに設置された放射線ビーム利用先端計測・分析技術,原子力用計算科学技術,原子力分野における人間の知的活動支援技術の計7技術領域について,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,理化学研究所及び国立試験研究機関において進めている。

(8)国際社会への主体的貢献

原子力の国際協力にあたっては,国際社会と協調して開発利用を推進していくことが必要であり,核不拡散と原子力平和利用の両立等の政策的課題に関する基本的スタンスを明確化するため,従来以上に二国間及び多国間の政策対話を実施していくことが重要である。我が国としては,各国との間で定期的に開催されている協議等を通じて政策対話を実施するとともに,国際会議等の場に積極的に参加し,我が国の考えを示してきている。また,我が国は今や技術開発に傾注する努力において主要な地位を占めている事実に鑑み,主体性を持った積極的協力を行っていく。旧ソ連,中・東欧諸国の原子力安全問題については,世界的に懸念されていることから,我が国としても運転中異常検知システムの設置による安全性向上,研修事業による運転員の資質向上等を通じ,支援を実施している。

2) 自然エネルギーの研究開発

エネルギーの安定供給の確保及び地球環境問題への対応の観点から,太陽エネルギー,地熱エネルギー,海洋エネルギー,風カエネルギー等の自然エネルギ一の利用の拡大を目指した研究開発を推進することが必要である。このため,新エネルギー・環境領域総合技術開発推進計画(ニューサンシャイン計画)をはじめ,海洋科学技術センター等で積極的な研究開発が進められている。

太陽エネルギーは,枯渇することのないエネルギー源であり,地球環境問題への対応においても重要な役割を果たしうるものである。一方,エネルギー密度が低く,自然条件によって出力が変動するという性質も有しており,このような太陽エネルギーの特性を考慮しつつ,研究開発を進めることが必要である。太陽エネルギーの具体的な利用用途としては,熱供給及び太陽光発電等の利用が考えられ,既に民生用給湯システムについては,技術開発を終了し,一般家庭に普及している。このため,産業用ソーラーシステム等の技術開発を積極的に推進するとともに,太陽光発電については,太陽電池・システムの一層の低コスト化,高効率化等を目指した研究開発を進めている。

地熱エネルギーは,資源量が豊富な純国産エネルギーであるとともに,非枯渇性であるという特徴をもっており,その利用の拡大に向けて研究開発を進めることが重要である。このため,地熱探査技術,掘削・採取技術,バイナリーサイクル発電の開発,高温岩体発電の要素技術の開発等を進めている。

海洋エネルギーは,エネルギー密度が低いことなどにより,現状ではほとんど利用されていないことから,経済性と信頼性の向上に向けての研究開発を進めることが重要である。このため,高効率披カエネルギー利用システム,海洋深層水高度利用システム,海洋温度差発電等についての研究開発が進められている。

風カエネルギーは,クリーンで再生可能なエネルギーである一方で,エネルギー密度が低く,変動が大きいことなどから,その実用化のためには,コストの低減,長期安定運転の確保,システム化等を図ることが重要である。欧米においては,既に電力供給源の一部を担うものとして導入・普及が進んでいるが,我が国においては,現在,中・小型機による集合型風力発電システムの研究開発が推進されている。また,風カエネルギーの利用拡大の観点から重要となっている大型風力発電システムの研究開発等が推進されている。

バイオマスエネルギーや生物の光合成機能を利用したエネルギー技術は,エネルギー密度,輸送,貯蔵等の面に解決すべき問題が多いが,環境への負荷が小さく,再生可能なエネルギー資源として期待されており,メタノール車における新技術の評価並びに導入効果・影響の予測に関する研究等が進められている。

3) 化石エネルギーの研究開発

一般に,化石燃料といわれているものは,石炭,石油,天然ガス,オイルシェール及びタールサンドで,炭化水素系の地下資源である。

産業革命以降,この化石燃料を利用することによって,人類は現在の高度な文明を築き上げてきたが,一方で,資源の有限性,地球環境問題などの課題に対応することが必要となってきている。このため,地球環境への影響に配慮しつつ,エネルギーの安定供給の確保の観点がら,化石エネルギーの研究開発を積極的に推進する必要がある。

我が国のエネルギーの中核である石油については,新規開発油田の中小規模化等探鉱・開発条件の悪化傾向等に対応し,石油開発技術の研究開発が推進されている。また,日本周辺における賦存状況の把握とその活用に係る研究開発も進められている。

石炭は,供給安定性に優れており,原子力と並ぶ石油代替エネルギーであるが,液体燃料と比較した場合,取扱いが不便な面があることなどから,石炭液化・ガス化技術等の研究開発が推進されている。これらの技術は,石炭の利用分野の多様化や利用の効率化を図り,石油に代替し得る燃料を製造する上での重要な技術であり,かつ,硫黄酸化物等の公害物質,粉塵等の排出の低減のためにも有効な技術である。

また,石炭は化石エネルギーの中でも燃焼時の単位エネルギー当たりの二酸化炭素の排出量が多いことから,地球環境問題に対応しながら石炭利用の円滑な拡大を図るためには,二酸化炭素等の環境への負荷低滅を図るための革新的な技術開発が必要である。このため,高効率石炭燃焼技術を中心とするクリーン・コール・テクノロジーの実用化開発及びより革新的な次世代クリーン・コール・テクノロジーの調査研究が推進されている。

天然ガスについても,他の化石エネルギーと比べて,燃焼時の二酸化炭素の排出が少ないなど,環境負荷が小さいといった特徴を持っていることから,今後とも重要なエネルギー源として,その開発利用に係る研究開発を進めることが重要である。このため,天然ガスの賦存状況の把握・採取に関する研究とともに,液体燃料等への形態変換により利用範囲の拡大を図ることを目指した天然ガスの液休燃料化等に関する研究が行われている。

4) エネルギー利用の効率化のための研究開発

エネルギー安定供給の確保,地球環境問題への対応及び有限なエネルギー資源の有効利用の観点から,エネルギーの供給から最終消費にいたる各段階において,その利用の効率化を図るための研究開発を推進するとともに,社会全体としての最適なエネルギーの利用を図るための研究開発を進めることが必要となっている。

このため,コージェネレーションの普及拡大に資するセラミックガスタービンや発電効率の高い燃料電池などのエネルギー転換効率の向上を目指した研究開発,送電系統の安定化や効率の向上が期待される超電導線材・超電導発電機等の超電導電力応用技術をはじめとしたエネルギー輸送技術,産業部門・民生部門・輸送部門・農林水産部門等でのエネルギー最終利用時における効率の向上を目指した研究開発といった各要素技術の研究開発が推進されている。

また,エネルギー利用効率の向上のためには,各要素技術の研究開発を続けていくとともに,エネルギーを有効に活用するシステムの確立を目指した研究開発を進める必要がある。

このため,工場や都市ビルから捨てられている廃熱,河川水等の未利用エネルギーの有効利用技術の研究開発,新型電池による負荷平準化等のエネルギー貯蔵技術の研究開発が推進されている。

また,熱と電力を同時に供給できるコジェネレーションシステム,高温から低温まで有効に熱を利用する熱の段階的利用システム,工場等の産業分野から排出される未利用の低温排.熱を高効率で回収し,都市部に低損失で長距離輸送し,民生分野等の需要地で需要形態に応じて種々の温度を供給する広域エネルギー利用ネットワークシステム,水力・太陽光・地熱・風力等の再生可能エネルギーを利用して,水素を製造し,輸送に適した形に転換した後,輸送・貯蔵し,発電・輸送用燃料・都市ガス等の広範な分野で利用する水素利用国際クリーンエネルギーシステムなどの研究開発が進められている。

1994年度に実施される主なエネルギーの開発及び利用に関する研究課題をまとめると 第3-4-11表 のとおりである。

第3-4-11表 主なエネルギーの開発及び利用に関する研究課題(1994年度)



(3) 資源の開発及びリサイクル

鉱物資源等の天然資源の有効利用のため,資源の探査,採取・処理,資源量の評価に基づく管理システム等の研究開発を推進するとともに,資源のリサイクルを目指し,廃棄物の再生利用,水資源の循環利用,リサイクルしやすい製品の生産等に関する研究開発を推進することが必要である。

このため,通商産業省においては,ニッケル,銅,コバルト,マンガン等の重要非鉄金属資源を含有するマンガン団塊を水深4,000〜6,000mの深海底から海水とともに吸い上げて採鉱するためのマンガン団塊採鉱システムの研究開発や,省エネルギー・環境低負荷型の新金属資源回収技術の構築を図るための次世代金属資源生産技術の研究開発が進められている。

また,農林水産省においては,環境保全の観点から,家畜排泄物の高度処理・利用技術の確立,土壌中の窒素等の物質循環の高度化に基づく生態系調和型農業システムの開発,食品製造業において大量に発生する廃棄物の有効利用を図るため,廃棄物中からの有用物質の分離・回収及びその再生利用に必要な技術開発を推進する食品製造における廃棄物再生利用技術開発事業,並びに木質資源の有効利用を図るため,木質廃棄物の再生利用技術の開発が進められている。さらに,建設省においては,建設副産物の発生抑制・再生利用技術の開発などが進められている。

1994年度に実施される主な資源の開発及びリサイクルに関する研究課題をまとめると 第3-4-12表 のとおりである。

第3-4-12表 主な資源の開発及びリサイクルに関する研究課題(1994年度)


(4) 食料等の持続的生産

食料等の安定的確保は世界各国の共通した重要課題である。また,今後世界人口の増加等を背景として国際的な食料需給が逼迫基調で推移するものと見られている。このような観点から,育種・増殖技術の開発,農用地・林地等の生産力の増強と施設の開発,栽培・飼養管理技術の高度化,貯蔵・流通システムの合理化,遺伝子資源の収集と保存,未・低利用資源の用途開発等に係る研究開発を推進し,食料をはじめとする農林水産物の安定的・持続的な生産システムを構築していくことが必要である。

このため,農林水産省においては,農林水産物の需要拡大,生産性向上,高品質生産,流通等を図るための総合的開発研究,バイオテクノロジーの先端技術の成果を応用した新しい育種・増殖システムの基盤技術を創出するハイグレード品種早期育成システムの開発,高機能バイオリアクター等を利用する高機能肥料生産の基盤技術の開発,農

林水産ジーンバンク事業等が積極的に推進されている。1994年度に実施される主な食料等の持続的生産に関する研究課題をまとめると 第3-4-13表 のとおりである。

第3-4-13表 主な食料等の持続的歪産に関する研究課題(1994年度)



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