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第2部   我が国の科学技術活動の状況
第1章  民間企業の研究開発の動向
2.  景気低迷下における民間企業の研究開発への取り組み


(民間企業の研究開発戦略)

前述のように,民間の研究開発支出は厳しい状況にあるが,研究開発の重要性はむしろ増加しているとの認識が多くなっている。こうした状況における民間企業の研究開発への取り組みを分析する。

「民間企業研究活動調査」によると,民間企業が研究開発戦略において重視している項目としては,「ニーズに対応した製品開発の強化」(81.O%),「本業部門など特定部門へ特化した研究開発分野の絞り込み(研究テーマの絞り込み)」(47.7%),「独創的な製品開発の強化」(47.3%),「研究期限,研究成果評価の重視などの研究開発管理の強化」(41.1%)が多数を占めている( 第2-1-16図 )。

この調査結果から,民間企業は抑制あるいは削減した研究予算の下で,効率性の向上,テーマの絞り込み等の努力を行いながら,「ニーズに対応した製品開発」,「独創的な製品開発」を中心として重点的に研究開発に取り組んでいると考えられる。

第2-1-16図 民間企業の重視する研究戦略(1994年度)

(研究開発の方向)

現在,研究開発戦略において重視する項目として,「ニーズに対応した製品開発の強化」(81.O%),「独創的な製品開発の強化」(47.3%)をあげる企業が多いのに対し,「基礎研究の強化」をあげる企業は8.4%と少ない( 第2-1-16図 )。

1989年度に実施した「民間企業研究活動調査」では,過去5年間及び今後5年間の研究開発を推進するにあたって重視する項目について調査を行っているので比較してみる( 第2-1-17図 )。

この調査結果によると,1989年時点で民間企業が今後5年間の研究開発の進め方として最も重視していたものは「既存事業分野でのニーズ指向の研究開発」(80.4%)であったが,「シーズ探索等の基礎研究」が29.9%,「異業種進出のための技術の研究開発」が33.0%とかなりの割合を占め,基礎研究の強化,研究の多角化も重視していたといえる。

第2-1-17図 民間企業が研究開発の進め方として重視する事 項(1989年度)

これを1994年度の調査結果と比べる。この2つの調査結果は調査方法(選択肢及び選択数)が異なることから,直接的に比較することは難しいが,特徴的なこととしては,

1) 1989年度調査において「シーズ探索等の基礎研究」を重視するとしていた企業が29.9%であったのに対し,1994年度調査においては「基礎研究の強化」を重視する企業が8.4%となっていること
2) 1989年度調査において「異業種進出のための技術の研究開発」を重視する企業が33.0%であったのに対し,1994年度調査においては「研究開発の多角化」を重視する企業が6.5%となっていること

があげられる。

1)については,民間企業が自ら実施する研究においては,基礎研究よりも製品開発をより重視しているということができるだろう。

2)については,1989年度調査にはなかった「独創的な製品開発の強化」との選択肢が1994年度調査に含まれているため,そちらに流れていることも考えられるが,選択数が2から3に増えていることを考慮すると減少といえる。これに,1994年度調査にしかない選択肢であるが「研究開発分野の絞り込み」が47.7%を占めていることを合わせて考えると,現在は「多角化」よりも「絞り込み」に方針が変化しているといえるだろう。

次に,民間企業の研究開発戦略の変化を性格別研究費の推移からみる( 第2-1-18図 , 第2-1-19図 )。

応用研究,開発研究については,最近10年間の推移をみるとよく似た傾向を示しており,1986年度と1987年度に伸び悩みが見られるものの,毎年ほぼ10〜15%程度の増加を続けてきた。一方,基礎研究については,1986年度にやや伸び悩みを示したものの,応用研究,開発研究に比べて安定した伸びを示し,応用研究,開発研究が伸び悩んだ1987年度,1991年度にも10%を超える高い伸びを示してきた。しかし,

第2-1-18図 会社等の性格別研究費の推移

第2-1-19図 会社等の性格別研究費の増減率の推移

これが,1992年度には一転して0.6%の減少に転じている。

次に民間企業の基礎・応用・開発の重要性に関しての最近(2〜3年の間)の意識の変化を「民間企業研究活動調査」によりみる。 第2-1-20図 は,研究性格別に「基礎研究」,「応用研究」,「開発研究」について,重要性の増減についての調査結果をポイントで表したものである。

「基礎研究」は「重要性が減少した」とする企業が「重要性が増加した」とする企業よりやや多く,「応用研究」は「重要性が増加した」とする企業が多い。「開発研究」は,多くの企業が重要性が「増加した」(26.3%)あるいは「やや増加した」(41.2%)と考えている。基礎研究を研究開発の川上側とし,開発研究を川下側とすると,研究開発の川下側に行くほど重要性が増加したという認識が多いといえる。

次に,研究者の研究の性格の変化から,研究の重点の推移についてみる。

第2-1-20図 民間企業の研究開発の重要性(性格別)につい ての意識の変化

第2-1-21図 民間企業の研究者の研究の性格の変化

第2-1-21図 は民間企業の先端科学技術研究者に3年前と現在の研究の性格を聞いたものである。3年前に基礎研究を行っていた研究者に着目すると,現在も基礎研究を行っている研究者は全体の16.5%であるのに対し,3年前は基礎研究を行っていたが現在は応用研究を行っている研究者は4.0%,開発研究を行っている研究者は9.2%となっており,研究開発以外の業務を行っている4.8%を合わせると,3年前に基礎研究を行っていた研究者の半分以上が基礎研究から離れている結果となっている。

一方,3年前も現在も開発研究を行っている研究者は,全体の31.5%であるのに対し,現在は基礎研究を行っている研究者は2.2%,応用研究を行っている研究者が2.2%となっており,むしろ研究開発以外の業務に異動した者(12.1%)の方が,基礎研究,応用研究に変わった者(合わせて4.4%)よりも多い結果となっている。

3年前に研究開発を実施していた先端科学技術研究者のうち,現在,研究開発の川下側に変化した研究者は全体の40.8%,変化のない研究者が全体の53.9%,研究開発の川上側に変化した研究者は全体の5.5%となっている。

この調査は,産学官の先端科学技術研究者を対象に行ったものであるため,研究者の比率が基礎研究よりに偏っている傾向があり,また,研究者の年齢の上昇に伴う業務の変化等も考慮する必要があるが,3年間という短い期間での変化として考えると,民間企業の先端科学技術研究者の研究の性格が3年前に比べて基礎研究に近いテーマから開発研究に近いテーマヘ変化している傾向があるといってよいだろう。

(研究開発体制の見直し)

民間の研究開発投資が抑制あるいは削減されるとともに,研究開発体制についても見直しの動きがみられている。

「民間企業研究活動調査」によれば,ここ2,3年の間に研究開発体制の「大幅な組織改革を行った」企業が38.6%,「今後,大幅な組織改革を行う予定である」とする企業が8.7%となっており,合計すると47.3%が大幅な組織改革に取り組んでいる。また,「具体的な計画はないが,組織改革の必要性は感じている」とする企業は44.1%となっており,ほとんどの企業が組織改革の必要性を認識しているということがいえる( 第2-1-22図 )。

先端科学技術研究者に対する調査からも,民間企業が開発研究の強化を図って組織再編を進めていることがうかがえる。

民間企業に所属する先端科学技術研究者のうち,自分が所属する組織で「過去3年以内に組織再編があった」とした者が58.8%,「組織再編が予定されている」とした者が16.5%となっており,合計すると85.3%に達する( 第2-1-23図 )。これらのうち,その目的を「開発研究の強化」とするのが53.1%であるのに対し,「応用研究の強化」とするのが4.3%,「基礎研究の強化」とするのが1.2%であり,研究現場の意識としては開発研究の強化のための組織再編との受け止め方が多いといえる( 第2-1-24図 )。

第2-1-22図 民間企業の研究開発組識の改革

第2-1-23図 民間企業の研究組織の再編状況

第2-1-24図 民間企業の研究組織の再編の目的

このような様々な動きは,民間企業の方針が基礎研究を強化していこうという数年前の方針から,基礎研究よりも応用・開発研究を重点的に実施していく方針に変化している傾向を示していると考えることができる。

(研究者数の推移)

最近10年間の民間企業の研究者数の推移についてみてみると,研究本務者は非常に安定して増加を続けてきている( 第2-1-25図 )。

特に,1985年度から1987年度にかけて従業者数(研究開発を実施している民間企業のみ)が大幅に減少(1985年度から1987年度の2年間で8.7%減)しているなかでも増加を続けた。また,1991年度から1993年度にかけても,研究費が減少するなかで,増加を続けている。

このことは,研究開発支出を減少させても,研究者数は研究開発活動全体を縮小する方向には向かっていないことを意味しており,研究開発支出の減少は一時的なものであるという認識が民間企業に多いことを示唆しているといえる。

しかしながら,一部に人員削減が研究現場でも進められていることは調査結果からもうかがうことができる。

第2-1-25図 研究開発を実施している民間企業の全従業者数 と研究者数の推移

第2-1-25図 にあるとおり,先端科学技術研究者の所属している民間企業について,過去3年間に「組織再編した」あるいは「現在組織再編を予定している」ところのうち,13.7%が研究開発全体の縮小を目的としたものであるとの結果がでている。

「民間企業研究活動調査」によれば,この2〜3年の間に研究者数が減少しているとする企業が全体の16.2%となっており,一部の企業では研究開発現場でもリストラが進んでいることがうかがえる。

一方,民間企業においては,5年後の研究者数の見通しについては増加方向であると考えているところが多く,「増加する」とした企業が15.1%,「やや増加する」とした企業が50.3%となっており,将来的には明るい見通しを持っているといえる( 第2-1-26図 )。

(研究の効率性の追求の動き)

「民間企業研究活動調査」において,民間企業の重視している研究開発戦略として,「研究期限,研究成果評価の重視など研究開発管理の強化」が41.1%とかなり大きな割合を占めたことが注目される( 第2-1-16図 )。

第2-1-26図 民間企業の5年後の研究者数の見通し

「先端科学技術研究者調査」によれば,民間企業においては研究成果の要求が以前(2〜3年前)と比べて厳しくなったという者が65.0%と高い割合を占めており,研究者に対する研究成果についての民間企業の要求がかなり厳しくなっているとの研究者の認識が示されている( 第2-1-27図 )。

要求される成果についてみると,「製品化,生産化」の58.3%に続き,「成果のあがらない研究の縮小」が39.7%,「成果の期限設定,期限の繰り上げ」が39.2%となっており,研究の効率化,短期間での成果の要求といった特徴が表れている( 第2-1-28図 )。

(民間企業の研究開発の現状と今後の方向)

第2-1-27図 民間企業の研究者に対する研究成果の要求

第2-1-28図 民間企業の研究者に要求される研究成果の内容

これまでの調査結果等から民間企業の研究開発の現状を以下のようにまとめることができる。

1) 民間企業の研究開発投資は,1992年度に調査開始以来初めて減少を記録し,1993年度も減少となっており,1994年度になっても引き続き厳しい状況にある。 この研究開発投資の低迷は,景気低迷による売上高,利益の減少の影響が大きい。
2) 研究開発の重要性についてはむしろ増加したと考える企業が多く,研究者数は全体としては依然として増加していることなどから考えると,民間企業は研究開発投資の減少を一時的なものととらえていると考えられる。
3) 研究開発をとりまく厳しい環境の中で,研究開発分野,テーマの絞り込み,研究期限の設定等研究開発管理の強化等により研究の効率性の向上を図っている。特に研究戦略としては,数年前の「基礎研究の強化」,「研究開発の多角化」をも重視する姿勢を変更し,「ニーズに対応した製品開発の強化」を一段と強化しつつ,「独創的な製品開発の強化」に取り組んでいる。

「民間企業研究活動調査」においては,研究開発体制について重点を置く項目を,3年前,現在,3年後について聞いているが,「自社のみで研究開発を進める」は,3年前が66.2%,現在が53.7%,3年後が44.O%と多数ではあるものの少なくなりつつある(第1部 第1一1-21表参照)。一方,「異業種他社との共同研究開発」は3年前が18.3%,現在が29.4%,3年後が37.O%と増加する方向にあり,将来的に重視されていると考えられる。また,「外国の企業,大学等との共同研究開発」も全体の中では依然として少ないものの3年前が5.7%,現在が8.0%,3年後が13.1%と増加方向にあることが注目される。

1989年度の「民間企業研究活動調査」における研究開発戦略として,「基礎研究の強化」,「研究開発の多角化」を重視していた企業が増加の方向にあったのが1994年度調査では減少していることと,「独創的な製品開発の強化」を重視する企業は現在も多数あることを合わせて考えると,1989年頃は基礎研究,異業種の研究分野への進出を自社研究でも行おうとしていたが,現在は研究テーマを絞り込み,独創的な技術の創出に必要な異業種分野の技術は共同研究によって効率的に研究開発を進めていることが推測できる( 第2-1-17図 )。

円高不況の時期に行った1987年度調査の民間企業が国際化に向けて重視する対応策と1994年度調査の民間企業が今後に向けて重要視している項目を比較してみると(注:選択肢が異なることと,選択数が異なることから単純に比較はできない),特徴的なことは1987年度調査においては「事業の多角化・異業種分野への進出」が2番目に高い割合(40.9%)を占めていたのに対し,1994年度調査においては大きく落ち込んでいること(18.4%)である。一方,「研究開発による独自の高付加価値製品の創出」は1987年度調査においても3番目に高い割合(38.7%)を占めていたが,1994年度調査において最も高い割合を占めていること(76.0%)である( 第2-1-29図 )。

1987年と1994年はいずれも,円高の影響により民間企業の国際競争力が懸念されており,このような観点から「研究開発による独自の高付加価値製品の創出」が一段と求められている状況と考えられる。こうした中で1987年においては「研究開発による独自の高付加価値製品の創出」のみならず,「事業の多角化,異業種分野への進出」を「自社のみの研究開発」を中心として進められていたと考えられる。一方,いわゆるバブル景気を経て,景気低迷が長期化した1994年においては,民間企業は研究開発の効率化を重点的に進めなければならない状況にあり,「独自の高付加価値製品」の創出のための研究開発が,自社研究あるいは系列内グループでの共同研究開発を重視しつつも,次第に「異業種他社との共同研究開発」を強化しつつ進められていると考えられる。

第2-1-29図 民間企業が重要視している企業戦略

現在のような厳しい企業環境の中で,民間企業の研究者が研究開発の推進のために有効な条件として考えていることはどのようなことであろうか( 第2-1-30図 )。「先端科学技術研究者調査」によると,民間企業の研究者が研究開発の推進のために有効な条件としてあげていることは,「共同研究など他機関との協力」が45.9%と最も多く,「組織内における人材流動性の促進」が42.9%とこれに続いている。これに対し,「研究費の増額」を有効な条件としてあげる人は29.4%となっており,かなり少ないといえる。

第2-1-30図 民間企業の研究者が研究開発の推進に有効と考える条件

民間企業の研究者が,現在の研究開発を取りまく厳しい環境の中で研究開発を一層進めていくために,他機関との協力を重視していることがこの調査結果にも表れている。

(国の施策への期待)

このように民間企業の研究開発を取りまく環境が厳しいなかで,国が果たしていくべき役割については,第1部においても示したところであるが,「民間企業研究活動調査」によれば,今後の企業の研究開発に関連して国に期待する施策として,「大学や国立試験研究機関等における基礎的,先導的な研究を積極的に推進すること」が49.4%と最も多く,「大学等における科学技術人材の育成を強化するごと」が39.5%と続いている。これに続いて,「宇宙開発,エネルギー研究開発等,長期的視点を要し,開発リスクの大きい研究開発に国が積極的に取り組むこと」(36.5%),「地球規模の問題解決に国が積極的に取り組むこと」(35.8%)と,民間の活動に対する支援よりも,国が自ら実施することに対する期待が多数を占めている( 第1部 第1-1-23表 参照)。

また,民間企業の先端科学技術研究者が,国の研究開発施策として期待しているものとして最も多いのが「基礎研究への投資拡大」で58.5%となっており,続いて「大学等での人材養成の強化」であり30.3%となっており,研究現場においても同様の傾向が表れている( 第2-1-31図 )。

第2-1-31図 民間企業の研究者の国に対する期待

一方,民間企業の活動に対する支援措置に対する期待としては,「民間企業研究活動調査」によれば,「研究開発に対する税制面での優遇策を充実させること」(31.6%)が最も多く,「国の研究開発プロジェクトへの企業の参加の促進及びこのための参加企業への知的所有権の帰属の扱いの改善等,共同研究を促進するための関連する諸規則,手続き等を改善すること」(27.4%),「企業が利用できる研究開発施設・設備を政府により整備・充実すること」(25.8%),「情報ネットワークの整備等科学技術情報流通の促進のための整備に取り組むこと」(25.3%)が続いており,研究開発活動に対する直接的な財政的支援である「企業の行う研究開発に対する補助金を充実させること」(14.4%)は9つの具体的な選択肢のうちで最も少ない結果となっている。

これらの結果は,民間企業が自ら実施することが困難な活動を国が積極的に推進していくことを期待しているのであり,厳しい環境においても,民間に対する直接的な支援よりも国が本来果たすべき役割を果たしていくことを求めているということができる。特に基礎研究は,民間企業が自ら実施することとしては,その重視の姿勢に後退がみられているところであり,このような状況のなかで,民間企業は,国が基礎研究を積極的に推進することを強く望んでいると考えられる。

また,民間企業は国と民間それぞれの役割を認識し,国が行うべきことは国が適切に実施することを期待しつつ,民間が自ら実施すべきことについては自らの努力により実施する,と考えているといえるだろう。


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