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第2部   我が国の科学技術活動の状況
第1章  民間企業の研究開発の動向
1.  民間企業の研究開発支出の伸び悩み


(会社等の使用研究費の減少)

1993年の総務庁統計局「科学技術研究調査報告」において, 1992年度の会社等の使用研究費は同調査開始以来初めての減少を記録した( 第2-1-1図 )。

第2-1-1図 会社等の使用研究費及び民間の負担研究費の推移

我が国の研究開発活動における民間の役割は非常に大きく,研究費総額の74.8%を会社等(会社及び特殊法人〔公団及び特殊会社等〕)が使用しており,負担については民間(会社,特殊法人〔公団及び特殊会社等〕,民営研究機関,私立大学)の負担が81.9%を占めている。

その民間の研究費は,使用研究費,負担研究費ともに,総務庁の調査開始(1953年調査(1952年度分)より調査を開始し,会社等についての調査は,1960年調査(1959年度分)よりほぼ現在の調査方法となる)以来,一貫して増加を続けてきており,これが調査開始以来初めて減少したということは,我が国の研究開発活動の中で注目すべきことといえる。

(研究者の研究予算に関する意識)

民間企業の研究費の減少は,研究者の研究予算に関する意識からもうかがうことができる。科学技術庁が実施した「先端科学技術研究者に対する調査」(以下,「先端科学技術研究者調査」という。)によると,民間企業に所属する研究者のうち3年前と比べて研究予算が「厳しくなった」と感じる者(41.8%)と「やや厳しくなった」と感じる者(31.8%)は合わせて73.6%と高い割合を占めている( 第2-1-2図 )。

民間の研究費の減少が現場の研究者に「研究費が厳しくなっている」という意識をもたせるような影響を与えていると考えることができる。

民間企業の研究本務者一人当たりの研究費(人件費を除く)を「科学技術研究調査報告」からみると,1990年度の1808万円から1992年度の1653万円となっており,2年間で8.5%の減少となっている。このデータもこの2〜3年で研究者レベルで研究費が厳しくなっていることを示していると考えられる。

第2-1-2図 3年前と比べた研究費の状況についての民間企 業の研究者の意識

(費目別の支出動向)

民間企業の研究費の支出動向を費目別にみる。「科学技術研究調査報告」においては,研究費を人件費,原材料費,有形固定資産購入費(土地・建物等,機械・器具・装置等)及びその他の経費(研究のために要した図書費,光熱水道費,旅費,通信費,消耗品費,印刷費等)の費目に分類して調査を行っているが,この費目に注目すると,1992年度の研究費の減少の直接的な要因は,有形固定資産購入費と原材料費の減少によるものとなっている( 第2-1-3図 )。

原材料費は1988年度から1990年度にかけて15%前後の高い伸び(1988年度14.4%増,1989年度15.5%増,1990年度13.7%増)を示したが,1991年度には2.3%増に止まり,1992年度には7.1%減と大きな減少に転じている。

一方,有形固定資産購入費は,1986年度から1988年度にかけて伸び悩んだ後,1989年度21.3%増,1990年度11.7%増と高い伸びを示したが,1991年度は6.3%増にとどまり,1992年度には18.4%減と大きな減少に転じている。

有形固定資産購入費の増について,その内訳をみると,機械・器具・装置等については,1988年度から1990年度にかけて10%を超える安定した伸び(1988年度15.7%増,1989年度11.8%増,1990年度10.5%増)を示した後,1991年度に減少に転じ(2.0%減),1992年度は16.2%減と大きく減少している( 第2-1-4図 )。

また,土地・建物等については,1989年度に66.4%と非常に高い伸びを示したが,1990年度には6.4%増に止まり,他の費目が減少ないし伸び悩みを示した1991年度に32.3%と高い伸びを示した後,1992年度に25.2%と大幅に減少していることが注目される。

第2-1-3図 会社等の使用研究費の費目別増減の推移

第2-1-4図 会社等の有形固定資産購入費の費目別増減の推移

1991年度について注目してみると,人件費,原材料費,その他の経費が1987年度以来の低い伸びにとどまっており,機械・器具・装置等については1986年度以来の減少に転じている。即ち,研究開発活動の現状を示すと考えられる原材料費と,比較的近い将来を目標とした設備投資と考えられる機械・器具・装置等に関する支出が低迷している状況からみると,土地・建物等への支出が30%を超える伸びを示したことはかなり特異な動きと考えられ,結果的には1991年度は土地・建物等への支出が他の費目の伸び悩みを補い,全体の研究費の伸びに貢献したものと考えられる。

即ち,1991年度の有形固定資産購入費は,特異な動きを示した土地・建物等を除くと既に少に転じており,1992年度の使用研究費の減少が先行的に表れていたといえる。

(研究開発の経営戦略上の位置付け)

このように,1992年度の研究開発支出が減少しているなかで,民間企業は経営戦略上における研究開発の重要性をどのように認識しているのだろうか。

科学技術庁が行った「民間企業の研究活動に関する調査」(以下,「民間企業研究活動調査」という。)によれば,経営戦略上の研究開発の相対的な重要性について,「増加した」とする企業が32.9%,「やや増加した」とする企業が36.O%となっており,「やや減少した」6.2%,「減少した」1.2%を大きく上回っている( 第2-1-5図 )。

また,現在の厳しい企業環境において,民間企業が企業戦略として重要視している方策についてみると,「研究開発による独自の高付加価値製品の創出」が76.0%と高い比率を占めており,経営戦略の中でも研究開発を重要視していることがうかがえる( 第2-1-6図 )。

このような民間企業の意識から,民間企業は景気の低迷により研究開発支出を抑制あるいは削減しているが,研究開発の重要性に対する認識はむしろ増加しており,企業戦略においても研究開発は依然として非常に大きな役割を担っていると考えられているといえる。

第2-1-5図 民間企業の経営戦略における研究開発の重要性 の変化

第2-1-6図 民間企業が重要視している企業戦略

研究開発の重視を研究費及び研究者数の企業活動全体に対する割合からみてみる。

売上高に対する研究費の比率の推移は,1985年度から1987年度にかけて(円高不況時)大きく増加した( 第2-1-7図 )。この時期には,研究費はその伸びは小さいものの増加を続けたの対し,売上高が大きく減少したため,売上高に対する研究費の比率が相対的に大きくなった。その後,その比率は1987年度から1989年度にかけてほぼ一定に推移した後,1989年度から1992年度までわずかずつではあるが増加してきている。1992年度もその比率は増加しているが,これは研究費は減少したものの,売上高の減少が大きいことによるものである。

売上高に対する研究費の比率は売上高の増減に大きく影響されるため,短期的な研究開発の重要性の推移の指標としては,必ずしも適当とは言えない面もあるが,1992年度における売上高に対する研究費の比率の増加は企業の研究開発重視の姿勢の表れとみることもできよう。

第2-1-7図 会社等の使用研究費の対売上高比の推移

また,研究者数についても,研究本務者の従業者数に占める割合は,研究開発を実施している民間企業において従業者数が大きく減少した1986年度から1987年度に大幅に増加しており,その後も順調に増加を続けた( 第2-1-8図 )。1992年度は従業者数が前年度から伸びない中で,研究者数は引き続き増加したことにより従業者数に占める割合が大きく増加している。

このような動きは,研究費の減少にもかかわらず,民間企業の多くは引き続き研究開発の重要性を認識していることの表れと考えることができる。

(景気低迷の研究費への影響)

第2-1-8図 会社等の研究者の全従業者数に占める割合の推移

このような研究開発支出の伸び悩みの理由について,民間企業の意識から探ってみる。

「民間企業研究活動調査」によると,この2,3年の間,研究開発支出(絶対額)が「減少」あるいは「ほぽ一定」となっている企業に対してその理由を聞いたところ,「利益の減少又は伸び悩み」が63.4%,「売上高の減少又は伸び悩み」が61.5%,「研究開発分野の絞り込み」が40.5%,「景気の先行き不透明感による研究開発経費の節減」が35.2%となっており,景気低迷の影響が大きいことがうかがえる( 第2-1-9図 )。

会社等の使用研究費及び負担研究費の増減率の推移から景気低迷との関連をみてみる( 第2-1-10図 )。

1970年代の半ばまでは非常に高い伸び率で研究費が拡大を続けており,景気低迷時(1962年度,1965年度,1971年度,1975年度)に伸び率が10%を下回ることはあったが,それ以外の年度はいずれも10%台後半から30%を超える高い伸び率を示している。

1970年代の後半から1980年代前半にかけては,20%を超えるような高い伸びは示していないものの10%台の安定した伸びを示しており,着実な増加を示した時期といえる。

第2-1-9図 民間企業の研究開発支出の伸び悩みの理由

第2-1-10図 会社等の使用研究費及び民間の負担研究費の増 減率の推移

1980年代後半以降は,1986年度と1987年度の円高不況時に2年連続で伸び率が10%を下回り,1988年度以降3年連続して10%を超える高い伸びを示したものの,1991年度には伸び率が鈍化し(使用研究費が前年度比5.1%増,負担研究費で前年度比4.8%増),1992年度には調査開始以来初めて減少(使用研究費が前年度比1.9%減,負担研究費で前年度比1.O%減)に転じた。

民間の研究費は,景気動向と密接に関連した動きを示しており,これまでの景気低迷時にも,前述のとおり,研究費の伸び率が鈍化し,景気回復とともに伸び率の回復がみられている( 第2-1-11図 )。

第2-1-11図 日本銀行短期経済観測調査「主要企業業況判断 D.l.」の推移

最近10年の景気動向と民間の負担研究費の動きをみると,1985年から1986年の景気後退の過程(1985年6月が景気の山,1986年11月が景気の谷)において民間の負担研究費も2年連続して前年度比10%を下回る低い伸び(1986年度3.4%増,1987年度6.7%増)に止まっており,その後の1991年4月に至る景気上昇の過程では3年連続して10%を上回る高い伸び(1988年度10.5%増,1989年度13.4%増,1990年度11.7%増)を示している。その後,景気は後退局面に入り,民間の負担研究費についても,1991年度には伸び悩みを示し(前年度比4.8%増),1992年度には初めての減少に転じている(前年度比1.0%減)。

「民間企業研究活動調査」(調査実施時期1994年6月)によれば,1993年度の研究費は前年度に比べて4.2%減となっている。また,1994年度の研究費(計画値)は0.5%と横這いとなっている( 第2-1-12図 )。

研究開発支出の増減の大きな要因となる設備投資の動向をみると,通商産業省の「主要産業の設備計画」(調査実施時期1994年3月調査)においては,1993年度の製造業の研究開発目的の設備投資(実績見込値)は前年度比23.9%滅となっており,1992年度の前年度比23.2%減に引き続き20%を超える大幅な減少となった( 第2-1-13図(1) )。一方,1994年度の研究開発目的の設備投資(計画値)は前年度比6.0%減となっており,依然として増加に転じていないものの減少幅は縮小される方向となっている。

第2-1-12図 民間企業の研究費の増減率の推移

第2-1-13図 民間企業の研究開発目的の設備投資の推移

また,「民間企業研究活動調査」においては,研究開発目的の設備投資(実績値)は,1992年度の前年度比9.5%減に引き続き,1993年度も前年度比23.6%減′と低迷しており,1994年度の計画値では前年度比で2.2%減と依然として増加には転じてはいないが減少幅は縮小している( 第2-1-13図(2) )。

それでは,今後の研究開発投資の見通しについての民間企業の意識はどうなっているだろうか。「民間企業研究活動調査」によれば,5年後の研究開発支出(実質額)の見通しについて,「やや増加する」と考えている企業が55.9%と圧倒的に多く,「増加する」(16.4%)と合わせて72.3%を占めている。一方,「減少する」(2.3%),「やや減少する」(5.2%)とした企業は合わせて7.5%と非常に少なくなっている( 第2-1-14図 )。

第2-1-14図 民間企業の5年後の研究開発支出の見通し

これらのことは,民間企業がこの2〜3年の間,研究開発支出を減少させあるいは伸びを抑制したのは,景気低迷に伴う「売上高の減少又は伸び悩み」あるいは「利益の減少又は伸び悩み」等によるものであり,やや長い目でみれば研究開発支出は再び実質的な増加に転じると民間企業が考えていることを示している。

このような認識は,1992年度の民間企業の研究費が調査開始以来初めて減少したことに対する民間企業の評価からもうかがうことができる。

「民間企業研究活動調査」によれば,1992年度の民間企業の研究開発支出の減少について,「売上高,利益が減少したので,ある程度減少するのは仕方がない」と評価する企業が61.0%で最も多くなっており,「一時的な減少であり,問題としていない」と評価する企業(14.2%)と合わせると75.2%の企業が「仕方がない」あるいは「問題としていない」と評価している( 第2-1-15図 )。

第2-1-15図 1992年度の民間研究開発支出の減少についての 評価

しかしながら,その一方で,「企業の研究開発力を低下させるおそれがある」とする企業も20.6%とかなりの割合を占めている。

「民間企業研究活動調査」によれば,この厳しい企業環境においても,この2〜3年間に研究開発支出が実質増加しているとする企業は33.4%となっており,これらの企業の中でも,1992年度の研究開発支出の減少を「売上高,利益が減少したので,ある程度減少するのは仕方がない」と評価するところが57.5%と最も多く,研究費が「一定」あるいは「減少している」企業と同様の傾向がみられる。すなわち,研究開発の重要性についての基本的な意識に相違はなくとも,研究開発の重要性をより強く認識して自らの研究費を増加してきている企業とそうでない企業との間で,研究開発への取り組みに違いが現れてきているとみることができる。


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