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第1部   いま,世界の中で
第2章  主要国の科学技術政策動向(各国編)
第2節  欧州
4.  欧州連合


欧州では,欧州連合(EU)により,欧州産業の科学技術基盤を強化し,国際競争力の強化を図ること等を目的とした研究・技術開発が行われて来たが,1993年に発効した欧州連合条約(マーストリヒト条約)においても,この路線は継続され,第4次フレームワーク計画として研究・技術開発が強化されつつある。以下では,EUの科学技術活動の位置付けと科学技術政策の最近の動向をみていくこととする。


(1) EUの活動における科学技術の位置付け

欧州では1980年代,世界市場,特に情報,通信,ライフサイエンス,材料といったハイテク分野で米国や日本といった競争相手に対して守勢に回っているとの懸念が広まった。さらに,技術革新のサイクルや製品の寿命の短縮,研究開発費の上昇,ハイテク分野間の関係の緊密化という状況において,個々の国家に基礎を置く伝統的なシステムによっては,欧州経済の競争力を維持することはもはや不可能であり,欧州全体を通じた研究・技術開発政策の確立が必要であるとの認識が広まった。

このような状況の下,1987年に発効したローマ条約を改正する単一欧州議定書において,欧州産業の科学技術基盤を強化し国際競争力の強化を図ること等を目的とした,研究・技術開発に関する規定が新たに盛り込まれ,研究・技術開発政策が,経済,社会及び競争政策と同等の位置付けを持つECの活動として公式に認知されたといえる。


脚注:IECUは,1985年において182円,1990年において184円,1991年において167円,1992年において163円,1993年において130円である。(工MF為替レート)

また,1993年に発効した欧州連合条約(マーストリヒト条約)においても,EUの研究・技術開発の目的は,欧州産業の科学技術基盤を強化し国際競争力の強化を図ることであり,この目的を達成するため以下の4分野の活動を行うこと等が規定された。

1) 企業,研究センター及び大学の協力による研究・技術開発及び実証プログラムの実施
2) EUの研究・技術開発及び実証における第三国及び国際機関との協力
3) 研究・技術開発及び実証における活動成果の普及及び最適化
4) 研究者の養成及び流動化

さらに,同条約は,研究・技術開発について,EU及びその加盟国が加盟各国の政策とEUの政策との調和を図るため総合調整を行うこと,及び,EU加盟国との緊密な協力の下,欧州委員会が総合調整においてイニシアティブを発揮することを規定している。また,EUによる全ての研究・技術開発活動に関する計画である多年度のフレームワーク計画についても規定している。

なお,同条約は,EUの行動原則として補完性原則を規定しており,これは,EUはその加盟国の行動では目的を十分達成できず,EUにおいて十分達成できる場合のみ行動するというものであり,研究・技術開発についても,この原則が適用されている。さらに同条約は,EUの行う活動の例として,

1) 共同欧州トーラス型核融合実験施設(JET)等大規模施設において,また共同研究の形態をとって行われる大規模な計画における活動
2) 多くの産業部門に恩恵を与え,かつ長期にわたる投資や協力を要する優先プロジェクト
3) 統一市場の形成を目指した活動
4) 標準,基準,規制に関する支援活動や統合ネットワークの開発

等を掲げている。

1994,3,欧州科学技術会議設置


(2) EUの科学技術行政体制

EUの機構には,理事会,欧州委員会,欧州議会等があるが,このうち各国の行政機関に概ね対応する組織となる欧州委員は,その下に23の総局を有しており,このうち科学技術に深く関係するものとしては,第12総局及び第13総局が挙げられる。第12総局は,戦略及び関連施策,第三国及び国際機関との協力,環境,ライフサイエンス及び技術,エネルギー,人的資源及びその流動化等を所管しており,第13市場,電気通信政策等を所管しているー,また,EUはプログラムの実施に際して,専門家の助言を取り入れるため各種諮問委員会を設置している。現在設置されている諮問委員会としては,各国の科学技術政策担当者からなりEUとその加盟諸国の研究政策について調整を行う科学技術研究委員会(CREST),産業界の研究開発専門家からなり産業研究及び開発について欧州委員会に対して助言を行う産業研究及び開発諮問委員会(IRDAC)等がある。さらに最近では,欧州委員会の科学技術政策の立案・実施に対し助言するため,欧州の研究界を代表する百名がらなる欧州科学技術会議が設置された。


(3) EUの科学技術政策

(EUの科学技術政策の背景)

欧州の科学技術の状況について,当時のEC委員会が1988年に発表した「欧州の科学技術状況に関する第一次報告書」は,欧州の研究開発投資,技術革新による産業競争力の改善等の努力は,欧州の各地域の間で均衡がとれておらず,断片的であり,また,米国や日本に比較して不十分であるとしたうえで,欧州の直面する課題として,

1) 自らの技術的,経済的選択肢の開発,追求能力の向上
2) 将来重要となる分野における国際競争力の強化
3) より質の高い生活への社会的ニーズの充足

の3点を指摘しているさらに,欧州の活動が最大限の成果を上げるにあたっての重点として,

1) 科学技術が欧州社会全てのレベルで理解を得ること
2) 総合調整の充実,遅れている国・地域の技術的発展基盤の確保による不均衡,断片化の克服
3) 社会に対する技術の普及の活発化
4) 産業における投資の促進,産業間の技術波及の円滑化
5) 産学協力の促進
6) EUと協力相手国との相互の利益にかなう分野の国際協力の促進

を指摘している。

1992年に委員会が発表した報告書「マーストリヒト後における研究」は,産業競争力という観点から,欧州の科学技術の状況を各種指標を用いて分析し,欧州の研究・技術開発に対する人的・資金的投資が米国及び日本に及ばないこと,また,特許取得,技術貿易,製造業貿易収支,ハイテク製品貿易収支・輸出シェアの動向から,欧州の技術力の相対的低下を指摘している。さらに,欧州企業が,研究・技術開発を発明へ,発明を市場占有率や利益へ結び付ける能力に欠けていることが特に問題であるとも指摘している。

1993年6月の欧州理事会(EU首脳会議)では,欧州経済が深刻な不況に直面し,失業問題が各国共通の課題となっていることを受け,経済成長,競争及び失業に関する問題が取り上げられた。ここで,産業競争力を強化し,雇用を創出するための中長期的手段の一つとして研究開発分野における協力の強化を図ることの重要性が指摘された。

1993年12月の欧州理事会(EU首脳会議)において発表された「経済成長,競争力及び雇用に関する白書:21世紀に向けての挑戦と道」(以下本節で「白書」という。)では,研究・技術開発は経済成長,競争力の強化,雇用の創出に貢献するものであるとの認識を示した上で,欧州の研究・技術開発の現状の評価し,

1) 研究・技術開発に対する投資水準が低く,科学技術系人材が相対的に少ないこと
2) 研究・技術開発に関し,加盟国の研究政策間,加盟国内の民生と国防研究間などの調整が十分なされていないこと
3) 研究開発の成果を商業的な成功に結び付ける能力に欠けていること

という3つの問題点を指摘している。

(研究開発の方向)

これらの問題点を解決するため,白書では,研究開発の新たな方向として,競争力及び経済成長の回復への対応,並びに,アジア,旧東欧等の地域に着目した市場の地理的拡大及び新たな社会的ニーズへの対応の2点が重要であるとしている。

競争力及び経済成長の回復への対応については,

1) 大学から民間企業へ,民間企業から他の民間企業へ,国防関連部門から民生関連部門へといった技術移転のためのメカニズムをEU加盟国及びEUで構築すること等により,研究開発の成果の利用を促進する。この際,ハイテク部門における小規模企業に特に焦点を当てる
2) EU加盟国の公的研究機関間において研究活動,戦略及びプログラムを調整する
3) EUプロジェクト,コンソーシアム等により民間企業間の戦略を調整する
4) 適切な規制及び税制政策により民間企業の研究開発投資を促進し,研究費について,対国内総生産比3%を達成する

ことが必要としている。

また,市場の地理的拡大及び新たな社会ニーズへの対応については,

1) 太平洋地域の新興産業諸国や中東欧諸国との協力を強化する
2) 開発途上国への効率的な技術移転メカニズムを構築する
3) 環境,健康,メディアといった経済成長に貢献する新たなニーズヘ対応する

ことが必要としている。

さらに,白書は,各種問題を解決するための具体的施策として,EUで採用すべきものとして,

1) 第4次フレームワーク計画による,研究コンソーシアム等の加盟各国の努力とユーレカ計画(EUREKA)等の産業研究政策との間の調整メカニズムの構築,多くの産業部門に波及効果の大きい特定の重要技術への集中,EUの研究成果の普及に対する支援,特に中小企業を対象とするプログラムへのアクセス及び参加のためのメカニズムの構築
2) EU加盟諸国の研究機関や企業との関連を踏まえた新たな大規模研究プロジェクトの策定
3) 現在固定されている競争前段階の研究プロジェクトへの助成比率や助成手段をその経済的社会的重要性を考慮して柔軟に設定できるようにする等のEUの研究活動に関する規則の変更の検討
4) EUの研究開発政策,対外政策,産業政策の相互の調整

等を挙げている。

(フレームワーク計画)

フレームワーク計画は,マーストリヒト条約においてEUによる全ての研究・技術開発活動を規定するものとされており,活動の目的及び優先順位を設定するとともに,5年間にわたる予算の大枠を示すものである。

フレームワーク計画は,1984年以降,第1次(1984年〜1987年:37億ECU),第2次(1987年〜1991年:54億ECU),第3次(1990年〜1994年:66億ECU)と進められてきている。1994年4月には,第4次(1994年〜1998年:123億ECU)が決定されたが,その予算総額は,これまでフレームワーク計画の枠外で行われてきた活動を第4次計画では取り込んでいることなどから直接的な比較はできないものの,第3次計画と比較して大幅に増加している。

第4次フレームワーク計画は,マーストリヒト条約に規定されている4分野の活動に分かれており,具体的には,第1次活動(94.3億ECU)は,企業,研究センター及び大学の協力による研究・技術開発及び実証に関するもの,第2次活動(5.4億ECU)は,研究・技術開発及び実証における第三国及び国際機関との協力に関するもの,第3次活動(3.3億ECU)は,研究・技術開発及び実証による活動成果の普及及び最適化に関するもの,第4次活動(7.4億ECU)は,研究者の養成及び流動化に関するものとなっている( 第1-2-EU1表 )。

EUの研究開発プログラムは,基礎研究,応用研究,技術開発,実証プロジェクトを含んでいるが,これら全てはマーストリヒト条約の規定に反することとなる競争への悪影響を排除するため,競争前段階であり,かつ,多分野に波及効果を与えるものに限定されることとなっている。これらは,EUが研究企画を行い,原則として研究費の50%を負担するものである。同プログラムでは,EU加盟国のうち少なくとも異なる2カ国からの参加があることが要件とされており,EU加盟国に拠点を置く民間企業,大学,公私立の研究機関が参加している。

第1-2-EU1表 フレームワーク計画の研究開発予算

EUの研究開発プログラムには,契約研究,研究活動の調整,EU独自の研究,という3つの形態がある。

契約研究は,なかでもその柱となるものであり,基礎研究のように投資利益の回収までに長い期間を要するリスクの高い研究を対象とし,EUが原則として研究費の50%を負担するという最も厚い研究支援の形態である。また,フレームワーク計画の資金の約80%が契約研究に費やされており,大規模なプログラムや,エスプリ計画(ESPRIT:欧州情報技術研究開発戦略計画),レース計画(RACE:欧州先端通信技術研究開発計画),ブライト・ユーラム計画(BRITE/EURAM:欧州産業技術基礎/欧州先端材料研究)はこの形態により実施されている。

-エスプリ計画(ESPRIT)-

エスプリ計画は,情報技術への投資額やリスクの増大及び市場のグローバル化に対して,一企業で対応することは,もはや不可能となったとの認識の下,

1) 欧州の情報技術関連企業が世界市場において,競争力を保持していくために必要な基礎技術の提供
2) 情報技術分野における欧州産業,研究センター及び大学間の協力
3) 国際的に受容される情報技術に関する標準の開発

を目的として,1984年に創設された情報技術分野のプログラムである。

本計画においては,1) マイクロエレクトロニクス,2) 情報処理システム及びソフトウェア,3) 先端オフィスオートメーション及びホームオートメーションシステム,4) コンピュータ統合製造技術,5)基礎研究等の分野の研究が実施されている。

-レース計画(RACE)

レース計画は,広帯域を有し多量のデータ伝送が可能な統合広帯域通信ネットワーク(IBC)を導入するためのプログラムであり,

1) EUの電気通信産業の振興
2) 欧州ネットワークの通信業者が最高の環境下で競争することを可能とすること
3) 1995年までに商業的に成立するIBCを導入すること

等を目的としている。本計画においては,1) 統合広帯域通信,2)インテリジェント・ネットワーク/フレキシブル・通信資源管理,3)移動体通信及びパーソナル通信,4) 画像及びデータ通信等の分野の研究開発が実施されている。

-ブライト・ユーラム計画(BRITE/EURAM)-

ブライト・ユーラム計画は,新技術及び新材料の伝統産業分野への応用促進を目的として1985年に創設されたブライト計画と,新材料の開発を目的として1986年に創設されたユーラム計画が1989年に統合されたものであり,欧州製造業の技術水準の向上と,これによる世界市場における競争力強化を目的としている。ブライト・ユーラム計画においては,1) 先端材料技術,2) 設計手法及び品質保証,3) 製造技術の応用,4) 製造プロセス技術等の分野の研究開発が実施されている。

研究活動の調整は,各加盟国の研究計画等の相互の調整の支援を目的とし,研究費については支援を行わず,会議費や旅費といった管理費について支援を行うものである。

また,EU独自の研究については,域内4地域(イスプラ(イタリア),ゼール(ベルギー),ペッテン(オランダ),カールスルーエ(ドイツ))に設置された8つの共同研究センター(JRC)が重要な役割を果たしている。共同研究センターにおいては,長年にわたり,原子力研究に重点が置かれていたが,近年は,安全,環境保護,リモートセンシングといった分野に重点がシフトしている。

研究者の養成及び流動化に関しては,欧州における科学技術系人材の拡充を目的として,博士課程在籍者,博士課程修了者,研究者に対しフェローシップを交付し,EU各国等での研究の機会を与えるとともに,研究集会の開催に対する助成等の活動を行っている。

(欧州産業の競争力強化のための域内協力)

EUのフレームワーク計画は,欧州産業の競争力強化を念頭に置いたものであるが,EUによる取り組みのほかに,欧州における取り組みが見られ,その代表的なものとしてユーレカ計画(EUREKA:欧州研究協力機関・活動)がある。

ユーレカ計画は,欧州産業の生産性向上,競争力強化等を目的として,1985年にフランスのイニシアティブにより創設されたものであり,EU加盟12カ国,欧州委員会,EFTA加盟6カ国及びトルコの計20カ国が参加している。フレームワーク計画が競争前段階の研究や基礎研究に重点を置いているのに対し,ユーレカ計画は,より市場に近いものに重点を置き,参加する民間企業,大学,研究機関の提案に基づき,ハイテク製品,プロセス等に関する研究開発が行われている。なお,EUはユーレカ計画に対し資金提供を行っているが,本計画の参加各国は,資金提供を行うか否か,また行う場合はその程度について独自に判断することとなっている。

(その他の欧州協力の枠組み)

科学技術分野における欧州全体の取り組みとしては,欧州科学技術研究協力(COST)があり,EU加盟国に加え,中・東欧諸国の一部の国を含めたその他の欧州諸国もその協力に加わり,情報,通信,運輸,海洋,材料等の広範な分野における研究協力が行われている。

また,素粒子物理学分野における欧州原子核研究機関(CERN),分子生物学分野における欧州分子生物学研究所,大型の放射光施設である欧州放射光施設(ESRF)等があるほか,宇宙分野においては欧州宇宙機関(ESA)があり,宇宙活動における欧州の自立のための活動を推進している。


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