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第1部   いま,世界の中で
第1章  転換期の世界における科学技術政策
第3節  科学技術をめぐる我が国の課題
1.  科学技術による新たな発展の希求


冷戦の終結は全面的な戦争の危機を解消し,世界がより自由で豊かなものとなるための基礎的な条件を提供しているが,冷戦終結後の世界の主要先進国においては,自国の経済成長,競争力及び雇用の確保が大きな関心事項になっている。また,これらの関心は,ともすれば短期的な視点から保護主義的な動きに結び付く恐れがあり,相互依存関係を深めている世界経済の発展にとっての不安材料ともなりかねない。他方,GATTウルグアイ・ラウンド交渉が妥結し,1994年7月に開催されたサミットの経済宣言においても貿易自由化の勢いを継続せる決意が示されている。

このような時代において経済成長や雇用を重視する先進諸国に求められることは,開発途上国に追い上げられている競争力を失った産業を保護することではなく,科学技術により技術革新を促進し,新たな産業の創成に努め,これにより経済の発展と雇用の確保を図っていくことであると考えられる。1994年3月に開催されたG7雇用サミットにおいては技術革新が富と雇用の源泉であるとの認識が示されており,また,6月のOECD閣僚理事会宣言においても雇用拡大における技術革新の役割への期待が表明されている。さらに,7月のサミットにおいても,主要先進国が技術革新及び新技術の普及を奨励し促進する決意が示されている。

技術革新に関連しては,OECDにおいて科学技術と経済社会の関係を3年余の歳月を費やし幅広い視点から分析した技術経済計画(TEP)が行われており,その成果を踏まえ,同閣僚理事会の宣言(1991年)がまとめられている。同宣言においては,先進各国の課題として技術革新能力の強化が重要とされ,なかでも,1)政府による基礎研究の支援,2)経済,社会の中での技術の普及,3)人的資源の開発が重要とされている。また,同宣言においては,技術開発において企業が中心的な役割を果たすこと,技術開発のための適切な環境の整備が政府の責任であることが強調されている。

また,科学技術をめぐる国際的な対応も重要となっている。

冷戦の終結に伴い安全保障という共通の利害が薄れたことから,先進諸国間の種々の摩擦が経済面をはじめとして顕在化することが懸念され,これが科学技術面に及ぶことが懸念されている。また,地域における協力を重視する動きがみられるが,これが域外の国々を排除する方向に向かわないように留意することも重要である。このような状況において,GATTウルグアイ・ラウンド交渉が妥結に至り,国際経済のルールが世界的に確認され,国際的な紛争解決のための手続きが整備されてきたことは,世界が共通のルールの下に行動するとの決意を明らかにしたものといえよう。また,ウルグアイ・ラウンド交渉における知的所有権の貿易関連の側面(TRIPS)に関する交渉の合意は,世界的な知的所有権の保護を進展させるものとして重要なものである。なかでも,開発途上国がこれに合意したことは,適切な知的所有権の保護が無ければ新しい技術の開発が促進されない反面,新しい技術の開発が促進されれば開発途上国も利益を受けることを,途上国を含めた世界が共通に認識したことを示すものであるといえる。世界の発展にあたっては,先進国,途上国を含めて世界の各国が,相互を排除する方向ではなく,相互に協力,協調し,共通する価値と合意された規範に則り行動することが求められよう。

これまで世界の安定から経済的な繁栄を享受し,世界の経済で大きな地位を占めるに至った我が国としては,この世界的な転換期において積極的に技術革新に取り組み,自由貿易を堅持しつつ,世界の更なる発展と安定を目指していくことが重要であると考えられる。この際,我が国自身がその身を置き,世界でも最も躍動的な成長が続く活力ある地域であるアジア地域との関係は極めて重要である。

このような認識を踏まえ,科学技術をめぐる我が国の現状とその課題をみることとする。


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