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第1部   いま,世界の中で
第1章  転換期の世界における科学技術政策
第2節  主要国の科学技術政策動向の背景
3.  新たな発展のための基盤整備と政府の施策の効率性の追求


次代の発展のための基盤の整備は政府の重要な使命である。他方各国において,財政赤字の削減及び政府支出の見直しが課題となっており,冷戦の終結により米国等では軍事費の削減が可能となりつつあるものの,政府の活動の効率化が求められている。

このような状況で科学技術政策においては,次代の発展の基盤を整備すると・ともに,経済と雇用を重視する政策動向のなかで,科学技術政策の総合調整への取り組み,効率重視の動きがみられている。

(新たな発展のための基盤整備)

科学技術への投資を未来への投資として捉える観点が欧米では顕著となっている。我が国においても,科学技術の振興が将来を支える若者の教育と並び未来への先行投資として認識されている。

米国政府は,国民に対する投資としての教育訓練,ノウハウに対する投資としての科学技術への投資,インフラ等物的資本に対する投資や生活の質の向上のための投資を重視している。科学技術への投資については,経済の繁栄,質の高い雇用の創出,健康及び教育の改善,安全保障の基礎となるものであるとの認識を示しており,緊縮財政のなかで重点的な投資を試みているといえよう。

また,研究開発の中でも,交通・運輸等,社会の基盤となる分野の研究開発が従来以上に重視される傾向がみられ,米国においては,次世代の高速鉄道や自動車の研究開発が重視されている。

さらに,情報関連のインフラの整備が重視され,米国においては全米情報基盤(NII)の整備の重要性が指摘され,それを教育,研究,医療,行政,産業等の国民の活動全般へ利用することが,新たな技術革新,市場や雇用の拡大のための重要な政策として位置付けられている。科学技術の分野においても,米国においてはNII構想下の研究開発プロジェクトとして高性能計算・通信(HPCC)計画が推進されている。また,欧州においても,近時の全世界的なインターネット活動の拡大,欧州域内における研究資源の有効活用などのため,国,機関の枠を超えて,欧州全域において研究情報ネットワークを本格的に整備する必要性が増大していると認識されている。さらに,1994年7月のナポリ・サミットの経済宣言においては,主要先進国の共通の認識として,開放的,競争的かつ統合された世界情報インフラの整備促進の方針が示されている。

(科学技術政策の総合調整)

政府の高いレベルにおける科学技術政策の総合調整の重要性,必要性が主要先進国を通じた認識となっており,各国において科学技術政策の総合調整,政府首脳等に対する助言機能を強化する動きがみられている。米国においては大統領を議長とする国家科学技術会議が,ドイツにおいては首相を議長とする研究,技術及び革新に関する評議会が,イギリスにおいては首相の代理としての科学技術大臣が議長を務める科学技術会議がそれぞれ新設された。また,米国においては大統領府に大統領科学技術諮問委員会が設置され,イギリスにおいては内閣府に科学技術局が新設されている。

これらの動きは,科学技術が経済をはじめとして社会のあらゆる面で重要な役割を果たすようになったこと,また,科学技術政策が政府の施策の中で重要性を増しつつある中で,科学技術政策が政府の他の施策と相互に密接な関係を有するようになったことを示すものであるといえよう。

(研究開発の効率追求と官民協力の推進)

限られた政府予算の中での研究開発のより一層の効率向上,民間研究開発への貢献が重視されており,この観点から,官民協力が重視されている。

主要各国とも競争力の強化等を科学技術政策において重視するなかで,政府の科学技術政策の推進にあたり,産業界の意見をより良く反映させるための努力もみられている。米国における大統領科学技術諮問委員会の創設,ドイツにおける研究,技術及び革新に関する評議会の創設はこの方向での動きとも捉えられる。

民間への技術移転や官民の共同研究の強化も図られている。米国科学審議会によれば,米国の連邦政府の研究機関と民間との共同研究契約件数は1987年の108件から,1991年の975件へと大幅に増加している( 第1-1-11図 )。また,連邦政府の研究機関の民間に対する特許の専用実施権及び通常実施権の許諾件数をみると,1987年の128件から,1991年の261件へと倍増しているとされている。このように,米国においては,政府研究機関が民間企業との協力関係を近年大幅に強化している様子がうかがわれ,さらに,クリーンカー・イニシアティブ等研究開発を中心としたコンソーシアム結成の活発化もみられている。

第1-1-11図 米国連邦政府研究機関と民間との研究開発協力協定件数の推移

欧州においても,EUのフレームワーク計画において国を越えた共同研究が促進されている。また,欧州主要国の動向をみると,ドイツにおいては産学官の連携強化の重要性が認識され,その促進が課題とされ,フランスにおいては新しい科学技術政策の方向を示した報告書において,政府研究機関,大学と産業界との連携の強化が課題として指摘され,イギリスにおいてはリンク計画等により産学官連携の強化が図られている。また,ドイツ,イギリスにおいては技術予測調査が産学官の関係者の交流の促進の観点からも重視されている。このように,各国の政策においても官民協力が奨励され,産学官の連携だ重視されている。

(大規模プロジェクトにおける国際協力の重視)

大規模な研究開発プロジェクトにおいては国際協力が重視されてきている。


1984年の米国のレーガン大統領による西側各国への参加招請に端を発した宇宙ステーション計画は,1988年には参加12ヵ国の間で宇宙基地協力協定が署名され,日本,米国,欧州及びカナダの協力により進められてきたが,1993年末からはロシアが参加することとなった。

また,1985年の米ソ首脳会談で提唱された核融合炉の工学的実証を行うための国際熱核融合実験炉(ITER)については,1988年から1990年の概念設計活動を経て,工学設計活動が1992年より,日本,米国,欧州,ロシアの4極協力により実施されてきている。

日米欧露の4極の協力により工学設計が進められている国際熱核融合実験炉(lTER)全体構造図(設計案)1980年代より米国が単独で進めてきたSSC(超伝導超大型加速器)計画についても,米国は1990年以降諸外国に建設への協力を求めるなど,大規模な研究開発プロジェクトは国際協力で行うとの傾向が顕著となってきている。なお,SSC計画自体は1993年米国が中止を決定した。

さらに,欧州原子核研究機関(CERN)において計画中のLHC(大型ハドロン加速器)計画についても,その建設に関しCERN加盟国以外からの協力が期待されている。

国際協力の重視の背景には,まず各国が協力することにより一国のみでは不可能な課題への挑戦が可能となることに加え,世界の英知を集めて挑戦すべき科学技術の課題が増大してきたことがある。また,旧東側諸国も含めた協力は,これらの国が国際社会の一員としての安定した地位を占めていくための過程としても意義があると考えられる。

国際協力を重視することとなる要因は,このように必ずしも資金のみとはいえないものの,近年は,一国の資金負担の軽減を図る観点からも,大規模なプロジェクトへの対応にあたり,国際協力を重視する傾向がみられているともいえよう。


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