ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   いま,世界の中で
第1章  転換期の世界における科学技術政策
第2節  主要国の科学技術政策動向の背景
1.  冷戦の終結


冷戦の終結に伴い,安全保障に割かれていた資金,人材等の負担を軽滅することが可能となり,これを「平和の配当」として他の用途に活用することが可能となってきていると考えられる。他方で,移行期に特有の混乱や摩擦の増大も憂慮されている。

(科学技術政策への影響)

主要先進国の科学技術政策においては,国防研究開発の予算は依然として大きいものの,減少し,あるいはその伸びは小さくなっている。各国の近年の科学技術関係予算中の国防関係の割合の推移に注目すると,その割合は,イギリスにおいては顕著な変化はみられないものの,ドイツにおいて若干減少し,国防部門の比率の高い米国,フランスにおいてはかなり減少している( 第1-1-1図 )。

第1-1-1図 科学技術関係予算中の国防関係割合の推移

また,予算の抑制と並行して,国防関係の研究開発体制の再編が課題となっている。なかでも,冷戦時代において,非常に大きな組織となってきた米国の国防関連の研究開発機関について,現在その役割についての見直しが進行中であり,その基礎的研究における役割を含めて,その冷戦終結後の役割が模索されている。また,米国の国防省国防高等研究計画局(DARPA)が高等研究計画局(ARPA)に改組されたことに象徴されるように,国防関連の研究開発における両用(dual-use)技術の重視や,民生技術開発への活用が求められている。

他方,冷戦時代においては,相手陣営側の技術的なブレークスルーに備えるための基礎研究への支援を含めて,安全保障の観点から米ソ両国は科学技術に力を注いできた。また,この時代においては各々の陣営が自陣営の優秀さを世界に広く示すことも重要であり,初期の宇宙開発の米ソ競争に典型的にみられるように,科学技術の分野においても国威発揚の観点から相手側に先駆けて顕著な成果を上げようとする傾向がみられていた。しかしながら,冷戦終結とともにこれらの観点からの科学技術への支持,支援が薄らいできているとみられる。

これらの傾向は,旧ソ連において顕著にみられており,旧ソ連の国防関連研究者,技術者については,冷戦時代に比較しその処遇が極めて悪化したと伝えられており,これら研究者,技術者の国外流出,拡散が懸念されており,特に大量破壊兵器関連の科学者,技術者の流出防止の観点から,日米欧露協力により,国際科学技術センター(ISTC)が設立された。

(科学技術系人材への影響)

安全保障に関連する支出の減少は,国防産業の縮小と同産業における雇用の減少に結び付き,これが各国政府の雇用確保の重視に一層の拍車をかけることとなると考えられる。

国防関連従事者の雇用に関し,米国科学審議会の「SCIENCE &ENGINEERING INDICATORS-1993」は,1987年から1992年にかけて,70万人の国防関連の雇用が無くなり,さらに,1992年から1997年までには130万人の雇用が無くなるとの推計を紹介している。このうち科学技術関係に着目すると,国防関係の雇用者中では科学者及び技術者の割合が他の産業に比較して相対的に高く,科学者及び技術者が8ないし9%を,技能者が6%を占めるとしているが,各々の雇用の動向をみると,技術者は1987年から1997年の間で5分の3以下に,科学者は4分の3に,技能者は3分の2に減少すると見込まれている( 第1-1-2図 )。また,同報告は,全米の科学者,技術者のうちで国防関係に従事する者の割合が,1987年においては,技術者の16%,科学者の11%であったが,1992年においては,それぞれ13%,8%に減少しているとしている。

第1-1-2図 米国における国防関連雇用の推移

また,イギリスにおいても,国防省の研究機関の職員の減少傾向がみられ,1987年度に16.3千人であったものが,1992年度においては15.3千人に減少している。

我が国においては,戦時中に軍需産業に従事していた人材が民生部門に転換し,戦後の産業の発展に大きく貢献したといわれていることを踏まえると,ここに示した米国,イギリスをはじめとする各国において国防関連に従事していた科学技術系人材が,今後どのように社会において活用され,民生部門の発展に活かされていくこととなるか注目される。

(摩擦の顕在化の懸念)

冷戦時代には西側諸国の利害が安全保障という点において基本的に一致していたといえる。しかしながら,各国において自国の経済成長や雇用を重視する傾向が顕著となっていることから,冷戦の終結に伴い,これまで顕在化してこなかった先進諸国間の種々の摩擦が,経済面をはじめとして顕在化することが懸念される。

科学技術分野においても知的所有権の保護のあり方,各国,各地域の公的研究開発プログラムへの域外企業の参加の扱い等を初めとした摩擦が増大する可能性が生じている。ちなみに,1993年2月に米国が発表した技術政策においては,海外の科学技術への米国のアクセスを助長し,世界的な問題における協力や技術に関連した外国市場における米国の成功を促進するとされている。

また,我が国を取り巻く国際的状況は経済面では貿易問題をはじめさまざまな問題をはらんでいる。科学技術庁が1994年6月に資本金10億円以上の研究開発活動を実施している民間企業1,752社(有効回答企業1,219社)に対して実施した「民間企業の研究活動に関する調査」(以下,「民間企業研究活動調査」という。)によると,我が国の゛民間企業では,科学技術に関する国際的な緊張関係,がさらに高まると考える企業が21.2%,国際的な緊張関係が部分的,断続的に続いていくとする企業が57.7%あり,他方,国際的な緊張関係が弱くなると考える企業は16.6%にとどまっている( 第1-1-3図 )。

第1-1-3図 科学技術を取りま〈国際状況

第1-1-4表 海外企業との知的所有権に関するトラブル

さらに,同調査によれば,海外企業等との知的所有権に関するトラブルに関しては,変わらないとする企業が大部分であるものの,米国において訴えられるトラブルが増加傾向,アジアNIEsにおいて訴えるトラブルがわずかながら増加傾向となっており,全体として若干の増加傾向とみることができる( 第1-1-4表 )。

このように,冷戦終結後の世界においては科学技術面での国際摩擦の増大が懸念されている。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ