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第1部   いま,世界の中で
第1章  転換期の世界における科学技術政策
第1節  主要国の科学技術政策動向
2.  欧州



(1) ドイツ

(東西ドイツの統一と旧東ドイツ地域の再建)

ドイツにおいては,1990年10月の東西ドイツの統一により,旧東ドイツ地域の経済の建て直し等に必要とされる経費が大きなものとなっており,さらに旧東欧諸国等に対する経済援助,景気低迷による税収の減少などの要因もあり,連邦政府は大きな赤字を抱えている。このような財政事情ではあるものの,連邦政府は旧東ドイツ地域の再建を第一の優先課題とし,また研究開発についても産業競争力の強化等の観点から積極的に取り組んでいる。

連邦政府及び州政府は,旧東ドイツ地域の研究体制の再編に取り組み,新たな研究機関を設置し,これにより旧東ドイツ地域の研究施設の数と職貝数は人口当たりでは旧西ドイツ地域と肩を並べるようになった。しかしながら,旧東ドイツ地域の産業界の研究活動は依然として十分なものではなく,この地域における効率的な研究開発能力の構築が優先的な課題となっている。このため,連邦政府は,産業界自身の努力を期待しつつも,研究技術省と経済省が連携して支援に力を入れている。

(国際競争の激化と産学官の戦略的対話の強化)

世界市場におけるドイツの成功は,技術が生み出す高付加価値製品によるものと考えられているが,近年の国際競争の激化に加え,先端技術分野において日本や米国に遅れをとっていることに対する危機感が大きくなっている。また,このような状況に加えて,東西ドイツ統一等に起因する緊縮財政から,研究活動の効率化と研究成果の応用への迅速な移転や技術開発への遅滞ない対応が必要とされている。このため,1994年2月,産学官が協力して研究技術政策上の目標を設定し,分担して実施することを目的とした研究,技術及び革新に関する評議会が設置され,産業界,学界,政府間の対話の強化が進められている。

また,連邦政府は戦略的技術である情報工学,エネルギー研究,材料研究,バイオテクノロジーなどを特に重視し,優先的に振興している。これは,これらの技術が専門領域を越えて広く利用され,産業競争力に長期にわたり影響を与え,また,それらの技術が環境に負担を及ぼさない様々な技術の開発に寄与するとの認識によるものである。


(2) フランス

(バラデュール内閣と科学技術政策への新たな取り組み)

フランスにおいては,1993年3月にバラデュール内閣が発足している。同内閣は,財政均衡を目指し,財政赤字の削減に取り組んでいるが,科学技術政策についても,他の政策分野と同様に,様々な改革に取り組んでいる。

フランスの科学技術政策において中心的役割を果たす高等教育研究省では,1993年6月から1994年4月にかけて今後の科学技術政策について広く国民の意見を集め,それを「フランスの研究に関する主要目標に関する報告書」として取りまとめた。この報告書では,現在のフランスの科学技術政策の枠組みはミッテラン政権初期に定められ,12年間基本的に変更されていないことから,ソ連邦の崩壊による国際環境の変化やアジアNIEsの勃興などの諸情勢の変化を踏まえた新しい枠組みを検討する必要があることを基本認識とし,

1) フランスの体力を強化するための基礎研究
2) 社会との対話の必要性
3) 民間企業の技術革新
4) 高等教育と研究組織
5) 地方と欧州と世界

の5項目が検討されている。

(基礎研究強化の取り組み)

フランスは日本,米国と比較しても,研究費に占める基礎研究の割合が高く,国立科学研究センターやパスツール研究所などは,優れた基礎研究所として知られている。

前述の報告書においても,基礎研究はフランスの体力強化のために重要であるとし,

1) 研究活動の配分の硬直性を見直す必要があること
2) 新たな知識を獲得するための基礎研究だけでなく,社会生活の向上に貢献する研究を行う必要があること
3) 基礎研究で用いられる数億フランを超える大規模の施設の整備についても積極的に貢献していく必要があること

を提案している。

(産業競争力の強化の動き)

1970年代に他の先進主要国と比較して技術開発に積極的な投資を行わなかったフランスは,1970年代の末に民間研究開発の遅れを認識した。1981年に就任したミッテラン大統領は研究開発を国の政策の優先課題に掲げ,研究開発投資の拡大に努めるとともに,研究開発費税額控除制度の創設等の民間研究活動の振興策を講じてきた。しかしながら,政府は,他の主要国と比較すると依然として民間の研究開発活動は不十分であると認識しており,産業競争力の強化,雇用の維持のために,さらに研究開発に取り組む必要があるとしている。

また,フランスの国家プロジェクトとして研究開発活動が行われてきた,宇宙開発,民間航空機,原子力開発,電気通信,国防などの技術分野における大規模技術計画についても見直しの動きが出ている。

大規模技術計画は,現在までにアリアン・ロケット,エアバス機,高速鉄道(TGV)など優れた成果をあげており,フランスの技術力を世界最高の水準に強化したと評価されているが,研究開発活動が特定産業分野に集中し,その成果が他の産業分野に波及することが少ないため,総合的な産業技術力の向上に貢献していないと考えられている。

このような認識から,「フランスの研究に関する主要目標に関する報告書」においては,大規模技術計画の目標及び方法の見直しが提案されている。


(3) イギリス

(科学技術政策の見直し)

イギリスにおいては,1992年4月の下院総選挙を経て第2期目に入ったメージャー政権が,科学技術政策の見直しに着手した。1992年4月,1960年代の初期以降置かれていなかった科学技術担当大臣を置き,政府の科学技術政策を調整する権限を首相の代理である科学技術担当大臣のもとに集中させた。また,これと同時に,教育科学省の科学部門と首相科学顧問事務局を併合し,内閣府内の公務・科学庁に首相科学顧問を局長とした科学技術局(OST)を新設した。

1993年5月,政府は「科学・工学・技術白書」を発表した。同白書は,学界や産業界の研究関係者から意見を聴取した結果に基づき作成したものとされ,潜在力を持つイギリスの科学技術力を,産業界との連携により経済競争力に結び付けていくべきであるとの認識のもと,政府の組織の再編を含む様々な施策が提言された。

このように,政府が科学技術政策の見直しに取り組んでいる背景としては,グローバル化する世界経済の中でのイギリスの産業競争力に対する危機感の高まりがある。1994年4月に科学技術局から発表された報告書である「将来展望(Forward Look)」でも,技術力を利用した新製品開発の熾烈な競争が世界的に展開されるなか,欧州,米国,日本,さらには東南アジアからも急速な技術的変化が出現するようになった現状において,イギリスは,科学技術による技術革新がもたらす経済的効果を最大限に活用する必要があるとの認識が示されている。

(科学技術会議の設置と研究会議の再編)

科学技術政策の見直しのなかで,「科学・工学・技術白書」において設置が提案されていた科学技術会議(CST)が,1993年12月より活動を開始した。

科学技術会議は首相の代理である科学技術担当大臣を議長に,首相科学顧問兼科学技術局長を副議長とし,産業界や学界の代表の10名の議員から構成されている。同会議は

1) 科学,工学,技術の問題についての政府への助言
2) 国際的な進歩を考慮に入れた政府の研究開発支出のバランスと方向性についての助言
3) 技術予測プログラムの結果に基づく政府の研究開発投資の展望についての助言

をその任務としており,国際競争力に関する危機感の高まり等を背景としたイギリスの科学技術政策の見直しにおいて重要な役割を担っていると考えられる。

1994年4月,この見直しの一環として,イギリスの政府部門の研究開発に大きな役割を担っている研究会議の改編が行われた。この組織改編も「科学・工学・技術白書」において提案されていたものであり,科学・工学研究会議(SERC)が分割・改組され,工学・物理科学研究会議(EPSRC)及び素粒子物理・天文学研究会議(PPARC)が設置された。また,農業食糧研究会議(AFRC)と科学・工学研究会議の一部が統合され,バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC)となった。研究会議は,従来の基礎研究,応用研究等の促進,支援に加えて,それぞれの分野での研究開発と研究者に対する教育の促進・支援を通じて,イギリスの産業競争力と生活の質の向上を目指すこととしている。

(国防研究)

冷戦の終結を受けて,政府は,国防研究費を今後わずかずつ削減しつつも,世界市場におけるイギリスの国防産業の地位は維持していくこととしており,軍事力及び国防技術を引き続き重視している。しかしながら,国防研究においても経済面への貢献に努め,国防研究成果の民生部門への移転及び民生技術の軍事部門への移転を促進していくこととしている。

このようななかで,国防,民生の双方で利用可能な技術開発を目的として,国防省の国防研究機関による両用(dual-use)技術センターの設立が進められており,1994年4月に構造素材に関する最初のセンターが設立されている。


(4) 欧州連合(EU)

(欧州連合の発足)

1993年11月に欧州連合条約(マーストリヒト条約)が発効し,欧州連合(EU)が発足した。

欧州連合条約においては,EUの研究・技術開発の目的は,欧州産業の科学技術基盤を強化し,国際競争力の強化を図ることとされており,EU加盟各国の政策とEUの政策との調和を図るため総合調整を行うこと等が規定されている。

また,同条約においては,EUの行動原則として,加盟国の行動では目的を十分達成できず,EUの行動により十分に達成できる場合においてのみ行動するという補完性原則が規定されているが,EUの科学技術活動においてもこの原則が適用されている。

(経済成長,競争力及び雇用の創出に貢献する科学技術)

1993年12月の欧州理事会(EU首脳会議)において,「経済成長,競争力及び雇用に関する白書:21世紀に向けての挑戦と道」が発表された。このなかで,研究・技術開発は,経済成長,競争力の強化,雇用の創出に貢献するものであるとの認識が示されるとともに,欧州の研究・技術開発の現状について,

1) 研究・技術開発に対する投資水準が低く,科学技術系人材が相対的に少ないこと
2) 研究・技術開発に関し,加盟国の研究政策間,加盟国内の民生と国防研究間などの調整が十分になされていないこと
3) 研究開発の成果を商業的な成功に結び付ける能力に欠けていること

という3つの問題点が指摘されている。

白書においてはこれらの問題点を解決するにあたっては,競争力及び経済成長の回復への対応,並びに,市場の地理的拡大及び新たな社会的ニーズへの対応が重要であるとし,EUが行うべき具体的施策がフレームワーク計画に示されている。

フレームワーク計画は,EUの行う全ての研究技術活動を規定しており,5年間にわたる予算の大枠を示している。1994年4月には第4次(1994年〜1998年)の計画が決定されており,企業,研究機関及び大学の協力による研究・技術開発及び実証活動,国際協力活動,研究成果の普及,研究者の養成等の活動が行われることとなっている。


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