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第1部   いま,世界の中で
第1章  転換期の世界における科学技術政策
第1節  主要国の科学技術政策動向
1.  北米



(1) 米国

(クリントン政権の発足と科学技術政策)

米国においては,1993年1月にクリントン政権が発足した。同政権は,1月に「米国変革へのビジョン」,2月に「米国経済成長のための技術:経済力強化のための新たな方向」,11月に「米国経済成長のための技術:大統領進捗報告」,1994年2月に「大統領経済報告」を発表しているが,これらの中で,科学技術への投資は米国の将来への投資であり,これが,経済成長,新規雇用の創出,新規産業の創出,生活の質の向上に資するという認識を示している。その上で,冷戦の終結等を踏ま元2,国防,宇宙などの目的指向型研究や基礎研究が連邦政府の科学技術プログラムを占め,産業技術については,主にこれらの研究からのスピン・オフに頼ってきた従来の対応を見直す必要があるとしている。

このような考え方に基づき,

1) 雇用を創出し,環境を保護する経済成長
2) より生産性が高く,国民のニーズをより敏速にかなえる政府
3) 基礎科学,数学,工学における世界的リーダーシップ

の3つの国家目標が提示され,さらに米国の科学技術政策の進むべき方向として,

1) 米国産業の競争力強化及び雇用の創出
2) 技術革新を活発化し,新たな発想に投資が振り向けられるビジネス環境の創出
3) 政府全体として整合性のとれた技術マネージメント
4) 産業,連邦・州政府,労働者及び大学間における密接なパートナーシップ
5) 情報通信,フレキシブル・マニュファクチャリング,環境技術といった今日の事業及び経済成長にとって重要な技術の重視
6) 全ての技術の基盤となる基礎科学への支援の再確認

が挙げられている。

特に,米国の産業界が世界市場において厳しい競争にさらされている状況等を踏まえ,政府は民間企業による技術革新を助け,米国の産業競争力を強化していく上で積極的な役割を果たしていくとしており科学技術政策においても産業競争力の強化を重要な課題としている。

また,技術の基盤としての科学を重視する立場から,クリントン政権は1994年8月に「国家利益における科学」と題する報告書を発表した。この中で,科学を「尽きることない資源」と位置付け,科学への投資の重要性を強調している。科学に関する政策の主要な目標として,

1) 科学的知見の最先端でリーダーシップを維持すること
2) 基礎的研究と国家目標との連携を強化すること
3) 基礎的科学及び工学における投資と物的,人的及び財政的資源の有効活用を促進するパートナーシップの育成
4)21世紀のための最も優れた科学技術者の養成
5) 全ての米国民の科学技術に関する理解力の向上

を掲げている。この報告書においても,クリントン政権は,基礎的な研究分野において米国のリーダーシップを維持しつつ,科学技術政策と国家目標との連携を強化することが重要であるとしている。

(国家科学技術会議と大統領科学技術諮問委員会の創設)

1993年11月,クリントン大統領は,大統領を議長とし,副大統領,科学技術担当大統領補佐官,連邦関係省庁の長官等から構成される閣僚レベルの国家科学技術会議(NSTC)を創設した。国家科学技術会議の任務は,

1) 科学技術政策の策定過程における総合調整
2) 科学技術に関する政策決定
3) 連邦政府の政策及び計画において科学技術が考慮されることの確保

等となっており,同会議は行政予算管理局(OMB)局長に対し,国家目標を反映した研究開発予算の勧告等を行うこととなっている。

また,国家科学技術会議の創設と併せて,大統領科学技術諮問委員会(PCAST)が創設された。同諮問委員会は,科学技術担当大統領補佐官と非連邦部門の委員18名から構成されており,,同諮問委員会を通して国家科学技術会議へも民間部門の意見の反映が期待されている。

(冷戦終結の影響)

冷戦の終結により安全保障に割かれていた資金,人材等の負担を軽減することが可能となってきている。このような中で,米国においても,国防省の国防高等研究計画局(DARPA)が高等研究計画局(ARPA)に改組されたように,国防関連の研究開発において両用(dual-use)技術が重視されるとともに,国防省,エネルギー省などの国防関連の研究開発機関の冷戦終結後における役割が模索されている。

クリントン政権は,冷戦の終結を受けて,科学技術関係予算に占める民生関連の比率を1993年度の41%から1998年度までに50%以上にするとし,政府研究開発投資における軍民転換を強く打ち出している。

1993年3月には,軍民転換を促進するための技術再投資計画(TRP)の開始が発表された。

同計画は,

1) 国防労働者の再訓練,雇用斡旋といった労働者への投資
2) 軍事基地閉鎖,国防契約の削減等の影響を受ける地域の再開発といった地域への投資
3) 国防関連企業の民生ハイテク技術への支援,両用技術の開発促進といった技術への投資

からなっており,米国の産業を強化するとともに,最先端で廉価な国防装備と最強の競争力を持つ民生製品の両方を供給しようとするものである。

(大規模プロジェクト)

米国では,超伝導超大型加速器(SSC),宇宙ステーション計画等の大規模プロジェクトが進められてきた。クリントン政権は,SSC計画は米国経済にとって重要な技術を振興し,米国内の若い技術者や科学者に雇用と教育の機会を提供するものであるとし,同計画を支持したが,米国議会においては同計画への支持が得られず,議会において1993年10月に同計画の中止が決定された。

日本,米国,欧州及びカナダの国際協力により進められてきた宇宙ステーション計画については,1993年2月の「米国変革へのビジョン」において,より高いコスト・パーフォーマンスを追求するとされ,4極により設計の見直しの検討が行われた。同時にロシアの参加についても関係国による政府間協議が進められ,1993年12月,ロシアが参加することとなった。1994年3月には,設計の見直し及びロシアの参加を踏まえた宇宙ステーションの全体構成等に関する技術面での大枠が各宇宙機関間で合意された。

このように,米国においては,緊縮財政下における大規模プロジェクトについて,従来以上に厳しい見方がなされているといえる。

(全米情報基盤(NII)の構築)

1993年9月,ゴア副大統領は「全米情報基盤(NII)に関する行動計画アジェンダ」を発表した。

全米情報基盤は,将来全ての国民が必要な情報を,必要な時に,必要な場所で適正な価格で入手できるようにするものであり,経済成長,産業競争力強化,雇用創出,生活の質の向上に資するものとされている。この全米情報基盤構想の下で研究開発プロジェクトとして高性能計算・通信(HPCC)計画が位置付けられ,関係省庁と研究機関の協力により,強力なコンピュータの開発,高速なコンピュータ・ネットワークの開発,高度なソフトウェアの開発等が進められている。

(産業競争力強化への取り組み)

米国の産業競争力強化への取り組みとしては,連邦政府の研究開発機関が政府以外の機関との研究開発協力を行うための研究開発協力協定の締結数が近年急速に伸びており,今後ともその数を増加させる方針が示されている。また,民間企業が共同で研究開発を行うコンソーシアムに対しても政府の支援がなされている。

また,商務省においては,競争前段階かつ基盤的な技術の開発と商業化を促進する先端技術計画(ATP)が実施されており,クリントン政権においては同計画に対する予算が大幅に増額されている。


(2) カナダ

カナダにおいては,資源依存型の産業構造が見直され,先端技術産業の振興が図られてきているが,近年の景気低迷と高い失業率が続く中,1993年10月の総選挙により,政権が交代した。

政権に復帰した自由党政権は雇用創出と財政赤字削減を最優先の課題としており,1994年2月の議会における財政演説においても,技術革新は雇用機会の創出にとり重要であり,今後一層の産業界の技術力強化が必要であるとしつつも,厳しい財政事情を踏まえて,進行中の一部プロジェクトの見直しや連邦政府の支援中止に加え,雇用の創出や明確な市場の存在などカナダにとって利益のある分野に重点をおいて研究開発を推進するとの方針を発表した。

1994年6月には,首相の諮問機関である国家科学技術諮問委員会(NABST)が政府の科学技術活動の重点事項に関する報告書を発表した。同報告書においては,科学技術が政府の優先課題であり,予算も高い伸びを示してきたとしつつ,連邦政府の科学技術活動の主要な役割を,

1) 国際的な競争力と将来の繁栄に必要である知識渇望型社会の発展への貢献
2) 製品・プロセスへの知識の応用等の市場が必要とする技術の開発を行う市場指向型技術開発の支援であるとし,政府において科学技術予算の配分にあたり,連邦政府の組織間及び組織内での優先順位の設定システムの確立等を勧告している。

これを受けた政府は,カナダの国家科学技術戦略の策定のため,広く一般国民及び科学技術関係者から意見を聴取することとし,1994年7月から意見聴取を行うなど作業を進めている。


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