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第3部   我が国の科学技術政策の展開
第4章  研究活動の推進
第1節  重要研究開発分野の推進
1.  基礎的・先導的な科学技術



(1) 物質・材料系科学技術

物質・材料系の科学技術は,原子・分子レベル,あるいは強磁場,超高真空,超高圧等の極限環境における現象・機能の解明を通して新たな科学的知見を蓄積してきただけでなく,新材料が過去において,経済社会に及ぼした影響は極めて大きなものがあり,新超伝導体の発見にみられるように,新しい材料の出現が,新しい技術を開拓し関連技術にも質的変化をもたらし,産業に対してはもちろんのこと社会に対しても大きなインパクトを与えてきた。

特に,近年,情報・電子,ライフサイエンス等の先端科学技術分野においては,未踏分野を切り拓く革新的な研究開発の多くは新たな材料にシーズを求めており,独創的な研究開発を推進し,科学技術立国を図っていく上での共通的・基盤的技術として物質・材料系科学技術の重要性がより高まっている。

また,現在推進されている超高速コンピュータ,核融合,宇宙開発,海洋開発等大規模なプロジェクトの推進に必要な新たな材料の研究開発の重要性が高まっており,これらのプロジェクトに適合する材料が求められている。

このような状況から,新材料の創製が今や,国家的にも極めて重要な課題となっている。

1) 総合的な物質・材料系科学技術の推進 物質・材料系科学技術については,以上のような認識の下に,科学技術会議,航空・電子等技術審議会等の答申に沿って各般の物質・材料系科学技術施策が進められている。 科学技術会議は,諮問第14号「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画について」(1986年5月)を受けて,本分野における研究開発目標及び推進方策に関する検討を行い,1987年8月に答申した。 これを受け,政府は同年10月,「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画」を決定した。 また,同会議は,第18号答申「新世紀に向けてとるべき科学技術の総合的基本方策について」(1992年1月)を行い,この中で既成の限界を打破した高性能・新機能の物質・材料の開発等の必要性を指摘している。 航空・電子等技術審議会においては,これまで,諮問第5号「極限科学技術とこれに関連する材料科学技術に関する総合的研究開発の推進策について」に対する答申(1980年8月),諮問第7号「材料設計理論に基づいた新材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(1984年9月),諮問第9号「新材料開発に係る計測及び制御技術の高度化のための重点課題及びその推進方策について」に対する答申(1986年3月)及び諮問第13号「環境条件に知的に応答し,機能を発現する能力を有する新物質・材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(1989年11月),諮問第16号「材料開発に係わる解析・評価技術の高度化に関する総合的研究開発の推進について」に対する答申(1991年11月)を行い,物質・材料系科学技術の総合的推進方策を示した。
2) 物質・材料系研究開発の推進 広範多岐にわたるニーズを背景として,各省庁において様々な物質・材料系科学技術に関する研究開発が活発に進められている。 科学技術庁においては,物質・材料系科学技術全体に係る共通的・基盤的分野を推進するため,金属材料技術研究所,無機材質研究所等において研究開発を推進するとともに,創造科学技術推進制度(新技術事業団),フロンティア研究システム(理化学研究所),科学技術振興調整費等各種制度により物質・材料系科学技術に関する研究を実施している。 文部省においては,東北大学に附置されている共同利用研究所である金属材料研究所等を中心として,独創的・先端的な物質・材料研究を展開するとともに,研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として,大学等における独創性豊かな学術研究を推進すべく,物質・材料系科学技術の基礎的研究が行われている。 通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度により新材料の加工技術等に関する研究開発が実施されている。
超高圧力,超高温状態で窒素等の不純物を混ぜて合成したカラー・ダイヤモンド結晶(無機材質研究所)

また,物質・材料系科学技術水準の国際的向上を図るため,国際共同研究助成事業(NEDOグラント)により,国際共同研究チームが行う基礎的先導的研究開発を推進している。
3) 超伝導に関する研究開発の推進 1986年,スイスIBMチューリッヒ研究所における発見を契機として,1988年1月の科学技術庁金属材料技術研究所におけるビスマス系超伝導体の発見など,高い温度でも超伝導現象を生じる酸化物系の新しい超伝導物質が相次いで発見された。この新超伝導物質は,それらが実用化されれば経済社会に大きなインパクトを与えるものとして,世界的に大きな期待が寄せられている。しかしながら,これら酸化物系超伝導体は未だ材料以前の段階であり,実用材料として利用されるようになるためには今後,理論の解明,新物質の探索,材料化等の基礎的・基盤的研究開発が重要である。このような点に鑑み,科学技術会議政策委員会の下に設けられた超電導に関する懇談会が1987年11月に取りまとめた「超電(伝)導研究開発の基本的推進方策について」等を踏まえ,関係省庁において本分野の研究開発が推進されている。 科学技術庁においては,金属材料技術研究所,無機材質研究所,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,宇宙開発事業団,理化学研究所等が有するポテンシャルを最大限に活用し,研究基盤を整備するとともに,当該ポテンシャルを核として,国内外に開かれた研究者主体の柔軟な共同研究,研究者交流及び情報交換並びに技術展開を推進する「超電導材料研究マルチコアプロジェクト」を1988年5月に創設し,超伝導材料の基礎的・基盤的研究を推進している。 文部省においては,科学研究費補助金等により基礎的研究が行われている。 通商産業省においては,産業科学技術研究開発制度等の諸制度を用い,電子技術総合研究所などを中心に産学官の連携のもとに超電導材料・超電導素子の開発などを行っている。また,超伝導に関する研究開発等を行っている(財)国際超電導産業技術研究センターへの助成を行っている。
定常状態で21.1T(テスラ)の世界記録を達成した大口径超伝導磁石(超電伝導材料研究マルチコアプロジエクト:金属材料技術研究所

郵政省においては,通信総合研究所を中心に産学官の連携により推進している電気通信フロンティア研究開発の一環として,「高温超電導体による超高速・高性能通信技術の研究開発」において,将来の超高速・高性能通信技術の実現を目的とした超伝導技術を用いた電気通信技術の研究開発を実施している。 運輸省においては,将来の高速輸送を目的とする超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けて研究開発を促進するため(財)鉄道総合技術研究所への助成等を行っている。
4) 物質・材料系科学技術の国際協力の推進 1990年5月に日米科学技術協力協定に基づく協力課題となった「強磁界マグネットの開発のための研究」(金属材料技術研究所-米国国立科学財団(フランシスビッター国立磁石研究所)),1990年3月より開始した「新素材の原子配列設計制御」(新技術事業団―ケンブリッジ大学・ロンドン大学)等の二国間国際協力や,「新材料と標準に関するヴェルサイユプロジェクト(VAMAS)」等の多国間科学技術協力などにより,数多くの共同研究,研究者交流などを推進している。 また,標準の分野でもIEC(国際電気標準会議)に超電導専門委員会(TC90)が新設され,1990年から我が国が幹事国となった。

(2) 情報・電子系科学技術

1) 情報・電子系科学技術振興の意義

高度情報社会への移行が本格化する中で,情報・電子系科学技術が果たす役割は,ますます重要になりつつある。これまで,情報・電子系科学技術は,半導体やコンピュータ等の高度化・高機能化を通じて,経済や社会活動に大きな変革をもたらしてきている。今後は,さらに情報の量的・質的な増大が予測されており,これらの情報を適正に処理・伝送するため,知識処理や曖昧性の処理等の情報処理の高機能化,多様な入出力形態の情報の効率的で正確な伝達,情報処理・伝送のヒューマンインタフェース等の研究開発が強く望まれている。

このような認識の下に,科学技術会議では第15号諮問「情報・電子系科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申(1989年3月)において,今後10年間程度を展望した重要研究開発目標及び研究開発のための推進方策を示した。

2) 重要研究開発課題

(1)素子等 高速画像処理,高速大容量情報伝送はもとより,高度なヒューマンインタフェースを実現するための,あるいは知的な情報の処理・伝達・蓄積等の発展につながる高速論理素子の研究開発及び大容量記憶素子の研究開発が不可欠である。 また,中・長期的な視点からすると,電子の量子的な振舞い,原子が人工的に制御された材料の特性,生体内のミクロな機能,構造等に関する物理的・化学的研究及びそれらの工学的利用のための研究開発が重要な位置を占めている。 具体的な研究課題としては,科学技術庁金属材料技術研究所の「液滴エピタキシー法による高性能光電素子用材料の創製」や,通商産業省の産業科学技術研究開発制度による「量子化機能素子の研究開発」,「バイオ素子の研究開発」,郵政省の通信総合研究所における「ミリ波・サブミリ波帯デバイス技術の研究開発」,電気通信フロンティア研究開発の一環としての「高度情報通信のための分子素子技術の研究開発」等がある。
(2)情報の処理 高速化,処理容量の増大とともに,情報が持っている意味レベルの内容の理解や,機能自らが推論・学習・判断するといった高度かつ高機能な情報処理の実用化が期待されている。このため,ハードウェアの高度化・高機能化だけでなく,ソフトウェアの高度化・高機能化や新しい概念に立ったアルゴリズムやプログラム言語,アーキテクチャーの研究開発,オープンシステム化の推進が急がれている。 具体的には,あいまいな言語表現や知識表現を理解し,帰納推論・類推・学習等を行うファジィシステムやニューロコンピュータに関する基礎的・基盤的技術の研究がある。この分野の研究として,科学技術振興調整費により,「ファジィシステムとその人間・自然系への適用に関する研究」,「センサフュージョンの基盤的技術の開発に関する研究」が実施されている。また,通商産業省ではリアル・ワールド・コンピューティング(RWC)といわれる「新情報処理技術開発」,「開放型基盤ソフトウェア研究開発」,産業科学技術研究開発制度による「新ソフトウェア構造化モデルの研究開発」が,電子技術総合研究所では「柔軟な知能情報処理に関する研究」等が行われている。
(3)  ヒューマンインタフェース 本来,情報システムは人間の活動を支援し,豊かにするための道具であるが,現状ではどちらかといえば,人間側が大きな労力を費やして情報システム側に合わせることにより操作を行っている。今後,情報システムの能力を十分に活用していくためには,誰もが,それぞれの個性に応じて,手軽に操作できる,人間を中心に考える立場に立った高度なヒューマンインタフェースの構築が必要不可欠となっている。 このためには,人間の情報処理機能の解明を目指す認知科学や心理学に根ざした基礎的研究,創造性支援のための応用研究等が望まれている。 この分野の研究として,科学技術振興調整費により「知的生産活動における創造性支援に関する基盤的研究」が,郵政省では電気通信フロンティアの一環としての「ネットワーク・ヒューマンインタフェースの研究開発」,「協同作業支援のための情報通信システムに関する研究開発」が,また,通商産業省では「未来型分散情報処理環境基盤技術開発(FRIEND21)」等が進められている。
(4)情報の伝達 情報化社会の到来とともに通信への依存度が急速に増加しており,通信の高速化,大容量化,高度化に対する研究が強く望まれている。 有線系伝送路については,コヒーレント光通信方式などの超大容量・長距離伝送用,無線系伝送路については,ミリ波から紫外領域にわたるより高い周波数領域用の発振器等の素子・部品・周辺回路,アンテナ,変調方式等の技術の研究開発が進められている。 さらに,将来の通信と目されている量子光通信など新しい原理に基づいた通信技術の研究,あるいは小型通信衛星や成層園無線中継システム等の新しい通信技術の研究も進められている。 通信の高度化としては,多様な接続形態を実現させる柔軟なネットワーク,高度なニーズに応え様々なサービス機能を付加するインテリジェントネットワークの構築等が期待されており,郵政省において先導的研究開発の一環として「高度三次元画像情報通信技術に関する研究開発」,電気通信フロンティアの一環として「次世代通信のための高次知的機能の研究」等が進められている。
(5)社会活動への適用技術 (1)〜(4)の技術を人間社会へ適用させて,豊かで快適な生活の実現という観点から医療,教育,生産,芸術活動等を支援する技術についての研究開発が進められている。この分野の研究として,具体的には,通商産業省が産業科学技術研究開発制度により「人間感覚計測応用技術」の研究等を実施しており,今後さらにこの分野の研究開発の促進が期待される。
第3-4-1表 主な情報・電子系科学技術分野の研究課題(1993年度)


1993年度に実施される主な情報・電子系科学技術分野の研究課題は 第3-4-1表 に示すとおりである。

(3) ライフサイエンス

ライフサイエンスは,種々の生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明し,その研究成果を保健医療,環境保全,農林水産業,化学工業等における,人間生活に係る諸問題の解決に役立てようとするものであり,健康で豊かな国民生活の実現に大きく寄与するものと期待されている分野である。

1) ライフサイエンス研究の基本的推進方策 我が国においては,1971年,科学技術会議が第5号答申において,ライフサイエンス振興の重要性を指摘して以来,国として積極的に推進することとしており,その後も同会議の答申等に基づき,ライフサイエンス研究の着実な推進が図られている。
2) がん及びエイズ研究の推進 がんは我が国総死亡数の約4分の1を占める最大の死因であり,がん対策は国を挙げて取り組むべき緊急の課題である。1983年にがん対策関係閣僚会議において決定された「対がん10ヵ年総合戦略」等を踏まえて,関係省庁は1984年度以降がんに関する研究開発を強力に推進している。 また,免疫系の重要疾患であるエイズに関しては,1987年にエイズ対策関係閣僚会議により「エイズ問題総合対策大綱」が策定され(1992年3月に改正),同大綱に基づき,科学技術庁,文部省及び厚生省において研究が進められている。
3) ヒトゲノム解析研究の推進 ヒトゲノム解析は,ヒトの全DNAの塩基配列を読み取ることを目指した研究であり,がん,アルツハイマー病等遺伝子の異常に起因する疾病の原因解明・診断・治療,また生物の進化のメカニズムの解明など多くの成果が期待されている。
建設中の重粒子線がん治療装置(放射線医学総合研究所)

関係省庁においては,1988年の航空・電子等技術審議会第12号答申「ヒト遺伝子解析に関する総合的な研究開発の推進方策について」及び1989年の学術審議会の建議等に基づき研究を進めてきた。また,1991年8月には,科学技術会議ライフサイエンス部会ヒトゲノム解析懇談会(1990年設置)が,我が国におけるヒトゲノム解析の現状,国際的な動向及び今後の展望等について報告書をとりまとめた。これらを踏まえ,理化学研究所においてヒトゲノム解析材料の開発,ヒトゲノム自動解析システムの開発等の基盤整備を実施するとともに,大学を中心に特定の遺伝子に着目した研究やゲノム情報の新たな解析手法の開発等が実施されている。農林水産省においても,1991年度からイネ・ゲノム解析研究を実施している。 更に,1992年5月には世界各国におけるヒトゲノム解析の成果を一元的に収集・データベース化するGDB(ゲノムデータベース)を国際的な支援の下で運営していくことに合意し,1993年には我が国においてもGDB日本ノードの運営を開始する予定である。今後この動向を踏まえ,ヒトゲノム解析の研究がさらに進展することが期待されている。
4) 組換えDNA研究の推進 組換えDNA研究は,基礎生物学的な研究はもとより,疾病の原因の解明,医薬品の量産,有用微生物の開発,農作物の育種等広範な分野において人類の福祉に貢献するものである。他方,組換えDNA実験は,生物に新しい性質を持たせるという側面があるため,その実施にあたっては慎重な対応が必要である。科学技術会議は1979年,第8号答申「遺伝子組換え研究の推進方策の基本について」において,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針を提示した。これを受けて同年,内閣総理大臣により「組換えDNA実験指針」が定められ,我が国でも様々な分野において組換えDNA実験が実施されるようになった。その後の科学的知見の増大に伴い,指針は遂次改訂されており,1991年9月には,遺伝子導入技術の進歩等を踏まえた全面的な見直しによる9回目の改訂が行われた。本指針のもとで行われる研究は年々増加する傾向にあり,今後とも安全比を確保しつつ科学的知見の増大等に応じて指針の見直しを行っていくこととしている。 一方,文部省においては,1978年に学術審議会がこの分野の研究者の自主的意見を充分に取り入れ,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針案を作成し,これに基づき,1979年に指針を告示した。 その後も学術審議会の審議に基づき7回改訂を行い,大学等における研究の着実な進展を図っている。また,組換えDNA技術の産業化段階における利用は,厚生省,通商産業省及び農林水産省がそれぞれの分野について作成した指針に基づくこととされており,産業レベルでの組換えDNA技術の応用に対応している。
5)糖鎖工学研究等の推進 ライフサイエンス関連施策は生命現象の解明から,動植物の工業的利用,更には人口・食糧問題等に至るまで非常に多岐にわたっている。 特に最近では,航空・電子等技術審議会第14号答申「糖鎖工学の基盤形成に関する総合的な研究開発の推進方策について」(1990年7月)に基づいて,科学技術庁,厚生省,農林水産省及び通商産業省の連携・協力の下,糖鎖の生体内での機能の解明及び構造の解析に着目した研究が進められている。
6) 長寿社会対応科学技術の推進 我が国は世界にも例を見ない速度で長寿社会を迎えようとしているが,こうした状況を踏まえ1986年に閣議決定された「長寿社会対策大綱」,「長寿社会対応科学技術推進の基本方策に関する意見」(1986年科学技術会議)に基づき,長寿科学研究推進十か年事業等関係省庁における老化等の問題に関する研究開発が進められている。
第3-4-2表 主なライフサイエンス分野の研究課題(1993年度)


1993年度に実施されるライフサイエンス研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-4-2表 のとおりである。

(4) ソフト系科学技術

1) 研究開発基本計画の決定.

複雑化・高度化した社会において人間の知的活動の支援が求められ,また,モノ重視の大量生産・消費社会から脱皮し,ゆとりや豊かさを実感できる質の高い生活が求められている現在,科学技術のあり方は大きな転換期を迎えており,「人間や社会」の観点の重視が必須となっている。

このような時代背景に応えるものとして,1992年12月に科学技術会議諮問第19号「ソフト系科学技術に関する研究開発基本計画について」に対する答申が出され,1993年1月にソフト系科学技術に関する基本計画として内閣総理大臣決定された。

研究開発基本計画においては,ソフト系科学技術を「人間・社会,ハードウェアといった実体的対象の能力や機能を発揮させ,その最も有効な利用・運用を図るための科学技術」,言い替えれば,人間・社会に関する知見を基盤として,ハードウェアはいかに構成されるべきか,いかに動かすべきか,また,人間の知的能力や社会の活動能力をいかに支援し活性化していくかについて考えていく科学技術体系と捉え,その推進に当たっての重要研究開発課題,研究開発の推進方策を示している。その概要は以下のとおりである。

(研究開発基本計画の概要)

○基本的考え方

ソフト系科学技術の重要性が増大し,その推進を支える知見や技術も深化・発展しているとの認識の下に,研究開発の推進に当たって重視すべき視点として,

・基礎領域研究(人間特性理論等)の重視
・研究開発の計画的推進
・自然科学と人文・社会科学の融合促進

等が挙げられている。

○重要研究開発課題

知的特性や感性特性を始めとする人間特性の解明・理解を基盤として,

・知的活動支援,生活環境の快適性向上,複雑な社会的課題の把握
・人間に優しく,また社会と調和したハードウェアの実現

等の課題が示されている。

また,これら全体に大きな発展の糸口を与えるものとして,人間の思考・活動等におけるあいまい性の理解等の重要基盤領域が示されている。

○推進方策

新しい総合的な科学技術体系であるソフト系科学技術振興のため,

・自然科学から人文・社会科学にわたる広範な分野の研究者を結集した体の構築及びそのコアとなる研究開発センター等の整備・充実
・高速大容量で高度な情報処理設備や情報・通信ネットワーク等の研究開発基盤の整備・充実
・他分野の知見を修得できる環境の整備等による総合的な知見を有する人材の育成
・ユーザーと密着した研究開発体制の構築
・国際交流・協力の促進等のための施策の充実

等を推進することとしている。

また,関連する報告として科学技術庁長官の諮問機関である資源調査会においても,1992年7月に知的技術(人間の知的活動を支援又は代替する技術)について,その重要性,現状と将来展望及び今後の発展のための方策が取りまとめられている。(報告第115号)

2) 研究開発の現状

ソフト系科学技術は,今後の科学技術に新たなブレークスルーをもたらす基礎的・先導的科学技術として,また,人文・社会科学と自然科学を融合した新しい総合的科学技術として重要な役割を果たすと期待され,近年,ソフト系科学技術に関連した研究機関や大学の学科の整備が進み,研究開発活動等の取り組みが活発化してきている。

第3-4-3表 主なソフト系科学技術分野の研究課題(1993年度)

1993年度に実施される主なソフト系科学技術の研究課題は 第3 4-3表 に示すとおりである。


(5) 先端的基盤科学技術

各分野の科学技術の発展に伴い科学技術が複雑化する中で,異なる分野の間で共通的に利用できる基盤となり,また,それらの分野を一層発展させる鍵となる技術の重要性が認識されてきた。例えば,微小な物質や広大な空間を超高精度で測定する技術,リアルタイム・多次元の観測・表示技術等の計測・分析技術の推進が重要となっている。

一方,例えば,微小要素デバイス技術,微小制御技術,微小設計技術等を総合したマイクロエンジニアリング技術など,既存の分野の科学技術を結合した新しいタイプの基盤科学技術も発達してきている。

これらの先端的な基盤科学技術は,異分野科学技術の相互乗り入れを促進し,新しい応用分野の開拓や従来の発想では困難であった課題に対してのブレークスルーを提供することが期待されている。

このため,科学技術庁では,1992年度から2年間の予定で,科学技術振興調整費により「先端的基盤科学技術の研究開発の今後の方向に関する調査」を開始し,先端的基盤科学技術として今後特に推進すべき具体的研究課題や,それらの研究推進を阻害する諸要因を抽出し,先端的基盤科学技術の望ましい発展方向について検討を行っている。

また,1993年度から,同じく科学技術振興調整費により,「極限量子センシング技術の開発及びその利用のための基盤技術開発」が新たに開始されている。一方,通商産業省においては産業科学技術研究開発制度により,原子分子1個1個を精緻に観察・操作する技術等の確立のため,「原子分子極限操作技術(アトムテクノロジー)」の研究開発を行っている。

更に,1993年6月には,先端的基盤科学技術の研究開発を計画的に推進するため,内閣総理大臣から科学技術会議に対して,諮問第21号「先端的基盤科学技術の研究開発基本計画について」が諮問されており,今後,同会議において基本計画の策定のための検討が行われている。


(6) 宇宙科学技術

1) 宇宙開発

宇宙開発は,科学観測,通信,放送,気象観測,地球観測等を通じ,科学技術の進展や国民生活の向上に大きな役割を果たしている。

我が国の宇宙開発は,宇宙開発委員会が定めた宇宙開発政策大綱(1978年策定,1989年6月改訂)及びそれに沿って具体的内容を定めた宇宙開発計画に従い,宇宙開発事業団,文部省宇宙科学研究所を中心とする関係各機関の協力の下に進められている。

宇宙開発政策大綱は,我が国の宇宙開発政策の基本方針として,ニーズの高度化・多様化への対応,自在な宇宙開発活動の遂行能力の保持及び国際協力の積極的な推進による国際的地位にふさわしい宇宙開発活動の展開,民間における宇宙開発活動の推進の3点を提示している。また,今後の重点目標として,科学研究の推進,H-IIロケットの開発等人工衛星・ロケット技術の確立,宇宙環境利用の展開のための基盤の形成及び有人宇宙活動の展開のための基盤の形成を挙げている。

(1)人工衛星

我が国は,1970年に人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功して以来,1993年3月までに51個の人工衛星の打ち上げに成功しており,米国,旧ソ連に次ぐ世界第三の人工衛星打ち上げ国となっている。各分野ごとの主な人工衛星は以下のとおりである (第3-4-4表)

第3-4-4表 我が国の人工衛星の打上げ実績及び計画


(イ)科学の分野

科学の分野においては,文部省宇宙科学研究所が中心となり,全国の大学等の研究者の参加の下に,これまでに22個の科学衛星の打ち上げに成功しており,近年においては,太陽活動極大期に太陽フレアの高精度画像観測等を日米協力等により行うことを目的とした第14号科学衛星「ようこう」,地球の夜側に存在する長大な磁気圏尾部の構造とダイナミックスに関する観測研究を日米協力等により行うことを目的とした磁気圏観測衛星(GEOTAIL),宇宙の最深部を対象とし,多様な天体のX線像とX線スペクトルの精密観測を行うことを目的とした第15号科学衛星「あすか」等を打ち上げ,所期の成果を挙げている。

また,超長基線干渉計(VLBI)衛星として大型精密展開構造機構等の研究及び電波天文観測の実施を目的とする第16号科学衛星(MUSES-B),月内部の地殻構造及び熱的構造を解明することを目的とする第17号科学衛星(LUNAR-A),火星大気の構造及び運動並びに太陽風との相互作用を研究することを目的とした第18号科学衛星(PLANET-B)の開発等を進めている。

(ロ)観測の分野

静止気象衛星については,「ひまわり」の開発が行われており,現在,1989年9月6日に打ち上げた「ひまわり4号」を運用中である。

また,その後継機である静止気象衛星5号(GMS-5)の開発を進めている。

海洋観測衛星「もも」は,海洋面の色及び温度を中心とした海洋現象の観測を行うこと等を目的とした衛星で,現在,1987年2月19日に打ち上げた「もも1号」及び1990年2月7日に打ち上げた「もも1号-b」を運用中である。

また,能動型観測技術の確立を図るとともに,資源探査,国土調査,農林漁業のための観測を行うことを目的として,1992年2月11日に打ち上げた地球資源衛星1号「ふよう1号」を運用中である。さらに,地球環境のグローバルな変化の監視,地球観測分野における国際協力の推進を図ること等を目的とする地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)の開発及び日米協力による全地球的規模のエネルギー収支のメカニズム解明等に不可欠な熱帯降雨の観測等を行うことを目的とする熱帯降雨観測衛星(TRMM)の開発等を進めている。

1995年度に打ち上げを予定している地球観測プラットホーム技術衛星ADEOS概念

(ハ)通信・放送の分野

通信衛星については,「さくら」の開発が行われて,現在,1988年2月19日に打ち上げた「さくら3号-a」及び1988年9月16日に打ち上げた「さくら3号-b」を運用中である。

放送衛星については,「ゆり」の開発が行われて,現在,1990年8月28日に打ち上げられた放送衛星3号-a「ゆり3号-a」及び,1991年8月25日に打ち上げられた放送衛星3号-b「ゆり3号-b」を運用中である。

さらに,高度移動体衛星通信技術,衛星間通信技術及び高度衛星放送技術の通信放送分野の新技術,多周波数帯インテグレーション技術並びに大型静止衛星の高性能化技術の開発及びそれらの実験・実証を行うことを目的とする通信放送技術衛星(COMETS)の開発を進めるとともに,衛星間通信システムに有効な光通信技術について,欧州宇宙機関(ESA)との国際協力により,同機関の静止衛星ARTEMISとの間で捕捉追尾を中心とした要素技術の軌道上実験を行うことを目的とする光衛星間通信実験衛星(OICETS)の開発研究等を進めている。

(ニ)人工衛星共通技術の分野

人工衛星の共通技術の試験を行う衛星としては,技術試験衛星「きく」が開発されており,現在,移動体通信実験等を目的として,1987年8月27日に打ち上げられた技術試験衛星V型「きく5号」を運用している。また,大型静止三軸衛星バス技術の確立を図り,あわせて,衛星による固定通信及び移動体通信並びに衛星間通信に関する高度の衛星通信のための技術開発及びその実験を行うことを目的とする技術試験衛星VI型(ETS-VI)の開発,ランデブ・ドッキング技術や宇宙用ロボット開発の基礎となる遠隔操作技術等をこれまでの要素技術に関する研究成果を踏まえて,軌道上実験等の実施により確立するとともに,宇宙用ロボットに関して先行的な実験を実施することを目的とする技術試験衛星VII型(ETS-VII)の開発研究等を進めている。

(2)  ロケット

科学衛星打ち上げのため,L(ラムダ)ロケットの開発を経てM(ミュー)ロケットが開発された。M系ロケットは,全段に固体推進薬を用いたロケットで,現在,M-3SIIロケットが使用されている。

また,1990年代以降の科学観測ミッションの要請に応えることを目的とし,各段を大型化するとともに機体構成の簡素化を図った3段式のM-Vロケットの開発を進めている。

静止衛星等の人工衛星の打上げのため,N系ロケットの開発を経てH系ロケットが開発され,重量約550kgの静止衛星を打上げる能力を有するH-Iロケットについては,1992年2月の地球資源衛星1号の打ち上げをもって,計9回の打ち上げ全てを成功し,その計画を終了したところである。現在,1990年代における大型人工衛星の打ち上げ需要に対処するため,2トン程度の静止衛星を打ち上げる能力を有する2段式のH-IIロケットの開発を進めている。H-IIロケットは,第1段,第2段ともに液体酸素・液体水素エンジンを採用した大型のロケットであり,1993年度に試験機1号機の打ち上げを予定している。また,小型,安価な打ち上げ需要に対応するため,低軌道へ1トン程度の輸送能力を有するJ-Iロケットの開発を進めている (第3-4-5表)。

第3-4-5表 我が国の主な人工衛星打上げ用ロケットの主要諸元

2トン程度の静止衛生を打ち上げることが 可能なH-IIロケットの打ち上げ予想図

(3)宇宙環境利用,有人宇宙活動

(イ)第一次材料実験「ふわっと’92」

「ふわっと’92」は,1992年9月に打ち上げられた米国のスペースシャトル「エンデバー」号に我が国の宇宙飛行士毛利衛氏が搭乗し,約8日間にわたり,宇宙環境の特性を利用して,我が国の材料実験22テーマ,ライフサイエンス実験12テーマ及び米国の実験9テーマを含めた計43テーマの実験が実施された。本計画は我が国の有人宇宙活動に必要な技術の修得に大きな意義を有するものと考えられる。

(ロ)宇宙ステーション計画

日,米,欧,カナダの国際協力により進められている宇宙ステーション計画は,低軌道(平均400km程度)の地球周回軌道に有人の宇宙ステーションを建設し,本格的な宇宙環境利用,有人宇宙活動の展開のための基盤の整備を目指すものである。我が国は独自の実験棟(JEM)をもって本計画に参加することとしており,日本人宇宙飛行士も搭乗し,長期間にわたり滞在することになっている。なお,本計画の枠組みを定める「宇宙基地協力協定」について,1989年9月5日に我が国が受諾,1992年1月30日に米国が受諾し同日付けで日米間において本協定が発効した。現在,我が国は開発段階の協力を行っているところである。

(ハ)その他

その他,宇宙実験を行う機会の確保等を目的として,低軌道を数カ月にわたり周回させた後回収する再使用可能な宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)の開発を進めている。また,宇宙ステーション計画への参加に必要な技術の蓄積を目的として,1992年1月22日から約7日間にわたり米国のスペースシャトルにより実施された第1次国際微小重力実験室(IML-1)計画及び1994年度に我が国の宇宙飛行士向井千秋氏の搭乗が予定されている第2次国際微小重力実験室(IML-2)計画への参加等を通じ,宇宙環境利用,有人宇宙活動に必要な技術の修得を図っていくこととしている。

(4)人工衛星,ロケット等の技術に関する基礎的・先行的研究

科学技術庁航空宇宙技術研究所をはじめ各機関において,人工衛星やロケットの技術に関する基礎的な研究,また,無人のH-IIロケット打ち上げ型有翼回収機や,有人の宇宙往還機(スペースプレーン)等の先行的研究を進めている。

スーパーコンピュータによるH-IIロケット打ち上げ型有翼回 収機周囲の超高速反応流の数値シミュレーション(航空宇宙技 術研究所)

(5)宇宙開発分野の国際交流

米国とともに宇宙開発競争を行ってきたソ連の解体や,地球観測衛星等の国際協力を要請するプロジェクトの増大を背景に,近年,宇宙分野における世界各国の協力の必要性が従来にも増して拡大している。

そうしたなか,1992年に成功裡に終了した国際宇宙年の精神を継承し,世界の宇宙機関間の交流及び協力を促進する目的で国際宇宙機関会議(SAF)が開催されることとなり,1993年5月にイタリアのローマにおいて第1回会議が開かれた。

2) 航空技術

航空技術は知識集約性,技術先端性が高いため,その開発は単に航空輸送の発展をもたらすのみならず,他の分野への波及効果も高く,我が国が今後科学技術立国を目指して発展していく上で大きな役割を果たすものである。

我が国では,これまで民間輸送機YS-11等の自主開発,ボーイング767等の国際共同開発を実施することにより技術を蓄積し,国際的な舞台で活躍する技術水準までに成長してきている。民間航空機においては,国際共同による開発方式が今後ますます世界の主流を占める傾向にあり,現在我が国では,350人乗りクラスの新型双発民間航空機ボーイング777及び150人乗りクラスの民間航空機YXXの国際共同開発に参加しているほか,次世代の民間超音速輸送機開発の調査を実施している。また,日本,米国,イギリス,ドイツ及びイタリアの5か国により民間航空機用ジェットエンジンV2500の国際共同開発が行われている。

今後の航空機及び航空機エンジンの開発をさらに積極的に推進していくためには,技術水準の一層の向上を図る必要がある。このため,航空・電子等技術審議会の建議や答申に沿って,航空技術研究開発の推進を図るための施策が講じられている。本審議会は,1991年3月に「ファンジェットSTOL機の研究開発の実施計画の検討等について」(諮問第1号)に対する最終報告を行った。また,1993年1月から「航空技術の長期的研究開発の推進方策について」(諮問第18号)に対する調査,審議を行っている。

科学技術庁航空宇宙技術研究所においては,我が国の将来の航空機開発に必要となる技術の確立を目指した研究が進められており,1987年度から,将来の極超音速輸送機,宇宙往還機,革新航空機等に必要となる空力技術,新複合材構造技術,飛行制御技術,推進系技術等革新的な航空宇宙輸送要素技術の研究を推進している。このほか,電子計算機による数値シミュレーション等の基礎技術の研究を進めるとともに,各種風洞等の大型試験研究設備を整備し,関係機関の共用に供し,我が国の航空技術の発展を図る上で主導的な役割を果たしている。

運輸省電子航法研究所においては,航法・管制に関する技術について,航空交通の安全比を向上させるための研究等を実施しており,これらの研究は今後の航空輸送の発展を図るうえで重要なものとして期待されている。

通商産業省においては,低速からマッハ5程度までの広範な速度域において高い信頼性等を有する超音速輸送機用推進システムの研究開発を行っている。この研究開発には欧米のエンジンメーカーも参加している。

(7)海洋科学技術

海洋は生物資源や鉱物資源等,膨大な資源を包蔵するとともに広大な空間を有しており,その開発利用は国土が狭小であり四方を海に囲まれた我が国にとって重要な課題である。さらに,海洋は地球環境変動に大きな関わりを有するとともに,海洋底プレートの動きは地震や火山活動の大きな要因と考えられていることから,その実態解明は急務となっている。このような背景の下,1990年代に入り,海洋の諸現象を全地球規模で総合的に観測・研究するためのシステム構築をめざした世界海洋観測システム(GOOS)計画が,国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)によって提唱され,1992年6月ブラジルで開催された環境と開発に関する国連会議(UNCED:地球サミット)で採択されたアジェンダ21においても,同計画の推進が盛り込まれている。今後,これら国際的な動向を踏まえ,地球環境問題に関連する海洋調査研究などの海洋科学技術に関する研究開発の推進が不可欠である。

1) 海洋科学技術の基本的推進方策等

海洋科学技術に関する研究開発を進めるに当たっての基本的考え方は,内閣総理大臣の諮問機関であり,海洋開発に関する基本的かつ総合的事項について調査審議を行う海洋開発審議会の答申に示されている。同審議会は,諮問「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」に対する1990年5月の答申において,今後の海洋科学技術の推進に関する基本的考え方として,

・地球的規模の環境変動の究明と海洋の実態解明のための海洋調査
・技術開発の推進
・海洋に存する厳しい条件を克服し,新たな海洋開発の可能性を探究するための科学技術の推進等の重要性を指摘している。

我が国の海洋科学技術は,この海洋開発審議会の答申を尊重しつつ,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。各省庁における海洋科学技術に関する具体的施策は,海洋開発を総合的に推進するために関係省庁が緊密な連絡を図る場である海洋開発関係省庁連絡会議が毎年とりまとめる海洋開発推進計画に沿って実施されている。また,地球規模の海洋の諸現象を解明するため,関係省庁・大学等の連携のもと,世界海洋観測システム(GOOS)計画等の国際的な海洋調査研究プログラムに積極的に参加している。

2) 海洋科学技術に関する研究開発の推進

科学技術庁では,海洋科学技術センターが中心となって海洋科学技術に関する先導的・基盤的な研究開発を進めるとともに,関係各省庁・大学等の協力の下,総合的なプロジェクトを推進している。

このうち,海洋科学技術センターでは,地震予知に関連する海底地形,深海微生物等の生態等の調査のために必要な深海調査技術の研究開発を行ってきている。1992年度には,有人潜水調査船「しんかい2000」,「しんかい6500」,無人探査機「ドルフィン3K」等による深海調査研究活動を推進するとともに,一万メートル級無人探査機「かいこう」の開発等を進めている。また,プレートテクトニクスや地球環境の変遷の解明を目指す深海掘削船システムの開発研究等を行っている。

有人潜水調査船「しんかい6500」

また海洋観測については,海洋の実態解明を進めるため,海洋レーザー技術や音響トモグラフィー等の広域観測技術に関する研究開発を行っている。さらに,沿岸域の適切な管理と開発に資するため,波力利用技術の研究開発や各地域において自治体との共同研究開発事業を推進した。

一方,関係省庁や大学の間における総合的な連携協力の下に,我が国及び東アジア地域の水産,気象等に大きな影響を与えている黒潮の大蛇行メカニズムの解明等を行うための黒潮の開発利用調査研究,科学技術振興調整費による熱帯・赤道域を中心とした大気と海洋の相互作用の解明に関する研究,海洋の熱及び物質の移動現象の解明に関する研究を推進している。

スーパーコンピュータが描き出した海洋の温度分布と流れ(防 災科学技術研究所)

文部省では,東京大学海洋研究所等が中心となって,海洋環境の変動の解明・予測,保全のための総合的観測システム構築を目的とする世界海洋観測システム(GOOS)に関する基礎研究,深海底を掘削し,海洋底プレート運動・構造等の解明に資する国際深海掘削計画(ODP)及び西太平洋海域共同調査への参加,海洋の物質循環の解明に資するオーシャンフラックス研究等の海洋に関する学術研究を行っている。

農林水産省では,水産関係試験研究機関が中心となって,バイオテクノロジーを導入した養殖業振興のための技術開発をはじめ,水産資源の培養,漁場環境の保全,水産物の持つ人の健康に有用に働く機能の適正な評価とその有効利用のための研究開発等を行っている。

通商産業省では,資源エネルギー庁,工業技術院地質調査所が中心となって,海底鉱物資源の開発,海底地質の調査等を行っている。

運輸省では,海上保安庁においては水路業務運営のための海洋観測等を,気象庁において気象業務推進のための海洋気象観測やエルニーニョ現象の解明等,海洋気象現象の把握及び気候変動に関する調査・研究等を行っている。

第3-4‐6表 主な海洋科学技術分野の研究課題(1993年度)


郵政省では,通信総合研究所において,海洋油汚染・海流・波浪などの計測技術及び予測技術を確立するための高分解能3次元マイクロ波映像レーダの研究,船舶通信のための海上衛星技術の研究開発等を行っている。

建設省では,土木研究所において海浜の安定化と混合砂の分級に関する研究,熱帯地域における海岸の保全手法に関する研究等を実施している。また,国土地理院において,沿岸海域基礎調査等を行っている。

なお,海洋開発推進計画に基づき関係省庁が1993年度に実施する主な海洋科学技術分野の研究開発の課題は, 第3-4-6表 のとおりである。

(8)地球科学技術

人類の長年にわたる地球に対する探求を通じ,近年,地球及び地球の諸現象に関する知見の蓄積が急速に進んでおり,地球を一つの系として把握することが可能な段階になっている。これらの成果を地球の諸現象の予測・予知や人類の持続的発展に利用するとともに,多くの未知の領域への探求を一層活発に行うべきとの要請が高まってきている。また,人間活動の増大が原因と考えられる地球規模の環境変動が世界的に大きな問題となっており,地球は無限であり不変であるとの認識を改め,人間と地球の自然とが調和・共生する科学技術への指向が強くなってきている。

このような状況を踏まえ,我が国においては,科学技術会議の答申を受けて,1990年8月に,今後10年程度を展望した「地球科学技術に関する研究開発基本計画」が内閣総理大臣決定され,地球を深く理解し,その成果を活用して人類の繁栄に資する科学技術である地球科学技術に関し,研究開発を推進するに当たっての基本的考え方,重要研究開発課題並びに地球科学技術を推進するに当たって政府が担うべき役割及び実施すべき施策が示されている。また,特に地球環境保全に関しては,政府部内に設けられた地球環境保全に関する関係閣僚会議において,1990年度より毎年度,「地球環境保全調査研究等総合推進計画」が策定されている。

地球環境問題については,1992年6月に,ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国連会議(UNCED:地球サミット)において,21世紀に向けての国家と個人の行動原則である「環境と開発に関するリオ宣言」,同宣言の諸原則を実行するための行動計画である「アジェンダ21」等の採択,気候変動枠組条約等への多数国による署名等多くの成果が得られ,これらを踏まえ,今後とも積極的な取組みを推進することが必要である。特に,高度な科学技術を有する我が国は,この問題に科学技術の面からも積極的に取り組み,国際的に貢献することが必要である。

1) 地球的規模の諸現象の解明に係る研究開発等

地球温暖化,オゾン層破壊,異常気象,地震,火山噴火等の地球的規模の諸現象は,我々人類の社会生活と極めて密接な関連を有し,重大な影響を及ぼすおそれがあることから,その現象を科学的に解明し,適切な対応を図ることが強く要望されている。

また,地球科学技術が対象とする事象は,地球温暖化,地殻変動等時間的にも空間的にも広がりを有し,一国のみの問題にとどまらないものである。このため,研究開発を進めるに当たっては,グローバルパートナーシップを確保することが極めて重要であり,世界気候研究計画(WCRP),地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)等の国際的な研究計画に積極的に参加するとともに,外国の研究機関等と共同研究を進めることが重要である。特に,我が国はアジア太平洋地域に位置し,経済的にも域内の各国と密接な関係を有することに鑑み,本地域に重点を置いた研究開発を推進することが必要である。

第3-4-7表 主な地球科学技術分野の研究課題(1993年度)



我が国においては,各省庁が自らの予算によって地球的規模の諸現象の解明等に係る研究開発を実施するとともに,科学技術振興調整費,海洋開発及地球科学技術調査研究促進費,地球環境研究総合推進費により,関係省庁の国立試験研究機関や大学,さらには海外の研究機関等の広範な分野の研究能力を結集し,地球的規模の諸現象の解明,人間活動が地球環境に及ぼす影響の評価等総合的,国際的な研究開発を積極的に実施している。

また,1992年12月には,関係省庁の協力の下に「アジア太平洋地球変動研究ネットワークに関するワークショップ」が開催された。本ワークショップは,アジア太平洋地域15カ国の地球変動に係わる多数の科学者及び政策決定者が,地球変動研究をアジア太平洋地域の各国が協力して進めるという目的で一同に会した初めての会合であり,ワークショップにおいて今後協力を進めていくための基礎となる有意義な意見交換が行われた。 現在,関係省庁において進められている地球科学技術に関する研究開発のうち主なものは 第3-4-7表 のとおりである。

2) 地球観測技術等の研究開発

地球的規模の諸現象の解明を図る上で必要な情報を集積するためには,地球観測により地球に関する情報を得ることが必要であり,地球観測技術の研究開発が重要である。そのため,1993年1月に,航空・電子等技術審議会より第17号答申「地球環境問題の解決のための地球観測に係る総合的な研究開発の推進方策について」が取りまとめられている。

現在,我が国では,この答申等に基づき地球観測衛星の研究開発,深海潜水調査船をはじめとする海洋観測技術の研究開発等地球観測のために必要な技術の研究開発を実施している。

(1)地球観測衛星

人工衛星による地球観測は,広範囲にわたる様々な情報を繰り返し,連続的に収集することを可能とするなど,極めて有効な観測手段であり,現在,特に地球環境問題の解決に向けて,国内外の関係機関と協力しつつ,総合的な推進を行っている。

宇宙開発事業団においては,海洋観測衛星1号「もも1号」及び1号-b「もも1号-b」,地球資源衛星1号「ふよう1号」を運用しているほか,地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)及び熱帯降雨観測衛星(TRMM)の開発を関係機関との協力の下に進めており,通商産業省においては,米国航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星である極軌道プラットフォーム1号(EOS-AMl)に搭載する資源探査用将来型センサ(ASTER)の開発を進めている。また,衛星を用いた地球環境の観測と処理手法を確立するため科学技術庁において,関係機関との協力の下,地球環境遠隔探査技術等の研究等を推進している。

また,こうして得られた人工衛星データの流通を図ることが重要であることから,科学技術庁においては,国際ネットワーク化に向けたデータベースの整備を実施している。

また,このような地球観測衛星による観測は国際協力の下に行うことが重要であり,このため1993年にはわが国が幹事国を務めている地球観測衛星委員会(CEOS),極軌道プラットフォーム調整会合(EO-ICWG)等の国際調整の場に積極的に参加し,貢献している。

(2)海洋観測技術

海洋は,地球的規模の諸現象に大きく関わっており,その果たす役割の解明が重要な課題となっている。このため,海洋科学技術センターにおいて,一万メートル級無人探査機「かいこう」の建造や海洋音響トモグラフィー等海洋観測技術の研究開発を推進している。

3) 地震予知等防災科学技術

我が国は,アジア大陸と太平洋の境に位置し,環太平洋造山帯に包含された弧状列島であり,地殻の変動が続いている。地形的には山地,島しょに富み平地に乏しく,急峻な斜面や急勾配の河川が多い。気候的には亜熱帯から亜寒帯に属し,黒潮,親潮等の暖流,寒流に囲まれ,夏は小笠原気団,冬はシベリア気団,梅雨期にはオホーツク海気団等の影響を受けるため,季節による気象の変化が大きい。また,西太平洋に発生する台風がしばしば来襲するなど,古来から地震,火山噴火,暴風,豪雨,豪雪,地すべり,がけ崩れ,洪水,高潮,津波等の気象,水象,地象の全てにわたる災害を受けてきた。

このため,防災対策をより効果的に講ずるため,災害発生の原因となる自然現象の解明と予知・予測にはじまって,災害発生の予知,災害防止,被害の軽減及び災害復旧に至る一連の過程において,科学的知見を蓄積し,それを十分に活用することが重要である。このような背景のもとに1981年7月,内閣総理大臣による「防災に関する研究開発基本計画」が決定された。

この基本計画においては,次の4つの視点が示されており,我が国における防災に関する研究開発は,これに沿って実施されている。

・自然現象を解明するための観測・研究,被災過程を解明するための研究,さらには災害を未然に防止又は軽減するための研究等防災科学技術の基礎の充実
・豪雪,火山噴火等による災害のように,その発生地域が特定される災害の地域性を重視した研究開発の推進
・耐震,耐火,水防といった従来の個別の防災科学技術の一層の高度化を図り,都市全体をシステムとしてとらえ,人間の視点に立って総合的かつ効果的な都市防災に対応する研究開発の推進
・学際的領域を含め,多数の領域の科学技術を有機的に連係し,人文,社会科学上の知見などを活用した多角的視点から総合的に進める防災に関する研究開発の総合的促進

なお,現行基本計画策定後10年余が経過し,この間,基本計画に基づき防災に関する研究開発が進展する一方で社会構造の変化,我が国に対する国際貢献の協力貢献の協力要請の増大等,我が国の防災に関する研究開発を巡る状況が大きく変化してきていることに鑑み,現在,科学技術会議防災科学技術部会において,新たな基本計画の検討が行われている。

各省庁における防災科学技術研究所は, 第3-4-8表 に示すとおりであり,その研究内容は地震予知,地震防災,火山噴火予知,雪氷防災対策,気象・水象災害対策,地球科学技術など多岐にわたり,かつ,宇宙開発技術,海洋開発技術等先端科学技術を駆使しているものもかなりある。このほか,1991年1月に始まり,一次沈静化の後,1992年8月から再び活発化した西表島周辺地域の群発地震活動に対して,1992年度科学技術振興調整費による緊急研究として「西表島周辺地域の群発地震活動に関する緊急研究」を実施した。また,1993年7月12日に発生し,大きな被害をもたらした「北海道南西沖地震」に対しては,1993年度科学技術振興調整費による緊急研究として「北海道南西沖地震に関する緊急研究」を実施している。この他,科学研究費補助金による緊急の研究として,1992年度に「続発する西表島群発地震の調査・研究」を,1993年度に「平成5年北海道南西沖地震・津波とその被害に関する調査研究」,「平成5年8月豪雨による鹿児島災害の調査研究」等を実施している。

なお,地震予知については,総合的かつ計画的な施策を推進するため,科学技術庁長官を本部長とする「地震予知推進本部」が設置されている。また,地震・火山噴火予知については,測地学審議会が1993年7月に「第7次地震予知計画」及び「第5次火山噴火予知計画」を建議したところである。

また,科学技術庁では,防災科学技術研究所において首都圏の観測体制を強化するため,3000m級地震観測施設の建設など広域深部観測施設の整備を進めている。

第3-4-8表 主な防災科学技術分野の研究課題(1993年度)


国際協力については,国際協力事業団(JICA)を通じ,開発途上国の研究者等を我が国の研究機関等に受け入れ,研修を実施している。

1992年度においては,気象災害,土砂災害,地震防災等の防災技術を修得させるための「防災技術セミナー」の他,地震工学研修,火山学・火山砂防工学研修,気象学研修等が実施された。

この他,二国間協力や天然資源の開発利用に関する日米会議,国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)/世界気象機関(WMO)台風委員会等との研究協力を実施している。

さらに,国際協調行動により自然災害を軽減することを目的として1990年から国際防災の10年(IDNDR)が開始されたが,これに先立ち我が国の推進母体として,1989年5月に「国際防災の10年推進本部」(本部長 内閣総理大臣)が組織され,同年11月,事業推進の基本方針が決定された。また,この趣旨に沿って1993年3月,雪氷災害軽減に関するワークショップが開催された。


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