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第3部   我が国の科学技術政策の展開
第1章  科学技術政策大綱

政府はこれまで内閣総理大臣を議長とし,関係閣僚,有識者で構成される科学技術会議の答申に基づき,1986年3月に「科学技術政策大綱」を閣議決定し,より豊かな社会及び国民生活の創造に向けて,創造性豊かな科学技術を機軸とした科学技術振興政策の展開に努めてきた。

内閣総理大臣はその後の情勢の変化を踏まえ,来るべき新世紀を展望して今後10年間にとるべき科学技術の総合的基本方策について1990年6月に科学技術会議に諮問し,答申が1992年1月にまとめられた。

政府はこの答申を踏まえて,1992年4月に新たに「科学技術政策大綱」を閣議決定した。

新しい大綱では,新世紀に向けてとるべき科学技術政策の基本的な方向として,我が国が,持てる経済力と科学技術力を活用し,あるいはそれらを一層強化しながら,科学技術によって国際社会と人類全体のために貢献していくことを基本的な考え方として,「地球と調和した人類の共存」,「知的ストックの拡大」,「安心して暮らせる潤いのある社会の構築」の3つの目標を掲げて,積極的かつ総合的な科学技術政策を展開すべきであるとしている。

これらの3目標の実現のためには,政府が果たしていく役割が極めて大きく,一方では,基礎研究の主要な担い手,人材養成機関及び国際的な科学技術活動の核である大学・国立試験研究機関は,施設・設備の老朽化・陳腐化,要員の不足,研究者の高齢化等の問題を抱えている。今後,政府の研究開発投資の拡充を図り,それにより,まず,大学・国立試験研究機関の研究環境を早急に改善することが必要となっている。

また,これらの目標を実現するため,「科学技術と人間・社会との調和の確保」,「人材の養成及び確保」,「研究開発投資の拡充」,「研究開発基盤の強化」,「研究活動の活性化と創造性の発揮」,「国際的な科学技術活動の強化」,「地域における科学技術の振興」の7つの重点施策を定めるとともに,重点的に推進すべき研究開発分野を明らかにしている。

科学技術政策大綱

1 基本方針

人類が,安定し,充実した21世紀を築いていくためには,人間・社会及び環境との調和に配慮しながら,科学技術の一層の発展を図っていくことが必要不可欠であり,とりわけ,国民の知的創造力が最大の資源である我が国は,将来を科学技術の発展に託するところが大きい。このような認識の下に,我が国が国際社会及び人類全体に貢献することが必要であることを踏まえつつ,次の3点を目標として,積極的かつ総合的な科学技術政策を展開する。

1) 地球と調和した人類の共存地球環境問題,エネルギー問題,食料問題等の地球規模の諸問題の解決並びに安定した国際秩序の構築及び南北問題の解決を目指す。
2) 知的ストックの拡大人類全体の利用に供されるよう,基礎研究の成果をはじめとする質の高い科学技術の知識をバランスよく蓄積する。
3) 安心して暮らせる潤いのある社会の構築人口構成の急激な高齢化に備えるなど,社会的な課題に適切に対応しつつ,質的に豊かな国民生活を実現する。

2 重点施策の推進

科学技術の振興を支える体制及び推進条件の整備強化を図るため,適時,重点的に講ずべき施策に関する基本指針の策定等を図りつつ,以下の施策を推進する。特に,大学,国立試験研究機関,試験研究を行う特殊法人等が果たすべき多様で重要な役割を踏まえ,所要の見直しを行いつつこれらの研究開発能力及び人材養成能力を抜本的に強化する。

(1) 科学技術と人間・社会との調和の確保

科学技術が国民生活及び社会の広範な領域に深い影響を与えているとの認識の下に,人間・社会のための科学技術という原点に立ち,科学技術と人間・社会との調和を図る。

ア 既に実用化され,普及している技術について,安全性及び人間・社会との適合性の向上に努めるとともに,新しい技術について,必要に応じ,当該技術が人間・社会に及ぼす影響を多面的に評価し,その結果を分かりやすい形で国民に示すように努める。
イ 国民が科学技術に親しみと理解を持ち,これを有効に使いこなせる土壌を培うため,科学技術に対する生涯学習の機会の増大,科学博物館等の整備,普及啓発活動の充実等を図る。

(2) 人材の養成及び確保

科学技術の振興にとって,人材が鍵となることに鑑み,技術者,研究者及び研究支援者の質的・量的な充実に努める。

ア 初等中等教育において観察及び実験を一層重視するなど,科学的な好奇心を培う上で極めて重要な実体験を得る機会を増大させることにより,科学技術に対する夢と情熱を持った青少年の育成に努める。また,技術者,研究者等の処遇及び勤務環境の改善の促進等により,これらの職業の魅力の向上に努める。
イ 大学,高等専門学校及び専修学校の教育機能を組織的かつ体系的に強化し,引き続き,必要な人材を養成する。特に,大学院については,修士課程の学生の定員の拡大に努めるとともに,博士課程の学生に対する経済的支援の一層の充実等により,博士課程の学生の定員の充足及び拡大に努める。また,大学院独自の教育研究組織の整備及び教育研究費等の充実に努める。
ウ 科学技術の分野において,女性の活躍の場を広げていくことが重要であり,女性の勤務の継続等を容易にするため,男女の均等な機会及び待遇の確保,出産・育児期における勤務形態の選択肢の多様化等を促進する。また,高齢者が能力に応じて働き続けることができるよう,環境整備を行う。
エ 大学,国立試験研究機関等について,処遇及び研究環境の改善により,職業としての魅力の向上を図り,年齢構成の是正及び要員の拡充に努める。

(3) 研究開発投資の拡充

研究開発力は,研究開発投資により形成される知識及び技術の累積並びに研究開発基盤に大きく依存することに鑑み,我が国における研究開発投資を継続して確保する。

我が国全体の研究開発投資は,科学技術会議の諮問第11号に対する答申(昭和59年11月27日付け)で示された目標を達成し,我が国の科学技術水準を大きく向上させる一因となった。しかしながら,基礎研究については依然として伸び悩みの状況にあり,様々な支障が生じていることを踏まえ,本大綱に示す施策及び研究開発を推進することにより,我が国の研究開発投資構造が産業競争力の確保のための研究開発に対する投資の比率が極めて高いものから調和のとれたものへと転換していくことを促す。この研究開発投資構造の転換の過程において,民間の研究開発投資の一層の充実を支援するための制度改善や環境整備に努めることはもちろんであるが,時々の財政事情等を踏まえつつ,政府の研究開発投資額をできるだけ早期に倍増するように努める。

(4) 研究開発基盤の強化

科学技術の高度化及び大規模化の進展に対応して,研究開発基盤の重要性が増大していることに鑑み,この強化を図る。

ア 老朽化し,又は陳腐化している大学及び国立試験研究機関の施設・設備の更新等を早急かつ計画的に行う。また,先端的かつ高度な研究を行うための施設・設備を大学,国立試験研究機関,特殊法人等において整備し,国内外の研究者に幅広く開放するとともに,共同利用を促進する。
イ 機器,資材,遺伝子資源等の開発保全供給機能の充実を図る。
ウ 文献情報の流通促進,ファクトデータベースの構築及び利用促進等により,科学技術情報の生産及び流通を拡大する。

(5) 研究活動の活性化と創造性の発揮

基礎研究をはじめとする研究活動を活性化するため,研究者が創造性を最大限に発揮できるような柔軟で競争的な研究環境を整備するとともに,国内外の優秀な研究者を誘引する優れた研究環境を整備する。

ア 産学官及び外国との研究交流の一層の促進により,研究者の流動化を促進するため,制度改善等を行う。また,分野の異なる研究者間の交流をはじめとする研究者間の交流の機会を拡充するため,環境整備を行う。
イ 研究活動の基盤となる経常的な研究資金を拡充するとともに,競争的な環境の下で提供される多様な研究資金の拡充及びその国立試験研究機関への受入れの円滑化を図る。また,民間からの資金・物品の受入れを促進する。
ウ 研究者が研究開発に専念することを可能とするため,研究支援体制の強化,事務的な業務の簡素化等を促進する。
エ 研究能力及び指導力に優れた研究者を国内外から幅広く求め,研究運営に従事させることを促進する。
オ 適切な評価が行われることを前提に,研究者に自由度を持たせることを促進する。また,研究評価に基づく優秀な研究者の厚遇等を推進する。
カ 要員,資金等の研究資源の重点的な投入により,多様な形態のセンター・オブ・エクセレンス(卓越した研究指導者,最新の研究情報,優れた施設・設備,充実した研究支援体制等を有する中核的な研究機能をいう。)を育成する。

(6) 国際的な科学技術活動の強化

我が国の国際的な立場を踏まえ,国内において,基礎研究の強化,研究開発基盤の整備等を進めながら,国際的な科学技術活動を強化する。

ア 国際共同研究開発を積極的に推進する。特に,我が国独自の発想を取り入れた国際共同研究開発を提案し,主導する。また,国際共同研究開発を促進するため,環境整備を行う。

イ メガサイエンス(大規模な施設・設備,広範な研究者及び技術者の取組等が必要であるため,国際的な協力によることが不可欠な研究開発プロジェクトをいう。)について,我が国として主体性を持って取り組むことが必要であり,個々のプロジェクトごとに,他の研究開発を圧迫することのないよう配慮しつつ,国内外の研究者及び技術者の間での議論,国内の研究実績等を踏まえ,取組み方を検討する。また,メガサイエンスについての国際的な共通認識の形成に努める。

ウ 開発途上国の自助努力に対し,人造りを中心に,相手国の国情に応じたきめ細かな協力を行うことを基本的な考え方として,科学技術協力を質的・量的に拡充する。

(ア) 開発途上国との対話の機会の拡充等により,開発途上国の要請等の把握に努めるとともに,開発途上国及び我が国の科学技術に関する案内情報を備えた窓口機能を強化する。
(イ) 研修員の受入れ,専門家の派遣等の政府開発援助の技術協力の拡大を図るとともに,資金協力との緊密な連携を確保し,協力の効果的な実施に努める。
(ウ) 研究開発力の向上を目指し,また,多くの科学技術上の課題を抱えるアジア太平洋地域等の国・地域に対し,研究者の交流の拡大等を行い,人材の育成に対する協力を強化するとともに,研究協力を組織的かつ継続的に展開し,その強化に努める。
(エ) 研究協力と技術協力及び資金協力との緊密な連携を確保し,協力の効果的な実施に努める。

エ 旧ソ連地域等の市場経済への円滑な移行を支援するため,必要に応じ技術的支援を行うとともに,研究協力を強化する。
オ 国際的に開かれた研究体制を整備するため,国内外における日本語研修の実施,フェローシップの拡充等を行い,外国人研究者の登用・受入れを促進するとともに,我が国における活動の円滑化を図る。また,研究者等の科学技術関係者の海外への派遣の機会を拡充する。
カ 科学技術情報の国際的な流通を拡大する。
キ 科学技術の成果の国際的な流通及び移転を促進するため,知的所有権の保護のレベルの共通化,科学技術に係る諸分野での標準化等に努める。

(7) 地域における科学技術の振興

地域における科学技術活動は,地域の活性化の原動力となって多極分散型国土の形成に資するとともに,地域の様々な要請にきめ細かく応え,地域住民の生活の質を向上させるものであること等に鑑み,地域の主体的かつ個性的な取組を積極的に支援し,地域における科学技術の振興を図る。

ア 地方公共団体による科学技術政策の策定,地方公共団体の科学技術推進機能の強化,地方公共団体が設置する研究所及び試験所の活性化等の研究開発機能の強化,地域間の連携の強化等を支援する。
イ 科学博物館の整備等による青少年の育成のための地域の取組を支援する。
ウ 研究者が地域に定着することを可能とするため,地域において,先導的・基盤的な研究施設の整備を推進するとともに,科学技術情報ネットワークの地域展開を図る。また,大学,国立試験研究機関等との研究交流の促進により,地域において科学技術を担う人材の養成に努める。
エ 大学,国立試験研究機関等は,基礎研究を中心に,当該大学,国立試験研究機関等が立地する地域の研究開発を先導していくように努める。また,必要に応じ大学,国立試験研究機関等の研究開発の調整能力を活用しつつ,地域の特性を活かした研究開発,地域住民の生活に係る研究開発等を地域と連携して推進する。

3 基礎科学の振興と重要分野の研究開発の推進

(1) 基礎科学の振興

新しい現象の発見及びそれを解明する理論の構築,未知の現象の予測等を目指す基礎科学は,人類の知的なフロンティアを拡大し,新しい自然観を創る基礎となり,人々に夢を与えるとともに,次世代の科学技術に新たな発想や指針を与えるものであることに鑑み,積極的にその振興を図る。

(2) 重要分野の研究開発の推進

重点的に振興を図るべき分野ごとに研究開発基本計画を逐次策定し,又は改定しつつ,適切な研究評価の下に,以下の重要分野の研究開発を精力的かつ効果的に実施し,又は支援する。

ア 基礎的・先導的な科学技術

(ア) 物質・材料系科学技術
(イ) 情報・電子系科学技術
(ウ) ライフサイエンス
(エ) ソフト系科学技術
(オ) 先端的基盤科学技術
(カ) 宇宙科学技術
(キ) 海洋科学技術
(ク) 地球科学技術

イ 人類の共存のための科学技術

(ア) 地球・自然環境の保全
(イ) エネルギーの開発及び利用
(ウ) 資源の開発及びリサイクル
(エ) 食料等の持続的生産

ウ 生活・社会の充実のための科学技術

(ア) 健康の維持・増進
(イ) 生活環境の向上
(ウ) 社会経済基盤の整備
(エ) 防災・安全対策の充実


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