ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   若者と科学技術
第2章  若者の科学技術離れ傾向の背景

若者の科学技術離れ傾向が,最近指摘されるようになってきた背景としては,様々な要因が考えられる。「先端科学技術研究者調査」によると,若者の科学技術離れ現象が起きていると感じている回答者がその原因として選択した主な項目は,「社会における科学技術者の処遇が低い」(67.1%),「物理,化学などの科目が試験テクニック重視となっておもしろみが感じられなくなった」(40.1%),「科学することの楽しさが青少年に伝わっていない」(36.0%),「理工系の才能のある者が科学技術以外の分野でも活躍できるようになった」(32.6%),「若者の思考形態が論理的思考から感覚的思考に変化した」(31.8%)等である (第1-2-1図)

一方,「民間企業研究活動調査」によると,民間企業が理工系学生の製造業離れの原因として選択した主な項目は,「他の業種/職種との給与・賃金格差」(66.0%),「製造業等の労働環境のイメージが悪いため」(64.4%),「理工系の専門知識を活かせる業種/職種が金融業等にまで拡大したため」(40.8%)等である (第1-2-2図)

このように,現実に科学技術活動に携わっている側の過半数が若者の科学技術離れ,理工系学生の製造業離れの原因として選択した項目は,処遇や勤務環境に関する問題であった。このような事項が若者の科学技術離れの原因として強く認識された背景には,これら調査の回答者の多くが若者の科学技術離れの傾向を人材確保の問題として見ているという事情があるとみることができよう。

しかし,第1章で分析したように,若者の科学技術離れの傾向の具体的内容である「科学技術に対する能動的関心」の低下の傾向は,進路選択面における若者の科学技術離れの傾向が話題となり始めた1988年以前には既に広い範囲で進行しており,これが進路選択面における若者の科学技術離れの傾向を引き起こす大きな底流を形成していた可能性も考えられる。

第1-2-1図 研究者の考える科学技術離れの原因

第1-2-2図 民間企業の考える理工系学生の製造業離れの原因

従って,進路選択面における科学技術離れの傾向が指摘される前から若者の「科学技術に対する能動的関心」の低下をもたらしていた要因を探ることが,より広範な若者の層の「科学技術に対する能動的関心」を高めていく上で重要な手がかりにつながっていくと考えられよう。

前述のとおり,「先端科学技術研究者調査」によれば,若者の科学技術離れの傾向をもたらした原因として科学技術者の処遇や勤務環境の問題以外に選択された項目の主なものには,「物理,化学などの科目が試験テクニック重視となっておもしろみが感じられなくなった」(40.1%)及び「科学することの楽しさが青少年に伝わっていない」(36.0%)がある。このように,関係者の間では,今の若者にとっては,科学技術の知的な部分に触れることが,かつて程には「おもしろい」あるいは「楽しい」こととは感じられなくなったという認識が広まりつつある。このような若者の意識変化が若者の科学技術離れの傾向が指摘される前から次第に若者の「科学技術に対する能動的関心」の低下をもたらしていた可能性があると考えられよう。

科学技術の知的な部分に触れることの「おもしろさ」や「楽しさ」が感じられなくなった要因については,例えば,上級学校への受験競争の加熱化により理科教育がややもすると多くの知識を伝達教授し,探求を通して科学的に追求するといった授業は必ずしも十分でなくなったとする見方,塾での勉強に追われ,遊びの面でも漫画やテレビゲームなどの既成の娯楽素材が潤沢に与えられるようになったことから,科学技術に関して「なぜだろう」と考えるようなゆとりが子供の生活から失われていったとする見方,社会経済の発展の結果,科学技術以外にもおもしろいものがたくさん提供されるようになったとする見方,公害の発生などから科学技術に対する信頼感がゆらいできたためとする見方など,関係者の間には様々な意見があり,科学技術会議などの場において議論が続けられている状況にある。

ここでは,科学技術の知的な部分に触れることの「おもしろさ」や「楽しさ」が感じられなくなった要因に関する検討の一つの視点として,科学技術の発展とその成果の日常生活への普及・浸透がかえって生活の中で科学技術を“見え゛にくいものとし,若者の「科学技術に対する能動的関心」低下をもたらした可能性について検討する。これまでは,若者の科学技術離れの傾向がこのような視点から議論される機会はあまりなかったが,若者は生活の中で社会に対する見方や自分の生き方に対する考えを固めていくという意味では,このような視点は本来極めて重要であるはずである。

また,第1章第1節で述べたように,進路選択面における若者の科学技術離れの傾向は,1980年代の半ば以降の米国,英国等においても指摘されている。我が国と米国,英国等との間には教育システム等の面では大きな違いがあるが,他方,科学技術の発展及びその成果の生活への普及・浸透の面では,共通点が多いとみられる。このようなことも,生活の中における科学技術の位置付けの変化が,若者の科学技術離れの傾向の,これらの国に共通する構造的な要因となっている可能性を示唆していると言えよう。

さらに,第1章第2節で示したように,最近みられる若者の「科学技術に対する能動的関心」の低下は,主に子供から大人へと変わっていく10歳代の成長過程で,幅広く起きている現象のようにみえる。この時期は,若者の物事をみる視点が,心の内面から出てくる好奇心や夢が中心となる子供の視点から,より現実の生活を踏まえた大人に近い視点へと移行していく過程にあるとみられる。このようなことからも,現実の生活の中における科学技術の位置付けの変化が大人へと成長する過程にある若者に影響を及ぼしている基本的な要因となっている可能性は否定できない。

以下,このような視点から,生活の中における科学技術の位置付けの変化が若者の科学技術に対する意識・態度に及ぼしている影響について検討し,次に進路選択面での若者の科学技術離れの傾向との関係において,若者の気質変化が進路選択に及ぼしている影響について検討する。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ