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第1部   若者と科学技術
第1章  若者の科学技術離れの傾向
第3節  懸念される影響
1.  科学技術系人材不足の懸念



(1) 科学技術系人材に対する需要の現状

現在は,景気の低迷により,科学技術系人材については,数年前のような切迫した不足感は感じられなくなり,逆に新規学卒者について,就職難が伝えられる状況となっている。しかし,科学技術系人材に対する需要については,不況により縮小しつつも,文系の人材に比べると,相対的にまだ根強いものがある。このため,今後,景気が回復すれば,科学技術系人材に対する需要は再び拡大し,科学技術系人材の不足感が再び高まるようになることが予想される。

(新規学卒者の募集・採用状況)


1) 新規学卒者の募集状況

労働省が1992年3月の卒業者及び1993年3月の卒業予定者に関する主要企業の募集・採用状況等を明らかにすること等を目的として,東京,大阪及び名古屋の各証券取引所上場企業2,310社(有効回答企業1,011社)に対して,1992年10月現在で実施した委託調査「新規学卒採用計画等調査」によると,大卒以上の事務・営業系では,1992年度採用の募集総数は50,407人,1993年度採用予定の募集総数は40,814人であり,19.0%減となっている。一方,大卒以上の技術系では,1992年度採用の募集総数は33,779人,1993年度採用予定の募集総数は29,151人であり,13.7%減となっている。

また,同調査により,大卒以上の1993年度採用予定の募集状況を企業規模別にみると,前年度に比べ,事務・営業系では「5,000人以上」が24.7%減,「1,000〜4,999人」が13.7%減,「999人以下」が8.5%減となっており,技術系では,それぞれ14.4%減,14.6%減,2.8%減となっている (第1-1-22図)。


2) 新規学卒者の採用内定状況

「新規学卒採用計画等調査」によると,1992年度に新規学卒者を採用した企業全体の採用者総数は大卒以上の事務・営業系では,49,604人,1993年度の採用内定者総数は40,294人であり,18.8%の減となっている。一方,大卒以上の技術系では,それぞれ32,189人,28,125人であり,12.6%の減となっている。

第1-1-22図 1993年度採用予定の募集状況の対前年度比

次に,財団法人日本人事行政研究所が東京証券取引所第1部上場企業等1,019社(回答企業308社)を対象として行った「将来あるべき人事管理を考えるための基礎調査(平成4年)-人材流動化時代における人材確保,人材活用の現状と将来に関する調査-」により,事務系,技術系及び研究系別の採用状況の対前年比較をみる。同調査によると,1992年度の大学卒の採用状況については,技術系,研究系の採用を増やした企業の比率は,それぞれ32.6%,32.5%となっており,採用を減らした企業の比率は,それぞれ19.1%,10.4%となっている。これに対し,事務系の採用を増やした企業の比率は30.6%,採用を減らした企業の比率は27.1%となっている (第1-1-23図(1)) 。1993年度の大卒の採用予定数については,技術系,研究系の採用を増やす企業の比率は,それぞれ27.6%,21.4%となっており,採用を減らす企業の比率は,それぞれ31.1%,30.2%となっている。これに対し,事務系の採用を増やす企業の比率は14.9%,採用を減らす企業の比率は45.5%となっている (第1-1-23図(2))。

また,「新規学卒採用計画等調査」により,大卒以上の1993年度採用内定状況を企業規模別にみると,前年度に比べ,事務・営業系では「5,000人以上」が26.5%減,「1,000〜4,999人」が11.3%減,「999人以下」が0.1%増となっており,技術系では,それぞれ17.0%減,8.7%減,12.0%増となっている (第1-1-24図)。

1993年度における大卒以上の募集総数,採用内定者総数は,いずれも,前年度に比べ,事務・営業系,技術系とも減少しているものの,減少率は事務・営業系よりも技術系の方が小さくなっている。また,1993年度に技術系,研究系及び事務系の大卒者の採用を減らす予定の企業の比率は,いずれも採用を増やす予定の企業の比率を上回っているが,事務系の大卒者の採用を減らす予定の企業の比率は,技術系,研究系を減らす予定の企業の比率を上回っており,また,事務系の大卒者の採用を増やす予定の企業の比率は,技術系,研究系を増やす予定の企業の比率を下回っている。

第1-1-23図 新規採用者数の職種別対前年比較

第1-1-24図 1993年度採用内定状況の対前年度比

これらのことから,不況により全体としては採用を絞っていく中でも,科学技術系人材については,できる限り採用を減らさないようにしようとする傾向がうかがえる。


(2) 科学技術系人材の長期的な需要見通し

科学技術系人材に対する需要は,景気変動,技術革新等,様々な要因によって影響され,また,科学技術分野毎に異なるとみられるため,これについて正確な長期的見通しを得ることは非常に困難と考えられる。しかし,人材に対する需要に関係する各種長期見通しは,今後長期的には,科学技術系人材に対する需要が拡大していく方向にあることを示している。

(長期的な就業構造)

1991年平均の労働力人口(15歳以上の人口のうち,就業者と完全失業者を合わせたもの)は6,505万人であるが,今後の若年人口の減少を受けて,21世紀以降,緩やかな減少に向かうと予測されている。

経済審議会は,1991年に,このような労働力人口の推移見通し,我が国が国際社会で果たすべき役割等を考慮し,今後20年の我が国が,どのような時代を迎えるかについてとりまとめた報告書「2010年への選択」を発表している。同報告書では,所得水準の向上等経済発展の量的側面に視点をおいてきたこれまでの時代とは異なり,ゆとりある豊かな生活の実現に焦点を当てた適度な経済成長を目指さなければならないとの前提の下に,人口,労働力人口,労働時間等の制約の中で国民一人当たりの効用が最大化されるような成長の姿として,2010年の産業構造や就業構造を予測している。これによると,生産活動における製品・サービスの情報化・高付加価値化の進展等を受けて,専門的・技術的職業に従事する者の就業者全体に占める比率は,1990年の11%(690万人)から17%(1,091万人)に増加するとなっている (第1-1-25図)。

また,労働省においても,経済成長率を初めとする経済諸条件との整合性を考慮した産業別,職業別就業者の長期展望を1992年に発表している。この長期展望でも前述の経済審議会の見通しとほぼ同じ推計が得られており,2010年における専門的・技術的職業に従事する者の就業者全体に占める比率は,1990年の11%(690万人)から17%(1,122万人)に増加するとなっている (第1-1-26図)

専門的・技術的職業に従事する者がすべて科学技術系人材にあたるわけではない(総務庁統計局「労働力調査」によれば,1991年の専門的・技術的職業に従事する者に占める技術者の比率は27%。)が,今後の技術革新,情報化の進展を考えると,21世紀に向けて科学技術系人材に対する需要は,急速に拡大していくと予想される。

第1-1-25図 職業別就業者の現状と展望

第1-1-26図 職業別就業者の見通し

(研究者数の将来予測)

総務庁統計局「科学技術研究調査報告」によると,1992年4月現在の研究数は59.8万人(人文・社会科学を含む)であり,10年前の約1.5倍となっている。ここでは,研究者の需要量と供給量が今後どのように推移するかについて検討する。

科学技術庁が実施した委託調査「基礎的・先導的科学技術の推進のための研究人材に関する調査研究I」における人文・社会科学系を含めた研究者の需給予測により研究者の需要量及び供給量の将来見通しをみる。同調査研究では,研究者の需要量については,実質国民総生産(GNP)及び大学学部学生数の関数と考えた予測式を,一方,研究者の供給量については,生産年齢人口の関数と考えた予測式を,それぞれ1989年までの研究者数の推移から決め,1990年以降の研究者の需要量と供給量を予測している。ここで用いられた予測式は極めて単純化されたものであり,研究者の需要量,供給量を左右する要因は,実質GNP,大学学部学生数,生産年齢人口以外にも研究開発投資額など多く存在すると考えられる。従って,これにより将来の研究者の需給について厳密な予想をすることはできないが,その傾向を把握する上では参考になると考えられる。

この予測結果によれば,研究者の需要量は供給量を大きく上回り,2005年には実質GNPが年平均3%の伸び率で拡大した場合には約36万人,実質GNPが年平均4%の伸び率で拡大した場合には約48万人の需給ギャップが発生するとしている (第1-1-27図)


(3) 科学技術系人材の長期的な供給に対する不安

以上のように,長期的にみた場合,科学技術系人材に対する需要は拡大していくと予測されており,今後,若年人口が減少していく状況の下,このような需要の拡大に供給が追い付き得るか不安が持たれている。これに加え,若者の科学技術離れの傾向が今後とも続いた場合,これが将来における科学技術系人材確保の大きな制約要因の一つとなることが懸念される。

経済企画庁が実施した委託調査「平成4年度企業行動に関するアンケート調査」により,今後の民間企業の人材確保に対する考えをみる。今後人材が不足すると考える職種としては,技術系専門職をあげる民間企業が最も多く,全体の60.1%を占めている。逆に,技術系専門職が過剰となると考えている民間企業は,わずか3.5%に過ぎない (第1-1-28図)。

また,第1-1-7図に示したとおり,「民間企業研究活動調査」によると,回答企業の61.0%が,今後,理工系学生の製造業離れの風潮が続く,あるいは再び顕在化すると予想している。現在,産業界には雇用過剰感が広まっているが,これらの調査結果は民間企業の科学技術系人材の今後の供給に対する不安感が根強いことを示している。

第1-1-27図 研究者数の将来予測値

科学技術系人材は,民間企業のみならず,大学や国立試験研究機関などにおける研究活動や研究開発活動でも重要な役割を果たしている。

このため,これらの部門において科学技術系人材が十分に確保できなくなるような事態が生じた場合にも,様々な分野で科学技術の発展に支障が生じることが懸念される。

第1-1-28図 職種別人材の今後の過不足の見通し

また,若者の科学技術離れの傾向は,科学技術に対する夢と情熱を持たない者が科学技術系人材として供給されるという可能性をはらんでいるとみることもできよう。過去においては,我が国の科学技術系人材は,欧米先進諸国に比べて遅れた社会条件,相対的にみて貧弱な職場環境の下で我が国の科学技術の発展を支えてきた。このような恵まれない環境の中においても,我が国が科学技術の分野でめざましい成果を上げてきたのは,我が国の科学技術系人材に,科学技術に対する夢と情熱があったことによると考えられる。そういった意味で,若者の科学技術離れの傾向は,科学技術に対する夢と情熱が今後の科学技術系人材にも引き継がれていくか否かについても不安を投げかけていると考えることができよう。


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