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第1部   科学技術の地域展開
第3章  今後の展望
第2節  地域における科学技術政策の基本的考え方
2.  地域における科学技術の推進方策


前項では地域における科学技術の方向性として,科学技術の高度化をあげたが,科学技術の高度化をどのように進めるかについての推進方策を以下では触れてみる。

(1) 自主性

(地方公共団体の主体性)

地域の科学技術の振興に当たって重要なことは,科学技術の振興に当たっての方向性,推進方策など地域における科学技術の振興に当たっての重要事項を,当該地域の地方公共団体などが住民の理解や協力を得つつ主体的に決定していくことである。地域における科学技術の振興が期待するような成果をあげていくためには,地域における特色ある科学技術政策を企画し,総合的政策として推進していくことのできる体制を確立することが重要である。

地域において科学技術の振興を図っていくためには,単に研究拠点を誘致するだけではなく,積極的に地域における科学技術振興の構想を持つことが必要である。それぞれの地域においては,気候風土や生活様式の差,長い歴史を持つた文化,特色ある大学や企業,地元産業の発生など固有の自然社会環境が生まれている。さらには,交通網・情報網の整備の中で近隣の地域との密接な連繋も生まれ,広域での位置付けも加わるようになってきた。このような,地域独自の特性を考えるとき,地域で推進するべき科学技術については独自の構想が必要である。このような企画を行い,青写真を描くのが地方公共団体である。

現在地域では科学技術を推進する体制が設けられているが,長期的課題である科学技術政策に取り組むためには,総合的,横断的に対応することが望まれる。このような観点から,地方公共団体において所要の検討を行うことや,第三セクターや公設試験研究機関,大学など実施機関の中に,地域の中で全体のマネージメントを積極的に行う人材を確保することも重要である。

また,地域の科学技術の振興に当たっては,地方公共団体,地域の産業界等における積極的な取組みがなくては実効を上げることは難しい。そのため,各種の情報交換やノウハウの交換,協力の可能性などの意見交換を行うための協議の場を整えることは効果的であると考えられる。

(地域住民への普及啓発)

地方公共団体が,自主的な科学技術政策を推進していくためには地域住民の理解と協力を得ておくことが必要である。そのためには,地域住民の科学技術への関心を高める継続的な努力が不可欠である。その意味でも,科学技術を振興しようとする地域にあっては当該地域の住民の科学技術に対する関心を高めるような施策を積極的に進めるこどが望ましい。すでに第2章第4節の中で述べた,科学館の設置,青少年を一対象とした科学技術に親しむ機会の増進,各種研究機関の研究内容の親しみやすい普及啓発などは効果的である。筑波研究学園都市においては概成後の昭和60年,国際科学技術博覧会を開催した。この博覧会の開催により内外に研究学園都市の状況が知られるようになり,この時期を境に民間研究拠点の移転が顕著に進み始めたところである。

近年地域においては各種のイベントやテーマパークの開設が盛んであるが,このような機会を活用して地域の住民の科学技術に対する関心を高めていくことは極めて効果的である。

(2)個性化

第2章でも述べたように,地域ごとに科学技術に関する指標は異なっており,各地域が一律に同じ科学技術政策を実施することは困難である。例えば,島根県では地域の大学に工学部がないため,県の工業技術センターの科学技術ポテンシャルに対する期待は大きい。更に,地域には地域ごとの産業や研究の伝統があり,また地域振興の展望もあるところから,これらに即応した独自の科学技術政策が立案されることが望ましい。ライフサイエンスや材料,情報電子など全ての先端研究分野について万遍のない研究を実施することは研究開発資源の限界もあり困難な地域が多いと考えられる。また,当該研究を支援したり技術移転を受ける場合,地元の研究機関や産業にも限界があると考えられる。勿論,異業種間交流の望まれている地域もあり,分野を狭く限定する必要はないと考えられるが,第2章第3節に見た地域における研究拠点や研究者数,第7節の特定分野の研究者の見た地域の研究水準等( 第1-2-50図 )を踏まえながら地方公共団体の自主的な判断の中で総合的な展望の下に特色のある科学技術政策,顔のある科学技術政策をを展開することが期待される。

具体的な例をいくつか見てみると,岐阜県では最近,文部省核融合科学研究所,超高温材料研究センター,日本無重量総合研究所などが整備されているほか,従来から窯業土石関係の研究拠点が多く設置されており,極限環境をテーマとして研究機能の集積を目指している。

また,岡山県では生物系の優れた研究所が設置されており,このような環境を踏まえバイオテクノロジーへの関心が高く,テクノポリス計画においてもこのような業種が中心になっている。あるいは,原子力施設の多く立地する福井県ではエネルギー関連研究拠点を整備するアトムポリス構想を平成4年度から実施する予定としている。

特に,特色のある科学技術政策を推進する場合には,その地域において実施されていない分野や研究についてはむしろ近接する地域や国,場合によっては海外と協力して進めることが重要となり,その意味でも,個性化と次項の総合化は補完しつつ進められるべきと考える。

広域の例では九州各県は7県で6つのテクノポリス計画を実施するなど科学技術の推進を積極的に進めているが,その中でも福岡・佐賀県はネットワークによる九州北部研究学園都市建設構想,長崎県では一人一技を唱える特色ある工業技術センターの整備,熊本県ではテクノリサーチパークの設置,大分県では大分県ソフトパーク構想の推進,宮崎県では宮崎学園都市の建設,鹿児島県ではおおすみバイオポリス構想など独自の構想が進められている。

(3)総合的な科学技術政策

地域における科学技術を推進していくに当たっては,地域内の研究拠点の活動を促進させるだけでなく,地域と国の研究協力,隣接する地域間の有機的連繋や国際交流等が図られることが効果的である。あるいは,研究の推進に当たっても研究環境の整備の必要は当然であるが,それを支える研究支援施設・機関,交流触発などの場の確保に始まり,研究者の日常環境までを含む様々な要素が整備されることが望ましい。このように,研究推進方策を従来より広い観点からとらえることが必要となっている。このような総合化の観点から推進方策を以下分析してみることとする。

第1-3-1表 国と地域の研究連携例

1) 国の研究と地域の研究の協力融和

従来国の研究は,我が国全体のニーズを目標とし,研究に当たっても国際交流や同じ分野の先端的研究拠点との交流を図りながら進むことが多かつたため,当該研究拠点の立地する地域にあり,主として地元の産業や住民の生活の向上を目的とした研究拠点との連繋は比較的少なかつた。しかしながら,すでに述べたように国の研究も,地域に研究拠点を設置したり,地域に所在する既設の研究拠点の能力を活かしたり,地域の特性を生かした研究が増えつつある。

このような新しい状況下においては,国と地域の各々の機関の持つ特性を活かした研究を相互交流を図りつつ進めることが有意義である。共同研究や研究交流についてはすでに述べたが,最近の新しい例として,地域の研究者が国の研究プロジェクトに積極的に参加し,その成果を踏まえて地方公共団体において先端的な研究を行う研究拠点を設置する例も出てきている( 第1-3-1表 )。また一方,このような研究に関与した国の研究機関は積極的に地域における研究の向上のために協力を進めることが望ましい。

2) 広域的な協力

現在進められている地域における科学技術の政策の大半は都道府県ないし都道府県内の地域に関するものである。地方公共団体が行う地域行政として実施していくには,このような行政単位で政策が展開されることは当然のことであるが,一方科学技術の成果は地域を越えて応用することが可能である。

特に,研究開発はある程度の研究機能の集積は成果を上げるためには重要であるが,全ての地域においてあらゆる研究機能の集積を求めることは困難であり,地域ごとにその特色に応じた機能の整備をはかり相互に交流利用を進めることが現実的である。そのためには,地方公共団体の行政区分を越えた地域でそれぞれの地域が協力しあいつつ研究機能の整備を図ることも効果的である。現在,関西文化学術研究都市(京都府,大阪府,奈良県),東北インテリジェントコスモス構想(東北7県)等の整備が進められているが,地域における研究集積が進み,より高度な科学技術が推進されるに伴いこのような必要はますます高まるものと考えられる。

3) 国際交流・協力

近年我が国の国際化が進んでいる中で,特に国際的な科学技術活動の強化が望まれている。このような中で地域における科学技術も国際的な協力・交流を行うことが可能なものが増えてきている。すでに整備されている国の先端的な研究拠点については,広く国際的にも開かれた形態となっており海外からの利用も多い。地方公共団体の設置した,基礎的,独創的な研究を行う研究拠点の中には研究者について流動的な研究体制を取り,優れた研究者を海外からも招へいする例が増えている。地域における国際化の進展の例としてすでに科学技術関係国際会議の開催の急増があげたが,地域における基礎的研究の発信基地となるためにもこうした会議の開催は有効であり,その開催には地方公共団体が積極的支援を行っている例も多い。また,先端技術により産業の高度化を進めている地域や独自の自然環境・産業を活用した研究を行っている地域は技術移転や研究交流等により国際的協力を進めている例もある。このように地域において,国際交流・協力は進み始めており,地域のニーズに合わせて国際化の施策が講じられることが望ましい。

4) 研究・住居・生活・文化施設等の総合的整備

優れた研究,特に創造的な研究を進めるに当たっては,様々な知的触発や情報交換が行われる環境の整備が重要である。その際,まず優れた研究者の確保・研究所の設置・先端的研究設備などの整備が第一に必要であるが,更に研究者同士の触れ合いの場を増大させるための交流の場や施設の整備,また優れた研究所同士を結び付ける情報ネットワークや交通・情報インフラの整備,あるいは研究を進めていくに当たっての支援的機能として,分析試験,研究材料の提供,機器の維持などに熟練した技術者の確保なども欠かすことができない。これらは全国的な課題として考えるべき点もあるが,そのうちのいくつかは地域の中で実施できることが好ましい。

このような研究上の環境整備のほかに,良好な生活環境が整備されることが必要である。住・生活環境はもとより,自己の研究分野に限らず広範な知的環境の中で研究上の触発が行われることからも,レジャーや文化関係の環境整備も欠かせない。

(4)国と地域の政策の調和と対話

科学技術は,近年ますます高度化し,その政策もグローバルな経済活動や国際情勢を踏まえ,21世紀以後を見通す長期的な展望の下に大綱や計画として策定され,実施されている。一方,地域においては,キメ細かいニーズとして上がってくる地元産業や住民の生活などの要請が地方公共団体によって汲み取られ地域の科学技術政策として策定されている。このような国と地域の政策は同じ科学技術を対象としながらも異なる点が多い。

現在国の科学技術政策の立案に当たって,地域の意見を汲んだり,地域の科学技術審議会等に国の職員を委員として加えたり努力の払われているところであるが,今後は,キメの細かい政策に関する意見交換や情報の授受を行うことが必要になっていくと考える。

その意味では国において,目的に応じて地域の地方公共団体と科学技術に関し連絡や話合いの場を設け,または設置された場を有効に活用して政策の調和を図っていくことが望ましい。既に述べたように,科学技術会議において地域科学技術政策会合を開催し,科学技術庁において(財)全日本地域研究交流協会を通じた連絡交流等が実施されているところである。もちろん,地域における科学技術政策策定も最終的判断は地方公共団体が下すべきであるが,極めて広範多岐にわたり専門化している科学技術に関する政策を,時宜に応じて検討するに当たってはこのような機会を利用することは有意義であるし,また地方公共団体同士の意見交換をする機会も得難いことから積極的な参加が望まれるものである。


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