ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   科学技術の地域展開
第2章  地域と共に発展する科学技術
第2節  地域における科学技術の推進主体
2.  地域における科学技術の推進主体


(1)公設試験研究機関

第1章で見たように公設試験研究機関数は減少の傾向にあり,また,研究者数はほぼ横ばいで推移している。自然科学系の公設試験研究機関数は,昭和50年代前半は580〜590機関であるが,昭和56年に一時増加し,以降は緩やかに減少している。また研究関係従事者数についても50年代以降2万5千人台で推移している( 第1-2-5図 )。

第1-2-5図 公設試験研究機関の推移

公設試験研究機関の数や研究関係従事者数は増加していないが,最近の新しい状況に対応するため,近年公設試験研究機関の改編が特定の分野,また特定の県に偏らず全国的に行われている。ちなみに,公設試験研究機関の廃止は10年間で150機関以上にもなり,組織再編や整理統合が大幅に進められていることがうかがえる。さらに新たに設立された公設試験研究機関の組織再編の内容を見てみると,新規分野または分野を特化した例としては,バイオテクノロジー研究所(鹿児島県,岡山県),海洋深層水研究所(高知県),赤潮研究所(香川県)など先端的分野の研究所が見られるほか,食品加工研究所(熊本県,福井県)のように学際的な分野を対象とする研究所が目新しい。分野の変更はないものの役割の高度化を狙うものとして工業系では従来の技術指導所を研究機能を強化した総合的な産業技術開発センターに改組する例(青森県)が見られる。また環境系では従来の公害研究所からより広範な環境問題に対応するため,環境科学センター等に改組する例(青森県,神奈川県)が見られる。これらは,地場産業の高度化や住民の生活環境に対する要望の高まりに対応して先端的な研究を強化しようとするものである。

次に都道府県に着目して整理統合の例をみてみる。最近実施された例としては,福井県,徳島県,福岡県があげられる。福井県では工業試験場,窯業試験場,繊維工業試験場が工業技術センターに,徳島県では工業試験場と食品加工試験場が工業技術センターに,福岡県では福岡工業試験場,福島工業試験場,北九州工業試験場,大川工業試験場が工業技術センターに整備統合され,研究機能の集中や組織の一体化により研究体制の強化を図っている。また現在具体化しつつある例としては,埼玉県において鋳物機械工業試験場と工業技術研究所を工業技術センター(仮称)に整備統合する計画が平成5年度開設を目標に進んでいるほか,岩手県,神奈川県などがあげられる。その内容は次のようになっている。

1) 岩手県では,急速に進展する技術革新に対処するため,応用研究体制の確立,開放試験室の整備,大学・民間企業との共同研究や研究交流の強化を図る目的で,試験研究機関の再編整備に取り組んでいる。 総事業費165億円の予定で工業試験場と醸造食品試験場を整備統合する工業技術センター整備事業(平成3年〜5年),林業試験場,材木育種場,林業講習所を整備統合する林業技術センター整備事業(平成3年〜5年),および分散している水産関係の3つの公設試験研究機関の試験研究部門を統合する水産試験場整備事業(平成3年〜7年)に現在取り組んでいる。
2) 神奈川県では,地域に密着した科学技術の拠点としての役割を担っていくために,「試験場から研究所へ」を目指して,個々の公設試験研究機関の研究機能の向上を図るため,5年間の総事業費650億円の予定で,県内15の試験研究機関の再編整備計画に平成元年度から取り組んでいる。

新規分野への新たな公設試験研究機関の設立の例から分かるように工業系,農林水産業系,衛生系に分類できないものが現れている。また既存の公設試験研究機関においても業務内容が従来の枠を越えているものも見られる。このような業務内容の融合化も近年の一つの特徴といえる。

また地域で行われている研究には,必ずしも先端産業技術と結びつくものではないが,その地域のニーズや伝統・自然環境を踏まえた地域特有の研究を行っている公設試験研究機関があり,注目される( 第1-2-6図 )。

第1-2-6図 特色のある公設試験研究機関の例

(2)第三セクター

地方公共団体では,旅客輸送事業や不動産管理事業,特産品の加工販売事業,観光・リゾート開発事業等の目的で公益法人・株式会社形態の第三セクターが設立されているが,近年は,科学技術振興のための第三セクターを設立する動きが見られる。平成4年に都道府県,政令都市に対して行われた調査によると,このような科学技術振興に関連した第三セクターは全国に121機関ある。これら第三セクターは一般に,研究を実施するという機能と研究を支援するという二つの機能を有しており,また設立年は多くが昭和55年以降となっている。第三セクターの研究を実施するという機能は,規模拡大の行われていない公設試験研究機関の機能を補っているものと思われる。主たる業務が研究支援となっている第三セクターにはテクノポリス計画を振興するために設立されたものが多い。研究実施が主たる業務となっている研究実施型第三セクターと研究支援型の第三セクターの典型的なものをみてみる。

(研究実施型第三セクター)

1) (財)神奈川科学技術アカデミー(平成元年7月設立)

科学技術の発信基地としての中核的役割を担う国際的な機関となることを目指し,研究・教育・交流の各事業を相互に関連させて実施している。研究事業については研究室長をリーダーとする10名前後の研究者でチームを形成し,1研究テーマについて3〜5年の期間研究を行う。現在極限分子計測等の6テーマの研究が進められている。平成4年3月末現在の基本財産は約39億円である。

2) (財)大阪バイオサイエンス研究所(昭和62年1月設立)

バイオサイエンスの調査研究を通して科学技術の振興に寄与することを目的とし,研究を中心とする種々の事業を行っている。分子生物学,酵素・代謝,神経科学,細胞生物学の基礎的研究を実施しているが,その研究内容については,研究所外の学識経験者がら構成されるアドバイザリー・ボードによって,毎年評価される。平成4年3月末現在の基本財産は約10.4億円である。

3) (株)日本無重量総合研究所(平成2年4月設立)

無重量落下実験施設を提供すると共にこれら施設を用いた試験,研究を実施することにより,科学技術の振興及び地域の活性化に資することを目的として岐阜県土岐市に設立された。施設の本格的運用は平成5年度以降を予定している。岐阜県の他土岐市も出資団体となっており,設立時の資本金は約9.5億円である。

(研究支援型第三セクター)

1) (財)熊本テクノポリス財団(昭和58年11月設立)

熊本テクノポリスの中核的な推進役を担う主体として地域の産学官により設立され,情報提供,各種セミナー・講習会による人材育成,広報・交流等の事業を行っている。また付属研究機関として電子応用機械研究所を昭和60年に開設し,研究開発事業も行っている。平成4年3月末現在の基本財産は約42億円である。

2) (株)テクノプラザみやぎ(昭和63年3月設立)

仙台北部テクノポリスの主要事業である「21世紀プラザ研究センター」の運営主体として設立された。同センターは民活法の第一号施設(リサーチコア)であり,研究室,研究機材等の賃貸しを行っている。

大学等の研究者によるカウンセリングが受けられるキーパーソン制度を実施している。平成2年度の資本金は約35億円である。

これら第三セクターにより,公設試験研究機関とは異なる新しい地域の研究開発拠点が生まれつつあるといえる。第三セクターと既存の研究拠点との関係は地域によってさまざまである。例えば鹿児島県の場合を取り上げてみると,第三セクターである鹿児島県バイオテクノロジー研究所は鹿児島大学との交流を図りつつ新品種開発の高度な手法を研究し,公設試験研究機関は同研究所で開発された手法を活用して新品種の育成を行う等,研究開発拠点の有機的な関係を目指している。

平成元年に都道府県,人口20万人以上の市及び県庁所在都市に対して自治省が行った調査では,今後地方公共団体が新設する人材育成・研究開発の整備予定機関としては,「都道府県が関与する団体」という回答が56%を占め,都道府県とする回答の2倍になっており ( 第1-2-7図 ),科学技術振興のための第三セクターは今後ますます増加していくと考えられる。

第1-2-7図 人材育成・研究開発の整備予定機関(新設)

(3)分野による地域の科学技術活動の差異

以上で,公設試験研究機関,第三セクターの特徴を見てきた。しかしながら,地域でこのような研究主体のいずれかが中心的な活動をするかは,むしろ分野によって大きく異なる。以下では,地域における科学技術について,工業系,農林水産業系,衛生系の3分野に分けて通常よくみられる活動の分析を行ってみることとする。なお第三セクターについては地域,分野によって位置付けが異なるのでここでは取り上げないこととする。

工業系では,国が地域ブロックごとに研究機関を設置している。各都道府県では公設試験研究機関として工業試験場や工業技術センターを設置しているが,特産品(陶磁器,工芸品)に特化した研究を行う機関もある。また公設試験研究機関としては市が設置している例もある。大学に関しては,国公私立大学に工学部等が設置されており,県内に工科大学や工学部等のない地域は少ない。民間企業については工業系の研究所は多くその活動も活発であるが,地域差は大きい( 第1-2-8図の(1) )。都道府県は地域の科学技術の高度化を目指し,これらの機関の有機的な連携のもとに多様なプロジェクトを進めている。

農林水産業系でも,国が地域ブロックごとに研究機関を設置している。各都道府県では公設試験研究機関が農業試験場,畜産試験場,林業試験場,水産試験場等として所在する一方,都道府県庁の農林水産部等が,指導等を通じて成果の普及を図っている。大学については,ほぼ全国的に国公私立大学の農学系学部が整備されている。一方,バイオテクノロジー関係で参入は見られるものの,作物の多様性・地域性等があるため生産・流通の場が限られており,農業関係の民間企業研究所は少ない( 第1-2-8図の(2) )。このように農林水産業系では学・官主導で活動が進んでおり,工業系とは大きく異なる。研究課題としては,品種改良や栽培漁業等の確立があげられる。交流も国立試験研究機関と公設試験研究機関の結びつきが強い。また,公設試験研究機関の間での共同研究が多く見られる。新品種の育成にあたっての公設試験研究機関の役割は大きく,例えば水稲ではコシヒカリ(福井県農業試験場),ササニシキ(宮城県古川農業試験場)が,大豆ではエンレイ(長野県農業試験場桔梗ケ原分場(当時))が国の委託を受けて開発された。

衛生系では国立試験研究機関は地域に少ない。各都道府県には衛生研究所や環境衛生センター等が設置されている他,市が衛生研究所を設置する例も多い。大学については,医科大学や大学医学部が設置されている。民間では,比較的関係の深い医薬品関係研究所が東京都,大阪府に集中しており,広く分散していない( 第1-2-8図の(3) )。地域では農林水産業系と同様に学・官主導で活動が進んでいる。公設試験研究機関の研究テーマには,地域住民の健康に関する一般的研究の他,地域特有の病気・症例等の研究がある。

第1-2-8図 地域に設置されている研究拠点の概念図

このように,工業系,農林水産業系,衛生系では,研究主体の中心や各研究主体間の相互関係もかなり異なっている。今後地域の研究開発体制を分野を特化して高めていく際にはこのような違いを把握しておくことは重要であろう。しかしまた,工業系の公設試験研究機関が農林水産業系の研究を行う例や逆に農林水産業系の公設試験研究機関が工業系の研究を行う例もある。工業系,農林水産業系の両者に関係の深い研究所としては従来から醸造研究所や食品研究所があるし,更にバイオテクノロジー研究所等,近年は従来の分野を越えて交流できる研究所が増えつつあるといえる。これも今後地域における研究開発体制強化のひとつの方向であろう。説明から省いてきた第三セクターには工業系,農林水産業系,衛生系という区分を越えて地域の研究主体と協力,交流できるという利点もあり,第三セクターの増加はこの方向に沿っているものと認められる。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ