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第1部   科学技術の地域展開
  はじめに

科学技術が社会経済に与える影響は近年ますます拡大し,国の政策の中での位置付けも重要性を増すに至っている。科学技術自身も従来の科学技術とは異なるパラダイムの下に進められていくものが登場し,一国で対応できず国際協力で進めることが望ましい巨大科学技術が登場したり,科学と技術の融合が進み,高度な技術の支援なしには基礎研究の推進は困難になり,また技術水準の向上にはその技術に関連した原理・現象の解明にまで立ち返った基礎研究が不可欠になるなど多様な様相を示してきている。このような中で,我が国の科学技術の質の向上がバランスよく進められ,科学技術の調和ある発展が図られていくためには様々な研究主体の努力が必要となっている。

一方,近年内外の社会経済の変化は激しいものがある。我が国をめぐる国際的な状況は大きく変化し,東西対立構造の終結,新たな国際秩序の構築が求められる中で国際社会の相互依存関係は強まり,国際化への対応は我が国にとって不可欠の課題となっている。また,我が国の経済規模は拡大し米国に次ぐものとなり生活は豊かとなってきているが,豊かさの実感には乏しいとされる。質的豊かさを実現していくには,人間性豊かで,環境を重視する社会を作り上げていくことが重要となっている。このように「国際化への対応」と「国民の豊かさの実現」は今日我が国の当面する重要な課題であるが,この課題を解決していくために科学技術の果たす役割は極めて大きい。

このような背景を踏まえ,本年4月,国は新たな科学技術政策大綱を策定し,「地球と調和した人類の共存」,「知的ストックの拡大」,「安心して暮らせる潤いのある社会の構築」の3つの目標を掲げ新世紀に向けて取るべき方策を示し,その強力な推進を図ることとしたものである。とりわけ,我が国における科学技術の調和ある発展を図り,時代の要請に応えていくためには,従来考えられてきた研究主体の役割にとどまらず新しい推進の考え方が必要となってきている。

科学技術政策大綱に示された「地球と調和した人類の共存」,「知的ストックの拡大」は人類に貢献していく科学技術の目標を掲げたものだが,この目標実現のためには地域は欠かせない存在となっている。

近年,地域における研究拠点が増加してきており,また地域行政の担い手である地方公共団体の科学技術に対する積極的な取組みもふえている。このように増大しつつある地域の科学技術のポテンシャルは,国際社会及び人類全体に貢献する基礎研究の推進や国際協力を進めるに当たって重要となっている。

一方,経済的な生活が一定水準に達した近年においては,豊かな生活を実現していくに当たり科学技術の新たな役割が期待されるようになっており,「安心して暮らせる潤いのある社会の構築」の目標が掲げられたところである。豊かな生活を実現していくためには地域を活性化し,豊かな地域社会を形成することが重要である。科学技術の貢献が期待される課題としては,高齢化社会への対応,環境問題の解決,地域開発の振興等があるが,これらはいずれも国民に身近な問題であり,その対応は地域において実現されるものが多い。

このように,近年地域における科学技術の重要性が高まっている中で,本年の白書では新しい時代の科学技術の地域展開を分析してみることとした。

地域の科学技術政策について振り返ってみると,昭和53年に科学技術会議が内閣総理大臣に意見具申した「地方における科学技術活動の推進に関する意見」がある。これは第三次全国総合開発計画の定住圏構想を踏まえ,地場産業の振興や公害,医療などの地域社会固有のニーズに応えることを目的に各種の施策を提言したものである。

しかしながら,近年地域における科学技術の位置付けも変わりつつあり,地方公共団体の中では基礎研究や国際交流等に積極的に取り組む例も増えてきている。このような中で,今後の科学技術の地域展開を分析し,科学技術の効果的推進方策を検討することは我が国の科学技術の推進基盤を確立する上からも重要となってきている。

科学技術においては,研究集積の効果は大きいものと考えられ,筑波研究学園都市,関西文化学術研究都市もこのような集積効果を期待して整備されているものである。かなりの研究拠点が地域展開を果たしている状況において地域の研究拠点で十分な研究成果を上げていくためには,研究拠点の集積を高め,所在する研究機関の水準の向上を図り,また研究関係のインフラを整備し,研究者の交流を促進する等の措置が必要になるとともに,研究者自身の生活環境も改善し研究に対する意欲の向上を図ることが重要である。地域展開が進んでいく中では,このような研究成果を得ていくための条件を明白にすることが必要になっている。

国の科学技術においては,既に述べたように人類の直面する課題に対応し知的ストックを拡大していくために科学技術水準の向上を図るとともに,安心して暮らせる潤いのある社会の構築,科学技術と社会や人間との調和,科学技術系人材の育成などの多様な政策課題を遂行していくことが緊要の課題となっている。一方,地域においては科学技術が今後の地域振興にどのように役立つかが大きな課題である。したがって,地域における科学技術の振興はこれら双方の目的を同時にどのように実現していくかが鍵となる。このような観点からこの白書では地域における科学技術政策の基本的考え方を検討してみることとした。

本白書においては,このような考え方に立ち,地域において行われる科学技術活動全てを視野におくことととし,地方公共団体や地元企業だけの活動に留まらず,その地域で展開される国や民間企業などの活動も含めて分析するとともに,これら相互の関係についても分析するように努めた。

このような趣旨の下に,まず第1章では我が国全体の中での科学技術の地域展開の状況を分析するとともに,特に国の研究拠点の動向等を分析する。第2章は,地域振興の観点から,地域における科学技術活動を分析するとともに,その中における問題点の摘出を行う。最後に第3章では,以上の分析を踏まえ,地域における科学技術政策の基本的考え方として,地域における科学技術の方向性と科学技術振興のための推進方策を検討することとする。


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