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第3部   我が国の科学技術政策の展開
第3章  研究活動の推進
第1節  重要研究開発分野の推進
1.  基礎的・先導的科学技術の推進



(1) 物質・材料系科学技術

新材料が過去において,経済社会に及ぼした影響は極めて大きなものがあり,新超電導体の発見にみられるように,新しい材料の出現が,新しい技術を開拓し関連技術にも質的変化をもたらし,産業に対してはもちろんのこと社会に対しても大きなインパクトを与えてきた。

特に,近年,情報・電子,ライフサイエンス等の先端科学技術分野においては,未踏分野を切り拓く革新的な研究開発の多くは新たな材料にシーズを求めており,独創的な研究開発を推進し,科学技術立国を図っていく上での共通的・基盤的技術として物質・材料系科学技術の重要性がより高まっている。

また,現在推進されている超高速コンピュータ,核融合,宇宙開発,海洋開発等大規模なプロジェクトの推進に必要な新たな材料の研究開発の重要性が高まっており,これらのプロジェクトに適合する材料が求められている。

このような状況から,新材料の創製が今や,国家的にも極めて重要な課題となっている。

1) 総合的な物質・材料系科学技術の推進

物質・材料系科学技術については,以上のような認識の下に,科学技術会議,航空・電子等技術審議会等の答申に沿って各般の物質・材料系科学技術施策が進められている。

科学技術会議においては,第11号答申(昭和59年11月)において,物質・材料系科学技術を新たな発展が期待される基礎的・先導的科学技術及び経済の活性化のための科学技術として位置づけ,その研究開発を強力に推進する必要性を指摘している。

また,同会議は,諮問第14号「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画について」(昭和61年5月)を受けて,本分野における研究開発目標及び推進方策に関する検討を行い,昭和62年8月に答申した。この答申は,同年10月,内閣総理大臣により決定された。

航空・電子等技術審議会においては,これまで,諮問第5号「極限科学技術とこれに関連する材料科学技術に関する総合的研究開発の推進策について」に対する答申(昭和55年8月),諮問第7号「材料設計理論に基づいた新材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(昭和59年9月),諮問第9号「新材料開発に係る計測及び制御技術の高度化のための重点課題及びその推進方策について」に対する答申(昭和61年3月)及び諮問第13号「環境条件に知的に応答し,機能を発現する能力を有する新物質・材料の創製に関する総合的な研究開発の推進について」に対する答申(平成元年11月)を行い,物質・材料系科学技術の総合的推進方策を示した。

さらに,平成3年3月には,科学技術庁長官より同審議会に対して「材料開発に係る解析・評価技術の高度化に関する総合的研究開発の推進について」(諮問第16号)が諮問され,新材料の解析・評価技術の高度化に関する総合的研究開発の推進方策が審議されている。

2) 物質・材料系研究開発の推進

広範多岐にわたるニーズを背景として,各省庁において様々な物質・材料系科学技術に関する研究開発が活発に進められている。

科学技術庁においては,物質・材料系科学技術全体に係る共通的・基盤的分野を推進するため,金属材料技術研究所,無機材質研究所等において研究開発を推進するとともに,創造科学技術推進解消(新技術事業団),国際フロンティア研究システム(理化学研究所),科学技術振興調整費等各種解消により物質・材料系科学技術に関する研究を実施している。

文部省においては,研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として,大学等における独創性豊かな学術研究を推進すべく,科学研究費補助金等の中において物質・材料系科学技術の基礎的研究が行われている。

通商産業省においては,次世代産業基盤技術研究開発,大型工業技術開発解消により製造技術等に関する研究開発が実施されている。

3) 超電導に関する研究開発の推進

昭和61年,スイスIBMチューリッヒ研究所における発見を契機として,昭和63年1月の科学技術庁金属材料技術研究所におけるビスマス系超電導体の発見など,高い温度でも超伝導現象を生じる酸化物系の新しい超電導物質が相次いで発見された。この新超電導物質は,それらが実用化されれば経済社会に与えるインパクトが甚大であり,世界的に大きな期待が寄せられている。しかしながら,これら酸化物系超伝導休は未だ材料以前の段階であり,実用材料として利用されるようになるためには今後,理論の解明,新物質の探索,材料化等の基礎的・基盤的研究開発が重要である。このような点に鑑み,科学技術会議政策委員会の下に設けられた超電導に関する懇談会が昭和62年11月にとりまとめた「超電(伝)導研究開発の基本的推進方策について」等を踏まえ,関係省庁において本分野の研究開発が推進されている。

科学技術庁においては,金属材料技術研究所,無機材質研究所,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,宇宙開発事業団,理化学研究所等が有する既存のポテンシャルを最大限に活用し,研究基盤を整備するとともに,当該ポテンシャルを核として,国内外に開かれた研究者主体の柔軟な共同研究,研究者交流及び情報交換並びに技術展開を推進する「超電導材料研究マルチコアプロジェクト」を昭和63年5月に創設し,超電導材料の基礎的・基盤的研究を推進している。

文部省においては,研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として,大学等における独創性豊かな学術研究を推進すべく,科学研究費補助金等により基礎的研究が行われている。

通商産業省においては,次世代産業基盤技術研究開発,省エネルギー技術研究開発(ムーンライト計画)等の諸解消を用い,電子技術総合研究所,化学技術研究所などを中心に産学官の連携のもとに超電導材料・素子の開発などを行っている。また,超電導に関する研究開発等を行っている(財)国際超電導産業技術研究センターへの助成を行っている。

郵政省においては,通信総合研究所を中心に産学官の連携により推進している電気通信フロンティア研究開発の一環として,「高温超電導体による超高速・高性能通信技術の研究開発」において,将来の超高速・高性能通信技術の実現を目的とした超電導技術を用いた電気通信技術の研究開発を実施している。

運輸省においては,将来の高速輸送を目的とする超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けて研究開発を促進するため(財)鉄道総合技術研究所への助成等を行っている。

4) 物質・材料系科学技術の国際協力の推進

平成2年5月に日米科学技術協力協定に基づく協力課題となった「強磁界マグネットの開発のための研究」(金属材料技術研究所一米国科学技術財団(フランシスビッター国立磁石研究所)),平成2年3月より開始した「新素材の原子配列設計制御」(新技術事業団-ケンブリッジ大学・ロンドン大学)等の二国間国際協力や,「新材料と標準に関するヴエルサイユプロジェクト(VAMAS)」,「超電導電力応用情報交換タスク(IEA)」等の多国間科学技術協力などにより,数多くの共同研究,研究者交流などを推進している。

また,標準の分野でもIEC(国際電気標準会議)に超電導専門委員会(TC90)が新設され,平成2年から我が国が幹事国となった。


(2) 情報・電子系科学技術

1) 情報・電子系科学技術振興の意義

近年,我が国におげる情報・電子系科学技術の進歩には目を見張るものがある。大規模集積回路の超高速化,超高集積化,光素子等のオプトエレクトロニクス技術,コンピュータの小型化・高速化等のハードウェア技術の開発に加えて,ソフトウェア技術の開発も促進され,先端技術開発の中心を占めるに至っている。

情報・電子系科学技術は,その適用範囲が種々の産業分野から家庭生活・個人生活分野に至るまで多岐にわたっており,これらの研究開発が我が国の産業,技術,社会生活に及(よ]す影響には計り知れないものがある。また,今後は科学技術と人間及び社会との調和ある発展が一層重要となっており,こうした課題に貢献できる研究開発が強く望まれてきている。

2) 重要研究開発課題

(1) 素子等

高速画像処理,高速大容量情報伝送はもとより,高度なヒューマンインタフェースを実現するための,あるいは知的な情報の処理・伝達・蓄積等の発展につながる高速論理素子の研究開発及び大容量記憶素子の研究開発が不可欠である。

また,中・長期的な視点からすると,電子の量子的な振舞い,原子が人工的に制御された材料の特性,生体内のミクロな機能,構造等に関する物理的・化学的研究及びそれらの工学的利用のための研究開発が重要な位置を占めている。

具体的な研究課題としては,科学技術庁金属材料技術研究所の「液滴エピタキシー法による高性能光電素子用材料の創製」や,通商産業省の次世代産業基盤技術研究開発による「量子化機能素子」等がある。

(2) 情報の処理

高速化,処理容量の増大とともに,情報が持っている意味レベルの内容の理解や,機能自らが推論・学習・判断するといった高度な情報処理の実用化が期待されている。このため,ハードウェアの高度化だけでなく,ソフトウェアの高度化や新しい概念に立ったアルゴリズムやプログラム言語,アーキテクチャーの研究開発が急がれている。

具体的には,超高速処理に必要である大規模並列計算機構に関連する基礎的・基盤的技術の研究,また,あいまいな言語表現や知識表現を理解し,帰納推論・類推・学習等を行うファジイシステムやニューロコンピュータに関する基礎的・基盤的技術の研究がある。この分野の研究として,科学技術振興調整費により,「ファジイシステムとその人間・自然系への適用に関する研究」,「センサフユージョンの基盤的技術の開発に関する研究」が実施されている。また,・通商産業省では「第五世代コンピュータの研究開発」が行われているほか,次世代産業基盤技術研究開発で「新ソフトウェア構造化モデル」が,電子技術総合研究所で「柔構造情報処理方式に関する研究」等が実施されている。

(3) ヒューマンインタフェース

情報量の増大,使用者の拡大につれて,機械に要求される性能もただ機械的に情報の処理が行われるだけでなく,人間的な対応が可能な機械が強く求められている。このため,人間の様々な特性,たとえば心理学,認知科学の立場から機械と人間が共存できる系を研究する必要がある。

郵政省では,電気通信フロンティア研究開発の一環として,[ネットワーク・ヒューマンインタフエースの研究開発」が,通商産業省では「未来型分散情報処理環境基盤技術開発(FRIEND21)」が進められている。

(4) 情報の伝達

情報化社会の到来とともに通信への依存度が急速に増加しており,通信の高速化,大容量化,高度化に対する研究が強く望まれている。

有線系伝送技術については,コヒーレント光伝送などの超大容量・長距離伝送用,無線系伝送技術については,ミリ波から紫外領域にわたるより高い周波数領域用の発振器等の素子・部品・周辺回路,アンテナ,変調方式等の技術の研究開発が進められている。

さらに,将来の通信の高速化,大容量化に備えて,非線形光学現象などの新しい原理に基づいた通信技術の研究も進められている。

通信の高度化としては,多様な接続形態を実現できる柔軟なネットワーク,高度なニーズに応え様々なサービス機能を付加するインテリジェントネットワークの構築等が期待されており,郵政省において,電気通信フロンティア研究開発の一環として,  「超多元・可塑的ネットワーク基礎技術の研究開発」等が進められている。また,通商産業省ではマルチメディア対応で信頼性の高い分散データベースシステムを構築する「電子計算機相互運用データベースシステム」の研究開発を行っている。

(5) 社会活動への適用技術

(1)〜(4)の技術を人間社会へ適用させて,生活支援,医療,教育,生産,芸術活動等を支援する技術については,国民生活の向上という観点から研究開発が進められてきたが,通商産業省の大型工業技術研究開発により「人間感覚計測応用技術」の研究が開始されるなどしており,今後はこの分野の研究開発が促進されよう。

平成3年度に実施される主な情報・電子系科学技術分野の研究課題は 第3-3-1表 に示すとおりである。

第3-3-1表 主な情報・電子系科学技術分野の研究課題(平成3年度)



(3) ライフサイエンス

ライフサイエンスは,種々の生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明し,その研究成果を保健医療,環境保全,農林水産業,化学工業等における,人間生活に係る諸問題の解決に役立てようとするものであり,大きな技術発展の可能性をもつ分野として期待されている。

1) ライフサイエンス研究の基本的推進方策

我が国においては,昭和46年,科学技術会議が第5号答申において,ライフサイエンス振興の重要性を指摘して以来,国として積極的に推進することとしており,その後も同会議の答申等に基づき,ライフサイエンス研究の着実な推進が図られている。

2) がん及びエイズ研究の推進

がんは我が国総死亡数の約4分の1を占める最大の死因であり,がん対策は国を挙げて取り組むべき緊急の課題である。昭和58年にがん対策関係閣僚会議において決定された「対がん10カ年総合戦略」等を受けて,関係省庁は昭和59年度からがんに関する研究開発を強化している。

また,免疫系の重要疾患であるエイズに関しては,昭和62年にエイズ対策関係閣僚会議により「エイズ問題総合対策大綱」が策定され,これに基づき,関係省庁において研究が進められている。

3) 長寿社会対応科学技術の推進

我が国は世界にも例を見ない速度で高齢化社会を迎えようとしているが,こうした状況を踏まえ昭和61年に閣議決定された「長寿社会対策大綱」等に基づき,関係省庁において老化等を中心に研究開発が進められている。

4) 組換えDNA研究の推進

組換えDNA研究は,基礎生物学的な研究はもとより,疾病の原因の解明,医薬品の量産,有用微生物の開発,農作物の育種等広範な分野において人類の福祉に貢献するものである。他方,組換えDNA実験は,生物に新しい性質を持たせるという側面があるため,その実施にあたっては慎重な対応が必要である。科学技術会議は昭和54年,諮問第8号「遺伝子組換え研究の推進方策の基本について」に対する答申において,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針を提示した。これを受けて内閣総理大臣により昭和54年に「組換えDNA実験指針」が定められ,我が国でも様々な分野において組換えDNA実験が実施されるようになった。その後の科学的知見の増大に伴い,現在までに指針は8回改訂された。本指針のもとで行われる研究は年々増加する傾向にあり,今後とも安全性を確保しつつ科学的知見の増大,研究上の必要性等に応じて指針の見直しを行っていくこととしている。

一方,文部省においては,昭和53年に学術審議会がこの分野の研究者の自主的意見を充分に取り入れ,組換えDNA実験の安全性を確保するための指針案を作成し,これに基づき,昭和54年に指針を告示した。その後も学術審議会の審議に基づき7回改訂を行い,大学等における研究の着実な進展を図っている。また,組換えDNA技術の産業化段階における利用は,厚生省,通商産業省及び農林水産省がそれぞれの分野について作成した指針に基づくこととされており,産業レベルでの組換えDNA技術の応用に対応している。

5) ヒトゲノム解析研究の推進

ヒトゲノム解析は,ヒトの全DNAの塩基配列を読み取ることを目指した研究であり,遺伝子病などの疾病の解明・診断・治療,また生物の進化のメカニズムの解明など多くの成果が期待されている。関係省庁においては,昭和63年の航空・電子等技術審議会第12号答申「ヒト遺伝子解析に関する総合的な研究開発の推進方策について」及び平成元年の学術審議会の建議等に基づき,理化学研究所,大学等を中心にシークエンスシステムの自動化,ゲノム解析材料の整備,特定の遺伝子に着目した研究等が実施されている。また,平成2年に,科学技術会議ライフサイエンス部会にヒトゲノム解析懇談会を設け,我が国におけるヒトゲノム解析の現状,国際的な動向及び今後の展望等について,検討が行われている。なお,農林水産省は,平成3年がらイネゲノム解析研究を実施している。

6) 糖鎖工学研究等の推進

ライフサイエンス関連施策は生命現象の解明から,動植物の工業的利用,更には人口・食糧問題等に至るまで非常に多岐にわたっている。

特に最近では,航空・電子等技術審議会第14号答申「糖鎖工学の基盤形成に関する総合的な研究開発の推進方策について」(平成2年7月)に基づいて,科学技術庁,厚生省,農林水産省及び通商産業省の連携・協力の下,糖鎖の生体内での機能の解明及び構造の解析に着目した研究が開始されている。

ライフサイエンス研究の主要なものを各省庁別にまとめると 第3-3-2表 のとおりである。

第3-3-2表 主なライフサイエンス分野の研究課題(平成3年度)




(4) ソフト系科学技術

ソフト系科学技術は,科学技術会議の第11号答申(昭和59年11月)及び科学技術政策大綱(昭和61年3月,閣議決定)において,その振興の必要性が強調されている。

ソフト系科学技術とは,これまで科学的アプローチが行われていなかった人間の感性や創造性に基づく思考や行動(ヒューマンウエア)の解明とその応用について科学技術的アプローチを適用しようとするものであり,人間の認知,思考,推論,判断,創造等の知的活動及びそれに伴う行動のメカニズムを明らかにするとともに,このような活動を支援あるいは一部代替する手法及びこのような活動の結果生み出された情報や知見を処理,操作するための科学技術分野である。

このソフト系科学技術は,科学技術と人間・社会との調和の実現や国際社会との融和に大きな役割を果たすものと期待されており,昭和62年度,昭和63年度の2年間にわたって科学技術振興調整費により「ソフト系科学技術の研究開発の現状及び今後の展開方法についての調査」を実施し,今日のソフト系科学技術に関する研究開発及び活用状況の実態の把握を行った。

昭和49年に国・地方公共団体及び民間の共同出資により設立された総合研究開発機構(NIRA)においては,現代社会が直面している様々な問題について,自主的な立場から総合的な研究開発を推進する等,この分野の研究開発が進められている。

また,特に近年,行政現場が直面している諸課題が,社会・経済の国際化等に伴って複雑多岐にわたるようになってきたため,これらの課題の解明のため,科学技術政策研究所(昭和63年7月設置)をはじめ,各省庁附属の政策研究機関が設置され,ソフト系科学技術の一分野である政策研究の強化が図られている。


(5) 宇宙・航空科学技術

1) 宇宙開発

宇宙開発は,科学観測,通信,放送,気象観測等を通じ,科学技術の進展や国民生活の向上に大きな役割を果たしている。

我が国の宇宙開発は,宇宙開発委員会が定めた宇宙開発政策大綱(昭和53年策定,平成元年6月改訂)及びそれに沿って具体的内容を定めた宇宙開発計画に従い,宇宙開発事業団,文部省宇宙科学研究所を中心とする関係各機関の協力の下に進められている。

宇宙開発政策大綱は,我が国の宇宙開発政策の基本方針として,ニーズの高度化・多様化への対応,自在な宇宙開発活動の遂行能力の保持及び国際協力の積極的な推進による国際的地位にふさわしい宇宙開発活動の展開,民間における宇宙開発活動の推進の3点を提示している。また,今後の重点目標として,科学研究の推進,H-IIロケットの開発等人工衛星・ロケット技術の確立,宇宙環境利用の展開のための基盤の形成及び有人宇宙活動の展開のための基盤の形成を挙げている。

(1)人工衛星

我が国は,昭和45年に科学衛星「おおすみ」の打ち上げに成功して以来,平成3年4月までに46個の人工衛星の打ち上げに成功しており,米ソに次ぐ世界第三の人工衛星打ち上げ国となっている。各分野ごとの主な人工衛星は以下のとおりである( 第3-3-3表 )。

(イ)科学の分野

科学の分野においては,文部省宇宙科学研究所が中心となり,全国の大学等の研究者の参加の下に,これまでに19個の科学衛星の打ち上げに成功しており,近年においては,活動銀河の中心核のX線源の観測等を目的とした第11号科学衛星「ぎんが」,地球磁気圏におけるオ-ロラ粒子の加速機構等の精密観測を目的とした第12号科学衛星「あけぼの」,惑星探査に必要となる軌道の精密標定等の研究の一環としての月スイング・バイ技術の試験等を行うことを目的とした第13号科学衛星「ひてん」等を打ち上げ,所期の成果を挙げている。

第3-3-3表 我が国の人工衛星打ち上げ実績及び計画



また,太陽活動極大期に太陽フレアの高精度画像観測を日米協力により行うことを目的とする第14号科学衛星(SOLAR-A),地球の夜側に存在する長大な磁気圏尾部の構造とダイナミックスに関する観測研究を目的とする磁気圏観測衛星(GEOTAIL),宇宙の最深部を対象とし,多様な天体のX線像とX線スペクトルの精密観測を行うことを目的とする第15号科学衛星(ASTRO-D),超長基線干渉計(VLBI)衛星として大型精密展開構造機構等の研究及び電波天文観測の実施を目的とする第16号科学衛星(MUSES-B)及び月内部の地殻構造及び熱的構造を解明することを目的とする第17号科学衛星(LUNAR-A)の開発等を進めている。

(ロ)観測の分野

靜止気象衛星については,「ひまわり」シリーズの開発が行われており,現在,平成元年9月6日に打ち上げた「ひまわり4号」を運用中である。また,その後継機である静止気象衛星5号(GMS-5)の開発を進めている。

海洋観測衛星「もも」シリーズは,海洋面の色及び温度を中心とした海洋現象の観測を行うこと等を目的とした衛星で,現在「もも1号」及び平成2年2月7日に打ち上げた「もも1号-b」を運用中である。また,能動型観測技術の確立を図るとともに,資源探査,国土調査,農林漁業のための観測等を行うことを目的とする地球資源衛星1号(ERS-1),地球環境のグローバルな変化の監視,地球観測分野における国際協力の推進を図ること等を目的とする地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)の開発等を進めている。

(ハ)通信・放送の分野

通信衛星については,「さくら」シリーズの開発が行われており,現在「さくら3号-a」及び「さくら3号-b」を運用中である。放送衛星については,「ゆり」シリーズの開発が行われており,現在「ゆり2号-b」を運用中である。また,その後継機である放送衛星3号については,平成2年8月28日に放送衛星3号-a「ゆり3号a」が打ち上げられ,平成3年度には放送衛星3号-b(BS-3b)が打ち上げられる予定である。さらに,高度移動体衛星通信技術,衛星間通信技術及び高度衛星放送技術の通信放送分野の新技術,多周波数帯インテグレーション技術並びに大型静止衛星の高性能化技術の開発及びそれらの実験・実証を行うことを目的とする通信放送技術衛星(COMETS)の開発を進めている。

(ニ)人工衛星共通技術の分野

人工衛星の共通技術の試験を行う衛星としては,技術試験衛星「きく」シリーズが開発されてきた。現在,移動体通信実験等を目的とする技術試験衛星V型「きく5号」を運用しており,また,大型靜止三軸衛星バス技術の確立を図り,あわせて,衛星による固定通信及び移動体通信並びに衛星間通信に関する高度の衛星通信のための技術開発及びその実験を行うことを目的とする技術試験衛星VI型(ETS-VI)の開発を進めている。

(2)  ロケット

科学衛星打ち上げのため,L(ラムダ)ロケットの開発を経てM(ミュー)ロケットが開発された。M系ロケットは,全段に固体推進薬を用いたロケットで,現在,M-3SIIロケットが使用されている。

また,1990年代以降の科学観測ミッションの要請に応えることを目的とし,各段を大型化するとともに機体構成の簡素化を図った3段式のM-Vロケットの開発を進めている。

静止衛星等の人工衛星の打ち上げのため,N系ロケットの開発を経てH系ロケットが開発され,現在,H-Iロケットが使用されている。H-Iロケットは,重量約550kgの靜止衛星を打ち上げる能力を有する3段式のロケットで,第2段に液体酸素・液体水素を推進薬とするエンジンを採用している。また,1990年代における大型人工衛星の打ち上げ需要に対処するため,2トン程度の靜止衛星を打ち上げる能力を有する2段式のH-IIロケットの開発を進めている。H-IIロケットは,第1段,第2段ともに液酸・液水エンジンを採用した大型のロケットであり,平成4年度に試験機1号機の打ち上げを予定している( 第3-3-4表 )。

(3) 宇宙環境利用,有人宇宙活動

(イ)第一次材料実験「ふわっと′92」

「ふわっと′92」は,平成4年度に打ち上げ予定のスペースシャトルに我が国の搭乗科学技術者1名が搭乗し,約7日間にわたり,宇宙空間の特性を利用した材料実験等を実施する計画である。本計画が我が国の有人宇宙活動に必要な技術の修得に大きな意義を有するものと考えられる。

第3-3-4表 我が国の主な人工衛星打ち上げ用ロケットの主要諸元

(ロ)宇宙ステーション計画

日,米,欧,カナダの国際協力により進められている宇宙ステーション計画は,低軌道(平均400km程度)の地球周回軌道に有人の宇宙ステーションを建設し,本格的な宇宙環境利用,有人宇宙活動の展開のための基盤の整備を目指すものである。我が国は独自の実験棟(JEM)をもって本計画に参加することとしており,日本人宇宙飛行士も搭乗し,長期間にわたり滞在することになっている。なお,我が国は,本計画の枠組みを定める「宇宙基地協力協定」を平成元年9月に受諾し,開発段階の協力を行っているところである。

(ハ) その他

その他,宇宙実験を行う機会の確保等を目的として,低軌道を数カ月にわたり周回させた後回収する再使用可能な宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)の開発,宇宙ステーション計画への参加に必要な技術の蓄積を目的とした,米国のスペースシャトルにより実施される第一次及び第二次国際微小重力実験室(IML-1,2)計画への参加等を通じ,宇宙環境利用,有人宇宙活動に必要な技術の修得を図っていくこととしている。

(4) 人工衛星,ロケット等の技術に関する基礎的・先行的研究

科学技術庁航空宇宙技術研究所をはじめ各機関において,人工衛星やロケットの技術に関する基礎的な研究,また,宇宙ステーションとの間の物資輸送を目的とする無人のH-IIロケット打ち上げ型有翼回収機(HOPE)や,有人の宇宙往還機(スペースプレーン)等の先行的研究を進めている。

2) 航空技術

航空技術は知識集約性,技術先端性が高いため,その開発は単に航空輸送の発展をもたらすのみならず,他の分野への波及効果も高く,我が国が今後科学技術立国を目指して発展していく上で大きな役割を果たすものである。

我が国では,これまで民間輸送機YS-11等の自主開発,ボーイング767等の国際共同開発を実施することにより技術を蓄積し,国際的な舞台で活躍する技術水準までに成長してきている。民間航空機においては,国際共同による開発方式が今後ますます世界の主流を占める傾向にあり,現在我が国では,350人乗リクラスの新型双発民間航空機ボーイング777及び150人乗リクラスの民間航空機YXXの国際共同開発に参加しており,次世代の民間超音速輸送機開発の調査を実施している。また,日本,米国,イギリス,ドイツ及びイタリアの5か国により民間航空機用ジェットエンジンV2500の国際共同開発が行われている。

今後の航空機及び航空機エンジンの開発を積極的に推進していくためには,技術水準の一層の向上を図る必要がある。このため,航空・電子等技術審議会の建議や答申に沿って,航空技術研究開発の推進を図るための施策が講じられている。本審議会は,昭和61年8月に「省エネルギー航空技術の研究開発における重点課題とその具体的推進方策について」(諮問第8号)に対する答申を行い,21世紀を目指した革新航空技術の研究開発について提言を行い,また平成3年3月には「ファンジェットSTOL機の研究開発の実施計画の検討等について」(諮問第1号)に対する最終報告を行った。

科学技術庁航空宇宙技術研究所においては,我が国の将来の航空機開発に必要となる技術の確立を目指した研究開発が進められており,昭和62年度から,将来の極超音速輸送機,宇宙往還機,超高効率大型輸送機等に必要となる空力技術,新複合材構造技術,飛行制御技術,推進系技術等革新的な航空宇宙輸送技術の研究を推進している。また,ファンジェットSTOL機の研究開発については,実験機「飛烏」の飛行実験等により得られたデータを効率良く活用するためのデータベースの研究を中心に推進している。このほか,電子計算機による数値シミュレーション等の基礎技術の研究を進めるとともに,複合材構造試験設備,各種風洞等の大櫓試験研究設備を整備し,関係機関の共用に供し,我が国の航空技術の発展を図る上で主導的な役割を果たしている。

運輸省電子航法研究所においては,航法・管制に関する技術について,航空交通の安全性を向上させるための研究等を実施しており,これらの研究は今後の航空輸送の発展を図るうえで重要なものとして期待されている。

通商産業省においては,低速からマッハ5程度までの広範な速度域において高い信頼性等を有する超音速輸送機用推進システムの研究開発を行っている。この研究開発には欧米のエンジンメーカーも参加している。


(6) 海洋科学技術

海洋は,生物,鉱物等多種多様の資源を包蔵するとともに豊富なエネルギー及び広大な空間を有しており,その開発利用は重要な課題である。さらに,海洋は地球環境変動に大きな関わりを有するとともに,海底地殻の動きは地震や火山活動につながっていることから,その実態解明は急務となっている。このような背景の下に,1990年代に入り,全地球規模での海洋観測研究とシステム確立の計画が推進されている。

以上のような海洋の開発利用を推進し,また海洋の果たしている役割を解明するために,未だ充分に知られていない海洋の実態を明らかにしていくには,海洋科学技術に関する研究開発の推進が不可欠となっている。

1) 海洋科学技術の基本的推進方策等

海洋科学技術に関する研究開発を進めるに当たっての基本的考え方は,内閣総理大臣の諮問機関であり,海洋開発に関する基本的かつ総合的事項について調査審議を行う海洋開発審議会の答申に示されている。同審議会は,諮問「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について」に対する平成2年5月の答申において,今後の海洋科学技術の推進に関する基本的考え方として,

・地球的規模の環境変動の究明と海洋の実態解明のための海洋調査・技術開発の推進
・海洋に存する厳しい条件を克服し,新たな海洋開発の可能性を探究するための科学技術の推進

等の重要性を指摘している。

我が国の海洋科学技術は,この海洋開発審議会の答申を尊重しつつ,関係省庁の連携の下にそれぞれの所掌に応じて研究開発の推進が図られている。各省庁における海洋科学技術に関する具体的施策は,海洋開発を総合的に推進するために関係省庁が緊密な連絡を図る場である海洋開発関係省庁連絡会議が毎年とりまとめる海洋開発推進計画に沿って実施されている。

2) 海洋科学技術に関する研究開発の推進

海洋科学技術の推進については,科学技術庁では,海洋科学技術センターが中心となって,先導的・ 基盤的な研究開発を進めるとともに,各省庁協力による総合的なプロジェクトを推進してぃる。

このうち,海洋科学技術センターでは,地震予知に関連する海底地形,深海微生物等の生態等の調査のために必要な潜水調査船の研究開発を行ってきている。平成2年度には,有人潜水調査船「しんかい2000」,無人探査機「ドルフィン3K」等による深海調査研究活動を推進するとともに,有人潜水調査船「しんかい6500」の試験潜航及び一万メートル級無人探査機の開発を進めた。

また海洋観測については,海洋の実態解明を進めるため,海表面のプランクトンの分布等をレーザー光を用いて船上から観測する海洋レーザー観測技術,1,000km四方の海洋の温度分布,流速,密度等海洋の状況を音波を利用して立体的に観測する音響トモグラフィー技術の研究開発等を行った。

さらに,沿岸域の開発利用に資するため,海中における作業を効率的に進めるための水深300メー トルまでの飽和潜水技術の実海域実証を目的としたニューシートピア計画,地域における海域利用構想を実現するため,対象となる海域の特性を踏まえた技術の研究開発を地方自治体と共同で進める地域共同研究開発事業を推進した。

一方,関係省庁間における総合的な連携協力の下に,我が国及び東アジア地域の水産,気象等に大きな影響を与えている黒潮の大蛇行のメカニズムの解明等を行うための日中黒潮共同調査研究,科学技術振興調整費による太平洋における大気・海洋変動と気候変動に関する研究,海水の循環等の解明に資する海洋大循環の実態解明と総合観測システムに関する研究,南太平洋における海洋プレート形成域(リフト系)の解明に関する研究等を推進している。

文部省では,東京大学海洋研究所等が中心となって,海洋の物質循環の解明に資するオーシャンフラックス研究等の海洋に関する学術研究を行っているとともに,海洋地殻の採取を行う国際深海掘削計画,西太平洋海域共同調査等へ参加している。

農林水産省では,水産庁が中心となって,つくり育てる漁業の振興のための研究開発等を行っている。

通商産業省では,資源エネルギー庁,工業技術院地質調査所が中心となって,海底鉱物資源の開発,海底地質の調査等を行っている。

運輸省では,海上保安庁において水路業務運営のための海洋観測等を,気象庁において気象業務推進のための海洋気象観測等を行っている。

建設省では,海岸事業に関連した調査として,人工バリア事業推進調査,海洋利用空間の創成・保全技術の開発等を実施する。また,国土地理院において,沿岸海域基礎調査等を行っている。

なお,海洋開発推進計画に基づき関係省庁が平成3年度に実施する主な海洋科学技術分野の研究開発の課題は, 第3-3-5表 のとおりである。


(7) 地球科学技術

1) 地球的規模の諸現象の解明に係る研究開発等

第3-3-5表 主な海洋科学技術分野の研究課題


地球温暖化,オゾン層破壊,異常気象,地震,火山噴火等の地球的規模の諸現象は,人工衛星によるリモートセンシング,深海潜水調査船等科学技術の目ざましい発展により,我々の身近に感じられるようになった。これらの諸現象は,我々人類の社会生活と極めて密接な関連を有し,重大な影響を及ぼすおそれがあることから,その解明等が強く要望されている。

特に,地球温暖化問題は,社会活動の広範な分野にわたり極めて大きな影響を与える問題であり,また,その主たる原因物質である二酸化炭素が人間の活動に密着したものであることから,単に原因物質の規制という従来の環境問題で経験した枠組みを超える考え方が要求されている。地球温暖化については,地球温暖化抑制に向けて直ちに実施可能な対策を進めることは当然であるが,現時点ではまだ科学的に未解明の部分があり,同時に,対策が常に適切な規模で実施されるよう一層の科学的知見の集積に努めることが重要である。この問題については,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)をはじめ各種国際会議において議論がなされており,その対策に向けて,気候変動枠組み条約交渉も開始されたところである。高度な科学技術を有する我が国もこの問題に積極的に取り組み,国際的に貢献することが求められている。

我が国においては,科学技術会議の答申を受けて,今後10年程度を展望した地球科学技術に関する研究開発を推進するに当たっての基本的考え方,重要な研究開発課題並びにこれを推進するに当たって政府が担うべき役割及び実施すべき施策を示す「地球科学技術に関する研究開発基本計画」が決定(平成2年8月内閣総理大臣決定)されたほか,地球環境保全に関する関係閣僚会議において「平成3年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」(平成3年6月)が定められている。

地球科学技術は,地球温暖化,地殻変動等対象となる事象が,時間的にも空間的にも広がりを有し,一国のみの問題にとどまらないものである。このため,研究開発を進めるに当たっては,グローバルパートナーシップを確保することが極めて重要であり,世界気候研究計画(WCRP),地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)等の国際共同研究計画に積極的に参加するとともに,外国の研究機関等と共同研究を進めることが重要である。

このような中で,関係省庁において進められている研究開発のうち主なものは 第3-3-6表 のとおりである。

2) 地球観測技術等の研究開発

地球的規模の諸現象の解明を図る上で必要な情報を集積するためには,地球観測により地球に関する情報を得ることが必要であり,地球観測技術の研究開発が重要である。

第3-3-6表 主な地球科学技術分野の研究課題


現在,我が国では,地球観測衛星の研究開発,深海調査船をはじめとする海洋観測技術の研究開発等地球観測のために必要な技術の研究開発を実施している。

(1) 地球観測衛星

人工衛星による地球観測は,広範囲にわたる様々な情報の連続的な収集を可能とするなど,極めて有効な観測手段である。

宇宙開発事業団においては,海洋観測衛星1号及び1号-bを運用しているほか,地球資源衛星1号,地球観測プラットフォーム技術衛星の開発を関係機関との協力の下で進めており,通商産業省においては,米国航空宇宙局(NASA)の極軌道プラットフォーム1号に搭載する資源探査用将来型センサの開発を進めている。このほか,宇宙開発事業団及び郵政省においては,熱帯降雨観測衛星の開発研究を行っている。また,衛星を用いた地球環境の観測と処理手法を確立するため科学技術庁において,関係機関との協力の下,地球環境遠隔探査技術等の研究等を推進しているほか,文部省においては「衛星による地球環境の解明」(科学研究費補助金)が計画的に進められている。

また,こうして得られた人工衛星データの流通を図ることが重要であることから,科学技術庁においては,国際ネットワーク化に向けてデータベースの整備を実施している。

(2) 海洋観測技術

海洋は,地球的規模の諸現象に大きく関わっており,その果たす役割の解明が重要な課題となっている。このため,海洋科学技術センターにおいて,深海潜水調査船「しんかい6500」の建造や海洋観測音響トモグラフィー等海洋観測技術の研究開発を推進している。

3) 防災科学技術

我が国は,アジア大陸と太平洋の境に位置し,環太平洋造山帯に包含された弧状列島であり,地殻の変動が続いている。地形的には山地,島しょに富み平地に乏しく,急峻な斜面や急勾配の河川が多い。気候的には亜熱帯から亜寒帯に属し,黒潮,親潮等の暖流,寒流に囲まれ,夏は小笠原気団,冬はシベリア気団,梅雨期にはオホーツク海気団等の影響を受けるため,季節による気象の変化が大きい。また,西太平洋に発生する台風がしばしば来襲するなど,古来から地震,火山噴火,暴風,豪雨,洪水,高潮,津波等の気象,水象,地象の全てにわたる災害を受けてきた。

このため,防災対策をより効果的に講ずるため,災害発生の原因となる自然現象の解明と予知・予測にはじまって,災害発生の予知,災害防止,被害の軽減及び災害復旧に至る一連の過程において,科学的知見を蓄積し,それを十分に活用することが重要である。このような背景のもとに昭和56年7月,内閣総理大臣による「防災に関する研究開発基本計画」が決定された。

この基本計画においては,次の4つの視点が示されており,我が国における防災に関する研究開発は,これに沿って実施されている。

・自然現象を解明するための観測・研究,被災過程を解明するための研究,さらには災害を未然に防止又は軽減するための研究等防災科学技術の基礎の充実
・豪雪,火山噴火等による災害のように,その発生地域が特定される災害の地域性を重視した研究開発の推進
・耐震,耐火,水防といった従来の個別の防災科学技術の一層の高度化を図り,都市全体をシステムとしてとらえ,人間の視点に立って総合的かつ効果的な都市防災に対応する研究開発の推進
・学際的領域を含め,多数の領域の科学技術を有機的に連係し,人文,社会科学上の知見などを活用した多角的視点から総合的に進める防災に関する研究開発の総合的推進

また,平成2年8月,内閣総理大臣による「地球科学技術に関する基本計画」の決定において,地球科学技術の研究開発の重要性と地球規模での環境変化の解明等が指摘されており,これに沿っても研究開発が実施されている。

各省庁における防災科学技術研究は, 第3-3-7表 に示すとおりであり,その研究内容は地震予知,地震防災,火山噴火予知,雪氷災害対策,気象・水象災害対策,地球科学技術など多岐にわたり,かつ,宇宙開発技術,海洋開発技術等先端科学技術を駆使しているものもかなりある。

第3-3-7表 主な防災科学技術分野の研究課題(平成3年度)


なお,地震予知については,総合的かつ計画的な施策を推進するため,科学技術庁長官を本部長とする「地震予知推進本部」が設置されている。

また,国際協力については,国際協力事業団(JICA)の委託により,開発途上国の研究者等を我が国の研究機関等に受け入れ,研修を実施している。平成2年度においては,水防,砂防,地震対策等の防災技術を修得させるための防災技術セミナーの他,地震工学研修,火山学・火山砂防工学研修,気象学研修がそれぞれ実施された。

このほか,二国間協力や天然資源の開発利用に関する日米協力(UJNR),国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)/世界気象機関(WMO)台風委員会等との研究協力を実施している。

さらに,国際協調行動により自然災害を軽減することを目的として平成2年から国際防災の10年(IDNDR)が開始されたが,これに先立ち我が国の推進母体として,平成元年5月に「国際防災の10年推進本部」(本部長 内閣総理大臣)が組織され,同年11月,事業推進の基本方針が決定された。また,この趣旨に沿って平成3年3月,地震予知と地震防災に関する国際セミナーが開催された。


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