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第1部  科学技術活動のグローバリゼーションの進展と我が国の課題
第2章  科学技術活動のグローバリゼーションの推進
第4節  科学技術活動のグローバリゼーションを支える共通の価値観と共通規範
3.  研究開発活動の推進に関する各種の枠組み



(1) 民間企業の研究開発活動と政府との関係

近年,民間企業も基礎研究を活発に行うようになり,政府として支援しうる活動も多くなってきている。政府が民間企業に過剰に介入すると,国の内外における市場経済の発展を阻害することもありうるが,基礎研究の場合は市場経済への影響も少ないと考えられるので,民間企業の基礎研究への政府の支援は正当化されうる面を持っている。OECDの「技術・経済計画」(TEP)での検討結果に基づく本年6月のOECD閣僚理事会での技術と経済に関する政策声明において,各国における政府支援の実態を分析し,ガイドラインの作成の必要性が調査されるべきであるとしており,今後各国の科学技術政策の調和を図っていくことが重要である。

(民間企業の研究開発に対する政府支援)

政府による民間企業の支援という問題を考えるに当たっては,まず各国の政府から産業界への研究資金の流れをみる必要がある。我が国は国全体の研究開発費に占める政府負担の割合が少ないばかりでなく,我が国の産業界使用研究費に占める政府資金の割合は,他の先進国に比べて極端に少なくなっている( 第1-2-29表 )。また,政府と民間企業の協力による研究開発の例をみても,我が国は米国や欧州と比べ,特に我が国だけが突出して両者の協力を推進しているというような傾向もない( 第1-2-30表 )。このようなことを総合すると,我が国においては,政府の産業界に対する影響力は他の先進国と比べて小さく,民間企業の競争力の強化は政府支援の研究開発によるものではなく,民間企業自身の努力によって得られているものとみることができる。

第1-2-29表 主要国における政府研究資金の産業界へのフロー

第1-2-30表 日米欧における民間企業との関係を有する 政府の研究開発関連制度・事項の例

(政府の研究開発活動への外国人研究者・外国企業の参加)

各国の研究者に広く研究の機会を提供したり,発想の異なる研究者が相互に触発し合うことが重要であるので,政府の研究開発プロジェクトに外国人研究者や外国企業を広く参加させることが求められる。

我が国の最近の施策をみると,創造科学技術推進事業,フロンティア研究システム,省際基礎研究制度等において,国内外の優秀な研究者の参画が進んでいる。また,大型工業技術推進制度,次世代産業基盤技術推進制度においては,最近,外国企業が参加し始めている。このように,我が国政府の研究開発活動への海外からの参加が増加していることは,海外からみた場合に我が国の研究開発システムが理解しやすくなること,即ち透明性の増大にもつながることになり,外国政府との相互理解が進展することにも寄与するものと期待される。

海外からの我が国政府の研究開発プロジェクトヘの参加が行われる場合の課題としては,政府の資金により研究開発を実施した者が研究開発により発生した特許権等を実施しようとした場合,我が国と他の先進諸国の間で取扱いが異なることである。即ち,研究実施者が研究成果を実施する場合,我が国では一部を除き有償であるが,他の先進国では無償で行える制度を有している国もある。現在,国の委託に係る国際共同研究の成果の取扱いについては,産業技術分野についてのみ,相手国との相互主義を前提に特例措置が認められているが,今後,国際共同研究の活発化が予想されることから,我が国全体として国際的に調和のとれた制度の確立が求められている。


(2) 知的所有権

近年の経済活動のグローバリゼーションの急速な進展に伴い,知的所有権によって保護されるべき技術の国際市場における流通が増大している。それとともに,技術の国際的流通を支える知的所有権がますます重要となってきており),知的所有権の保護レベル,権利取得手続,権利行使の面で国際的なハーモナイゼーションを図っていくことが強く求められている。

(知的所有権に関する紛争の状況)

第1-2-31図 民間企業における知的所有権に関する紛争の発生状況

我が国民間企業の科学技術活動の活発化に伴い,今まで以上に技術の流通が国境を越えて行われるようになってきている。したがって,各国との間で知的所有権に関する紛争の増加することが予想されるが,「民間企業研究活動調査」によると,「知的所有権に関する紛争が増加している」との回答は,「減少している」との回答を上回る結果となっており,予想を裏付けている。相手国(地域)別では米国との間で増加していると回答した企業が24%に達している。これに対して西欧との間では11%,アジアNIEsとの間では9%となっており,日本企業の海外研究開発拠点数が多い国(地域)ほど問題が増えている( 第1-2-31図 )。また,欧米やアジアに研究開発拠点を有する我が国民間企業は,研究マネジメント上の問題点として,知的所有権の扱いに関する問題が,現在ばかりでなく今後も増加してくると答えている( 第1-1-49図 )。さらに,「科学技術に関連して,米国との間で将来において何が問題となると予想されるか」という質問に対しては,知的所有権に関する問題をあげた企業が5割近くに達しており,我が国民間企業が知的所有権問題を深刻に受け止めていることが表れている( 第1-2-32図 )。

(知的所有権に関する最近の主な動き)

米国は1985年のヤング報告書により,産業競争力を回復し,知的所有権の保護強化によって不断の技術革新を確保する必要があることを認識し,以後,多国間交渉や二国間交渉を通して知的所有権の保護強化を図ってきている。米国は先発明主義を採用している唯一の先進国であり,しかも外国でなされた発明についての出願に対しては出願日をもって発明日とみなしており,内外からの出願に対し事実上,差別的扱いを行っている。

第1-2-32図 米国との関係における科学技術関連の現在及び将来の問題

第1-2-33表 知的所有権等に関する国際機関の活動

開発途上国のなかで,インドやブラジルをリーダーとするグループは,知的所有権は開発途上国の発展を抑制するものであるという基本認識に立っており,特に特許権については,工業発展段階に応じた弱い保護で十分だとしており,先進国側から見ると,新規化学物質や医薬品を保護していないこと,保護期間が短いことなどの問題がある。

このように各国で異なっている制度を国際的に調和し,問題点を解決するために国際機関の活動が行われている( 第1-2-33表 )。このうち世界知的所有権機関(WIPO)では特許制度の国際的ルール作りを目指しており,先願主義への統一,特許の有効期間の統一,出願公開の義務化,サーチ及び審査の時期的制限,母国語出願の許容などの項目について昨年まで専門家レベルでの議論を重ねてきている。本年には第1回の外交会議も開催され,議論の大きな進展がみられた。さらに,ガット・ウルグアイ・ラウンドでも交渉の一項目として知的所有権の貿易関連側面を取り上げ,特許についてはWIPOにおける上記の国際的ルール作りでの検討項目の一部と強制実施権等につき検討が行われているほか,商標,意匠,コンピュータプログラムを含む著作権や半導体集積回路の回路配置などの保護基準並びに知的所有権の行使に伴うルール(エンフォースメント)を取り上げ,国際的ルールを作成するための検討が行われている。

(我が国の対応)

我が国は知的所有権の国際的な重要性の高まりを十分認識した上で,上記の国際的なフォーラムに積極的に参加し,具体的提案を行うとともに各国間の調整を図るなど,多大な貢献をしている。また,我が国においては,民間企業による出願件数が多すぎる等の理由から,処理のために米国の約2倍の期間を要している。このため米国は,知的所有権の保護強化を図る観点から,審査期間の短縮を強く求めてきている。出願件数が多いことは,その根源にさかのぼれば,我が国民間企業の技術開発への熱意を反映しているともいえるが,一方では出願されたもののうち,権利化されるものの割合は3割にすぎず,欧米と比べても極めて低いものとなっている。このため特許庁では,出願,審査請求の適正化施策を推進するとともに,審査官の増員,ペーパレスシステムの推進,民間活力の活用等,審査処理能力の向上策を講じる事により,審査処理の短縮化を強力に推進している。

開発途上国との関係においては,特許庁は開発途上国に対して知的所有権制度の創設,円滑な運営等のための協力として専門家の派遣,研修生の受入れ等を行っている。現在は国際協力事業団を通じた協力の他,WIPOへの拠出金による協力も行っており,規模,内容ともに充実した形で進めている。


(3) 工業製品等の標準化

「民間企業研究活動調査」によれば,我が国民間企業は,研究開発活動において世界に共通な枠組があった方が望ましい事項として,知的所有権制度の次に製品の規格をあげており,国際的な標準化が民間企業の研究開発活動のグローバリゼーションにとって重要であることを指摘している( 第1-2-34図 )。

国際標準化の推進は,貿易上の技術的障壁を除去し国際貿易の活発化に資するとともに,相互接続性の確保等を通じて情報の世界的流通やデータの共有化を促進し,また,科学技術分野の国際協力の基盤形成,開発途上国の産業発展基盤の育成に寄与するものである。

我が国は,従来からガットの方針に沿って標準化活動の国際化を進めてきているが,国際的な情勢を踏まえ,国際標準化の利益を享受するだけでなく,日本工業規格(JIS)等の一層の国際規格との整合化と国際標準化機構(ISO),国際電気標準会議(IEC)及び国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU)における国際標準化活動への積極的な参画がこれまでにも増して真剣に取り組むべき課題となっている。特に我が国が世界的に高い技術力を有する技術分野では我が国の標準化における国際的貢献に対する期待は極めて大きい。

第1-2-34図 研究開発活動において民間企業が望む世界的に共通な枠組

(新材料分野における国際標準化)

このような,観点から国際標準化を図る上で,我が国は例えば新材料分野における試験評価技術に関する国際協カプロジェクト(VAMAS)に研究開発段階から積極的に参加し,超電導・極低温構造材料,セラミックス等の技術作業部会すべてにおいて共同研究活動を行っている。VAMASは1982年に開催されたベルサイユ・サミットにおいて合意された国際協カプロジェクトの一つであり,プロジェクトの目的は新技術の貿易の発展と促進及びこれに対する技術的障害を撤廃するため,新材料の使用基準や仕様の設定に必要な国際的に調整された技術基盤を構築することである。新材料はエレクトロニクス分野をはじめとしてエネルギー,航空,宇宙などの多くの先端技術分野において技術革新のための鍵として注目されている。新材料分野としては,セラミックス,高分子材料,金属系材料及び複合材料などがあるが,これらの分野に関しては我が国は技術及び研究能力の高さから,一参加国としての役割を果たすだけでなく,先導的役割を担っていかなければならない。VAMASについては,サミット,加盟国間の協力により実施されてきているが,1992年以降も継続される見通しにあり,国内においても産学官の広範な参加者による永続的な研究体制整備が必要となっている。

また,超電導についてはIECにおいて1989年に新たな専門委員会(TC90)が発足し,日本が幹事国として国際標準化が行われることとなった。用語・試験方法等の標準化によって研究開発・実用化が促進されるものと期待される。

(高精細度テレビジョンの国際統一規格)

我が国が技術開発でリードし,しかも国際標準化にも相当な努力を払いながら,他の諸国の意見が完全には一致していない例として高精細度テレビジョン(HDTV)があげられる。HDTVの開発は,我が国が世界に先駆けNHKと機器メーカーにより1960年代から開始したものであり,1970年以降にはハードの開発も本格化し,1984年には圧縮伝送技術が開発された。1985年の国際科学技術博覧会(科学万博つくば′85)ではトータルシステムが完成し,地上波での伝送実験が行われ,1989年6月からは衛星放送を利用した本格的な定時実験放送が開飴されている。HDTV関連の各種機器開発は実用化の段階にまで達しており,我が国が開発したハイビジョン方式が採用されれば,我が国の技術開発の成果が世界で利用される一つの例となろう。

HDTVの国際番組制作規格(スタジオ規格)については国際無線通信諮問委員会(CCIR)において1972年から長い間議論が重ねられ,日本のハイビジョン方式と,欧州の提唱するヨーロッパ提案方式が対立してきた。1990年5月にはCCIRから勧告が出され,画面の縦横比など多くの項目で規格統一の合意が図られた。米国は当初日本案に賛成していたが,1989年に方針を変更し支持を撤回した。このため,現在でも日米欧の完全な規格の統一へ向けて努力が続けられている。HDTVの例は,我が国が世界的に高い技術力を有する技術分野であり,規格統一への役割が期待される反面,各国の技術戦略との関係で規格の統一が難行している例であり,国際的な規格の統一や標準化の困難さの一面を示している。


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