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第1部  科学技術活動のグローバリゼーションの進展と我が国の課題
第1章  グローバリゼーションの進展
第3節  新たな課題
1.  地球環境問題


近年,にわかに地球環境への関心が全地球的な高まりをみせている。科学技術には,地球環境問題への対処のため,地球環境の観測・監視,環境変化の現象解明,問題の解決へ向けた技術開発等に大きな期待が寄せられている。


(1) 地球環境問題と科学技術

1) 地球環境問題

地球環境問題は,一般には地球温暖化のように被害・影響が一国にとどまらず,国境を越え,さらには地球的な規模で広がる環境問題と有機廃棄物の越境移動のように先進国を含んだ世界的取り組みが必要とされる開発途上国の環境問題を指しており,現在懸念されている地球環境問題としては, 第1-1-63表 に示すような地球温暖化,オゾン層の破壊,酸性雨等がある。

第1-1-63表 地球環境の変動による影響及び被害について

こうした地球環境問題は,人類の生存基盤に深刻な影響を与えるものである。例えば,地球温暖化が進行すると海水面の上昇(特段の対策がとられない場合,2030年までに約20cm上昇するとの予測がある),砂漠の拡大,降水地域の変動等を引き起こすといわれ,オゾン層の破壊により,オゾン量が1%減少すると紫外線量が2%増加し,ある種の皮膚がんが現在より3%増加するという予測がある。酸性雨は,ドイツ,オランダ,イギリス,スイス,デンマークの森林の約半分に影響を及ぼし,スウェーデンの湖沼4,000以上で魚類等に相当の被害が生じているとの報告があり,また,砂漠化進行は,1984年に2億3,000万人に影響を与えたといわれている。

2) 地球環境問題の原因と科学技術の関係

地球環境の大変化や悪化を懸念する報告は,例えば地球温暖化に関して既に19世紀末になされているほか,1972年には世界の賢人が集まった「ローマ・クラブ」が地球環境の悪化は経済成長を制約しかねないとの警鐘を鳴らしていた。また,米国政府は,1980年に「西暦2000年の地球」と題する報告書を発表し,将来の環境の悪化について当時としてはショッキングな予測をしている。

こうした科学者等の意見にかかわらず,地球環境問題は,なぜ阻止できなかったのであろうか,あるいは,不可避な問題であったのであろうか。

地球環境問題は,砂漠化進行の一部の原因等,人為的な影響とは無関係に自然現象であるといわれているものもあるーが,大部分は人間の諸活動が自然に影響を及ばし,ひき起こされているものとみられている。世界人口の増加,経済活動の増大による大量のエネルギー消費,自然界には無い物質の開発と大量の利用が大きな原因となっている。

科学技術の進歩は,自然界には無い物質の開発・利用,大量のエネルギー消費を実現し,経済活動の発展を加速してきたが,一方,科学技術の利用が経済発展のために偏りすぎ,地球環境問題がひき起こされたので゛はないかとみられる( 第1-1-64図 )。

フロンによるオゾン層の破壊,二酸化炭素の大気中濃度の増加による地球温暖化,酸性雨等の問題は,科学技術の成果が主に経済発展のために利用され,環境への配慮が十分なされなかったことが原因の一つと考えられる。ただ,地球環境問題が文明に付随し必然的に発生するという意見もある。

第1-1-64図 研究者の予想にかかわらず地球環境問題が 避けられなかった理由

地球環境に関する科学技術と政策判断との関係が疎遠であったことも地球環境問題に関してさしたる対策がとられてこなかった理由の一つである。一般に政策,世論は説得力のある観測結果・被害が生じて初めて反応するものであり,科学技術の成果による予測が予防になかなか活用されずにきた。実際,1985年末にオゾンホール(毎年春季に南極上空でオゾンが大幅に減少する現象)の存在が公表されると,それまで遠い将来の出来事と思われていた地球環境の悪化による人類生存への影響がにわかに現実の問題として見えてきたため,その後,オゾン層保護のための国際的対策づくりが大いに進んでいる。研究者の意見が政策に何らかの形で反映されるよう,政策と研究者の距離を小さくする努力が今後とも求められよう。


(2) 科学技術による地球環境問題への今後の対応

1) 地球環境問題の科学的な解明

地球環境問題はその問題の大きさにもかかわらず,そのメカニズムや原因が未だ科学的に解明されていないことが多く,現在,明らかになっているのは二酸化炭素,フロンガスの大気中濃度の増加,酸性度の高い地域的降雨,砂漠面積の拡大,熱帯林の減少などの現象を確認することにとどまっているのがほとんどである( 第1-1-65表 )。

これは,地球環境問題に関する科学的知見の集積に対して急速に期待が増大しているにもかかわらず,実験室の中で,現象等を解明することが困難であることのほか,過去の各学問分野を総合的に統合してとらえる学際的な研究を進める必要があることによる。

こうしたことに対処するため,いままで不足していた全地球的な観測・監視による精密データの蓄積が進められているところであり,特に人工衛星を用いた全地球的な観測は,地球環境問題の解明に有効であるため,人工衛星による継続的な地球観測・監視を,データネットワークの構築を含め総合的に推進している。これらにより,しだいに地球環境問題の全体的状況が科学的に把握,評価できるようになるとみられる。また,高速コンピュータによるシミュレーションは全地球的な観測・監視結果による検証と相まって,環境変化予測,現象解明の有効な手段として期待されている。

2) 科学技術への今後の期待

このように地球環境問題は,その重大性にもかかわらず,現象の解明さえなされていないものも多く,問題に対処するための研究が始められたばかりのものも多い。現状においては,地球環境の観測が緊急の課題となっている。地球環境変化に関するデータの蓄積とともに,原因究明,現象解明の努力がなされているが,地球環境問題への対処方法を科学的に判断する知見の提供が科学技術に求められており,今後とも研究推進のための努力を続けていく必要がある。

第1-1-65表 地球環境問題に関し科学的に不明な事項の例

地球環境問題の解決のためには,石油代替エネルギーの開発利用,エネルギーの効率的利用技術の開発,フロン代替物質の開発,二酸化炭素の固定化などの技術開発の推進も有効な手段ではあるが,同時に経済メカニズムや生活スタイルの改善も重視されなければならない( 第1-1-66図 )。こうした,経済メカニズム,生活スタイルの改善のためには効率,快適とは別の観点が必要であり,地球上の一人一人に対して地球環境問題についての科学的知見を分かりやすく提供するとともに,経済メカニズム,生活スタイルの望ましい姿についての総合的判断のためのデータを示すことも科学技術の重要な使命となっている。

また今後,各種の新物質や極限技術の開発が進むとみられるが,そうした物質,技術が環境に与える影響を十分に評価する手法の確立も科学技術に期待されてこよう。

第1-1-66図 地球環境問題を解決していくために最も有効な方策


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