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第1部  科学技術活動のグローバリゼーションの進展と我が国の課題
第1章  グローバリゼーションの進展
第2節  科学技術活動の地球規模化
3.  活躍する,民間企業



(1) 日本企業の国内外における研究開発活動

1)研究開発拠点の海外設立

(拠点数と規模)

我が国民間企業は企業活動のグローバリゼーションに伴ない,海外に活動拠点を設立してきた。拠点設立の,動きは当初販売拠点の設立から始まり,次に生産拠点設立の動きへと移っていった。近年,このような動きは研究開発活動にも及んでいる。

科学技術庁が平成3年6月に民間企業1,301社(回答850社)に対して行った「民間企業の研究活動に関する調査(平成3年度)」(以下,「民間企業研究活動調査」という)によると,我が国民間企業が海外に設立している研究開発拠点の総数は276個所に達しており,全体の14%が海外に研究開発拠点を保有している。企業の資本金規模別でみると資本金100億円以上で500億円未満の企業では17%が設立済みであり,資本金100億円未満の8%と比べると大きな差がある。資本金500億円以上の企業になるとほぼ2社に1社が研究開発拠点を設立している( 第1-1-43図 )。海外に研究開発拠点を設立していない企業は,その理由としてまず国内の研究開発拠点で十分であることをあげており,次に海外設立の余裕がないことをあげている。

研究開発拠点の設立国(地域)別では,圧倒的に米国が多く,西欧がこれに続いている。設立時期としては欧米を中心に1985年以降で集中的に急増しており,国(地域)も広域化している。今後の設立予定では西欧が多く,1992年末のEC市場統合に備えて研究開発拠点の設立を計画している企業が多いものと思われる( 第1-1-44図 )。

第1-1-43図 民間企業における海外研究開発拠点の保有状況

第1-1-44図 民間企業における最初の海外研究開発拠点の 設立時期(地域別)

海外に設立された研究開発拠点に従事する研究者の総数をみると,現在は20〜49人の研究者を有する企業が最も多い。5年前では1〜4人が最も多かったことと比較すると,海外に設立した研究開発拠点に従事する研究者の人数は着実に増加している。この数は今後さらに増加し,5年後の予定では20〜99人が最も多くなっている( 第1-1-45図 )。海外研究開発拠点で雇用する研究者の国籍を見ると,現在では外国人の方が日本人より多く,5年前には外国人と日本人が半々位であったのと比べると外国人の割合が急増している。5年後にはさらに外国人研究者の割合は増加し,日本人の方が多いとする企業はほとんど姿を消しており,海外研究開発拠点では外国人研究者を主体に活動していることがわかる( 第1-1-46図 )。以上から分かるように我が国民間企業の海外研究開発拠点は近年急速に増加しており,これに伴いかかる企業の外国人研究者の雇用も短期的に増えているが,第2章で述べるように研究成果の公開に配慮し,現地において「日本企業の海外における優秀な頭脳の囲い込み」というような誤解を招かないように留意すべきであろう。このような日本企業の短期間における海外研究開発拠点設立の動きは,後で触れる外資系企業の日本への研究開発拠点設立が充分時間をかけて行われているのに比べて対照的である。

第1-1-45図 民間企業における海外研究開発拠点の研究者総数

第1-1-46図 海外研究開発拠点における研究者の国籍

(研究開発拠点設立の目的)

海外に研究開発拠点を設立している日本企業は主な目的として以下の4点をあげている。

・生産拠点の技術力強化(生産と研究の連携強化)
・海外のニーズに対応した研究開発,製品の改良のための研究開発
(現地のニーズに適合し"た製品の開発)
・技術のシーズの探索(基礎研究)
・海外における優秀な頭脳の確保,活用

このなかで,現地のニーズに対応した研究開発,製品の改良のための研究開発はすべての地域で設立理由のトップにあげられており,市場重視の姿勢が明確に現れている。それ以外の目的では地域によって特徴が見られる。米国及び西欧では「技術のシーズの探索」と答えた企業が多い。アジアNIEsでは「生産拠点の技術力強化(生産と研究の連携強化)」と「海外のニーズに対応した研究開発,製品の改良のための研究開発」が多く,「シーズの探索」と「優秀な頭脳の確保」は少ない( 第1-1-47図 )。

第1-1-47図 海外における我が国民間企業の研究開発拠点設立の主な理由

これらの目的のうち,設立の理由として最も多くあげられていた「海外のニーズに対応した研究開発,製品の改良のための研究開発」については18%が既に成果があったと回答しており,現地のニーズに適合した製品の開発が円滑には進展していないことを示している。 「生産拠点の技術力強化」についてもわずかに27%が成果があったと回答しているが,「優秀な人材の確保」についてはさらに困難な状況となっており,成果をあげたと答えた企業は5%にすぎず,国内と同様に人材難に苦しむ日本企業の様子がうかがわれる。

(海外研究開発拠点における研究内容)

海外研究開発拠点で実施している研究内容は研究開発拠点の設立の目的と密接に関連しており,目的に応じた研究内容となっている。全体的に見れば「現地の市場に合致した製品の開発」が最も多く,ついで「生産効率の向上」をあげている。これに対して「中核となる技術の開発」は少なく,「中核となる技術の開発」は本国で行っていることを現している。しかし,5年後をみると「中核となる技術の開発」を行うと答えた企業は増加しており,「生産効率の向上」と逆転している。「基礎研究」については比率は小さく,将来も現状とほとんど変わらないとしている企業が多い( 第1-1-48図 )。

(海外研究開発拠点の研究マネジメント)

第1-1-48図 我が国民間企業が海外に設立した研究開発拠点における 研究内容

海外で研究開発を行うときの研究マネジメント上の問題点は設立の時期及び地域により異なっている。欧米とアジアで拠点設立時の問題点として多くあげられる海外研究開発拠点と日本の本社あるいは海外の生産現場との連携,意思疎通については現在は少なくなり,今後はほとんどなくなると答える企業が多い。意思疎通の問題に関しては時間と共に解決していっていることが現れている。アジアで設立時に多かった「現地政府の規制や制度」も現在では急速になくなっている。現在での問題点としては,アジアにおいて「研究開発人材の確保難」があげられており,今後も続く課題だとしている。今後増加する問題点としては「研究開発成果の効率的産出」と「知的所有権の取扱」が欧米・アジア共に指摘されており,これらの問題が海外に研究開発拠点を設立する日本企業にとって解決すべき共通の課題であることがわかる( 第1-1-49図 )。

(現地研究機関との共同研究)

第1-1-49図 我が国民間企業の欧米及びアジアにおける 研究開発拠点の研究マネジメント上の問題点

現地の大学,企業,政府研究機関等との共同研究を実施している日本企業の海外研究開発拠点は,立地している企業の83%であり,また,共同研究を実施している企業の研究テーマは平均一社当たり2件である。この件数は5年前に比較すると2倍に大きく増加しており,現地での共同研究に対する日本企業の積極的な姿勢があらわれている。

(大学との協力関係)

民間企業は国内の大学ばかりでなく海外の大学とも活発に協力を行っている。民間企業と海外の大学及び国内の大学との協力関係について,民間企業から大学への寄付金や委託研究費の総額で見ると,国内の大学に対する金額が海外の大学に対する金額よりも圧倒的に多い。海外の大学に対しては24%が実績があると答え,金額で最も多いのは1,000万円以上1億円未満であり,国内の大学に対する寄付金及び委託研究費で最も回答の多かった金額と比較すると,1社当たりの金額は同じである。企業の規模別で見ると資本金が100億円以上の企業のほうが資本金が100億円未満の企業に比べて金額は大きく,企業の余裕度の違いが表れていると考えられる( 第1-1-50図 )。総額は国内の大学に対しての方が多いが,今後民間企業の研究開発活動のグローバリゼーションが進展し,海外の大学との接触の機会が増加してくると,海外の大学との協力関係も増加するものと考えられる。

第1-1-50図 我が国民間企業の大学への寄付金,委託研究費

2) 民間企業における技術貿易

海外との間において特許,ノウハウや技術指導などの技術の提供(=技術輸出),技術の受入れ(=技術輸入)にかかる技術貿易の実績については企業の64%が実施しており,36%の企業は輸出入とも行っているとしており,活発に技術の提供・受入れを実施していることがわかる。

技術貿易の相手先としては,自社の海外子会社が相手先ではないという企業と子会社以外の方が多いと答えた企業を合わせると70%となり,海外への技術の移転が特に子会社ということではなく幅広く行われている( 第1-1-51図 )。

第1-1-51図 民間企業における技術輸出の相手先の割合

3) 開発途上国に対する技術移転

技術移転は,南北の経済格差の是正を技術面からアプローチしようとするものであり,技術の進歩により経済のテイク・オフを実現しようという観点から,開発途上国は日本の技術移転を強く要望している。1986年以降,日本の近隣諸国への技術移転は,韓国に対しては急激に伸びており,タイ,台湾,シンガポール,マレーシアに対しては増加傾向,インドネシアに対しては横ばいになっている。中国への技術移転は84年をピークに減少してきており,また,フィリピンに対しては低迷しているが,現地における活発な経済活動が日本からの技術の導入の牽引力となっていると考えられる( 第1-1-52図 )。

第1-1-52図 日本の近隣諸国への技術輸出の推移

技術移転の中で最も効果が早く現れるのは,現地への工場設立であろう。日本の製造業による開発途上国への直接投資は,工場設立を中心に最近急増している。民間企業の有する各種の技術や経営ノウハウが開発途上国へ移転され,現地の発展に貢献することが期待される。「民間企業研究活動調査」によるとアジアNIEsに関しては,民間企業の大半は研究開発拠点としての位置付けではなく,生産の支援を含んだ製品の開発拠点とみている( 第1-1-53図 )。したがって,日本企業のアジアNIEsに対する技術移転としては,生産拠点を核とした技術移転や技術指導等が中心に実施されていると考えられる。

4) 外国人研究者の受入れの実態と処遇

「民間企業研究活動調査」において回答を得た民間企業の国内研究開発拠点での外国人研究者の雇用は近年急速に進んでおり,この3年間で外国人研究者の総数は3倍へと増加し,751人に達している。しかし,一社当たりの研究者数でみると1人に満たず,研究者全体に占める割合も1%に達していない。

第1-1-53図 民間企業の研究開発戦略におけるアジアNIEsの位置付け

研究者全体に占める外国人研究者の割合については,ある程度の割合になってくると企業の研究マネジメントや文化に対して少なからず影響を及ぼし始めるものと考えられる。将来の外国人研究者の割合については4割の企業が目標値を示している。目標値を示している企業のうちO%と回答した企業を除くと,1%程度としているところが最も多いが,10%以上と回答した企業が20社もあり,企業間の戦略の違いを大きく反映しているものと思われる( 第1-1-54図 )。

国内研究開発拠点で雇用している外国人研究者の国籍では,アジアが最も多く,ついで西欧,米国の順番となっている。アジアは最近3年間の伸び率が大きいが,これは日本の大学への留学生が卒業後,民間企業に就職していることが考えられる( 第1-1-55図 )。

第1-1-54図 民間企業の将来における外国人研究者の割合

第1-1-55図 民間企業が国内研究開発拠点で雇用する外国人研究者(国籍別)

国内研究開発拠点で外国人研究者を雇用する理由として企業が最も重視しているのは「研究開発人材の確保」であり,日本人だけでは研究開発活動を行うのに十分な研究者を確保できなくなっている様子を示している。次に重視しているのは,「外国人の発想の違いに触発された新技術の開発」や「日本人研究者に期待できない優秀な研究者によるブレークスルー」への期待であり,研究の質・レベルの向上を求めている( 第1-1-56図 )。しかし,期待通りの成果が既に得られたとしている企業はほとんどなく,外国人研究者に対するマネジメントがこれからの課題であると思われる。

5) 国内企業の海外との共同研究

現在,海外の大学,企業,政府研究機関等との間で共同研究を実施している国内の企業は全体の35%であり,一社当たりの共同研究の件数は平均5件である。5年前と比較すると共同研究を実施している企業の数及び一社当たりの件数は,ともに大きく増加しており,国際的な共同研究が活発化していることがうかがえる。

第1-1-56図 研究開発拠点で外国人研究者を雇用する理由

国際的に共同研究を実施する理由としては,「共同研究を行う技術分野に関し,独創的な知見や固有の技術を保有している国内企業がないこと」が最も多く,次に「新製品の開発分担」があげられており,3番目として「将来の自社のグローバリゼーションの足掛かり」があげられている( 第1-1-57図 )。

6) 将来展望

日本企業の6割は研究開発活動の国際的展開に取り組むつもりであるとし,それらの民間企業が描いている研究開発の国際的展開に対する将来的イメージとしては,「日本に中核的研究開発機能を有する拠点置き,海外に生産技術や現地ニーズに対応するような補助的研究開発機能を有する拠点のみを置く」という企業と,「日本に中核的研究開発機能を置き,海外に補助的研究開発機能を置くが,北米などの有力市場には独自性の強い研究開発機能を置くなど複合的な展開を図る」という企業とがほば同数で,グローバリゼーションに積極的な企業が45%となっているが,研究開発のグローバリゼーションを行うつもりのない企業も34%に達している( 第1-1-58図 )。

第1-1-57図 国内研究開発拠点が海外の企業と共同研究を実施する理由

第1-1-58図 民間企業が描く研究開発の国際的展開の将来的イメージ

従来我が国民間企業の研究開発活動は日本国内に集中しており,国内の研究機関の連携がうまくいっていたため研究開発の効率は高かった。現在進行している海外への研究開発拠点設立の動きは集中豪雨的なものがあり,設立それ自体が目的とされている面があるが,今後は海外に研究開発拠点を設立している日本企業にとって如何にして研究開発成果の効率的産出を行うかが課題となろう。したがって,今後,研究開発拠点を世界規模で展開する企業は,各研究開発拠点と本社の事業戦略との整合性をとりつつ進める必要があり,同時にそれぞれの研究開発拠点が相互に連携をとりながら活動していくことが求められる。さらに,各研究開発拠点においては現地で優秀な研究人材を雇用する機会が増加するため,それらの人材の能力を最大限に引き出すようにマネジメントを展開し,多くの研究成果をあげることによって現地へ還元することを心がけなければならないであろう。


(2) 外資系企業の我が国での研究開発活動

1) 外資系企業の研究拠点の我が国設立の背景

我が国民間企業は1985年以降に集中的に海外に研究開発拠点を設立してきた。それに対して,外資系企業の我が国における研究開発拠点設立の経緯はどうであろうか。科学技術庁科学技術政策研究所の調査によると,外資系企業による我が国への拠点設立はまず販売拠点から始まり,ついで生産拠点,研究開発拠点の順である( 第1-1-59図 )。研究開発拠点の設立は1960年代に始まり,20〜30年間に徐々に増える形で行われている。日本企業の海外研究開発拠点の設立が短期間の間に集中的に行われたのに比べて対照的である。

第1-1-59図 外資系企業における我が国拠点での業務開始年度

その役割の主なものは,生産に直結した技術開発及び市場が求める商品の開発である。そのため外資系企業が研究開発拠点を日本に設立している理由としては,「日本市場に合う製品の企画のため」が最も多く,次に「日本の研究開発が進んでいるため」や「技術開発の状況調査のため」をあげている。これは,日本も外国企業にとって研究開発を行うための適地となりつつあることを示しているものといえる( 第1-1-60図 )。また,現在の所在地を研究開発拠点の設立場所に選んだ理由も,「自社の生産゛拠点に近接」しているからというのが最も多いが,「地価が相応」であったことも大きな理由としてあげており,地価の問題も大きいことを認めている( 第1-1-61図 )。

研究開発拠点における研究者の国籍では,研究者や技術者がすべて日本人である企業は64%と多く,これは拠点の主な設立理由を「日本市場に合う製品企画のため」としていることと関連していると考えられる。このことは研究開発プロジェクトの発案時にも現れており,自主的発案により設定されていると答えた企業が最も多いが,そのほか顧客からの要求や社内販売部門やマーケティングからのフィードバツクが重視されており,市場重視型のテーマ設定になっている。

第1-1-60図 外資系企業が日本に研究開発拠点を置く理由

第1-1-61図 外資系企業が現在の所在地を研究開発拠点に選んだ理由

2) 海外企業からの要請

日本に研究開発拠点を設立している外資系企業の多くが,日本で研究開発を実施する際の問題点として「人材の確保」の難しさを指摘しており,「設立に要する費用」や「特許制度」についても問題があるとしている。人材の確保に関しては,日本企業にとっても同様な問題と言える。設立に要する費用に関しては,現在の所在地を選ぶ際に地価の問題をかなり重視していることを考慮すると,高すぎる地価が新たな障壁どなりうる。地価問題を含めたインフラの整備は,我が国が早急に解決すべき課題であると思われる。また,特許については各国間の特許制度の差としており,お互いに調和のために歩み寄る努力が求められよう。政府の諸規則については80%が問題ないとしている( 第1-1-62図 )。

第1-1-62図 外資系企業が日本で研究開発を実施する際の問題点


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