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第3章   海外及び我が国の科学技術活動の状況
第1節  各国(地域)の科学技術政策
1.  米国


(概況)

米国はこの30〜40年,圧倒的な科学技術力を背景として,世界の経済や産業をリードしてきた。米国における1989年度の研究費総額は約1300億ドル(推定)であり,これは対GNP比で2.5%であるが,ここ数年米国における研究開発投資の伸び率は低くなっている。

政府は,従来から科学技術への支出は国の将来への投資であるとの認識の下に政策を展開してきている。米国の研究開発投資は停滞気昧ながら,長期的発展の源泉となる基礎研究については,比較的高い伸び率を確保し,力の保持,発展に努めている。このような分野の研究の特徴としてビッグサイエンスの推進があげられ,財政危機下においても,米国の科学技術力の象徴として宇宙探査,ヒトゲノム解析,スペースプレーンなどの計画を進めている。

1980年代前半に,政府は強いアメリカを目指して研究開発投資を拡大し,これを著しく国防研究に傾斜させてきた。しかし1980年代中頃からは,米国産業の競争力向上が課題となり,技術移転,税制等への対処が図られてきている。このような推移を受けてブッシュ政権の基本方針も科学技術力の強化を強く意識したものとなっており,それは,本年1月に発表した一般教書及び予算教書等に示されている。

一般教書においては,「競争力ある米国をめざした投資」を強調している。これを実現するために,物的,知的及び人的にわたるあらゆる資本の形成を促進することとし,このための施策として,過去最高の研究開発投資,宇宙開発の推進,教育の充実等をあげている。

(体制)

米国の科学技術政策全般にわたる総合的な調整は,大統領行政府の科学技術政策局(OSTP)が行っており,科学技術政策総合推進機関として以下の権限を有している。

・経済,国家の安全,健康,外交及び環境を含め,国家的関心の深い科学技術上の考慮すべき事項について,大統領に助言する。
・科学技術における政府の取り組みの規模,質及び有効性を評価し,適切な行動について,大統領に助言する。
・政策予算に関して科学技術上考慮すべき事項について大統領に助言し,各省庁の研究開発予算提案に関する行政管理予算局の年次見直し,分析を援助するとともに同局及び各省庁に対し予算の編成の全過程において補佐する。
・政府の研究開発における大統領の全般的指導性の発揮と調整を援助する。 科学技術に関する個々の計画の企画,立案及び実施はそれぞれ国防省,

厚生省,航空宇宙局,エネルギー省,国立科学財団等各省庁が所掌に応じて分担している。

1980年代前半においては,政府の国防研究予算は民生研究予算を上回って伸び,1986年度には政府の全研究開発予算の約7割を占めるまでになったが,その後は民生研究の伸びが国防研究の伸びを上回り,国防研究の割合は徐々に下がっている。ブッシュ政権は,1991年度予算要求において国防研究予算として414億ドルを計上しており (国防省387億ドル,エネルギー省27億ドル,債務負担ベース),これは政府の研究開発予算の約6割を占めている。国防省の研究開発費の9割以上は,開発・試験・評価費であり,また,国防省は民間企業のハイテク技術開発の支援を行っている。

各省庁の代表的な研究開発をみてみると,厚生省における国立衛生院のエイズ研究,航空宇宙局における宇宙探査や宇宙ステーション等の宇宙開発,エネルギー省における高エネルギー物理等の研究開発,国立科学財団における大学等の研究への支援などがある。このほか,農務省,内務省,環境保護庁,商務省,運輸省等においてそれぞれの分野の研究開発を行っている( 第3-1図 )。

(施策)

1991年度の予算教書においても,「将来への投資」を第一のテーマとしており,研究開発予算総額としては,対前年度比7%増の712億ドル(債務負担ベース)を要求している。これは1991年度予算要求全体の5.1%を占めている。科学技術関連施策としては,「人類のフロンティアの拡大」及び「研究開発強化」の2つの項目をあげ,具体的には,以下の事項を推進するとしている。

第3-1図 米国の省庁別研究開発予算(1991年度要求)

「人類のフロンティアの拡大」としては,宇宙,バイオテクノロジー,超伝導超大型衝突型加速器(SSC)をあげている。宇宙分野に関しては,スペースシャトル運航等の宇宙輸送基盤の構築,宇宙ステーション及び月・火星有人探査等による宇宙フロンティアの拡大,惑星探査及び地球観測等による科学的知見の増大,宇宙における商業化支援の強化等をあげている。また,バイオテクノロジー研究の推進は,食品供給の能力を高め,病気の予防,診断及び治療に役立ち,産業廃棄物の危険性を低くするとして,ヒトゲノム解析計画,農業研究計画等を推進していくこととしている。SSCについては,既存研究施設では不可能な物質の本質についての研究を可能とし,科学技術のブレークスルーをもたらすものとして,1991年度はマグネットの設計,開発を完了させることを要求している。

さらに,「研究開発強化」としては,国立科学財団(NSF)の予算倍増計画(1987〜93年度)の推進,地球的規模の環境変化の研究,エイズ研究,コンピュータ,半導体,超伝導等の先端技術の研究開発,磁気浮上輸送を始めとする輸送技術研究の推進,科学教育の充実,試験研究費の税額控除の継続等の事項をあげている。

(産業競争力強化を目指す動き)

日本,欧州,アジアNIEs等の技術力の進展という状況に直面して,米国産業の国際競争力強化を図ろうとする動きが活発となってきている。

1980年代に入り,民間の研究開発投資を促すため,試験研究費の税額控除や共同研究を容易にする反トラスト法の適用緩和,知的所有権保護の強化などの施策がとられてきており,また,連邦政府による研究開発成果の商業利用を促進してきている。

1980年代の後半には,米国の競争力についての懸念から,連邦政府が民間の民生技術を直接支援するようになってきた。セマテツクは,米国の半導体製造業者等のコンソーシアムで,次世代半導体製造技術の開発を行っており,国防省から年間1億ドルの援助を受けている。

技術移転の促進に関しては,連邦政府から民間企業への補助,委託による研究成果,または民間企業との共同研究による研究成果を産業界に移転する施策が進められている。

1988年8月には,「1988年包括貿易・競争力法」が成立し,競争力強化の面の法的な裏付けがなされた。

米国の技術力の象徴たるハイテク製品貿易の収支は,このような競争力強化の意識,政策等により,好転の兆しが出てきている。ハイテク製品貿易は,1980年代始めに300億ドル近い黒字を記録した後,1986年には赤字となったが,ここ2〜3年再び黒字基調となってきている( 第3-2図 )。

第3-2図 米国のハイテク製品貿易収支の推移


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