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第2章   豊かな生活を創造する科学技術への期待
第2節  生活者の視点からみた科学技術
2.  快適で安全な環境
(1)  地球環境の保護


化石燃料の燃焼等により大気中の二酸化炭素等が増大し,それらの温室効果により地球が温暖化しているといわれている。今後発展途上国における工業化の進展等に伴うエネルギー消費量の増大を考慮すれば,二酸化炭素の排出量はますます増大すると考えられている( 第2-8表 及び 第2-9図 )。今のペースで大気中の二酸化炭素が増加していけば,現在と比較して地球の平均気温は2025年までに約1度,海水面は2030年までに約20センチ上昇すると予測されている( 第2-10図 及び 第2-11図 )。地球温暖化は,海水の熱膨張・雪氷の溶解による海面水位の上昇,気候の不安定化等を引き起こし,生活に大きな影響を及ぼすと懸念される。また,半導体の洗浄剤,カーエアコンの冷媒,ウレタンホームの発泡剤等に使用されているフロン等は,生物に有害な紫外線を吸収する働きのあるオゾン層を破壊していることが確認されている。

エネルギー供給部門では,地球環境の負荷を少なくするように二酸化炭素を排出しない太陽光発電,風力発電,波力発電等のエネルギーの開発が期待される。また,原子力発電は二酸化炭素を排出せず,安定したエネルギー源としてその開発利用が期待されており,また次世代の原子炉と考えられている高速増殖炉等の新型動力炉,核融合等についても開発が進められている。運輸部門では,二酸化炭素を排出しない電気自動車や水素自動車,さらには太陽光をエネルギー源としたソーラーカーの開発が期待されている。

第2-8表 各国の二酸化炭素の排出量

第2-9図 温室効果ガスの温室効果に対する寄与度

第2-10図 地球の平均気温の上昇予測

第2-11図 海水面の上昇予測

一方,地球環境への負荷がより少ない方法で社会経済活動を営むためには,省エネルギーの推進が不可欠であり,燃焼管理,発電所の発電効率の改善等エネルギーを効率良く利用する技術開発が必要であり,また,廃熱利用のシステム面の開発や超電導電力貯蔵システム,超電導利用技術等の技術開発が期待されている。

また,科学的知見の集積という観点から,大気中の二酸化炭素やフロン等の濃度の観測・監視を行い,得られたデータを基に温暖化やオゾン層破壊による影響を予測することは重要である。それらの観測には,人工衛星等の開発・打ち上げが期待されており,得られたデータに基づく地球温暖化の実態把握,メカニズムの解明や信頼される予測モデルの開発が強く求められている。また,西暦2000年までの特定フロンの全廃を実現するために,オゾン層を破壊しないフロン代替物質の開発等を進めることが必要不可欠である( 第2-12図 )。

長期的には,環境に負担をかけない“環境に優しい”科学技術体系への模索が求められる。その科学技術体系は,究極のエネルギーといわれる核融合,太陽エネルギー利用技術,高温超電導技術,省エネルギー技術,常温常圧の化学工業プロセス,自然界で分解されるプラスチック等から構成されると考えられる。これらの科学技術体系の確立には,それらを構成している技術を早期に開発することが重要であり,物質・材料系科学技術,ライフサイエンス,宇宙科学技術等の基礎的・先導的研究の推進が期待される。

第2-12図 フロンによるオゾン層の破壊等の概念図

なお,ここでは,地球温暖化,オゾン層破壊の問題を中心として取り上げて科学技術面からの貢献を分析している。これらの問題は,どのようなエネルギー源を選択するか,大気の観測や変動予測はできるのか,さらに,二酸化炭素の排出抑制やフロンの使用規制といった課題と深い関係を持っていると考えられる。そこで,環境負荷の少ないエネルギー,省エネルギー及び大気の監視と保全の項目に分けて科学技術面からの貢献を分析している。

(環境負荷の少ないエネルギー)

二酸化炭素を排出しない新エネルギー,再生可能エネルギー等の開発が重要であり,太陽光発電,風力発電,波力発電,地熱発電,海洋温度差発電,水素エネルギー等のエネルギーの開発が進められている。これらのエネルギーの発展は,各種材料開発,地球科学技術等の幅広い科学技術の発展に依存している。また,新エネルギー技術は,それぞれ特性や技術の進展度が異なっており,エネルギーの安定供給の実現という観点からも多様な新エネルギー開発を進め,選択肢を多くしておくことが重要である。

我が国では,原子力発電は安定したエネルギー源として,平成元年度の全発電量の約4分の1の電力を供給している。原子力発電システムの安全性評価の研究や放射線の影響に関する安全研究を進め,安全性の確保を前提としつつ利用の拡大を図るための研究開発を進めている。核燃料を効率的に利用しようとする高速増殖炉については,現在原型炉の開発が進められている。

また,運輸部門については,二酸化炭素や亜硝酸ガス等の排出量の少ない技術の開発が求められる。その中で,自動車については,メタノール自動車,天然ガス自動車及び水素自動車,さらには,太陽光を電気エネルギーに変換する材料やシステムの発展により化石燃料を消費しないソーラーカー等の開発が期待されている。

(省エネルギー)

我が国のエネルギー需要は昭和63年度で,産業部門53%,民生部門25%,運輸部門22%であり,それぞれの部門で省エネルギーに関する技術開発が進められている( 第2-13図 )。

産業部門や運輸部門では,石油化学のナフサ分解炉の燃焼管理,鉄鋼業の廃熱回収発電,発電所の発電効率改善,運輸機関の回生ブレーキの

第2-13図 部門別エネルギー需要の推移

開発,自動車の燃費改善等で省エネルギーが推進されてきた。民生部門では,断熱材の導入により省エネルギーが図られるとともに,冷蔵庫,エアーコンディショナー等で容量当たりでは顕著な省エネルギーの進展がみられた。

エネルギーの利用に当たっては,エネルギー転換時や送電時の損失が大きいため,損失を減少したり廃熱を有効利用するための技術開発が進められている。また,燃焼機関の材料として高温に強いセラミックス材料を開発することにより,エネルギーの有効利用を図ろうとしている。

今後,コジェネレーションの普及が進むにつれ,システムとして省エネルギーを達成しようとする動きが出てくると思われる。すでに,河川水や下水処理水を熱源にした地域冷暖房,地下鉄廃熱を利用した地域冷暖房等が進められている。現在西欧諸国と比較して我が国の熱供給システムの普及が遅れていることからも,ヒートポンプを核とした廃熱活用システムを大都市の冷暖房に利用したり,ごみ処理廃熱等による熱供給規模を拡大すれば,かなりの省エネルギー効果が期待される(第2 -14図)。高効率で低公害の燃料電池発電システムが実用化を目前にしている。燃料電池発電は,オフィスビルや病院,工場向けのオンサイト用,大型発電所用等の広汎な用途が期待され,燃料も天然ガス,灯油,メタノール等多様であるため,電力会社に加えガス会社や石油会社等のエネルギー事業者が導入に取り組んでいる。超電導電力貯蔵システムは,夜間の余剰電力を高効率に貯蔵できるほか,突然の停電等に対応できるシステムであり,また,超電導発電機は,従来の発電機の回転子の界磁コイルに超電導コイルを用いた発電機であるため,エネルギー効率が高く省エネルギーに寄与するものと考えられる。最近進展の著しい高温超電導材料が実用化されれば,エネルギー分野でもそのインパクトは大きい。

省エネルギー技術には,これら以外にも,半導休技術による直交変換時における電力損失を軽減するサイリスタ,高効率な外燃機関であるスターリングエンジン,省エネルギー型建築物等の様々なものがあり,それらの開発と普及が期待されている。

第2-14図 廃熱供給体制の一例

(大気の観測と保全)

二酸化炭素排出抑制等の地球温暖化対策は,常に対策が適切な水準,規模で実施されるように,地球温暖化の予測を正確に行うことが重要であり,温暖化の実態把握,メカニズムの解明のための調査研究,観測を進める必要がある。さらに,観測して得られたデータに基づき温暖化メカニズムの現象解明や予測モデルの開発が期待されている。これらの現象解明や予測モデルによって得られた科学的知見は,多種多様なエネルギー源から適切なエネルギー源を選択する際の判断の基礎となると考えられる。このため,人工衛星やセンサー等の開発,リモートセンシング技術の研究,スーパーコンピュータの整備による温暖化予測モデル等の改良・開発が推進されているが,これらの一層の推進のためには,人工衛星の開発,温暖化予測モデル開発,人工衛星搭載用センサー等の高度化に必要な宇宙科学技術,情報処理技術,物質・材料技術等の基礎的・先導的研究が期待される( 第2-15図 )。

二酸化炭素が主な原因と考えられている地球温暖化の対策として,森林造成や二酸化炭素固定能の高い植物の育成をはじめとする陸上生物及び海洋生物を利用した吸収・固定技術に加え,木質資源等の合理的,効率的利用技術の開発が期待されている。また,生物機能や物質・材料の基礎研究から得られた知見等を踏まえ,植物の炭酸同化作用に学んだ二酸化炭素の固定化技術の開発が期待されている。将来は,海洋の特性を活かした大気中の二酸化炭素の吸収も行われるものと期待され,そのために,海洋の表層水や深層水の挙動を解明することが求められている。

これらの技術の進展には,ライフサイエンス,海洋科学技術等の知見が必要と考えられる。

第2-15図 エネルギーの多様化とエネルギーの供給

大気中に拡散したフロン等が,紫外線により成層圏で分解され塩素原子や臭素原子を放出し,この塩素原子等がオゾン層を破壊し,地上に到達する有害紫外線の増加をまねき,皮膚がんの増加等につながるといわれている。平成2年6月の第2回モントリオール議定書第2回締約国会議において,国際協調の下で西暦2000年までに特定フロンの生産・消費の全廃等が決定され,その内容は改正モントリオール議定書として採択されて規制が強化されることとなった。科学技術面においては,物質・材料技術の発展により,対流圏において分解しやすい代替フロン,または塩素を含まないフロン等の代替物質の開発が促進されている。また,特定フロン等によるオゾン層破壊のメカニズムやオゾン層破壊による環境への影響については不明なところも多く,人工衛星や地上観測によるオゾン層や特定フロン等の観測・監視が期待されると同時に,スーパーコンピュータ等を駆使した予測モデルの改良・開発も期待されている。


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