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第2章   豊かな生活を創造する科学技術への期待
第2節  生活者の視点からみた科学技術
1.  健康な身休
(2)  診断と治療


病気の診断と治療は医療技術の進歩により大きく変化している。

診断については,従来のX線をはじめとして,新たに超音波等の種々

の物理現象を用いた診断装置が開発されている。これら装置の開発は,センサー等材料技術及び情報処理技術の進歩によるところが大きい。例えば,X線断層画像診断装置(X線CT)の開発には,X線を計測するためのセンサー材料技術及び得られたX線吸収率のデータを処理し画像化する情報処理技術の進展が寄与した部分が大きい。それらの研究開発の進展状況からみて,今後とも基礎的・先導的研究の成果を基にした新たな診断,計測技術が提供されていく可能性が高い。また,新たな診断法については,ライフサイエンスの進展による基礎的な知見を深めて人体に関する十分な研究を行うとともに,慢性疾患の増加等社会情勢の変化を考慮しつつ選択していく必要があろう( 第2-2図 )。

治療については,制がん剤等新たな医薬品の開発が活発化している。

この分野では,免疫学,分子生物学等ライフサイエンスの基礎的な研究による新たな知見が,新技術の開発及びその評価の両面で大きな寄与をしている。将来的には,ヒト遺伝子の解明等分子生物学の発展が治療技術に革新をもたらしていくものと思われる。治療に対する社会の要請として,治癒した人が元の状態に戻り,再び社会で活躍できるような治療の質の高さが従来以上に求められるようになっている。例えば,がんの治療では医薬品,外科手術,放射線治療等いくつかの選択しうる技術があり,それぞれ質の高い治療法をめざした研究開発が行われているとともに,これらを組み合わせた治療の研究が進められている。

第2-2図 画像診断技術の多様化と診断

(診断)

診断に応用される技術については,被験者に苦痛を与えるような侵襲がなく,人体に無害な検査技術に対する要望が強い。

X線検査に代表される物理現象を利用した診断技術の進歩には大きなものがある。特に,画像診断技術の進歩は大きく,その市場規模も医用電子装置の大部分を占めている。画像診断技術はX線のほか,超音波,核磁気共鳴,ラジオアイソトープ,ポジトロン等を用いたもので,それぞれの物理特性に応じた診断技術が開発されてきている。

X線装置の普及は,結核の予防,診断に多大な寄与をした。新たに物質・材料技術の進歩によりX線計測技術が進歩し,デジタル化が進められ,画像処理技術の向上と相まって,より高画質で被ばく線量の少ない装置が導入されつつある。さらに,X線の計測技術とコンピュータ画像処理技術等の発展で1970年代前半に開発されたX線CTにより,身体の苦痛なしに身体の断層像が高画質で画像化できるようになった。この装置による一番大きい効果は,脳梗塞と脳出血の即時診断が画像で可能になったことである。この2つの疾病は症状がよく似ているにもかかわらず,治療方針に大きな違いがあるため,即時に画像で診断でき,適切な治療が可能になった効果は大きい。脳以外の部位においても鮮明な断層図が得られるようになっており,さらに高速化が達成できれば,心臓の診断にも使用できるようになると期待されている。

超音波による診断装置は人体に安全であり,リアルタイムに画像をとらえることができ,また低価格であることから普及が進んでいる。超音波は腹部臓器,胎児,心臓等の診断で利用されてきた。材料技術等の進歩による超音波発信部及び受信部の改良や画像処理技術の進歩により高画質化が進み,他の臓器の診断や血流の観察等診断の領域が拡大している。

核磁気共鳴現象を利用した磁気共鳴診断装置(MRI)は,X線CTと異なり多方向からの断層像が得られ,脳,脊髄,関節等の軟部組織の診断に特に有用であるという特色を持つ。MRIの基本性能は磁石の性能に大きく依存しており,磁石の高性能化が重要である。このため超電導技術が用いられるようになっており,磁場強度の高い磁石が開発されている。

ラジオアイソトープやポジトロンを用いたシンチグラフィやポジトロンCTが,センサー等の材料技術の進展により使われるようになってきている。標識化された様々な物質の身体の中での動きを外部からセンサーで観察するもので,生理活性物質等の代謝が観察できる。代謝の観察により,例えば腫瘍が悪性のものかどうか診断することができる。また,シンチグラフィは全身が一度に観察できるので,腫瘍の分布等が分かるといった利点がある。身体内の代謝過程の基礎研究がこれらの装置を用いて進められている。

物理的な診断として,光や体内の微弱磁界等の計測による診断技術の研究が進められている。エレクトロニクス技術の進歩により装置の開発は可能になりつつあるが,これらを用いた診断方法の研究が必要とされている。

また,生化学的な診断方法については,試薬の開発による新しい検査項目の開発が行われており,例えば,エイズの検査では複数の方法が開発されている。また,エレクトロニクス技術による自動化が進められている。生化学的な検査は,集団検診等大量処理に適しているので,特にがんの早期発見に使えるような検査技術が開発されることが期待されている。

(治療)

治療に応用する技術は,新しい医薬品の開発等科学技術の進歩により大きく変化している。1943年に発見された抗生物質であるストレプトマイシンは,我が国に戦後導入され,結核の死亡率の大幅な低下に大きく寄与した( 第2-3図 )。また,乳幼児の死亡率が戦後大幅に低下したが,これは栄養状態の改善等他の要因もあるが,感染症による死亡が激減したためであり,抗生物質の普及によるところが大きいものと思われる。20歳代の人の結核死亡率と乳幼児の死亡率が戦後大幅に低下したため,戦後我が国の平均寿命が大幅に改善されている。

我が国の医薬品業界は研究開発活動を活発に行っており,昭和63年度の研究開発費の売上高比は平均で6.9%と全産業中最も高水準になっている。各社とも抗がん剤,免疫抑制剤等新薬の開発を積極的に行っている。

ライフサイエンスの分野では,遺伝子組換え技術が開発され,免疫学等基礎研究と相まって,新たな医薬品の開発が進んでいる。遺伝子組換え技術は医薬品の生産でも用いられ,ヒトインスリン,ヒト成長ホルモン,インターフェロン,B型肝炎ワクチン等が生産されている( 第2-4表 )。

第2-3図 ストレプトマイシンの使用量と結核死亡率の推移

また,ヒトの遺伝子解析研究により遺伝子の解明が進み,例えば遺伝子に起因する病気の診断・治療が可能になるものと期待されている。

放射線治療の分野では,コンピュータ技術を用い,がん細胞に放射線を集中し,正常組織の放射線による損傷を最小限に抑えるためのシミュレーションを治療前に実施し,効果的な治療が可能となっている。また,使う放射線をより治療に適したものとする研究が進められている。従来は線形加速器によるX線の治療が主だったが,がんの部位近くの正常組織の被ばく量が少なく,がん細胞の殺傷能力の大きい重粒子線治療装置の開発が進められている。

第2-4表 遺伝子組換え技術による主な医薬品(研究開発中を含む)

我が国政府の提唱で開始された「ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム」は,人間の脳のもつ高度な機能や,遺伝,免疫,エネルギー変換にみられるような優れた機能の本質的究明に係わる基礎研究をめざしたものであり,例えば,脳の機能解明により精神的な疾病の治療法の開発にもつながると期待されている。


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