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第2章   豊かな生活を創造する科学技術への期待
第1節  フロンティア領域の開拓と豊かな生活

過去の歴史から明らかなように,フロンティア領域,すなわち,人間の知的好奇心をバネとした宇宙や生命の起源,物質の本質等の未知な領域の開拓は,人間に新しい知識を与え,新しい世界観や生命観をもたらし,歴史発展の原動力の一つとして作用してきた。このようなフロンティア領域の開拓は,一見生活とは縁遠いもののように考えられがちであるが,その過程において生まれた多くの科学的知見や技術は,豊かな生活の実現に大いに貢献してきている。

本節においては,フロンティア領域として,宇宙・地球,生物,物質・材料分野を取り上げ,この領域の開拓とともに発展してきた科学技術を概観し,それらの科学技術が豊かな生活にどのように貢献してきたかをみることとする。

(宇宙・地球分野)

1969年にアポロ11号の宇宙飛行により月面に印された人間の一歩は小さなものであったが,人類の歴史にとっては偉大な一歩であった。人類の長年の夢を現実のものとし,人々は感動とともに,科学技術に対する期待を膨らませた。宇宙から見た青い地球の姿は,地球共同体意識をはぐくみ,環境問題等に対するグローバルな視点を与えてきた。宇宙開発の進展は,人々の生活にも豊かさをもたらしてきた。衛星通信の実現は,諸外国の政治経済活動等の動きをリアルタイムで知ることを可能とし,人々にグローバルな視点で思考することが重要であるという意識を育てた。衛星放送は,テレビの難視聴地域の解消に役立つとともに,家庭に普及し始めており,メディアの選択の幅を広げた。気象衛星は,天気予報の精度向上に寄与している。さらに,宇宙という微小重力空間を利用して新しい性質を持つ物質や薬品の合成を行うことが期待されている。

一方,深海調査船が深海から送ってきた画像によって,人々は珍しい生物の姿や海底の様子に触れ,未知の世界に夢を馳せた。地球の面積の7割を占める海洋は,未知なところが多い。海洋の大気への影響度は予想を上回って大きく,地球全体の気候にも影響を及ぼしていることが分かるようになり,長期の天気予報にも海洋観測の知見が使われている。

ペルー沖さらには東部赤道太平洋全域にわたって海水温度が高くなるというエルニーニョ現象は,世界各地で早ばつ,集中豪雨等の異常気象をもたらすといわれており,これは海洋の影響力を示す一例である。また,海洋は生物資源や鉱物資源の宝庫でもあり,かつ海上都市等将来の生活空間の拡大という観点からも海洋開発は大きな可能性を持っている。

また,地球表層の岩石圏が分かれたプレートと呼ばれる板状の岩石圏が境界部で衝突し,一方が他方に潜り込む時に造山活動や地震活動を引き起こしているというプレートテクトニクス理論は,地質学等の進歩によって,1960年代後半から固体地球科学の主要な学説となった。最近発生したイラン,フィリピンにおける大地震はプレートの境界線で発生しており,プレートテクトニクス理論と関連が深いと考えられている。他のプレートの境界地域でも,大規模地震の発生が危惧されており,この理論に関する解明研究が進展し,大規模地震の予知が行われようになることが期待されている。

(生物分野)

ダーウィンは,生物は長い時間をかけて進化してきたという生物進化論を発表し,従来考えられていた人間や動物への見方にインパクトを与えた。かつては原因さえ明確でなかった様々な病気に人間は苦しめられてきたが,病原菌やウイルスの発見により治療の手掛りが得られ,ワクチンの製造やホルモン,ビタミン等の相次ぐ発見によって,次第に病気が克服されるようになった。中でも,微生物の研究から得られた抗生物質の発見は,感染症の病気を急減させ,死亡率の低下に寄与した。また,生命の本質を探求しようとする科学者は,遺伝子の本体であるデオキシリボ核酸の中に遺伝情報が詰め込まれていることを突き止めた。遺伝子学や微生物学等の進歩は,遺伝子組換え技術,細胞融合技術等を生み,薬品の大量生産及び農作物の品種育成,家畜の優系統の育成,食品産業用微生物・酵素の改良・開発や生休を構成する分子構造の解析研究を進展させた。

また,生物学の急速な進歩によって,精神活動等の人間の高次の機能は分子の構造や動きによって解明可能であるという考え方や,分子構造や動きのみでは解明できない生物機能があるという考え方等多様な考え方が提起されてきており,生物学の進歩から得られる科学的知見は,生命をめぐる議論と深く関係してきている。このような様々なアプローチから得られた生物機能に関する科学的な知見の蓄積により,病気の予防・診断・治療,食糧の確保等の発展が可能になると期待されている。その中でも,我が国の死因の4分の1を占めるがんについては,遺伝子や細胞レベルでのがん化のメカニズムの解明等の研究が進められており,それらの成果が期待されている。

一方,人間の精神活動や感情のメカニズムを知りたいという動機は,精神医学,心理学等の学問分野を生んだ。これらの研究成果は神経症等の原因解明とその治療への貢献が期待されている。

(物質・材料分野)

物質が何で構成されているかという関心に基づいて科学者は,分子から原子,原子から素粒子へと細分化する方向で物質の基本的構造を突き止めようと努力してきた。アインシュタインは,特殊相対性理論の中で物体には莫大な質量エネルギーが内蔵されているという新しい知見を示した。このような知見に基づき,ウラン等の原子が核分裂する際に放出される莫大なエネルギーを利用する原子力発電が生まれ,化石燃料に大きく依存していた経済社会に新しいエネルギー源を提供した。

また,材料の物性や合成に関する知見等の蓄積により新しい材料を開発しようとする努力は,石油から合成繊維,合成ゴム等の合成を可能とし,ひいては日常生活で使用する多種多様な衣類や材料を豊富にしてきた。また,近年話題となっているセラミックス系高温超電導材料については,線材化等の技術が開発され,エネルギー分野等の実用に供するようになれば,社会や生活の幅広い面において極めて大きいインパクトを与えるものと予想される。材料合成技術と微細加工技術の高度化から生まれた半導体は,コンピュータの小型化を促すとともに性能向上に大きく寄与している。また,コンピュータは,材料研究等から得られた光ファイバー等と相まって,高度情報社会の構築に寄与し,現代の生活を維持・発展する上で不可欠なものとなっている。

以上,3分野における科学技術のトピックスを通じてみてきたように,フロンティア領域の開拓を進める研究,すなわち宇宙科学技術,ライフサイエンス,物質・材料系科学技術等の基礎的・先導的研究は,科学的な知見に基づいた新しい見方を提供し,人間の知的な豊かさを高めるとともに,これが多様な技術に結実して豊かな生活を実現させてきた。


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