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第1部   平成新時代における我が国科学技術の新たな展開
第3章  今後の課題と展望
  -平成新時代における我が国科学技術の新たな展開一
3.  我が国科学技術の充実のための新たな課題


先にも述べたように我が国においては民間部門による研究開発の意欲的な展開により,当面における高い科学技術力を達成するなど,順調な推移を示した。しかし,長期的に重要な課題がさらに提起されている。特に,民間部門に対する公的部門の役割のあり方である。一般的には,公的部門と民間部門にはそれぞれの役割があり,それが補完的な関係をなしている。近年,民間部門の科学技術活動における特に量的な面での躍進が顕著であるが,これにより公的部門が遂行すべき機能がカバーされることには必ずしもならないであろう。

今日,公的部門は種々の行政目的に対応した施策あるいは研究開発を展開するとともに,これまで以上に基礎研究の本格的充実と科学技術における国際的な貢献などにおいて大きな役割を果たすことが求められるようになった。

このような要請に対しては,今日,国際的に,また,我が国でも科学技術活動に占める民間部門の比重が増しているために,民間に期待しうる部分も相当あろうが,その多くは基本的には公的部門において対応すべきものと考えられる。特に,我が国を始め先進国でみられる科学から技術への相対的な傾斜の傾向,より高度化する我が国の科学技術あるいは我が国が国際的に置かれた立場を鑑みれば,公的部門の役割は引き続き大きなものがあるといえよう。従って,近年における情勢を踏まえた新たな目で我が国の公的部門の役割をみ,その機能を発揮していく必要がある。その際,研究投資は鍵であり,公的部門の研究投資についても欧米主要国並みの研究投資水準をめざしてその充実を図っていく必要がある。

このように,国としては民間部門の旺盛な科学技術活動を刺激し,その充実を期待する一方,公的部門においても適切な対応を図っていく必要がある。

なおこの際,次の諸点に特に留意すべきである。

第一は,基礎研究の本格的強化である。近年,基礎研究強化は我が国科学技術政策の重点となり,新しい制度の創設とその充実などが進められてきた。

しかし,その実施の主力となるべき大学を含め公的研究機関においては,基礎研究比率の減少傾向がみられる。公的研究機関において期待とは逆にニーズ志向の研究が相対的に増えている面もあるものとみられ,その改善とともに基礎研究費の充実が必要である。

第二は,国際社会における大きな存在としての我が国の科学技術の国際化の一層の推進である。国際関係において経済活動の占める比重が高まった現在,それを支える科学技術も種々の影響を受け易くなっている。科学技術に関しても保護主義的な傾向が生じた場合,自由な交流を損い長期的にはその発展を妨げる。国際的にはこれまで,自由な交流が科学技術の基本となってきており,我が国も従来その恩恵を受けて高い科学技術面での地位を得た。

我が国としては科学技術におけるグローバリズムの理念の下に引き続きこのような科学技術に関する自由な体制の維持,発展に積極的に貢献し,科学技術に関する国際協調が進むよう努力していく必要がある。

このため現在我が国では,その地位にふさわしい国際的な寄与を図るべく,基礎研究の強化と成果の流通,海外の研究者受入れなど研究交流の拡大,国際協力事業への参加あるいはその主導的展開など国際化のための施策を図りつつある。しかし,その多くはまだ緒についたばかりであり,引き続きそれらの充実を図っていく必要がある。

第三は,科学技術と人間・社会との調和,特に地球環境問題への対応である。我が国では高齢化,価値観の多様化,情報化,都市集積化など社会構造変化が進む中で科学技術の高度な成果や高い成長力を生活の質的向上や社会的課題の解決に積極的に振り向けて行くことが求められる。今日までの我が国の経済体制下では,生産あるいは供給力重視の考え方があり,科学技術の研究成果の多くは生産技術に活かされ,経済の効率化に大きく寄与したとされる。今後,その高い技術力を個人や社会のニーズに即して国民生活の充実に一層適用していくべき時代を迎えている。生活環境の充実,ヘルスケアの向上,輸送システムの高度化,より高い安全性の確保,公的資産を豊かにする大型公共事業の実施など社会的課題への科学技術の役割は大きい。

このような科学技術の社会への適用は,そのテンポが急速であったり,変化が急激である場合も多く,その定着のためには慎重な配慮も必要である。

情報をはじめとする技術の社会への円滑な受け入れ,ライフサイエンスと生命倫理にみられるような受け入れの基本的あり方など,人文・社会科学を含めた倫理面での十分な検討が今日では重要である。

このような中で,地球環境問題への対応は,今後の科学技術政策の重点として我が国としても大きな貢献を果たすべき課題であり,科学技術がその対応の柱となる。特に,基礎となる観測・監視の推進,科学的研究の推進,対策のための技術開発など我が国が高い技術力を有するものも多く,資金,人材,体制の各面で総合的な推進を図っていく必要がある。

第四は,地域科学技術ポテンシャルの育成と発展である。我が国の研究開発活動の充実,多様化のためには,地域における科学技術ポテンシャルの育成,活用への期待は大きい。また,国土の均衡ある発展の見地からも地域のポテンシャルを高め,技術力を向上し,産業発展,住民の生活向上に役立てていくことの要請は強い。このため国レベルだけではなく,自治体においても近年積極的な科学技術振興への取組がなされるようになっており,今後さらに研究開発の推進,その環境作り,人材の確保など施策,事業の両面での充実が求められる。

第五は,優れた理工系人材の十分な確保である。我が国では従来,研究者や技術者の育成と確保は順調に図られてきたといえよう。質の高いこのような人材が,製造現場,研究所など随所に配置され,高度な科学技術力達成の原動力となった。引き続き多くの優れた研究・技術人材を我が国経済社会の基盤をなす製造業や関連の研究部門に確保していく必要がある。

しかしここ1〜2年理工系学生の製造業離れが指摘されている。また,長期的に研究者,技術者の不足が懸念される。理工系学生の製造業離れは,電気通信,情報,流通,リースなどのサービス業の拡大,産業構造の変化,経済の情報化に伴いある程度起こるものであり,特にこれら産業は技術集約度が高く,製造業代替性をもっていることから当然とも言えよう。しかし,これら以外の第三次産業を含め,優れた理工系学生が大量に製造業を離れ,製造業に人材の著しい確保難が起こるならば大きな課題を提起する。昨今の状況には,そのような懸念が拭いきれないものがある。このため,このような理工系人材の意識動向を注意深く見定めていくとともに,産業界等においても価値観が多様化している時代に優れた人材を誘引できるよう,環境作り,人材の処遇の改善など所要の努力を図っていく必要がある。


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