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第1部   平成新時代における我が国科学技術の新たな展開
第2章  国際的な科学技術の状況変化と我が国の対応
2.  諸外国における科学技術への取組
(1)  米国科学技術力のインバランスと競争力の強化



(相対的に低下した科学技術力と伸びを欠く研究開発投資)

米国はこの30〜40年圧倒的な科学技術力を大きな背景として,世界の経済や産業をリードしてきた。しかし,日欧の先進諸国の国力回復のみならず,昨今はアジアNIEsの工業化,技術発展も相まってその科学技術における相対的地位は低下した。加えて,特に1960〜70年代における有力産業,企業における事業活動の多国籍化,多くの製造部門の外国依存,短期業績主義及び経営管理重視の企業姿勢などの結果,国内の生産技術力,また,それを支える科学技術力の低下を招くこととなった。現在,VTRなどのように高度技術を駆使した製品で大きなマーケットに成長したものの多くは米国に発明,製品化の源泉がありながら,国内企業は生産撤退したか,少ないマーケットシェアしか占めないようなケースも増えている。

このような状況をいわば反映して,ここ数年米国における研究開発投資は伸びを欠いたものとなっている。実質でみても,1975〜85年の10年間に年率5%の伸びを示したが,1985〜88年においては,これが2%に低下し,1988〜89年には1%にとどまると推定されている (第1‐2‐14図)

第1‐2‐14図 米国における研究開発投資(実質伸び率)

このような研究開発の伸び悩みの傾向は,官民双方において見られるところである。


(競争力強化をめざす官民の動き)

このような状況に直面して,米国産業の国際競争力強化を図ろうとする動きが官民において活発である。1985年には大統領産業競争力委員会がいわゆる“ヤング・レポート“を,1986年においては議会で主要な科学技術強化提案がなされた。また,1987年にはレーガン大統領により競争力強化イニシアティブが打ち出された。これらを踏まえ1987年にはレーガン大統領より「1987年貿易・雇用・生産性法案」が提案されたが成立には至らなかった。これらの動きのいわば集大成として,1988年8月には「1988年包括貿易・競争力法」が成立し,競争力強化の面でも法的裏付けがなされた。しかし,本法では,競争力強化に関して実効が上がらず,予算措置も十分になされていないため,新たな体制整備を含め,具体的な措置を求める動きが議会や産業界にある。

具体的な課題に対応するためのプログラムはいくつか打ち出されている。

特に,研究成果が製品や市場にもたらされるまでの技術の商業化のメカニズムが不十分であるとの認識が強く,スムーズな産一学官における技術移転を図る措置がとられている。国立科学財団による工学研究センターや新規の科学技術センター,連邦機関の技術移転制度などがこれにあたる。また,これまで,有力な産業が衰退してしまったとの認識から,官民協力して技術力の向上を図る動きとして,競争政策に沿った形で,研究開発等の分野における反トラスト法の緩和による企業間協力の円滑化が大きなテーマとなっている。共同研究事業の緩和により,半導体分野のSEMATECH(半導体製造技術イニシアチブ),エレクトロニクス・機械・材料分野のMCC(マイクロエレクトロニクス・コンピュータ技術会社)をはじめとする多くの研究協力が進められるようになった。最近では,米国家電産業の復活を視野に入れたH DTV(ハイビジョン)研究開発について,議会,国防省,商務省などの行政府,産業団体の活発な動きが見られた。

第1‐2‐15図 米国ハイテク製品貿易収支の推移

プラザ合意後の為替調整の進行に伴うドル安とともに,このような競争力強化の意識,政策行動により,米国の技術力の象徴たるハイテク製品貿易 (注) については好転の兆しも芽生えつつある。1986年代始めにはハイテク貿易で300億ドル近い黒字を記録した後,1986年には赤字となったが,ここ1〜2年再び黒字基調となってきた (第1‐2‐15図)


(基礎研究にみる米国の力)

このような全般的な科学技術力の地位低下にあってなお,米国がその力を保持しているのは,基礎研究部門である。先の図にみるように,米国の研究開発投資は,停滞気味ながら,当面の科学技術力より長期的発展の源泉となる基礎研究については,比較的高い伸び率の研究開発投資を確保し,力の保持,発展に努めている。

このような分野の研究の特徴をいくつか挙げるならば,1つはビッグサイエンスの推進である。ビッグサイエンスについては,財政危機下においても,米国の科学技術力の象徴として,超大型加速器(SSCなど),深宇宙探査,ヒト遺伝子解析,スペースプレーンなどの計画を進めている。


(注)米国商務省DOC3の定義によるハイテク業種を指す。

2つ目は,大学,連邦機関の優れた研究機能である。米国の大学は,アメリカ文化の象徴といわれ,教育のみならず,研究開発においても世界の中心のーつとなっている。米国の大学は,研究資金を自らの財源に頼るとともに,各行政機関,民間に資金を仰いでいるが,この間には競争条件が具わり,秀れた研究に資金を配分するシステムが早くから成立している。一方,連邦の研究機関も,基礎研究,ハイテク研究で,確固たる地位を築いている。米国の基礎研究の底力は,世界に開かれた強力な大学の研究能力とこれを支援する社会システム,また,連邦の,内外人材の交流が自由な厚みのある研究機能のバランスにあるといって過言ではない。近年,世界的に科学研究の実用主義化,政府研究機関の地盤沈下がいわれる折から,その本木の役割発揮への期待は大きい。

3つ目は,このような基礎研究の充実を反映したライフサイエンス研究の比重の高まりである。未踏の科学的領域が多く,国民の健康,安全の確保につながるライフサイエンスが国の役割として重点に位置づけられているためである。こうした研究は,民生の政府研究投資の40%を占めるに至っており,当面の産業レベルの技術ではなく21世紀における新しい技術革新の宝庫ともいわれるライフサイエンス分野において,米国政府が進めている研究努力は注目する必要がある。


(米国における科学技術政策の推移と今後の展開)

1980年代において米国政府は強いアメリカをめざして研究開発投資を拡大し,これを著しく国防研究に傾斜させた (第1‐2‐16図) 。連邦研究開発投資の増分の8割余はこの分野が占めた。しかし1980年代中頃からは,米国産業の競争力向上が課題となり,技術移転,研究成果の効率的な市場化のためのスキームの整備,共同研究事業を容易にする反トラスト法緩和,税法改正,知的財産問題への積極的な対処などが図られている。このような推移を受けてブッシュ政権の基本方針も,1989年2月の議会における政策演説にみられるように科学技術力の強化を強く意識したものとなっている。1990年度(1989年10月から)の予算教書においても,一般科学・宇宙・技術予算(米国の予算費目)については対前年度比18%増の要求を行った。先頃,議会で予算審議を終了した新年度予算においては,国防研究予算の割合は依然高いものの伸びは鈍化する一方,保健,宇宙,基礎科学研究などの分野で大幅な増加を図っている。また,大統領府科学技術政策局(OSTP)をはじめとする科学技術行政体制の強化が図られつつある。しかし,このような動きが,米国の競争力強化,総合的な科学技術力回復の大きな流れに結実していくかどうかは,今後におけるブッシュ政権及び議会の姿勢と産業界の動向等を注視していく必要もあり,なお,不透明である。

第1‐2‐16図 米国の予算機能別にみた連邦研究開発費の推移


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