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第1部   平成新時代における我が国科学技術の新たな展開
第1章  わが国科学技術の推移と新たな展開
2.  産業界の研究開発活動の推移と展開
(1)  強力な研究開発構造への発展



(我が国の産業界の積極的な研究開発への取り組み)

我が国では,産業界が積極的に研究開発投資を行った一方,政府の科学技術予算の伸びが民間に比べ相対的にみて高くなかったため,研究開発において産業界の占める比重がますます大きくなってきた。ここでは,産業界が負担する研究費を中心にとりあげ,その国全体に占めるシェア,伸び率,絶対額などを主要国との比較により分析し,我が国の産業界の研究開発に対する取り組み姿勢を評価する。

我が国の産業界の国全体に占めるシェアは,昭和52年度に研究費(負担額)で65.8%,研究者数で56.3%(昭和53年)であったが,10年後の62年度には,それぞれ74.4%,63.2%(63年)となり,シェアを大幅に伸ばしている。これは,政府の科学技術予算を大幅に上回る率で,産業界が研究人材の充実を図り積極的な研究開発投資を行ってきた結果と言える。

研究費の産業界シェアを主要国間で比較してみる。産業界の研究費使用額シェアは,フランスを除けば各国で7割前後でほぼ同等である (第1-1-17図) 。しかし,産業界の研究費負担額シェアを見てみると,米国が47.8%,西ドイツが62.3%であるのに対して,我が国は前述のように74.4%と極めて高くなっている。これは,我が国の産業界が自社で使用する研究費の大部分(98%)を自ら負担していることを示し,反対に米国は自社で使用する研究費の多く(35%)を政府資金に依存していることを示している。

次に,産業界の負担研究費の推移を主要国間で比較する。1982年を100とした指数で産業界の負担する実質研究費の伸びをみると,我が国は一貫して他の国よりかなり大きく,主要国の産業界の中でも特に積極的に研究開発投資を行ってきたといえる (第1-1-18図)

産業負担研究費を各国比較すると,我が国は大幅な円高の影響により米国に接近してきている (第1-1-19図) 。我が国産業界の負担研究費は,1980年に米国の45.4%,欧州3国(西ドイツ,フラ ンス,イギリス)の合計額の64.7%にすぎなかったが,1987年には米国の81.8%,欧州3国の合計額の1.31倍(1986年)に達している。

なお,IMF為替レートによる比較は必ずしも研究費の実質面を反映したものではないので,OECDの購買力平価を用いて主要国産業界の研究開発投資を比較すると,我が国は1987年で米国の55.5%,欧州3国の1.05倍(1986年)になる。IMF為替レートで比較した場合に比べて我が国の投資額は相対的に低下し,欧州3国の合計額とほぼ同等になる。

産業界の国全体に占めるシェア,伸び率,絶対額を主要国で比較したが,いずれも我が国の産業界の研究開発投資が積極的であることを示している。

第1-1-17図 主要国の研究費に占める産業界のシェア

第1-1-18図 主要国の産業界負担研究費(実質)の推移(指数)

第1‐1‐19図 主要国の産業界負担研究費の推移(IMFレート)


(引続き見込まれる産業界の積極的な研究開発投資)

我が国の産業界では,研究開発投資をさらに積極化する傾向にある。個々の企業が研究開発に取り組む姿勢を表すものとして,研究開発費の対売上高比率がある。民間動向調査で,平成元年度の研究開発費の対売上高比率と,将来(5年後)の対売上高比率(目標値)を2%おきの階層別に分析した (第1‐1‐20図) 。平成元年度では,対売上高比率で2%未満の研究開発投資を行っている企業が全体の半分を占め,次いで2〜4%が4分の1になっている。この2つを合わせると,4社に3社が対売上高比率で4%未満の研究開発投資を行っていることになる。一方,5年後の目標では,対売上高比率で2%未満の研究開発投資を行う企業は3分の1以下に減少し,2%以上の各階層で増加している。特に4〜6%及び8 〜10%の階層に属する企業が増加している。このようなことから,今後とも産業界の研究開発投資は引き続き堅調に推移していくものとみられる。

第1‐1‐20図 研究開発費の対売上高比率

業種別に研究開発費の対売上高比率をみると,医薬品工業が特に高く,5年後にはほぼ4社のうち3社(平成元年度では2社に1社)が8%以上の研究開発投資の実施を目標としている。通信・電子・電気計測器工業も水準が高く,5年後は4割(平成元年度では2割)の企業が対売上高比率で8%以上の研究開発投資を行う見通しである。この他,精密機械工業,電気機械器具工業の対売上高比率が高く,先端技術関連の業種で研究開発投資が将来的にもますます増加するものと考えられる。一方,鉄鋼業,化学工業などの素材型産業では上記の業種ほど高くはないが,平成元年度に比べ5年後には対売上高比率が高くなる傾向にあり,やはり研究開発に積極的な姿勢をみせている。


(設備投資に匹敵する規模の研究開発投資)

企業の投資行動においては,量的拡大による市場拡大をめざしたいわば大量生産のための設備投資から,より高付加価値の製品づくりを志向した研究開発投資や設備投資に内容が変化しているといわれている。このような動向を,研究開発投資額と設備投資額の比較及び設備投資の内容の変化の分析を通して見てみる。

第1‐1‐21図 研究費の設備投資額に対する比率の推移

研究開発投資額と設備投資額の大小比較の推移を,研究費を設備投資額で除した値でみると,製造業全体では昭和55年度がら62年度まで漸増傾向にある (第1‐1‐21図) 。主要な業種では,電気機械工業が高い水準にあり,昭和61,62年度には研究費が設備投資額を上回っている。化学工業,輸送用機械工業においても,この値は製造業平均を上回っており研究開発への投資意欲は高いといえる。ここ1〜2年は内需拡大に伴う設備投資ブームが続いているが,研究費の設備投資額に対する比率は長期的にみれば漸増傾向にあるので,今後設備投資を上回る研究開発投資を行う企業が増加していくと予想される。民間動向調査によれば,研究費が設備投資額以上である企業は,過去3年間において全体の28.4%,今後3年間の見通しで34.3%となっており,今後増加する傾向にある。業種別では特に医薬品工業,機械工業,電気機械器具工業,通信・電子・電気計測器工業,精密機械工業で研究費が設備投資額以上とする企業の比率が高く,今後3年間をみるとこの比率は2社に1社以上である。

一方,設備投資の内容も変化している。経済企画庁が行った「企業行動アンケート調査」によれば,製造業においては研究開発用設備投資が企業の設備投資における重点分野であり,今後は特に重要視されている (第1‐1‐22図) 。設備投資のなかでも研究開発強化を目的としたものが増加していくものと考えられる。

第1‐1‐22図 製造業における設備投資の重点分野

以上みてきたように,産業界においては投資の重点分野がいわば有形の資産である生産拡大を目的とした設備投資から,無形の資産作りを目的とした研究開発投資などにシフトする傾向があるといえよう。


(企業規模別にみる研究開発活動)

次に我が国の企業が規模別に我が国の研究開発活動にどのような役割を果たしているかについて分析する。


一企業規模別シェアの推移一

製造業における企業規模別の研究費使用額シェアを従業員規模別に時系列で見てみる (第1‐1‐23図) 。ここでは従業員3,000人以上の企業を大企業,従業員300人以上3,000人未満を中堅企業,300人未満を中小企業とする。同シェアは大企業が全体の70.4%(昭和62年度)を占めており,近年上昇する傾向にある。一方,中堅企業は昭和62年度で23.2%であり,近年横這い傾向にある。中小企業につていは,シェアが年々低下している。全般的には,中小企業の研究開発活動の相対的な低下傾向がみられ,反対に従業員3,000人から10,000人未満の規模の大企業の研究開発活動が活発化しているとみられる。

第1‐1‐23図 従業員規模別にみた研究費シェア推移(製造業)


‐大企業,中堅企業‐

大企業は余裕のある資金を将来の成長分野に投入することができ,人材も集めやすいという強みがある。このため,研究開発自体においても我が国で主導的な役割を果たしていると考えられる。これは,我が国製造業の研究費の約70%を大企業で使用していることからも明らかである。また,研究開発費の対売上高比率を資本金規模別でみると,企業の規模が大きいほど高くなるという傾向があり,この面からも大企業が我が国の研究開発において主導的な役割を果たしていることが裏付けられる (第1‐1‐24図)

しかし,一方で一般的に大企業は意志決定に時間を要する,融通性に欠ける,あるいは,成果が従業員にわかりにくいことから従業員の活性化が困難であるといった弱点があると考えられる。このため,短期間での成果の達成や他企業との共同開発といった研究開発の効率面で中堅企業や中小企業に劣る場合が考えられる。

中堅企業は,研究開発の分野を集中化することにより,大企業と中小企業の両方の長所をもち得る。環境変化の激しい現在では,独自の技術力を持つ中堅企業が我が国の研究開発活動の重要な役割を担うことが期待される。

第1‐1‐24図 資本金規模別にみた研究開発費対売上高比率(平成元年度)


‐中小企業の貢献‐

我が国の研究開発に対する中小企業の役割を,特に先端科学技術への貢献という立場から,3つに分類して考察してみる。ライフサイエンス,物質・材料,情報・電子,海洋・地球科学の4分野の研究者を対象とした「先端科学技術研究者に対する調査」によれば,中小企業の貢献度に対する評価は,特に研究開発用設備機器メーカーとしての役割において非常に高くなっている (第1‐1‐25図) 。その理由は「独自の技術力がある」及び「小回り・融通がきく」である。いわば,研究開発のインフラストラクチャー整備に中小企業の大きな役割があるといえよう。

また,研究支援事業者としての役割は,「貢献している」と「余り貢献していない」が半ばしている。貢献の理由としては「小回り・融通がきく」,「独自の技術力がある」など比較的多様な理由が挙がっている。否定的理由としては,「人材が不足している」が「資金力がないから」に比べ高く,人材確保が重要な課題であることをうかがわせている。

第1‐1‐25図 中小企業の研究開発活動への貢献度

一方,研究開発の実施者としての評価は低くなっている。その理由は「人材が不足している」である。

一般的に中小企業は,迅速な対応が可能なこと,事業活動を活性化しやすいことなどの長所を有する。技術の複合化が進み,製品寿命が短くなっている現在,このような長所は重要となっているが,中小企業が研究開発活動全般に貢献できるような環境を,人材の確保の問題解決を中心としてさらに整備していく必要があると思われる。


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