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第1部   創造的研究環境の確立をめざして
第2章  国際的視野に立った創造的研究環境の整備の推進
2.  研究開発の施設設備の高度化
(2)  我が国の施設設備状況


前節で見たように,研究開発を推進するうえで施設設備のウェイトは高まってきているが,ここで我が国の施設設備及び研究支援機能の整備の水準を米国及び欧州のそれと比較してみる。

一般的にライフサイエンス,物質・材料,情報・電子,海洋・地球科学といった先端的な科学技術分野の研究者は,大型施設については,我が国の水準は米国に対して相当の格差があるが,欧州とはほぼ同等と見ている。なお,所属機関別では,国立試験研究機関等の研究者は,民間に比べより厳しい見方をしている。また,計測・分析機器等といった項目について見ると,我が国は米国に対しては,ほぼ同等かやや劣る程度であるが,欧州に比べると優れていると考えられている( 第1-2-39図 )。

以下では,我が国の研究開発施設設備の水準を欧米と比較するため,科学技術政策大綱に示された基礎的・先導的科学技術分野を中心に研究開発の各分野における典型的な施設設備を具体的に取り上げ,その整備の状況,水準の分析を試みた。

1) 大型の施設設備

(加速器)

加速器は,原子核,素粒子の研究を進めるために,目覚ましい発展を遂げてきており,いまや原子核,素粒子の研究のみならず,化学,生物学,工学,医学等多くの分野で広く利用されるようになってきた。

加速器は種々の型式があるが,一つの指標としてサイクロトロン及び衝突型加速器(コライダー)について比較を行ったものが 第1-2-40表 及び 第1-2-41表 である。サイクロトロンについては,医療用など比較的小規模なものは各国とも数多く見られ,これらを網羅することは難しいが, 第1-2-40表 に示された施設数は各国のおよその状況を示すものとなろう。

第1-2-40表 主要国の加速器数の比較(サイクロトロン)

第1-2-41表 各国の主たる衝突型加速器

これらを見ると,施設数の面では,米国の整備が最も充実しているが,欧州においても基礎科学重視の伝統を受け継いで,整備が進められている。我が国では,欧米を追う形で整備が行われてきたが,特に,文部省高エネルギー物理学研究所では,電子・陽電子衝突型加速器「トリスタン」等を完成させ,世界のトップレベルに伍した実験,研究が行われるに至っている。トリスタンは昭和63年(1988年)11月衝突エネルギー600億電子ボルトの衝突実験に成功するなど,電子・陽電子ビーム衝突リングにおける世界最高エネルギーの記録を更新中である。なお,欧州においては,CERN(欧州共同原子核研究所)がトリスタンのエネルギーを上回る同種の加速器「LEP」を建設中であり,1989年に実験を開始する予定である。

(放射光施設)

シンクロトロン放射光(SOR)は,光速度近くまで加速された電子が磁場によって曲げられたときに出す強い光(電磁波)である。この放射光は,指向性が強く,赤外・可視からX線域に及ぶ連続した波長の光であるため,物質の解析等に極めて有効であり,ライフサイエンス,物質・材料等の基礎的研究を始めとした幅広い利用分野を持つものとして期待されている。放射光施設とは,この非常に強い光を利用した研究を行うための施設である。国内外の主たる放射光施設は, 第1-2-42表 のとおりである。現在,我が国の文部省高エネルギー物理学研究所の25億電子ボルト(2.5GeV)の放射光実験施設は世界のトップクラスの水準にあるが,米国,欧州においては,既に6GeVクラスの大型放射光専用施設の整備計画を有しており,米国ではエネルギー省がアルゴンヌ国立研究所に6-7GeVのAPS (Advanced  PhotonSource)を1992年までに,欧州ではヨーロッパ連合(仏,西独,英,伊,スペイン等)が6 GeVのヨーロッパ・シンクロトロン放射光施設(ESRF)をフランス・グルノーブルに1991年までに完成させる予定とされている。このような状況をも踏まえ,我が国においても,高エネルギー物理学研究所において,トリスタン入射用蓄積リング(6-8GeV)を利用した高輝度X線放射光源の整備が進められているほか,理化学研究所と日本原子力研究所の協力の下に,新たな大型放射光専用施設に関する研究が進められている。

第1-2-42表 各国の主たる放射光施設

(超電導材料研究用超高磁界発生装置)

超伝導現象とは,一定の温度以下において電気抵抗がゼロとなる現象であり,その応用分野はエネルギー,医療,輸送,エレクトロニクス等極めて広い分野に及ぶ。1987年における酸化物系の新超電導物質の相次ぐ発見は,その応用可能性への期待を高め,新たな技術革新を担う寵児として,世界各国で大きなセンセーションを巻き起こした。

その後,各国で華々しい研究開発の推進が図られているが,新超電導材料の研究は未だ緒についたばかりであり,基礎的な研究を進めることが重要である。超伝導現象は,磁界と密接不可分な関係があり,大きな磁界がかかっても超伝導状態が破れない,または大電流が流れる材料を開発することが超電導材料を実用化するうえでの大きな課題である。このような超電導物質,材料の研究開発を進めるためには,磁界,電流,外部圧力等多面的な解析を可能とする超強磁界発生のための施設設備が必要である。各国の超強磁界発生施設設備の整備状況,計画を見ると,我が国は,研究レベルと同様世界の最先端にあると考えることができる( 第1-2-43表 )。

第1-2-43表 日米欧の主たる超強磁界発生装置の整備の状況

(スーパーコンピュータ)

スーパーコンピュータの定義は必ずしも明確ではないが,一般には,汎用コンピュータの十倍以上の性能を備えた科学技術計算用のプロセッサをスーパーコンピュータと呼んでいる。スーパーコンピュータは科学技術計算を超高速で実行することが可能であり,航空機の設計や宇宙開発,気象関係の予測・研究,核融合研究開発等の種々の分野で使用されているほか,分子化学,天文学,ライフサイエンス,材料工学など多方面にその応用分野が広がってきており,最先端の科学技術分野で必要不可欠のものとなってきている。

スーパーコンピュータの日米の導入台数は,米国国立科学財団(NSF)の調査によれば,1986年において,米国約120台,日本約50台であり,機関別の内訳をみると,政府研究機関及び大学については,米国約70台に対して,我が国は約20台である。しかし,最近の我が国の導入台数の伸びは極めて著しい( 第1-2-44表 )。

第1-2-44表 日米のスーパーコンピュータ導入台数

第1-2-45表 各国の大型風洞施設数の比較

米国においては,NSF等がスーパーコンピュータ利用技術の開発と普及を図るため,スーパーコンピュータを回線で結び,多くの機関が利用可能となるようスーパーコンピュータ・ネットワークの構築を積極的に進めている。

(大型風洞)

大型風洞施設は航空機,ロケット等の性能の推定等空気力学の研究には不可欠であり,試験条件の設定が容易であるとともに計測も高精度の結果が得られるといった大きなメリットを有する。特に,今後の宇宙ステーションを中心とする宇宙利用の時代に対応して,より安全で容易な革新的宇宙往還システムの研究開発を進めていくためにも,高性能の大型風洞施設が重要となってくる。各国の風洞施設数を見ると,より高い風速範囲になるにつれて,航空・宇宙分野で長い蓄積を有する米国の優位性が顕著となる( 第1-2-45表 )。

(天文観測施設)

現在,宇宙科学,天文学において観測の手段としているのは,非常に波長の短いガンマ線,エックス線から,波長の長い電波までほとんどすべての波長域の電磁波であり,さらにはニュートリノや重力波といった非電磁波による観測も行われている。電磁波のうち,地表面に十分届くのは光赤外域と電波域であり,1960年代から半導体技術の発達とともに赤外線天文学が発展し,1980年代に入って光赤外域の半導体画像検出器の出現によって,地上観測技術は飛躍的な進歩をみた。

観測技術の発達で,天文学の内容も飛躍的に豊富になったが,これらは,望遠鏡の大型化,精度の向上,大量データ処理など観測装置そのものの技術的発展と,人工衛星など宇宙技術の進歩による観測手段の大気外への進出によって支えられている。

このうち,地上の観測施設については様々な形態があるが,光学望遠鏡についてその状況を見たものが 第1-2-46表 である。米国に次いで欧州が秀でており,ソ連も大型の施設を有している。電波望遠鏡についても,米国の優位が見られ,主要4施設に層の厚い装置群を配しているが,欧州はサブミリ波帯の観測施設において特徴を有し,また我が国は文部省国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m鏡等がミリ波帯の観測に関し世界最高の性能を有し,国際的にリードしている。

第1-2-46表 各国の主たる光学望遠鏡数(口径300cm以上のもの)

また,天文観測用の人工衛星等については,1961年に宇宙ガンマ線観測望遠鏡を搭載したエクスプロ一ラ11号が打ち上げられて以来,米国が長い歴史と実績を有するが,我が国も文部省宇宙科学研究所が中心となって「はくちょう」(1979年),「てんま」(1983年),「すいせい」(1986年)等の実績を積み重ねてきた。最近では,米国及びイギリスからの協力要請にこたえ,我が国の観測装置に加え,それぞれの観測装置を搭載した科学衛星「ぎんが」(1987年)によるX線天文観測が行われている。

(海洋調査船・深海調査船)

海洋は,大気循環との相互作用により気候変動に大きな影響を及ぼし,社会,経済に直接,間接にかかわりを持っている。海洋開発を進めるとともに,この海洋の変動をめぐる地球的諸現象を解明し地球の総合的理解を進めるうえで,海洋調査船は有効な手段である。海洋調査船のうち,特に規模の比較的大きいもの(全長50m以上)について,日米の比較を行うと,数的には,我が国は,米国の2分の1程度であると言えよう ( 第1-2-47表 )。

第1-2-47表 日米における海洋調査船数の比較

さらに,深海調査を行うための主要な手段である有人潜水調査船については,各国において研究開発が進められているが,現在主要国の保有する調査船を,「Undersea Vehicles Directory1987」に掲載された数で比較すると,米国が26隻に対し,イギリス15,フランス10,西ドイツ4(建設中のものを含めると6),日本4(同5)となっている( 第1-2-48表 )。特に,1,500m級を越える深海調査が可能な調査船数では圧倒的に米国が多い。この領域では,日本も次第に力を注ぎ,現在建造を進めている海洋科学技術センターの「しんかい6500」(仮称)が完成すれば水深6,000m以上での調査研究が可能となり,フランスとともに,米国と肩を並べることとなる。

第1-2-48表 主要国の深度別有人潜水調査船数の比較

第1-2-49表 主要国の培養生物保存,提供機関数

2) 遺伝子資源,実験用資材等の提供施設

(遺伝子資源の収集,保存,提供施設)

植物,微生物,培養細胞等の生物材料は,ライフサイエンス研究を推進するうえでの基盤であり,これらの材料を系統的に収集し,保存,提供する施設,活動は極めて重要である。

欧米諸国においては,博物学的伝統の下に,特に,微生物保存に関して長い歴史を有しており,これらが発展し各種の材料へとその対象を拡大している。微生物,培養細胞等に関するこのような活動を行っている機関数を,各国別にみると 第1-2-49表 のとおりであり,個別の機関では特に,米国のATCC (American Type Culture Co11ection)が長い歴史と豊富な保存,提供数を誇っている( 第1-2-50表 )。

さらに,種子等の植物遺伝子資源について見てみると,農林水産省の調査によれば,その保存点数は,我が国が約13万点であるの対し,米国は約34万点を保存している状況である。

最近では,いわゆる個体レベルの生物に加えて,単離された遺伝子,分離,培養化された動植物細胞が研究材料として広く使用されるようになってきており,ライフサイエンス研究の活発化とともに,その需要が高まってきている。この分野においても,米国がATCCを中心に圧倒的な優位を保っている。

国内においては,これまで,微生物,植物を中心に遺伝子資源の収集,保存,提供事業の整備に努めてきたところであるが,これらに対する急速なニーズの高まりに伴い,関係省庁において各種の関連事業が着手,強化されている。

第1-2-50表 各国の代表的な培養生物保存・提供機関の概要

(実験用動物の開発,生産,供給施設)

ライフサイエンス分野の研究には,生休の機能解明のモデル,ヒトの疾患モデル等として実験用動物の使用が不可欠であり,マウス,ラット等の小型動物から,ウシ,ブタ等の大型動物,サル等の大型霊長類あるいはショウジョウバエ等の無脊椎動物など様々な動物が使用されている。これら実験用動物の使用に当たっては,その目的により,遺伝的系統,感染症の有無等の特性が明らかな,品質の十分管理された動物の開発,生産,供給が必要となっている。

マウス,ラット等の小型動物についでは,我が国においても民間による生産,供給が行われているとともに,遺伝子導入動物の開発,霊長類に近い新たな実験用動物の確立等が国及び民間において進められてきたが,これらの新たに開発された動物の系統保存,供給体制は十分に整備されていない状況にある。

さらに,よりヒトに近い動物として,脳・神経等の高次機能解明,ワクチンの検定等に必要な大型霊長類については,野性の動物では品質の管理が必ずしも十分ではないこと,一部が「絶滅のおそれのある野性動物の種の国際取引きに関する条約」(通祢「ワシントン条約」)の対象となっていること等から自家繁殖による供給が必要となっている。

欧米諸国では,早くから自家繁殖施設の必要性が唱えられ,特に米国においては,1978年に「NationaI Primate Plan」が作られ,現在,国立衛生院(NIH)が全米に7カ所の霊長類センターを置き,受託研究,共同研究等の形で,エイズ研究用等の実験用霊長類の生産,供給が行われている。これに対して,我が国では,一部の機関において自家繁殖を行っているものの,機関内使用に止まっており,供給体制の整備の面では国際的に見て遅れている( 第1-2-51表 )。

第1-2-51表 実験用霊長類の生産数

(標準物質の提供施設)

標準物質は分析,計測・同定等を行うために必要とされる標準となる物質であって,研究結果の評価確認の際に不可欠となるものである。このため物質・材料,ライフサイエンス等の先端科学技術分野を始めとした研究開発の推進を図るうえで,その適切な供給体制の確立は重要である。

欧米,特に米国においては,公的機関が中心になった供給体制を確立している。米国の場合は,国立標準局(1988年国立標準・技術研究機構に改組)が中心となり,関連機関と連携をとった標準物質の一元的管理,供給体制を構築しており,900以上の規格標準資料(SRM)と呼ばれる資料の販売を行っている。

我が国の場合は,標準物質を必要とする各分野において,国立機関,業界団体(例えば,鉄鋼の場合は鉄鋼協会)等が独自こ標準物質を作製,認証し,頒布している状況で,標準物質供給の調整,標準物質情報の一元的管理を行う機関は存在していない。

3) 全体的評価

研究施設設備の整備水準を,以上に掲げた各部門の施設設備を中心として考察し,全体的水準のおおまかな比較を行ってみれば,我が国のレベルは,昨今の最新施設設備の整備の進展により,欧州にほぼ比肩しうる段階に達していると言えよう。しかしながら,米国と比較すると,規模だけでなく質的にもまだ格差がある。特に,実験用資材等の提供施設といった支援機能では,我が国は未だ不十分であると考えられる。

これまで,我が国では,科学技術水準の大幅な向上等に対応して最先端の大型研究開発施設設備の整備が進められてきている。今後は,より高度化する国内ニーズとともに,世界への貢献という観点をも踏まえて,国際的にも有力な施設設備の具備と運用が期待されるところである。


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