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第1部   創造的研究環境の確立をめざして
第2章  国際的視野に立った創造的研究環境の整備の推進
1.  創造的研究開発のための体制と研究人材
(1)  創造的研究開発推進のための体制及び研究運営


創造的研究成果は基礎的研究に限らず,応用研究,開発研究においても同様に求められるものではあるが,特に基礎的研究にあっては,その成果が従来全く無かった新たな知見につながることを期待して行われるため,創造性がより強く求められる。従来,我が国は,計画,管理された研究の運営については優れていたところであり,これは我が国産業技術分野における急速な成長を成し遂げた一つの要因であると言われることも多い。しかし,今後は,基礎的研究を中心とした,創造的研究開発推進に重点を置いた研究の進め方とそのための体制のあり方を考えていかなければならないであろう。特に,我が国の場合,科学技術に関する文化的背景,風土の面で欧米と異なる点はあるが,研究体制をより基礎的研究にふさわしいものに変革していくべき必要性は高い。

先端科学技術研究者に対する調査によると,今後の基礎的研究強化に関する基本的事項として,研究人材,資金の確保の要請は強いが,より.大きな現実の問題として,産・学・官のいずれにおいても,組織,体制及び環境の整備をトップに挙げており,基礎的研究にふさわしい組織,体制作りへの強い要望がうかがえる( 第1-2-1図 )。また,その組織体制のあり方としては,これまでのものの改善とともに,ニーズに合致した新しい体制を作ることを強く期待している( 第1-2-2図 )。基礎的研究においては,組織より人の重視,独創的なアイデア尊重などこれまでの応用・開発主体の研究とは異なる考え方で臨む必要がある。上記の調査結果は,その要請の一つの現れであり,産・学・官のそれぞれにおいて,また,相互の連携による,新しい組織,体制作りが重要となってきている。

第1-2-1図 基礎的研究強化に関する基本的重要事項

第1-2-2図 基礎的研究推進の組織,体制のあり方

さらに,産・官の役割分担についての意識を見ると,最近の各部門における基礎的研究の強化の傾向を反映したものとなっており,基礎的研究に関して,シーズ探索型基礎研究,大型装置整備を始めとする国立試験研究機関の役割は広いが,民間においても相当基礎的研究に取り組み得る段階になっていることがうかがえる( 第1-1-5図 )。

1) 研究開発体制の改革の推進

このような状況から,国立試験研究機関においては,科学技術会議第13号答申「国立試験研究機関の中長期的あり方について」をも踏まえ,新たな技術シーズの創出をめざした基礎的・先導的研究の強化,国際的貢献度の向上及び国際化の推進といった観点を中心に,研究組織の見直し,改革がなされつつあるところである( 第1-2-3表 )。今後,それらの機能のあり方を踏まえた一層の体質改善が望まれる。

また,大学においては,臨時教育審議会答申,学術審議会答申等を踏まえて,国立大学共同研究機関を中心とした共同研究体制の整備など体制の充実強化が図られている。

第1-2-3表 昭和63年度における国立試験研究機関の主たる組織改正

一方,最近産業界においても,単に企業の技術レベルの確保・維持のために研究を行う段階から脱却して,自ら革新的な技術シーズを生み出すものとして基礎的研究を重視するようになっている。民間動向調査によれば,研究開発強化等のため,最近研究開発部門の拡充等の研究組織の見直しを実施した企業は67%に上り,また,今後基礎研究に対する取組を強化するとした企業は全体の約7割に及んでいる。最近は,特に,基礎的研究に対する取組意識の改革をも行いながらその強化を図るべく,基礎研究所を設立する動きも活発化しており,民間企業における基礎的研究を中心とする研究開発への取組は今後とも拡大するものと思われる。

2) 創造的な研究開発の推進のための一般的諸条件

創造的な研究開発を推進するためには大別して,以下の3つの要因がある。

第一は,研究者個人にかかる要因であり,のびやかな知的好奇心と率直に自然を観察する目を身につけるなど,教育によって修得すべき点である。

第二は,組織的要因であり,本章で主として取り上げているもので,創造的研究開発にふさわしい体制作りにかかわるものである。これらには,優秀な人材の登用,評価する目を持った研究管理者の存在,研究テーマ,研究の時間・期間,研究費の使い方などの自由度の拡大が含まれる。一方,それらの研究成果に関しては,適切な評価が不可欠である。

第三は,社会的・文化的要因であり,科学を重視する風土,研究者の社会的地位の向上がポイントである( 第1-2-4図 )。

第1-2-4図 創造的な研究開発推進のための一般的条件

これらがあいまって,長期的な,また,創造的な研究環境作りに寄与するものである。

一方,「創造的な研究開発を推進するための条件調査」から創造的研究開発についての部門別の阻害要因を見たのが 第1-2-5表 である。特に,組織的要因については,国立試験研究機関では,独創的研究を重視する研究管理者が少ない,また,長期的な視点からの自主研究が困難である点,一方,民間企業においては,自主研究の実施が困難な点が挙げられている。

3) 研究者の能力発揮のための環境と研究運営

(自由な研究環境)

先端科学技術研究者に対する調査においては,基礎的研究を進めるうえで研究運営の観点からみて重要な事項として,「研究者に一定の資金,研究内容,研究方法を任せる等自由な研究環境の整備」(40%),「テーマの選定,成果の評価を適切に行う体制,環境の整備」(17%)が重視されており,研究者の立場からは,比較的自由に研究を進めることができ,その評価が適切に行われる状況を期待している( 第1-2-6図 )。この傾向は,国立試験研究機関,大学の研究者に強く,一方民間企業の研究者は,テーマ選定,評価を適切に行う体制整備をより強く求めており,「自由な研究環境」とほぼ同等である。

第1-2-5表 独創的な研究開発の阻害要因

第1-2-6図 基礎的研究推進上の重要事項

(国における代表的な基礎的研究制度等の運営)

これまで述べてきたような状況を踏まえ,国においては,創造科学技術推進制度,国際フロンティア研究システム等の基礎的研究の推進に力を入れた研究制度を逐次確立し,それぞれの目的に応じた研究運営が図られている。

創造科学技術推進制度は,極めて優れた研究者の個人的能力に着目した「人中心」の制度であり,流動研究員システムを採用している。プロジェクトのリーダーである総括責任者は,研究内容,研究の進め方,研究者の構成等について極めて広い裁量権を有している。研究者は,産・学・官及び海外から,それぞれの組織の枠を越えて結集し,研究実施場所としては企業あるいは大学の研究施設を借用する。

国際フロンティア研究システムは,21世紀に向けて,多分野にまたがる領域に埋もれている技術革新の根幹となる新しい科学的知見を発掘するため,従来の研究組織では取り組みがたい研究領域を対象として,多分野の研究者を結集して集中的に研究を実施するものである。研究期間は原則として15年であり,5年を原則として研究グループ,研究者を入れ替えることとしている。研究者もその約3分の1は外国人研究者が占めることとされており,現在の10研究チームのうち4チームのリーダーは外国人研究者が務めている。

昭和60年度に科学技術振興調整費により創設された重点基礎研究制度は,経常研究レベルでは対処できない重要な技術シーズを生み出す研究を重点基礎研究として進めようとするものであり,研究テーマの採択,研究費の配分等は原則として,各研究機関の所長権限により行われる。本制度は各研究機関がそれぞれの状況を踏まえ,研究所の活性化のために必要な研究運営の改善を図るうえで,研究所長の裁量を十分に発揮できる制度となっている。これらはいずれも,柔軟な組織の運営と資金の弾力的な運用を可能とし,基礎的研究推進上必要とされる条件にかなう制度であり,これまでに高い評価が得られている。

また,昭和63年度には,国立試験研究機関において,優れた研究リーダーを中心に省庁の枠を越え,また,国際的にも人材を結集し研究を行う国際流動基礎研究(省際基礎研究)を科学技術振興調整費により開始した。

一方,国立試験研究機関自体においても,先に述べた研究組織の見直し,改革を含め,科学技術会議第13号答申に沿った努力が行われている。国立試験研究機関における基礎的研究と応用・開発研究のマネジメントのあり方について比較すれば,前者が人に重点を置いているところから多くの差異がある( 第1-2-7表 )。その研究の円滑化を図るために,同答申に述べられたI)所長裁量の発揮,2)研究の性格に応じた研究評価の実施,3)研究者の士気の高揚,4)研究交流の促進,及び V)研究者の確保,研究者の流動の促進及びライフステージに応じた人事運営について,研究運営の改善に一層努める必要があろう。

第1-2-7表 国立試験研究機関における基礎的研究と応用・開発研究のマネ ジメントの方向

(民間における研究運営)

民間企業においては,応用・開発研究を主体として研究開発が進められ,その研究水準は世界的にもトップクラスにあると言えようが,同時に,これを可能にした強い組織力に基づく研究開発活動とそのマネジメントについて高い評価がなされている。一方,民間動向調査によれば,企業自身の基礎研究能力を始めとして,創造的基礎研究の研究運営面では,研究の指導者,評価体制,研究環境などすべての面で,我が国は,米国,欧州に著しく劣っているとの見方をしている。しかしながら,昨今の基礎的研究への取組の強化の中で,各企業の基礎研究所,中央研究所等の研究運営面でも独創的成果を目指したその研究機関特有の努力が様々な形で行われている。基礎研究所等を有し,基礎的研究に独自の取組を行っている幾つかの企業の有力研究所の運営状況について主要な事項を取りまとめたが( 第1-2-8表 ),これらに共通的にうかがえることは,

(1)人中心の研究運営
(2)人材の発掘,育成の重視
(3)テーマを中心とした研究グループ制,重点的な研究資源の投入のような自由度の高い組織運営
(4)異分野研究者との交流等研究交流の促進

などであり,従来とは異なった体制作りの努力が見られる。

第1-2-8表 民間企業の基礎研究所等における研究運営

研究者の年令について見ると,基礎研究所等における平均年令は30歳代前半であり,基礎的研究において最も成果が期待できるとされる研究年令層と符合し,他の研究開発部門等との人事交流によりこの若い研究者年令を保っている。民間企業では,一般的に,研究組織の活性の維持のための人材の適切なローテーションの実施を図って,研究者は一定の研究生活を過ごした後,他部門,他の外部研究関係組織への移転を行うケースが多く,定年まで研究を続けるケースは3分の1以下となっている( 第1-2-9図 )。

第1-2-9図 高齢研究者の処遇

研究マネジメントにおいては,基礎的研究が人中心であるとの認識を踏まえ,創造性豊かな研究者を引き上げたり,独創的な研究に専念させる努力を払いながら,新しいシーズを応用研究などの目的をより鮮明にした研究に引き継ぐような高次の判断能力が要求される。民間企業においては,最終的には企業の製品として,成果が還元されるわけであるが,基礎的研究の成果を応用,開発研究又は製品化に結びつけるマネジメント・システムが確立していることが基礎的研究に携わる研究者をより研究に専念させることを可能とし,優れた研究成果を生み出す一つの大きな要因であるという意見が強い。このことは,研究者に比較的大きな自由度を与えるという運営方法と基本的に同質であり,民間企業における基礎的研究のマネジメントの一つの特徴と考えることもできる。

また,研究マネジメント側は,研究者に対しては,新しい研究テーマを提案する能力と意欲的姿勢を特に求めており,研究者が新しい発想,アイデアを得た場合,比較的少額の研究費を自由に使って研究を許す制度を設けている企業も多い。これは,比較的長期の基礎的研究を行うのに適しているとされており,数年後に正式な研究テーマとして認め,本格的に研究に着手する形で運営されている。

さらに,国際化という観点について見れば,このような研究所においては外国人研究者の受入れについては積極的である。また,内外の有力な研究者等を招いて各種の指導を受ける工夫をしているところも多い。

以上のような各種の努力が国,民間企業ともに行われているが,基礎的研究を中心とする創造的研究の運営では,定型的な運営方法が確立されているわけではない。研究開発の特徴,研究分野,研究人材の状況等様々な要因によって多くの形態が考えられる。このため,研究の状況にあった研究機関毎の研究運営方式を確立することが重要である。

4) 研究評価

(我が国における研究評価)

研究評価は,研究運営の中で極めて重要な位置付けを有し,研究管理者及び研究者の双方から適切な方法の確立が望まれている。研究評価は欧米においては,大規模な研究プロジェクトの管理等において早くがらその重要性が認識され,それぞれの機関の特徴に応じて様々な形で実施されてきた。我が国では,これまで研究予算の編成・配分の過程,あるいは個別の研究プロジェクトの推進のなかで有形,無形の様々な形で行われてきている。

しかしながら,研究評価者の経験不足,研究管理的な観点のみがらの評価に対する抵抗感,終身雇用制に伴う研究者の流動性の低さ等により,必ずしも我が国の研究風土になじんだものとは言えない側面もあった。今後の基礎的研究の健全な発展のためには,研究運営における重要な手段として研究テーマの選定から成果の活用までの範囲にわたり,研究者の意欲を一層刺激したり,より高いレベルヘ研究及び研究者を引き上げるような,新しい観点を含めた研究評価が必要となっている。

(研究評価のための指針)

科学技術会議の政策委員会においては,研究評価指針策定委員会を設置し,昭和61年9月に「研究評価のための指針」をとりまとめ,主として国の研究開発を推進するうえで必要となる適切な研究評価のあり方に関する基本的考え方とともに国立試験研究機関における研究開発をモデルケースとして取り上げ,研究評価のシステムの具体例を示している。その中では,研究評価システムが満たすべき基本的あり方として,以下の4点を挙げている。

(1)実効性・・・研究者が研究評価のプロセスを通じて有益な研究上の助言を得るなど研究遂行に有効に機能するものであるとともに,研究評価結果が実際の意思決定に反映される必要がある。
(2)継続性・・・研究評価が有効に機能するためには,研究評価が一定のシステムとして継続的に行われる必要がある。
(3)柔軟性・・・研究評価システムが評価対象となる研究開発の多様性や研究をめぐる様々な状況変化に適切に対応しうる柔軟性が必要である。
(4)透明性・・・研究評価システムの一貫した運用を図る観点からは,研究評価の考え方,方法等が研究者に明らかに示されている必要がある。

さらに,この指針の中では,基礎的研究の評価に当たって最も重要な視点は,研究者の新しい発想を促し,創造的研究の芽を伸ばすための手段として研究評価を位置付けることであり,これを実現するためには,研究推進のための助言を与える手段として,研究者と評価者の知的なすり合わせを重視した研究評価システムとして構築,運用すべきであるとしている。各研究機関においては,この指針を踏まえて研究評価の一層の充実が望まれる。

(基礎的研究の評価)

国立試験研究機関及び民間企業(資本金200億円以上)において,基礎的研究の着手に当たって研究テーマの評価をどのように行っているかを見るための調査を行った( 第1-2-10図 )。これによると,「一般的に研究テーマの定型的な評価は行っていない」(何らかの評価は行う)という機関が,国立試験研究機関で36%,民間企業で30%であった。そして,「基礎的研究についても他と同様の研究テーマの定型的な評価をする」が最も多く,国立試験研究機関で53%,民間企業で44%の回答があった。基礎的研究をテーマとして取り上げ,「特別な評価方法を用いている」が民間企業では16%あり,新しい工夫が考慮されつつあると見られる。

第1-2-10図 基礎的研究着手における評価方法

第1-2-11図 基礎的研究の中間評価のポイント

一方,基礎的研究を公式テーマとして取り上げないで行う場合も少なからずあり,国立試験研究機関では「研究者の自由裁量」としているのが国立試験研究機関全体の30%となっている。民間企業では「機関長の自由裁量で研究を進める」としている機関が民間企業全体の23%あり,「研究者に一定の自由裁量に任せた中で研究を進める」も16%ある。

基礎的研究をテーマとして取り上げている場合に,定型的な評価をしている機関が多いのは,一般的に明確な評価手法が定まっていないこと,基礎的研究の考え方に機関間での差があることによるものと思われる。

中間評価の項目という観点では,国立試験研究機関,民間企業とも「克服された研究の実績」,「計画に対する進展状況」といった実績,進捗度のチェックの観点が中心であるが,望ましい観点はという質問に対しては,「計画に対する進展状況」は大幅に減少し,「研究者の意欲」,「今後の研究の難点」といった事項が増えており,研究者のやる気,意欲をもっと重視しても良いと考えており,評価の考え方を改良すべきであるとの考えが強く,一つの望ましい方向と言えよう( 第1-2-11図 )。なお,中間評価の実施時期では,毎年というところがほとんどである。

このように,一般的には,我が国では,未だ基礎的研究について,研究者を育てるといった観点での評価はあまりなされておらず,これからの課題であると言えよう。

また,今後,国が実施または助成する基礎的研究テーマの選定に関する評価は,基礎的研究の拡充とともにますます重要となる。例えば,米国においては,研究評価が大規模なプロジェクトから基礎研究の分野まで広く定着しているが,連邦資金による基礎研究の実施に際しても,それぞれの目的に応じた的確な評価を行うよう努めているところである。我が国でも,研究開発に当たる各機関において,研究評価の一層の充実に努めていくことが肝要である。

5) 産・学・官連携と研究交流

(連携の必要性の高まり)

最近の研究開発は,高度かつ複雑化し,境界領域,複合領域に拡大しており,創造的な研究開発を進めるには,研究交流を積極的に推進し,学際的,業際的アプローチにより取り組むことが重要であるという認識が高まっている。これは,研究者が他分野,他組織の研究者と交流を行い,知的触発を受けることにより,新たな発想の展開を図ることも期待でき,研究運営の観点からも意義深い。また,政府研究機関,大学等の成果を民間企業等に適切に移転するという面から見ても重要である。このため,国においては,研究交流を促進するうえでの法律上の隘路を改善すべく,昭和61年5月に研究交流促進法を制定(同年11月施行)するなどの措置を講じている。

さらに,日本学術会議が行った「日本の学術研究動向」においても,自然科学部門においては,研究活動の国際的水準が高いものほど共同研究の比重が高く,また産・学・官の関係が密接であるとの結果が得られている。

(研究交流の状況)

政府研究機関においては,研究交流の拡大のためのいくっがの施策が展開されている。民間企業,大学等との共同研究について,科学技術庁,農林水産省,通商産業省及び建設省における実績を見ると,その件数の合計は昭和59年度の154件から昭和61年度の290件へと顕著な伸びを示している。さらに,これらの省庁においては,それまでの共同研究がいわゆる分担研究のレベルにとどまっていたという実態を踏まえ,施設設備の共同使用,研究者の交流を行い,従来比較的手がつけにくがった大規模な共同研究を進めるため「官民特定(交流,連帯)共同研究制度」を昭和60年度以後スタートさせている( 第1-2-12表 )。

また,前述した科学技術振興調整費による国際流動基礎研究(省際基礎研究)等の制度は,海外も含め,研究組織の枠を越えて多分野の研究者の参加を得て研究を進めるものであり,研究交流の促進をその根幹のーつとしている。

研究者が最先端の研究に関する情報を得,また発表するために不可欠な研究集会への参加については,その円滑化を図るために措置された研究交流促進法第4条(職務専念義務の免除による研究集会参加)による研究集会への参加実績が,同法施行以降延べ3,299人に上っている(昭和63年6月1日現在)。その内訳は,国内研究集会参加2,601人,外国での研究集会参加698人である。

第1-2-12表 官民共同研究の状況

大学においては,民間企業等との共同研究が,昭和58年度の「民間等との共同研究制度」の発足により急速に増加しており,昭和62年度実績では396件,受入れ研究者数は465人に上っている( 第1-2-13図 )。これを,分野別に見ると物質・材料,バイオテクノロジーの研究課題が多く,さらに,電子顕微鏡等の研究機器開発関係の研究課題も多い。また,国立大学等が民間企業等から委託を受けて大学の研究者が公務として研究を行う受託研究(昭和62年度1,814件,39億円)や大学院レベルで研究の指導を行う受託研究員(昭和62年度914名)についても,着実な伸びを示している。

第1-2-13図 大学と民間企業等との共同研究制度の実績

第1-2-14図 民間企業の研究者の派遣,受入れ先

さらに,産・学・官による共同研究の実施等大学と産業界との研究協力を学部,学科の枠をこえて推進するための施設として共同研究センターの設置が昭和62年度より進められており,昭和62年度の3大学に引き続いて,昭和63年度においては東京農工大学等5つの大学に設置された。

民間動向調査によれば,民間企業において,研究者交流の状況を見ると,派遣先別では,国立大学への派遣が882人と派遣全体の33%を占め最も多く,次いで,民間企業等へ661人(同24%),国立試験研究機関へ463人(同17%)となっている。一方,受入れでは,民間企業等からの受入れが390人と全体の8割を占める( 第1-2-14図 )。これらのことから,民間企業においては,派遣先は大学及び公的機関,受入れ先は他の民間企業というはっきりとした特徴がある。これを昭和53年度において科学技術庁が行った調査と比較すると,国立試験研究機関,大学との研究交流の割合は増加し,民間企業との研究交流の割合は減少している。

一方,研究の実施面で見ると,研究開発全般,基礎研究とも研究開発を自社のみで行っているところは少なく,委託研究,共同研究等何らかの形で外部機関を活用している。その外部機関としては基礎研究の場合はやはり大学,政府研究機関が多く,他の民間企業が相手となる場合では異業種の企業が多い。さらに,基礎研究に関し,大学,政府研究機関を活用している場合の活用形態を見ると,大学については研究の委託先あるいは共同研究の相手とする企業が多く,政府研究機関については共同研究の相手方,研究人材の派遣・受入れ先という場合が多い。

(海外との研究者交流)

新しい発見やアイデアを生む等新しい研究のフロンティアを開拓する観点から,国際的な研究者の交流や共同研究は非常に有効である。また,国際的に開かれた研究体制の実現を図り適切な国際対応を図っていくうえで,海外との交流の促進に努めていくことが必要となっている。

第1-2-15図 国立試験研究機関における海外との研究者の派遣, 受入れの状況

我が国の海外との研究者交流の状況を見てみると,まず国立試験研究機関においては,派遣,受入れとも件数が増加しているが,派遣が多く受入れが少ないという状況にある( 第1-2-15図 )。

さらに,民間企業の外国との研究者交流の状況を科学技術庁が行った「民間企業における研究交流に関する実態調査」の結果で見てみると,回答を得た約600の民間企業における外国との研究者の派遣,受入れは,派遣が561人に対し,受入れは360人となっており研究者の派遣が受入れを上回っている。

以上のように,海外との研究者交流においては,各方面において拡大の傾向にあるが,その現状を見ると派遣と受入れがバランスのとれたものであるとは言い難い。

このような状況を踏まえ,国においては,従来より関係省庁において実施されている外国人研究者の受入れ制度に加えて,昭和63年度から科学技術振興調整費,外国人特別研究員費等により外国人研究者を受け入れるフェローシップ制度の新設及び拡充の措置が講じられたところであり,初年度においては国立試験研究機関等に約110人,大学等に約100人の外国人をフェローシップ制度により受け入れる予定である。今後とも,海外とのバランスのとれた研究者交流を推進するため,一層の努力が望まれる。

また,外国人研究者を円滑に受け入れるうえで,住居等の生活を取り巻く諸問題も軽視できない課題である。我が国の研究開発活動への参加について「生活環境に不安がある」とする外国人は少なくない。外国人受入れに共通の問題として,日本語を教える機関・機会の拡充,宿泊施設の整備あるいは海外への適切な広報といった地道な対策,活動を強化することも大切である。

6) 欧米における有力研究機関の研究運営の実例

今後,我が国として,基礎的研究を抜本的に強化していくに当たり,これまでとは違った研究運営のあり方が求められる。その際,従来の我が国のキャッチアップ型の科学技術振興と異なった,基礎研究を中心とした研究開発を基本としている欧米の有力研究機関のケースに学ぶことの意義は大きい。

ここでは,欧米の基礎研究の代表的実施機関として政府の4研究機関及びエレクトロニクス・材料,ライフサイエンス分野において有力な2つの民間研究機関を取り上げ,研究運営等の状況を調べた( 第1-2-16 , 17表 )。

4つの政府関係研究機関は,いずれもノーベル賞受賞者を輩出している各国が誇る基礎研究に関する代表的な機関である。その研究運営等については,参考にすべきところが少なくない。

民間のF研究所は,世界でも最大級の研究所として長い歴史を持ち,電気通信分野を中心に社会的に極めてインパクトの大きい成果を生み出してきた。基礎研究に関しても,世界で最も有力な研究機関の一つと言えよう。同研究所は,これまで各方面で研究体制を考える際にも,一つのモデルとなってきた。

G研究所は,1971年に運営が開始され,歴史は浅いが,ライフサイエンス分野の高度な基礎研究を極めて自由な環境で実施しており,近年の成果には目覚ましいものがある。また,同研究所は世界に開かれた形態をとっており,多くの国々から研究者が招かれ,研究を行っている。我が国の研究者として初めてノーベル医学・生理学賞を受賞した利根川マサチューセッツエ科大学教授の業績もこの研究所においてなされたものである。

第1-2-16表 海外の有力研究機関の研究運営の概要

第1-2-17表 欧米の代表的な政府の研究所



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