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第1部   創造的研究環境の確立をめざして
第1章  創造的研究開発推進のための研究環境整備の必要性
2.  我が国における基礎的研究強化の進展と研究水準


我が国における基礎的研究の状況はどのようになっているのであろうか。ここでは,国と民間における取組の動向,資金投入の状況,我が国の研究水準などについて見てみる。

(国における施策と動向)

国においては,科学技術政策大綱を基本として,基礎的研究を中心とする創造性豊かな科学技術の振興を柱とする各種の政策の展開が図られつつある。また,この大綱を受けて,昭和62年10月には物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画が策定された。さらに,情報・電子系科学技術に関する研究開発基本計画及び科学技術振興基盤の整備に関する基本指針について,内閣総理大臣から科学技術会議に対して諮問がなされ,昭和63年11月現在,調査審議が進められている。

第1-1-3表 国の主たる基礎的研究推進制度と予算

また,我が国において,大学とともに基礎的研究の主な担い手である国立試験研究機関に関しては,昭和62年9月に科学技術会議第13号答申「国立試験研究機関の中長期的あり方について」により新たな技術シーズの創出等をめざした,基礎的・先導的研究の強化の方向と組織,運営等の改善の方針が示された。

一方,大学を中心とする学術研究面においては,臨時教育審議会答申を受けて,昭和62年10月「教育改革に関する当面の具体化方策-教育改革推進大綱-」が閣議決定された。同大綱においては,今後の政策展開の方針として,独創的,先端的な基礎研究の発展を図るための科学研究費補助金の拡充,若手研究者の育成,民間等との共同研究の実施,学術の発展と国際社会への貢献を図るための研究者交流,国際共同研究等の推進を示した。

このような方針を受け,基礎的研究については種々の制度の充実,新設が図られ,その取組の強化が見られる( 第1-1-3表 )。さらに,研究組織,体制面では,科学技術会議第13号答申をも踏まえ,国立試験研究機関において,新たな要請を踏まえ,革新的技術シーズの創出をめざしての研究を進めるための組織の改革,再編が進められている。

(民間における動向)

我が国経済の一層の国際化と構造調整が進む中で,産業界は技術重視の経営を図るようになっている。通商産業省の行った「日米企業行動比較調査」によれば,最も重視する経営目標として,我が国企業では,技術力の強化が利益の最大化に次いで高い位置を占め,売上高の最大化,事業活動の多角化や国際化を上回っている。また,最も有効な利益増大手段としては,技術開発の強化を最重要視するようになっている( 第1-1-4図 )。このような状況の下で,民間負担の研究費は加速的に増加しており,最近の5年間においては,円高等の激動の時期にありながら,実質ベースで年率9%を上回る伸びを示した。

第1-1-4図 最も有効な利益増大手段

このような資金投入の伸びと,企業間における技術開発競争の激化,さらに,一部の有力企業における長期的経営戦略に基づく先端的な研究領域への展開により,研究開発がますます高度化しており,特に基礎志向が高まっている。科学技術庁が行った「民間企業の研究活動に関する調査」(以下「民間動向調査」という)によれば,基礎研究に対する取組の傾向を「過去5年間」と「今後」に分けて質問したところ,過去5年間において基礎研究に対する取組を強化したとした企業は38%であるのに対し,今後強化するとしたものは70%に上る。企業にとっての基礎研究の意義については,「将来の革新的技術シーズを生み出すものとして重要である」が63%を占め最も高く,以下「技術開発力の維持,向上のために必要である」(55%),「企業経営の多角化としての新規分野への参入を図るために必要である」(42%)となっている。企業は国際的な競争の激化の中で現在の高い技術水準を維持するとともに,今後の企業の発展を図るための新しい技術シーズを求めて,基礎研究強化の方向を志向していると言えよう。

また,これとともに,産業界においても研究組織の再編,新設が進みつつある。民間動向調査によれば,ほとんどの企業がこの数年間,組織上何らかの強化をしたとしている。とりわけ,基礎研究を重視する研究所の数が増えつつあるとともに,海外にこのような研究所を立地するケースも増えてきている。

(産・学・官における役割分担)

基礎的研究の推進においては,大学と政府研究機関(国立試験研究機関及び特殊法人の研究機関)の果たす役割が大きい。これらの機関においては,本来的な役割の相当部分が基礎的研究にかかわるものである。一方,民間企業は最終的には利潤追求をめざしている以上,応用目的を意図しない真理の探求や自然法則の発見等をめざす研究(純粋基礎研究)に対する取組には限界があろう。今後ともこのような構造には大きな変化はないと思われる。

しかしながら,科学と技術の接近あるいは相互作用の時代とも,また,基礎的研究成果の実用化のテンポが早まっている時代とも言われる近年においては,産業界の研究水準がより高く,また,資金投入も多くなる傾向にある。ライフサイエンス,物質・材料,情報・電子,海洋・地球科学の4分野の研究者を対象者とした「先端科学技術研究者に対する調査」によれば,具体的な応用目的は明確ではないが新技術の創出に役立つ新しい知識を積極的に得ようとする研究(シーズ探索型基礎研究)や技術的課題を解決するために行う新しい知識を得るための研究(目的基礎研究)にも産業界が参入しつつあるのが実態である。国立試験研究機関には,シーズ探索型基礎研究,大型装置等提供を中心とした幅広い役割が期待されている( 第1-1-5図 )。

第1-1-5-図 研究機関の役割分担

いずれにせよ,今後において,政府研究機関等が,基礎的研究において果たす役割は大きい。

(基礎研究投資の水準)

我が国全体での基礎研究投資(名目)は,昭和52年度から昭和61年度まで年率8.9%の伸びを示し,投資額は2.1倍余となった( 第1-1-6図 )。この間,使用組織別に見ると,産業界の占める比率が高まった。しかしながら,産業界における応用・開発研究の投資の伸びが著しかったこと等から,我が国の研究費総額に対する基礎研究比率は数字上減少している。

第1-1-6図 我が国の組織別基礎研究費

国際的に基礎研究比率の比較を行ってみると,欧州は概ね20%程度であり,我が国は米国とほぼ同水準である。ただし,米国の場合,基礎研究比率の低い国防研究費が国全体の研究開発費の3分の1近くを占めており,これを除いた基礎研究比率を見てみると約17%となる。また,国全体の基礎研究費及び政府の基礎研究投資額の対GNP比でみると,欧米の水準は高い( 第1-1-7図 )。

第1-1-7図 主要国の基礎研究費の比率

(我が国の基礎研究水準の国際比較)

我が国の基礎研究投資との関係において,成果面としての研究水準はどうであろうか。

基礎研究の水準に関する国際比較は難しく,これまであまり行われていない。ここでは,まず,先端科学技術研究者に対する調査の中で,ライフサイエンス,物質・材料,情報・電子,海洋・地球科学分野における代表的な基礎研究テーマについての日米欧比較調査を行った結果を分析してみる( 第1-1-8図 )。

-日米比較-

日米間で見ると,ライフサイエンスと海洋・地球科学分野(1テーマを除く)においては,米国が圧倒的に優位にあり,全体的に80%以上の研究者が米国の優位を認めている。物質・材料分野と情報・電子分野においては,これらの技術水準については米国に対して余り遜色なく,むしろ我が国が上回るものもあろうが,基礎研究について見ると,相当の格差が認められる。

第1-1-8図 基礎研究水準の国際比較

第1-1-9図 我が国の学術研究水準等の評価

-日欧比較-

一方,日欧間で見ると,ライフサイエンス,海洋・地球科学分野(1テーマを除く)については,日米間に比べるとその格差がやや改善するものの,まだ相当欧州が優位にある。また,物質・材料分野については,全般的にほぼ同等か欧州の水準がわずがに高い。一方,情報・電子分野については,日本が相当優位にある。

この結果から,日米,欧のおよその相対的水準比較を試みれば,

(1)ライフサイエンス分野: 米国>欧州>日本
(2)物質・材料分野   : 米国>欧州≒日本
(3)情報・電子分野   : 米国>日本>欧州
(4)海洋・地球科学分野 : 米国>欧州>日本

という評価となり,我が国の基礎研究のレベルは,我が国の研究者の意識として見れば,米国との間の格差は大きく,また欧州にもリードされているのが現状である。

また,昭和63年4月日本学術会議が取りまとめた「日本の学術研究動向」の評価結果を見てみる( 第1-1-9図 )。これによると創造的研究について極めて活発であるとする科学者は,理学系,工学系ではおよそ4人に1人,農学系では6人に1人であり,また,各分野とも現在までの研究水準について,非常に高いとする者は30%前後である。さらに,理学系,工学系においては,今後,現在の研究水準にとどまるか,低くなるとする者が今後高くなるを上回り,農学系においてはほぼ同等となっている。創造的研究の活発度や我が国研究水準の国際的位置づけにおいて,「極めて活発」,「非常に高い」に「ある程度活発」,「ある程度高い」のやや中間的な回答を加えると各分野とも概ね80%となり,一般的に我が国の学術水準は高い。しかし,全体として我が国は,引き続きより高い段階をめざすべき状況にある。


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