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第1部   創造的研究環境の確立をめざして
第1章  創造的研究開発推進のための研究環境整備の必要性
1.  国際的な科学技術動向と国際的視野に立った我が国科学技術政策の展開
(1)  国際的な科学技術動向


(科学技術の重要性の高まり)

今日,世界的に,科学技術が国力の向上や人類的な課題の解決に果たす役割についての評価が高まっている。欧米諸国においては,国際競争力の強化とその基盤をなす科学技術の強化が国の政策の大きな柱となっている。開発途上国においても,近年,科学技術が経済発展の原動力であるとの認識の下に,科学技術に関する国家計画を策定する動きにある。

また,去る6月には,カナダのトロントにおいて,第14回主要国首脳会議(トロント・サミット)が開催されたが,科学技術は長期的に重要な課題として,科学技術と経済社会とのかかわり,技術変化への対応の重要性などについて各国首脳間で討議がなされた。

現代においては,科学技術が社会のすみずみまで深く浸透し,また,社会そのものも科学技術への依存度を高めている。経済社会の一層の発展を実現し,より豊かな21世紀社会を作っていくうえで科学技術が果たしうる役割は大きいと言えよう。

このようなことから,各国においては,科学技術政策は,ますます重要な位置付けを占めるようになってきている。

(米国における競争力強化を中心とした動き)

米国では,レーガン大統領の1988年一般教書で述べられたように科学技術力を国力の観点から考える動きが強まっており,最近,経済面での競争力の確保のため,その根源となる科学技術力の強化に極めて積極的である。

米国の1980年代に入ってからの科学技術政策を振り返ってみると,レーガン政権の「強いアメリカ」のスローガンの下で,国防研究費の大幅な増加がなされる一方で,他の予算項目はいずれもその比率を低下させた( 第1-1一1図 )。この結果,政府負担研究費全体に占める国防研究費の比率は1980年度の50.3%から1987年度の69.2%へと大幅な増加を示した。レーガン政権後半になると,ハイテク部門を含めた米国の競争力の低下に対する懸念が一層高まり,1985年1月の大統領競争力委員会報告書(ヤングレポート)等に見られるように国際競争力の向上を図るべきとの声が高まった。

第1-1-1図 米国の政府負担研究費の分野別内訳

このため,1988年一般教書においては,競争力強化を図ることを前面に掲げ,教育の充実及び労働者の訓練,科学技術の推進等六つの柱からなる構想を打ち出した。科学技術面では,特に,国立科学財団(NSF)予算の5年間での倍増等の基礎研究の強化,民間への技術移転の促進,海外科学技術情報の収集強化,知的所有権の保護などの計画が提案されており,新たな基礎研究強化の努力が見られる。

また,現在の米国における特徴的な動きとして,半導体,超電(伝)導,材料,バイオテクノロジーなど個別の高度技術の育成強化への連邦政府の関与がある。従来,米国は,連邦政府が産業に直結するような技術のイノベーションに関与することは少なく,国に主たる責任のある分野,民間のみに期待できないハイリスクな分野,安全規制の分野等にそのかかわりが限られていた。しかしながら近年,国家安全保障にかかわる分野を始めとして,米国の主要産業の競争力強化のために,主要技術分野の育成・強化を図ろうとする動きがある。なお,このような国家的努力により,また,ドル安にも助けられて,1986年に初めて約26億ドルの赤字となったハイテク(米国商務省の定義による)貿易収支は,1987年には再び約6億ドルの黒字に転じた。今後の推移が注目される。

以上のような競争力強化の政策は,安全保障面での科学技術に対する要請とともに米国国内での科学技術の蓄積強化を図り,科学技術研究成果に関する情報の流出を過度に規制するといういわゆるテクノナショナリズム的側面を強めている。

さらに,本年8月には,1988年包括貿易・競争力法(TheOmnibus Trade and Competitiveness Act of1988)が成立した。本法は,最近の米国の競争力強化の政策方向を一層明確にしており,科学技術面では国立標準・技術研究機構(NIST)の設置,先端技術計画の実施,対外科学技術協力協定におけるシンメトリカル条項の確保,国立科学財団(NSF)による研究施設近代化計画など多面的な内容を含んでいる。

米国における最近の動きは流動的要素があり,今後新政権によりどのような政策が打ち出されるのか見守っていく必要があろう。

(欧州における技術開発と基礎研究をめぐる動き)

欧州においては基礎研究重視の従来がらの伝統を守りつつも,基礎研究成果を産業界へ円滑に移転し,産業技術力強化を図ることを政策の柱としている。また,米国,日本と市場競争を行っていくためには,一国のみの努力では不十分であり,各国レベルの研究開発を補完する欧州共同体(EC)としての研究開発の施策が必要であるとの認識の下で各種の施策が展開されている。

ECは1992年の域内市場統合の完成をめざしており,1987年7月に発効した単一欧州議定書においては,欧州の競争力強化のためのECによる研究開発について初めて規定し,ECレベルの科学技術協力を強調している。具体的な研究開発プロジェクトとしては,科学技術フレームワークプログラム,エスプリ計画,レース計画,ブライト計画等が推進されている。

また,先端技術分野における共同研究開発を通じて,欧州産業の技術基盤及び競争力強化を図ることを目的として,各国の協力によるユーレカ計画が推進されており,情報技術,ロボット及び生産技術,新材料,バイオテクノロジー等の広範な産業分野でのテーマが採択されている。1987年現在のプロジェクト数は約170であり,その資金総額は約40億ECU(約6,640億円)に上る。

各国別に見ると,西ドイツにおいては,1980年代に入って,エレクトロニクス分野等の応用・開発面で日米に遅れをとるという懸念から,一時的に応用・開発研究,産業研究助成にも重点が置かれるようになったが,基本的には従来からの基礎研究重視の姿勢が貫かれている。1981年から1986年の間に連邦政府研究費が24%増加した中で,基礎研究費は38%と相対的に大きな伸びを示し,連邦政府研究費のうち基礎研究費の占める比率は1986年には28%に上昇した。

また,民間に対する施策として,研究開発人件費補助や税制上の優遇措置等の間接的な助成措置の強化が図られている。一方,リスクが大きく,多額の資金と長期間を要する技術研究プログラムに対して適用される直接的助成はほぼ一定である。

フランスにおいては,原子力,航空,宇宙,海洋等の国主導型の大型技術開発プログラムでは輝かしい成果をあげてきている。フランスの科学技術政策の基本方針は,1985年に制定された科学技術振興法により規定されており,基礎研究の推進,産業における研究開発及び技術革新の推進等が重点課題とされている。1988年6月の新内閣において再び設けられた研究・技術省では,基礎研究強化の政策を展開しようとしており,その一環として,基礎科学の中心となっている国立科学研究センター(CNRS)を強化するため,予算,研究者の増加等が計画されている。

イギリスは,伝統的に基礎研究レベルが高いとされているが,最近の科学技術政策においては研究開発の成果を強く求める傾向が高まっている。このため,基礎研究活動がやや圧迫されるとともに,資金配分についても重点指向が図られている。また,産・学・官の協力を強化することを大きな政策の柱とし,その共同研究を促進することを目的としたLINK計画や産学の研究契約と人的交流の促進,民間資金の活用などの政策が進められている。

(開発途上国における経済発展に向けた動き)

開発途上国においても,国家開発と工業化推進のうえで,科学技術を重要な手段と考え,その振興を政府が中心となって図っている。

アジアの新興工業国・地域(NIEs)は,これまで高い経済成長を遂げてきたが,今後における一層の発展を図るために科学技術の強化に取り組んでいる。韓国においては,先進国並の研究開発投資水準をめざす動きにある。

第1-1-2図 研究費の対GNP比

また,タイ,マレーシア等のASEAN諸国においても,研究開発投資の対GNP比は0.5%前後にとどまっているが,技術導入とその消化,科学技術人材の養成などを柱として,科学技術を重視した国家計画を作成するなど熱心な努力が見られる( 第1-1-2図 )。

中国においては,従来から,国家レベルで科学技術を重視する政策をとってきており,宇宙開発の分野におけるように著しい成果をあげているものもある。1986年で,政府関係機関において自然科学分野の研究開発に従事している研究者,技術者の数は約19万人,投入された経費は約16億米国ドルである。政府関係機関以外でも,研究開発が進んでいるほか,開放体制が進むにつれて,外国からの技術導入等による技術力向上を図る動きも顕著である。

(国際連携の進展)

科学技術が経済,社会,外交等に大きくかかわってくるにつれ,科学技術面での多極化,相互依存の進展という状況を踏まえた国際間の新たなルールと国際的な協力が求められるようになってきた。経済協力開発機構(OEC D)においては科学技術の国際協力の枠組み作りの努力が行われている。

1987年10月パリにおいて開催されたOECDの科学技術大臣会合においては,「科学技術の経済成長と社会発展への寄与」というテーマで討議が行われ,その中で,最も重要な政府の課題は,基礎研究の支援,科学者及び技術者の訓練等であること,また,これらへの対応に際しては,科学技術の国際的な相互依存性を考慮する必要があることに合意をみた。また,国際協力が科学技術の経済成長と社会発展への対応を成功させる条件の代表的なものとなりつつあることが認識されるとともに,科学技術の国際化により人類の知識の蓄積を拡大するためには,基礎研究の促進と最新の研究施設の確保及び次世代の科学者・技術者の訓練に関する各国の貢献や基礎研究成果の公表に係る開放的な制度が必要であるとされた。

これを踏まえてOECD科学技術政策委員会(CSTP)においては,1988年4月にOECD理事会の勧告として科学技術国際協力のための共通原則に関する一般的フレームワークを取りまとめ,公表した。この中では,加盟国は相互に利益をもたらす科学技術交流を促進すること,加盟国はそれぞれが,また,全体として,

(1)基礎研究の促進,最新施設の設置,協カプロジェクトの展開,将来の科学者,技術者等の教育訓練
(2)研究者の交流,基礎研究施設に対する研究者のアクセスの円滑化
(3)研究成果の流通促進

を図ること,また,科学技術の国際協力を一層進めるため,

(1)科学技術知識の民間移転のための研究計画における国際協力の推進
(2)知的所有権の保護の改善

などを図ることを提言した。

このように,科学技術情報の自由な流通の重要性の指摘を始めとして,今後,各国が科学技術政策を検討する際の一つのガイドラインとなるような幅広い,基本的な方向を示すものとしてとりまとめられた。

また,昨今,このような国際協力のあり方をめぐっての議論の深化と並行して,科学技術の大型化に伴う資金分担とリスク分散の必要性,国境を越えた地球的規模の問題の顕在化あるいは基礎研究成果の創出と技術革新への期待の高まりといった状況に対応して,国際的な科学技術協力も進展してきており,また,新たな協力の提案もなされている。

これらには,1990年代後半における本格的運用をめざした日,米,欧,カナダによる宇宙ステーション計画,1988年2月に合意した日,米,EC(ユーラトム),ソ連による核融合協力(ITER), 1987年のベネチア・サミットにおいて我が国が提唱したヒューマン・フロンティア・サイエンス・ブログラム,1987年の国連決議により防災に関する国際共同研究等を展開するための「国際防災の十年」,グローバルな気候変動,オゾン層の破壊等本年6月のトロント・サミットの経済宣言にも盛り込まれた地球的規模の環境問題に対処するための国際協力などがある。また,米国のエネルギー省(DOE)が中心となって計画を進めている超伝導超大型衝突型加速器(SSC)についても,米国において国際プロジェクト化をめざした動きが見られる。


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